Mistery Circle

2017-07

《 ステップガールとワイバーンの領主 》 - 2012.07.03 Tue

《 ステップガールとワイバーンの領主 》

 著者:味噌風味ココット固いの助








【 ダッフォデイルとロンドンの防壁 】



ドア越しに床に倒れている男に声をかけてみたが彼は答えなかった。






夕暮れ時になると橋の向こうに軒を連ねるパブに明かりが灯る

時刻はまだ午前だというのに。

さっきまでいたのは阿片窟。

追い出された彼女はパブの灯りを待っていた。
ハマ-スミス橋の緑と金、お城のような塔が中央に聳える。

「まったくこの国は橋を渡るにも金がいるんだね」

懐かしい声が聞こえた気がしたけど、多分そら耳。

昔、1人の娘が泣きながら橋の上からカ-ドを投げ捨てた。

未来を占うカ-ドは風に舞いテムズ川の水の上を流れた。

それも今思えば随分昔の話に思える。

橋向こうは血濡れの心臓通り。

彼女の住む部屋もそこにある。

部屋の床に落ちた水晶玉が砕けて割れた。
所詮硝子で作られた偽物、割れて失われたところで何もない。

なにもかもが偽物なのだから。

割れた水晶玉から生まれたように女の子が1人彼女の部屋から飛び出した。

橋の上には食べ物を売る行商人や見物客も大勢いて、その場に倒れ込んだ老婆の周囲には人が集まり始めていた。



「霊です、これは全て貴方についた霊の仕業なんです」

言うが早いか女の子は扉をノックした紳士の腕を掴み外へ飛び出す。
部屋の中には砕けた硝子に囲まれ大の字になった紳士がもう1人倒れていた。
男は呼びかけても何も答えない。

「大丈夫!死んでませから!」

振り向くと驚くほどあどけない少女の顔がそこにある。

染み1つないビスクのように美しい顔と金糸のような髪は直ぐに薄汚い外套のフ-ドの奥深くに隠れてしまった。



「僕は君の犬だ」振り向くと彼女は彼にそう言って、かん高い声で吠えて見せた。

彼は答えなかった。

「僕は君がこの森に捨てた犬だよ」

彼が答えないので、彼女は彼にもう一度言った。

「僕は犬なんて森に捨ててない」

「私はこの森で貴方に絞め殺された女」

「僕は女なんて絞め殺さない」

「本当にそうかしら」

「でたらめや言いがかりは止めてくれ」

「生まれる前に捨てたかも、殺したかも、ええきっとそうしたはずよ」

頼りにならない霊能力者めと、彼は舌打ちをした。

彼女はドルイド僧を思わせる灰色のコ-トに身を包み頭巾のようなフ-ドを眉の下深くまで被っていた。

ドルイドの語源は確か、この森の木々と同じオ-ク、【オ-クの賢者】という意味だ。

彼の記憶だとア-サ-王伝説に登場する魔術師マ-リンはドルイドだ。
彼女がマ-リンのようなら頼りになるのだけれど。

「御主人様」

「今度は何だ」

「私は銀の食器なんて盗んでおりません」

「君がそう言うなら盗んでないだろうな」

「御主人様にメイドとして誠心誠意仕えて参りましたのに疑いをかけられ処刑された…」

「知らない知らない」

「心に決めたフォロワ-がいましたのに、生娘の私にあんな事やそんな事まで」

「しっかりしてくれ!霊媒師が悪霊に取り憑かれてどうする!」

「枝ぶりは、まあよしとしようじゃないか…だがこの野郎!靴が頭の上ってのはどういう訳なんだ!くそったれが!」

「私まだ子供だったのに」

リリスみたいに顔の表情や声が変わる。

これが憑依というものか。

取り憑かれ放題のなすがまま。

もう、いちいち受け応えするのにも疲れた。

「この辺りは確かジキルとハイドのハイドが最後を迎えた場所」

「それだけは呼び出さないでくれ」

「フィクションですよ、御主人様」

お前がジキルとハイドみたいになってるじゃないか。

彼女が次々口にするのは森の言葉、その恨みつらみや罵詈雑言を浴びながら依頼者の男と霊能者の若い女は森の奥へと進んだ。

「フィールド・ワ-クなんて大げさなもんじゃあない…散策、そう、旅先で様子のいい森を見つけたんで歩いてみようと思った、それだけ…なんだ」

「霊が360体憑いています」

。若い霊能者の女性は彼を見るなり事も無げにそう言った。

眠っている時も起きている時も耳について離れない。

おそらくは死者の声であろう事は彼にも察しがついた。

彼女のもとを訪れた時は睡眠不足と恐怖から彼の精神は崩壊寸前だった。

思い剰って飛び込んだ阿片窟で無為な時を重ね、アブサンの幻覚に身を委ねた。
そこで彼女の噂を聞き、訪ねる事にしたのだ。

「旅先で、とある森に足を踏み入れて以来」

「その森が原因です」

即答過ぎる即答。

「森?幽霊ではなく森がですか…」

「解決には、再びその森を訪れる必要がありますね」

そこまでの彼女の判断は正しいように思えた。

こんなおかしな事が起き始めたのは、あの森に行ってからだ。

「要するに貴方は森に森の中で死んだ死者を全部押し付けられたんですよ」

幽鬼や魔女が棲処にしそうなお伽噺に出てくる森ではない。

きちんと人が歩ける遊歩道が敷かれた郊外の森林公園だった。

「森が人に幽霊を押し付けるなんて、そんな事ってあるのか」

「ここは自殺の名所ですから…あんまり多いと森だってうんざりします」

ふいに前を歩く彼女の足が止まる。彼は彼女の背中にぶつかりそうになる。

「さあ、着きました。これが、かつて【ワイバ-ンの絞首台】と呼ばれた樹です」

旅行ガイドのような口調で彼女は言った。

確かに、竜の姿に似ていなくもない。

周囲を木の柵で囲まれたオ-クの大木。

これまで多くの重罪人がこの木に吊るされた。

今修道服姿でロンドンから馬車で引き摺られ通り過ぎた男の名はジョン・ストーリー。

1641年彼はエリザベス1世に従う事を拒み続けたカソリック教徒で、この樹に最初に吊るされた。

ロンドンのニューゲート監獄から、セント・ジャイルズ・イン・ザ゛・フィールド゛教会とオックスフォード゛街を経て、ワイバ-ンへ向かう道行き。

処刑場があったワイバ-ンの村名は村の南西を流れる竜の形状を思わせる小川に由来する。

最初に小川の隣で死刑が執行されたのは、1196年であった。

ロンドンにおいて重税に対する暴動を指揮したウィリアム・フイッツ・オズバ-ン。

彼は裸にされて馬に引きずられてワイバーンへ連れてこられ、絞首刑にされた。

1641年、「ワイバ-ン・ツリー」という自然木を利用した絞首台が現在の場所に設置された。

理由はそれまで絞首に使用していた大木が経年のため倒れてしまったためである。

「何故数ある木の中で、この木が絞首台に選ばれたか分かりますか」

「いや」

「大きさや梢のしっかりした…というのも理由だけど見た目が一番竜の姿に似ていたから」

『ツリー』または『三連の木』は絞首台の形状から由来しており、三角形の三角に水平に木を据えてあった。

簡素な階段も備えつけられていた。

何人もの重罪犯がここで絞首刑にされ、時には観衆を集めての公開処刑も行われた。

1649年6月23日、23人の男と1人の女が一斉に吊され、死体は8つの馬車で運び出された。

ワイバ-ン・ツリーは、西ロンドンの名所となり、旅行者に対して明確な法の戒めの象徴となっていた。

処刑後、遺体は近くに埋葬されるか、医者によって解剖目的のために持ち去られた。

チャールズ1世に処刑の判決を下した裁判官ジョン・ブラッド゛ショウとヘンリー・アイアトン、オリバー・クロムエル。

彼らは既に病没していたが王政復古後に墓場から引き摺り出された。

1661年1月、父王処刑の報復としてチャ-ルズ2世の命令で墓から掘り起こされ、刑場に吊された。

処刑はいつも決まって日曜日に執行された。

公開処刑は一般庶民の見せ物として非常に人気があり、常に100人程度の観衆が集まった。

商魂たくましいワイバ-ンの領主は、見物人のために大きな観覧席を設置し、席料をとった。ある時、観覧席が突然崩壊し、約100人の死傷者が出た。

これが人々の恐怖心を煽り処刑を見るものがなくなるかといえばそうはならず、ロンドンにおける庶民的な休日の過ごし方として続行されたのである。

英国に於いて『ワイバ-ン』という言葉は、古典的英語表現として婉曲的に用いられることがある。

『ワイバ-ンの荘園領主』(Lord of The Manor of wyburn)とは『公開処刑された者』を意味するし、『ワイバ-ンジグを踊る』( dancing the wyburn jig、ジグとはアイルランド発祥の踊りの名前)とは絞首刑にされた罪人が足をばたつかせ、もがき苦しみ動く様を指す。

