Mistery Circle

2017-08

《 印牢 》 - 2012.05.01 Tue

二作目 《 印牢 》

著者:すぅ





「俺はなぜここにいる?」
プールの底に身を沈め、眩しい水面を仰ぎながら松岡悠斗は独りごちた。
吐き出した息が、大きさを増しながら水面へ登っていく。
登って行く泡を見届けてから、一度目を閉じ、水面を目指し、勢いよく飛び出した。
ブルブルと大きく頭を振り、空を見上ると強い日差しが眩しい。
けれども水面をわたる風に、悠斗は身体をすくめた。
「流石に、5月にプールは寒いか。」
彼は、ゆっくりプールからあがり、大きなタオルを肩にかけて部屋へと戻って行った。

「しかし、豪勢な造りだよな。ここは。」
部屋に戻って、シャワーを浴び、スーツに着替える。
「そろそろ女王様のお帰りだ。」
悠斗は、鏡を見てネクタイをもう一度見直した。

しばらく待つと、ドアの開く音が響いた。
悠斗は急いで玄関に向かい、「女王様」を迎えた。
「お帰りなさいませ。冷湖様。」
「ただいま、悠斗。」
そう言うと、女王様は彼に抱きつき、キスをした。
「1時間したら夕食よ。」そう言い残し彼女は部屋に消えた。

女王様。彼女の名前は青樹冷湖。年齢不詳。経歴は謎である。美のカリスマとか、現代のミューズなどと言われる有名な美容研究家であり、彼女の経営する「ブルー・レイク」グループは、総合美容系の中では最大手である。
そんな彼女が、プライベートともいえる旅行の同行に悠斗を指名したのだ。
「冷湖の矢」と呼ばれるその会議は、数か月に一度開かれる。
その会議は、約200人の男性社員をランダムに集め、冷湖の旅行の同行者が選ばれるというものなのだ。そして、今回選ばれたのが悠斗だった。
選び方は、至極簡単であり、かつ厳しいものである。
200人の男が待つ会場に、彼女が入ってくると、会場は水を打ったような静けさになる。
そして、彼女が会場をゆっくり一瞥し、おもむろに指名をする。「そこのアナタ。」
彼女がじっと見つめたその一人が、その時の同行の相手に選ばれるのだ。
200人の中に選ばれた時、悠斗は入社式での冷湖の言葉を思い出していた。
「ブルー・レイクグループへようこそ。今日から貴方達は、私たちのファミリーです。これからは、何事もチームとして一緒に頑張りましょう。」そう言って微笑む冷湖は本当に現代のミューズのようだった。

「しかし・・なぜ俺が選ばれた?」
食事の時間になるのを、部屋のベッドで時間をつぶしながら悠斗は考えた。
そして、自分が指名された時の他の男たちの反応を思い出していた。
羨望の眼差しや、同情ともとれる眼差しが向けられていたように感じた。
集まった男たちの中には、いわゆる重役もいた。悠斗のようなまだ役職の無いものも多かった。
悠斗は会社に入って3年目、やっと重役の顔を覚えかけた程度である。
いくら考えてもわからないので、考えるのをやめ、起き上がって、窓から外を眺めた。
綺麗な海岸がひろがり、夕日が沈んでいくのが見える。
「俺は、何のためにここに呼ばれた?」やはり考えることはそればかりだった。

夕食のあと、彼は冷湖の部屋に呼ばれた。やはり、という予感めいたものがあった。
部屋の前に来ると、中から冷湖の呼ぶ声がする。
「開いてるわ、入ってきて。」
部屋にはいると、水飛沫の音が聞こえる。
声のするほうに行ってみると、開け放たれた大きなバスルームが見えた。
「どぉ?このバスタブ。馬よ。金なの。」
馬を模った金色のバスタブから足を出した格好で、冷湖が楽しそうに叫ぶ。
「こっちに来てよ。」
何も言えずにおずおずとそばに行くと、ネクタイを掴まれて、バスタブに引き込まれた。
ずぶ濡れになったスーツを脱がされ、そのままバスタブからベッドに女王様を運ぶ。
今更なのだが、彼女はいったいいくつなのだろう。もうかなりの年齢なはずなのだが、見事なプロポーションだ。
冷湖は自分にとっては雲の上の存在だ。特別な感情など抱けるはずもないはずなのだが、こうして求められると、身体が対応してしまうのだった。
やっぱり俺はそのために呼ばれたのか・・・と。
その時はそう思っていた。


