Mistery Circle

2017-09

《 白の旅路 》 - 2012.03.01 Thu

《 白の旅路 》

 著者:夏海





日中であるにも関わらず、薄暗い曇り空が広がる下。
すっかり葉の落ちた木々に囲まれて、曲がりくねった道が伸びています。

その道を、母親と少女が並んで歩いていました。

とても静かで、聞こえてくる音といえば、やわらかな土を踏む音と、たまに遠くから鳥の声が聞こえるくらいです。
息をすれば、清々しい、しんとした空気と、湿っぽい土と木々の香りを感じます。


親子は、防寒具で身をくるんでおりましたが、手袋をしていても、指が、じんじんと痛むほど冷えてきます。
ぷっくりとした少女の頬は、寒さのためか、少し紅く染まっていました。

「風が冷たくて寒いねえ、お母さん。
息が白いよ、ほら。」

少女は、横目で母親を見上げながら、はぁっと息をはいてみせました。
白い息が、もくもくと現れては、消えていきます。

「そうね、冬だからねえ。」

母親は、白い息に夢中になっている娘を、ちらと見て、くす、と笑うと、目線を前に戻しました。

「おばあちゃんち、遠いねえ。」
少女は、話す度に、白い息を目で追っています。

「そうね、おばあちゃんは変わり者だから。
誰も住まないようなところで、1人で住んでいるのよ。
あそこへ行くのは、あなたは、これが初めてだものね。」

「うん。
おばあちゃん、みかん、喜んでくれるかな。」

母親と少女が、手に持つかごには、みかんが沢山入っていました。

「おばあちゃんは、みかんが大好きだから、きっと喜ぶわ。
着いたら、みんなで一緒に食べましょうね。」

母親は、少女に笑いかけました。

「うん!」

2人は、顔を見合せて笑いました。



同じような景色の中を、しばらく歩いていると、木々の隙間から、古いログハウスのような建物が見えてきました。

「あそこよ。」

母親が指さして言いました。


近づいてみると、玄関のそばには、沢山の植木鉢が無造作に置いてありました。
草が生えているものや、何も入っていないものもあります。


ドアをノックして、呼び掛けてみましたが、誰も出てきません。

「どうしたのかしら。」

母親は心配そうな顔をして、外れそうなほど歪んでしまっているドアノブに手をかけました。
すると、ドアは軋む音をたてながら、簡単に開いてしまいました。

部屋を見渡しながら、「いないの?」と声をかけてみましたが、ひとけはありません。

あるのは、ただ使い古された家具類に年期の入った雑貨。
どれも、母親が子どもだった頃からある見慣れたものばかりです。

かわいいクッキーを、一緒に作ったトースター。
大きなハンバーグを作ってもらったフライパン。
勝手に食べて叱られたこともあった煮物が入っていたお鍋。
いつも使ってくれていた、プレゼントしたコップ。
何度も悪戯した鏡台に、読み方を教えてくれた時計、臍の緒がしまってあるタンス・・・。

とても片付いている部屋とは言い難いし、飾り気もないけれど、温もりを感じます。


そのときです。
ふと、目の前に、ぽっと、光るものが現れました。
そして、その光は、ホタルのように、親子のまわりを、ふわふわと漂いはじめます。

「何かしら?」

母親は、怪訝な顔をして、光を目で追い、少女は、光をつかもうとして、手を伸ばしました。
少女の指先が、光に触れると…

「あったかい…。」
少女は、目を細めます。

すると、どこからともなく声がしました。

「きみたちは、おばあさんのおともだち?」

母親と少女は驚いて、お互い顔を合わせたり、辺りを警戒したりしました。
しかし他に人影もなく、あるのは、目の前に揺らめく光だけ。

「まさか、この光が、しゃべった…?!」

2人の驚きなど、気にもかけず、光は、声を発し続けます。

「おばあさんなら、はじまりの場所へ向かったよ。」

光を強めながら。
弱めながら。

「はじまりの場所?」

少女は、母親に目をやりますが、彼女もわからないようでした。

「はじまりは、おわり。
おわりは、はじまり。」

「よくわからないわ。」
母親は、きっぱりとそう言いましたが、光は、相変わらず聞いていない様子で話を続けます。

「おばあさんに会いたい?」

「ええ。
私たち、おばあちゃんに会うために、ここまできたの。」
少女は、光にそう答えました。

「そうか。 それなら連れていってあげる。」
親子は、少し不安そうに目を合わせました。
光は、続けて言います。

「目を瞑ってごらん。
いいよ、と言うまで、目を開けてはいけないよ?」

よくわからないけれど、とりあえず信じてみるしかないので、親子は、手をつないで目を瞑りました。

すると、一瞬、肌に暖かな気流を感じました。



「いいよ。
目を開けて。」



--そっと目を開けると、そこは、白い世界でした。


母親と少女は、放心状態なのか、呆然と立ち尽くしています。

壁も何もなく、ただどこまでも限りなく続く白。
暑くも寒くもなく、風も音も何もありません。


そこに、見覚えのある老女が1人ぽつんと立っていました。


「おばあちゃん!!」

はっとして、少女は、老女に向かって駆けて行きます。


「お前たちは、こっちに来ちゃいけないよ。
お前たちには、まだ早い。」

老女は、優しく穏やかな声で言いました。
短い髪は、すっかり白く、ふくよかな体には、ゆったりとした服を着ています。


「1人で行くの?」
「さみしくない?」

母親と少女は、口々に言いました。

「さみしくないわ。
向こうで、おじいちゃんが待っているし。
ここからすべてが始まるって思ったらすごく幸せ。」

そう言うと、彼女は、バッグからハンカチを取り出し、目の下を押さえました。

「そっか…。
私も、いつか会いに行くと、よろしく伝えてね。」

母親は、そう言って、老女に笑いかけ、抱きつきました。
2人が抱き合うのを、少女は、じっと見つめていました。

その後、老女は少女の方を向き、「大きくなるのよ」と、頭を撫でました。


「ありがとう。」


「こちらこそ。」


「さようなら。」



「さようなら。」


老女は、微笑むと、背を向けました。

そのとき、辺りに光が満ち、母親と少女は眩しくて、目を瞑りました。


「--お母さん!!」



--再び目を開けたとき、そこは元のログハウスでした。

先程、話しかけてきた光は、もう、いなくなっていました。


「おばあちゃん、だいじょうぶかなあ。」


「きっとね。」


「お母さんも、いつかあそこに行くの?」


「うん。
あなたも、いつかは、ね。」


「どうして泣いているの?」


「だいじょうぶ・・・。」



少女は、黙って母親の手を握ります。


しずくが、床に、はたはたと落ち、滲みました。



そのそばには、みかんが転がっています。




すっかり暗くなった部屋の窓から、輝く星が見えました。



《 白の旅路 了 》



【 あとがき 】
毎度やっつけ仕事失礼します・・・。
お題見た当初、違った形のものにする予定でしたが、用意が間に合わず、結局この形になりました^^;
色んなものが足りない私は、早くも書けないので、しばらくお休みいただこうかと思います。
その間、小説に生かせるような何かを得られたら、と思います。


夏海
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