既決囚はニューゲート監獄から屋根のない牛車に乗せられここへ移された。

彼らは、観劇に行くが如く手持ちの中で一番いい服を着て、無頓着に、さっさと死んでいった。

彼らは刑場へ向かう途中、リカ-ハウスで降りて『最後の1杯』を飲むことが許されていた。

観衆は潔い死に様には拍手喝采で送り、死刑囚の一部が死ぬのを怖がり騒ぎ立てようものなら野次を飛ばして嘲った。

ワイバ-ンで最後に死んだ死刑囚は、1783年11月3日、旅行者ばかりを狙って殺していた強盗犯ジョン・オ-スティンであった。

18世紀半ばになると英国内での公開処刑は廃止された。

ワイバ-ンツリーの梢や枝から縄が外され処刑台は解体された。

過去を覆い隠すように木の周囲にはオ-クの木が植えられ、森が作られた。今ではワイバ-ンという地名すら僅かな地域にしか残されていない。

そして19世紀を迎えた今、ワイバ-ンの領主達は皆もみの木に吊るされ色褪せ忘れられた靴下みたいに見えた。

夥しい数の人々が鈴生りになって吊るされ、祈ったり、お掃除したり演説したり恫喝したり…生きていた時と同様泣いたり笑ったりしていた。

だれも自分以外の存在には目もくれない。

「樹が可哀想」

宙を見据えて彼女は呟いた。

吐く息が白い。

この国にも海峡を渡る寒波が押し寄せる季節が近づいていた。

「樹が思う事があるとすれば樹として生まれ樹として朽ち果てる、ただそれだけなのに、竜の姿さえ知らないのに」

「君は樹木の言葉が分かるのか」

「私の祖母はロマ系のジプシ-の占い師でね。花や石の言葉を聞いて占いをしたと聞く、私はどうやらその血筋を引いたらしい。母にはそんな力はなかった」

「だから霊媒師に」

「人が起こした罪は人の巷で収めればよい話。悪人がどれだけ殺されようが、人が自ら信じるもののために命を賭して殉じようと、森の木々には何も係わりのない事だ」

「木や森がそう君に」

「いや、これは私の気持ちを言ったまでだ」

「街から海は遠いからな」

「人は都合の悪いものは全て森に隠すんだ」

ズタズタに引き裂かれたメイド服の女が歯を鳴らしながら怯えた顔でナイフを構えている。

その少女と目線を交わし彼女は俯いた。

「この樹にはメイドも沢山吊るされたようだ」

「雇い主の性的強要や暴行から身を守るための過失致死事件か…野蛮人が急に金を手にすると必ず、こういう悲劇が起きるものだ」

「それでも、この国では人を殺めれば死罪が待っている」

彼女は先頭に立って歩き始めた。

「死者との語らいにはきりがない、帰るとしよう」

「ちょっと待ってくれ!僕に取りついた360人の幽霊は…そのままなのかい?」

「彼らはこの土地から動けないよ、ずっと業と因果で編んだ縄で繋がれたままだ」

「それじゃあ僕は」

「諮らずも、この場所を通りかかり死者の魂と折り重なってしまった。いや…」

彼女の緋色の瞳が彼の目を真っ直ぐに見つめ返す。

目元に小さな星の瞬きのようなそばかすが残る顔は案外幼げだ。

見た目よりも、もっと、ずっと若いのかも知れないなと彼は思った。

「あるいはシンパシイとか」

彼は答えなかった。答える事が出来なかったと言った方が正解かも知れない。

「さあ行こう、長居は無用だ」

彼女は振り向く事さえしなかった。

「ねえ、君。君なら彼処にいる死者達をどうにか出来るんじゃないのかな」

「そんな事をして何になる」

森の中を駆け回る小動物を思わせる俊敏な動き。

迷いのない足取り。落ち着き抑制のきいた低い声色。

これが本来の彼女の姿なのだろうかと彼は考えを逡巡させる。

で、すぐに置いて行かれそうになる。

「2世紀分の死者の面倒など私はごめんだね。本職の人間ならば1人でも関わらず素通りするのが常識さ。カンタベリーでふんぞり返る、あの救いたがりの連中に頼めばいいさ」

「教会は幽霊の存在なんて認めないさ」

「さもあろうさ」

「この国は昔から幽霊屋敷や幽霊話には事欠かないというのに」

創世記の一節にある。主が約束を違えて善悪の知識の木の実を食べたアダムに対して言い渡した罪状の一文。

創世記3/19

お前は顔に汗を流してパンを得る、土に返るときまで。

お前がそこから取られた土に。

塵にすぎないお前は塵に返る。

「灰は灰に」

「塵は塵に…なんて言い種だろうね、まったく!大嫌いな言葉さ!」

「この国の国王は昔妻を次々に取り替え、離婚した妻たちを幽霊だらけだと噂のロンドン塔に閉じ込めた。ロ-マ国教会では信者の離婚は禁止されていて、それでも離婚して他の女と結婚したかった国王はロ-マ教会を国から追い払ってイングランド国教会を設立した。最高責任者は勿論国王本人だと議会で裁決させた…この国の信仰は他の国の宝物同様に大英博物館の陳列品だ」

「歴史に詳しいのだな」

彼女の言葉に彼は深く頷いた。

「それこそが幼き頃より私の生きる糧でした」

歴史学者になりたかっのだと彼は彼女に言った。

「幼少の頃から病弱でね、荘園の後取りという事もあり手厚く育てられたが外には出られなかった…昔から書物が友人で慰めだった」

書物があれば学者になれるという訳ではないからな」

「その通り、私は家督を継がねばならぬ身分。それに既に書かれた歴史の本だけ読んでいても歴史学者にはなれない、大切なのは自分の足で集めた知識、つまりフィールドワ-クなんだ」

「書物に残された歴史は勝者のみによって語る事を許された歴史だからね」

「敗者の歴史こそが私が知りたいと願う」

そこまで言いかけて男は、はっとしたように女の顔を見た。

「そういう事か!」
男は自らの掌で顔を覆う。

嗚咽こそ漏らさぬようにしていたが、溢れでる涙を堪えているように見えた。

そんな男の様子には目もくれず乾いた声で女が言った。

「どうやら私たちはようやく森の入り口に着いたようだね」

「首尾よく入り口まで辿り着いたのは幸い、ここは死者の領域で、死者の時間は生者より無限で、加えて死者は生者よりも足が早い…今風が吹いたね」

女の見据える先に気配を感じ、男は振り向いた。

首に縄を掛けられたままの死者の群れが背後に迫っていた。


「ところで私はアンチクライストだ」

「祓魔師の真似事はしないと確かに聞いたが、私はこの場合は嘆くべきか、笑ってよいのか」

「たとえ神様であろうと天使様であろうと、死して尚私の頭の上に誰かの足があるなんて、そんなくそったれな天国があるものかね」

「先程のあれは、貴女の台詞でしたか」

「私は家や土地を持たない流浪の民、ロマのジプシ-の娘として生まれた」

「どうりで」

「おや、気づいていたのかい?」

「いや、初めてあって森を歩く途中まで貴女の顔にそばかすなんて無かったと不思議に思っていました」

「あんた良い学者になれるかも知れないね」

「私には時間がありません…少なくとも貴女にお会いするまでは、そう思っていました」

「まあ、年寄りの話は最後まで聞くもんさ」

女は死者の群れなど全く意にかいさぬといった様子で話し始めた。

「私は幼い頃から蛙の目玉で作った首飾りを欲しがったりイモリや木の根を煎じて弟や妹たちに飲ませようとする変な子供だったよ。それでも両親は倹しい暮らしの中でも私を大切に育ててくれた。やがて師に出逢い部族を離れ、師と分かれた後に出会った男と結ばれ、へ-ゼルという名前の可愛い娘も授かった…私の孫、つまりこの娘の母親だ」

「実に可愛いらしいお嬢さんですね」

「ありがとう、自慢の孫さ。ただ…」

「ただ、なんです?」

「踵に羽根が生えたような性格の娘でね、なんというか、ふんわりし過ぎて」

「この仕事には向かない?」

「そうだ、死者なんて相手にしてたら、たちまち、つけ込まれて、とり殺されちまうね」

「それで貴女は亡くなられた後も、お孫さんの代わりに霊媒師の仕事を」

「その通りだ」

「夢のお告げでもして、お孫さんに辞めるように進言したらどうです」

「それが出来れば苦労はないんだが」

彼女が言うには彼女と彼女の孫は驚く程似ているのだという。

「魂から器まで私と孫はそっくりでね、孫の前に現れると私の魂は孫と同化してしまうのさ」

魂が本来の自分の肉体だと勘違いしてしまう…というのが彼女の考えだった。

「まったく義理固いにも程があるって言うのかねえ」

孫娘は昔から彼女になついてくれた。

彼女も勿論孫娘を可愛いがった。

孫娘は彼女の資質を受け継いでいた

。花の言葉や石の記憶を辿る事が出来る娘だった。

「お前は、お祖母ちゃんと同じ力があるんだよ。将来はお祖母ちゃんより、ずっと凄い力が持てるかもね」

「力って魔法?」

「まあ、そんなところかね」

「お祖母ちゃんは魔法使い?」

「まあ、そんなとこかね」

「じゃあ私も魔法使いになる、それでお祖母ちゃんみたいに困ってる人を助けてあげるの」

「そんな風にお前が立派になるまで私は死ねやしないね」

しかし彼女は孫娘が7つの誕生日を迎えた翌月に肺炎でこの世を去った。

孫に誇れるような魔法使いなんかじゃなかった。

ただ少しだけ他の人には聞こえない草や木や石の声が聞こえ、死者の姿が見えるだけ。

その乏しい力を頼りに占いや霊媒で生計を立てていた。

でもね、魔法使いじゃなくても良かったんだ。

彼女は誇らしかった。

傍らで泣いてくれる娘や孫がいて、上々の人生じゃないか。

人は鮫と同じで前にしか進めない。

私は天国なんて信じない。

きっと多分だけど、あの世もこの世も地続きで。

先に逝ったあの人も、私に生きる力を授けてくれた神様だって、きっと生きてきた道の続きに皆居る筈さ。

だから私は前に進めばいい。

生きて来た時と同じように。

魂を運ぶ人の体は鮫に似ている。

立ち止まっていると思う時でさえ、前へ前へと進むだけだ。

どうやら気が遠くなって来たね。

「お祖母ちゃん!死なないで!」

ありがとうよ、私のために、そんなに泣いてくれて。

「お祖母ちゃん約束する!私お祖母ちゃんみたいな大魔法使いになって、お祖母ちゃんを生き返らせる!絶対魔法使いになるんだから…お祖母ちゃん!お返事して頂戴」

いや…そんな約束はしなくて…いいよ。

いまわの際に彼女は小さな欠伸を1つした。

「お返事した!」

「お母さん!今確かにお返事したね」

まさか…まさか…ねえ。


孫の魔法で彼女が生き返った訳ではなかった。

しかし彼女は思いとは裏腹にこの地に留まった。

「それが私の未練だったのかも知れないね」

彼女が亡くなってから7年後に娘のヘ-ゼルが病で旅立って行った。

彼女はヘ-ゼルの前に姿を見せなかった。

夜明け前遮蔽機をつけた黒馬が引く馬車で、ヘ-ゼルの夫が彼女を迎えに来たからだ。

ヘ-ゼルは何度も自分の亡骸と愛娘のいる部屋の窓を振り返りながら馬車に乗り自分の行くべき旅路にについた。

「ヘ-ゼル心配するでないよ。あの子の事は私が見てるから」

遠ざかる馬車に向かって彼女は呟いた。

「ヘ-ゼル良い旅を!」

ふいに馬車の窓からヘ-ゼルが手を伸ばした。

白い手袋が蝶のように夜の空気の中を、ひらひら舞うのが見えた。娘が母の手に履かせてくれたシルクの手袋だった。

黒のフォーマルドレスに白いワイシャツは仕事着だった。

胸には以前ヘ-ゼルの誕生日に仕事仲間が贈ってくれたブローチが飾られた。

ヘ-ゼルの枝に小鳥が一羽。

彼女の宝物だった。

ヘ-ゼルは夫を百日咳の流行り病で亡くすと娘時代からの仕事に戻った。

職場は以前の勤め先とは違っていたが、そこでも忽ち頭角を現して以前と同じ責任ある立場に就いた。

部下を育てるのが大変上手で自らもよく働いたので葬式は弔問の客で終始賑やかであった。

娘を特別に職場に連れて来る事も許され、ヘ-ゼルが仕事中も誰彼となく面倒を見てくれた。

たまに孫を預けに来る事もあったが多分そんな必要は実は、なかったのかも知れない。

娘はただ孫と遊ぶ時間をくれたに違いない、と彼女は思うのだ。

そんな時もヘ-ゼルは今と同じように馬車から手を振ってみせた。

「ちょっとパブでスタウトを一杯ひっかけて戻るわ」

そんな感じだ。

何時からだろう?人は鮫に似ているなんて思うようになったのは。それは私がヘ-ゼルという娘を生んでからだと彼女は、その時理解した。

父親と同じ褐色の肌を受け継いだ、我が娘ヘ-ゼルの魂は他の誰よりも鮫に似ていた。

最後まで自動車に乗るのを嫌い車輪の轍が残らない馬車に乗って旅立った。

ヘ-ゼルは娘に必要な事を教え働く自分の姿を見せ、自分の夢を娘に語って聞かせた。

けして、それを娘に押し付けたりはしなかった。

それでも娘は母親と同じ夢を抱くようになったようだ。

「私、お母さんと同じ仕事をして、いつかお母さんみたいになるの」

その言葉を孫娘が母親に話すのを聞いて彼女は心から安堵した。

以前、彼女の遺品が整理される時に孫娘は彼女のコ-トを泣きながら抱いて離そうとしなかった。

仕事で彼女が着ていたコ-トには特別な魔力が宿る訳ではない。

けれど孫娘はそれを魔法使いのマントだと思い込んでいた。

時々洋服箪笥から出しては眺めている孫娘を見るにつけ不安になったものだ。

心の礎である愛する者を失った時誰もがそうであるように母親を失った娘もしばらくは家に隠り何もしなかった。

しかし祖母が、母親が、そうであったように彼女も立ち上がって仕事をしようと衣装箪笥を開けた。

生前母親が自分の希望を聞いて取り寄せてくれた仕事着。

そして祖母のコ-ト。

その2着をハンガーに掛けて、しばらくの間思案するように見つめていた。

母親の用意してくれた制服に手が伸びる。

「そうだ、それでいいんだよ。そっちの方があんたに似合ってるよ」

孫娘の選択に彼女は思わず小さな拍手を送った。

しかし孫娘は母親の用意した制服に着替え終わると、その上から祖母のコ-トを羽織り猛烈な勢いで表に飛び出して行った。

「お孫さんは両方やるつもりだったんですね」

「ああ、まったく頭が痛い話しさ…あんた私の心が安らぐように祈っておくれよ」


彼女は、ため息混じりに言った。

「帽子を2つ被れる程あの子は器用じゃない、だって私の孫だもの」

「ブリーディング・ハ-ト・コ-トにはノ-ラという凄い霊媒師がいると阿片窟で噂を聞いたのですが」

「そのノ-ラは私の孫じゃない」

「教えられた住所には貴女…お孫さんがいましたよ」
「阿片窟で『何かお悩みかい?浮かない顔だねえ』…とかなんとか言って話しかけて来たばばあがいたはずさ」

「ええ確かに」

「その女がノ-ラ・オブライエンさ」

「どういう事ですか」

「つまり、あんたはインチキ霊媒師にカモられるとこだったって事さ」

「つまり、お孫さんは詐欺の片棒を担がされていると?」

「言いにくい話しだけど、その通りだよ」

彼女の話しによるとノ-ラは昔彼女が請われて除霊した事がある女性だった。

「確か家族はアイルランド系で7ダイアル辺りに住んでたはすだよ。父親はグレイズの通りで小さな仕立て屋を営んでいたね。私はノ-ラの実家に呼ばれて行ったんだ…私が17、あの娘は15だった」

