Mistery Circle

2017-10

《 深淵の人魚姫 》 - 2012.05.01 Tue

《 深淵の人魚姫 》

著者:氷桜夕雅






私は今、何をしているんだろう?
気がつけばどこともわからぬ海の底、私は上を見上げていた。
光がキラキラと瞬いている、どこか宇宙の星々のようなそんな情景にも見える。
「ここはどこなんだろう?」
水の中、声を出そうとするがそれは外には漏れない、代わりに海水が口の中に入ってきているような気がするが別に息苦しさは感じない。
この感覚、そういえば過去にもあった気がする。けれどそれがいつのことだったかそれすらも思い出せない。
そもそもいつからいるかもわからないのだ、ただ気がつけば私はここで上を見ていた。
あまりにも長い時間いるせいかここがどこかわからないなんてのは当に知っているのに気がつけばふと言葉にでてしまう。
水面に煌く光は私の望む希望のような気もするが手を伸ばしても水の中を掻くだけでなにもできない。
「あっ・・・まただ。」
上を見ていると、というか上しか見れないのだが時折、ヒトが落ちてくる。
私にとっての希望の水面からどのヒトも苦悶の表情でもがきながら落ち、しばらくすると動かなくなって海底に沈んでいく。
「飛び込み自殺」
その言葉を思い出したとき胸の奥がチクリと痛むのを感じた。
きっとここは自殺の名所なんだろう、老若男女関係なくふと気がつけば沈んでくる。なにが楽しくてこんな冷たくて深い闇が広がるこんなところに来たがるのかわからない。
「このスーツの人は仕事が上手くいかなかったのかな?」
「このおばあちゃんはおじいちゃんに先立たれたのかな?」
「この二人は・・・・心中かな?」
そんなことを漠然と思いながら上を見上げる。別にこれと言って可哀想だとか悲しいとかは思っていない、あえて持ちうる感情を言うならば『もったいない』である。
それからしばらくすると今度はこのヒト達を捜索しに背中に大きなタンクを背負ったダイバーがやってくる、彼等は海上保安庁の人達だ。
海の自殺は海上保安庁の管轄だから捜索費がかからない、らしい。なんで自分のこともわからないのにこんなどうでもいい知識だけは覚えているんだろう、我ながら情けない。
数人のダイバー達が各々手を合わせ一礼すると作業といっていいのか知らないけど沈んだヒトを上、水面へと引き上げていく。
どうせなら私も引き上げて欲しい、そう思ったけど残念ながら彼等には私の姿が見えないようで黙々と作業・・・・また言っちゃったけどうん、もういいや作業を続けている。
「おーい、気づいてよ。なんか無視されているみたいで悲しいぞ」
けれど“生きている人”がここまでくることなんてこんな時しかない。私はなんとか誰かが気がついてくれないかと必死に手を降るがそんな私を嘲笑うかのように次々とダイバー達は自らの仕事を終え帰っていく。
「やっぱり、ダメなのかな」
そう、諦めかけたときだった。一人のダイバーが私の前で動きを止めなにか腕を組み、不思議そうに首をかしげていた。
「見える?私が見えるの?」
そしてビックリすることが起きた。
その人はしばらくは黙ってみているだけだったが戻っていく仲間の一人を腕を掴むともう片方の腕で私を指差したのだ。
まさに『あそこに何か見えないか?ジョン!』的なジェスチャー!
「やっぱりあの人には見えているんだ!」
海上保安庁のダイバーでちょうどここの水域で仕事をしていてしかし更に私が見える人に巡り会えるなて、こんなダイスの同じ目が十回連続して出るような偶然など、あるはずがない。
ちょっと嬉しくなって小躍り(できないけど)しそうになった私であるがすぐにその希望は崩れ去ることになった。
その私のことが見えるダイバーさんがもう一人のダイバー、ジョンさん(仮名)に連れられ帰っていってしまったのだ。
『マイケル、君は疲れすぎて変なものが見えるんだ。帰ってマイハニーとハニートーストでも食べようぜ!』
きっとそんな感じだったに違いない。
「あーんもぅ、誰かなんとかしてよ」
私は上を見ながら思いっきり嘆息するのだった。

