Mistery Circle

2017-08

《 終わらぬ夢 》 - 2012.05.01 Tue

一作目 《 終わらぬ夢 》

著者:すぅ






時々、私は夢を見る。
決して魘されるような悪夢ではないが。
例えるなら・・・そう、夢幻の如く。
私は黒い世界の中に浮いている。
私の心も身体さえも、不安によってどんどん蝕まれていく。
しかし、明暗が一転。
その何処までも続く、気が遠くなるような暗闇の中に一筋の光が射して。
目の前に、眩いばかりの光が私を包み込んでいく。
視界が絶望的なまでに効かなかった先程とは違い、辺りがゆっくりとだが拓けて来た。
それと同時に、全身の感覚も研ぎ澄まされていく。
ここは、水の中。
ゆらゆらと揺れる水面に、私を照らし出してくれた光が踊っている。
此処が海ならば、魚が居るのだろうがそんな様子も無い。
だが、それを補えるほどに此処は蒼く、青い。
綺麗・・・。
先程まで私の全身を包んでいた暗闇達は、私の後ろの遥か彼方で点となって大人しくしている。
あんなのに、不安を感じていた私がどこか恥ずかしく感じる。
私の気持ちを察しているのか、光が力強く、暖かささえ伝えようとしてくれる。
やがて光達は、私にこう語り掛けてくるのだ。

“さぁおいで、向こう側はすぐ其処だよ”

私は戸惑いながらも、光が射す方へ手を伸ばす。
理由は分からないけれど、そうしなければいけない気がして。
もっと、もっと。
手を伸ばせ、手を伸ばせ。
光はすぐ其処だ。
私は、腕が千切れてしまうんじゃないかというぐらい手を伸ばした。
掴め。
私の手は水を掻く一方で、何も掴めやしない。
届かないのか?
私じゃ、駄目なのか?
その疑問が過ぎった瞬間、急に息苦しさを覚えた。
それもそうか、此処は水の中だ。
妙に落ち着いた心。
私は、息苦しさと闘うのを止める。
光は段々と弱まり、再び私の身体を暗闇が支配していく。
死、が近い。
何故か私はそれを受け入れている。
最初に感じていた不安も無い。
このまま、消えてしまおう。
私は、重くなってきた瞼に逆らわず考えるのを止めた。

「またあの夢か。」
私はいつもと変わらない、自分の部屋の自分のベッドで目覚めていた。
あの夢を見たのは、もう何度目だろうか。
悪夢とは違う、あの不思議な夢。
見始めた頃は何とも感じていなかったが、こう何度も続くと流石に気になる。
しかも、回数を重なる毎により鮮明に、より記憶に残るようになってしまっている。
何なんだろうか、この夢は。
半分寝惚けた頭で幾ら考えようと、何も思い浮かばないのは当然で。
ふと眺めた時計の針が指していた時間に、私は飛び起きざるを得なかった。
ーーー朝食を適当に済ませ、まだ履き慣れないヒールを鳴らしつつ家を出る。
まだ春の半ばだというのに、風の無い道には、夏を思わせる熱く湿った空気が澱んでいる。
最近買った腕時計に目をやる。
「ちょっと寝坊かな・・・。」
私は独り言を言いつつ、いつもの道を小走りで駆け抜けた。

