Mistery Circle

2017-11

《 アンダー・グラウンド 》 - 2011.01.03 Mon

《 アンダー・グラウンド 》

著者:夏海




2XXX年



――人間とロボットが共存する時代。


「あー・・・駄目だ、死んでる。」
泥で汚れた作業服を着た男が、しゃがみ込んで言った。窓の外は暗く、ただ、しとしとと雨の音だけがする。床 には、設計図のようなものが描かれた紙が散らばり、蛍光灯が、横たわる猫型ロボットを照らしていた。


――人間が自然を破壊し続けた結果、数々の動物達が絶滅していった。


「木村さん、猫のヤツが製図室で死んでいましたよ。」
レインコートを着て、じゃりじゃりと足音を立てながら、先ほどの男が、降る雨に目を細めながら、岩場にいる 年配の男のところまで近づいて、そう伝えた。
「この忙しいときにか・・・。」
木村と呼ばれた男が作業の手を止め、しゃがれた声でぼやいた。疲れた目をして、雨にぬれた額を拭いながら、 ため息をつく。 死んだという猫は、建築家だった。


――減少してしまった人間は、その労働力不足を、ロボットを作ることで補うようになった。
絶滅していった動物の名残のあるそのロボット達は、人間と同じように職に就いた。



「センターに連絡してきます。」
そう言って、男は事務所の方を向き、急ぎ足で歩きだした。足下で泥が跳ねる。
「頼む。」
木村は、男の背に向かって、そうつぶやき、作業を再開する。雨は、やむ気配もなく、しきりに降り注いでいた 。



――この時代では、ロボットが完全停止することを「死ぬ」と表現する。
そして、「死んだ」ロボットは、回収センターに引き取られる。
そこで修理され「生まれ変わる」のだ。



猫が目を開けると、そこは薄暗い部屋の中だった。 あちこちに機械の部品が散らばっており、猫は、そんな部屋 の真ん中にある診察台に寝かされている。 視界が、まだ、ぼんやりとしている。 白衣姿の、丸い銀縁眼鏡をか けたおばあさんが、忙しく猫のあちこちを点検しながら聞く。
「また建築家をやるのかい?」
「勿論だ。」
猫は、既に何度か生まれ変わったけれど、そのたびに建築家になるのだった。
「よし、もういいだろう。調子が悪くなったらまたおいで。機械だって万能じゃない。」
おばあさんは、そう言うと、猫に向かってニヤッと笑いかけた。
「ありがとう。」
猫は、さっとその部屋を去った。



「これ、内側には入りにくいようですね。」
猫が、2人の男の背後から ぬっと顔を出した。
「うわっ、びっくりした。何だよ、突然。」
若いほうの男は、咄嗟に振り返った。
「もう戻ったのか。案外早かったんだな。」
木村はそう言って、1度、猫を見たが、すぐに目線を大木に戻す。大木は、空に向かって大きく枝を伸ばし、青 々と葉を生い茂らせていた。暖かな風に合わせて、木漏れ日が、ちらちらと揺れる。
「この木・・・、微妙なとこだな、猫、お前は、どう思う?」
「このサイズじゃあ、まだ入口にはなりませんよ。」
猫は即答した。
「だよなあ・・・」
若いほうの男は、眉を動かして、落胆した表情をしてみせた。
「俺もアンダー・グラウンドで、のんびり暮らしたいってもんですよ。」
それを聞いて、木村は鼻で笑う。
「そうか?良く見えるだけだよ。あんなの蟻の巣と一緒さ。」


――アンダー・グラウンドとは、その名の通り、地下世界だ。
人間の手によって、地上は汚染されてしまった。そこで、裕福層は、労働者に地下へのトンネルを掘らせ、そこ で生活した。トンネルの入り口には、大木が使われた。そのトンネルを作るのが猫達の仕事である。


「木村さん、俺みたいなヤツでも、いつか入れるようになるでしょうか?」
若い男が、木の根を見つめながら、つぶやいた。
「アンダー・グラウンドにか?地球の内側ったって、別天地ってほどでもないよ。」
大木をパシパシと叩きながら、木村は、呆れ顔をしてそう言った。
「木村さんは、トンネルの奥まで入ったことがあるんですよね。俺は、入口を作っているだけで、トンネルに入 ったことがないんです。」
若い男は、不満そうな顔をしている。
「お前は、まだ、この仕事を始めて浅いからな。あの丘の上に、入りやすいヤツがあるから、見ておいで。」
木村が、東の方に見える丘の上の大木を指さしながら言った。
「いいんですか?!」
若い男は、目を輝かせて、木村と丘の上を交互に見た。
「まだまだトンネル作りの段階だ。作業員が入ったところで、誰も文句は言わんさ。」
言い終わったとき既に、若い男は、丘めがけて走っていってしまっていた。
「あーんな元気があるのなら、もっとしっかり働かんか。」
またもや木村は呆れ顔だが、微笑んでいるようにも見えた。 木村が別の木を探そうと、猫に声をかけたそのとき だった。東の丘の方から鈍い音がした。
「・・・見てきましょう。」
そう言うと、先程まで黙々と木を調べ続けていた猫は、丘に向かって駆けて行った。 木村は丘のほうに目を凝ら してみるが、若い男の姿は見えない。 しばらくして、猫が戻ってきた。
「どうだった?ヤツが何かやらかしたのか?」
「いや、死んでいました。」
「今度はあいつか。まったく、センターは、俺のとこにはポンコツしかよこしてこないのな。」
木村は、ため息をつく。
「センターに連絡してきます。」
「頼む。」
日は、既にオレンジ色に変わり、世界を柔らかく染めていた。



