Mistery Circle

2017-10

《 戯言とめくらまし 》 - 2012.07.22 Sun

オススメMC 2015  《《 ☆☆☆☆☆☆☆ 星七つ作品 》》

 著者:辻マリ




《 戯言とめくらまし 》 - 2012.07.21 Sat


 著者:辻マリ




《 離郷 》 - 2012.07.19 Thu

《 離郷 》

 著者:辻マリ





《 オブザデッド・アヴェンジャー 》 - 2012.07.05 Thu

《 オブザデッド・アヴェンジャー 》

 著者:辻マリ







《 オブザデッド・ラブハート 》 - 2012.07.04 Wed

《 オブザデッド・ラブハート 》

 著者:辻マリ






彼女と最初に出会ったのは、随分と前の事だ
逢瀬の瞬間はいつも同じ夢の中
その頃はまだ子供だった俺は、それが夢であるという認識も出来ていなかった
爽やかな風が頬を撫でていく
日差しは暖かく、寒さも暑さも感じる事の無い過ごしやすい空気の中に彼女は居た
純白のワンピースを着て
淡い色の花を一輪、両手で大事そうに抱え
長い髪を揺らす風の中目を細め俺を見ている
まるで女神のようだと溜息をつくと彼女は笑って首を振る
この一瞬そう思えるだけで、永遠にそんな感情は持てる筈なんて無いのだと
何処か寂しげに笑う彼女に、俺はいつも夢の最後にこう告げる
「永遠は有るよ。きっとね」
子供の頃から何度も何度も繰り返すワンシーン
見覚えなんてこれっぽっちも無いのに何度も夢に現れるその女性に
俺は何時の日にか運命的なものを感じ始めていた













「そう、永遠は有ったんだ」
彼女の細い指先からは塗りたてのネイルの薬品臭がかすかに漂っている
「今日こうして僕達がめぐり会えた事がなによりの証明さ」
精一杯の甘い声で、優しい笑顔で、自分よりもずっと小柄な相手を怖がらせる事の無いよう細心の注意を払い、俺は彼女に語りかけ、笑顔を見せた
「・・・・・・はぁ?」
返って来たのはある程度覚悟の上だった、ゴミを見る目つきとこちらを突き放す一言だったが
お茶の間の良い子の皆さん、特にこれから思春期を迎えるであろう少年達に告ぐ
好みの女の子を見かけてナンパしようと思った時に、自分語りは絶対やめとけ
特に昨日見た夢の話とか、女の子はそういうの好きそうに思えるファンタジーな妄想を取っ掛かりにするのはNGだ
冗談で済ませて笑ってくれる相手ならまだいいが、そもそも相手はこちらに興味なんて持ってない事が圧倒的に多いんだから、良くて素通り、最悪「気持ち悪い何か」と言うイメージがくっついちゃってそれ以降許してもらえなくなるから気をつけろ
ちなみに今の俺は見事に玉砕して「通りすがりのイケメン」から「妄想癖の有るゴミ」まで格下げされたところだ
なんでこんな失敗しちまったんだろうなぁ
いや、別に嘘を並べ立てたわけじゃないんだ
うん、嘘はついてないし、別に昨日見た夢の話だからって持ち出してきたわけでもない
でも今更そんな言い訳したって俺の語る言葉ってのは最終的には全て俺の主観的意見になってしまうわけで、そんな意見を出したところで彼女の俺に対する評価が変わる可能性は限りなくゼロに近いわけで
「・・・あの」
はいなんでしょうか
「手、離してください」
はいわかりました
大人しく言葉に従って、包み込むように掴んでいた彼女の手を離す
離れて行く俺の手に対しての彼女の第一声は溜息だった
やめて
そういうのやめて
なまじ言語化されてない分罵倒されるより更に心に来るからやめて
朝っぱらからナンパする俺も俺だと思うけど、朝っぱらからそういうテンション低い返しは勘弁して欲しかった
まあ、彼女にしてみれば、朝っぱらから妄想癖の有るゴミに話しかけられて精神的被害を被った訳だからその反応も当然といえば当然なんだけども、ゴミもといナンパ男にも魂だってあるんです、少しは優しくしてください
なんていう心の嘆きも口に出さなければ伝わるわけもなく、いきなりやって来て気持ち悪いナンパしてきやがって何の用だとばかりにこちらを睨んでる彼女に、俺は気を取り直して入管許可証を取り出してみせる
印刷されているのは俺の所属する会社名と俺の名前と顔写真
「セキュリティサービスです。新しい【門番】の設置に来ました」
入管許可証と名刺を見て、実はオフィスビルの受付嬢だった彼女は一瞬怪訝な表情を浮かべた後、業務用エレベーターの方を指し示し、あちらへどうぞと俺に向かって一礼した











