Mistery Circle

2017-10

《 仮想ゲーム 》 - 2012.07.05 Thu

《 仮想ゲーム 》

 著者:松永夏馬







《 箱の中 》 - 2012.07.03 Tue

《 箱の中 》

 著者:松永夏馬








 目を覚ますと、妙に頭がすっきりしていた。
 いや、すっきりという言葉には御幣がありそうだ。気分良くという意味ではけしてない。乱雑に物の置かれていたリビングルームが、勝手に模様替えされていたような気分とでも言うべきか。部屋の中央にソファがあったはずなのに、そのカバーの色さえ思い出せないような。
 そこに『何か』あったはずなのに思い出せない。
 
 自分の名前はわかる。生年月日も両親の顔も思い出せる。仕事も、小学校の頃に好きだったクラスメートの名前も、円の面積を求める公式も思い出せるのに。

 何故こんなところにいるのか。そしていったいここはどこなのか。
 わたしは、どうしても知りたい気持ちにかられた。

********************

 そこは窓のない白い壁の部屋だった。出入り口は一つ、スチール製のドアらしきものが正面の壁に設えてあった。むろんそれは閉じている。
 とにかくわたしはその部屋を出るべくその扉へと歩み寄った。しかし、ドアノブもないその鉄の扉は押しても開くことはなく。引こうにも引くための手がかりがない。最初はノックするようにコンコンと、しだいに力を加えドンドンと叩いてみるが、その奥からは反応は無い。
「誰か! 誰かいませんか!」
 拳で分厚い鉄の扉を叩き続けていると、さすがに手が痺れてくる。
 ポケットの中にはいつも持ち歩いているはずのサイフや携帯端末もない。ふと時間を気にして部屋を振り返ったが、時刻を示すようなものは何一つなかった。

 それにしても異様な光景だ。
 部屋の隅にはクローゼットか何かだろう、出っ張った一画がある。その入り口もむろん閉じている。木製の大きなノブだけが、白一色の部屋で浮いているように見えた。
 そして部屋の中には大小さまざまな箱が置かれていた。机の上に置かれた手のひらサイズの箱から、床には大きな犬小屋くらいの箱まである。すべて箱は白い。

「箱だらけだな」
 わたしは呟く。
 手近なテーブルの上にあった小さな箱を持ち上げる。金属製のようにも見えるがよくわからない。振ってみると軽いカラカラとした音がする。
 なんだろう、とわたしは思った。箱をしげしげと眺めると、小さく切り取られたような線が四角く見えた。爪を引っ掛けられるほどの小さなくぼみがついていて、これはもしかしてと親指の爪を掛けて力を込めた。

 パキンと何かが外れるような音がして、小さな箱の小さな扉が開かれる。中から転がりでてきたのは、レゴブロックの人形だった。受け取りそこねて床にころがったそれは、わたしのほうを見たまま倒れて微動だにしない。わたしは少しだけ考えたものの、考えがまとまるはずもなく、屈んでその人形をつまみあげる。
 笑顔の少年が表情を変えることなく。わたしは取れてしまった帽子をはめ込んでやると、テーブルの上に立たせた。

「なんだろうな」
 呟いたわたしの声が、妙に響いて消えた。そしてその音が消えた時に、かすかに聞こえる小さな音にわたしは気づいた。小さなものが何かをひっかくような音だ。

 音のする方に意識を集中させると、これまた小さな箱に行き着いた。さっきのレゴの人形の箱よりも、ほんの少し大きな白い箱。
 わたしはその箱を持ち上げ、同じように側面についていた小さな凹みに爪を差し込む。
 カサカサと音が聞こえる。虫でも入っているのだろうか。もし危険な生物だったらどうしようか、そんな不安もちらりと脳裏を過ぎったけれど、思い切って力を込めた。

 さきほどよりも少し大きな音がして、扉が開かれた。指をつっこむのが躊躇われるので、箱を傾けて机の上に中身を落とし。転がるように出てきたのは。

「虫? カナブンか」

 鈍く光る緑色の小さな虫は、動くこともなく机の上の白いクロスの上に転がった。死んだふりなのか、仮死状態なのか、それとも死んでいるか。とにかく動かない。指でつついてみたが、揺れるだけだった。

