Mistery Circle

2017-09

《 ねがい 》 - 2012.01.31 Tue

一作目 《 ねがい 》

著者:すぅ




私は一体、この“堅物”をどうやって蕩かしたんだろう。

考えを巡らせても思い当たるフシは無い。
“堅物”とは、私の目の前で頬杖を付きながらコーヒーを飲む彼の事だ。
彼は、私の知る限りこんなにも話し、笑う人じゃなかった。
いつの間にか、彼は笑顔で無邪気に話す人になっていた。

彼を蕩かしたのは、一体何なんだろう。


「お前が居たからだよ。」
彼のその一言が答えだった。
いや、私は何もしていない。
ただ彼の傍に居ただけ・・・・それだけ。

なのに、彼はこう言う。
「馬鹿みたいに頑なだった自分を、お前が変えた。」と。
「昔と変わらないね」と無邪気に聞く私に、いつも彼はそう答える。
そんな事ないよ、と返しても、いいやそんな事ない、と返される。
「俺を変えたのは、お前だよ。」と笑いながら 言ってくれる。
人に感化されて人は変わる、そんな事を以前も言っていたっけ。
勿論そう言って貰えるのは嬉しい。
でも、自分を変えることができるのは自分だけ 、と考える私には納得がいかなかった。
だって私は、ただ、出会ったから傍に居ただけ。
ただ、好きだから傍に居ただけ。
ただ、愛しているから傍に居ただけ。
ただ、ただ、ただ、私は彼の傍に居た、ただそれだけだった。


ただそれだけの私に、彼はたくさんの物を与えてくれた。
初めてのプレゼントは、私の好きなキャラクターのグッズだった。
覚えていてくれた事が嬉しくて、今でも大事に使っている。


ドライブでも、彼のお気に入りの場所へ連れて行って貰った。
「ここの夜景は綺麗なんだ。」と自慢げに話す彼が、なんだか可愛かった。
そう、ただそれだけの私に彼はいつだって笑顔をくれる。
私は、彼にどれだけの笑顔をあげられたのかな・・・・・・・・・・・。


-------------------------------------------------------


「ねぇ・・・。」
寒さが日に日に増していく12月の夕暮れ、私と彼は華やぐ街中を歩いていた。
冷たい風の吹く中、つないだ手だけが暖かい。
時期が時期だけに、行き交う人々は恋人同士ばかり。
皆が皆、一番愛しい人の傍にあんなにも笑っている。

何故だろう、こんなにも胸が苦しくなるのは。
ふいに彼のぬくもりが伝わってくる左手をギュっ、と握りしめた。
「どうした?」
私より頭一つ高いところから、少し心配そうな声が聞こえる。

「ねぇ・・・。」
私はもう一度繰り返す。
今度は、彼の瞳を見つめながら。
「どうした?」
彼も、次は私の瞳を見つめながら優しく繰り返す。
急に立ち止まったせいで、後ろを歩いていた人達が避けた後の訝しげな視線を感じる。

でも、視線は感じるだけで視界には入らない。
何故なら、その時、彼の唇が私の唇に重なったから。
その短いキスは、私が欲しかった答えだった。

そして、また歩き出した彼に引っ張られ、私も前を向いた。
彼の歩幅に合わせて歩く。
また、彼も私の歩幅に合わせて歩く。
二人の歩幅は重ならない。
でもそれがなんだか心地良くて楽しかった。


手をつなぎ、ゆっくりと歩きながら、夜空にある星より、鮮やかに輝くイルミネーションを二人で眺めた。
「綺麗」と、周りに居る人々が口にするが、私は、そんな台詞を言う気にもならなかった。
彼と居るだけで幸せで、イルミネーションさえ 色あせて見えてしまったからだ。
そんなイルミネーションを「綺麗」と言う人々さえ、陳腐に見えてきてしまう。


無意識に、彼の腕にしがみついていた私のそんな想いを知ってか知らずか、 「俺が引いた引鉄だ・・・。」と彼が呟いた。
彼のその一言に、何も言わず頷く私。
今度は彼が私の手を強く握り、速足で歩き始めていた。

