Mistery Circle

2017-08

《 Home 》 - 2011.01.03 Mon

《 Home 》

著者:すぅ





猫は建築家だった。
何度か生まれ変わったけれど、そのたびに建築家になる。

建築家になるたび、色々な街を転々とした。
その度に、何故か舞い込んでくる依頼は変わった家の依頼ばかり。
片田舎に住む、長年一人で暮らすお年寄りの「最期に居たい場所」であったり。
自称富豪の、「物置」という名の一軒家だったり。
新婚夫婦の、「ピンクのスイートホーム」だったり。
はたまたロックバンドの、「ドラムの形のレコーディングスタジオ」という依頼もあった。
「どんな依頼で、どんな図面を引けるんだろう。」
最初は、妙な依頼に四苦八苦していたが、段々と楽しくなるようになった。
それを考える建築家の尻尾は、その度にフワフワリと上機嫌に踊った。
今度の依頼は、どんな建物かしら?
私をまた、わくわくさせてくれるのかしら・・。
そんな思慮を巡らせているとコンコン、と事務所の扉にノックの音がした。
私の耳は、その音に合わせてピクっと跳ねて、依頼へと向けられた。


「どうぞ。扉を"開けて"下さい。」
何を隠そう、私の事務所も変わった造りをしている。
外から入るにはちゃんとドアノブがあるのだが、内側にはノブが無い。
この事務所を建てる時に、来る者拒まず去る者は拒む、と設計図を引きながら自慢気に語ったことを思い出す。
しかし、いざ建ってみればなんて不便な事かと、ちょっと後悔している。
外に出る時には、誰かが訪ねて来るという偶然を待つか、誰かを呼びだして、開けてもらっている。
それでもどうしても出なくてはいけないときは、この爪をドアの隙間に差し込み、力ずくで開けなくてはいけない。
私としては、綺麗に整えたネイルに傷がつくから、極力避けたいのだけれども、背に腹は変えられない。
それに、ドアに傷がついちゃうのよね・・・・。


そんなことはさておき、今日の依頼者には、どの紅茶を出そうかしら・・・。

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とても小さな事務所だった。
あまりの小ささに、初めに見た時はただ呆気に取られて、思わず咥えていた煙草を落としそうになったくらいだった。
「これがあの有名な建築家の事務所なのか・・・?。」
聞いていた噂では、どんな変な依頼でも喜んで請けて、楽しそうに図面を引いて、依頼主を必ず満足させると聞いた。
それなのに、性別・背格好・年齢全てが不明。
噂によると、依頼者は、普通過ぎる依頼だったので食べられた・・・なんていう物騒な話も聞いた。
だから、この建築家は、どんな謎の人物なんだろうか、とちょっと怯えていた。
でも、そんな思いは、一瞬にして消えた。
何故なら、事務所のドアを開けた先に居たのは黒い猫女だったのだから。
黒い耳がピクピクと動き、尻尾は左右に揺れつつこちらを伺っていて。
肘掛が付いた回転椅子にちょこんと腰掛け、こちらをじっと見据えている。
「あ・・・え・・・・・?。」
思わず変な声が出てしまった。
ちょっと恥ずかしくなり、おずおずと口を開く。
「あ・・あの、・・・ここが謎の建築家さんの事務所ですか?違いますよね・・・? 間違えたみたいです。・・・・では・・。」
俺は踵を返して事務所から出て行こうとした。
「え、ちょっと、ちょっと!」
猫女が椅子から立ち上がる音が聞こえたと思ったら、後頭部に鈍痛が走った。
「あ痛っ!」
俺は頭を押さえて蹲った。
見ると、足元にコーヒーカップが転がっている。
(こんな物を初対面のしかも、依頼人に投げ付けるか、普通。)
俺は頭を擦りつつ猫女を睨む。
「依頼でしょ!何出て行こうとしてるのよっ!」
「だからって、こんなもの投げなくても・・・・」
猫女は喉を鳴らしがら腕組みをする。
「私がアナタの言う謎の建築家!事務所も合ってるわよ!」
(本当にそうなのか?)
「あ・・アナタ・・・今、疑ったでしょ?」