企業、公的施設、一般家庭
あらゆる場所に必要とされ、日々進化するセキュリティシステムと、それを破ろうとする犯罪者達
どれだけ時代が変わっても終わりを見せないいたちごっこに業を煮やした人間は、セキュリティ業界に新しい風を取り入れようと試みた
曰く、機械だから決まってるパターンを読まれて破られてしまうのだから、予測のつかないものにセキュリティの役割を担わせれば良い
どれだけシステムを構築しても突破されるんなら、もういっそ開けさせてしまえば良い
開けたところを叩けば良い
その発想に基づいて世界中に送り出された新しいセキュリティシステム
それは、正規の方法や認証された鍵そのものを使わず、扉をこじ開けた場合に作動する、扉の内側に眠る番人達(番人といっても、人間は居ない。あくまで動物達限定だ)
種別を問わず、脳内或いは神経伝達の要所に活動を促進するための電波発信装置を埋めつけられ、扉がこじ開けられた瞬間に目を覚まし、目の前に居る者全てを無差別に攻撃するように仕掛けられた動く死体、通称【門番】
人の領分を越えた発明であると未だに賛否両論お偉方が騒いでいるが、設置後盗難被害が激減したと言う実績に影響されてそれなりに普及しつつあるこれを、俺、五藤ユウキは契約した取引先に設置する業者として働いている
中々どうして、上手くできてるもんだなあと思う
【門番】は防犯効果としては中々の成果を上げているし、設置しているとひとたび知られればそれなりの抑止力として働くが、いかんせん一度作動したら元には戻せない使い捨てで、しかも作動したら肉体が腐りきるか頭部を損壊させるか頭と胴体を切り離すかしないかぎり無制限で暴れまわって周囲に居る生き物を襲い続けるように出来ているもんだから、作動したら罪の無い人間に被害が出ないうちに専門の【門番狩り】に駆除させる必要が有り、その後また再設置する必要が有る
つまり、一度設置すれば契約終了と言うわけにも行かず、銀行や公的機関なんかは複数回作動させる事も考慮した上で、俺達【門番】設置業者である【鍵屋】と取引を交わすのだ
繰り返し設置させてもらえるってのは嬉しいが、其処にいたる経緯は出来れば考えたくは無い
【門番】は種別を問わず、脳に埋め込まれた装置によって、或いは其処までにいたるまでに肉体にある程度の改造を施される事によって凶暴化している
セキュリティを突破する連中もある程度は覚悟しているだろうけれども、厳重なところであればあるほど、保管して居る物が重要なものであればあるほど、設置されている【門番】は強い動物が採用されている場合が多い
多いというかほぼ確実に、鍵の内側に仕舞われている物の重要度と【門番】の凶暴性、殺傷力は正比例する
第一、【門番】はセキュリティを破りに来るコソ泥程度に倒されるようではいけない
テレビゲームの怪物みたいに銃弾一発で活動停止されても困るしもしもそんな感じに攻略されたとあっては開発者も設置業者も商売あがったりだ
だからこそ、生身の人間が拳銃一つ装備した程度じゃ簡単には倒せない程度の強くて危険な動物が採用される
今日の設置先であるこの銀行も、大型哺乳類タイプの【門番】が突破されかけて、昨夜【門番狩り】と警察の機動隊が出動する騒ぎが有ったらしい
鍵をこじ開けた金庫破りどもは全滅
【門番狩り】が到着する前に全員死んだそうだ
運の無い連中だと、今日事務所を出る前に同僚が話していたが、俺は別にそう思ったりはしない
連中が死んだのは自分達が望んで行動した結果だ
【門番】が居るだろう事くらい予想していただろうに、それも承知の上で金庫をこじ開けたのだから、結果として命を落とすぐらいは覚悟してたんじゃないのか
俺は金庫破り本人じゃないから、覚悟があったのかどうかまではわからないけれど
「当然の報いってやつじゃないのかね」
業務用エレベーターに台車で設置稼動前の【門番】を運んで、設置予定箇所まで向かう
この後は、銀行側の作業員と協力して新しい【門番】を設置して、それが終ればまた次の取引先へと向かわないといけない
金庫破りにも銀行にも申し訳ないけれど、需要が有るからこそ供給が有り、つまりセキュリティを突破したがる犯罪者が居るからこそ【門番】は生み出され売り出され、鍵がこじ開けられるからこそ【門番狩り】は駆り出され、その後始末も兼ねて、俺達【鍵屋】の商売が成り立っている
当然の報いだとも思うが、同時に存在していてくれてありがとうとも思う
別に【門番】の設置だけが【鍵屋】の仕事と限ったわけじゃあないけれども、お前らが居てくれるおかげで俺の稼ぎは増えている
だからありがとう
不謹慎だから、口には出さないけどな











