Mistery Circle

2017-05

《 作家のかくしごと 》 - 2012.01.31 Tue

《 作家のかくしごと 》

著者:松永夏馬




「白紙で結構です。見せてください」

 小後藤堅助は担当編集者の顔をまじまじと見つめた。編集者の言葉とは思えなかったからだ。
「何言ってんですか久倉さん、書きますよ書きます、もうここまで出ているんですよ」
 喉の辺りを手で示して、小後藤は半笑いで返す。
「あとちょっと、こう、なんていうかな、ぐわわわーっと湧き上がるものをね、表現しきれたら、これはもう傑作ですよ傑作。もう少し時間をくれれば、ほら、僕のデビュー長編の雄住賞受賞作に匹敵、いや、それを超えるくらいの大傑作が完成し」
 久倉の冷めきった目に気づいて小後藤は口を閉じた。締め切りを延長すること5回、しかも最後は小後藤自ら「この日に取りに来い」と言い切っている。そして「この日」はあと2時間程で終わりを告げる。
「先生」
 先生という敬称に秘められたものは軽蔑。年下の作家に対してそれももはや隠していない。
「傑作はどんな人間にも書ける、という言葉がある」
 久倉祐雅はため息交じりにそんなことを言った。
「永遠の時間さえあれば、言葉を覚えたての子供でさえいつか太宰を超える傑作が書ける。限られた時間でどれだけ完璧な仕事に近づけるかが、プロとアマの差だ」
 作家が編集者の言葉の意味を反芻する間、二人は無言だった。外は今朝から続く土砂降りの雨だが、雨音は二重窓のせいで遠い。低いノイズだけが邸内に響いていた。
 ここは小後藤が仕事場のひとつとして使っている美釧高原のはずれにある別荘である。原稿が進まないと編集社から物理的に距離を取ろうとするのが小後藤の子供のような癖だ。今回も3日ほど前から逃げ込んだ小後藤の為、久倉はこのひどい雨の夜中に車を3時間近く飛ばす羽目になった。横殴りの強い雨でガレージの脇に停めた車から玄関に入るだけでタオルが必要なくらいだ。

「プロ失格だと言うんですか。あれだけ売れたんですよ僕は」
「確かにデビュー作は悪くない。エンターテイメントに特化し、文体は読みやすい。テーマも明確だから万人に受ける内容ではある。しかし、それだけの作品ならどこにでも転がっている。
 小後藤元首相の孫。急逝した大作家九十九龍一の最後の弟子。懇意にしていた放送作家とのメディアミックス。作家にしては整ったテレビ映えする顔立ちに加え、トークもできる。売れる材料は十分だ」
「作品の出来で売れてないって言うんですか」
「それを決めるのはこれからだった」
 小後藤はぐっと言葉を飲んだ。実際問題2作目の長編が締め切りを過ぎてもろくに書けていない。文芸誌に出した短編も特に評価はされず、雑誌に連載しているコラムばかりが話題になるが、小説家の仕事とは言い難い。
「もう少し時間があれば、ホントに」
 久倉は自分の鞄から出したUSBメモリを、小後藤のポロシャツの胸ポケットに差し込んだ。そうして肩を軽く叩き、自分の首にかけていたタオルを返す。
「ここに小後藤堅助の長編2作目が入っています。今日中に読んで自分の作品に仕上げてください」

 一瞬何を言われたのかわからなかった。
 ゴーストに書かせる。つまり自分には売れる半分だけにしか価値しかないということだ。中身はいらない。外枠だけ。見た目。肩書き。
 くらり、と視界が狭まった小後藤は獣じみた怒声とも悲鳴ともとれる声を上げ、目の前の男を思い切り突き飛ばす。そして頭を抱えてしゃがみこんだ。

 しばらくそうしていて、小後藤は気づいた。頭を抱えてた手を解き、おそるおそるそちらに目をやる。
 厚手の絨毯の上。アンティークの丈夫そうな飴色のローテーブルとソファの隙間。隙間にはまり込むような形で右を向いて倒れたままの久倉編集の開かれた瞳。小後藤は座り込んだそのままの姿勢で息を呑んだ。