・・・勘は鋭いようだ。

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痛む頭をさすりながら、俺は悩んでいた。
依頼をしようかどうしようか・・・。
すると、猫女、もとい黒猫の建築家は、静かにこう言った。
「・・・どんな依頼でも請け、完遂するのが私の仕事。それが私のモットー。依頼するかしないかは依頼者次第、でもどこも請けてくれないような依頼だから皆私の所に来る。そんな依頼を私は心から楽しんでるし、依頼者は誰も文句を言わない。」
そして彼女は俺をまっすぐ見つめ、にっこり笑った。

「アナタはどんな依頼をしてくれるの?私を喜ばせてくれるの?」

流石にここまで言われたら、俺も引き下がれなくなった。
まさか、「正直ビビったんで帰ります」なんて言える訳が無い。

そして少し考えてから、俺はゆっくりと口を開いた。
「・・・俺は田舎町で生まれて、その町で育ちました。謎の建築家の噂は俺の町まで届いていて、今度越してきたこの街で、その人が住んでいるという噂を聞きました。それでどんな人なのかと気になって来てしまったんです。」
「ここに来るまでは、漠然としか考えていなかったけれど、貴女の話をきいて、新手めて依頼をしたくなりました。・・・お願いです。俺が作ってて欲しいのは・・・小屋・・・です。」



小屋?
私の頭の中は疑問符で溢れ返った。
小屋なんて・・・世間の建築家の誰でも出来る依頼でしょう。
きっと何か理由があるに違いない。
私は、彼の次の言葉を待った。
「小屋・・・であって、小屋ではない。そう、小さな我が家です。」

そうら来た。

私は思わず机から身を乗り出した。
「その家のどこに居ても、俺の田舎町を思い出せる。そんな家を作って欲しいんです。嬉しい時、怒っている時、悲しい時、楽しい時、いつでも田舎町を感じられる家。田舎町を思い出せる、そんな家で、俺はこの街で暮らしたいんです。」
「作ってくれますか?」
彼は射抜くような、それでいてどこか柔らかい眼差しで私を見つめる。

面白い。

「請けましょう。」

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猫女・・・そろそろ彼女と言った方が良いかな・・・。
彼女に家の依頼をし、もう一週間が経とうとしている。
家は順調に、土地が決まり、基礎が出来て、骨組みまで建てられた。
予定通りに行けば、今日にも壁が塗られて外観が完成する見通しだ。
打ち合わせのために、何度かあれからも事務所を訪ねた。
いつ行っても、彼女は家の設計図を机一杯に敷き、楽しそうにペンを走らせていた。
正直、どんな物が出来るのか楽しみで何回か図面を覗こうとしたが、彼女は頑なに見せようとしなかった。
そういう事もあり、今日は家が出来ていく風景を眺めにやって来ている。