作業を終えて正面玄関まで戻ると、さっきの受付嬢はまた別の客の応対をしていた
清潔感があって、綺麗な笑顔だと思う
受付嬢として化粧は当然しているが、街で見かける派手な見た目の若い女とは違って、見つめていて安心出来る印象の装いだ
椅子に座ってるけど、立ち上がってもそんなに背は高く無さそうで、薄い肩と白い顔を繋げている首は小さな、ほっそりとした造りをしている
ナンパ男に向ける視線は絶対零度だけれど、遠目に見る横顔が浮かべた笑顔は本当に綺麗だ
【門番】のメンテナンスで前にこのビルを訪れたときには、あの笑顔は俺にも向けられていたんだけれども、今日のやり取りを経過してまでそれを続けてくれるのかは怪しいところだろう
いや、仕事なんだからきっと表面上は前と同じ笑顔を見せてくれるに違いない
そこで調子に乗った場合俺に待っているのはいわゆる配置換えと言う処分なわけだが
「でもなあ・・・」
受付で改めて顔を見た時、彼女がそうなんだと確信したんだ
常識的に考えてみれば、誰にも信じてもらえない、俺みたいな年恰好の人間が口にする事は社会的に許されない妄言のような御伽噺
親にも打ち明けてないこの話を聞かせたのは彼女で二人目なのに
「あーくそ失敗した」
出入り業者が気に入らない場合別の担当者に変えてくれと出入り先が申し出てくるのはよくある話で、もしかするとそれは俺にも降りかかってくるかもしれない
半分くらいは自業自得だけれども、ナンパの振りして本当は結構マジだったんだけどなあ
溜息をこぼしつつ、俺は次の取引先に向かうべく、受付に立ち寄らないで通用口へと向かった
受付に伝言を頼むために守衛の爺さんに声をかけて外に出る
天気は憎たらしいくらいの快晴だった