それからどれくらいの時間が経っただろうか?なにせお腹も空かないし疲れたりもしない、更には眠くもならないので時間の感覚がよくわからない、水面が何度か暗くなったり明るくなったりしたような気がするから2、3日は経ったのだろう。
マイケル(仮名)は戻ってきた。しかも前とはちょっと違うなんかオシャレな青地に黄色のラインが入ったダイビングスーツ、一瞬別の人かと も思ったけどまっすぐにやって来る彼に私は確信した。マイケルは私の 元へとやってくるとすぐに腰につけた袋から小さなホワイトボードとペ ンを取りだしなにやら書き始める。
「なるほど声が届かないから文字でってことね」
やはりマイケルは私のことが見えていたんだ。
『君って幽霊?』
そう書いたホワイトボードをマイケルは突き出してきた。これ私に書けってことなんだろうけど私に触れるとは思えない。
「無理だと思うけどなぁ」
多分すり抜けちゃうんだろうなぁと思いながら恐る恐る手を伸ばす。
「あ、あれ?触れる」
意外にも私はホワイトボードをしっかり握っていた。今までその辺を泳いでる魚を掴もうとしてもことごとくすり抜けてきたってのに。
驚く私をよそに、マイケルはホワイトボードを指差しなにか書くように促してくるので仕方なくペンを走らせる。
『その呼び方禁句』
そう書き直してマイケルに返す。
初対面の女の子に『君って幽霊?』って聴くなんて失礼にもほどがあるよ。ちょっとまだそういうの認めたくない年頃なんだからこっちは。
その文字を読んだマイケルは何故か小さく頷くとすぐにまたなにかを書いてこちらへと渡す。
『じゃ地縛霊?』
「呼び方変えただけじゃないの!!」
書かれた文字を見て私は思わず叫んでいた 。なんかマイケルは私の反応が楽しいのかこっちを見ながら笑いを堪えているようにも見えるし全くもって失礼。
『マイケル、とりあえず霊とか幽霊とかその類いで私を呼ぶの禁止』
書き直して突っ返す。そしてすぐに勝手にマイケルなんて呼んでいたことに気がついた。
『俺はマイケルじゃないカナウだ。それでじゃあ君のことはどう呼べばいい?』
マイケル、じゃなかったカナウ(変な名前)からの返答は思ったよりも冷静なものだった。もっと騒いでくれてもいいのに。
しかし何て呼べばいいと言われても自分でもよくわからないのだけど。
『自分の名前覚えてない?』
答えることができない私を見かねてかカナウは質問を変えてくる、けど残念ながら自分の名前もわからないのよね。
『名前もわからなければ、なんでここにいるのかもわからない。』
そう答えるしかなかった。
私の文字を見たカナウは暫く考え込むとふとなにかを閃いたのかホワイトボードにペンを走らせる。次に出てきた言葉を私には全く予想できなかった。
『それじゃ暫定的に“人魚姫”ってどう?』
ああ、なんかそれ凄く良い。人の事散々幽霊とか地縛霊とか言ってたのに人魚姫なんて可愛い私にピッタリ、センスあるじゃない。
『足が消えてるしちょうど人魚姫っぽいよ』
「えっ、そっち!?」
上しか見れないから今まで気がつかなかったけど私そんなベタな幽霊になっているんだ。今日日足が消えてる幽霊なんて漫画やアニメでも見ないよきっと。
『でもただ人魚姫ってのもつまらないから“深淵の人魚姫”攻撃力3、防御力2ってどうかな?』
「ちょ、ちょっとなに人を勝手にカードゲームみたいにしてるの!!」
私は手を伸ばしカナウからホワイトボードを奪い取ると一気に文字を書きカナウの目の前に突きつける。
『人魚姫でいい!!余計なの付けない!』