 久倉の体におそるおそる触れた小後藤は、小さくゆすってみせた。
「嘘だろ」
 死んでいる。突き飛ばされた拍子にテーブルの角に頭をぶつけて。運が悪かったとしか思えない、右に向かって倒れてくれたらソファの上だったのに。小後藤は額に手を置いて、一人掛けのソファに沈み、深くため息をついた。デビューして2年目。これからのはずだったのに。
「くそッ……どうしたら」
 考える。久倉の死体をどうにかできないものか。
(山中に埋めてしまうか。いや、仕事でここへ来ることになっているのだから)
 ふと町から美釧高原への県道を思い描く。
(雨の急な山道だ、車の運転を誤って事故ってもおかしくない。よし、この線でいけるか)
 細かいことは朝までに考えれば良い、と小後藤は自らを安心させるように言い聞かせた。どうせ時間も時間、しかもこんな嵐の夜に客など来ない。唯一来てもおかしくないのは担当編集くらいなものだ、と皮肉にそう思った。 

 ピン・ポーン。
「へァ!?」

 なので、玄関チャイムが鳴った時、小後藤は飛び上がるほど驚いた。

********************

 玄関の三和土でまんべんなく黒く湿ったコートを来たメガネの男がペコリと頭を下げた。濡れてペタリとした前髪からも雫が垂れる。雷は収まったようだが、外は依然土砂降りだ。
「こんな時間にすいません、電話を貸していただけないでしょうか」
 寒さで少し震える声もどこか平坦で抑揚が無く、全てにおいて特徴に乏しい地味な顔立ちの男だった。年齢も小後藤と同じくらいか、いくらか下か、黒髪に白髪が目立つので思いのほか年上なのかもしれないが、いかんせん判別が難しい。
 玄関に鍵をかけていなかったので、小後藤がうろたえていた3度のチャイムの後に玄関に入られてしまっていた。室内の灯りがついているので居留守を使うわけにもいかない。
 美釧高原のホテルで友人の結婚式に出席したその帰り道、運転中にハンドルを取られ側溝に脱輪してしまったという。JAFを呼ぼうとしたもののケータイが繋がらないのだと彼は言った。このエリアは微弱ながらケータイの電波も届くはずだが、荒天の為かうまくいかないようだ。
「それは、災難でしたね、ええと……」
「マユズミといいます。……あれ?」
「な、何か!?」
 黛と名乗った男はメガネの奥の細い目で小後藤をまじまじと見つめた。人を殺したばかりの小後藤は必要以上にうろたえてしまう。
「もしかして、小説家の小後藤堅助先生じゃないですか?」
 ギクリとして小後藤はあごを引いた。メディアに出て顔を売ったことで声をかけられることもあるが、よりによってこんな時に。一瞬迷うも、自分の別荘にいて他人と偽るのも不自然だ。とりあえず頷く。しかし相手に自分の素性を知られ印象を強く持たれてしまったことも不安だ。そしてますます追い返しづらい。この状態で電話を貸さないわけにはいかない気がしてきた。なにせこの辺りで民家があるのはまだまだ先だ。
「ええ、よく、ご存知で」
「雄住賞受賞の、映画にもなった」
「そうです」
「小説持ってます」
「それはありがとう」
 黛はそこで小さくくしゃみをした。

 小後藤は考える。おとなしそうな男だし、とりあえず電話だけさせて玄関先で待たせておけば十分だろう。
「電話くらいかまいませんが」
 小後藤はそこまで言ってリビングへのドアを横目で見る。固定電話はリビングのサイドボードの上だ。そしてリビングの真ん中には久倉が転がっている。
「ありがとうございます」
 黛は早々と濡れた靴を脱いで、久倉の革靴の横に揃えて並べた。ついでに転がっていた小後藤の靴とサンダルも並べてくれる。見た目に即して几帳面な男らしい。小後藤は久倉の靴に気づいたがもちろん黙っていた。サイズは同じだし、平凡な革靴がひとつあっても別に問題ではないはず。
「……そうだ、お風呂沸いてますから先に入ってきてくださいよ。JAFを待つにしてもそのままじゃ風邪ひいてしまいますよ」
 突然押しかけてそれは申し訳ない、という黛との押し問答の末、強引に小後藤は彼を廊下の先の風呂場へと押し込んだ。なにせ今電話のあるリビングに入れるわけにはいかない。