どうしても愚痴を吐きたい時に訪れるその小さな店のカウンターで、ハーフロックのグラスに残った氷がカランと音を立てて崩れる
「そりゃあお前、順番をもう少し考えないと駄目だろう」
カウンターの奥で酒を振舞ってくれる店主の苦笑いに、俺は二杯目を注文しながらそんなもんかなと溜息をつく
「結構マジっていうか、もうホント、ビビッと来たっていうか・・・此処で決めるべきだって思ったんですよ」
本当にそう思ったんだけれども結局それは俺自身の主観に過ぎなかったわけで、結果は全く話が通じないまま玉砕してしまったのだけれども
今にして思えば、いや今というか常識的に考えればすぐに分かる事なんだけれども、あの場面なら普通はいきなり妄想トークとか自分語りとかから入るんじゃなくて、もっと軽く平然と
「君可愛いねこの後昼休み一緒しない?」
とか言いながらさりげなく携帯番号入りの名刺を差し出すとかそういうノリでよかったんじゃないだろうか
うん、間違いなくその展開の方がマシな結果が望めただろうし失敗したとしても冗談で済ませられる範囲の行動だった
なのにどうしてあんな真似した俺
この歳になって黒歴史更新とか痛すぎるだろ俺
「はぁ・・・」
溜息しか出てこない
そりゃあそうだ冷静にならなくても自分の言動が痛すぎる
二杯目のハーフロックに口をつける前にカウンターに突っ伏していると、店の入り口で扉にぶら下げている鈴が鳴る音がした
「マスター、いつもの洋酒・・・って、ユウキちゃん来てたの?」
聞こえてきた声は見知った相手のものだったので、俺は外面を取り繕うなんて労力は使わないで、不貞腐れた顔のまま入り口側を振り返る
「今から出動待機時間じゃないのか?」
「残念な事に今日は待機日でーす」
おどけた調子でこっちに向かって手を振ってるのは、仕事でよく顔を合わせることの多い小柄な男
今日、俺が恋愛的大火傷をするに至った間接的な原因であり、世の中のテレビニュースや新聞で報道されない部分で密かに世間の平和を守ってたりするコイツは、俺たち【鍵屋】と共にこの業界でなくてはならない存在の【門番狩り】の一人だ
「待機日に酒飲むな」
「酔うほど飲まないって~」
軽く言い合いながら、そいつは俺の隣の席に座って店主から水割りを受け取っている
スーツを着てないと学生に見えかねないそいつは、俺の顔と店主の顔とを見比べてから何かを察したらしく
「マスター、ユウキちゃんへこんでるけどどしたの?失恋?」
「女に告白しようとして大火傷だとさ」
ちょ
何、人の傷口本人の目の前で抉ってんのこのオッサン
「マジか。ユウキちゃんなにやらかしたの?」
覗き込んでくるなチビ
色々言いたい事を我慢してグラスを傾けると、隣のチビは何かを察した顔になった
「さてはユウキちゃん・・・あの話しただろ?」
「・・・なんでわかるんだよ」
「ユウキちゃんがナンパ失敗すんのはいつものことだし。でも失敗してもいつもはそんなにへこんで無ぇし。へこむとしたら大勝負に出た時くらいだろうし。つまりはあの夢の話やらかして大火傷の可能性が高い、と」
分析すんなチビ
そう、このチビは俺が今日玉砕した受付嬢以外に、あの話を知っている唯一の相手だった
何でこんな奴にあんな話を暴露したんだか、数年前の自分を捕まえる事ができるなら小一時間問い詰めたい
どういうきっかけだったっけ
確かあの時もやっぱり恋愛がらみだったような気がする
「あー三番街の銀行配置換えかもなー・・・」
「え、あそこユウキちゃんの担当かよ?」
玉砕ついでに不安がこみ上げてきて溜息をつく俺に、小柄な【門番狩り】が目を丸くしていた
そういや、確かこいつがあの銀行の【門番】を倒したんだっけか
今後うちの看板商品になるべく出された新商品だったんだけどなぁ、武装タイプ
【門番】の開発を行う研究機関と共同で企業側からも色々意見を出した末にまずは実験的に投入して反応を見てみようという事になって、三番街の銀行に設置されたそれは、今までは肉体を破壊した時点で使い物にならなくなる【門番】の死体であるが故の欠点を克服するために防御力に特化した改造を施されていた
まあ、防御力を特化するために装甲を皮膚に貼り付けてしまっても、それが原因で誰にも倒せないのでは困るんで装甲の継ぎ目を狙って刺せば簡単に脳に埋め込んだ電気信号発生装置を壊せる仕様にはなってたんだが
