Mistery Circle

2017-10

《 主婦とナイフと金木犀 》 - 2012.01.31 Tue

《 主婦とナイフと金木犀 》

著者:ココット固いの助




気が狂いそう。深々と胸に刺さった刺が抜けぬまま秋子は今朝もキッチンに立っていた。
いっそ貫いてくれたら血も涙もこれ以上流れないのに。

キッチンの三角コ-ナに捨てられた水切りの網。
1日放置しただけで油や茶殻で変色している。水を含んでふやけた米粒。 
虫の卵に見える。
中から顔を覗かせた骨と皮だけになった金目鯛の干物。
色褪せて水彩画の絵のように滲んで見える。

秋子は包丁を掴んだ姿勢のまま。その場に突っ立っている。
朝温めたカレ-の鍋はまだ湯気を出している。
朝食に夫に出した夕べの残りのカレ-だ。
「夕べの残りものなんか出すなよ」と夫は不服を言ったが秋子は流した。
そんな事は百も承知だ。

夫が何か察したかどうかは分からない。
身支度を整えると朝食には手をつけず出社した。
玄関できっちり文句を言う声だけ耳に届いた。

8時を回ったとこだろうかリビングのつけ放しのテレビの画面から耳ざわりな外国人のカタコトの日本語が流れる
「デイブスペクター」
秋子は忌々しげに呟いた。
無意識のうちに手にしていた包丁。
逆手に持ちかえて顔のあたりまでゆっくりと。
ここは一つ冷静になって考えなくては。
と秋子は刃先を眺めながら思う。
昨夜夫の携帯を見て確信した夫の浮気。
今の私にとって.とてつもなく大きな問題に思える。
琵琶湖の水ぐらい先が霞んで飛び越えられない。
しかし…物事は俯瞰で見るものよ秋子。遠ざかれ。後退るのだ。全力で。心が自分の重さで潰される前に。どんどん遠くまで遠くに行けば.それは地図の中の点のような芥子粒に。頭と記憶を整理せよ.秋子。これは世間的に見れば小さな事象に過ぎない。たかが夫の浮気の一つや二つ。しかし問題は糠味噌だ。糠味噌だけは頭にこびりついて離れない。毎日秋子が欠かさず手を入れてかき回している糠味噌の壺…3年前に喉頭癌が膵臓にまで転移してこの世を去った母。-から譲り受けた糠床。亡くなる前にほとんど喋る事も儘ならない病の床で絞り出すように母が言った「あの糠床あんたに上げる…美味しい漬物…旦那さんに可愛がってもらうのよ…」その言葉と共に脳のシナプスがショ-トして糠床を入れた壺が猛烈な勢いで回転を始める。
母が秋子にくれた糠床を入れる壺の中。きちんと毎日掃除された家。清潔な洗濯物やよく手入れされた庭。毎日の温かい食事。自分と夫がいていつか男の子か女の子…全てが弾き飛ばされて泥まみれになる。人生の幸福はそんなものを追い求め手にしたものたちを慈しみ日々感謝して過す。そんな風にシンプルで良いはずだ。しかし壺は今や出口のない妙な形のクラインの壺になってしまった。
「家庭的な女性が好きだ」とつき合い始めた頃夫は秋子に言った。
友達とか…テレビのバラエティーとか世間では男は浮気する生き物だと定説みたいに繰返す。
「うちの旦那は違う」なんて思い込ませくれるような夫じゃなかったが。
秋子の夫の母は料理をまったく作らない人だったらしい。
夫は小さい頃からス-パ-の惣菜を与えられて育った。
ネグレクトではない。夫の母はそれがご馳走だと思って子供に与えていた。
夫の家に挨拶に行った時も随分形の整ったコロッケが食卓に並んだ。秋子は結婚したら夫に手料理を食べさせてあげるために料理教室にも通い母にも料理を習った。
結婚して1日目の夕食にコロッケを揚げた。
夫は「うまい」と言った。が秋子が「お惣菜のコロッケより美味しいでしょ」と言うと「そりゃプロには敵わないよ」と言った。 そういう味覚の男だ。
自分で金を稼ぐようになって…(夫は多分サラリーマンとしては高給取りの部類に入るが)
食卓に並ぶと喜ぶのは高級ス-パ-の惣菜や値段が高いと言われる食材をやたら有り難がる。食の貧しい男だった。
秋子の手料理は素朴で栄養のバランスを考えたものだが夫の好みではないようだ。
二年前に秋子と夫は家を購入した。
夫は会社の同期で一番早いと喜んでいたが自慢の家を見せたくて部下を家に呼んだ。

夫が部下を招待するなんて初めての事だった。
秋子ははりきって料理を作るつもりでいた。
夫に手渡された買い物のメモにはファグラだのキャビアだとか書かれているのを見て諦めた。
ファグラなんて小麦粉をつけてフライパンで焼いたのをオ-ブンに放り込むだけだ。
キャビアなんて缶詰めだ。
オ-ドブルなんて何処其処の何と店の指定があるから買ってきて皿に盛るだけ…「楽でいっか」と自分に言い聞かせた。

その週の休日の午後。夫の部下達を自宅で出迎えた。
終始夫は上機嫌で過ごした。
家の間取りや床のクロスの話を部下達は大人しく聞いていた。
箸が止まると料理の説明をしながら夫が勧めた。秋子は料理をかいがいしく運び紹介された部下の名前は一度で覚えた。部下たちに「佐藤さん」とか「木下さん」とか声をかけて酒や飲み物を勧めた。
男性社員3人は皆大人しい落ち着いた印象だったが女性二人はやや個性的だった。
赤江天李と猪腰冬衣。
赤江天李。みんなから.
あめりちゃんと呼ばれているらしい。
職場の華だとか…でなきゃ一体何だという感じだ。
秋子は最初高級なコンパニオンかと思った。
帰国子女。
成る程…旅慣れた外国旅行者のパスポートみたいに色々な国のスタンプじゃなくてブランドを身に張り付けている。
嫌味じゃなくて無邪気に着ているという感じだ。話して見ると性格の良い娘だ。
「この漬物美味しいです~奥様の自家製ですか」
夫は「そんなもの」と嫌な顔をしたが秋子がテ-ブルに置いたキュウリの漬物に目を輝かせている。
「本当に美味しいです。実家にいた時祖母が作ってくれたのと同じ…それより美味しいかも」
隣に座っていた猪腰冬衣という若い女性社員も箸を止めて秋子の漬物を誉めた。秋子はすこぶる気分が良かった。
料理をあらかた出し終えて台所にいると猪腰が空いた皿を持ってやって来た。
猪腰という名字は初めて聞くと秋子が言うと「郡山ではポピュラーです」と語尾を大げさに訛らせて答えた。
楽しい娘だと秋子は思った。
猪腰は洋服も髪も一見地味だが肌の色の白さに驚く。
デザートに出したカシスルージュの上にのっていた赤い食用薔薇…それを指先で摘まんで口元に持って行った時に肌の白さが際立って見えた。
気がつくと秋子だけでなく他の同僚たちも猪腰を見ていた。
冬衣という名前は冬に生まれた娘だから。冬の衣服は温かい。
人を温かくする優しい娘になって欲しいと両親がつけたという。
「ところで天李ちゃんのブラなんだけど」
「はあ天李先輩の」
「さっき料理出す時胸元がちらと」
「開いてますものね」
「ミレ-ジュよね…お洒落だわ」
「私ブランドはちょっと…ブラはユニクロかサティで」
「私も」
秋子は親近感を覚えた。
「ちょっと煙草を吸いに死角に入らせて下さい」
辺りを見回しながら天李が話に入って来た。
「仕事のお話よりも楽しそう…で何のお話ですか~」
天李は秋子から灰皿を受け取ると「失礼して」と換気のスイッチを探し(秋子がスイッチを入れて)「どうぞ」というと軽く会釈して細いメンソールに火をつけた。
「今ね猪腰ちゃんと名前の事とか天李ちゃんのブラの話しとかしてたの」「ガ-ルズト-クです」また猪腰が福島訛りで答えた。頭の良い娘だな。秋子はふとそう思った。
酒の席では結局仕事の話。
そんな男たちを尻目に秋子たち三人は化粧品や結婚の話題で盛り上がった。
お互いのアドレスを交換するのも忘れなかった。

「海音楽と書いて『かいら』と読むんです」
天李には双子の弟がいるらしい。
「私たちは父が中東の支社に出向して後にアメリカ支社の支社長になった時に授かったってママが言ってました。
その翌年湾岸戦争が始まったって」
「それで天李…それで海音楽」秋子はたじろいだ。
「天李先輩のお父様は現在はうちの会社の常務をされていて当社の時期社長最有力です」
「猪腰ちゃんそ-ゆ-のいらない」
「はい。すみません」
「私がパパのコネで入社したって陰口多いんだから」
先程の疑問が解けた気がする.と秋子は思った。
「別に陰口じゃありませんけど先輩が身につけてる物素敵だなぁってミレ-ジュってどこのブランドですか?」
「ああミレ-ジュはフランスのメーカーだけど特にブランドってわけでは…色々試してみてこれが一番しっくり」自分の胸元を覗き込んでいる。
「猪腰ちゃんよく知ってたね」
「いえ奥さんが」
「主人が以前プレゼントしてくれたの…高いから着けないけど」
秋子の顔を見て二人は絶句している
「あれが…」
「課長…やだ…キモイ」
「あの堅物が」
「PJとか好きみたい」ぶっちゃけた。
「PJ!!!」
三人で爆笑した。
会社で夫は面白みの無い堅物のイメージらしい。
「家では課長どんな人ですか」
「まあ大体あんな感じ…学生時代は映研にいたらしいんで今だにカメラとかビデオとか趣味みたいだけど私には触らせてくれないし」
「意外です」
「物語を作る人って言うよりカメラワ-クとか映像に興味があるみたいだけど」
だって夫の話はつまらないし。
「今日は課長の無駄知識を沢山仕入れられた有意義な1日」
「そうですね」
翌日から夫のあだ名はPJになったらしい。
猪腰はしきりに秋子の漬物を誉めるので糠床を分けてやる事にした。
電車で持って帰るのは大変だし匂いもあるので宅配便でと言ったが「自分で…」と大切そうに抱えて帰った。
「お祖母ちゃんが死んでから糠床もダメになっちゃって…漬物出来たら母にも送ってあげます」何度も玄関で頭を下げて礼を言った帰った。あの糠床は今も彼女の家にあるだろうか。
夫の不倫相手はこの猪腰冬衣という女だ。
この後東北大震災が起きた。
猪腰の実家は福島だ。
実家のご両親は震災を逃れただろうか…携帯のアドレスに秋子が連絡を入れる事はおそらく無い。
その機会は永久に失われた。少なくとも友人としては。秋子は思う。何度もしつこいくらい拘るようだが…あの糠床は祖母から母へ母から私へ受け継がれた宝物だ。
夫はあの女の家で漬物を口にしただたろうか?
画面に広がる瓦礫の街。最近あまり報道もされなくなったが。「やはり殺そう」秋子は包丁を逆手に構えて呟いた。
「ダメだな」背後でいきなり声がしたので秋子は驚いて振り向いた。背後に男が立っていた。
「誰」慌てて手に持っていた包丁を男の前に翳す。
見知らぬ喪服姿の男が右手に軍用のファイティングナイフをだらりと提げた格好で立っている。
男は静かに口を開いた。「俺はガングと…仲間からはそう呼ばれている。職業は傭兵をしている。日本人…砥石といいます」
「妖精ですって」
「戦場に妖精などいない」
しばらく沈黙が続いた。
「奥さん…あんたの得物の構えだが」
「ま.いいわ」秋子は手にした包丁をまな板の上に投げ出すと着ているブラウスのボタン外し始めた。
「好きにすればいいわ」
「ちょっと待て」「なによ…どうせ体かお金が目的でしょ」
「違う俺は強盗じゃない」
「ちょっとそこの料理酒取って下さる。亭主に浮気された主婦が包丁で浮気相手ぶっ殺そうって時に…そんなとこ他人に見られて素面でいられるかっての…酒!!」
「いや…その包丁の持ち方なんだが殺るなら逆手はないなと」
「あ?!」
「あ?とは何だ!!あ?とは!?貴様それでも軍人…」 「専業主婦です」
「見れば分かる」
「腹立つな…で何なわけ?あなた人の家に無断で入り込んで人の包丁の持ち方にけちつけて」
「勝手口で声をかけたんだがすまない。奥さん包丁を持ったまま思いつめた顔をしているので…自殺でもするのではと」
「あ」
「勝手に上がり込んだ無礼は詫びる」
「こちらこそ…でなんのご用?兵隊さん」
「大変恐縮だがそちらの鍋にあるカレ-を分けてもらえないだろうかと。外を歩いてる時大変良い匂いがしたので」
「軍人を装ったカレ-強盗」
「失礼な。強盗ではないしれっきとした軍人だ」
「食いっぱぐれの脱走兵」
「…当たらずとも遠からずだ」
「鍋ごと持って行きなさい」
「なんと豪気な…料金は鍋ごと支払う」
「いいよ。どうせ私しか食べないし…それより食べたらちゃんとハローワ-ク行って事情説明して定職を探すのよ」
「待て待て私はホ-ムレスでは…」
「いいから行って…それともあなた台所で女が一人で惨めに泣く姿を見ていたい人」
「すまん」
「それから人の家に上がる時は土足はダメよ。ここは日本なんだから」
「すまん」
「軍人さん謝ってばかりね」
「すまんついでにもう一つ」
「なにかしら」
「福神漬けとライスがあればぜひそちらも」