---------------------------------------------------------

その夜私は、彼と結ばれた。
まるで、鎖から解き放たれた獣が獲物を見つけたかのように。
彼が私を求め、私も彼を求めた。
乱れ啼き、疲れ果て、彼の腕の中でやがて眠りに付いた。


私の頭を撫でる手に気付き、目を覚ました私に 彼は語ってくれた。
彼が“堅物”では無くなった理由を、ポツリポツリ と。

辛い学校時代を過ごしていた事。
何度も学校を辞めて、一人消えてしまおうと思った事。
そんな彼を、私が救おうと悩んでいた事を知った事。
ずっと隠していた想いを打ち明ける決意をした事。
私を、これから先ずっと護っていこうと思った 事。

だから、変わろうと思った。


不器用に、でも言葉に乗せた気持ちがしっかり私に伝わるように・・・。
ゆっくりゆっくりと、彼の心にあった氷が融けていく。
そんな泣きながら話す彼の背中を擦りながら、私は何度も頷く。

「知ってた・・・・。」

私は、くしゃくしゃになった彼の顔を見ながら呟いた。

「いつも苦しんでた事、私知ってたよ。」

知ってた、でも聞かなかった。
いずれ彼の口から伝えてくれると信じて。

「やっと伝えてくれた・・・・・。」


知ってたくせに、聞かなかった私は卑怯者だ。
でも、私はその想いを彼の口から聞きたかった。
神様は、こんな我侭を許してくれるのだろうか。
・・・一番許しを請うべきなのは彼、のはずなのに。
彼は、そんな私の葛藤を汲んでくれたのかもしれない。
だって、さっきよりも私の手を握る力が強くなって。
私の瞳を見つめる目に、優しさが宿っているのが分かるから。

ありがとう、許してくれるんだね。
そう伝えるよりも早く、私は彼に抱き寄せられた。
「やっと伝えられた・・・。」


彼に抱き締められる力が一層強くなった。
また求められる。
彼が時々上げる咆哮に、身体が震える。
私もそれに応えるように、声を上げる。
例えるなら体の中で、血が沸騰しているような声だ。
やっと、“堅物”を蕩かしたのは私だったのだと実感できた。


「愛してるよ、ずっとそう言いたかった・・・。」

彼に身体を預けながら、私も答える。







「うん・・・私も愛してるよ、お兄ちゃん。」



《 ねがい 了 》

● COMMENT ●


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック:

http://misterycirclenovels.blog.fc2.com/tb.php/150-bd9f8fb5
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

《 Mr. 》 «  | BLOG TOP |  » 《 主婦とナイフと金木犀 》

プロフィール

MC運営委員会

Author:MC運営委員会
このブログの八割は、カボチャで構成されております。

カテゴリ

Mistery Circle(メインカテゴリ) (39)
寸評 (29)
MCルール説明 (1)
お知らせ (36)
参加受付 (24)
出題 (35)
メールフォーム (3)
内藤クンのおもちゃの部屋 (9)
天野さんの秘密の部屋 (8)
Ms.伍長の黙示録の部屋 (0)
伊闇かなでの開かずの部屋 (4)
未分類 (27)
亞季 (2)
いつき (1)
伊闇かなで (2)
空蝉八尋 (4)
黒猫ルドラ (12)
ココット固いの助 (21)
桜井 (1)
桜朔夜 (1)
鎖衝 (11)
知 (21)
しどー (12)
瞬 (3)
白乙 (12)
すぅ (13)
すずはらなずな (29)
田川ミメイ (2)
辻マリ (14)
夏海 (3)
七穂 (1)
氷桜夕雅 (30)
ひとみん (4)
松永夏馬 (12)
望月 (8)
幸坂かゆり (21)
李九龍 (13)
りん (3)
ろく (1)
Clown (12)
MOJO (1)
pink sand (9)
rudo (8)
×丸 (4)
MC参加者に聞け (7)
Mistery Circle ヒストリー (1)

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

検索フォーム