*******************

「え、本当ですか? はい、じゃぁ……そうなると……ああ、はい、それは大丈夫です。……ええ、わかりました」
 ぼそぼそとした声で電話を終えた黛に、小後藤はソファに腰を下ろしたまま「黛さん」と声をかけた。濡れたコートと礼服は洗面所の室内物干しにぶら下げ、黛は小後藤から借りたスウェットの上下を着ている。下着はさすがに本人のそのままだが。
 そして小後藤の尻の下。ソファの座面の下に備え付けられた収納スペースに、久倉の死体は隠してあった。廊下の奥にある納戸や自分のベッドルームに運ぶことも考えたが、黛が使っている最中の浴室の前を通るのは抵抗があった。キッチン奥の扉から続くガレージに運んでしまおうとも思ったが、ソファの収納は傍目にはわかりにくいし移動も少ないので楽だったのだ。
 電話も終わったのだがら義理は果たせる。後は玄関で待たせておけば良い。そう小後藤は思っていた。
「実は今、次回作の構想を練ってる途中なんですよ。ちょっと集中したいもんで、後は玄関で待っててもらっても……」
「それが困ったことになりまして。どうも」
 わずかに顔を引きつらせる小後藤に気づいていない様子で、黛は続ける。
「県道○2号線、つまりふもとの町からここまでの道で土砂崩れが起きてるそうで、早くても復旧は明日の朝以降になるらしく」
 困ったことになるのは小後藤である。
「なのでもうひとつ、仕事場に電話入れておいても良いでしょうか。こうなると明日ちゃんと出勤できない可能性もありますし」
 つまりこの男は明日の朝、下手をしたらもっと長くここにいるということになる。無意識に毛足の長いソファの座面に手を置く。しかし、小後藤の災難はそれだけでは無かった。再び電話をかけ始めた黛の第一声に目を見開いた。