ノ-ラ・オブライエンは小さい頃から近所で「魔女」と噂されていた。

「昔から他の人が見えない人が『見える』、聞こえない声が『聞こえる』と言っては近所の人や家族を怖がらせる、厄介者だったんだ」

客商売をしているノ-ラの父親は娘が外に出て、おかしな事を言い出さないように部屋に閉じ込めてしまった。

「親父さんの商いは順調だったし娘を1人部屋に囲うぐらいの余裕はあった、窓から逃げ出さないように格子がついた部屋だけどね」

しかし娘盛りを迎える自分の娘をいつまでも家に閉じ込めて置くわけにも行かず、彼女に相談を持ち掛けた。

霊媒師としての彼女の評判は西ロンドンでは、かなり広まっていた。

「学校にも職にも就けない娘だが、せめて結婚ぐらいはさせてやりたい」

そう言われて訪れた彼女の部屋は夜でもないのに漆黒だった。

壁にも床にも「喋るな」と言われた死者の呟きが、びっしりと上書きされていた。

「ノ-ラはね、寸でのところで正気を保っていたよ。親の「喋るな」という言い付けをきちんと理解して守るくらいにはね。彼女は私の顔を見るなり「両親に申し訳ない」そう言って泣いたんだ。彼女は魔女でもないし幽霊にとり憑かれた訳でもなく、ただ本物だっただけだ」

「本物」

「本物は本物さ」

「さっきインチキだと」

「今はね、昔は違ってたよ」

「目に見えていないものの気配がしたりや聞こえるはずのない咳払いなんか聞こえたら、そりゃ確かに恐いだろうさ、それがあんたには見えたり聞こえたりする、そうだねノ-ラ?」

ノ-ラは彼女の言葉に力なく頷いた。

頷くというより、すべての望みから見放され項垂れる受難のキリストのように彼女の目には映った。

「わざわざ見えてるものを恐がる必要なんてないんだよ、ノ-ラ・オブライエン」

ノ-ラが、はっとして顔を上げる。

それよりも早く彼女の手はノ-ラのか細い指先に触れていた。

「さあ立って行くんだよノ-ラ!」

「行くって何処へ」

「決まってるじゃないか。なるべく、人がたっくさん集まるとこさ」

ノ-ラは目の前で手を振って何か言いかけた。

けれど彼女は満面の笑みでノ-ラに言った。

「大丈夫、私を信用しな」

「黙ってたってベッドで過ごさなきゃならない日は、いつかやって来るんだからさ、ノ-ラ・オブライエン、あんたが今しなきゃならないのは人に慣れる事さ」

手は繋いだままだった。彼女の漆喰の歯が一本抜けた笑顔を見てノ-ラは黙って頷いた。

「魔法使いは自分の虫歯は治せない?」

そう彼女に訊ねてみたかった。

その日彼女はノ-ラの両親に「あまり大げさにしないでくれ」と念押しした上で「今からノ-ラとピクニックに行く」と伝えた。

「ノ-ラに似合う綺麗なドレスと、出かける前に髪を鋤いてやって欲しい」

父親は夫婦の寝室からノ-ラのために仕立てたドレスを山程抱えてやって来た。

そして部屋中にハンガーで洋服を掛け終えると何も言わず出て行った。

ベッドに腰かけ母親に髪を鋤いてもらう間ノ-ラは無表情で壁に掛けられたドレスを眺めていた。

けれどもその間もノ-ラの膝が忙しなく上下するのを若い霊媒師は見逃さなかった。

母親は娘の髪に瑠璃色のリボンを結ぼうと躍起になったが娘は執拗に拒んだので諦めざるを得なかった。

午後のお茶に出されるはずだったクローデッドクリームに杏のジャムをのせたスコ-ンやリンゴのプディング、アイリッシュウィスキーに漬け込んだドライフル-ツを生地に詰めて焼いたミンスパイはバスケットケ-スに詰め込まれるだけ詰め込まれ2人に手渡された。

庶民にはとても高価なキュウリをふんだんに使ったキュ-カンサンドも…作りたかったが3月のこの時期に夏野菜は手に入らない。

代わりに揚げたジャガイモをチ-ズとバターで挟んだクリスプサンドがバスケットに押し込められた。

まるで貴族のような弁当を手に2人は市内を歩いた。

寺院での午前中の礼拝を終えたカソリック教徒が長い行列を作るア-メン通り。

当時新設されたばかりのテムズ・バレー大学は昔も今も英国で最も大きな大学で構内も大学の外も大勢の学生で賑わっていた。

旧ポルトガル通りはピカデリー・サ-カスに名前を変え、地下鉄が開通したばかり。

観劇のための劇場が建ち並ぶロンドン1の歓楽街に変貌しつつあった。

当時の混雑ぶりを文豪ディケンズは「パリの大通りにも見劣りしない盛況ぶり」と記している。

ランチのバスケットなど優雅に広げる場所など何処にもなかった。

「人に酔った、散々歩いたし…もう帰ろう」

元々彼女自身が人混みが大の苦手だった。

お腹が空きすぎて気持ちが悪いし都会の空気は体にも悪い。

ノ-ラは最初のうちだけ人の目を気にしてオドオドしていたが、直ぐに慣れた様子で彼女の後について歩いた。

あまり疲れた様子もない。

通行人の中には時々立ち止まって彼女を遠くから見る男もいた。

ノ-ラが彼女の顔を見る。

「あれは、あんたが美人だから見とれてるだけさ」

そう彼女が言うとノ-ラは恥ずかしそうに俯いてしばらく黙った。

お世辞ではなくノ-ラは普通に身なりを整えて前を向いて歩けば、すらりと背の高いかなりの美人だった

2人はテムズ川の土手を辿りながら帰路についた。

3月の寒風が容赦なく2人の娘の髪をなぶる中、川沿いでのピクニックはいかにも無謀というものだ。

ふとノ-ラが足を止めて水の流れる方を指差した。

「ああ、もうそんな季節だね」


岸辺にダッフォデイルが群生して咲いていた。

凍りつく寒風の中で水辺に流した黄色いリボンのように棚引く。

その風景を見て英国に住む人々は長い冬の終わりと春の訪れを知る。

グレート・ブリテン島の南西、ロンドンから西に125マイル先にあるウェールズ地方に数多く群生する彼岸花科の被子植物。
彼女の先祖が遠い昔海を渡り、やがて、この地に流れ着いた。

彼女はここで生まれ、やがて師と仰ぐ人物と出会った。

国旗に描かれぬ赤い竜の紋章を掲げるウェールズ人は民族の誇りを持って自らをイングリッシュとは呼ばず英語も話さない。

スコットランドにもアイルランドにも春にはダッフォデイルの花が咲く。

リ-キ同様この地方に住む人々の間で最も親しまれている花であった。

「私はこの花が好きだね。寒さに負けず『春が来た』と健気にラッパを吹いてるみたいに見えるからね」

「お姉さんには花が歌ったりお喋りするのが聞こえるんですね」

ノ-ラは彼女の事を名前で呼ばず「お姉さん」と呼んだ。

彼女も別に気にせずに「呼びたい言い方で呼べばいいさ」と彼女に言った。

「私も何時かお姉さんみたいに花の言葉が分かるようになるかしら?」

「それは無理だね」

自分の能力は持って生まれたものだからと、はっきりと、そうノ-ラに伝えた。

「でも私があんたにそれを伝えて上げる事は出来るよ…それでは駄目かい?」

「いえ、それで充分です。ではお願いします」

ノ-ラはそう言って目を閉じた。

「私に聞かせて下さい。ダッフォデイルが歌う春の調べを…さあ!どうぞ!」

「今ここでかい?私は歌は苦手なんだ…その…ひどい音痴でね」

「私目を瞑っていますから平気です。何なら耳もふさぎます」

彼女は躊躇って、しばらく鼻の頭を掻いたりしていた。

傍らには両手を前で組んで目を閉じたノ-ラがいて、何だか妙な光景であった。

彼女が歌わないので少し拗ねたノ-ラの唇が綻ぶ。


谷間を漂う雲のように

一人さ迷い歩いていると

思いもかけずひと群れの
  
黄金に輝く水仙に出会った

水辺の傍ら 

木々の根元
  
風に揺られて踊る花々
  
銀河に輝く星々のように
  
並び咲いた花々は

入り江の淵に沿って咲き広がり
  
果てしもなく連なっていた


「驚いたね、あんた死者の言葉以外にもマシな言葉を知ってるじゃないか」

ノ-ラは閉じた目をそっと開いて彼女に言った。

「死者の言葉に違いはありませんよ」

「私には、ちと甘い気がするね」

「お気に召しませんか?」

「いや、すごく気に入ったよ。誰の書いた詩だい?」

「教えません」

そう言ってノ-ラは彼女の前を大股で通り過ぎた。

「何もかも全部教えてしまうと、お姉さん私に会ってくれなくなりますから」

「まだ、あんたには伝える事が残っているよ」

「それは明日にしましょう」

「例えば今日は人に慣れる訓練をした」

「いいですって!」

「この世界は生者より死者の方がずっと多い、当前の如くね。いちいち通りを歩く人間を気にしていては駄目なんだ。野良犬に出会った時みたいに目を合わせない事、それでも向こうから寄って来るなら腹を…」

突然彼女の口にノ-ラがクリスプ・サンドを押し込んだ。

「こちらのスコ-ンも母のオススメです!さあどうぞ!沢山歩いてお腹が空きましたよね!さあ、たんと召し上がれ!」

成る程確かにノ-ラの母親は料理上手だ。

塩加減も固さも絶妙なジャガイモを彼女は口の中で噛み砕いた。

「美味い!」

「本当ですか?私も母に作り方を習おうかしら」

ノ-ラが見せたその日一番の笑顔だった。

春の訪れと共にノ-ラの両親の願いが叶う日もそんなに遠くない気かした。

「ここは寒いです、残りは私の家で…」

というノ-ラの申し出を彼女は断った。

「今夜は家族だけで過ごした方がいいよ」

彼女の提案にノ-ラは静かに同意の意を示した。

「ありがとうございます」

「さっきの詩も、聞かせてあげたら、御両親もきっと喜んでくれるさ」

今度は首を横に振らなかった。

「別の詩にします」

「何故だい?」

「どうしてもです」

「まあ、別に構わないけどさ…今夜はゆっくり休みなよ、静かな夜になるはずだからね」

「お姉さん、私はもう何も見たり聞いたりしなくなるのですか?」

「家にいる時だけだよ。あんたは死者がとり憑いた訳ではなく元々」

「お姉さんと同じですね」

「ああ、私と同じだ」

彼女の言葉にノ-ラは俯いた。

「辛いのかい?でも、これは慣れるしか…」

「私やりたい事が見つかりそうです」

彼女の返事を待つ事もなくノ-ラは言った。

「1つだけ、1つだけでも同じなら私は幸福なの」

ノ-ラはその後父親の経営する「めかし屋」で店に出て働き始めた。

好景気に沸くロンドンで客足は好調だった。

ノ-ラは接客をしながら合間に仕立の仕事を習った。

彼女が店で仕上げたのは男性用の背広や燕尾服ではなく、魔法使いのようなコ-ト一着だけだった。

店にいる時も大概その格好で過ごしたため「魔女」のあだ名は消えなかった。

しかし死者の嘆きではなく、誰にでも、明るい笑顔を見せるようになったノ-ラを近隣の人々も店を訪れる客達も受け入れた。

霊媒の仕事の最後の日。

ノ-ラは「私お姉さんと同じ仕事がしたいです」と告白した。

先輩の魔女は「それはオススメ出来ないね」

そう言った後で「この仕事に大切なのは人あしらいさ」

そうノ-ラに忠告した。

「生きていても死んでいても人が何を求めて、そこに居るのかを読みとる事が大切なのさ…ある意味能力以上に大切な事だ。どちらにも感情移入せずに線を引く事が求められるよ」