悠斗は昨日のことを思い出していた。
この冷湖の別荘に向かう時、運転は冷湖自らがしていた。
てっきりドライバーとして呼ばれたと思っていた悠斗はちょっとがっかりした。
実は、冷湖の車を運転してみたかったのだ。今日の車はアストンマーチン。彼女の運転や
景色を見ていたはずだったのだが、いつの間にか俺は眠ってしまったらしい。
目を覚ました時は、すでに別荘の敷地内だった。
海が近いことと、暖かいことしかわからない。
「ここはいったいどこなんだ。」

別荘に来たというのに、冷湖は別荘に着くなり出かけてしまった。
その間悠斗は別荘で留守番だ。
別荘には、数人の使用人がいるのだが、誰に話しかけても用事はこなしてくれるが、話をしてくれる者はいない。
悠斗は庭に出て、海岸へ降りる道があることに気づいた。海岸からの景色からここがどこなのかわかるかも知れないと思い、海岸へ出てみることにした。
海岸は綺麗な砂浜で、何か場所を特定できるような景色はなかった。ただ、少し離れた海に突き出した崖の上に、古い洋館のようなものが建っているのが気になった。

そして今日、悠斗が目を覚ました時には、冷湖はもう出かけていた。
身体が酷くだるく、頭痛がする。昨日のことを思い出し、無理もないなと思った。
「朝はゆっくり寝ていていいからね。」昨夜冷湖はそう囁いていた。
「車は使っていいわ。」と言われていたので、悠斗はガレージに向かった。
別荘のガレージには、数台の車があり、悠斗にとって魅力的な物ばかりだった。
その中のアルファロメオを選び、崖の洋館まで行ってみることにした。
洋館の前についてみると、大きな鉄の門があり、中の建物までは少し距離があった。
「誰も住んでいないのかな・・。」人の気配はしなかった。

しばらく門の前に車を止めていたが、人の気配がないようなので引き返すことにした。
門を離れ、少し車を走らせてから、もう一度洋館を振り返ると窓から外を見ている少女がいることに気付いた。
少女は、しばらく海を見つめると、窓を閉め、カーテンを引いた。
悠斗が自分を見ていることには気がついていないようだった。

別荘に帰って来てからも、悠斗は洋館で見た少女のことが気になっていた。
そして、明日またあそこへ行こうとそう決めていた。

そして次の日、冷湖は出かける気配がなかった。
崖の上の洋館が気になるが、冷湖を差し置き、出かけるわけにもいかない。しかし洋館への興味は募る。落ち着かない悠斗の様子を冷湖は察したらしい。
「今日は何だか落ち着かないのね。私がいるとお邪魔かしら?」
「いえ・・。そんなことは・・・。」口ごもる悠斗。
「まだこの別荘のことはよく知らないわよね?しばらく滞在するのだから、いろいろ見ておくといいわ。」
そう言い残し、冷湖は部屋に籠ってしまった。

しかたなく、悠斗は別荘を見て回ることにした。
建物の奥、海側に面した場所に、一番高く塔のような場所があった。まるで見張り台のようだなと、悠斗は思った。
その窓から海を眺めると、視界の端にあの洋館が見える。まるで、その洋館を見張るかのように双眼鏡が置いてある。悠斗はそれを覗き込み、息を飲んだ。
「あの窓だ・・。そしてあの少女がいる。」
双眼鏡の中で、その少女がこちらを見つめ、微笑んだような気がして悠斗はどきりとした。
食い入るように双眼鏡を覗いていると、洋館から海の中へと続く道があることに気付いた。
良く見ると、道の先にあったものは海の中に浮かぶような小島であった。小島というよりは岩といったほうがいいかもしれない。
「ずいぶん熱心に何をみているのかしら?」不意に声をかけられ、悠斗は危うく双眼鏡を落としそうになった。
「あ・・いえ・・あの・・。この先の崖の上の洋館を見ていたんです。」
冷湖に隠しだてしても無駄な気がした悠斗は、正直にそう話した。
「あら、そうなの。この別荘が建つ前からあそこにあるわ。」冷湖の反応があっさりとしていたので、ほっとした悠斗だった。
「そうね・・。明日一緒に行ってみる?古い知り合いなの。」思わぬ冷湖の申し出に驚く悠斗だったが、行ってみたいという欲求には勝てなかった。
「はい・・。できましたら・・・。」溢れる期待を抑えながら、悠斗はそう答えた。
「じゃあ、明日の打ち合わせをしなくちゃね。」冷湖は嫣然と微笑んだ。