まさかこんなチビにアッサリ始末されるとは思わなかった
多分今頃は【門番】開発担当の技術者や生物学者が尋問されてる頃だろう
隣のチビにもまだ話せないが、アレは実験的にまずあの銀行に設置させる事になった奴で、実質まだまだ改善すべき点も多いのが事実だ
金庫破りは始末できてもその後アッサリ駆除されたって事で、今後更なる改造が施されることだろう
どこまで進化するんだかよくわからないけれど、その内本末転倒、金庫破りと【門番狩り】と【鍵屋】が手をとって最強の【門番】に挑む!なんて展開はやめて欲しい
「あれ銃弾効かねぇんだけど、もうちょい柔らかくならね?」
「無茶言うな」
俺はあくまで設置するだけの【鍵屋】で、開発部門にはノータッチだ
「ゲームみたいに胴体に銃弾撃ち込んで終了なら楽なんだけどな」
「それじゃ金庫破りが突破しちまうだろ」
俺からの返しに、それもそうかと呟いて隣のチビがグラスを傾ける
そういえば俺達が子供の頃に流行ったゲームに【門番】みたいなモンスターが出てくるんだっけ
死体が何らかの原因で勝手に動き出して人間を襲う話ってのはゲーム以外にもあちこちに有る
あのモンスターはとにかく数が多くて、一回死んでるもんだからどう倒せばいいのかってのがそもそも疑問で、それこそガキの頃なんかはよくそういうのが好きな連中に混ざって考察議論なんかに耳を傾けていたもんだけど、まともにハッピーエンドで終る作品ってのが少なくて、俺はどうにもあのジャンルが苦手だった
現実は結構厳しいんだからせめてフィクションだけでも綺麗にハッピーエンドで終ってほしい派なんだ、俺は
「・・・そういや」
あの手のモンスターを見てると凄く不思議に思う事がある
あいつらは基本死体で、つまりは一回死んでる生物だ
死体ってのは脳味噌や内臓から腐っていく
本来生物の肉体を動かすには、脳から神経伝達物質が運ばれないといけない
それを果たすための脳が死んで腐ってる、つまりは動いていないはずなのに、何であいつらは動くんだろうか
脊髄反射で動いていると考えれば肉体が動く事だけは納得がいくが、生きてる人間を襲う理由にはならない
脳が動いてないって事はそいつらは眼球、聴覚、嗅覚から送られてくる情報を正確に判断出来てない可能性が高いわけで、つまり目の前に居て動いてる存在が「生きてる」のか「死んでる」のか判断出来ない可能性が高い
て言うか「判断する」ってのは生きた命と脳味噌にだけ許された行動だと俺は思う
その時点で、生きた人間だけを襲うのはおかしい
死んでる時点で脳は正常に機能してないんだから、生きてる人間だろうが自分と同じ死体だろうがお構い無しに、それこそ人間も動物も区別しないで襲うのが正しいんじゃないだろうか
【門番】の活動を記録映像なんかで見てるとそれが如実にわかる
ゲームのモンスターと違って【門番】は何かを食べようという行動が見られない
あらかじめ埋め込まれた機械から、神経伝達物質の代理を果たす電気信号が送られるようになっているのも有るかもしれないが、動くものを襲うようにプログラミングされた電気信号の影響下で【門番】はとにかく動くものを無差別に襲う
生物無生物関係無しに、だ
金庫破りも襲うし、駆除するためにやって来た【門番狩り】も無関係の一般人も襲う
それどころか複数体一度に稼動している【門番】が自分と同じ【門番】に襲い掛かった記録も残っている
一番笑えたのは、音に反応して動く玩具に犬型の【門番】が噛み付く映像だったっけか
業界関係者にしか見せられない門外不出の映像集なんだけど、結構面白いから【門番】の奇行部分だけ抜粋して動画投稿してみたい
きっと大受けする
これを各所にお届けするのが俺達の仕事ですコレはあくまで珍プレー集で基本俺達も【門番】もしっかり働きますってアピールすれば良いんじゃないか
やる時はやるってアピールすれば、あの受付嬢も少しは見直してくれそうな気がする
「マスター、ユウキちゃんが気持ち悪い顔になってんだけど」
色々考えていたところで、隣のチビが聞き捨てならない事を言い始めた
「酒が入るとそうなるんだ。放っといてやれ」
あ、マスターったらひでえ
酒代踏み倒すぞハゲ