「あんたに霊媒は向かない、とても危険だからね」

そう優しく但された後でノ-ラは彼女に包みを手渡された。

それは飾り気のないヴェランの包み。

中を開けてみると。

色とりどりの神秘的な絵が描かれた絵札が顔を除かせた。

「綺麗…!これはアルカナですね」

ノ-ラは包みの中のアラビア文字や数字、戦車や女帝、塔から転落する男が描かれたカ-ドを見て声を詰まらせた。

「お姉さん、これを私に、本当によいのですか!?」

「私が師から一人立ちを許された時頂いたものの一つだ、あんたにやるよ」

「そんな、お姉さんが師匠に頂いた大切な物を私なんかが頂く訳には」

「私はとても生意気な弟子で師が私にそれをくれると言った時『それは必要ない』と断ったんだ」

「何故ですか?」

「私にはカ-ドも水晶玉も必要ないからと…そしたら師は私にこう言ったんだ」

「今のお前にやるのではなく未来のお前に託すのだよ」

「未来の、お姉さんに」

「今その意味が分かったよ。私は一人立ちするからと師を越えたつもりになっていたが」

彼女は苦笑した。

「未だに全然駄目だ」

彼女はタロットについて簡単な説明をノ-ラにしてくれた。

「15世紀に北イタリアで作られたヴィスコンティ版が最も古いカ-ドとされているが、そもそも占い用に作られたものじゃないから持っていても意味がない、美術館に飾られるような代物さ」

彼女がノ-ラに手渡したタロットは18世紀のフランスの占い師エッティラが晩年に絵師に描かせた手書きのカ-ドだった。

「彼女がアルカナ占いの開祖と呼んで差し支えないと思うよ、後々練金術の要素や様々な神秘学が加えられたが、このアルカナはそれを基に作られている、謂わば由緒正しいオリジンて訳さ」

「何だか怖いわ」

「敬意を払うという意味でそれは大切かもしれないが、カ-ドがあんたを相棒に選ぶかどうか未だ分からないよ」

彼女はノ-ラをテ-ブルの椅子に着かせ自分は後ろに立って言った。

「切らないでいいから、一枚だけ札を捲って見せて」

彼女に言われるままにノ-ラはカ-ドに手を伸ばす。

「そう、力を抜いて、ただ漠然と思うだけで構わない」

彼女の前髪がノ-ラの襟足を擽るくらいまで近づくとノ-ラはくすぐったそうに身を捩る。

彼女の伝えようとする真剣さが背中越しにも感じられた。

自然と熱を帯びた吐息がノ-ラの耳に触れ。

カ-ドを捲ろうとしたノ-ラの右手を制すように彼女の手と手が重なる。しかし、けして触れようとはしなかった。

「過去を思って」

「私の過去を」

言われるままに一枚を無造作に抜きとった。

「隠者のカ-ド…上々だね」

彼女の声が少し軽くなった気がした。

「それを横に置いて、それはあんたの過去、読み解く必要も思い出す必要もないものだ、忘れてしまいな」

「お姉さん次は」

やや紅潮した面持ちでノ-ラが問いかける。

「未来を」

「未来を見るなんて私何だか怖いわ」

「なら私の未来で構わないよ、さあ占ってみせて」

「お姉さんと私の未来を…それなら私怖くありません」

「いきなり、そんな高度な占いは難しいんじゃないか」

「大丈夫」

ノ-ラはカ-ドを抜き取る。

月のアルカナ。中央に人の顔が描かれた月。

「月の下にある対の建物は?」

「それは門だね」

門の下には森と左右対象に並ぶ狼、水辺から顔を覗かせるザリガニ。

「お姉さん、このカ-ドは何を意味しているのかしら」

ノ-ラの言葉に彼女は素っ気なく言った。

「カ-ドの意味なんて知らなくていいよ」

「それでは占いになりません」

「意味を知りたきゃ本でも読めばいい、でも、そうじゃないんだよノ-ラ」



「さあ、手に取ったカ-ドじっくり眺めてごらん。あんたはそれを見て何を思う?思い浮かんだ言葉を言ってみて」

「森…です」

「そしたら今度は、カードを自然な視野の中で自然な状態で目に近いところで眺め、さらに視点はカードではない遠くを眺める。視点にカードを入れたまま遠くに視線移動する感覚さ…やってごらん」

カードの風景は目の前で、ぼやけながらも近づいて来る、そんな感じがした。

徐々に視界の中心、ノ-ラ意識の中心にカードの風景と同化するような感覚が芽生える。

「そこまで来たら成功さ…最初にカ-ドを見て森を思い浮かべたね」

「ええ、森が見えた気がしました」

「高い山なら洞窟を…それがつまりゲートさ」

「ゲート?」

「カ-ドを読み解く入り口を自分で拵えないといけないのさ、もう一度カ-ドを見て、さっきと同じように」

「森を…」

気がつくとノ-ラは森の入り口に1人立っていた。

恐る恐る森の入り口を潜ると知らず知らずのうちに駆け出していた。

駆け出した足は止まらない。

風さえ吹かぬオ-クの森。

ノ-ラは地表に剥き出しになった根に躓く事なく風のように森を駆け抜けた。

灰色の体をした栗鼠は時のようにすばしこく森を走り回るが、ノ-ラはそれよりもさらに早い。

やがて見えて来る。

森の真ん中に聳える黒くて憐れな首吊りの木。

ぶら下がる死者共が風見鶏のように向きを変えてノ-ラを見送ったのも束の間。

夥しい死者の群れに囲まれている。
若い病み窶れた顔の灰色の髪の紳士と、隣にいた女の子。

あれは、お姉さん?

随分若いように見えるけど…私が見ているのは本当に未来なの?

それとも過去?

森を抜けたノ-ラは見知らぬ荘園の門の前に立っていた。

見上げるような豪奢な造りの大邸宅。

まるで陸に乗り上げた貴船の様。門の中央に彫金された竜のレリーフは翼を広げ嘶くように来る者を威圧していた。

「戻ったのかい、ノ-ラ」

ノ-ラの華奢な肩に掌が添えらる。

返事を返す代わりにノ-ラは彼女の手を取り自分の頬にあてた。

あまりの事に声も出なかった。

彼女の掌は初めて寝室で触れられた時と同じで、温かい。

「疲れたようだね、無理もない。アルカナはあんたを主と認めたようだね」

「でも、お姉さん私今見た事上手く説明できないわ」

「説明しなくていいよ」

「どうして?私お姉さんの未来を見たのに、知りたくはないの?それとも全部知ってるから?」

「私は自分で自分を占ったりしないよ。先の楽しみがなくなっちまうからね」

「そういうもの」

「お姉さんはやっぱり偉大よ…女王陛下より大司教様より偉大、私そう思います」

「カ-ドがあんたを未来に導いてくれると私は信じてるよ、死者に伺いを立てるのは危険だからね」

「ええ、そうね」

「生きていても死んでいても他人の言葉は人を迷わすだけ。ノ-ラ、そのカ-ドは大切にした分だけ、あんたを助けてくれるはずさ」

「生涯手放しません…大切な…大切に…」

鼻薬でも嗅いだように、ノ-ラは深い眠りに落ちた。

目を覚ますと、そこに彼女の姿はなかった。

それでも毎日アルカナは肌身話さず持ち歩いた。

子犬のように傍らに置いて、けして他人の手には触れさせなかった。

父親の店の隅に自分で買った小さなテ-ブルを置いて占いを始めた。

店に買い物に来た客が希望すれば無料で占いをした。

「彼女の占いはよく当たる」

忽ち評判になった。

店に用がない客でもノ-ラに占って欲しくて店を訪れた。

靴下やハンカチ-フが飛ぶように売れた。

女性も多く来店するようになったので父親は婦人用の帽子や手袋も用意しなければならなかった。

とてもノ-ラと父親だけでは注文が追いつかず占いどころではなかった。

すると買い物をしたのに占ってもらえない客から不満の声が上がった。

やがて新しい店員が店で働くようになりノ-ラは占いに専念出来た。

女性従業員は皆ノ-ラと同じ制服を着て働いた。

店を二階建てに増築改装した際に店名を【めかし屋】から【ウイッチ・クラフト】に改名した。

【ウイッチ・クラフト】は西ロンドンの名物となった。

父親は娘のノ-ラに感謝して店名に「ノ-ラ・ロズウエルの店」とつけたがった。

しかしノ-ラは父親に「自分はもうすぐ家を出るから」
と言って断った。

従業員募集の貼り紙を出して、その中から選んだ若い娘を1人雇うと、その娘にアルカナを教えた。

「勘のいい子だから大丈夫」

そう父親に言い残し家を出た。

父親も母親も誰も彼女を止められなかった。




「お姉さん、私野良犬の腹蹴っ飛ばせるようになりましたわ」

「それは、よかった」

「ええ今もここに来る間若い雄犬が舌を出して厭らしく腰を振って近付いて来たので、私やってやりました」

「で、今日は何の用だい?長居されると商売の邪魔なんだけどね」

「そう言うと思って長居させたくなる物をたんと持って参りましたの」

そう言ってノ-ラは彼女の目の前に大きなバスケットを置いた。

バスケットの中身は沢山の可愛らしいお茶菓子だった。

あの時は季節ではなく用意出来なかったキュ-カンバンサンドの緑も瑞々しい彩りを添えていた。


「キュウリのサンドイッチなんて生まれて初めて食べたけど、美味いもんだね!いくらでも食べられそうだよ!」

「まだまだ沢山ありますから、たんと召し上がれ」

机の上で頬杖をついたノ-ラが微笑む。

「あんたが稼いだお金で買った材料かい?」

「はい」

「大したもんだね、この間まで格子のついた部屋で膝を抱えて泣いてた娘が」

「お姉さんには遠く及びません」

「いや、大したもんだよ。この仕事をしてて良かったと思う事が」

彼女はそう言って声を詰まらせた。

「大丈夫ですか?今お茶を入れて差し上げます」

「大丈夫、かなりマスタードが効いてるね」

「マスタードは入ってませんよ」

「何故分かるんだい?」

「これは全部母に習って私が拵えたものだからです」
紅茶をカップに注ぎながらノ-ラは彼女に言った。

「父が言うんです、お姉さんと同じ仕事をするのなら『遠くに行け』と」

「…それは、つまり占いや霊媒の仕事なんてけしからん真似をするなら親子の縁を切る、そういう事かい?」

「とんでもない!そんな恩知らずな言葉を口にしたら、いくら父親と謂えど私が許しません」

「じゃあ何なんだい、実の娘で今やあんたは金の卵を産む鷄様じゃないか」

「鶏だなんて失礼しちゃいますね」

ノ-ラは口を尖らせた。

「『仕事を教えてくれた恩のある方の近くで同じ店を構えるような無作法な真似だけはしてくれるな…最低でも町2つ、30マイルは離れるべきだ』…ですって」

「私も師にそう言われたよ」

「お姉さんも?」

「無作法な私は師に「私がいては邪魔になりますか?」と聞いたんだ」

「それで師匠様は何とお答えになったのですか?」

「私が近くにいて、商いに困るのはお前の方だ…そう言われたよ」

「私姉さんみたいに身の程…いえ怖いもの知らずじゃありません」

「今あんた身の程知らずって」

「言ってません!」

「いや、言った!この嘘つき魔女め!」

2人は些細な事でも大声を出して笑い合った。

細い体の何処に入る場所があるのか、と思う位お菓子も沢山食べた。

「要らぬ気遣いはしなくていいよ、ノ-ラ…しかし」

指についたスコ-ンのクリームを舐めながら、緋色の瞳がノ-ラを見据える。

「この茶菓子を客に振舞うつもりなら脅威だ。30…いや100マイルは離れておくれ」

「ありがとう、お姉さん」

輝くような笑顔を見て彼女はノ-ラの成功を確信した。

たとえ嘘でも明日死が待っている人間であろうとも…希望の欠片の1つも与えらないで何が占い師か。

彼女は常々思って人に接して来たからだ。

今のノ-ラはそれが出来る。

彼女の笑顔を見た人ならば、もっとそれを見たいと思うはずだ。

「親父さんのところで商いの仕方を学び、占いの腕を磨いたんだね」

「私はお姉さんみたいに天賦の才能には恵まれていません、だから頑張るしかないんです」

「本当に才能のない子が『この仕事がしたい』と言って来たら私は『まず娼館で働け』と言うよ、人が何を求めているか学ぶにはそれが一番だからね…もっとも男限定だけど、けどノ-ラ、あんたは違うよ」