目覚めると、身体が酷くだるい。頭痛もする。冷湖と夜をともにした次の朝は、そうなるようだ。洋館へ行くのを楽しみにしていた悠斗だったが、なかなか支度が進まない。
冷湖の運転する車で洋館についた頃、やっと身体が起きてきた。
重たい音をたて、鉄の門が開き、車は建物へと進む。まだ春の半ばだというのに、風のない道には、夏を思わせる熱く湿った空気がよどんでいる。
ほどなくして洋館の玄関が見えてきた。

呼び鈴を押して、しばらくすると玄関の扉が開き、初老の男が現れた。和服のような変わった衣装を着ている。例えていうなら司祭のようと言うべきだろうか。
応接室に通されたところで、冷湖が悠斗に話しかけた。
「この方はカナウ様、この館の管理をされているの。」
「はじめまして、松岡悠斗です。今回は冷湖様に同行させていただいています。宜しくお願いします。」そう挨拶をした。
「ここには、あまりお客様が来ないものでね。まぁゆっくりしていきなさい。」そういうカナウの言葉に、悠斗は尋ねる。
「あの・・。つかぬことをお聞きしますが、この館には他にも人がいるんですか?」
カナウが一瞬怪訝そうな顔をしたことに、内心しまったと思った悠斗だったが、カナウは微笑み、こう言った。
「ええ、館に住み込みの者がいますよ。あとで紹介しましょう。」

ゲストルームに通されたが、冷湖はすぐに出て行った。どうやらカナウと話をしているらしい。一人残された悠斗だったが、やはりあの少女のことが気になった。カナウという館の主人も、使用人がいると言っていた。
悠斗は部屋から出て、館の中を歩き始めた。あの日見た窓はどの辺だろうと、頭の中で館の地図を組み立て、そこを目指した。
曲がりくねった廊下を急ぎ足で進むとドアを開けて出てきた少女と出くわした。素肌に薄いヴェールのような生地でできた服をはおっただけである。少女は驚きと恥じらいの表情で悠斗を見つめた。悠斗も目のやり場に困ったが、思い切って口を開いた。
「ねぇ君、もしかしてこの前、窓から外を見ていた?」
その言葉に、少女は驚いたように目を見開くと、かぶりを振って逃げるように駆け出した。
悠斗は茫然とその後ろ姿を見送るだけだったが、自分の見たものが幻ではなかった事が嬉しかった。

部屋に戻っても、冷湖はまだ戻ってきていなかったことに、悠斗はほっとした。
しばらくさっきの少女のことを考えていると、部屋のドアがノックされ、「応接室に、お食事の用意ができました」と女の声がした。
ドアを開けると、もう誰もいない。さっき部屋に来た道を思い出しながら応接室に向かう。何箇所かの違うドアを開けたが、応接室にたどりつくと、そこにはもうカナウと冷湖が待っていた。
「そこの席にかけて。」冷湖に促され、席につく。
食事を運んできたのは、3人の少女だった。皆同じ、あの衣装を着ていた。
少女たちは無言で、給仕を続ける。カナウも冷湖も無言のままである。デザートとコーヒーが運ばれてきたとき、カナウは初めて口を開いた。
「これがうちの使用人だ。ほかにあと一人。全部で使用人は4人だ。」
娘たちは黙って頭を下げる。
カナウは手で娘たちに下がるように指図をし、部屋から出たことを確認してから、話始めた。
「あの服装が気になるかね?」
心の中を見透かされたようで、悠斗は頷くだけだった。

食事の後、悠斗は眩暈と眠気に襲われ、部屋に戻ってすぐにベッドに倒れこんだ。そばに冷湖がいたような気がしたが、すぐに意識はなくなった。
悠斗が目を覚ましたのは、日が暮れかかった頃だった。身体がだるく、酷い頭痛がする。
いつの間に服を脱いだのかも記憶がない。
頭を振って服を着こむと部屋を出る。応接室を避けて、館を歩いていると夕日の射す窓辺にあの少女が佇んでいた。
「ねぇ・・。君・・。」声をかけた悠斗を振りむいた少女は驚いて駆け出そうとする。
その腕を掴んで引き寄せる。細くて華奢な腕は、酷く冷たい。
「君たちはいつからここで働いているの?」そう聞く悠斗に少女は、かぶりを振るばかりだった。
「話ができないの?」何度もいろいろと問いかける悠斗に、少女はか細い声で答えた。
「外から来た方とお話しすると、カナウ様に叱られます・・。」
「話すなって言われてるの?」
「私たちはまだ、完全じゃないから・・・。」そう言って少女は逃げるように駆け出した。
少女の後ろ姿を見送りながら、悠斗は少女の肌の感触を思い出していた。


