Mistery Circle

2017-10

《 隠-ONI- 》 - 2012.05.01 Tue

二作目 《 隠-ONI- 》

著者:辻マリ





土蔵は本家の母屋の裏手から回り、小高い丘を登った先にあった。
春先の、染井吉野が花を散らし、緑の葉を繁らせる頃だ。
彼は幼い頃に一度だけ祖父に手を引かれて連れて来られた記憶を思い返しながら、細かい砂利と砂で出来た、丘を登る細い小路を辿っていく。
昨日まではまだ強い風が吹けば肌寒いほどだったのに、今日は随分と気温が高い。
日差しが強く、丘だと言うのに風は全く吹いていなかった。
暑さに、彼の髪の生え際がじんわりと熱を帯びていく。
立ち止まる事は無く、それでも彼の口から、小さく息をつく音が零れた。
まだ春の半ばだというのに、風のない道には、夏を思わせる熱く湿った空気がよどんでいる。
来るなと言われているようだと、男は笑った。
暑いだろう少し休め、いや引き返せ、母屋に帰れば冷たい水が有るだろう、飲んで来い。
淀んだ空気にそう囁かれる幻覚に、彼は笑っていた口元を引き締めると、懐から扇子を取り出して、歩きながら身体の周りを軽く払う。
閉じた扇子を刀に見立て、さっと振るうと、動いた空気で一瞬風が生まれ、幻覚はたちどころに消え去った。
「・・・はぁ」
惑わされている場合では無いのだと、彼は踏み出す足の調子を速める。
土蔵まではまだ道程の半分ほど。
幼い頃の記憶よりも随分遠く感じるその場所へ、彼は一歩一歩、砂利道を踏みしめて登っていった。









「叶様、かーなーうー様ー?」
母屋の廊下を小走りに、着物を着た女中らしき女が声を上げながら移動していく。
色の白い顔に、艶の有る黒髪を襟の後ろで一つに縛った、地味だが整った容貌の女だ。
細い眉をひそめ、誰かを探している様子で、先程から一人の人物の名前を連呼する彼女を、通り過ぎた襖の奥から誰かが呼び止める。
「後鬼、そんなに騒がなくても私は此処に居りますよ」
聞こえた声に女、後鬼は足を止め、くるりと振り向いて襖の前に膝をつく。
「叶様。臨様が先程土蔵へと向かわれたようです」
その報告に、襖の奥に居る女は、あらまあと呆れたような声を上げた。
「随分と悩んでいたかと思えば、結局土蔵目当てだなんて・・・あの子もいい加減諦めれば良いのにねえ」
溜息交じりの言葉に、後鬼は膝をついたまま問いかける。
「いかがなさいますか?」
その言葉に、ほんの少し考えるような息遣いが聞こえた後、衣擦れの音と共に襖がさっと開いた。
「とりあえず、あの子が帰って来た時の為に、御飯とお風呂の仕度かしらね?」
中から出てきたまだ若い女は、着物の上から割烹着を着て、髪を縛りながら笑っている。
「一人分じゃ足り無いわよね。後鬼、お米は何合残ってますか?」
割烹着の袖をまくる女の後ろに従いながら、後鬼が即座に「3合です」と返す。
「私達のお昼も考えると足り無いし、一升炊きましょうか。それにおかずも。あの子の事だから、土蔵の中から引きずり出すまで諦めないでしょうし、出来合いじゃなくてちゃんとした物をこしらえる時間は有るはずだし・・・あ、そうだお味噌汁も作らないと」
急ぎ足で台所まで向かうと、彼女達の着物とはややちぐはぐな最新式のシステムキッチンに向き合って、女二人は調理器具と食材を取り出していく。
「お肉・・・鶏肉があったはずだから唐揚げを南蛮漬けにしましょう。野菜はキャベツを刻んで・・・筑前煮も残ってたからこの際片付けましょうか。あの子御飯いっぱい食べるから、金平も有ると良いわね。じゃあ、後鬼はまず牛蒡の灰汁抜きをお願い」
綺麗に磨かれたボウルに鶏肉と下味用の調味料を目分量で入れていきながら指示を出す女に、後鬼は従いつつも小さく尋ねた。
「・・・助力は出さなくてもよろしいのですか?」
何処か不安げなその声色に、女・・・芦屋叶は柔らかく笑い返す。
「何を言っているの。不出来な弟とはいえ、今から臨は芦屋の当主としての務めを果たそうとしているのですよ?後見人とはいえ、私がしゃしゃり出て力を貸すのは御法度です。それにあの子もいい歳なんですから、いつまでも姉の後ろに隠れているわけにも行かないでしょう?」
菜箸で下味をつけた肉をかき混ぜながら油の温度を見ている叶に、笹掻きにした牛蒡を水の中に落としながら、小柄な女鬼は心配そうに溜息をついた。