「あ、もしもし、黛です。捜査2課に繋いでもらっていいですか?」

「ソウサニカ? 捜査2課!? ……警察の、方?」
 かすれた声を漏らした小後藤に顔を向け、黛は小さな目をしばたいた。
「言ってませんでしたっけ」

********************

「ケンケイソウサニカ、マユズミ……」
「ロクロウ、と読みます。黛禄郎巡査です」
 初めて見る本物の警察手帳と本人とを何度も見比べてから、力なく小後藤は手帳を返した。役所の受付にでもいそうな地味な男が刑事とは思いもよらなかった。そしていよいよもって追い詰められた感じがして、小後藤はソファに沈み込んだ。
 問題は自分の尻の下に隠してある死体だ。これをどうすべきか。そしてその処理をこの目の前にいる刑事に気づかれないようしなければならない。刑事にしては痩せた貧相な体つきで、文筆業の自分でも力づくで勝てそうな相手、いっそのことこの刑事も不意をついて……と思いかけて慌てて打ち消す。
「それじゃ」
 黛刑事が居心地悪そうに腰を浮かす。
「先生の執筆の邪魔にならないように玄関で……」
「いやいやいや、それはちょっとその」
 玄関で待てと言ったのは小後藤だったが、扉一枚隔てただけの玄関に朝まで居座られたらこっちが困る。短い時間の中で必死で考えを纏めつつ、誤魔化すようにしてタバコに火をつけた。
「寒くはないとはいえ、朝まで玄関というわけにもいかないでしょう、ええと」
「助かります」
 申し訳なさそうに黛は座りなおす。とりあえず考えを纏める時間が必要だ。適当に取り繕う。
「そうだ、刑事さんのお話を伺っても良いですかね、今後の作品の参考にできるかもしれない」
「ああ、どうでしょうね、まだペーペーですし」
 黛は苦笑する。聞けば昨年まで交番勤務のお巡りさんだったらしい。年齢は小後藤のほうがひとつ若いが、彼は小後藤を先生と呼び、敬語を崩さなかった。
「それにしても作家さんというのは儲かるんですかね。執筆用にこんな別荘があるなんて」
「いやぁ、何事も形から入るタチでね。中古だからそんなに高くも無かったですし。独りもんだからいろいろ自由にはできるんですよ」
「でも、不便じゃないですか?」
「不便ですねぇ。近くのコンビニ行くにも車ですよ」
「そりゃ大変だ。お食事とかは?」
「一通りの材料なんかは買いこんできますが、面倒なんでインスタントが多いですね」
「ああ、ずっとここに住んでいるわけじゃないんですね」
「そりゃもちろんベースの住居は都内にありますよ、編集社に近いほうがいろいろ便利ですし。ただ、こういう場所に引きこもりたくなる時もあるんですよ」
「なるほど、作家さんも大変ですね」
「ははは、むしろここまで原稿を取りに来る編集者が大変だと思いますがね」
 黛は意外そうにほう、と言った。
「ファックスやメールじゃないんですか」
「ああ、原稿のやりとりはそうですね。むしろ尻を叩きにヤツは来ます」
 小後藤は冗談めかしてそう返した。
「今日は誰かいらっしゃいます?」
「え?」
 突然で何を聞かれたのかわからなかった。
「編集者さんとか、お客さんとか」
「え、ええ、そう、ですね」
 目まぐるしく頭の中で考えをまとめ、ゆっくり確認するかのように慎重に答える。
「今日は、誰も。……総文社さんが来る予定でしたけれど、さすがにこの天気だしね、時間も遅いし来ないんじゃないかな」
「じゃぁ今は先生おひとり」
 とりあえず頷く。
「もちろん今は黛さんもいますけれど」
 黛は少しだけ笑顔を見せた。
「トイレ、お借りしてもよろしいですか?」

********************

 黛が席を立った隙に、小後藤はキッチンでティーパックの紅茶を煎れ、ひとつに市販の導眠剤を溶かし込んだ。
 どうでもいいような会話の中で考えていたことは、黛を2階の客室に篭らせることだった。眠り込んでくれれば助かる。市販薬の効果のほどはわからないが、無いよりましだ。そして夜中のうちに久倉の死体を運び出す。
 トイレから戻ってきた黛は出された紅茶にミルクを入れてかき混ぜながら、またぐるりとリビングを見渡す。
「いやぁ、それにしてもいい別荘ですよね、羨ましい」
「こじんまりとしてますけどね」
「何部屋くらいあるんですか?」
 キッチンの奥の扉に気づいて指をさす。
「1階はこのLDKと水周り。ちなみにあの奥はビルドインガレージです。2階には書斎と寝室と客用の部屋がひとつあるだけ。それで十分ですけどね。ああ、そうでした。黛さん今日はお疲れでしょう。2階の客室、そこを使ってください」
「ああ、もうなんでしたらそこのソファでもかまいませんけど」
「いや!」
 つい声が昂ってしまい、小後藤は慌ててタバコに火をつけ深く吸い込んだ。
「……いや、いくらなんでもお客さんにそれはちょっと失礼だ。それに、そう、僕はこの部屋で構想を練るのが常なんでね、むしろ申し訳ないが部屋で静かにしていてくれたほうが助かる」
 都合が良い言葉をさりげなく出せた。これなら部屋から出るなという牽制にもなるだろう。

 黛は小さく息を吐いて顔をあげた。
「先生。最後にひとつ、いいですか?」
「……なんだか僕のことを聞かれてばかりだね」
 小後藤はそう口にして、ふと眉をひそめた。気づけば小後藤を見る細い目が、今までとは少し違う。さっきまでのどちらかといえば柔和な、居眠りをする猫のような目ではない。

「先生、今なら自首できます」
「何を言っているのかな、冗談にもほどがあるよ」
 
 黛はしばらくの間じっと小後藤を見つめ、作家も刑事をじっと見つめ返した。
 獲物を見つけた猫の鋭い目。小動物を甚振るような無邪気で冷たい目。そんな感覚に小後藤は一瞬背筋が冷たくなる。