「おはよう。」
私が事務所に入るなり、元気の良い挨拶が聞こえた。
「ああ、おはよう。ちょっと寝坊しちゃった。」
自分の席に鞄を置き、声の主に挨拶を返す。
「大丈夫大丈夫、部長まだ来てないから。これが本当の重役出勤、なんてね。」
そう言って、笑う彼女はこの会社に入社してすぐに出来た友達だ。
叶(カナウ)、それが彼女の名前。
「どうしたの?顔色悪いよ?」
叶が私の顔をまじまじと見つめてくる。
「ちょっとね・・・あんまり良い気分じゃないんだ。」
私は、出来るだけ悟られないように返した。
だが無駄な努力だったようだ。
「あー、分かった。またあの夢見たんでしょ?」
どうだ、と言わんばかりに私に指を差して彼女が言う。
勘の良い人は好きだが、こういう時はあまり歓迎出来ない。
「ご名答。今週に入って3回目かな。」
私は、参ったというリアクションをしてみせる。
叶は「ふふーん」と、鼻息を荒くし自慢げな顔をした。
本当、賑やかな子だ。
そんな彼女と私には、共通点がある。
「私は最近見てないなー、あの夢。」
彼女も、何度も見ているのだ。
私と同じ、光射す水の中を漂う夢を。
あの夢の事を打ち明けてきたのは、叶からだった。
“まさか同じ夢を見ている人が居るなんて”と、私も叶も言葉が出なかったのを覚えている。
それからというもの、お互いに「見た」「見てない」を報告し合うようになったのだ。
今までの回数からすると、私の方が圧倒的にあの夢を見ているのだが。
「ねぇ、やっぱり内容は変わらず?」
叶がコーヒーを口にしながら尋ねて来る。
同じ内容を何度も話してきた私にとって、その質問は苦でしかない。
そんな思いから「まぁね」とだけ答えた私に、叶は「そっか」とだけ返した。
・・・話し込む私達の間に、始業のチャイムが割って入った。
この音だけは、何度聞いても慣れない。
無駄に甲高く、そして脳髄にまで響くような音。
私は、それを合図にするようにパソコンの電源を付けた。
「ねぇ。」
叶の声だ。
始業時間は私語は禁止、部長に怒られるのに。
私は、目立たぬよう「何?」という表情を彼女に向ける。
「夢は、終わらないよ、きっと。」
そう言った叶の顔が、どこか私の不安を駆り立てた。


一日の業務も終わり、私は帰路に着いた。
まだ春の半ばだというのに、風の無い道には、夏を思わせる熱く湿った空気が澱んでいる。
「・・・こんな風景、どこかで見たな。」
私は記憶を辿るが、どこで見たか思い出せない。
気持ちが悪い。
この嫌悪感、どこかで感じた事がある気がする。
まだ履き慣れないヒールを脱ぎ、自分の部屋へ向かう。
何故だろう、これもどこかで見た。
窮屈なスーツから、ラフな部屋着に着替える。
灰色の、いわゆるスウェットというモノだ。
あれ?昨日洗濯したはずなのに。
何だろうか、この感じは。
今の私がしている事は、日常なのに非日常に感じてしまっている。
良いや、このまま寝てしまえ。
滑り込むように入ったベッドが心地良い。
ひんやりと冷たいが、安堵感を与えてくれる。
さっきまであった嫌悪感が消え、代わりに睡魔がやって来た。
瞼が重い。
私は、まさに魔の誘いに負けて意識を手放してしまった。



ーーーどこだろう・・・此処は。
また、あの夢の中?
そうに違いない、ほら、遠くで水面が揺れている。
何度見ても綺麗。
蒼く澄んだ世界に、柔らかく射す光のカーテン。
これだけなら、何度見たって私は飽きたりしないだろう。
光達は、やがて私をゆっくりと包み込んでいく。
暖かい。
“ほら、こっちだよ”
光達が手を差し伸べてくる。
私は、その手を掴む事が出来た。
気持ちが良い。
私の後ろに迫って来ていた闇が、名残惜しそうに遠ざかって行くのが見えた。
何も変わらなかった夢が、今変わった。
ずっと見てきた世界から、知らない世界に行くんだ。
私はなんだか嬉しくなった。
叶、夢が終わったよ。
終わらない夢なんて無いんだ。
明日、叶に話したらきっと驚くだろうなぁ。
水面が近い。
あんなに遠かった水面が、すぐ其処にある。
手を差し伸べてくれた光達に感謝をしないと。
“いらっしゃい、向こう側へ”
水面から出た瞬間、私の身体は激しい光に包まれた。
目も開けていられないほどの光に、私は不思議と解放感さえ感じていた。










とある病室で、規則的に音を奏でていた心電図が、無駄に甲高く脳髄に響く音を残して消えた。
彼女の手書きのノートに、書かれていたのはたった一言。

「夢は叶う。」



《 終わらぬ夢 了 》



すぅ
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