別荘に帰ってからも、悠斗は少女のことが気になっていた。何て純粋なんだろう、あの少女は・・・。考えようとしなくても、少女のことを考えてしまう。
この別荘での毎夜のことを考え悠斗は「俺は汚れているな。」と呟き、所詮無理な願望だと淡い思いを心の中に押し込んだ。
それでもやはり館のことが気になる。塔の部屋から持ち出した双眼鏡で、館の方角を見る。悠斗の部屋からも、館の一部と海の中の岩が見えることに気付いた。
ふと、双眼鏡御の視界の中を白いものが動いた。目を凝らし双眼鏡を覗くと、あの少女なのだろうか?白い服を着た人らしき影が、海の中の岩に入って行く。一人・・。また一人。
日が暮れかかり、それ以上見ることは叶わなかったが、悠斗の好奇心はさらに増していった。

その次の日、やはり冷湖は朝から出かけていた。悠斗はゆっくり双眼鏡で館と岩を観察していた。
そしてその日も誰かが岩に入って行くのが見えた。
「祠でもあるのかな?」少女たちの衣装が巫女のようだったのを思い出し、悠斗はそう呟いた。
その日は早く帰って来た冷湖に悠斗は用事を頼まれた。
「この荷物を館のカナウ様に届けてきてほしいの。それから向こうからもこちらに荷物があるから、貰って来て頂戴ね。」
 
ガレージの中からフィアットを選び、悠斗は館へ向かった。使用人らしい中年の女性に荷物を渡すと、待つように言われた。部屋の窓のから、小島のような岩に少女が向かうのが見えた。
しばらく待っても誰もくる気配が無い。悠斗は静かに部屋のドアを開けると、海の中の小島に向かって歩き出した。
館の裏手の細い階段を下りると岩だらけの海岸に出る。その少し先にその小島はあった。
岩が天然の洞窟を作っているようだ。音をたてないように気をつけながら、悠斗は中へと進んだ。
少女たちの白い衣装が見えた。蝋燭のあかりが灯ったところは祭壇のようだ。祭壇のわきに衣装が束ねられ、少女たちは何も着ていなかった。少女たちは皆右の背中に貝殻の形のような痣があった。刺青なのだろうか?
祭壇の上には白い人形のようなものが横たわっている。
「人か?」
少女たちは、手に持っている何かにナイフを突き立て、祭壇の上に掲げた。青い色の液体が祭壇の上の白いものを染めて行く。
「持っているものは・・・。魚か?トカゲか何かか?」
そして少女たちは、祭壇を取り捲き、その人らしきものの腹の部分に顔を埋めた。
「何をしているんだ?」そう思ったとたん悠斗は息を飲んだ。
「食べている・・・。喰っているんだ。死体を・・・。」
悠斗の足が震えた。それでも目が離せない。音をたてないように必死に戻ろうとしたと岩影を離れた時だった。少女のお一人が、顔だけをこちらに向けた。あり得ない角度だった。
声にならない叫び声をあげると、少女たちは一斉に悠斗の方を振り向いた。振り向いたその口そのは真っ赤に染まっていた。
そして、腹部に穴を開けたもう一人の少女もこちらを見ていた。

無我夢中で悠斗は館に戻った。どこをどう戻って来たのかわからない。肩で息をしているところに、カナウが現れた。
「荷物は受け取った。これを冷湖君に渡してくれ。」にっこりと笑ってカナウがそう言った。
「はい。確かに・・。」やっとの思いで返事をすると、悠斗は逃げるように別荘へ帰った。


「冷湖様。荷物は確かに渡して参りました。こちらが受け取って来たものです。」必死に気持ちを落ち着けながら悠斗は話した。
「そう。御苦労さま。」
冷湖に館での話をしたかったのだが、どう話していいかわからない。部屋に戻っても落ち着かない。話そうか話すまいか・・・。


食事が終わったら冷湖と二人きりになる。その時に話したら信じてもらえるだろうか?
食事中も悠斗はそのことばかり考えていた。
食事が終わるころ、冷湖が悠斗にこう言った。
「明日帰るわ。今夜はプールで楽しみましょ。」