若い男が目を開けると、そこは薄暗い部屋の中だった。
あちこちに機械の部品が散らばっており、男は、そんな部屋の真ん中にある診察台に寝かされている。 傍で、 白衣姿の丸い銀縁眼鏡をかけたおばあさんが、忙しそうにしている。 その様子をぼんやり眺めていると、おばあ さんが、ちらと、こちらに目をやった。
「目が覚めたかい。さて、次は何の職に就くかね?」
若い男は、少し考えてから、口を開いた。
「センターで働いてみようと思う。」
「じゃあ、職業プログラムを書き換えておこうかね。」



若い男が、センターで働くようになってからも、若い男と猫は家が近所だったので、よく顔を合わせた。そして 、その度に他愛もない話をした。 その日は、満月が綺麗な夏の夜で、2人は、月が雲に見え隠れする夜空を眺め ながら座っていた。
「なあ、おまえさ、何でずっと建築家をやってるんだ?」
若い男が何気なく聞いた。
「建築が好きだから。」
猫は、即答した。
「それだけ?」
そう聞き返すと、猫は困ったような顔をした後、男をじっと見て言った。
「笑うなよな?」
そう言われ、若い男は、ぽかんとしたが、気を取り直して、笑うかよ。と返事をする。
「夢があるんだ。」
夢・・・・。聞きなれない言葉だった。
「ロボットも存在せず、まだ人や動物や、豊かな自然があふれていた頃の話だ。最古の建築理論書によるとな、 建築っていうのは、用途や強度だけじゃなくて、美しさも求められたんだそうだ。建築は、科学的であり、芸術 的でなければならなかったんだよ。だが、今はどうだ。あるのは、巨大な蟻の巣と、見渡す限りの廃墟。だから 、この地上に芸術を作りたい。美しいものを作りたい。その為には、資金も必要だし、建築家としても認められ なければならないんだ。」
男は呆気にとられていた。こんなに生き生きして、目を輝かせている猫を、今までに見たことがなかったからだ 。
「すげえな、猫・・・俺は・・・」
それに比べて、俺は、何だ?何の為に?



それでもまた、いつものようにセンターで働く。ただ与えられた仕事をこなす毎日。その日も、いつも通りの1 日が過ぎていくはずだった。
「建設中のトンネルで事故があったんだってね。」
どこからともなく、センターで働いている女子社員達の話し声が耳に入ってきた。事故か・・・。
「例の運ばれてきたって、建築家の猫型ロボット、再起不能らしいね。」

ケンチクカノネコ?サイキフノウ?

「おい、今なんて言った?」
気づいた時には、女子社員の肩をつかんでいた。女子社員が怯えた顔をしている。
「もう生まれ変われるような状態じゃないんだって。廃棄処分されるらしいよ。それが、どうかしたの?」




それから数年後・・・



「パパ!あれ見て!」
澄んだ青空の下、小さな女の子が、石畳の上をパタパタ走って行った。その先には、綺麗な装飾が施された様々 な動物の像が並んでいた。大きな像だったので、女の子は常に見上げていなければならなかった。興奮気味の女 の子は、父親の手を引っ張って、まるで動物園にいるかのように、あちこち見てまわっている。
「すごいねえ、きれいだね!ねえ、ここには、なんて書いてあるの?」
女の子は、猫の像についていた石版を指さした。そこには、文章が刻まれているようだが、砂埃で汚れて読みに くかったので、父親はそれを手で掃った。
「ええと・・・。『猫の意志を継ぐ。それが友情からなのかは、わからない。ただ、君が生きた証として、少し だけでも、確かなものがあると、嬉しい。』・・・だってさ。」
「どういう意味なの?」
女の子は、きょとんとして、父親の顔を見つめている。父親は、しばらく考えているようだったが、的を射ない 表情のままだった。
「さあ・・・?」
女の子は、そんな父親の顔を覗きこみ、ふふっと笑いかけた。が、その直後、父親の背後に何かを見つけたよう な顔をした。
「あっ!蝶々」
女の子は、そう言って、追いかけるように駆け出した。けれど、父親は怪訝な顔をしている。女の子の追いかけ る先に、何も見えなかったからだ。


猫が日を浴びて、気持ち良さそうに、きらきら輝いている。



遠くで、鳥が飛び立った。



《 アンダー・グラウンド 了 》



【 あとがき 】
初めまして。
とある紳士から、お誘いいただき、参加させていただくこととなりました。
右も左もわからない状態で、アドバイスをいただきつつ書いたものの、頑張って7ページ☆
そもそも小説って、こんなんで良いのでしょうか?;
家族が寝静まった夜中や、パソコンと携帯でメール送信し合いながら、信号待ちの時間等を利用しつつ、何とか 書きあげることができました。良かった~(ほっ)

夏海
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