「きっかけは車なんです」
 黛はそう切り出した。
「車がガレージの外に一台ありました。雨ざらしです。ガレージがあるのなら中に入れれば良いのに出しっぱなしということは、ガレージにはすでに車があることになる。なので、誰か客がいるのだと思いました」
「一人で車を二台所有する人だって少なくはないですよ」
「それから玄関にあった革靴なんですが、少し濡れていました。しかもきっちり揃えて置かれていました。あれは先生の靴じゃないですよね。先生は靴を揃える習慣がなさそうですし、たとえ雨の中出かけるのであればビルドインガレージから直接車に乗れば靴も体も濡れません。濡れても良いからちょっと外の様子を見るという程度ならばサンダルで事足ります。つまり、この別荘には先生以外の誰か、革靴からしておそらく男がいる可能性が高い。そして、それを先生は僕に隠している」
 ミルクティをかき混ぜる手を止めたものの、黛は飲もうとしない。
「紅茶、お嫌いですか?」
「いえ、猫舌なんです。さて、突然迷い込んできた見知らぬ人間、僕に対して先生が隠す必要のある人物とはどのような人物か。先生は有名人ですからスキャンダル的な場合もあるでしょうが、隠れている人物は男性です。もっともそっちの趣味だったほうが隠す必然性は高いですね」
「やめてくれ、僕にそっちの趣味はない」
「ではどこに隠れているか。浴室とトイレ、ついでに覗かせていただいた廊下の納戸は異常なし。そして先ほど先生は二階の客室を勧めてくれました。そして自分はリビングで構想を練るから邪魔をするな、と。となれば隠れているのは一階で、残すところはこのLDKとガレージしかありません。みたところLDKには隠れるところはなさそうですが、はたして恋仲の相手を冷えたガレージに隠すでしょうか。入浴中はそれなりの時間があったわけですから、自分の寝室にでも行かせれば良いだけの話なのに」
「そういう趣味はないと言ってるだろう」
 言い返した小後藤のカップはすでに空っぽだ。それでも喉が張り付いたように声が出にくい。
「ですよね。なので、ここで発想を転換します」
 黛は唇を舐め、メガネのブリッジを左手の中指で直した。
 
「隠れている人物が自分で動けないとしたらどうでしょう。それならば先生が担いで階段を上らなければならないわけです。となれば僕が入浴中に移動させるにも限界はある。自分で動けない、たとえ冷たいガレージに置かれても文句も言えない、そんな状態だとしたら」

 あくまでも想像である。予想である。推論であり机上の空論である。もちろんガレージになんて隠していない。隠してあるのは。

 小後藤堅助はソファから立ち上がった。
「残念だが、それは間違いだ」

 そしてソファの座面を捲った。隠されていた収納スペースが露わになり、その蓋も開ける。
「これは自首として認めてもらえるのかな」
「あとで本にサインください」
 隠し場所に驚いたそぶりも見せず、黛禄郎はそう言って静かに笑った。

********************

 別荘の中は静まりかえっていて、キッチンスペースの冷蔵庫が唸っている音だけが響いていた。天井を高くとったリビングスペースには南側の高い位置に丸く切り取られたような窓がある。作家はリビングの一人掛けのソファに身を沈めぼんやりとその窓の暗闇を見あげていた。
 まるでぽっかりと穴が開いているかのようだ。その先は漆黒の闇。深く黒い異界への入り口。冬の夜明けはまだ少し遠い。
 天気の良い夏の夜なら、あの穴から涼風が入り月光が挿しこむのだろうが、もうこのリビングからそれを見ることはない。



《 作家のかくしごと 了 》



【 あとがき 】
ミステリを書いてみたくて犯行に及んだものの、真夏の砂丘の凍死体にも猫先生の続編にも繋がらなかった模様。
読み直すと穴だらけだが、とりあえず書いてて楽しかったのでプラスマイナスゼロだ。(ゼロか?)

犯人役および死体役のお二方、他意はございません、むしろラブアンドリスペクトです。ていうかすんませんすんません。


『 Missing-Essayist Evolution 』 松永夏馬

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