「糠漬けならあるけど」


結局彼は秋子の家でカレ-を三杯おかわりして食べた。
それをテ-ブルごしに眺めながら秋子は思った。
ずいぶんと好ましい私好みの食べた方をする男だと。
一匙一匙しっかり味わって口に運ぶ。
実に身になりそうな食事の仕方だ。
いいお相撲さんになりそう。
こんな食べ方をする男を秋子は好ましいと思う。
おかしくなりすぎて頭のタコメーターが振り切れたか不思議に安心感を覚える。
「ご馳走様でした」
男は匙を置くと秋子に礼を言った
「うまいカレ-だった。礼をさせてくれ」
「体で払ってもらうわ」
「体って」
「まずナイフの持ち方でしょ」
「ああそっちか」
「人間食べたら働くのよ」
「働くのは好きだ」
秋子と男は立ち上がりキッチンの前に立つ。
「まずナイフは順手でグリップを握る。基本だ。持ってみろ」
そう言って男は秋子に自分のナイフを渡した。
刃渡り25cmのファイティングナイフ。手に持つとさすがにずっしりと重い。
秋子が今まで見たナイフの中で一番刀剣に近い。
「グリップを強く握って振ってみろ」
言われるままに一振りする。空気を切り裂くような鋭い音が静かな朝のキッチンに響いた。
「素直ないい剣筋だ」
「ども」
次突いてみろ。
突く。
「迷いが無い。捨てきった太刀だ…すぐに二の太刀の構えが出来ている。体重移動も重心もぶれていない。よく練られている…一級品だ。よい指導者に恵まれよく鍛練したな」
「祖父は剣術の師範で警視庁で剣術を指南していた人よ。
4歳の時から祖父について剣道を習ったわ…どうする兵隊さん?止めるなら今のうちよ」
「研ぎ澄まされ磨き上げられた完成品を見ると壊したくなる」
男は台所にあったバターナイフを右手に持つと
「お前などこれで充分だ」
陳腐な挑発だ。と秋子は思った。試合ではよくある事だ。
「左手でシンクの下にある引き出しを開けて」
男は素直に従った。
「その中に果物ナイフがあるはずよ。何なら.まな板の上の包丁も使ってもよくってよ」「いいのか?」
「馬鹿ね。切れない刃物じゃ正当防衛が成立しないわ」
男は果物ナイフの刃先を見つめて言った。
「よく研いである…見かけによらず良妻…」
「試合中によそ見するな」
相手が得物を構えて立つなら耳ぐらい削いでやろう。
今日の私はそれぐらいだ。
さっきから注意深く相手の足さばきを見ていたがこのの男のそれは武道経験者とは思えない。
男だというだけであらゆる面で女より優位に立てると思ったら大間違いだ。
一の太刀の構え。間合いを詰める。男のナイフはまだ腰の当たりに所在なく提げられたまま。
間合いを詰めるのと同時に男は左手を上げ顔と胸をガ-ドしつつ身を屈め。
「左手が.がら空きだ」瞬時に左手で秋子の左手首を掴んだ。
「なに」
「左手の関節を取った…ナイフに意識が行き過ぎだ」捻上げられる痛みに声が出そうになるが男は自分から手を…離さない。
「主婦。試合と言ったな…これは試合ではない殺し合いだ」
今度は右手で右手首を捕まれる。
左手が離れる。
あれ…ナイフは何処?
「ナイフはこうやって使う」
秋子の手首を掴んだ掌の中にナイフはあった「このまま手首を極めるのと同時にナイフで関節を破壊する」
「ぎ」
「ぎ?」
「ぎゃあ」
「何するの。怪我する。怪我した手が切れた-血が血が血がああ」
「切れてもいないし血も出てないよ。心が折れたなら止めるか」
「いえ続けるであります」
「貴様本当にやれるのか?」「やれるのであります。夫に裏切られ.さらに見知らぬ男にこうも辱しめや恥辱を受けたまま自分は引き下がる事は出来ないのであります」
「覚悟はよし。いいか今からここにいる男は貴様の上官では無い」
「最初から違うであります」
「返事はイエスとノ-だけだ。この蛆虫ども」
「一人じゃん…いえイエッスサ-」
「貴様の名前は」
「秋子であります」
「フルネ-ムで答えろ」
「離婚するかも知れないので名字は先々微妙…であります」
「ニックネームはあったか」
「ありました」
「なんと呼ばれていた」
「スポブラであります…スポーツばかりで色気が無いので。実際愛用しておりました」
「よしお前はスポブラだ」
「スポブラ私はお前の敵だ。お前の国土や故郷を焼き払い蹂躙し家族や隣人を殺し奪い侵す者だ。微塵の容赦なく殲滅せよ」
「イエス…」
秋子は言い終わる間もなく目の前にあったゴミ箱を男のいる方向に蹴り上げた。
足止めをさせるのと同時に床を蹴り男の間合いに飛び込む。
その際腕を伸ばしてまな板の包丁を掴むと男の顔目掛け投げつけた。
男はスェ-で上体を反らし包丁をよける。
目標をそれた包丁はコンロの横にサランラップを巻いて張り付けてある夫婦の新婚旅行の写真に突き刺さる。
包丁をかわした際にナイフを持った右手は後ろに。
左足が一歩前にでる。狙い通り。これを待っていた。
男の左側に滑り込めばナイフの間合いからさらに遠い。
膝の靭帯かアキレス腱…素手で取りに行くほど愚かではない。
秋子のリ-チは男にもらったファイティングナイフを+して…ナイフで腱を極める。そして捻切る。教えられた通りに。
ああ楽しいな戦闘。
楽しいと自然と笑顔になる。
ついでに舌も出る。上目遣いに男の顔を見上げる。
心なしか顔から余裕が消え強張って見える。
-もう少し。もう少しで刃先が足に届く。 舌打ち。
そして男の足が秋子の右手首を下から蹴り上げた。
ナイフが跳ねて天井に突き刺さる。
-まだまだなの…秋子は痺れる指を拳に固め男の股関に振りおろす。お鍋の蓋でブロックされた。
くそ。なら仕方ない鳩尾で我慢。
肘を鳩尾に…もうナイフなんて食らおうが.どうでもいい。
その時秋子の脹ら脛の上に何かがぽんと乗っかる感触がした。
右足を上げた男の踵が秋子の膝裏に乗っている。
「膝の裏に踵蹴りが入った」
「しまった」
秋子な気の抜けた声をだした。
「奥さんあんたは野良犬だ」
「蛆虫から随分昇格したわ」
脹ら脛の上に乗った足に力が込められる
「あの…ちょっと…」
「どうした?」
「そこ私の性感帯なんですけど」
「…え?!」
「隙あり」
「隙など無い」
膝から崩れ前屈みになった秋子の背後に男が素早くまわりこむ。秋子の首に男の右腕が巻き付く。
頸動脈にナイフの触れるひやりとした感触。
「首を極めナイフをあてた状態で投げを放つ」
「うわ…えぐ…そんなの聞いてない…」
言い終わる前に秋子の体は宙に飛ばされていた。
白い天井が視界に映る。そのまま床に叩きつけられ.はしなかった。
男の逞しい両腕で秋子の体はしっかり抱きとめられた。
「兵隊さん。状況説明をお願いします」
「これか.これは多分役得というものだろう」
床に尻から降ろされる。
即座に男が秋子の腹部を跨いで馬乗りの格好になった。
両手首は男の左手で固定された。
「ちょっと何す…」
秋子は足をバタバタさせ首を振って抵抗したが男の体は岩のように動かない。
「最初に逆手に持ったナイフは攻撃に向かないと言ったな」
男の掌で順手持ちのナイフが反転して逆手に変わる。
「ナイフを逆手に使用する時は相手の動きを止めた状態で」
ナイフの刃先を秋子の胸に当て言った。
「深くえぐり込む際に使用する…以上だ」
「あの…さっきから私のお腹に貴方の固くて熱いものが当たるのですが」
「馬鹿な…股関など押し付けてはいない」
「隙あり」
「隙など無い」
男は立ち上がり秋子に手を差しのべた。
「一人の新兵とこんなに訓練をする事は無い」
秋子は男の手を借りて立ち上がって。
「お茶にしましょう。上官どの」
「研石でいい」背中を向けた男に秋子は言った。
「スカートのポケットから取り出したナイフで男の背中を突きながら。
「バターナイフではチェックメイトならずね。完敗」
その後男はお茶の席で秋子に質問攻めに合う羽目になった。


一問一答

「何故ガングという渾名?」
「かけ出しの傭兵の頃自分の名字砥石を上手く発音出来ず皆「TOY」と呼んだ。TOYはオモチャ…私はそれが嫌だった。オモチャの兵隊なんてすぐ壊れそうで…。ある時皆で休憩している時「TOYは日本語で何と発音する」と聞かれた。俺は嫌な予感がしたのでオモチャでなく「玩具」と答えた。そっちの方が強そうだからな。以来俺はガングだ。オモチャと答えたらおそらくそうなっていた。部隊の仲間は戦場では頼りになる猛者ばかりだが…それ以外の時は中2の放課後だ」
「いつから兵士に?」
「高校卒業後に航空自衛隊空学生教育隊に着隊した。最近は航空学生と言うらしいが山口県防付北基地に学校がある。因みに父もウィング マ-クを着けた戦闘機乗りで代々砥石の家は軍人の家系だ」

「なぜ航空…」

「空自でいいよ」

「その空自のパイロットを辞めて傭兵に」

「航空学生を2年間で無事卒業してから自分は航空自衛隊那覇基地の所属となった。適正検査には心理テストや航空身体検査等色々あるが.それもパスして念願のF15戦闘機のパイロットになる事が出来た。2年後には3等空尉から2等尉になる事も出来た。昇進は早い方だったと思う。しかし自分は階級よりも早く編隊を任される編隊長になりたかった」

「どうしてそれがお金で他国に雇われる傭兵になんて」

「君の傭兵に関する認識は万国共通だ。それは正しいし否定はしない。俺は金で雇われ他国の戦争に介入する戦闘員だ。空自を辞めるきっかけになったのは血管炎と言う目の疾患が原因だ」