私の鬼気迫る様子が伝わったのか「冗談、冗談」と言った感じにカナウは両手を挙げ降参のポーズをとる。
「んもぅ、なんなのよ」
なんか変な感じだ。なんというかカナウは慣れているというか平然としすぎている。普通こんな深海で私みたいなのに会ったら逃げるかあわてふためくと思うんだけど。
こんな普通に人と話せるなんてなんか生きてる時みたい。
『カナウは私の事、怖くないの?』
そう書いてホワイトボードを見せるとカナウは首を静かに縦に振る。
『小さい頃から見てるから平気だな。水死体に比べたら可愛いもんだよ』
水死体と比べられるのもなんだけど、まぁやっぱりそういう人っているんだ・・・・と、そこは納得した。
『でもなんで私に話しかけてくれるの?』
そういうのが見えるからってわざわざ話しかけに来る人なんて珍しいと思う。
『なんていうか救えるなら生きてる人も死んでいる人も』
カナウはそこまで書いて私に見せると文字を消し続きを書く。
『救ってあげたいと思うから。特に死んでる人は普通見えないからね』
ううっ、なによそれ。どんだけいい人なの?こんな人きっとダイスで同じ目が十回どころじゃない、二十回でも足りないくらい珍しくて良い人だわ。
『私を救うってそれって成仏させるってこと?』
『まぁそうなるね』
『でもどうやって?』
『君がここにいるのは未練があるから、それを解消する』
未練か、多分きっとそうなんだろう。けど今の私にはなんでここにいて、なにをしたいのか全然わからない。
『未練もなにも覚えてない』
なにかあったからここにいるんだろうけどそれすらわからずにこんなところにいるなんて本末転倒だ。
『人魚姫はずっとここにいたからわかるとおもうけどここは飛び降り自殺の名所だ』
飛び降り自殺、その文字を見たときまた胸の奥がズキッとした
『人魚姫がここにいるのも飛び降り自殺をしたからじゃないかな?』
『多分、そう。なんかその飛び降り自殺って文字を見ると胸が痛くなるしそのせいじゃないかなとは思う』
ホワイトボードを見せながら考える。
「なんで私死んじゃったんだろ?」
自問自答しても当然答えは返ってこない。でもずっと上を、希望の水面を見ててわざわざこんな海底にやって来るヒトを『もったいない』なんて言ってたのに自分自身もやったことは一緒だったとはしょうがないな私も。
『でもさカナウに見えているのって私だけでしょ?ということは私は他の人とは違うなにかがあるからだと思うんだけど』
カナウと話してからなにか急に脳が活性化した気がする。というか今までずっとただぼうっと上を眺めていただけで漠然と物を考えていただけだけど今は次から次へと考えが言葉に出てくる。
『それは間違いないと思うけど情報が少なすぎるよ。どんなことでもいいなにか知っていることを教えて』
『そう言われても』
私の知っていることなんて正直あやふやものばかり、どうでもいい知識ばかりは覚えているけど肝心なことはさっぱり覚えていないんだから困る。
でもなにか思い出さないと・・・・こんなカナウみたいな人と出会えたことを無駄にする訳にはいかない。
ぎゅっとホワイトボードを握りしめ思考を巡らせる。
目の前にある希望の水面、今はそれの前にカナウが手足を動かし私の視界に入るように姿勢を維持している。
私の髪が海流に流されているようで左へと流れていく。
なんだっけ?この辺りの海流は特殊で死体が上がってこないとかそんな話をどこかで聞いたことがあるような。
音は聞こえない、辺りは静かで暗くて寒気がする。