「これ、内側には入りにくいようですね。」
建築現場から声がする。
どうやら業者と誰かがモメているようだ。
「入りにくい、じゃなくて入れてください!」
甲高い、唸る様な声が聞こえた。
どうやらモメている相手は彼女みたいだ。
「内側ったって・・・」
「別天地ってほどでもないでしょ!」
凄い剣幕で怒鳴る彼女に、業者達はたじろいでいる。
どうやら内装関係で、彼女にとって気に入らない所があったらしい。
「今入れないでどうするの!」
だが業者もプロだ、すんなりと言うことを聞いてはくれない。
それに合わせるように親分のような男が彼女に食って掛かった。
「嬢ちゃん、単にそう見えるだけだろ?こちらとら現場で数十年やってきた経験で言ってんだ。」
彼女は一度むっとした顔をし、その後にっこりと笑った。
「あ、そう。じゃああの丘の上から見てきなさいな。」
彼女はこの街のシンボルとも言える小高い丘を指差した。
業者達は「何言ってるんだ?」という顔をする。
「丘の上に、入りやすいヤツがあるからそれを見ておいでなさい。」
親分が「どういう意味だ?」と彼女を睨み付ける。
「あのね私は、あの丘から見える家のほとんどの設計図を書けるわ。その私が入る、って言ってるの。お分かり?何十年のキャリアだか知らないけど、できることはやる。それが依頼者への最大の礼儀ってものでしょ?それがプロってモノでしょ?私もプロ。これはあの丘から見えるほとんどの家にも入る設計図なの。」
「文句は無い?無いわね?以上!!」
業者を始め、最初は食って掛かっていた親分も黙り込んでしまった。
少し離れた所から見ていた俺まで唖然とした一幕だった。
俺は、彼女のプロ根性に感動し、あらためて彼女に依頼して本当に良かったと思った。
男ばかりの建築現場の中で、一人小柄な彼女が最も輝いて見えた。
先程の件でブツクサ文句を言いながら動く業者達に、良い意味で叱咤している。
怒鳴り声が響いていた現場に、再び小気味良く金槌が音を奏で始めた。
俺は、出来あがっていく家を後に、仮住まいへ帰る事にした。
彼女への信頼と期待を心に秘めながら。

そして、俺の「家」は完成を迎えた。

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そしてその日、私は、彼より一足先に「家」の前に居た。
<お客様>のお口に合ったかどうか、<シェフ>である私が確かめなくちゃいけないからね。
ふと家を見上げると、屋根が日光を受けて輝いているのが見えた。
壁には、「home(故郷)」と書かれたプレートが誇らしげ掲げられている。
実は、この依頼を請けた直後に私は彼の故郷について調べていた。
彼の故郷は山の麓にあり、人口は1万人にも満たない小さな村だった。
私はその村に覚えがある。
片田舎の、お年寄りの家。
確か身寄りが無い、と言っていた。
でも、完成したその家に、その老人を慕って近所の子供が、達縁側に遊びに来たりしていた。
私はそれを見て、「この家を請けて良かった」と心から思ったのだ。
なぜか、それからというもの、舞い込んで来る依頼はどれも癖者ばかりとなった。
でも、癖があればあるほど、その裏にある人間模様はどれも私の心を潤してくれた。
今回のこの依頼でも、そこに少しでも確かなものがあれば私は嬉しい。
そして、もうすぐ彼の笑顔が見られると思うと、私は自然と笑顔になっていた。

-------------------------------------------------------------------

俺は、彼女に嘘を付いていた。
彼女を「噂で聞いている」と言ったが、本当は、子供の頃に一度だけ会った事がある。
いや、俺が見ていただけだった。
俺が当時住んでいた家の近所にあった、お年寄りの家。
確か身寄りが無い、と言っていた。
俺を含めた近所の子供達はその老人を慕って縁側で遊んでいた。
そして、その家を設計したと言っていた建築家が柔らかな笑顔でそれを見つめていたことを思い出した。
俺は、そんな風に笑う彼女に子供ながらに憧れていたのかもしれない。
今思えば、あれが初恋という気持ちだったのだろうか。
この街に越してきた時、謎の建築家が住んでいると聞いたとき、彼女かもしれないと期待した。
依頼を口実に、事務所に行ったとき、彼女その建築家自身だと知った時は、正直驚いたが、嬉しかった。
彼女を訪ねようと決めた時から、俺は、彼女にこの街での生活の第一歩を支えて欲しかったんだと思う。
・・・・そしてこれからも。

不器用ながらも花屋で選んだ花束を、俺は無意識に両手で抱え込む。
彼女は喜んでくれるだろうか。
そこに、少しでも確かなものがあれば、俺は嬉しい。

花束を抱え、俺は坂道を急いだ。
俺の「故郷」に向かって。



《 Home 了 》



【 あとがき 】
彼と暮らす家を想像しながら書いてみました。
建築家さんと彼のその後はご想像にお任せします・・・。

すぅ

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