心に囁きかける幻覚を何とか振り切って、日が中天に近くなる頃、ようやく彼は土蔵の入り口に辿り着いた。
鉄の扉に外側から大人の腕ほども有る樫の閂を嵌め、封をするように呪符を貼り付けて有る入り口を、帯に差していた刀で閂ごと一刀両断する。
普通の人間がそれをやったのであれば、まず刃が零れるか二度と使い物にならぬ状態になるかの所行だったが、壊れたのは彼の持つ刀ではなく、鉄の扉と樫の閂の方だった。
土蔵の内側に向かって轟音を立てて倒れ、内側に積もっていた埃を盛大に舞い上げる。
外から差し込んだ光の届く範囲よりわずかに外れた場所に、土蔵の地下へと続く階段を認め、彼は刀を右手に持ったまま、その階段へと進んでいく。
まず最初に階段の下を覗き込むと、頬をひやりとした冷気が撫でた。
何年も閉ざされていた階段には灯りなど無く、地下の様子は土蔵の床からは全く窺うことの出来ない暗闇に包まれている。
「・・・【燈せ、鬼灯】」
地下の様子が見えないとわかると、彼は開いていた左手に果実の絵が描かれた札を一枚取り出して、詞を唱えると掌の上でそれを燃やす。
札は燃え上がり、燃え尽きる事のないまま彼の左手の上で蝋燭の代わりになった。
そのまま、身体の前に左手をかざし、先を確認しながら若者は地下への階段をゆっくりと下りていく。
頬を撫でる冷気は、風の動きと言うよりは、何か異質なものの息遣いのように、寄せては返す動きを伝えてくる。
階段の一番下まで到達した感触と、土蔵の入り口近くよりも強く感じる冷気の動きに、彼は目の前の暗闇に向けて左手を向けた。
広々としているのかと思いきや、地下の空間はどちらかといえば狭小で、掌の上で燃え続けている炎の明かりが届く範囲で石を組み合わせた壁が見て取れる。
「―、」
そして、その明かりの中に、冷気の中心があった。
長い髪、痩せているが筋肉に覆われた手足、脳天近くから生えた、一本の角。
人の特徴としては余計なものが混じるその異形から、寄せては返す冷気が生じている。
地下の壁に埋め込まれた鎖と呪符によって雁字搦めにされたそれは、一見すると壁に浮き彫りにされた像のようにも見て取れたが、伸び放題の髪が流れる厳つい肩がかすかに上下しているのが、若者の目には見えた。
これは生きているのだと悟り、緊張を強める。
幼い頃、祖父に連れられて土蔵の入り口まで来た時からずっと、恐らくはそれよりもはるか以前から閉ざされていたはずの場所にて、息づいていた異形。
今より彼は、それを絡めとる鎖と呪符を切捨て、世に解き放たねばならなかった。
爪先から髪の一筋に至るまで、感覚と言う感覚を研ぎ澄まし、左の掌に浮かぶ灯火を右手に構えた刀に纏わせる。
改めて刀を両手で構え直し、燃え盛る刀身越しに目の前の異形を睨み付けた。
肩をわずかに上下させ呼吸するそれは、若者が向ける気迫に何の反応も見せず、ただ其処で鎖と呪符に絡め取られたまま動かない。
なのに、恐ろしくてたまらなかった。
未知なる物に対する恐怖とは違う。
炎を纏う刀身越しにすら感じる、異形から発せられ、寄せては返す冷気の強さに、その存在の持つ力量に、それの意味を知るものとして恐怖を覚えていた。
だが、切らねばならぬ。
かつて彼の先祖が施したのであろう鎖を、呪符を切捨てて、これを世に放ち、従えるのが彼の使命であり、悲願である。
一拍、呼吸する間を置いた後、若者は一歩大きく踏み込んで、燃え盛る刀身を振りかぶった。
「―破ぁっ!!」
裂帛の気合と共に振り下ろすと、呪符が燃え上がり、鎖が絡めとる異形の肉体のみ残し、錆の粉へと変わる。
絹糸が擦れ合うような妙やかな音のみ残して、錆の粉は灯火の届かない闇の中へと崩れ落ちていった。
後には、未だ呼吸するのみで身動き一つしない、角を持つ異形だけが残される。
「・・・」
ただ鎖を切り捨てるだけでは、終わりでは無いと、あらかじめ彼は聞かされていた。
この存在を従わせるには、段階を踏んだ儀礼が必要なのである。
「―告げる」
少しでも己の中の動揺を鎮めるため、一つ深呼吸をしてから、彼はその詞を唱え始めた。