プールサイドに来ると、花柄の水着の上にパーカーをはおった冷湖がいた。
水着になっても冷湖は見事なプロポーションだった。

カクテルとフルーツが置かれているプールサイドのテーブルから、冷湖がにっこりと微笑みながらカクテルのグラスを渡した。悠斗は一気にグラスをあおり、ライトに光る暗い水面を見る。
何杯目かのカクテルを飲みほした後、
「あの・・・。信じてもらえないかもしれないのですが・・・。」そう悠斗は切り出した。
「あら、何かしら?」真顔で冷湖が悠斗を覗きこむ。
「今日、あの館に行った時のことなんですが・・・。」
「俺・・。見たんです。」
「見たって、何を?」
「あ、あの館の下に海の中に島みたいのがあって、その中に祠があって・・・。」
冷湖は黙って聞いている。
「そこの中で、あの館の少女たちが、死体みたいなのに動物みたいな血をかけて・・。その血の色が青くて・・。背中にみんな痣があって・・・。それから・・・・、その死体のお腹のあたりを食べていたんだ。俺が見ていたのに気がついたみたいで、こっちを一斉に見たんだ。口の周りには血がべったり付いていて・・・。それから、死体も起き上がってこっちを見たんだ。俺夢中で逃げて来たんだけど・・・。夢だったのかなって。」
「そう・・・。」と静かに言って冷湖は微笑んだ。
「信じてくれないよな・・。でも俺見たんだ。見たんだよ!!あの館の女の子たちは死体を喰っていたんだ!!喰われていた死体も生きていたんだ!!」悠斗の声は叫びに近くなった。
「・・・じる。」「・・?」「信じるわ。悠斗。」冷湖の声は冷静だった。
「本当に?俺が見たものは夢や幻じゃなかったんだよな?」
「ええ、信じるわ。・・・・忘れる訳無いもの。」
「忘れる訳が無い?って?」
「覚えているわ。水の底に沈む感触。身体にかかる青い血の冷たさ。祭壇の岩の感触。そして内臓を貪られる感触。・・・もちろん貪る感触も・・・・ね。」
「それって・・・・?」
「彼女たちの痣ってこれと同じだった?」そう言って冷湖はパーカーを脱ぎ背中を見せた。
「そ・・その痣は・・・。」
悠斗の眼が恐怖で見開かれた。
「そう、私も彼女たちと同じ。私たちはあそこで生まれ、完全なモノになるまであの館で過ごすのよ。そして完全なモノになった時に、カナウ様から名前をいただくの。水にちなんだ名前をね。」
逃げ出そうとしても足がすくんで動かない。冷湖から離れるようにじりじりと後ずさりする背後に水の音がした。
後ろを振り返ると、館の少女たちがプールの淵から上がろうとしていた。恐怖のあまり声が出ない。少女たちの細い腕が悠斗の足を捉え、水の中に引きずり込んだ。
水の中でもがいても少女たちの力は驚くほど強く、悠斗にはなす術もなかった。薄れゆく意識の中で、「怖がることは無い。貴方はこちら側に来るとそう思っていたわ。」冷たく響く冷湖の声が聞こえていた。


数ヵ月後、悠斗は、重役会議のメンバーの一員として仕事をこなしていた。
「悠斗、やっぱり貴方は有能ね。私の目に狂いは無かったわ。ファミリーの一員とし期待しているわ。」耳元で冷湖がそう囁いた。
「はい。勿論です冷湖様。」

今日は久しぶりの選抜会合の日である。今回の「冷湖の矢」は誰に当たるのだろう。でもそんなことは悠斗には取るに足りない事だ。なぜなら、悠斗の目はもう冷湖しか見えていないからだ。会社の為に、いや、冷湖の為には我が身を投げ打ってでも尽くす覚悟はできている。それが自分の使命であり、幸せなのだと悠斗は感じていた。


さて・・・、あなたの周りに、「この女性はいくつなんだろう?」と思える人はいませんか?
そして、もしかしたら、その人の背中には、貝殻の形の痣がありませんか?
・・・・・でもそれを確かめることは、やめておいたほうがいいかもしれません。



《 印牢 了 》



【 あとがき 】
こんにちは、すぅです。

今回のお題は手強かったぁ・・・。
テーマとしては、「水面に映るモノ」。
良ければ皆さんも、水面を覗いて見てください。
きっと、何か見えると思います。
えっ?何故かって?
お風呂で水面をボーっと見てたら思い付いたお話だからですっ。

あ・・寝たりしてませんよ。決して・・・。
お風呂に沈んで思いついた訳じゃないですからねっ・・。(汗


すぅ
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