「私、お姉さんが働けというなら娼館でも働きます!」

「あんた娼館がどんな事をする場所か知ってるのかい?」

「知ってますとも!」

ノ-ラは胸を張って得意気に答えた。

「男性が日々の鬱憤を晴らし晴れやかな気持ちで明日を迎えるための大人の社交場…と父が申しておりました」

「具体的に言うと」

「お前にはまだ早いと父が…」

ノ-ラは彼女に耳うちされた途端に拳を握りしめ立ち上がった。

「もう帰るのかい?」

「ちょっと父の店に行って裁ち鋏を取って参ります」

「何する気だい!?」

「お姉さんにそんな事をさせる不埒で破廉恥な輩は、すべて切り落とします!」

「輩って」

「私に嘘をついた父も晴れやかな明日は来ないでしょう!させるもするも許しませんたら」

「そんな事したらイ-スト・エンドの殺人鬼の女版になっちまうよ」

「イ-スト・エンドの殺人鬼…いま随分騒ぎになっていますね。新聞にも、父の店に来るお客さんもその話題で持ちきりです。娼婦ばかりを狙うとか…」

「なんだ、あんた娼婦の意味知ってるんじゃないか」

「ある程度は」

ノ-ラは舌を出して見せた。

「お姉さん、知ってますか」

ノ-ラは悪戯っぽい目で彼女を覗き込んだ。

「娼婦をなさるような女の人って、こんなに胸が開いたドレスを着るんですよ」

言うが早いかノ-ラは彼女の着ているコ-トを一気にはだけさせた。

はしゃいでいたノ-ラは息を呑んだ。

薄い胸とまだ子供のように華奢な鎖骨の下から白い下着に隠れた胸元のあたりまで十字の火傷のような赤い傷痕が目の前に飛び込んで来たからだ。

「ごめんなさい、お姉さん…私知らなくて」

「醜いだろ?昔師の教えに背いた結果追った傷だ」

彼女は俯いたまま静かに答えた。

「そんな傷痕すぐに消えますよ」

そんな傷痕…言ってしまった後でノ-ラは再び罪の意識に苛まれた。

「気にする事はない」とでも言いたげに目を細めてノ-ラの髪を撫でる。

「消せるさ、でも消さないでおこうと思ってるんだ」

「何故ですか?こんなに白くて美しい肌をなさっているのに」

「それが私が仕出かした事に対する代償だと考えている、いつか私が自分のした事を許してやれる日が来たら、その時は…!」

コ-トを戻そうとした左手の手首をノ-ラの右手が掴んだ。

「私が許して上げます、お姉さんの罪を」

ノ-ラは彼女の傷痕にキスをした。

自分は一体どうなってしまったのだろう。

尊敬するお姉さんに無礼な真似をして。

隠しておきたい秘密に土足で踏み込み。

あまつさえ傷痕に接吻など。裏腹に、この萌えたつような心の高揚と自信は何処から湧いて来るのだろう、と思わずにいられない。

「…まあ、これから商売を始めようって娘が観葉植物みたいじゃ困るからね」

慌てて胸元を仕舞いながら彼女は素っ気なく言った。

「はい、私温室育ちじゃありませんから…お姉さん、もう何だって出来ますよ、私」」

「でも、まさか、あんたいくら安いからってイ-スト・エンド辺りで商売なんか考えてないだろうね」

「タ-ミナル駅が建設され海軍がプール(船のたまり場)にあの辺りのテムズ川流域を利用するとかで、船舶関連の工場も沢山出来てると聞きました」

「駅が出来たおかげで住宅街が取払われて他所の国から職を求めて移民が大量に流れ込んで来ている、治安も風紀も乱れ放題、あれじゃあ誰が何時何をしでかしてもおかしくないよ」

「事実殺人事件も起きていますしね、ロンドンの北部は止めておきます」

「悪い事は言わないウエスト・エンド辺りが無難さ」

「お姉さんなら、どんな場所を選びますか?」

「あんた、今日は私にそれを聞きたくて来たんだろ?」

「ばれちゃいましたか」

「ロンドン塔とかビックベンとかタワー・ブリッジ…客が目印にして探し易い場所がいいね」

「ロンドン塔の辺りは家賃が高そうですしタワー・ブリッジやビックベンの辺りはウエスト・エンドの目と鼻の先、殺人鬼のお台所です」

「そっから橋を1つずつ下って」

「ハマ-スミス橋はどうでしょう?私あの橋と橋の上から見える風景が大好きなんです」

「ブリーディング・ハ-ト・コ-ト(血濡れの心臓通り)かい?」

ノ-ラは頷いた。

「また物騒な名前の通りを選ぶね、訳を聞いていいかい?」

「だって私魔女ですから」

「英国的だね」

「駄目でしょうか?」

「いや、きっとみんな気に入るよ、多分私も商売するならそこを選ぶね」

「でも、お姉さんの家は目印も何もない寂しい郊外の一軒家…何故ですか?」

ノ-ラは疑わしそうな目を彼女に向けた。

「もしかして私の事業を転覆させようと企んでらっしゃる?」

「私は川や橋は嫌いなんだよ。通る度に金をふんだくられるし…橋の上には物売りがいて喧しいったらありゃしない」

「それだけですか?」

「いや、縁ある者は戸口を板で塞いでも家を草で隠してもやって来る…あんたみたいにね」

「お姉さん程のお方であれば、それで充分なのですね。私、納得致しました」

ノ-ラは立ち上がって彼女に右手を、差しだした。

「さあ、お姉さん参りましょう」

「参りましょうって何処へ?」

「ハマ-スミスまで船で川を下って、ゆっくりお散歩です」

「それは、お散歩じゃなくて、あんたの物件探しだろ」

「弟子の面倒は最後まで見るものですよ、それと」

「まだ何かあるのかい?」

「私物件を決める前に家を出てしまいましたので、しばらくここで御厄介になりたいと存じます」

「………………」

「あの、お姉さん」

「何だい」

「外に置いてある荷物は私自分で運べますから…駄目でしょうか」

「ブリーディング・ハ-ト・コ-トの名前の謂れをあんた知ってるかい?」

「勿論!17世紀に通りで貴婦人が殺されて、ばらばらにされた…にも拘わらず遺体が発見された時心臓だけが脈を打ち血を流していた…確かそんな話」

「私が聞いたのは、さる貴婦人が身分の違いから父親に恋人と別れさせられ、哀しみのあまり彼女は胸から血を流したと」

「素敵!そっちの方が断然素敵!」

「では、あんたが家族と住んでた7ダイアルズ、7つの日時計通りの交差点には文字通り日時計がある、名前の由来だ」

「ええ、見た事あります」
「でも昔から、あの通りには最初から日時計は6つしかないんだ」

「初めて知りました、お姉さんはその理由を知っているのですか!?」

「知ってるよ」

「是非とも教えて下さい」

「今直ぐ知りたいかい?」

「いえ、今日はいいです。出来ればずっと後で…世の中には私が知らない事が沢山あるのですね」

「当然の如くね」

「前から思ってたんですが、どうしてお姉さんは私と2つくらいしか違わないのに…その…そんなに」

「何だいノ-ラ言ってごらん」

「喋り方がお婆さんみたいなんですかごめんなさい」

「子供の頃から師と一緒で口癖が移ったんだ、悪かったな娘らしくなくて」

「その師匠は男性ですか?」

「お婆さんみたいな喋り方の男に『弟子になれ』と言われて、お前は弟子入りするか」

「そうですか、良かった」

ノ-ラは窓の外の初夏の緑に囲まれた田園風景に目を細める。

「この世界は不思議な事がいっぱいですね」

昨日まで見ていた窓の風景とは明らかに違う世界が、そこには広がっていた。

「お姉さんと2人ならイ-スト・エンドの殺人鬼だって恐くありません。今から2人で捕まえに行きましょうか!」

「残念だけど自分の仕事と、あんたの事で手一杯だよ」
そして2人と殺人鬼の話は、また別の話だ。

その日2人はボートでテムズ川を下った。

ノ-ラは終始機嫌よく彼女の知らない不思議な詩を口ずさんだ。

「その詩は何だい?」と尋ねると今度は。

「【スナ-ク狩り】です」と彼女に教えてくれた。






「初めて出会った時ノ-ラ・オブライエンは私の手で殺すべきだった」

彼女の言葉を聞いた男は驚きの声を上げた。

「お孫さんに詐欺の片棒を担がせるような真似をしたからですか!?」

「ノ-ラは孫を自宅に待たせて阿片窟で男を引っかけ、客を取らせようとしたんだ」

「そんな!」

彼女は絶句する男を尻目に瞳は虚空を見つめていた。今や森は死者たちで立錐の余地もない。

しかし彼女は意に介す様子は微塵もなく、ただ彼に「あんたはノ-ラに誘われなかったのかい?」

「私が話した時は、ほとんど正体がなく支離滅裂でした…それでも私はすがる気持ちで彼女の家を訪ねたのです」

「よかったね、私に水晶玉で頭を割られなくて」

彼女の唇が薄い笑みをかたち作った。

「あれは…あの部屋に倒れていた男性は貴方の仕業でしたか」

「その後びっくりして部屋を飛びだしたのは私の孫娘さ、それから…いちいち説明するのも面倒だね」

「ノ-ラという女性は貴女に大恩を感じていたし姉のように慕っていたと、お話を聞く限り、そのような印象しか持ち得ませんでしたが」

「私も妹分が出来たみたいで嬉しかった」

「それ以降2人の間に何かいさかいでも」

鼻先まで伸びて来る死者の手を五月蝿く払いながら男は聞いた。

「何もないさ、私は所帯を持ちノ-ラは占いで名を馳せ顧客に有名人や政治家のパトロンを持つまでになった…共に人生は順調だった」

「では何故?」

彼女はオ-クの枝を見つめたまま呟いた。

「それでも朝の太陽と夕方の太陽が同じじゃないって事位私にだって分かるさ、さすがに、この年ならね」

彼女の言葉に彼は返す言葉を失った。

「さっきから何をしきりに見ておられるのですか?」

「ヤドリギを探していた」

「ヤドリギとはクリスマスなんかに玄関に飾る灌木のような、あれですか」

「オ-クの木につくヤドリギはとても希少でね、ここには1つもないようだけど」

「玄関に飾ると魔女除けになるとか」

「それは迷信だ」

「まあ確かに」

「私はヤドリギを恐れないから」

2人の間の会話が途切れた。

しかし静寂とは程遠い死者の呻き声が空間を埋め尽くす。

「初めて出会った時外に連れ出して雑踏の中で始末するつもりでいた」

「ノ-ラ・オブライエンが貴女に何をしたと」

「煩い」


「煩い死者共が」

彼女は左側コ-トのを少しだけ開いた。
限りなく黒に近い濃紺のベルベットのドレスの生地が覗く。

しかし男の目を釘付けにしたのは内側に縫い込まれた短剣の束であった。

死者の群れが後退る。

「魔女以外にも多少は効果があるみたいだねえ」

「その剣は一体」

「カルンウェナンの短剣」

「カルンウェナンの短剣…それは確か」

男は額に指をあて思い出す仕草をした。

「思い出さくていい」

しかし男は顔を上げ顔を輝かせ言った。

「ア-サ王伝説の元となった【マギノビオン 四枝】に記されたア-サ王が魔女を真っ二つに切り裂いたと言われる伝説の短剣!まさかまさか、この世に実在していたとは…が、しかし」