「今は白内障とかでもレ-シック手術とか医療技術が進歩していると聞いたけど」

「過去にレ-シックを受けたというだけで空自のパイロットにはなれないよ。受験資格さえ与えられない」

「厳しい世界ね」
「だから皆そこを目指す」
「無学な俺は血管炎と聞いて.それこそ物もらいとか何とか軽く考えていた。心の隅で白内障や緑内障を怖れる気持ちはあったが…まさかパイロットの資格を剥奪されるとは。俺の左の目に発症した血管炎は現在も治療方法が見つからない。寛解…つまり見えたり見えなくなったり寿命が近い白熱灯のフィラメントのように明滅を繰り返しやがて失明に至る。そんな病気だ」
「隊に残る選択肢はなかったの?」

「あったさ。デスクワ-クスや衛生の仕事なら…しかし俺は戦闘機乗りで兵士だ。子供の頃から空自の父の姿や制服に憧れ小さい頃から父について基地を訪れて隊員達に遊んでもらう環境の中で育った。俺の体術は自衛隊仕込みなんだ」

「私は祖父に連れられて警視庁に出向いた時警官達に習ったの」

「出が似ているな。『ナイフを振って見ろ』と俺が言った時教科書通りの…」

「あれは部活用」

「体術が使える事も隠した」
「実際の剣道は総合なの…そのまま試合で使ったら大変な事になるわ」

「君がゴミ箱を蹴って左側にスライドしてきた時左目が悪いのを見抜かれたと思ったよ」
「リ-チを考えて」
「ナイフを投げられるとは思わなかった?」

「仕留められると思ったら迷わないの」

「めくら蹴りがヒットして良かった」

「今は目は大丈夫?」

「少し霞んではいるが」

「それでよく戦場に。銃は撃てるの?」

「実戦に於いて照準をしっかり覗いて狙いを定めて…なんてやってる暇はほとんど無い。銃の扱いに手馴れた者はスコ-プを覗く癖がなかなか抜けない。俺が新兵どもを訓練する際にはまずその癖を止めさせる。スコ-プは覗かず黙視で敵の位置を確認して直ちに発砲する。クイック ファイヤ-というんだ。自分はそれを多用する。射撃訓練のように敵はこちらに姿を晒したりしない。空からは歩兵の天敵追撃砲が降って来る。キルゾーンを上手く避けても鉄の破片に当たれば致命傷にもなりかねない。360度空からの音にも意識を集中していないと命は無い」

「本当に本物の兵隊さんなんだね」

「不思議な事に戦場にいる時俺の左目は曇らない。こちらの気候が合わないのかそれは分からんが事実だ…話しが横道にそれたな。こんな話楽しいか?」

「興味深いわ。続けて」

「俺は防人になりたかった。この国の空を護る防衛の要F15のパイロットとして誇りも自負もあった。まだ二十代そこそこでも確かにそれはあった。まだ自分は兵士として何も成し得ていないと感じたんだ」

秋子は考えた。これは詭弁なのかと。どんなに大義名分や美辞麗句を唱えたところで傭兵とは金で命を売り渡し人殺しをする人種に変わりはない。それは拭い去る事の出来ない事実だ。

「隊を抜けて数ヵ月後に俺は心もとないフランス語と金を手に渡仏した。フランス外国人部隊の門を叩いたんだ」

「それが傭兵としての最初」

「違うな。フランス外国人部隊は外国人ばかりの軍隊だがフランスの正規軍だ。待遇は正規兵と何も変わらない。利用する施設も同じ。但し我々は基地内の兵士としてカウントされる事はなかったが外人部隊とは何処の国に於いてもそういうものだ。自衛官時代フランス外国人部隊に一人だけ村雨という日本人がいるという噂を聞いて.それを頼りに渡仏したが彼は21年間在籍した後除隊して傭兵になったという話だ。素晴らしい兵士だったと仲間から聞かされた。俺が門前払いを食らわなられなかったのも部隊での彼の評価が高かったからかも知れないな」

「その人には会えたの?」

「彼はイラクで死んだよ」

「屈強な兵士なのに」

「今なら彼が死んだ理由が何となく分かるんだ。何故彼が21年も在籍した地位も収入も安定した軍隊を捨ててイラクに向かいそして死んだか」

「それは何故?」

「大戦後フランス軍は外国部隊も含め戦闘を経験していない。来る日も来る日も訓練と掃除に明け暮れる日々…3年いて俺はこれ以上の経験は充分だと思ったよ。彼は21年いて指揮官まで登りつめた。兵士としてのプライドは高くあっただろう。だが長く居すぎたのだ」

「それで軍を抜けたの」

「軍を除隊し以来ボスニアのクロアチア傭兵部隊・ミャンマーの部族カレン民族軍解放部隊・カンボジア・ラオスと戦場を転々とする日々だ」

「アメリカやイラクは…」

「俺はアメリカもムスリムも虫が好かない…戦う意義が無い。ミャンマーのカレン族を知っているか?」

「彼らはもう半世紀近く部族の解放と独立を旗印に政府軍と戦っている。俺は仲間の兵士に請われて彼らの戦線に加わった。無報酬だったよ」

「命がけの仕事なのに」

「誓ってもいいが金を命に代える傭兵などいない。俺たちの月の収入を知っているか?」

「月100万とか…」

「20万~30万が相場だよ」

「安!!」

「政府の後ろ楯がない彼らには破格の大金だよ。因みに湾岸戦争の時イラクが傭兵募集に提示した金額は開戦前で月額70万で開戦後は120万だ。これが過去最高額と言われている。行ったやつは大概道端で黒
コゲになって帰らなかった」
彼は秋子に「湾岸戦争の時は自分は傭兵では無かったがイラク戦争の時はオファ-があったと告白した。報酬は40万だったそうだ。彼は言う「それだけでイラクの国力の衰退が分かる」

「それはイラク政府からの正式な傭兵募集であったが他にも2.3別のルートからオファ-があった」

「別のルート?傭兵は貴方みたいに自分で売り込むか仲間の誘いでは無いの?」

「かつてはそうだった」

「今は違うの?」

「21年間フランス外国人部隊にいた日本人村雨をイラクに招いたのは傭兵斡旋会社だと俺は思う」

「傭兵斡旋会社」

「早い話傭兵の派遣民間会社だ。湾岸戦争以降急速に戦争ビジネスの世界で拡大した事業だ」
男はそこまで話すと。
「質問はこの辺りでいいかな」

「あと3つだけいい?」

「多いな」

「まず質問1.2」

「拒否権は無いのか」

「最初に貴方が傭兵だと名乗って目の前に現れた時全然そんな風に見えなかったんだけど」

「ではどんな風に見えた?」

「悪く言ってニコニコ強盗。良く言って「俺もそろそろいい年だし演技派目指してえな」でも伸び悩んでるアクション俳優」

「この服装と髪型か…髪型がよくある軍人カットでないのには自分なりの拘りがある」

「ファッションでなの?」

「違うよ。皆さんに愛される傭兵を目指してるんだ」

「意味が分からないんだけど」

「兵隊は地元の民族や市民に絶対嫌われたらだめだ。いかつくコワモテの軍人オ-ラも軍人カットも俺的にはNGだ」

時間が出来ると砥石達の軍隊はお菓子や文房具を抱えて地元の学校を訪れるという。
「信じられない。戦争の犬たちが…」

「えらい言われようだ」

市民と仲良く親密になると彼らは些細な町の変化や不審者の存在を教えてくれるようになる。

「彼らがやがて目となり城壁となり城となるんだ。常に軍隊と親交がある地域に敵が潜入するのは困難だ」
と砥石は説明する。

「最近の戦争では敵は市民の格好をして人が溢れる場所で銃を発砲し爆弾の起爆スイッチを平気で押してくる。非正規戦と言うやつだ。彼らは市民の姿をして…それは兵士だけで無く女だったり子供だったりするが。目的は市民を楯にする事だ。イラク戦争でアメリカがあれだけの武器や兵士を投入したのに多数の死者を出したのは非正規戦か原因だ」

秋子が何か言いかけると

「勘違いしないでくれ。俺達が善で彼らが悪という話では無い。一般人を利用しているという点では俺達も彼らも同じだ。俺は戦地では仲間しか信じない。民間人と親しげに話していても俺はけして気を許さない。ただ…彼らの顔を覚え親しくなればなるほど複雑な感情になるんだ「彼らを戦火から守りたい」という気持ちになる」

「戦争なんて嫌い。戦争なんて無くなればいいのに」

「紛争終結に向けての長期的な話し合いが大切だし.それが一番望ましいがその間も戦争に巻き込まれて死んで行く子供たちがいるのも事実だ。誰が彼らの命を救える。戦うべき場所には戦うべき意味や理由があると思う。戦争反対論大いに結構だ。市民の格好をした人間を公衆の面前で拘束するのは人権侵害だと.どっかの人権馬鹿が言った。彼らは背中に爆弾を抱え人間を2ダ-ス殺せる銃を隠し持ってる敵の人権を守れと言う。俺は市街で声をかけた人間が敵対行為や不審な行動を取るならためらい無く引き金を引くだろう」

「それで貴方は今どんな敵と出会ったの?」

「最後の質問だね」

砥石は言葉を飲み込んだ。やがて。

「多分・・アメリカ合衆国だ」
そう呟いた。

「こっちから関わるつもりは無かったが」

砥石の眼差しは遠くタイのバ-を見つめていた。

【2011年6月2日タイ・バンコク】

その日の正午。タイのバンコク繁華街にあるバ-のカウンター席に砥石はいた。
昼間なので客は彼しか居なかった。
このバ-は昔から傭兵仲間のお気に入りの店だ。
彼らがこの店で好んで注文するのはフレイミングB52という(40度の酒の上澄みに火をつけストローで一気に飲み干す)カクテルとウオッカオレンジそしてウオッカだ。
彼が先日まで仲間と戦闘に明け暮れていたミャンマーのジャングルは雨季の季節を迎えた。
例年より大分早いジャングルの雨季は忽ち土壌を泥濘に変える。行軍が非常に困難になる上に弾薬や水や食料の補給が困難となる。
軍隊とともにデパートが一緒に着いてくる勢いのアメリカの軍隊ならまだしも比べたら.こちらは零細企業のまたさらに零細どころかテキヤレベルの規模なのだ。
砥石は基本的に反米だ。
あの国の戦争の仕方は好きではない。
しかし米軍は最も兵士を大切にする人権意識が豊かな軍隊だ。彼らは一兵卒の死も無駄にしない。何処に進軍しようが兵士を飢えさせるような事もしない。
イラク戦争が始まった時砥石は米軍がバクダッドを陥落させるまでに最短で三月は掛かるだろうと予想した。
まずクェ-トから進攻を開始。第一部隊が南部要塞バスラを叩く。
その後第二部隊がシリアを攻略。残りの部隊はバクダッドを目指す。その間に補給基地を築く。

しかし米軍はバスラもシリアも精鋭共和国防衛隊も紙同然に打ち破り一直線にバクダッドを目指した。
陸海空の軍隊が先を争う猟犬のように。
開戦から三週間でバクダッドは陥落した。
軍人であるが故に砥石はこの現実に背筋が寒くなった。
おそらくそれは北の将軍様も…恐ろしい軍事力だ。バクダッドに進攻してから米軍の統制は一糸乱れる事は無かったという事実からかなりの数のCIAの工作員が潜入し米軍に情報を伝えていたとみられる。