人が黙ってるのをいい事にからかうのをやめないチビこと【門番狩り】の一条と別れ、俺は家に帰るべく線路沿いの道を歩いていた
酔うほどじゃないけど酒を飲んだ分、夜の空気が頬に冷たい
平日だってのに今日はなんだか夜更かしをしてみたい気分だ
一晩寝たら気分もすっきりして、受付嬢に振られた事も綺麗さっぱりといかないまでも自分の中で区切りをつけられて、それでまた仕事に向かえるのかもしれないけれど、なんとなくこのまま大人しく帰ってすぐに寝て、って言ういつもの流れが受け入れ難い
でも明日も仕事なのは事実で、ついでに銀行からクレームが来てたりなんかした日には朝一番で配置替えの辞令が下るだろうから寝坊なんてもってのほかのはずで
「・・・少しだけにしとくか」
それでもやっぱり夜更かしの誘惑が大きくて、俺は折り合いをつけるために、少しだけ寄り道をして帰ることにした
家の近所に、結構立派ななんかの会社の研究施設がある
製薬会社だったか化粧品会社だったか、確かあの施設にも【門番】が設置されていると噂で聞いた事があった
【鍵屋】ってのは俺が働いてる会社だけじゃないから、有るとするなら多分設置したのは他の会社なんだろう
真偽の程は定かじゃない
まあ割としっかりした企業みたいだし、機密を守るために導入しててもおかしくは無いか
今度ルート営業の時にでも飛び込んでみるかと、俺はその施設の正門に入ってるであろう企業名を見てから家に帰ろうとした