「うるさい!お黙り!」

「あれは、ただの短剣で魔法の剣でもなんでもない…」

たちどころに集結した死者に再び囲まれた」

「馬鹿男爵」

「もう少し爵位は上です」

「馬鹿伯爵」

「位が上がっても、ますます馬鹿にされているような…因みに、もう1つ位が上です」

彼女は舌打ちした。

「まったくこれだから英国の男は」





「この短剣は偽物、しかし魔女を殺すに特化された業物」

彼女の言葉は男を戸惑わせ、さすがに死者もこれには困惑した。

死者と死者、生者と死者がお互いを見合わせた。

「どういった事でしょうか」

「私の師も、あんたと同じで書物に関してはルナティックでね」

「成る程ネ-ミングに凝るタイプとお見受けしました!ならば最初から、それで通して頂いた方が気分も盛り上がりましょうに」

「私そういうの分かんないんだよね。本なんか読んだ日には頭痛くなるわ眠くなるわで」

「ならば私が貴女を支える知恵の杖となりましょう」

「年寄りに杖を贈ったら皆が皆喜ぶとでも」

「いや年寄り扱いした訳ではなく脩辞法を用いた比喩でして」

「あんた、じっくり話すと面倒くさそうな男だね」

彼女は剣を抜いた。

「それでノ-ラ・オブライエンを殺すつもりだった…と貴女は先程申されましたが」

「いかにもだよ」

「ではノ-ラ・オブライエンは魔女だと」

彼女は剣を構えたまま落胆の瞳を彼に向けた。

「歴史学者は、ともかくだ…あんた作家にはなれないと私は見たね」

「歴史小説も書いてみたいと常々、こう見えて中々のものと自負している次第です」

「今のやり取りでシェイクスピアなら1章は既に書いているだろうね、尤も」

「シェイクスピアも読まれていないと」

「文句あるのかい?」

「いえ、別に」

男は可笑しさを堪えるように横を向いた。

「貴女は実に勇敢なお方だと先程からお見受け」

「ヤドリギ」

男の言葉を遮るように彼女の言葉が森に響いた。

「ノ-ラ・オブライエンは魔女そのものではなくて【ヤドリギの契約者】と呼ばれる者だ、正解に言うと、その系譜に名を連ねる人間さ」






私は幸福だった。誰に聞かれても胸を張ってそう答えられる。

私が幸福を感じて生きる事が出来たと思うのは今は、それが失われたと思うからだ。

人々から疎外され部屋に閉じ込められた私。

こんな私でさえ、いつか白馬に乗った王子が目の前現れ呪いを解いてくれる。そう信じていた。

15になった時に、その人は本当に目の前に現れた。王子ではなく私より2つ年上の女の子で彼女は魔法使いだった。

魔法使い、少なくとも私はそう信じている。

彼女は私を外の世界に連れ出し、私もこの世界で生きていいんだ…そう教えてくれた。

お姉さんの元で仕事を手伝い、お茶を入れたり時には危険な案件に出くわしたりもしたけど充実した楽しい毎日だった。

独立してからも、お姉さんは私に色々アドバイスしてくれたし仕事も順調だった。

いつもアルカナは私の手元にあったし触れていれば安心出来た。

クリスマスにはジンジャーブレッドのクッキーを焼いて、お姉さんの家を訪ねた。

ハ-ブを混ぜたワインは私たちには重いから。

シャンパンに絞って飲むためのオレンジ。

スモークしたサ-モンに、焼きたてのタ-キはバスケットの中でまだ温かい。

最後にブランデーをかけて火をつけるクリスマス・プディングは「アンチクライスだから一度も口にした事がない」確かそう話していた。どんな顔をするだろう。

文字通り最後の楽しみだ。

しかし人は幸せな時の中にいても明日の未来を疑わずにはいられないものなのだろうか。

私はカ-ドに問いかけてしまう。私とお姉さんのいる未来の姿を。

けれど結果はいつも私を落胆させる。

深い失望の闇へと陥ちる。

姉さんがいて家族に囲まれた幸せな風景。

無論そこに私の姿はない。

暗い森の入り口を抜けて彼女の家の未来の窓から私は見ている。

置き忘れられ埃を被った古い肖像画のように。

お姉さんの幸福は私の幸福ではないんだと知った。

妬む事や哀しむ事が不幸なのではなく、その感情に染まりきる事が出来ない自分が今こうしてここにいる事が不幸なのだ。

クリスマスに私はジンジャーブレッドやご馳走を詰め込んだバスケットを提げて窓の外にいた。

暖炉の火が部屋の中を暖かい光で包みクリスマスらしい素敵な陰影を作っていた。

童話の世界に出てくるような魔法使いの女の子と花束を抱えた男性のシルエット。

2つの影はやがて1つになる。

男の胸に顔を預けるようにしていた彼女の瞼が開く。

暖炉の焔のせいか、頬が薔薇のように紅く染まって見えるのは。

茨の冠のように黒い睫毛が開いて見つめる先に外で凍えた私がいて、私の心はその時言葉を呟いた。

「私の事を野良犬みたいに見るのは止めて、お姉さん」

呟やきではなく、多分それは絶叫…心が血を流す時に上げる叫び声だった。

あれは、本当に現実だったのか。

アルカナが見せた未来?

魔女が見せた幻?