情報戦には軍事衛星を有し圧倒的な軍事力を誇るアメリカ合衆国。
イラク制圧をやってのけた軍事大国アメリカが9.11テロからアルカイダの指導者ビン・ラディンをイスラマバードで殺害に至るまでに要した時間は約10年…先月の新聞記事に目を通しながら砥石は考えを巡らせた。
そもそもアルカイダというのは一大テロ組織ではない。
せいぜいビンラディンを含め首脳が5人実行部隊が10人~15人というところだ。
アメリカはそこを読み違えた。
アルカイダとはイスラム過激原理主義思想の一つで向こうでは聖戦を煽ればいくらでも兵隊になりたがる。
アルカイダを名乗るテログループは山ほどいる。
実体が無いんだ。やつらは拠点を次々に変え山岳地帯に逃げ込んだという誤報を流しネットも電話も使わず周波数の短い無線機を連絡手段に使用した。
トランシ-バ-のような機種ならアメリカの偵察衛星SARでも探知出来ない。
もっともこっちは偵察衛星どころか補給の要に象を利用してる位だからな。象は泥濘も平気だが遅い。
「米国のビンラディン殺害の中心となったのはCIAの精鋭タスク・フォースCIAと米海軍シ-ルズのチ-ムB…おい。この記事間違ってるぞ」
店に入って来た黒人兵士が砥石が読んでいる新聞記事を指差して言った。
「確かにチ-ムBはもうシ-ルズじゃないJSOCの指揮下だ。名称も違う」
「ま一般人にはどうでもいい事だろうがね」     そう言って黒人兵はバ-テンダ-にビールを注文した。

「…無条件でシンハ-ビールなわけね。これ甘いんだよね」
目の前に置かれだビールのラベルを見て人懐こい笑顔が曇る。
南アフリカ系か。
初対面だが。服装はアロハシャツにバミューダパンツ。
軍人は普段着でもすぐに分かる。腹が出ているので退役っぽいな。足も悪そうだ。
南アフリカ系の黒人兵は大概は皆陽気で戦場では勇猛果敢。
だが怒らせたら手がつけられない。
南アフリカで廃墟で休息している時一人のフランス人兵士が黒人兵と口論になった。
彼は手がつけられないくらい激怒して怒りの理由さえ忘れてしまった。
まわりにいた黒人兵士たちが来て全員猛烈な勢いで怒り始め.しまいには味方同士で銃撃戦が始まり。
騒動の原因となった兵士ではなく別の黒人兵がフランス人を射殺した。フランス人が死んでしまったので黒人兵の怒りの理由は分からないままだ。
黒人兵士を怒らせてはいけないのだ。

砥石はウオッカオレンジのグラスを黒人兵はビールの入ったグラスに口をつけた。
「俺のあだ名はツルベだ」
砥石は飲み物を吹いた。
「ショウフクテイ…」
「ちょちょちょっと待ってくれ」
「ツルベだ」
「誰につけられた」
「イチロー」
「ええ!?」
「イチローは隊でのあだ名一番凄い日本人だから彼はイチローなんだ」
「日本人か…本名は?」
「ムラサメマモル」
「フランス外国人部隊のか!?」
「そうだ。彼は上官僕は部下。君の先輩だ…ムラサメはここに来れば君がいるはずだと」
「傭兵が休暇で訪れるのはタイかアムステルダムだからな」
「なぜだ」
「酒も女も薬も自由だからだ」
「勉強になる」
「ちなみにムスリムは全部ダメだ。何処に行っても酒一滴もありつけない。女も顔隠してるし。頭に来たんで仲間とムスクの前でナンパしたら市民全員から石を投げられて殺されかけた。あの国は最低だ」
「イチローから君に手紙預かっている」
そう言ってツルベはカウンターに便箋を置いた。
「俺にか。君はわざわざ…」
「イラクから来た」
「イラク!村雨さんは今イラクにいるのか…なぜ俺に」
「彼は俺の尊敬する上官。彼が隊を抜ける時俺もついて行くと。彼は「いらない」と。傭兵になって彼のバディに。最初の戦闘で地雷を踏んだ。彼は負傷した俺を背負って逃げてくれた。命の恩人」
戦えなくなって今は彼の秘書をしているらしい。
どうやら痛い子らしい。
「村雨さんは俺の事を知っていたのか」
感慨に耽っているとツルベが左足を外した。
「全ては手紙を読んでくれと」
義足の左足を外すと中から何かを取り出した。
そして砥石の前に置いた。血のついたUSBメモリー。
「なんだこれは」
「『もし砥石が私の思う男なら彼にとって宝になるはずだ』とバディが」
「ヤバいんじゃねえかこれ」
「確かに渡した」
義足をはめて表に出ていく彼を追いかけた。
が彼は表に止めてあるタクシーに乗り込むと.あっという間に消え去った。
血の痕がついたメモリーと一通の便箋が残された。
「お前昔バカでかいアフロにオ-バオ-ルで軍の面接受けに行ったんじゃないのか-
最後にそれだけは聞きたかったのに。


村雨からの手紙】

「というわけなんだ」
「思いっきりヤバいよそれ。ヤバいもん押し付けられてんじゃん…中身見たの?」
「いやまだ」
秋子はテ-ブルを叩いた。
「それは取り敢えず置いといて」
「置いとくのか」
「さっきのアムステルダムとかタイとか!!」     「ああ。そっちね」
「信じられない!!男って皆そうなの!?」
「ちょっと傭兵ぶって見ただけだ」
「酒は」
「かなり飲む」
「薬は」
「戦場に復帰した時ボーっとしてる仲間を見るとヤバいなと思うね」
「女は」
「彼女たちと酒を飲んで騒ぐのが好きだ」
「やだやだ売春婦なんて汚らわしい」
「そうだな。因みに世界で最古の職業って知ってるか」
「さあ」
「売春婦だ。二番目が傭兵だ」
「だから?」
「共に世間の嫌われものだ。嫌われて長い年月寄り添って生きてきた。お互いに頼る事無く」
短い沈黙の後
「俺達は奥さんみたいな立派な女性やこんな素敵な家とは無縁の人生だからな。人間相応に折り合いが必要な訳で。だから売春婦たちとも宜しくやってるよ」
「なんか.ごめんなさい」
「なんか.ってなんだよ」
「分からないから.なんかでしょ」
「質問には全て答えたつもりだ。最後に俺からも奥さんに一つ聞いていいか?」
「何?3サイズ以外なら」
「そうだな。座右の銘…好きな言葉でも何でもいい。教えてくれ」
「聞いてどうするの?」
「俺の好きな言葉にしたい。俺にはそれが無い」
「可愛いお嫁さんになる」
「うそつけ」
「そうあろうと努力して来たの」
「他ないのか」
「昔から好きな言葉なら。いつも心の中て口ずさんで来た言葉があるの」
「教えてくれ。戦場で思い出すから。戦場で可愛い奥さんになったら困る」

「誰にも言わないで」

「約束する」

「秘密の言葉よ」

秋子はテ-ブル越しに身をのり出して砥石の耳もとに囁いた。朝外した胸元のボタンはそのままだった。
「なぜ泣くの」
「今日泣くのは二回目だ」
「いいお母様だったのね」
「俺は無学な人間だ。戦場と軍隊の事しか知らない」
「そんな」
「自分の心にあるものを上手く言葉に出来ない。そんな思いを君は言葉にしてくれた。素晴らしい女性だ」
「てへへ」
「もう一つ聞いていいか?」
「どうぞ」
「先ほど俺の踵が入った時なぜ泣いた?」
「ああ」
「痛かったのか」
秋子は首を振った。
「思い出したの」
「何を」
「お祖父さん。…ぽんってね」
幼い頃から秋子は祖父に剣道を習った。
祖父はいつも小さな丁度包丁ぐらいの長さの竹刀を持っていた。とても小さい竹刀だか練習では秋子は必ず面を取られた。
ぽん…と軽く叩くだけ。
警察官の有段者を相手にする時も。
祖父の手には小さな竹刀。
小学校中学校と進むうちに祖父が秋子にくれる竹刀は短くなった。
竹刀が短くなる度祖父に近づいた気がして嬉しかった。
秋子の父は昔から体が弱く祖父から剣道を習う事はなかった。
父は中学校で歴史を教える教師の道を選んだ。
祖父は言った。
「人にはそれぞれ合った道がある」と。
秋子は頑張れば「いつかおじいちゃんみたいな剣士になれる」と思っていた。
高校の時は本気で祖父の道場を継ごうと思ったりした。
けれどその道は遠く祖父は雲の上の存在であると知った。
短大生の時は道場からも足が遠退いて。
結婚が決まった時祖父の家に会いに行った。
病院嫌いの祖父は自宅で伏せっていると聞いていたた。
秋子が訪ねると祖父は道着姿で迎えた。
「久しぶりにどうだ」と秋子を道場に誘った。
しばらく見ないうちに窶れ白髪も増えていた。
秋子は祖父と向き合い打ち込む。
何なく面をかわされた。
ぽん。祖父の竹刀が頭を叩く。いつも通り。
「秋子。人にはそれぞれ道がある」
いつもの祖父の口癖。「お前はお前の道を往けばいい」
そう言われた気がした。
祖父の剣は何時もそういうものであった。
三日後に祖父は亡くなった。
「ぽん…と貴方の踵がのった時(ああ同じ…)って思ったの。」
「いい話だ。心が温かくなる」」
「で」
「何?」
「村雨さんの手紙と血のついた」
「ああ.それ」
「何が書いてあったの?」
「やっぱ言わないとダメか」
「私たちバディでしょ。何でも言ってよガンちゃん」
手紙はこんな書き出しで始まっていた。

『砥石颯真君。突然面識も無い私からの手紙にさぞかし当惑している事と思います。まずはその非礼を詫びさせて欲しい。
砥石。その名前を聞くと今でも胸が熱くなる君は父上の颯佑の文字を一文字頂いたのだな。さぞや立派な若者に…我万感の想い也』

「お父様の知り合い?」
「空自時代の同期らしいな。卒業後の配属基地も同じだと書いてある」
『私と父上は同期の桜。お互いに切磋琢磨しあう良きライバルであった』
「親父からは村雨さんの事は聞いた事がないな」
『私たちはF4戦闘機のパイロットとなった後もお互いに認め合い競い合う仲だった。そう花村…花村薫さんと出会うまでは』
「花村薫は母の旧姓だ」
「お母様那覇基地にいらしたの?」
「基地内の食堂で働いていた時に父と出会い結婚したと聞いた」
『私が先に出会った。言葉を交わしたのも私が最初だ」
「うわあ青春キタ-って感じね』
『砥石も薫さんも悪くない。二人は出会いお互いに惹かれ合い結婚した。そして颯真君は今そこにいる。親友として喜ぶべき事だと私は自らに言い聞かせた』
「トップガンみたい。素敵」
「トップガンてそんな話だったか」
『遂にあの日沖縄基地で編隊長を決める訓練の日がやって来た…私には分かっていた。砥石と私どちらがリ-ダ-にふさわしいか。砥石は人望も厚く統率力もあり…私は戦闘機の腕だけが頼りの孤独な一匹狼』
「自分大好きなのね」
「まあまあ」
『だが!しかし!!私は挑まずにはいられなかった!!訓練中にも関らず。砥石に挑んだ!!!…戦闘機を私物化し味方に空中戦闘を仕掛けた罪は重く。私は石持て隊を追われた…しかも敗北というおまけまでついてだ』  
「切つないわ」
「そんな事があったんだな」
『私と砥石がその時行ったドッグファイトは後にブルーインパルスの演目として』
「ああ。そこの件はいらない」
『私は傷心のまま渡仏した』
「そこはガンちゃんと同じね」
『フランス外国人部隊で血反吐を吐く訓練の毎日』
「うんうん」
『若い外国人兵士に囲まれ』
「外国人部隊だからね」
『黒髪が懐かしくなる事も屡々』
「若いからね」
『砥石』
「ん?」
『砥石砥石砥石砥石』
「まさか」
『身悶える毎日』
「ガチホモだわ」
「なぁバディ。俺もう読みたくないよ」
「頑張って」
『大体私は』
「何だ何だ」
『砥石にドッグファイトなんて仕掛けてない。ただ彼の』
「彼の?」
『戦闘機の横に寄り添いたかっただけだ。それを審問の席で訴えたら…石持て追われた』
「………」
「………」
『21年の歳月が流れた』
「B-21」
「B-29の間違いだろ」
「馬鹿。Bって言ったらBLのBでしょ」
「それ上手くないからな」
「B-21」
『軍隊において.それなりの地位も手に入れ。今は若い兵士たちの成長を見守る日々』
「もう何だかすごくヨコシマでやらしい響きに聞こえるわ」
『そんな私の元に上官から一人の日本人の入隊希望者がいると聞かされた』
「ガンちゃんね」
『その名前を目にした時私は息を呑んだ。砥石!思わず我が目を疑ったものだ…止まっていた私の時間が再び動き出した』
「動き出しちゃった」
「俺ピンチ」
「危うくイチローの振り子打法の餌食になるとこよ」
「風の噂で砥石夫妻が…養子?…養子をもらったと耳にした?…と聞いた事がある…それを聞いて私は最後の希望の橋も外された事を聞いた…何だこれ?!」
「嘘よ。ガンちゃん。オカマの汚い罠だわ。惑わされたらだめ」
「花村薫。あれは魔性だ。あれが男と知っていたら私は絶対に引かなかった」
「母さんが男…」
「嘘よ!嘘!こんなのはフラれたオカマの妄想なの!第一男同士で結婚や養子縁組なんて無理」
『ところがそうではなかった』
「なんですって!?」
『花村は防衛大を首席で卒業したエリート。ところが大学を卒業した後基地に配属されると公然と女装して基地に現れた。彼の家は曾祖父も祖父も防衛大臣や内閣官房長官努めた名家。追い出す訳にも行かず食堂勤務になったが彼は女装が認められ喜んだという』
「やっぱりそうなんだ…母さん」
『結婚も養子縁組も国家権力を使えば容易い事』
「ガンちゃん…」
「『この秘密を暴露されたくなければ今まで書いた事は不問に願います』…ふざけやがって!!死者を冒涜するにも程があるぜ」
「この人も死んだのよね」
「そうか」
「多分この人ガンちゃんにオカマを暴露されたくなくて隊を抜けたのよ」
「こんなヨタ話まで書いて守りたいプライドか」
『私は隊を抜ける事にした。プロフィールに貼られた君のこちらをい抜くような真っ直ぐな眼差しが痛い』
「証明写真だからな」
「茶化さないの」
『無為とは言うまいが長い時間をここで費やしたものだ』
「逃げる気ね」
『今空を覆う曇天の雲は晴れ茜色の空の下を行かん』
「夕焼けと自らの晩年をかけているのね」
「総員出撃の準備だ」
「そう言えばツルベがいたな」
『ここで一句』
「もう」