「死んで、いるのか」
 さっきの音は空耳だったのかもしれない。無音といってもいいくらい静かな部屋の中、そんな気がしただけ、ということもある。人間、完全な防音室ですら雑音を感じるという話を聞いたことを思い出した。

 小さく息を吐いたわたしだったが、そこで再び『音』がして、振り返った。間違いなく『音』、いや『声』がした。

『にゃあ』
 小さくはあったが、猫の鳴き声。そして壁をひっかく音。フーフーと苛立つ唸り声まで聞こえた。
 わたしはその鳴き声を頼りにその箱を見つけ出した。テーブルに置かれていた一番大きな、一抱えもある箱だ。
 生き物の気配に、わたしは躊躇うことなく箱の側面に作られた扉に指をかけた。そして一気にスライドさせる。先ほどよりもさらに強く感じられた抵抗も、あっさりと外れて空いたその空間から。

 生気の無い猫の顔が覗いた。ダラリとだらしなく舌を出した黒猫。半開きの目は青みのかかったグレーだったが、瞳孔の開ききった作り物めいた目をしている。ぎょっとしたものの、わたしはおそるおそるその首筋に触れて……慌てて手を引っ込めた。
 生暖かく、そして脈動を感じない。つまり。

「どういうことだ」

 つまり、死にたてということだ。
 不気味な黒猫の死体の登場に、わたしは体温が下がっていくような感覚に襲われた。脳裏に『シュレーディンガーの猫』が思い浮かぶ。箱を開けると死んでしまう猫。では、開けていない中の見えない箱の中の猫ははたして生きているのか死んでいるのか。生きながらも死んでいるのか。

 突然犬の吠える声が響いた。中で暴れているのだろう、部屋の隅に置かれた大きな箱が衝撃を受けながら横にズレていく。
『ウォンウォン! ウォン!』
 ガチャン、ガタンと音を鳴らせて箱が動く。その剣幕にわたしは悲痛なものを感じて慌ててその箱へと駆け寄った。今出してやる。そう思って箱を確かめると、やはり一面に四角い引き戸のようなものがある。取っ手らしい棒を掴むと、力任せにスライドさせる。
 バキっとどこかに衝撃を受けたものの、扉は開かれ、そしてその穴の中から。

「おい。なんなんだよ。なんの冗談なんだ」

 凶悪そうな面構えのブルドックが死んでいた。力なく垂れ下がった頬肉、鋭い牙とその隙間から見える赤黒い舌。今にも動き飛び掛ってきそうな、作り物めいた物体。

 背筋に冷たい物が走った。恐怖である。今まで生きていた、はず。しかし、死んでいる。先ほど吠えていた何かは生きていたのか。曖昧な生と死との境界線が自分の足元にまで及んでいる。今、わたしは、生きているのか。それとも。

 わたしはぶるぶると首を振った。そしてあえて声をあげた。
「生きている! わたしは生きているんだ!」
 そうだ。間違いなくわたしはわたしとして生きている。死んでなどいない。
「ここはどこだ! 誰かいるのなら出て来い!」
 声を荒げ、わたしは天井を仰ぐ。

 その時だった。

『誰か、いるのか?』
 くぐもったような声にわたしはハッとして動きを止めた。

『誰だ? 誰かそこに人がいるのか』
 繰り返される声。篭ったように響く声で、特徴に乏しいけれど、どうやら男性の声らしい。
「どこですか! 誰ですか!」
 わたしは大声で怒鳴り、部屋を見回す。その声の主が潜む先は。

 わたしはそれに気づいてハッとした。クローゼットのように見えた部屋の隅の一角は、どうやら巨大な箱であるようにも見える。作りつけではなく、背面と壁のと隙間がわずかにある。ここか。

 扉のノブを掴み、ノックしてみる。
「ここですか!?」
『誰だ! 誰なんだ!』
 会話が噛みあわない。けれども、中に人がいることは確かだ。
『誰でもいい、助けてくれ!』
 箱の中の男は、そう言った。助けてくれ。
『なんでもいい、もう嫌だ。早く助けてくれ!』
 箱の中の男は繰り返す。さきほどのブルドックよりも言葉が伝わる分、その危機感、悲壮感、恐怖感を感じる。
 今の自分の現状もわからないことだらけだが、少なくとも1人よりも2人いれば、それだけ何か打開策も見つかるかもしれないし、できることも増える。不安も軽くなるはず。

「今開けます!」
 扉のむこうにそう怒鳴ると、中の男は一瞬黙った。
 わたしは手をかけていたドアノブを両手で掴んで力を込める。
 そして。
『だめだ、開けるな! 開けちゃダメだ!』
 開けるな? 