カナウは私のことを人魚姫と呼んだ、なぜか?それは私の足がベタな幽霊みたく足が見えないから。
それを私はカナウに言われて初めて気がついた。
「ええっとつまり・・・・。」
頭の中で一つの答えが出る。答えといってもいいんだろうかそのキーワードは些細なことで正直こんなことをカナウに伝えてもどうしようもないのかも知れない。でも逆に言えばそこからなにか忘れていた記憶を思い出せるかも知れない。
『私は上しか見ることができない』
その言葉を書いたホワイトボードをカナウに見せる。
するとカナウはなにかに気がついたのかじっと腕を組み考え事を始めてしまう。
『どうしたの?』
『もしかしたら人魚姫がここにいる理由がなんとなくわかったかも』
「本当!?」
思わず叫んでしまったがカナウに声は届かない。慌ててホワイトボードを受けとると改めて私の言葉を文字にする。
『本当!?』
『あくまで推測だけどね。人魚姫はここで誰かが来るのを待っているんだと思う』
誰かが来るのを?私はずっと上を見上げていたのは自分が希望の水面に行きたいからだと思っていた。
『でも誰を?というかなんでこんなところで待ってるの?』
『誰をってそれは人魚姫の大事な人、まぁ例えるなら王子様ってとこだね』
大事な人?誰のこと?全くもって頭に浮かんでこない。
『そして人魚姫がここで待っている訳は』
カナウが文字を一旦消し、続ける。
『人魚姫と王子様が一緒に心中して王子様だけ助かったから』
「なるほどそういうわけか」
カナウの考えが正解・・・・なのかは判断できないけど筋は通ってるしなにより私自身が納得していた。
『そのことが私、未練になってここにいるんだ』
でもそう考えると今の私は不毛な存在だと気付かされる。
私は死んだ、でも王子様は助かって生きている。私が心中してからはもう長い時間が過ぎている、きっとそれが意味する事は───
「私の事を忘れてちゃんと生きているのね」
別に悪いことじゃない、私はもう死んでいるんだから。
でも私はずっとここで待っているんだ、絶対に来ない王子様を。
『なにか思い出した?』
『全然。でもカナウの考えで合っていると思う』
ふと胸の奥が締め付けられるような感覚を覚えた。
別に寂しかった訳じゃない、なにせ私がなにも覚えてないんだもの。けど心のどこかが欠け落ちたそんな感じだったのかもしれない。
『それじゃちょっとその線で王子様を探してみるか』
『探してくれるの?』
私の問いにカナウは大きく縦に首を振る。
『本人連れてくることは無理かもしれないけど写真とかでもあればさ、人魚姫の記憶戻るかもしれない。流石にずっとこのままじゃ人魚姫も嫌だろ』
記憶が戻る、そうしたら私はどうなるんだろう?悲しくなって泣いちゃったりするんだろうか?
『そうね。それじゃ王子様を探してくれるカナウは魔法使いって所ね』
『人魚姫の物語に当てはめてるのか。ただ魔法使いってのは男としては嬉しくないな』
なにか不服そうな様子のカナウ。私的にはスゴく合ってるネーミングだと思うんだけどな。
『なんで?』
『なんでも!そもそも人魚姫の話に出てくるのは魔法使いじゃなくて海の魔女だ』
『似たようなものじゃない』
『全然違う!とまぁ、そろそろ行くよ。これは人魚姫が持ってて』
カナウはそう書かれたホワイトボードを私に渡すと水を掻き水面の方へ昇っていく。
「あ、んもぅ。もうちょっと話したかったな」
どんどん遠く小さくなっていくカナウの姿を見上げながら小さく呟く。
カナウが帰った後、私の周りは再び静寂でさっきまでのことが嘘のように静まり返っていた。