憂き事の なほこの上に 積れかし 限りある身の 力ためさん

「パクリじゃん」
「いい句だ。たとえ人の言葉であろうと人には自らを鼓舞してくれる言葉が必要だ」
『色々悩んだ末に私は武装警備員派遣会社ブラック シ-プに籍を置く事にした』
「俺のとこにもオファーが来たやつだ」
「さっそく金に目が眩んでるわ」
『私は考えた』
「俺も考えた」
「この高額なオファーが本当になら」
『本当に傭兵に補償や保険が適用されるのなら』
『砥石の息子にも』
「傭兵の仲間のためにも良い事だと」


「プライベート・オペレーター」それが形を変えた傭兵の新しい呼び名だった。
彼らは民間警備会社の警備員だが武装している。
イラクを拠点に仕事の主な内容は大使館や政府の施設等重要施設の警備.VIPの警備.石油関連施設の警備.警察官や軍隊の訓練.国境警備等。通常の傭兵の仕事と何ら変わる事は無い。

以前からこの類いの会社は存在していたが9.11以降米政府や企業が公然と資本提携し飛躍的な成長を果たした。

年収100万ドル以上稼ぐのも夢ではない。
集められるのは勿論各国の元特殊工作員等の精鋭ばかり。
あくまで民間人であるため政治的配慮から軍隊を派遣出来ない場所に送り込む事が出来る利便性からアメリカもイギリスも最前線に彼らを送り込んでいる。
何人死のうが生還を果たそうが彼らは兵士としてカウントされる事は無い。
武器や装備品の支給から情報の管理まで.それまで傭兵が自分でこなさなければならなかった雑事も全てを会社が行うという。