それとも、アブサンや阿片の幻覚かしら。

波間に呑まれていく絵札を見つめながら橋の上でノ-ラ・オブライエンは問いかけた。


テムズ川の水の流れは何も答えてはくれない。


彼女の心は泣きながら森の中をさ迷い続けていた。

幾日も幾日も歩き続けるうちに帰り道も、とうに失くした。

「どうして、私どうしたらいいの、お姉さん」

最初に占ったカ-ドの意味が今ようやく解けた気がした。醜い哀れなザリガニの姿…あれが私だと。

知らなければ、よかった未来など。

いっそここで朽ち果ててしまおう、誰にも看取られず。醜い秘密の殻に隠れた自分の心と共に。

『月が満ちれば変わるはず』

何処かで誰かの声がした。底知れぬ深さと優しさを湛えた女の声。

『時がくれば世界は変わる…その日は来る…その日来れば…月は満ちる』

振り向いたが誰もいない。辺りに人の気配も。

「探したよ、ノ-ラ」

目の前に現れたカンテラの眩しい光に目が眩む。

「お姉さん!」

懐かしい声を聞きノ-ラの目から涙が溢れた。

「森の中を随分探したんだよ、ノ-ラ」

カンテラの下にはいつもと同じ、ぶっきらぼうな声と優しい笑顔が覗いた。

「ごめんなさい、お姉さん!私お姉さんの家まで伺ったのですが、その…お客様がいらっしゃるようで…遠慮を」

俯いたノ-ラの爪先が地面を掘った。

「遠方から兄が訪ねて来てね、なんだ遠慮せずに入って来れば、あんたを紹介も出来たのに」

「ごめんなさい、お姉さん。お兄さんはまだ家に?それでしたら私が作った食べ物を」

「兄はもう帰ったよ」

「…そうですか、それは残念な事をしました。私には兄弟も姉妹もおりませんので、仲の良い兄妹なのですね」

「そうかな、どうして、そう思う?」

「はい、お兄さんにあんな風に甘えるお姉さん…初めて見ました」

「見たのか?」

「はい、しっかりとこの目で!」

「忘れてくれ」

「はい、構いませんよ…但しです」

息が届く位までノ-ラは彼女に近づいて言った。

「私にも同じ事をして下さいませ」

ノ-ラは目を閉じた。そのノ-ラの頬を彼女は摘んだ。

「お前は顔を合わす毎に私をからかうようになる、さては味をしめたな」

「痛い!痛いです!」

ノ-ラは手足をばたつかせて抗議した。

程無くノ-ラの頬を詰まんでいた指は離れ、気がつけば彼女の腕の中抱き巣組められていた。

「お姉さん、何を!…何をされるのですか…」

「止めて下さい」

蚊の鳴くような声で言った。

「こうして欲しいと言ったのは、お前自身だぞ、ノ-ラ・オブライエン」

彼女のコ-トの中はきっと魔法で使う色んなハ-ブの香りがするはず。

そう空想した事はあった。微かに鼻先を擽るのはあざみの香り。けれど目にした事はあっても、その花を手に取って花弁の薫りを嗅いだ事は一度もない。

しなやかな弓の弦ような指の先が彼女の頬を一撫でしたかと思えば、そのまま痩せて尖った顎の先に添えられ上向かせる。

「お姉さん…何を…」

「クリスマスの約束事さ、知らないのかい?」

カンテラの灯りを掲げるまでもなく夜空を覆っていた雲の間から月が顔を覗かせた。

月灯りに照らされた森。

指差した木立の間をノ-ラは見て言った。

蜘蛛の巣に似た黒い植物の影。

「ヤドリギですね」

「クリスマスにヤドリギの下で出会った者同士は」

必ずキスをしなくてはならない、この国で昔からそういう習わしだった。

「だから、お前をこの木の下で呼び止めたんだ」

「でも、お姉さん、私たちは…」

「男でも女でも老人でも子供でも、そういう習わしだろ?」

「はい」

「古い習わしには従わなくては」

「従います」

2人はオ-クの森のヤドリギの下で口づけを交わした。

上気したノ-ラの頬を彼女掌が包み込む。

「ノ-ラ、私の手は温かいか?」

「はい、初めて手を繋いで頂いた時から、とても温かいです」

「私の唇は?」

「…そんな事は、言えません」

彼女はノ-ラの見ている目の前でコ-トを肩先まで下ろした。

彼女はコ-トの下に何も身に着けていなかった。

左の鎖骨から白い胸元の辺りにまで赤い十字の傷痕が夜目にもはっきり浮かび上がって見えた。

「私の胸は温かいぞ、ノ-ラ」

「お姉さん風邪をひいてしまいます」

「では、こちらに来て私を温めてくれ」

躊躇うノ-ラの体を彼女のコ-トが包み込んだ。

ノ-ラは目を閉じて彼女の胸に顔を埋めた。

「私の傷痕」

耳元で囁く声がする。

「お前にだけ見て欲しい」

「お前にだけ触れて欲しい」

「私はお前を傷つける」

「構いません」

「お前が傷つくと私はそれ以上に傷つく」

「嬉しいです」

自然に閉じた瞼から涙が溢れた。

「そうして2人で生きて行こう」

鎖の鳴る音がする。ノ-ラの目の前に金の鎖が差しだされた。

「アルカナの恋人の絵札を覚えているか?」

「はい、金の鎖に繋がれた男女の姿が描かれている…」

「手を出して」

言われるままに差しだした右手に鎖が巻かれる。

「クリスマスの贈り物だ」

彼女は自分の右の手首に鎖を巻き付けた。

「魔女でも切れぬ金の鎖」

彼女は再び強い力で抱きすくめられた。

「私とお前の未来を占う絵札に恋人はあったか」

ノ-ラは哀しげに首を振る。

「そんなものはテムズ川にでも投げ捨ててしまえばいい」

「そんな、せっかく、お姉さんが下さったのに」

「アルカナはお前に幸せな未来を見せてくれたか?」

「いいえ」

「お前が絵札の先に見ていたものは?」

「貴女です」

「ならば、もうそれは必要ないんだよ、ノ-ラ。私は未来永劫お前とこうして一緒にいるのだから」

未来を占う絵札が手元にあったとしても、それが自分の望む未来を呈示してくれるとは限らない。

夢見ていた未来が現実となり、「それを捨てよ」と言うのなら拒む理由など何もないとノ-ラは思う。

「お姉さんがそうおっしゃるのなら、捨てます」

ノ-ラは彼女にそう言った。

「いい娘だ、ノ-ラ」

金の鎖の擦れ合う微かな音がノ-ラを心地よくさせた。

心の何処かで「これは現実ではなく夢なのだ」という思いがして寂しくなる。

夢かアルカナが見せる幻に過ぎない、だから覚めてしまえばそれで終わり。

「アルカナが無けれお姉さんに会えない」

「絵札など無くても同じように此処にはこれる」

「本当に!いつでも此処にこれるのですか?」

「阿片やアブサンを使えばいつでも好きな時に…そうだ!道に迷わぬようにお前にまじないをしてやろう」

掴んだノ-ラの二の腕に力が込められる。

爪の先が皮膚に食い込み一筋の血が流れた。

「印があればいつでもお前は私に会える、さあノ-ラ今から私の家に向かおう、クリスマスの続きを2人で」

答える代わりにノ-ラは金の鎖を鳴らして差しだされた彼女の手につかまる。そうして2人は森の中へと消えた。」






「マレフィキウム」

彼女の口にした言葉は男には全く耳に馴染みがなかった。

「植物の学名か種痘に関係した言葉にも聞こえますが」

そのどちらでもないと彼女は否定した上で。

「どちらかと言えば、今あんたが言った植物よりも後者の方が近いかね」

「病原菌ですか?」

「病原菌ではないが人に無尽蔵の災厄をもたらすという意味では似ているかも知れないね、ノ-ラ・オブライエンの魂に巣食うマレキフィムは」

「マレキフィウムとは一体何ですか」

彼女は少し上を向いて考える仕草をした後呟くように言った。

「魔法そのものと言っていいだろう。マレキフィウムとは魔法の根源となるものと解釈していい。そして厄介な事にね」

「厄介な事に、何ですか」

「ノ-ラの魂に寄生したそいつは『女』という性別を持ってる。大古の昔からずっと」

ヤドリギの秘術はケルトから派生しドルイド、キリスト教にまで伝播したと伝えられている。

「多くの賢人や知識人、時の権力者や魔法使いに至るまで清濁合わせた人間の塊が追い求めた…永遠にして不滅の魂、自らの意思であらゆる時代に輪廻転生を繰り返す秘術…それがヤドリギの魔法さ、もっとも人間でそれに成功したやつはいないがね」

「それはまるで神の所業ではありませんか」

「魔法とは自然界の法則や天の摂理と呼ばれるものと変わらない、人が神や悪魔や魔女を創造する以前から、そこに存在した」

その中でも取り分け破壊的で残忍な攻撃魔法。

「ノ-ラは生まれながらにして、まるで赤子を守るようにして、その魂を抱いて生まれて来た」

「何かの間違いではないですか?」

あまりの事に思考が追いつかない。男は呟いた。

「間違い?」

彼女の方眉がつり上がる。

「生まれて来た事が?」

「いえ、そうではなく、貴女の友人がそんな恐ろしい存在だなんて…」

「間違いか…」

鼻を鳴らす彼女の声はどこか自嘲を含んでいた。

「私を欺く事は出来ても、この剣はけして欺けない」

彼女が翳した刀身は不安気な男と虚ろな死者の群れを映していた。

「師からの授かり物である剣は、昔やつに蹂躙された同胞や血族の魂が込められている。私たちの宿敵が近くにいれば怒りと熱で、それを知らせる。竈の中で鍛え上げられた鉄のような熱さだ、間違うはずなどない」

彼女はそう断言する。

「かつてノ-ラに初めて出会った時剣は灼熱の熱さで私の体を焼いた…それは私の終生消える事のない傷痕となった。彼女がマレキフィムの魂を抱く者であると忘れぬよう、私は傷痕を消さなかった」

「しかし貴女は一度たりとも彼女の前で剣を抜かなかった」

「剣の呼びかけに背いたのだ」

「たとえ、その身が焼かれ続けても、ですか」

「私は半端者の魔女だからな」

「最初に伺うべきでした」

「何をだ」

「貴女や貴女の師は、そもそも何なのですか」

「私たちはアゲインスト」

「向かい風…とは一体」

「マレキフィムという存在に対してのみ私たちは向かい風となる。天敵、対立概念、カウンター、呼び方は何でも構わない、彼女の存在があって私たちはこの世界に生まれた、もう一つのマレキフィウム」


「その魂を受け継ぐ者だ」

かつて、神の存在証明、神性、善性を強硬なものとするために悪魔や魔女の存在は不可欠であった。

魔女という言葉が歴史上に誕生する以前にも人間はその存在に気づいていた、と彼女は言う。

「垣根の上の女たち」

「垣根とは」

「あの世とこの世の境界線という意味だよ」

「魔女は性別に関係なく魔女であると聞きました」

「性別に関係なく魂がそうであるか、という意味に於いて、それは正しいと思うよ」

魔女という呼び方には違和感を感じると彼女は言う。

「そもそもロンドンという街は壁一枚隔てた場所で薔薇十字や黄金の夜明け、魔女宗といった連中が根城にしている、サバトの街だ」
「異端審問もとうに廃止され最近は思想の自由を訴え彼らの活動を擁護する知識人もいるとか」

「私から言わせれば彼らは熱心なカソリック教徒と何ら変わらない…聖書に記された悪魔や魔術を熱心に信仰しているのだから、私たちは自然界に存在するものを神や魔法と見なしている…真のアンチクライストとはそういうものだ」

「アンチクライストが魔女を殺すとは、なんと皮肉な…」

そう言いかけて、男の口は淀む。

「魔女という呼び名は適切ではないのですね」

「構わないさ、異能であり怪異である事に違いはない」

「ノ-ラの中の魔女は貴女が来なければ目覚めていた」

「15になったノ-ラは目覚めの時を迎えていた」

「年齢が関係してると?」

「単純に、あれの特性として子供の存在を好まないのさ、か細い肉体も予測不能で儘ならない精神も苦手…ただ苦手というだけで、それを倒す切り札には成り得ないがね」

「子供のうちはノ-ラの中で眠っていたと」

「肉体も精神も成熟に向かう15を境に孵化が始まる、特にあいつの場合はそうだ」

「やがて、もう一つの魂に導かれるままに両親や兄弟等の近親者を殺す。最初の生け贄だ。その時点でノ-ラの魂は健在だから、正気を取り戻したノ-ラの精神は崩壊するだろう」

「ノ-ラは両親を殺す寸前だったと…もし貴女の到着が遅れていたら」

「ヤドリギは寄生した宿主の魂を喰らいつくして表に出る、悲しみや絶望が糧になり最後に孵化する力を与えるのさ」

「ノ-ラは魂を喰われて魔女に…いや!今貴女は確か表に出ると…」

「ヤドリギの契約者は、やつの苟の衣に過ぎない。そこから自分に相応しいと思う肉体に乗り移る」

「まさか」

「それが私だ。私はマレキフィキウムに現世での新しい応身にと御指名を受けたのさ」

彼女の話ではヤドリギの契約者として寄生された人間は幼年期より異能であり不可視のものが見えたり音を聞いたりするのだという。

「もしも自分の子供が社会生活も儘ならない状況で医者からも見放されたら、どうするね?」

「貴女のような方にお願いする他ありません」

「そうして何人かの霊媒師が家に呼ばれた…ノ-ラの両親は子供のためなら、どんな努力も出費も厭わない、そんな人たちさ。そういう家を選んで生まれた。やつは私がこの時代に生まれ、この街に住む事も知っていた。やつが好む最上の衣装は私たち、向かい風の女の体に他ならない…まったく天敵同士とはよく言ったものだ」

「天敵である貴女の肉体を奪って」

「魔力の源である魂を喰らってさらに力を増す。もう、そうなったら誰も止められない」

「ヤドリギの契約者であるノ-ラや、貴女たち…肉体を奪われた後はどうなるのでしょう…死んだ訳ではないのでしょう?」

「全員行方不明だ」

記録も残っていないし、それまで生きて来た歴史の舞台から霞のように消えてしまうのだ…暴風や高波に呑まれて消えた人々のように。

「貴女はノ-ラ・オブライエンという気の毒な女の子を救うために」

「まんまと邪悪な魂に導かれた」

「ノ-ラ・オブライエンは貴女を信頼し姉のように慕った」

「あの子が私の事を慕うには理由があって、邪悪な魂が私の肉体を求めるからだ」

「過酷な運命の中にあっても前向きで笑顔を絶やさない女の子だったのでは」

「-は絶望や悲しみを喰って育つから、悲しみは長く続かない…ヤドリギに寄生された者は皆そうなるんだ」

そんな自問自答と葛藤を繰り返しながら彼女はロンドンの街をノ-ラを連れ歩いた。

「私の師は書物が好きでね、ルナティックと言っていい程本ばかり読んでいた」

「聞きました」

「そんな彼女がある日私に言ったんだ」

「詩人は何故詩人になるのか、お前は分かるかい?」

「さあ、分かりません。なりたいから…ではないですか?」

「なりたいからか…確かにそうかも知れないね」

「師よ、貴女はどう思われるのですか?」

「私は魂と、体に流れる血が人を詩人にするのだと思うよ。絵描きも、音楽家も、魔法使いも皆そうさ」

分かっていた事だが分からないようにしていた。

「ノ-ラの魂と魔女と呼ばれる者の魂は別なのだと、分からないふりをして始末するつもりだったのに」

彼女は紅も差さぬ桜色の唇を強く噛んだ。

「私はノ-ラの魂が、目を閉じて、口元から美しい詩を謳うのを聞いてしまった。自分や親のためでなく懐に剣を忍ばせて彼女を殺そうとしている私のためにだ」

後に彼女は、ノ-ラから聞いた。

学校に通えぬノ-ラに読み書きを教えたのは両親で、ノ-ラが諳じた詩は母親の大好きな詩であったと。

昔、英国の湖水地帯に療養に訪れた詩人は病を抱え、遂にそこで生涯を終えた。

彼は水仙が咲き誇る湖水地帯の風景をこよなく愛し、療養所の帰り道最愛の妹と歩いたその風景を詩として残した。

「剣が力を発揮しマレキフィキウムを滅ぼせるのは目覚めるまでの間、期を逃したら討ち果たせるという保証はない」

それが別れ際に聞いた師の言葉。

「伝えて行くべき魂と命を持って生まれた。人として生涯を終える権利がノ-ラにはあると私は思ったのだ」

「結果ノ-ラは彼女自身のまま人生を送り、貴女はノ-ラを殺さなかった」

「理由は2つ」

1つは彼女が持つ短剣。

「これが私の守りともなる。これがある限り、やつは目覚めても私の体を奪えない」

「他の人間では駄目なのですか?」

「強い魔力を持ってはいるが取り分け傲慢でプライドが高い女だ、自分が気に行った服しか着ない」」

異端審問や魔女狩りが最も盛んに行われた15世紀から近代までマレキフィキウムは姿を現さなかった。

ヤドリギの契約者の中で眠る魂は静かに魂の揺りかごの中で世界の動向に耳を済ませていた。

火の中で焼かれる女の叫びを夢枕に子守唄として聞きながら。

「子供のうちに怪しまれ異端審問にかけられ火刑にされたら、堪らないからね」

「多くの女性が捉えられ火炙りにされた魔女狩りの時代に真の魔女は眠っていたと」

「真の魔女が人の手で易々と火炙りになど、あり得ない話さ」

「貴女は、魔女は生まれる時代を選ぶ、今がその時だと」

「私の師は今の英国を見て言った。『人は時を経る毎に神ではなく彼女の姿に近づくようだ』と」

「貴女の師の真意が浅薄な私には読めません」

「気位の高い魔女様は自分の気に行った衣装と観劇の舞台が揃わないと、御出座しにならないのさ」

「舞台とは」

「王公貴族の支配する厳格な身分制度に貧富の格差、発達して乱熟した文明と疲弊し汚染した国土に、入り乱れた人種と差別、無秩序に崩壊したモラル…軋轢の狭間で軋む人々の悲鳴が聞こえる…そんな場所何処かにないかね?」