告げる
常世と幽世の狭間に於いて
告げる
捕えし檻は灰燼に帰せ
伏せよ
狂乱の牙を余す者
伏せよ
四魂七魄欠けず生し
啓け
令を以って我に示せ
今一度喚ぶ








「我が前に跪け、隠行鬼―!」
寄せては返す冷気を振り払うように、詞の終わりに重ねて、もう一度構えた刀を振るうと、硬いものが弾け飛ぶ、耳に突き刺さるような音が響き渡る。
次の瞬間、異形を中心に強烈な風が吹き、身を切るような冷気が一瞬にして焼け付くような熱気へと転じた。
皮膚が燃えるかと思うほどの熱に思わず目を閉じる。
こちら側に向かって噴出す熱気が収まってから、彼は恐る恐る目を開けた。
そこには、先ほどまで壁に縫い付けられ、呼吸するばかりで身動き一つとらずにいた異形が、姿勢を変え彼の足元にうずくまっている。
深々と頭を下げ、筋肉で覆われた背中を丸めて膝を折る姿は、目で見る限りだと彼よりも小柄に見えた。
「・・・隠行鬼」
名を呼ぶと小さく呻るような声を上げ、それは顔を上げる。
言葉は発しないものの、伸び放題の髪の隙間から見える瞳には、知性の色と光が宿っていた。












「、あら」
料理の途中、ふと調味料でも切らしていたかのような軽い調子で叶が声を上げる。
「あらあら」
台所の天井近く、宙を見詰めて目を丸くする彼女に、従う女は牛蒡を晒していた水を捨てる手を止めてその背中に声を掛けた。
「・・・叶様?」
呼びかけに、彼女は振り返ることなく手元に視線を戻す。
適温に達した油に下味をつけた鶏肉を放り込みながら、背後の女に言葉を返した。
「随分と乱暴でしたけど・・・お昼御飯、無駄にならないで済みそうですよ。良かったわね、後鬼」
心配だったでしょう?と付け加えられた言葉に、牛蒡の水切りに戻った後鬼は気恥ずかしそうに俯く。
「いえ、その・・・先程は出過ぎたことを申し上げ、済みませんでした」
「大丈夫よ。気にしていませんから」
油の中少しずつ浮かんでくる唐揚げの様子を見ながら、叶はもう一言、お風呂も湧かしておきましょうか、と呟いた。











遠くから呼ぶ声はずっと聞こえていた
ゆるりと近付いてくる気配も察していた
今度は一体誰が来たのだろうか
此処に封じ込められてから何人目の気配だろうか
あれからどれくらいの時間が過ぎたのだろうか
どうか今度も
諦めて帰ってはくれないだろうか
もう許して欲しいのだ
もう疲れてしまった
日の目を見ることを期待する事も
誰ぞの手先として駆ける事も
何もかもに疲れてしまったのだ
この気配も恐らくは近付く事に疲れ諦めて
帰って行ってしまうのだろう
そう言い聞かせて諦めていた
此処は深く
冷たくて暗い
まるで水牢のような世界だ
淀んだ空気は胸の腑の内に
死なぬ程度の気を送り込むだけで精一杯で
凍りついたかのように動かない身体は
この水の底の様な場所でもがく事も出来ず
我が身はもしや石か氷になってしまったのではないだろうかと
思い違えてしまうほど何もかもが冷たく重苦しい
こんな場所に人は踏み込んでは来れないのではないか
だから誰もが諦め引き返すのではないか
さもなくば
此処は本当に水底なのではないか
顔を上げる事も億劫な此処は
しかし考える内に気配はいつもより近くまで辿り着き
深い水底の世界を映す瞳の中に
揺らぐ光が見えた
はじめはそれが光だとは気付けず
目の奥を焼く白刃のような揺らめきに
光と言うものを忘れかけていた事を思い出した
ゆらゆらと
水底から見上げる光は揺れながら近付いてくる