「我々傭兵にとっては仕事の内容は同じでも待遇は破格。至れり尽くせりな話だ」
「「傭兵もサラリーマンの時代なのね」
「良い事だらけのようだが釈然としない…何故か」
「そうね」
「傭兵は任務に着くと必ず最前線に送られる。むしろ自分たち自らそこに行く。それが任務だから。しかし武装警備員は戦う場所を自分で選択出来ない」
「だから高額なお金が貰えるんじゃないの。お金を命に代えるってそういう事だと思うの。会社の意識としてだけど」
「なるほど」
『ラッシ-も飲み飽きた』
「ですってよ」
「酒は無いのか女はガンジャは…この国にボブマ-リ-はいねぇのか!!と仲間達が吠えている」
「ここだけ三人称」
『アルラシ-ドホテルの入り口の床はブッシュの踏み絵』
「いいなそれ」
「私も踏みた-い」
『両足でガンガン踏んだら地元民からやんやの拍手…ホテルの前で道行く女性に『へい彼女良かったら僕のラッシ-…』仲間がナンパを始めたら投石の雨で殺されかけた』
「日本の恥だわ」砥石はお茶をおかわりした。
三杯も呑んだ。
『私たちの仕事は敗残兵士の掃討…のはずだったが2月からテロリストの掃討に変わっていた』
「結構危険な任務だ」
「軍隊でなくても武装はしてるでしょ」
『バクダッドから南西150Kmグランファン遺跡の神秘的なア-チ。バベルの塔…破壊著しく。聖獣の浮き彫りがされたイシュタ-ルの門。バビロンから北に350Km幽玄なチグリス川に沿い。天空に聳え立つ神秘的な螺旋の塔ミナレットに暫し心を奪われ』
「サイトシ-イング?」
「世界遺産の旅じゃないか」
『イラク駐留の連合軍はこの国を去りつつある。がしかし破壊された街や傷ついた人々。遅々として進まぬ復興や医療…米国主導によるクルド人政府の暫定的かつ不安定な政府の樹立消え失せる事なき憎しみ反米…いったい米国はこの国に何がしたかったのだ』
「黙れ観光客」
『旅を続けるうち度々目にするものがある』
「もう旅って言ってるわ」
『ザクロス山脈に横たわる平原に朽ち果てた戦車の残骸。この戦争のものではない。国境を挟んで睨み合うフセインとホメイニ師の像。前述した古代の遺跡の前に掲げられた巨大な独裁者の肖像画。この国のなんたるかを示している。撤去作業が進んでいるが…たしかイラクとは素晴らしい過去を意味すると私は聞いた」
「ほう」
「バカはバカなりに考えたのね」
『CIジョ-は言った』
「CIジョ-?」
「ここに来て新キャラ!?」
『CIジョ-は我々と同じプライベート・オペレーター。27歳。アメリカ国籍をもつユダヤ系。褐色の天然パーマ-。今時誰もかけていない黒ぶちメガネ。見た目はまるで市役所職員。生え際の後退が懸念される…」
「ユダヤ人の傭兵なんて見た事がない」
「元CIA」
「軍人ではないのか」
「身長165cm」
「小さっ」
「何故採用された」
「CIA広報担当」
「CIAに広報なんかあるの?」
「兵器の扱いには慣れておらず空手は通信教育。呼吸方で断念」
「足手まといだ」
『彼は私の知る限りこの世で最も早口な男だった。身ぶり手振りを交え時には半周したかと思えば逆回転し盛んに何かまくし立てていた。しかし大概何を叫んでいるか理解出来ない。ツルベを通訳に立てても半分くらいしか分からない。人種差別を含んだ自虐的な冗談が得意でいつも言葉の合間にJU-JU-という単語が入る。でも聞き取れないので誰も笑わない』
「気の毒に」
「いるわ。そういう人」
『おまけにひどくケチでラッシ-一杯奢ってくれない』
『お前が奢れ。年上だろうが」
『メガネは小学生の時から同じ物を使用しているらしい』
「まじでか」
『両親が息子の成長につれメガネを新しく買い変えるのを無駄と考え最初から大人用のフレ-ムのメガネを与えたのだ。しかも他界した祖父の老眼鏡をである』
「学校でいじめられたろうな」
「可愛いかも」
『彼はその世界では有名なW・H・F』
「ウエスト?ヒップ?F?」
『ホワイトハウスファンだ』
「その件も飛ばして」
「いや。待て』
『日頃から精密な模型を製作したりサイトを立ち上げたりしていた彼だが趣味がこうじてCIAのスキルを活かし大統領執務室のコンピュータに侵入するようになった…すぐに捕まったが』
「危険人物じゃない」
『コピー用紙やインクリボンなどの月の消費量を調べていたらしい』
『2011年1月彼は逮捕された。が取り調べは拷問や家族の身の安全を仄めかされる程の厳しいものであったと…つまり常軌を逸していた』
「どういうこと?」
『『別荘の件についてだが』と繰り返し聞かれたという。実は彼が大統領執務室の職員のバソコンに侵入している間にアルカイダの同胞を名乗るテロリストからサイバーテロの反抗声明ともとれるメールが届いたという』
「同じ執務室に?」
「そうらしいな」
「そりゃ疑われるって」
『彼の容疑はなんとか晴れたが国家反逆罪で禁固360年の刑が簡易裁判にて確定。実刑もしくは半年間のブラックシープへの出向を命じられた』
「あわよくば戦闘に巻き込まれて死んでくれって事ね」
「ブラックシープは元シ-ルズの退役が起こした会社だ。ワシントンからの信頼も厚いと聞く」
『聞けば哀れな男だ」
「いや。こいつ怪しいぞ」
「怪しいわね」
『ダメな部下ほど可愛い』
「あんたにもそういう上官が必要だ」
『その後のGIの調べでは1月ホワイトハウスは大騒ぎだったと…執務室のバソコンはフリーズしたまま反抗声明に添付された画像のまま静止した』
「国家機密の漏洩か」
「米国政府の政治的スキャンダル」
『…そのどちらの可能性もあるとGIは語る。ビンラディンの追跡を停止し5月までに米軍のイラクからの完全撤退がこの画像を公開しない条件だと』
「怪しいと思ったが」
「ペラペラ喋ってるわね」
2011年米国政府はイラク駐留軍に対し5月までのビンラディン追跡と平行してテロ組織の掃討を命じている。
これはイラク国内に留まらず米国情報局総掛かりで全世界のテロリストの洗い出し情報収集に乗り出した。
5月以降イラクは雨季に入るばかりでなく気温も平均30℃から40~50℃に上昇する。
専門家の意見の通りもしもビンラディンが山間部に逃げ込んだ場合捜索は困難を極めるだろう。
不動産や金融の破綻による深刻な不況。失業率の増加。米国大統領の支持率は急落していた
。9.11から10年目のこの年。
米国政府はどうしてもビンラディンを捕獲殺害しなくてはならない状況にあった事は間違いない。
湾岸戦争の勝利宣言の直後ブッシュの支持率は25%上昇した。半年で元の数字に下落したが。
「だから物事には表と裏があるように.この仕事にも当たりと外れがあると僕は考える」移動中の米軍払い下げのジ-プの中でGIジョ-は村雨に忠告した。
「当たりは2つ。ビンラディンのアジトとホワイトハウスに反抗声明を送って来た奴等のアジトだ。ビンラディンは米軍兵士がやるだろう。そうでなければ意味が無い。もう一つは…当たりと言ったが我々的には外れだ。関わるべきではない』
早口過ぎて何を言ってるのか全然分からなかった。
「君は当たりを引く前に帰国すべきだ。友人だから忠告する」
彼は帰れと言う言葉を繰り返した。
それは理解出来た。
「お金が無いから帰れない」と村雨は答えた。
フランス外国人部隊にいて得た金は負傷したツルベに渡してしまった。
『あとジャンとかポールとかエヴァンとかピニョンとか別れ難き人々に』
「男娼か」
「いい人」
『後でやっぱりツルベに少し返金を頼んだ』
「こいつ最低」
『スイス銀行に預けたからダメ…と断られた』
「ナイスだツルベ」
『金があっても私は帰国しない。理由が出来た』
『軍人の話題と言えば酒や女の話ばかりしてると思われがちだが実際その通りである』
「そうなの?」
「いや…まあ」
『実際君もそうだろう』
「なんだ?!こいつ」
「先輩なのに」
「私は甘党だ」
「知るか」
「酒はやらないし薬なんて不整脈が心配だ」
「ポンコツじゃないか」
「女が抜けてるわ」
『海外から様々な兵士が集まるこの仕事。しかしこの国では酒も女も御法度だ。自然と話題は軍隊の話になる…どこの部隊が世界で最強かとか」
「興味ないわ」
『私は日本の自衛隊は世界のどこの精鋭部隊と比べても引けをとらないと思っている』
「同感だ」
『米国シ-ルズだろうとかデルタフォースや英国SAS…次々名前が挙がる』
「そこら辺りだろうな」
「私はふいにフランス人兵士に水を向けられた。「何故日本は多国籍軍に参加しながら戦闘に参加しなかった?」と。彼にはそれが本当に疑問だったらしい』
「たしか日本は非戦闘地域でしか活動はしない。他国と一体化した武力行動はしない…だっけ」
「それは我々の考える軍隊の行動様式や常識を逸脱してると私は思ったよ」
「それは何故?」
「俺たちはゲリラ戦や非正規を経験して来たから分かるんだ。戦争の最中に非戦闘地域なんてあるはずが無い」
『私の言葉はますます彼らを困惑させた。自衛隊は多国籍軍の一員であるが統一指揮化に入らない。同じ地域で友軍が統一指令部からの作戦行動に入る時あえてその指揮化に入らない。こんな事態はあり得無い。
同一地域で作戦を展開する場合統合指令部を設け全ての部隊は統一の指揮下に置かれなければならない。軍事の常識だ。命令系統は一つで無くてはならないのだ。一国だけ指揮官が統率出来ない部隊があれば現場は混乱するし指揮系統そのものが成り立たない。「参加してるけど指揮下に入らない?何だそりゃ?!」私には返す言葉が無かった』
「誰に説明しても混乱するシステムだ。英米は仏独に協力を得られない状況で日本の事情を理解したふりをしただけだ。現場の部隊ともなれば尚更だろう」
『加えて日本は素晴らしい特権が与えられていた。指令部からの任務を拒否出来る権利。独自の判断で部隊の活動を中止撤退出来る権利だ。「あらかじめ敵前逃亡も脱走も自由な部隊って何なんだ」
敵前逃亡…独自判断による撤退は現場の人間にはそう映るだろう。敵前逃亡は軍人にとって最大の恥辱』
「そして重罪だ」
『これを許せば部隊の指揮は低下し指揮の低下は戦場に於て部隊全体を危険な状況に陥入らせかねない。「もしも俺がどこかの国の兵士なら自衛隊とだけは仕事はしたくないな。指令部からの命令も出来ず援軍も期待出来ない。いついなくなるかも分からない。俺たち傭兵はそんなやつを最初から仲間に入れない。そうだろう?」返す言葉が無かった。「自衛隊は実際自分の国を守れるのか」と聞かれ皆が笑った』
「守れるさ」
『世界の兵士の中で笑いものにされた』
「厳しい訓練と規律に耐えた」
『私の青春だ』
「今でもあの時代や仲間は大切に思う」
『皆偉くなり電話にも出てくれなくなっても』
「戦場で必要な事は全てあそこで学んだ」
『それが世界で笑いものに』
「許せない」
「ガンちゃん!!砥石さんってば!!」
「すまん。読みながらついぼんやりした」
「顔怖かったよ」
「顔は産まれた時からだ」
「違うよ。この手紙だよ」
「死んだ人からの手紙だからな」
「惚けた事ばかり書いてあるけど…うっすら呪われてる気がする」
「うっすらか」
「こんなの持って彷徨いてたらよく無い気がするよ」「「最近おかしなものをよく見かける」
「おかしなものって」
「戦場に現れる死神の話」
「死神」
「昔から兵士の間で戦闘ジャングルの奥地でも何処でも黒いス-ツ姿で傘をさした男…じっとこちらを見つめている。ジャングルの奥地や最前線だぞ」
「貴方も見た?」
「傘をさしてなくて複数だ」
「それって」
「多分死神じゅないな。お目当ては俺一人だ」
『CIジョ-の言葉通り当たりを引く日はやって来た。5月2日…その日がそうだった』
「何だ大将。ちゃんと理解してるじゃないか。やっと目をさましたか」
「さっきの自衛隊の件で」
「スイッチが入ったな。言っても元第2落下傘部隊だ」
「すごいの?」
「精鋭中の精鋭だよ。実戦経験は無いけどな」
『5月2日。バクダッド南方の町ムサイブに到着した。
昨年この町のムスクを狙った自爆テロで98人近い死亡者が出た。スン二派とイスラム教徒シ-ア派が入り乱れる死の三角地帯と呼ばれる地域だ。我々は市街の通過を避けるように二台のジ-プでムサイブ郊外の今回標的となるテロリストのアジトに到着した。民家も付近に見受けらない。鉄条網に周囲を囲まれたコンクリートの古い建物。人が居ると言われなければ廃屋と言っていい。
米国陸軍から派遣されたコマンダ-と補佐の兵士によると事前調査の結果建物内部のテロリストの数は10名程度。所持が確認された武器はアサルトライフル5丁。機種はM4カ-ビンのみである。対してこちらの兵力は無線で車内にて作戦指揮を担当する米兵2人を除く6名。アサルトライフルHKM4各6丁。弾薬マガジンは一人につき3。75発の弾丸を所持し任務に当たる。その他の武器は19249機関銃が1 グレネ-ドランチャー1 手榴弾…相手を考えたら少々過保護過ぎる位の物量だ。
「たかだか10名程度のテロリストを制圧するのに米軍のコマンダ-までついてこの装備」
「ガンちゃん羨ましそうな顔しないで」
『我々精鋭部隊なら素人に毛が生えた程度のゲリラなどナイフだけで充分だ』
「調子のってるわ」
「油断は死を招くぞ」
「実際死んでるし」
『早朝という事もあってか屋外にも建物の窓にも哨戒者の影は見られない。裏口から屋内に侵入する2名と正面から侵入する2名…残りの2人は銃撃戦に備え屋外にて後方待機。正面突破先陣をきるのは私不詳村雨とCIジョ-である』
「ええええ!コマンダ-!!コマンダ-!!人選ミスだ!!!」
「死亡フラグたちまくりね」
『蝉が鳴いている。イラクの蝉は何と言う名前で呼ばれるのか。アメリカ兵が得意気に蜘蛛とも蠍ともつかぬ不思議な虫を持って記念撮影しているのを見た。昆虫好きのフランス兵が言った。「珍しい虫をイラクで見つけて名前が知りたくてPCでイラク 昆虫と検索するけれど出て来るのは戦争や兵器やテロの文字ばかり…。私たちは今その渦中にいる。心を引き締めなければ呑み込まれる。そこ俐に渦巻く憎しみに。1階に踏み込む。CI安全装置は外したか!?何を戸惑ってる貸してみろ。1階はガランとして無人。本当に廃墟ではないのか。
1階は食堂になっているらしくテ-ブルが置いてある。テ-ブルの上にある食器を確認する。腐っても乾燥もしていない。二階か。CIを従え階段を登る。この建物元々は宿泊施設か何かだろうか。朝日の差し込む踊り場を過ぎ二階に到着する。階段を登りきると手前に1室左奥の廊下突き当たりに1室左側の通路手前に3室計4室。呼吸を合わせ階段手前のドアを一気に開く。中に男が3人。一般人のような服装だ。男たちはこちらに顔を向けると慌てて机の脇に置いてあるライフルを掴んだ。
CIとライフルを構え-CIはライフルを構えず携帯電話のボタンに手を』
「起爆装置か」
左側のドアから次々銃を持った男たちが飛び出して来る。私もCIも銃を構える。がその時建物が揺れた。最初に男が飛び出して来た部屋から火の手が…いや炎の塊。火球が飛び出し男を呑み込んだ。炎の中で男の黒い影が揺らめく。火球が廊下を埋め尽くしこちらに迫って来る。全て一瞬の出来事だった。私はCIの腕を掴み階段を飛び降りた。二人そろって踊り場まで転げ落ちた。「お前がやったのか」思わずCIを問い詰めた。CIは首をふり続けた。最初からその可能性は低いと私は考えた』
「首謀者を見つけたら携帯のボタンを押すように言われていたんだ。信号が届いたらGPSを辿って砲弾発射…だがしかし」 『問題は砲弾だ。私は即座に2発目が打ち込まれる前に火の手が1階にまで及ぶ前にCIを連れて駆け出していた。それでも脳裏を過るのは打ち込まれた砲弾についてだ。衝撃はRPG程度のものではない。戦車や対空砲とも違う。火の手が上がっている事実を考えると焼夷弾。しかし建物内部で火の手が上がった。どの砲弾も着弾した瞬間外側で爆発が起きるはず…爆撃機か』
「爆撃機ではない。M1M1戦車かM1A2戦車からの劣化ウラン弾だ。もしくはM2ブラッドレ-歩兵戦車…だがこれは口径が25ミリと小さい」
「劣化ウラン弾てニュースでよく聞くけど」
「本来の用途は徹鋼弾と言って戦車の装甲を貫くために作られた物だ」
「戦車を貫く!?」
「廃棄ウランと鉄と鉛の合金で出来ている。ウランの比重が1番大きいかな。劣化ウラン弾の特徴は目標物に着弾した段階で先端部が先鋭化しながら侵攻する。先端先鋭化現象というんだが。命中すると砲弾の持つ熱エネルギーが運動エネルギーに変換され侵鉄体の結晶構造が変化し高温を発する」
「文系なんでよく分からない」
「つまり砲弾というのは先端部が目標に当たると爆発する仕組みになっていて」
「それは分かるわ」
「しかしこの劣化ウラン弾は爆発せず高熱を発して目標物を溶解させる。ウランだからな。穿攻過程で侵鉄体の温度は1200度を超え溶解を始める」
「貫いた後で自身の温度で溶け始めるって事?」
「そうだ。侵鉄体つまり劣化ウラン弾が溶解すると微細化して辺りに撒き散らされる。金属ウラン成分は高温下では容易に酸素と結びつき辺りを火炎で満たす。焼夷効果だ」
「ウランて放射能が」
「正確にはウラン自身が持つ金属毒と放射能を撒き散らす。濃縮過程で出来た廃棄物を再利用しているとは言え120ミリ砲弾1発につき70MBgの放射能を排出する。天然ウランの約60%の放射能だ。吸い込んだら確実に被曝する」
「市街地で米軍が使用したってNHKのニュースで」
「使用した量は湾岸戦争イラク戦争共に300トンを超える」
「核兵器でしょそれ」
「あくまでも徹鋼弾だと…核分裂や核融合を誘発させ使用する大量破壊兵器ではないと米国は言い張っているがね…空母に搭載された巡航ミサイルに劣化ウランは使用してないと言ってはいるが」
「詭弁でしょ」
「味方にこれを打ち込むか普通…傭兵とは言え友軍だぞ」
「友軍じゃなきゃいいの?!街中でこんなもの…小さい子供だっているのに。男は一体何がしたいの」