「来ない・・・・。」
カナウが帰ってから結構長い時間が経った、と思う。あくまで私の感覚でだけど。今までここにいたときは時間の流れがこんなにもゆっくり感じるなんて思いもしなかった。
「んもぅ一日千秋ってこういうことを言うんだろうなぁ」
ぼんやりと水面を見上げながら呟く。
海底は、全ての物を受け入れる広さを持っているけど寒くて暗い、そして静まり返っている。
そんな中で私は今更ながら孤独を感じていた。
「これも全部カナウのせいだよ」
ずっとここで一人だと思ってたのにカナウと出会ってしまった。私の事見える人がいた、一人じゃないそう感じてしまったから、だから今ここにカナウがいないことが寂しくて胸が苦しくなる。
このままカナウはここに来てくれないのだろうか?あの一度は愛した王子様が私に会いに来てくれないように。
私の事を忘れてしまったのだろうか?
そうしたら私はまたただ無感情に水面を見上げていた頃に戻らないといけないんだろうか?
そう考えたら感情が込み上げてきて出ないはずの涙が目からこぼれ海水に溶けた気がした。
「んもぅ、本当情緒不安定過ぎよ私。そんなんだから心中しちゃうんだろうな」
理由は覚えてないけどきっと些細なことで感情的になって心中したんだろう、反省・・・・は今からしても遅いからしないけど。
「ぼーっとしているから変なこと考えちゃうのよ。絵でも描いてればそのうち来るよね」
らしくない、私は気を取り直してカナウから貰ったホワイトボードを水面に被るように掲げるとそこにペンを走らせる。
ちょうどカナウがいた位置にカナウの絵を描いてやろう。
「えっとなんかこんな外見でウェットスーツが黄色ってでもこれ黒一色しかないからしょうがないか」
ぶつくさ呟きながらペンを走らせ数分後、その絵は完成した。
「うん、我ながら酷い出来だな」
完成した絵を見て思わず嘆息する。ホワイトボードの中のカナウは辛うじて人の形をしているかなぁって程度。もう少し上手く描けるかなぁとは思っていたんだけどあまりの絵の才能のなさにちょっとへこんだ。
「せめてもうちょっと上手く描き直すかぁ」
そう思い再びペンを構えた、ちょうどその時だった。コンコンと私の持つホワイトボードの裏側をなにかが小突いた。
「え?んもぅ、なによ・・・・ってカナウ!」
下手くそなカナウの絵が描かれたホワイトボードをどけた先に本物のカナウがいた。しかもカナウが持つホワイトボードには『おひさー』なんて書いてある。
『遅い!』
汚い絵を一気に消すとそれだけ書いてカナウに見せる。本当はもっと違う、『会いたかった』とか『寂しかった』とか書きたかったんだけどなんていうかあっけらかんとカナウが『おひさー』なんて書いてくるもんだからつい違う言葉が出てしまった。
『ごめん、ごめん。色々調べてたら一週間もかかった』
「あ、一週間しか経ってないんだ」
なんかもっと長い間カナウと会っていないと思ってた。そう考えるとカナウの態度が軽いのも納得できる。
『それでなにかわかった?』
『わかったよ。けど人魚姫が三十年も前の人だとは思わなかったよ』
『そんなに前から私ここにいたんだ』
今までこんな暗くて三十年もいたなんてにわかに信じがたい話だった。カナウと会う前の私がどれだけ呆然とここにいたのかがはっきりとわかる。今の私なら一週間でもこんなに寂しくて不安になってたんだ三十年なんて考えただけでも嫌になる。
『そしてこれが生前の君の写真だ。名前は草加美凪』
カナウはそうホワイトボードに書くと一枚の写真を取り出し私の前に見せる。そこにはスーツ姿の男性とセーラー服をきた黒髪の美しい超絶美少女がそこにいた。
『これが私?物凄く可愛いじゃない』
『ついでに隣の男性が王子様、乾章さん』
「えっ!?」
学校の校門の前だろうかそこの前で笑顔でピースサインをする私の横で微笑ましく男性、年齢は三十歳くらいだろうか?