 その意味を理解するまでにコンマ数秒。その僅かな時間で、扉は力任せに引き開けられた。

 扉は大きく、少し屈めば中に入れるくらい。一歩、その箱の中へと右足を踏み入れて。

 わたしは絶叫した。

 白髪まじりのメガネをかけた中年男が、苦悶の表情のまま狭い床に倒れていたのだ。今まさに言葉をかわしていたはずの男の死体。人の、苦しみだけを表現した顔は鬼のようで、わたしは悲鳴をあげたまま一歩、また一歩と後ずさりしていた。箱から出て、しりもちをついたが、そのままずるずると這うようにしてその箱から距離をとる。
 なんだ。なんなんだ。

 どん、と背中に何か感じてわたしはまた悲鳴をあげた。反対側の壁だ。広い部屋の端から端までを無様に移動していたようだ。すぐわきに物々しいスチール製のドアがある。
 逃げよう、そう思った。とにかく逃げなくては。

 そのとき、部屋のドアを叩く音が聞こえた。
「コンコン」がいつの間にか「ドンドン」となる。わたしは扉に跳びついて内側からも叩いた。
「助けてくれ! 誰か! 誰でもいい! 早く助けてくれ」
 わたしの悲鳴が聞こえたのか、外にいる誰かが返事を返す。
『誰かいるんですね!? 大丈夫ですか!?』
 女だ。若そうな女の声だ。
「早く、なんとかしてくれ!」
 わたしの悲痛な叫びを受け、外の女はドアをガチャガチャやりだした。

『ちょっと待っててください! 今“開けます”!』

 わたしはハッとした。開けられる。開けられたらはたしてわたしはどうなるのだ。

 今まで見てきた光景が、フラッシュバックする。人形、カナブン、黒猫、ブルドック、そして。

「ダメだ! 開けるな! 開けないでくれ!」

 その悲鳴が響くと同時に、バキン、とどこかが割れるような音がして。

 扉が。

 扉が開―――

********************

 目を覚ますと、妙に頭がすっきりしていた
 いや、すっきりという言葉には御幣がありそうだ。気分良くという意味ではけしてない。乱雑に物の置かれていたリビングルームが、勝手に模様替えされていたような気分とでも言うべきか。部屋の中央にソファがあったはずなのに、そのカバーの色さえ思い出せないような。
 そこに『何か』あったはずなのに思い出せない。
 
 自分の名前はわかる。生年月日も両親の顔も思い出せる。仕事も、小学校の頃に好きだったクラスメートの名前も、円の面積を求める公式も思い出せるのに。

 何故こんなところにいるのか。そしていったいここはどこなのか。

 “あなた”は、どうしても知りたい気持ちにかられた。





《 箱の中 了 》





【 あとがき 】
お題の文章がどうしても繋がってしまうので、むしろそれを利用してループものにしてみた。ちょっと「世にも奇妙な物語」風。

……さて、“あなた”はその部屋を出ることができますか?


昨年はミステリを中心に書こうと決めてましたけど、今年はどうしようかな。
楽しんで書けて、楽しんで読んでもらえたら嬉しいです。

ちなみに50回記念MCのほうはまだロクに進んでいません。さて困った。


Missing-Essayist Evolution  松永夏馬
http://yaplog.jp/natsuma76/


《 絵に描いた犯罪 》 - 2012.07.02 Mon

《 絵に描いた犯罪 》

 著者:松永夏馬







《 喫茶“猫足”~とある午後の風景~ 》 - 2012.07.01 Sun

《 喫茶“猫足”~とある午後の風景~ 》 (二作目)

 著者:松永夏馬





《 オレが読むから 》 - 2012.07.01 Sun

《 オレが読むから 》 (一作目)

 著者:松永夏馬






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