『二発目の振動が来た。階段から転がり落ちて来る者がいる。1人…2人炎で焼かれて。何とか踊り場までたどり着いた2人はその場で絶命した。息をひきとる前に男の1人が私を見て言った言葉が確か「バルキス…」そう言って私に右手を差しだした。掌の中に握られていたのがそのメモリーだ』
「バルキスってなんだ」
「多分WikiLeaksの聞き間違えよ。バルキスの定理という言葉はあるけど【けして証明できない】だから意味が通らない」
「そうなのか」
『CIが「メガネメガネ」と床を這いつくばってメガネを探している』
「嘘だ」
「もり過ぎよ」
『私はCIを連れて屋外に脱出した。直後に建物の外壁に三発の砲弾が吸い込まれて行くのを見た。南西の方角から爆撃機の機影が姿を現し急降下した後ピンポイントで屋上に砲弾を打ち込み急上昇して雲の中に消えた』
「フェアチャイルドだ」
「機種なんてどうでもいいわ」
「劣化ウラン弾を搭載した機種はフェアチャイルドだけだ」
「うるせえ。軍隊馬鹿」
「軍隊馬鹿。確かにそうだ」
「満更でもない顔すんな」
「劣化ウラン弾は確かに醜悪な兵器だと俺も思う…刺さったら抜けない返しがついていておまけに毒まで塗ってあるような…もっと酷いか…」「………」
『建物は見る影も無く破壊され黒い黒煙を吐いていた。米兵の1人が「ここはこの先50年立ち入り禁止になるらしいぜ」
物見遊山の野次馬を追い払うように私達に退去を促した。
「何故中に友軍が居るのに攻撃した。
俺はともかくこいつはアメリカ国籍を持つ立派なアメリカ人だぞ」絞り出すようにそれだけは伝えた。米兵は「自分は関係無い」と手を振りイエスキリストのように人差し指を空に。爆音と共に黒いヘリが三機上空に現れた。米軍ヘリブラック・ホ-ク。ぶらぶらと兵士達の足が揺れているのが見えた。彼らはヘリからロ-プを伝い地上に降下すると驚くべき迅速さで建物を包囲した。蟻の子一匹逃がすまいと。
「デルタホ-スだ」
米兵が胸の辺りに指で三角を書いて見せた。5月2日ビン・ラディンが殺害された日デルタフォースはここにいた。翌日CIは姿を消し。ブラックシ-プという会社も存在しなくなっていた』
「経緯は分かった」
「長かったわね」
「で?なんで俺が?」
「そうよね」
手紙には最後こう書かれていた。
『先輩の試練は後輩の試練』
「あの野郎」

「「やっぱり空自だ!!」
「テ-ブルを叩き壊し兼ねない勢いの砥石を秋子は「落ちついて」と優しく諭した」北欧産で結構高いのよ。
「空自の先輩ときたら皆こうだ。航空学生時代。まず訓練中もそうでない時も上官に会ったらまず敬礼。これはいい」
「基本ね」
「トイレに入っても風呂に入っても何処に先輩が潜んでるか分からない。四六時中気が抜けない」
「なるほど」
「新人の頃から訓練が終わったら飯・風呂・寝所の準備は先輩の分まで20分でやらなくてはならない。急げば間に合う…でも行く先々に先輩が立ってるんだ」
「敬礼しないと.ぼこぼこにされる」
「辛いね」
「それでも要領を覚えて抜け道を探して何とか時間内に収まるようになった」
「拍手」
「ある日先輩に敬礼して通り過ぎようとしたら呼び止められ「上官の前を素通りするな」と殴られた」
「なんで?敬礼したんでしょ」
「したさ。ただ施設内には警護のために飼われている犬がいてな。後で聞いたら犬にも階級がついてて三等空尉なんだ。俺達よりも階級が上…」
「またある時はいきなり対番の先輩に…対番てのは軍隊で言うバディみたいなものだ。2年になったら必ず下に対番の新人の面倒を見るんだ。その対番の先輩が「お前昼間俺が敬礼したのに無視したな」また殴られた」
「無視なんてしたの?」
「うん。気づかなかった。先輩はその時訓練中で地上500メートルの上空の練習機から俺に敬礼したと言うんだ。以来街中でも飛行機を見つけたら必ず敬礼!するようにした」
「PSDね」
「恐ろしいのはタッチ&ゴ-だ」
「タッチ&ゴ-?」
「航空学生は2年間。俺達が2年になると先輩達は卒業。卒業前に酒に酔った先輩達に急襲される。鍵をかけても何処か隠れても見つかる。見つかったら全裸にされ足を縛られ上に担がれる。タッチのかけ声で先輩達は宿舎を猛ダッシュ。その間俺達は両手を広げ飛行機になる。ゴ-で降下。廊下に擦れて大変だ。そしてランディング。廊下に着陸。そのまま放置…そしてまたゴ-!!」
「村雨さんが空自に固執する気持ちが分かるわ」
「親父もやられたし俺達もやった。イジメでは無いんだ。やられるのは目をかけていた後輩だけだからな」」話をしてる時の顔を見てたら分かる。秋子は思った。「2年になったら皆分かるんだ。訓練は毎日厳しいが先輩達は訓練を受けながら俺達の面倒を見てくれた。どんな状況でも迅速に行動し冷静さを失わない事それは戦場で命を失わない事そのままだった。大切な事は全部そこにあった。先輩が通った道を俺達も歩くんだ」
「そんな中に1人だけ曲解した人がいた訳ね」
「境遇も似ていた」
「困るわね」
「本当に」
砥石の今の状況を考えたら笑えない。2人はそれでも声を出して笑った。
「本当に何してくれてんだろうな。俺消されちまうぜ」
「だってビンラディンすっぽかしてデルタフォースとか来ちゃってんだよ-ヤバいよね-」
「さてと。もう俺行くわ」
砥石は立ち上がった。
「もうこれ以上迷惑はかけられない」
「楽しかった」
「俺もこんなに話したのは久しぶりだ。楽しかった」
立ち上がりかけた砥石に秋子は唇を重ねた。
「楽しい事だけ置いて行かないで」
同じ言葉を繰り返す。
「楽しい事だけ置いて行かないでよ」
秋子の手が素早くテ-ブルの上のメモリーを掴んだ。
「おい!何するんだ!?」
走って夫のデスクトップのある部屋まで。階段2段飛ばし。一気に駆け上がる。
「孫子の兵法は知ってる?」
2階の手刷りから砥石に声をかける。「勿論だ」 「じゃ確かめないとね」
勢い込んで夫のPCの前に座り…固まった。秋子は機械オンチだった。
「砥石さん。これどこに差せば動くの」
「差しても動かんよ」
砥石が部屋に入って来てモニターを覗き込んだ。
「夫婦なのに別室」
「今日は違うス-ツだからポケットに鍵を忘れていたわ。ラッキー!!…それ以上は詮索しないでね。今更だけど」


【美しい兵器】

上手い事PCが扱えない秋子に代わり砥石がキ-ボ-ドの前に座る。日焼けしてはいるが見た目より長くて細い指だ。
操縦士の指とはおしなべてこういうものかと秋子は指先を見つめて思った。
「隠しファイルが存在するな」
コ-ドレスのマウスを滑らせて器用にキ-を叩く。
秋子は彼が戦闘機を乗りこなす様を想像してみる。
「隠しファイル?」
「隠しファイルの見方の手順で見れてしまうのは隠した事にならないが」
部屋の中で青白い液晶の光を放つモニターにファイルを表す記号がぽつんと現れる。
「autumn」「winter」
「なんだこれは」
無造作に砥石がautumnの名前がついたフォルダをクリックする。寝室の映像が19インチの画面に写し出される。
PJ。下着姿の秋子が画面に佇んでいる。
「見たらだめ」
秋子は慌てて画面を両手で隠した。
「夫はその…カメラで撮るのが好きなの」
「そうか」
砥石は秋子の右手の先に見えている×にマウス合わせ画面を閉じた。
「夫婦なら隠しファイルにしなくていいのに」
別に私には楽しみでもなければ共有したいものでも無い。
夫がそうしたいというから撮らせているだけだ
。別に楽しくもなければ…。「winter」砥石の声は変わらず平静だった。
「多分浮気相手。名前に冬がつく女だから」
秋子は砥石の手に自分の手をのせクリックした。
何処かのホテルだろう。
カメラの前で当惑している女の姿が映る。
衣服を脱がせる見慣れた夫の手が写りユニクロの肩紐が外され女が自分で下着を降ろし。
鎖骨と貧弱な胸が露になり。カメラはゆっくりと下に下にと下りて行く。
砥石は先程と同じくファイルを閉じようとする。
秋子の手が砥石の腕を掴んでマウスから離す。
映像が流れ続ける。
画面の中から聞こえてくる女の声を聞きながら秋子は画面から目を離す事は無かった。
「男は馬鹿だ」
砥石は低い声で唸る。
「君の方が全然」
「後でメモリーに移す方法教えて」
秋子は自分でファイルを閉じた。
「さてと。じゃあ鑑賞して見ましょうか。
アメリカの国家機密ですって」
砥石は黙ってメモリーをHddに差し込んだ。

メモリーに記録されていたのは動画ファイルが1つだけ。
「意外と短いぞ」
砥石が再生をクリックすると動画が始まる。
白人の男がレンズを覗いている。
しきりにアングルを気にしているようで映像が左右に動いて室内の様子を写し出す。
何処かの部屋。
書斎のようだ。
「こいつがカメラを仕掛けてテロリストに渡したのか」
「この人テレビで観た事あるわ」
「共和党の上院議員で大統領の側近中の側近だ」
男が部屋を出て行くと暫くすると別の白人男性が犬を連れて入って来た。
「大統領」
「私服。という事はキャンプ デ-ビットか。飼ってる犬もアイリッシュ・コ-ギ-だ。やはり本物なのか!?」
映像の中の中年の白人男性はソファーに腰かけリラックスしている様子だ。時より愛犬の頭を撫でたり普段と違う表情を見せている。
「大統領の休日なんてレアだけど別に…ねえ」
「立ち上がった。部屋を出るようだ」
「これで終わり?後3分しかないよ」
「待て。ドアに内鍵をかけてる」
大統領と思わしき男は振り向いて徐にズボンと下着を下ろした。
「きゃあ。パパのと違う」
下半身を丸出しにした大統領…と思わしき男は四つ足になって犬を追いかけ始めた。そして犬に背後から覆い被さるようにして
「ガガガカ…ガンちゃん。この人犬とやってるよ」
おぞましい映像は3分間の間続いた。そして静止画。「
ご主人の部屋ですまないがタバコ…吸わせてくれ」
タバコに火を着けようとする砥石の手が微かに震えている。
「こんなものの為に殺されるなんて俺は嫌だ」
秋子の見上げる砥石の目は心なしか潤んでいる。
「こんな下らないものの為に軍隊を派遣したり人が死んだりするのね」
砥石は黙ったままだ。
「CIジョ-は兵士としてはダメだがエ-ジェントとしては凄いやつなのかもな。彼は独自の調査でこの議員とテロリストの繋がりに辿り着いていた。この議員の一族は元々7シスターズのメンバーで学生時代はクロス・ボーンのメンバーだ」
「なにそれ仮面ライダーの敵?」
「いやどちらも実在の団体だ。7シスターズはベトナム戦争からOPECが誕生するまで世界中の石油の利権を全て握っていた石油会社の複合体だ。後に衰退したが最近また力をつけて来た。但し彼の一族の会社はそこから漏れた。テロ組織の幹部の一族はイランとイラク両方に油田を持つ。
油田のパイプは思わぬところでホワイトハウスに繋がってる。ブッシュとビン・ラディンのように。クロス・ボーンはイェ-ル大にある秘密結社で…」
「どうでもいいわ」
「俺もだ」
「何で大学に秘密結社があるのかとか7人の何とか」
「うん」
「それより私は貴方の事が気になる…教えて」
「何でも聞いてくれ」
「劣化ウラン弾を貴方は醜悪な兵器と呼んだけど」
「うん」
「美しい兵器や武器を貴方は知ってる?」
「死ぬのは怖い?死について考える?」
「死より怖いものはある?あるとしたらそれはなに」
「矢継ぎ早だな」
「だってもうすぐ行ってしまうから」
「死はいつも身近にある。けれど漠然として実感がない。皆と同じだ。怖いと思うのは…光を失う事。
これは先が見渡せるだけに正直怖い。兵器は道具だ。美しいと感じた事は」
「ないのね」
「いや。今あると知った」
秋子は砥石の顔に自分の顔に近づけた
「それはなに」
「光を失う事や逃げ場のない武器…死さえも忘れさせてくれたのは君だ。君は兵器でも武器でもないが。なにものにも勝…」
秋子が彼の口を塞ぐのは2度目。最初はキッチンのテ-ブルで2度目は夫の部屋のベッドの上。
首筋から指先。足の爪先に至るまで痺れに似た震えが疾る。
それは後ろめたさとか背徳を為すが故では無く。
多分生涯で初めてで最高のー秋子はその時はそう思った。