次の瞬間、近付こうとしていた正門が街灯の明かりの中物凄い勢いで横にすっ飛んでいった
あと10秒俺の行動が早かったら、俺はあの正門と一緒に空を飛んでいただろうけど、好奇心ついでの余計な考え事で事なきを得たようだ
一体何事かと眺めていると、消防のものとは明らかに違う警報が周囲に鳴り響き始める
これは警備会社への通報サイレンだ
通報サイレンには何種類かあって、犯罪者に知られないように警備会社や警察にだけ届くアラームタイプのものや、犯罪者にわざと知らしめるために、その場で大きな音を上げるタイプが有る
これはその場で鳴り響くタイプのようだが、一体何が起きたのか
門が吹き飛んだ原因が気になるのも手伝って、俺は街灯の明かりで照らされた施設の入り口付近をじっと眺めてみる
居た
ちょうど正門が配置されていた場所辺りで、何かがのろのろと動いている
人間のものではないシルエットだが、日常に見かけるようなサイズの動物ではなく、明らかに人間の倍近い大きさの影だというところまで確認して、俺は咄嗟にそれから距離を取ろうと後ずさった
多分、普段からそれを見慣れている分、やばい状況だと身体も心も理解できていたからだろう
おそらく、いや間違いなく正門が吹っ飛んだのはアレがぶつかってきたからだろう
街灯に照らされた一部分に、頭部に取り付けられた装置のようなものが見えた
【門番】だ
どうして野外に放り出されているのかは知らないが、稼動した【門番】が、俺の居る場所から約20メートル先で身体を起こして、周囲に動くものは無いか探している
生きてる姿は、テレビか動物園でしかお目にかかれないだろうそれは、生きてる時と殆ど変わらない見た目をしているもんだから、多分今は昼間で、偶然通行人が目にしても、それが生きているのか死んでいるのかの区別はつかないかもしれない
頭部に取り付けられた機械が露出しているところからしてアレは初期に開発された【門番】だろう
最近では頭蓋骨の内側に設置されるようになった電気信号発生装置は、最初生物と【門番】の差別化のためにわざと目に見える場所につけられていた時期がある
それにしても
「動物園から貰い受けたのか・・・?」
少しずつ後ずさりながら、俺は口の中でひっそりと疑問を口にする
街灯に照らされたアレは、俺の記憶と知識に謝りさえなければ、この国に野生では生息していない大型草食動物だ
恐らく動物園で飼育されていたものを死後買い取って死体を改造したのだろう
【門番】でなくても、檻の無い環境で相対するのはかなりの抵抗がある巨体は、今の所何とか俺の居る方向を向かないで、研究施設の入り口付近を見つめているように見える
多分、その頭部が向いている先に、あの【門番】を稼動させた張本人が居るのだろう
警報は既に鳴っているから、警察や【門番狩り】が此処に到着するのも時間の問題かもしれない
俺は単に通りすがっただけの善良な【鍵屋】で、不幸な偶然で【門番】が飛び出してきたところに居合わせてしまっただけだから、本来なら駆除作業と犯人確保の邪魔にならないように速やかにこの場から離れて何も無かった事にして自宅で睡眠を取ってしまうのが一番なんだけれども、どうしてだか足がうまい具合に動かなかった
多分、自分でも意識してないレベルで好奇心と恐怖に支配されていたんじゃないか
仕事で設置するときに間近で見る動く事のない【門番】や、記録映像の中でわけのわからない奇行を繰り返す【門番】とは違う、正常に稼動した、何時こちらに向かってきてもおかしくない【門番】
【門番】は、電気信号発生装置が正常に機能している限り、個体から最も近くにある動くものを攻撃目標として補足するように設計されている
アレを稼動させた犯人が少しでもアレより遠くに行けば、恐らく次に攻撃対象として認識されるのは俺だ
逃げないと
頭の中で其処まではっきり考えて、初めて俺は自分の中にある恐怖を自覚できた
心臓の音がやけに大きく耳の内側で響く
今にも叫びだしてしまいそうな衝動に襲われたときだった
正門が吹き飛んだ辺りから殆ど動かなかった【門番】を照らす街灯の中に、それとは違う動くものが飛び込んできた
小さいシルエットであることだけがまず確認でき、続いて、それは【門番】の身体の上に乗り上げるように移動する
其処まで来て、街灯に照らされたそれが人間だとわかった
【門番】の身体に乗り上げているのは、間違いなく頭部の装置を破壊するためだろう
自分にほぼ密着している状態で動くものがあるためか、【門番】は大きな身体をゆすって振り落とそうとしている
振り落とされて踏みつけられたら、多少武装はしているにしても人間が無事に済むわけがない
どうしよう、と思った
あと少しで【門番狩り】は到着するだろう
それまであの何ものかが持ちこたえれば、【門番】は駆除され、恐らくは金庫破りだろうあの人物は逮捕されて全てはそれで終る
俺はただ、この場に立ち尽くしている間目の前で起きた出来事を事情聴取でありのまま話せばそれで良い
だがもしも、あの人物が振り落とされでもしたら?
このまま逃げ出せば俺は確実に助かる
逃げて全部忘れてしまえばいいか?
どうせ相手は金庫破りだ、犯罪者だ
見捨てたところで俺に何かの罪が問われるわけじゃない
「・・・」
どうするんだ?と俺の中の嫌な顔をした俺が問いかけてきたところで、俺はぐっと息を呑んだ