もしくはこの身が浮き上がっているのか
そうして
今度は呼び声がはっきりと聞こえ始めた












異形、あるいは鬼、と呼ばれる存在が人の傍に在った時代から、既に数百年。
使役するものとしてそれらを従え、権威を示した人種すら没落し、滅びたに等しい現代において、叶と臨の姉弟が生まれた家は異質な掟に未だ縛り付けられたままの時が流れていた。
嫡男が家督を継ぐ事自体は少なくはなってきたものの普通の家でも未だに受け継がれている思想だが、其処に更なる条件を課した掟がこの家には存在している。

【家督を継ぐ者の資質として、鬼を招き、従える事が最重要視される】

鬼を招くとはまずどういうことなのか。
一般の人間がこの条件を聞かされたとき、まず真っ先にそれは何かの隠喩かと問いかけてくるに違いない。
だが、二人の生まれ育った芦屋家では、それは隠喩ではなく、そのものの行為を意味した。
異界よりこちら側の世界へと引きずり出すもよし、既にこの世に亡きものを反魂させるもよし、人の世に混じる末裔を従えるもよし。
兎に角、【鬼】と分類されるであろう者を従者として、身の回りに従わせる事、そのものが家督を継ぐための条件なのである。
その掟を幼い頃より聞かされて育った姉弟は、それが一般の常識とはかけ離れているものだという事は理解してはいるものの、敢えて掟に逆らおうとは考えなかった。
逆らう理由が彼らの中に無かったのも大きい。
姉である叶は、早くから家督を弟である臨に継がせる事を決めていたらしく、両親祖父母にそれを宣言した後、遊学中に何処から見つけてきたのか、鬼の血を継いだと言う同世代の女性を使用人として引き連れて家に戻り、臨はと言うと、生まれ育った家から学校に通う事を選び、高校を卒業してからはひたすらに鬼を招く為の修行に明け暮れた。
科学技術の発達した現代において、何も知らない人間が見れば奇術の一種にしか見えないであろう法術を学び、基礎の手ほどきを受けた剣術を独学でひたすら修練し続ける。
熱心なのは感心するが、お前は姉と違い、異界より鬼を招くのかと尋ねた父親に、彼は首を横に振るばかりだった。
臨には、傍に従えさせたいと願う鬼が既に心の内に居たのである。
生家の母屋の裏、丘を登った先に封印されていると言う古の鬼。
幼い頃に祖父に連れられ、昔話を聞かされたその異形を、なんとしても解き放ち従わせるのだと、彼は心に決めていた。
今の時代の人間には無理だと周りが一斉に止めたが、臨は聞く耳を持たなかった。
そもそも数百年の昔、この地に居を移した彼の遠い先祖が従える事を諦め、封印するしかなかった荒くれなる鬼。
法術が科学に代わり権威を示した時代にすら従えなかったものをどうするつもりなのだと親族一同が諌める声は耳の中を素通りさせ、彼はひたすらに学び続け、そして今日、丘を登りそれが封印されている土蔵へと足を踏み入れた。












聞かされていた話よりも随分と大人しい鬼に、臨は名を呼んでからしばらくの間、それを前に沈黙する。
跪き見上げてくる瞳には、獣のそれと違い知性の色が宿り、こちらを伺うような息遣いには理性と困惑が感知できた。
何か問いかけてみてもいいが、会話は出来るのだろうか。
気になってきたところで、流石に沈黙に耐えかねたのか鬼のほうから口を開いた。
「恐れながら・・・」
聞いていた話の中で思い描いていたものとは違う、随分優しげな声が牙の生えた口から零れ出す。
「貴方様が、当代の我が主であらせられますか?」
堅苦しい言い回しでの問いかけに、臨はそうだと短く返事をする。
「芦屋臨。お前の封印を解いた、芦屋の当主になる予定の男だ。覚えておけ」
「かしこまりました」
今一度深々と頭を下げる鬼に、その主となった若者は立ち上がるように命じた。
背筋を伸ばし、土蔵の地下に足をつけて立つと、鬼は臨よりもわずかに小柄な体躯であるのが分かる。
「お前の話は祖父から聞いていたが・・・小さいな」
素直に感想を口にすると、隠行鬼は首をかしげて生返事を返す。
大人しいを通り越して、気の小さい性格なのではないかと不安になるほど弱い声に、臨は念のためと思って尋ねてみた。
「・・・聞いた話では、お前は主の手に負えず封印されるに至った暴れ者だという事なんだが、その話に偽りは無いか?」
問いかけに鬼は伸び放題の髪の下で苦笑いを浮かべる。
「そのような話になっておりましたか・・・如何にも、主の命さえありますれば、この身は獅子奮迅の働きをみせましょう・・・ですが、そうでない時は、荒事はどちらかと言うと不得手にございます」
「・・・は?」
聞き間違いだろうか、目の前の鬼がおかしなことを口走ったように思い、今度は若者のほうが首をかしげた。
「荒事が、不得手、だと?」
鸚鵡返しに問いかけると、鬼は力の弱い答えを返す。
「えぇ、その・・・無用であるというのなら、争い事はお止めくだされば、と思う所存です」
その答えに、臨は文字通り絶句したのだった。