裸のままベッドから起き上がるとPCの前に立つ。
犬で果てた大統領の顔がアップだ。閉じた。
新しい動画を再生する。
やがて秋子の左右に大きく開かれた両足が画面に大きく写し出され。塞がっていない夫の右手が盛んに動きまわるのを見つめていた。
虚ろな木のうろのようで。
画面から秋子のか細い声が耳まで届くと。
強い力でベッドに引き戻された。2度目の方が良かった。
砥石は哀しそうに秋子の顔を見て言った。
「舌を出す顔が」
「はしたないから…堪えてるの」
「構わない」
「見せたらすぐに隠して」
砥石はその通りにした。
午後の日が暮れて行く。
季節は11月。裏庭には金木犀が咲いている。
男の髪に微かに香りが残されていた。
来た時と同じように裏庭に出るキッチンの扉を開けて彼を見送った。
「不謹慎かも知れないが」
「知ってるわ」
「カレ-が美味かった」
「昨日の残りよ」
「母の作ったカレ-よりもずっと美味かった」
心の奥底でずっと聞きたいと思っていた言葉だけ置いて男は去って行く。それが過去には違う誰かに対して懐いた記憶であったとしても。今はもう昨日の事でさえ尚更に昔だ。
庭には母が生前大切にしていた金木犀が咲いている。母の死後父に頼み株分けしてもらった。
金木犀は外来の植物で日本では雄の木しか輸入は許可さていない。
けしてこの国では実をつける事はない植物なのだ。
「あなたが生まれた時はもう11月の終わり頃でね。病院から退院した時『今年は見れないけど来年は一緒に見ようねって.あなたに話しかけたのを覚えてるわ。家に帰って庭を見たら金木犀はまだ咲いていて『ああ待っていてくれたんだ』って思ったの」
「明日も明後日も家はカレ-だからね」
男の耳には届かないだろうが秋子は呟いた。
男の心はまるで石のように固い。
固いコンクリートのビルも体を切り裂くナイフや銃弾や国家でさえも。
男が作りだす固いものは全て人参やジャガイモもみたいに形が無くなり蕩けるほどに煮てしまいたいと。
秋子はカレ-の鍋を覗きこむたびに思うのだ。
私の庭に咲いた花。金木犀。私と母の花。
多くの植物たちが冬枯れの時期を迎え始める季節に強い芳香を放つ。
この世界の鉄のような石のような心を蕩けさす事は難しい。
彼の記憶にあの花の香りは今も残っているだろうか。
ア-チのような金木犀の花を掻い潜り表に出る。
ふと気がつくと。

ミャンマーカレン州南部 タイとの国境線付近の密林の戦闘地域に立っていた。


【金木犀が咲いている】



半世紀以上に渡り繰り広げられて来たミャンマー政府とカレン族との戦い。
近年では休戦と話し合いの結果戦争終結への道を辿るかに見えた。
しかし話し合いは決裂した。
力を増したミャンマー政府の圧倒的軍事力の前に俺たち民族解放部隊は徐々にタイとの国境線付近まで追い詰められて行った。
俺の名前は砥石颯真。傭兵。
仲間は俺の事をガングという愛称で呼ぶ。
時流の流れは中東だ。
傭兵仲間はイラクを経てイランに流れている。
傭兵が多く集まる国や地域を見れば次に起こる紛争や戦争の場所はすぐに分かる。
しかし俺はムスリムやアメリカに興味がない。
今回も報酬は望めそうもないが。
5日前。600人で守っていた陣地を数万の敵に包囲された。
頭も上げられないほどの銃撃に晒された。
攻撃ヘリやジェット爆撃機が投入され空から猛烈な爆撃を受けた。
ジャングルに逃げ込む。
いつ終わるとも知れない撤退行。
疲労や空腹で1センチの段差に躓く事があっても。
けして諦めない。
前に進む事を止めない。
諦めない人間しか戦場は生き残る事を許さないからだ。
始まった原因を分析したり街角で反戦の署名運動りしている人達の仲間になりたいとは俺は思わない。
目の前で脅威に晒され死に行く人達を前におれは傍観者など気どれない。
親切にしてくれた人たちや仲良くなった子どもたちの数が増えていく。
俺は傭兵として命ある限り生きて行くだろう。

ある日俺は密林を哨戒していていきなり敵に囲まれた。
15メートル圏内に侵入して来た敵の存在を察知出来なかった。
油断していたのかというのとは違う。
彼らの行動があまり俊敏だったのだ。
ミャンマー政府軍はまだ俺たちの補給基地がある場所には到達していない。
だからといって密林に敵がいないとは言い切れない。
麻薬密輸団ア族やゲリラなどと戦闘になる事も暫しばあるが。
未だ1度も姿を見せぬ敵は明らかに何処かの部隊に間違いない。
俺は背中に冷たいものが走るのを感じた。
ふいに7メートル程先のブッシュから誰かが姿を現した。
こちらに向かって指先で「投降しろ」とサインを送っている。
右手を差しだし「渡せ」と言っている。
砂漠色の戦闘服はアメリカ軍兵士のものだ。
徐々に近づくと胸につけたバッジが識別出来た。
通常のアメリカ兵士の★でも陸軍精鋭部隊デルタ・ホ-スの▲でもない。
翼とネプチューンの三又の槍をあしらった紋章は間違いなくシ-ルズだ。
海兵隊とは一線を期す海洋特殊部隊シ-ルズ。
他国の戦闘地域に易々と潜入して来た。
米軍へりも輸送機の報告は受けていない。
しかし俺には分かる。かつてはフランス外国人部隊第2落下傘部隊にいた自分だから。
レ-ダ-にも目視でも捕らえきれぬ高度1000メートル以上から自由落下し地上ぎりきりの地点で開傘を開出来る技術を持った連中。
「元シ-ルズ第6部隊。正式名称DEVGRU」
DEVGRUは1979年イラン・アメリカ大使館人質救助作戦のデルタ・フォースによる作戦失敗を機に発足した特殊部隊の名称。
世界中に全8部隊を展開する海軍特殊部隊シ-ルズの中から選抜された精鋭90からなる部隊。
当初シ-ルズ第6部隊(もしくは2BOMB-6)としてシ-ルズの指揮下にあったが1987年DEVGRUと正式に名称を改め独立を果たした。
以来指揮権はJSOCに帰属する。
米国対テロ特殊部隊。強襲部隊とも呼ばれる。
バ-ジニア州ダムテックに本拠地を構え訓練は年間365日。
うち2日の休日は共に半休。
訓練演習では全て実弾が使われ1人につき1週3000発の弾丸を消費すると言われている。
部隊90名が1年間に消費する弾丸は米国全海軍が消費する弾丸と同数である。
育成には多額の軍事費が投入され他の部隊からエ-ス級の兵士を引き抜かれるという事情から確執が生まれ忌み嫌われた部隊である

ビン・ラディン殺害に当たり中心となったのはこの部隊である。
しかし米大統領は「シ-ルズ第6部隊の活躍により…」と発表した。
シ-ルズに第6部隊はもはや存在しないにも関わらず。
非常に秘匿性の高い任務に赴く事が多いこの部隊の存在をアメリカ政府は認めていない。
俺は考えた。
アナコンダ作戦とグレナダ侵攻で長期陸上戦で脆さを露呈したシ-ルズを密林に派遣はしないと
。目の前に現れるのはデルタ・ホ-スか…シ-ルズのバッジを付けた奴等なら.それはDEVGRUだと。
予測は当たり。
その.おっかない奴等が俺を殺しに来た。
ポケットの携帯が振動する。メールだ。

「Beg for your life in English(命拾いは英語でしろ)」

目の前の敵がメールを送って来た。密林で…何処の機種だよ。
返信してみる。

RE「I can't…(出来ません)」

敵は携帯を見ると大声で読み上げた。泣きそうな声で許しを請うように。
ブッシュから笑い声が起きる。
勘違いされたようなので続きを送信。

「「I can'tspeak fack'n English」

笑い声が止んだ。

俺は走り出す。最後にメールを。

「Yankee go home!! sacking dog a born of your
Mr.President」

弾幕。

銃弾を掻い潜り俺は茂みに飛び込んだ。
1番大きな木の幹に背中を寄せる。
携帯の電源を入れてあったのは奴等に俺の居場所を知らせるため。
仲間の居る場所から少しでも遠くへと。
お前らを案内してやる。
あの指揮官。携帯の電源が入ってるのを知らせるようにメールして来やがった。
余裕か。
指揮官にユ-モアがある部隊は強い。
根拠はないが俺の部隊がそうだ。
手持ちの弾丸はカ-トリッジが1。25発。胸のポケットに5発…敵に捕まった時のために使う用だ。
あとナイフ。
何人いるかな。
左側に敵が展開して来る。俺の事はリサーチ済みらしい。重心を低く。引き金を引く。
先ほどまで動いていたブッシュが静かになる。
左側に回るなよ。死にくなければ。遠距離なら像は結べる。
俺の特技はクイック・ファイヤ-ではなくブラインド・ショットだ。枝を踏み割る音や微かな木の葉の揺れる音で充分だ。
俺の半径左側1.2メートル。その死角に飛び込んで来たのはあの子だけだ。
案内してやる。
人の通わぬ密林の奥地へと。
GPSを辿って来い。猟犬ども。
銃弾は木々に阻まれて弾かれるだろう。
そこで本当の戦闘を教えてやる。
ここは俺の庭だ。
先々には至るところにトラップが仕掛けてある。
ネズミのテ-マパ-クよりは楽しめるだろう。
村雨さんもジャングルにまで辿りついていたらと思う。
かつてデルタ・フォースの隊員は言った。
「我々はかつて英国のSASに赴き特殊部隊の全てを学んだ。もはや彼らから学ぶ事は何1つ無い。陸海空において米軍は世界の軍事をリードする」
但しその中には密林戦は含まれていない
。密林の戦闘において他の国の追随を許さない。
それがフランス外国人部隊だ。
走りながら身を隠し息を整える。
銃声は鳴り止まない。
首から胸に下げたロケットを開ける。
家族の写真など無いが。
ロケットの中には金木犀の花びらが1枚だけ。
目を閉じて彼女が好きな言葉を呟いてみる。
「タナトス」
タナトスって何だよ。まったく…若い女が。
「タナトスこそは我が墓碑に刻む真の名前。タナトスこそ我が墓碑銘」
「ガンちゃん。そこは笑うとこだよ」
彼女の声が聞こえた気がした。世田谷区の住宅街で俺は女神に出逢った。
あるいは戦の女神かと。
自然と自分の顔が綻んでいるのがわかる。
微かに金木犀の花びらが香りたつ。
ロケットを閉じて胸の奥にしまう。
暗い森を照らすのは鳴りやまぬ雷のような銃声と閃光。
勢いを増し降り出した弾幕の雨の中に俺は1人飛び込んで行った。

走る。その先に俺が生きる目的があるからだ。
生きる目的が。
走る。その先に。





金木犀が咲いている。



《 主婦とナイフと金木犀 了 》



【 あとがき 】
基本的にバカップルを描こうとしていました。
戦争ものと昼メロが苦手で・・あえて2つやってみようと。 
結果はこのありさま・・すみませんでした。

【 その他私信 】
インフル中で・・原稿遅れてご迷惑をおかけしました。


ココット固いの助
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