「ロンドンが魔女に選ばれた街になると」

「テムズ川のプールに鼻先を列べる巨大な鉄の戦艦たち、あれはまるで貴族が狩りに使うグレイハウンドやフォックスハウンドに見えて仕方ないよ、あの船に乗り込んだ男たちは何処で何をしてるんだい?」

「それは…」

「まさかスナ-ク狩りって訳でもないだろうに」

「英国の東南アジア地区における遠征と植民地化政策の一端で、私の曾祖父もその功績により王室の末端の血筋でしかなかったにもかかわらず女王陛下から僕爵の位を賜りました」

「植民地政策とは具体的に他所の国にまで出向いて何をするんだい?」

「書庫に遺された曾祖父の回顧録によれば」

最新鋭の蒸気タ-ビンを積んだ英国の戦艦は、彼らからすれば未開の地に到着するや否や挨拶代わりに戦艦の砲門を開き威嚇攻撃をする。

「しかる後に本土に上陸し戦意があるなしに関わらず殺戮と破壊と略奪行為を繰り返し、異教の寺院があれば焼き払い、王族はすべて殺害、政府関係者は残らず幽閉したと…」

「本当にそんな風に書かれていたのかい?」

「いえ、美辞麗句と雄壮な武勇伝として記されておりました…」

「だろうね」

「英国の植民地支配が、それ以前のスペインやポルトガルのそれと違っていたのは国土の支配を近隣の俗国に委ねた事です…例えば金融はインド人に、貿易は華僑にと言った具合にです」

単一民族の国家であれば一部の部族に兵器を与え国民と国土の警護という名目で植民地を監視させた。

部族間の対立を煽り国民の反抗や結束を削ぎ少数民族に対する差別意識を植えつけた。

「自国の歴史をそこまで冷徹に見ている貴族は中々いないよ、大したもんだ」

「手放しでは喜べませんよ…貴女の師の言葉が今ようやく理解出来ました。英国は世界においても魔女そのものだと」

「ロンドンは今でも魔都の様相だ…ヴィクトリアともエリザベスともマレキフィキウムは話が合うだろうね」

「目覚めた魔女は英国議会や王室の中枢にまで影響を及ぼすと…その様に魔物に取り憑かれた国家の命運は如何なるものとなり果てるのか」

「砂の中の楼閣、瓦礫の柱が僅かに残る荒れ地、歴史が証明済みさ」

「貴女の言葉を借りるなら魔女は英国女王の衣装を求めるでしょうか」

彼女は男の言葉を静かに否定した。

「エリザベスI世ならば可能性はあったが…王室の家系というのは器量はどうなんだい?」

「私の口からは何とも…」

「まあ、昔からやつがヤドリギに選んだのは、その身を捧げた神官や巫、若い未婚の女性と相場が決まっている」

「英国が他所の国にまで出向いての所業を、ここロンドンの地で」

「あくまでも観劇の余興さ」

「しかし疑問が残ります、貴女に魔女が手出し出来ないのは分かりましたが」

「ノ-ラの身に何も起きなかったのは何故なのか…かい?」

「その懐の短剣が貴女の守りになったとは先程伺いました。では、ノ-ラの中に眠る魔女が目覚めなかった理由は何故なのか」

「散々話したつもりだが分からないかね」

「皆目見当がつきかねます」

「あんた、やっぱり作家には…」

「作家の夢は捨てました」

「随分といさぎがいいね」

「しかし歴史学者の夢は捨てません!フィールドワ-クの末に私は、どうやら金脈を堀当てたようなのです」

「そいつは良かった」

「貴女と出会えたのは私にとって正に行幸と言えます」

「私と出会ったノ-ラは、どうだったんだろうね」

森を渡る風がオ-クの梢を揺らす。

「どうやら報せが届いたようだ」

「何のです?」

「ノ-ラ・オブライエンの命が今終わりの時を向かえたと風が報せてくれた」

「では、魔女の魂は」

「ノ-ラの肉体と共に滅んだ、他所に渡れずね」

彼女の顔は宿敵が滅んだにも関わらず晴れなかった。

「貴女はノ-ラのために一体何を、貴女が何かをしたから彼女は今日まで人として生きられたのではないですか?」

「アルカナさ」

「アルカナ…貴女がノ-ラに贈ったという…」

「あれは一枚一枚が精霊の力を封じ込めた強力な護符だったのさ」

「魔女を閉じ込めるための護符ですか」

「ノ-ラに渡した絵札は大アルカナの22枚。月、星、太陽…それぞれに絵札に謂れのある精霊が棲みついている。謂わば小宇宙を形成している。描かれた精霊の防壁を破壊すれば外に出る事は可能、しかしいくら大古のマレキフィムと言えど全て突破する事は不可能。無理に抗えば力を使い果たし消滅するだろう」

「それで貴女は彼女に占い師の仕事を後押ししたのですね」

「絵札が生活の糧ともなれば手放す事もないだろうし、アルカナが主と認めた以上あれは捨てても手元に戻ってしまうだろう。ノ-ラが絵札を大切にすれば守りも上がる」

「まさに鉄壁の護符という訳ですね」

「いや、一点に於いては脆い、それは魔法全般に言える事なのだけれど…絵札は川に流したら効果が無くなる。魔法というのは本来流れる水には弱いものだ、魔法に携わるものは川辺を嫌う。流れる水には魔法を浄化する力があるからな」

「橋の近くで商いをするのを勧めたのも」

「少しでも、あの娘の中に潜むやつの力を抑えるためさ」

「貴女が橋を嫌うのも」

「それは…通行料をふんだくられるのが嫌だからさ」

「貴女は西ロンドンの一角に半世紀近く魔女の魂を封印された…偉大なお方だ!」

「正確に言うとロンドン全域なのだがね」

彼女は悪びれる様子もなく言った。

「ロンドン…全域…ですか」

森の出口を顧みて男は思う。

「生きて出られぬかも知れぬ」

しかし、またそれも一興と思えば口元に静かな笑みが浮かぶ。



とうに夜半を過ぎた時刻ともなれば風切り羽を切り落とされたワタリガラスたちも濠の中に姿を見せない。

イ-スト・エンド、テムズ川の陲。20の塔からなる塔の中心であるホワイトタワー。

『女王陛下の城壁にして宮殿』それが、この塔の正式な呼び名だ。

昔も今も王室が所有するロンドン塔は現在は王室の住まいとはなっていない。

彼女が立っている塔の天守閣に当たる場所は現在は天文台として使われていた。

この場所からロンドンの街が一望出来る。

昼間の賑わいも消え失せ工場の排煙が街全体を覆っている。

その中で新設されたばかりのガス灯の灯りが胞子のように揺れて見える。

建物全体に灯りはなく、ブラッドタワーと呼ばれる右側の塔の窓から1人の婦人が彼女に手を振って見せた。

右手にぶら下げているのはランタンではなく自身の首なのだが書物にも歴史にも興味がない彼女は婦人が誰だか分からなかった。

膝を少し曲げ婦人に挨拶を返す。

そして彼女は掌に56枚のアルカナをのせて命じた。

「人より長く魔女と同じく永らう石に身を隠せ」

風に命じた。

「彼らを運べ」

石に命じた。

「衛士の褥となるべく彼らを隠せ」

掌から絵札は離れ、騎手や聖杯やワンズはロンドンの至る所に身を潜め来るべき戦を待った。

本来ならば使い方が違う絵札。

絵札に込められた力により古の魔女を封じ込め懐の短剣で止めをさすものだ。

短剣にはマレキフィムの反抗魔法者の魂たちが込められている。

孵化する前に指し貫けば、その禍々しい魂は元素に還り二度と再び再生は叶わぬはずだ。

禍の魂が眠り耽る歳月を研鑽と研究に費やした、剣と絵札は彼女達の叡知の結晶であった。

しかし彼女はそれを教え通りに使わなかった。

その報いは受けるつもりでいた。

彼女は曾て、両親とともに海を渡りこの国に流れ着いた。

どこの国であろうと何も持たない他国の移民には差別や迫害はついて回る。

元より彼女の一族は母国での弾圧や迫害を逃れ、この国に来たのだから。

彼女の第二の故郷であるウェールズも例外ではなかった。

彼女の両親はそこを安住の地と決め必死で地域に溶け込もうと努力した。

子供である自分や幼い妹や弟のため、と分かっていた。

しかし彼女は、そんな両親や暮らしが嫌だった。

自分がまだ何もなし得ていない子供だから不当に扱われる、のではなく差別を受けていると分かっていた。

いつも家や土地を出て自由に生きてみたいと思っていた。

そんな時に師は彼女の目の前に現れた。

「お前を迎えに来た」

師は彼女に言った。

「迎えに来てなんて頼んでないわ」

彼女は師に向かって舌を出した。

すると師は柔和な笑顔を見せて彼女の頭を撫でた。

「お前自身は呼ばなくても私はお前の魂に呼ばれて来たのだよ」

「魂」

「お前の魂は古くから私たちの仲間」

肌や髪や生まれた国でなく魂が同じ仲間だと。

彼女は師の後を追い町を出た。

本当は彼女が盗賊であろうと何であろうと一向に構わなかった。

師の家に着くまでの間に彼女が魔女であり自分は魔女になるために呼ばれたと知った。

魔女の家で寝起きを共にし魔女の家で魔女の食べる食べ物を食べた。

僅か1年の間に修行らしい事など何もしなかった。

彼女は1年で17歳の娘になった。マレキフィムのように人の魂に寄生して生き永らえる事を彼女の一族はしない。

それでも見えない魔法の庇護を受けた彼女たちの寿命は永い。

その夜彼女がロンドンの街に仕掛けた術式は魔女の力を減退させ、この地に封じ込めるものである。

それは傘の中の彼女とて例外ではない。

その夜彼女は自らの力の大半を失った。

市井の人々と同じように年を重ね老いて死んで行く。

彼女は魔女ではなくなった。

それが仲間や師に背いた自分に自らが課した報いであった。

もはや魔法と名のつくものは、このロンドンの街から出る事も入り込む事も不可能となった。

こうしてロンドンの街は若い魔女の手により古き魔女の魂と、その魂を授かった少女と彼女自身を閉じ込める禁忌の森となったのである。

その森の入り口に立ち、易々と入り込んだ者がいた事を若い魔女は、その時はまだ知らずにいた。





《 ステップガールとワイバーンの領主 ――ダッフオデイルとロンドンの防壁―― 了 》





【 あとがき 】
魔女の呪いで原稿が書いても書いても終わらない病・・締切だし・・きりのいいとこ探して終わりにと思ったら2/3カットしました。

中途半端でくやしいです。

主人公も敵の魔女も出せずじまい・・。次回は新しいお題と続き掲載したいなと・・・。

次回また頑張ります。最後に締切延長さらに1日オ-バしてしまいました。みなさんご迷惑おかけしてスミマセンでした。


【 その他私信 】
全部あれだ悪い花の粉のせいだ・・で花の好きな魔女の話書いてる自分に今気がついた・・ぼーっとしまくりです



ココット固いの助
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