短く刈り揃えられた髪に彫りの深い顔立ち確かに格好は良いと思うんだけど。
『これって先生じゃないの?』
『そうだよ。人魚姫の通っていた高校の担任、それが君の王子様だ』
「あーそれはなんとなく心中する理由がわかる気がする」
記憶が戻ったわけじゃないけどそのカップリングは普通に考えても障害が多そうなのは間違い無い。
『やっぱりカナウの予想通りだったの?親に反対されたとか?』
私の問いにカナウは小さく頷く。
『その通りだよ。二人は高校卒業したら結婚するつもりだったんだけど御両親に猛反対されてね』
『その結果ここで心中したってわけね』
「そうして私だけここに取り残されちゃった、と」
高校生か、若いのに死んでしまうとは情けない。まぁ私のことだけど。
いろいろできただろうになぁ、こうやって上だけしか見れなくなって初めてわかった。
『そういえばその王子様は今どうしているの?』
『今は教師を辞めて塾の講師をやっている。結婚もしててちょうど一人娘が今年高校生だそうだ』
『そうなんだ、元気にやってるのね』
『今も人魚姫の命日にはここに来て花を供えに来ているよ』
その言葉を見て心の中が一気に晴れていくのを感じた。なんだろう全然記憶にないし気にしてないと思ってたんだけどどこか心の中では迎えに来てくれない王子様にを恨んでいたのかもしれない。
「でもここに来なかったのは正解ね」
私は小さく呟くとホワイトボードに文字を書きカナウに見せる。
『もし王子様にまた会うことがあったら伝えて。“私の事はもういいから幸せになって”って』
『そうか、わかったよ』
王子様がそうだったように私もそろそろ先に進まなければならないよね。全然思い出せないけどありがとう、そしてさようなら私の王子様。
そう考えた途端すっと力が抜けていく。かなしばりからゆっくりと解き放たれたようなそんな感覚。
「あ、あれ?」
そうして気がついたらいつの間にか上ではなく真っ直ぐ前を向いていた。今までとそう変わりなく広がる海、だけど初めて視界に入る海。
『どうした?なにか思い出したとか?』
急に水面を見上げなくなった私に驚いたのかカナウが目の前まで泳いでくる。
『うんん、なにも思い出してない。でもいいの魔法使いのカナウのお陰で私は自由になれたから』
『だから魔法使いじゃなくて海の魔女!まぁどっちでもいい、自由になれたってことは成仏出来そうってこと?』
「ま、たしかにカナウは魔法使いじゃない、魔法使いじゃなくて・・・・。」
私は見えない足で岩を蹴るとカナウの回りをクルクルと円を描くように泳ぎながらホワイトボードを見せる。
『成仏しちゃったらカナウに会えなくなっちゃうでしょ?』
『え?』
びっくりしたのかカナウのマスクから泡が漏れゆっくりとゆっくりと水面に向かって昇っていく。
「これからもよろしくね私の王子様!」
私は満面の笑みでカナウを見つめる、私の新しい王子様は目の前にいた。



《 深淵の人魚姫 了 》



【 あとがき 】
浮かない死体があっても良いじゃない、小説だもの

【 その他私信 】
次回予告
晴れて?カナウの背後霊となった人形姫でありましたが
二人の前に突如として現れたツインテールの巫女さんに
んまぁ付きまとわれて
「アナタナハーアクリョウニートリツカレテマース」
てな感じでカナウの袖を掴んでついてくるんですよ
「あ、悪霊を払うまでついていくので不束者ですがよろしくおねがいします!」
みたいな、まぁそんな感じ・・・・全部嘘ですけど

なんか最初は自信作だとおもったんだけど実はそうでもなかった作品です
『』はホワイトボードの文字なんで句読点を打つか迷ったんだけど結局打ってしまった反省していますそして相変わらずの誤字脱字すいません(´;ω;`)


『べ、べつに好きで書いてるわけじゃないんだからね!』 氷桜夕雅

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