その昔、一人の巫女と一人の異形が居た。
異形は巫女によって人里に招かれた生身の鬼だった。
人里より離れ山の奥へと隠れ住み、ただ自然の有るがままに任せ穏やかに生きていく事を望んでいた鬼にとって、人里へと招かれる事は望まざる出来事だった。
だが人よりはるかに力の強い、不可思議な力を持つ鬼を、戦の手駒として迎える事を人は、その巫女は望んだ。
そして望むまま鬼を操る術を彼らは心得ていた。
「巫女の血肉は、我らのような異形にとっては毒より薬より強い力を持っていました。一欠けらでも口にするだけで万倍の力を振るう事が出来るだけでなく、心を曇らせ欲の赴くままに動く獣と化してしまう。そして、呪の力によって、口にする事自体が拒めず、かつて私は、この手で多くの命を奪い続け、最後は・・・」
「もてあました巫女によって封印されたわけだな?」
「その通りでございます」
土蔵の地下から上に上がり、母屋へと戻る道すがら、鬼の身の上話に耳を傾ける。
話が真のものだというのなら、彼を捕らえ自らの血肉を与え戦の手駒とし、最後はその力をもてあました末に封印した巫女というのが芦屋の祖先に当たる人物だろう。
本当は争い事自体が嫌いだと話す鬼に、今の時代は戦争どころか集落単位の小競り合いすら殆ど無いと話すと、子供のように無邪気に喜んでいた。
その喜びように、若者は隠すことなくため息をつく。
力の強さをもてあまし封印されたのは事実のようだが、良くぞ今まで封印されたまま捨て置かれたものだ。
「お前、僕より二つ前の世代に目覚めさせられてたら大変な事になってたぞ」
臨の祖父の代にでも彼が封印をとかれていたのなら、最悪秘密裏に戦争に借り出されたか、混乱に乗じてあること無いこと責任を負わされ責め苦を受ける羽目になっていたに違いない。
そういう点では、手に負えぬという伝承を恐れ触れぬように封印し続けた先祖たちに感謝しなければならないのだが、争いたくないと最初から真っ正直に訴えられた分、言い伝えを信じて強い鬼だと思い込んでいた自分を後悔する思いが大きかった。
「・・・まあ、戦いたくないと騒がれても、ある意味手に負えないか」
ため息とともに首を振ると、並んで歩くと臨より少し背の低い鬼が申し訳なさそうに笑う。
「お前、戦う以外に何か出来ることはあるのか?」
次の問いかけに、伸び放題の髪の下で穏やかな笑顔が浮かぶ。
「元々、力は人より強く生まれついておりますので、力仕事でしたら。後は・・・わからないことばかりかと思いますので、ご教授頂くことになるかと」
「だろうな」
返ってきた言葉は思っていた通りだったが、臨はため息をつきながら、さて姉にはなんと説明しようかと考えながら、夏のように暑い丘の斜面を下っていった。



《 隠-ONI- 了 》



【 あとがき 】
【言い訳】
何もかもがここから始まる状態でぶった切って終わる小咄に定評が有る方、辻です。
前半三分の一くらい書いた所で鬼ネタで今ニコニコ動画に小さな盛り上がりが起こっている事を知りましたのでこれは某最強追跡者のホラーゲームとか某楽曲とはまったく関係ないことを此処に弁明しておこうと思います。
うん、わかってる。ど定番中二ネタだってのはわかってる。
でも続き書けるなら優先して書きたいです。
今回は機会を頂き、誠にありがとうございました。

【 その他私信 】
何とか呼吸してます。あと、今回二本も投稿してすみませんでした。
クイズは毎度の事ながらかけらもわかりませんでした。
一番最近読んだ書物は某フィンランドの狙撃手の伝記です。
それでも小説を書いてる間は、生きてる事が実感できるので、楽しいです。


辻マリ
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