「どうして俺達、いやせめて機動隊が到着するのを待てなかったんだ?」
「どうしてでしょうねぇ・・・」
多分今夜は徹夜決定だ
畜生明日も仕事なのに
せめて出勤前にシャワー浴びる時間くらいはとりたいな
元々アルコールが入っていた所為でぼんやりし始めている頭を何とか眠らせないように意識しながら、俺は事情聴取で向かい合う大柄な【門番狩り】に問い詰められていた
我ながらなんとも馬鹿なことをしたなあとは思ってるよ
あの後結局金庫破り(推定)はデカブツの上から振り落とされて、あやうく踏み殺されるところだった
そこを、俺が咄嗟に引きずって回避させ、後は(覆面してたからどんな顔かまではわかんないんだけど)そいつの手を引いてひたすら鼻先に角の生えた【門番】との追いかけっこの始まりだ
実際はそんな長時間走り回ってはいなかったと思う
警報が作動してからかなり時間も経過していたし、施設の前庭を三周くらいしたところで、今俺の目の前で呆れ顔をしてるごついオッサンが助けに入ってくれた
このオッサンは、あの一条のチビのところとはまた別の警備会社に勤務する【門番狩り】だが、雰囲気も体格もなんていうか軍人っぽい
【門番狩り】の中には元格闘家だったとか自衛官だったとかいう経歴の奴もいるらしいけど、このオッサンはその類だろうか
なんてことを俺が考えてるのもお構いなしに、オッサンは溜息をつく
「お前が助けた金庫破りはな、あの程度の【門番】一体なら始末できる程度には武装してたんだ。お前が助けなくても自力で何とかしただろうよ」
でしょうね、と俺は返事を返さないで溜息だけこぼす
実際、俺が最初に見たのも、金庫破りじゃなくて【門番】が正門まで吹っ飛ばされた光景だった
つまりあの金庫破りはそれが出来る程度には武装しているか格闘能力が有る奴って事だ
「まあ、お前が余計な手出しして首突っ込んでくれたおかげで、奴さんは逃げられずに俺たちに捕まったわけだがな」
多分、金庫破りにしてみれば俺が何より足手まといだったに違いない
今頃取調室で覆面はがされて俺への恨み言でも延々語ってるんじゃないだろうか
「・・・そう言えば」
「?」
命を助けたつもりが恨みを買ってるのは嫌だなあと思っていた俺に、オッサンがふと話題を変えてきた
「その金庫破りだがな、一言礼が言いたいそうだ」
「え」
少しだけ期待はしてたけど、結構意外な展開だ
「会ってみるか?」
普通はこういう時、即面会とかさせてはもらえないような気がするんだけど、オッサンはどうやら見た目に反して粋な一面を持ち合わせていたようで、俺は1秒間を取ってから会わせてくださいと答える
そのまま連れ出されたのは隣の取調室で、更には其処で待っていたのは予想外の相手だった
一緒に逃げていたときに俺よりも身体が小さいのはわかっていたけれど
掴んだ手の小ささから、子供か、さもなくば女かってのは予想してたけど
でもまさか
「君、あの銀行の」
今日の昼前、俺が変化球過ぎて頭のおかしいナンパをしかけて玉砕した受付嬢が、取調室の椅子に座っていた
「産業スパイだよ」
俺の隣でオッサンがしれっととんでもない単語を口にする
「昼間は普通の企業で真面目に働いて、仕事が終ったら小遣い稼ぎと称して犯罪行為だ。綺麗な顔してとんでもねぇな、お嬢さん」
そんな事を言われながら、彼女は俺に向かって顔を上げた
正面から、取調室の明かりの下で見る顔も、やっぱり綺麗で
「助けてくれてありがとう」
でも礼の言葉はどちらかと言うと昼間聞いた冷たい言葉よりのニュアンスに聞こえる
まあそりゃあ、そうか
助けてくれたのは白馬の王子様なんかじゃなくて、夢見がちな事をのたまって自分をナンパしてきた変人だったんだもんな
「どうして逃げなかったの?」
問いかけられて、俺はさて人目が有るこの場所でどう返したもんかと一瞬だけ考えると、出来る限り昼間彼女に向かって見せた笑顔を思い出して再現して
「君が俺にとって運命の人だから・・・じゃ駄目?」
と、語尾に冗談として茶化してもいいように逃げ道を作っておいてから笑う
隣のオッサンが微妙な顔をしてるかもしれないけれどもそれは無視しておいた
恋してる時に余所見は禁物だからな
「・・・意味わかんない」
そして案の定返って来たのは想定内の常套句で
「いつから私が、あなたの運命の相手になったの?」
更に鼻で笑うようなニュアンスの言葉も追加で返ってきた
結構心に突き刺さるけど頑張れ俺、負けるな俺
此処で心が折れたら単なる空気の読めない馬鹿だ
今でも十分空気読めなさ過ぎて周りが微妙な雰囲気になってるけどそれは気にしない
「うんまあ、君をあそこで助けたときから、かもしれないし、昼間君に声をかけたときかもしれない。もしかするともっともっと前からかもしれない」
「結局いつなのよ?」
笑顔を崩さないまま言い続けてると、呆れ半分なのか彼女が少しだけ笑う
うん、やっぱり綺麗な笑顔だ
「結論としては、遠い昔、かな」
そう、遠い昔だけど、さっきなんだよ
運命を感じた相手が犯罪の現行犯で逮捕されるなんて、映画もびっくりの結末だ
この先俺たちがどうなってしまうかは、現実的に分析すると裁判の結果によって左右されるって所なんだろうけども、映画みたいな展開なら、きっと俺は何時の日か彼女を出迎えに花束を持って、塀の入り口に車を横付けするんだろう
そしてエンドロールの中、二人の乗った車が走り去る
多分、構想を語っただけでも大笑いされるか止められるかだろうけど、俺は何となく、それを近い将来実践するような気がしてた
何の変哲もない、平日の夜の出来事だ





《 オブザデッド・ラブハート 了 》





【 あとがき 】
半年振りに奴らです
前回割と好評だったので、つい調子に乗りました
それにしてもなんでゾンビは共食い描写が殆ど無いんでしょうね?


【 その他私信 】
此処二ヶ月
・やめたいのにブラック企業をやめられない
・白髪が更に増えてきた
・日曜朝からのスーパー戦隊に癒されている
・今年はメンバーに32歳と言う歴代最高齢のヒーローがおりまして扶養家族有り髭ジョリジョリなんですけども所謂草食系男子なんですけれども日曜の朝っぱらから20歳男性に馬乗りになられて迫られてたり23歳男性と手を繋いで歩いてたりなんなんだあの32歳ちょっと東映さんあざといにも程が有りますよ!(※公共の電波でこの有様だよ!)
・しかも紅一点が公共の電波で「女子力が低すぎる」とか言われとった。大丈夫かこのヒーロー
・例の黒服君シリーズのモチーフにしてる北米の都市伝説がゲームの影響でにわかに知名度上がってきた
・宇宙戦艦ヤマト2199面白いから皆見ようぜ!
・・・こんな感じでした
なんとか生きてます


【 お題当てクイズ回答 】
魔法少女っぽいと思いました


辻マリ
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