Mistery Circle

2017-07

《 モニュメント 》 - 2011.01.03 Mon

《 モニュメント 》

著者:七穂





猫は建築家だった。
何度か生まれ変わったけれど、そのたびに建築家になる。

「オマエは呑気でいいよな・・・」
そんなつぶやきが聞こえた。
仕方がないので、片目だけちょっぴり開けてみる。
指の上をくるくると回るペンが見える。
俺はちらっとそれを確認し、また目を閉じる。
(マダダ・・・)
「ホントに猫ってよく寝るよな・・・」
半ばあきれたような声で呟く長身の青年。
これが、俺の今のご主人様だ。
「なぁ・・クロミ。何か、こうひとつ閃かないかなぁ?」
寝ている俺の頭は、大きな手でがしがしと撫でられた。


俺は、数か月前に拾われた。
とある公園で。
ベンチで所在なく座っていたのが今のご主人だ。
その隣に丸まっていたのが俺。
その俺をなでたのがご主人。
その後目を開けた俺の顔をまじまじと眺め、こう言った。
「なぁオマエ、俺んとこくるか?」
そして俺は、この家の住人になった。

俺のご主人、冥斗は駆け出しの建築家だ。
何度かデザインコンテストなどに応募はしているが、まだ選ばれたことはなかった。
ところが、俺を拾った後、近くの市の記念館のデザイン公募で、ご主人は見事に予選を通過し、最終審査に残ったのである。
「クロミ、お前もしかして、幸運を運んできた女神か?」
こう言って、ご主人は俺の頭をまた撫でたのだった。
(マッタク、イイメイワクダ。ソレニオレオスダシ・・・。)
そして審査の最終課題は、デザインを模型にすることだった。



最終審査に残ったのはいいが、冥斗は悩んでいた。
デザインでは現せるのだが、これが立体になると、難しい。
どうにか形はできたものの、どうしてもイメージ通りに仕上がらない模型に、冥斗は焦りといら立ちを感じていた。
作っては、途中で壊し、また作る。そんなことを何度か繰り返し、ようやく模型が完成したのは締め切りの5日前だった。
「どこかが違うんだ。・・・どこかが。」
それが何かはわからないが、出来上がった模型に何かが足りない事を感じていた。

仕事に没頭すると、他のことは全く目に入らない。
携帯の着信があっても、見ない事もしばしばだ。
そんなご主人を見かねて、携帯を俺のそばに持ってきてやった。
まぁ、ご主人はそんなことに気づいてもいないだろうが。
そのせいか、この日は珍しく、携帯を開きメールを確認すると、
「流石にまずかったか・・」とつぶやき返信メールを打っていた。


しばらくして、玄関のチャイムが鳴った。
ご主人が玄関のドアを開けると、そこに立っていたのは手に、一杯の荷物を抱えた可愛らしい女性だった。
スレンダーな肢体に、ショートカット大きな目とえくぼが可愛い。
「まったくもぉ・・・。返事もよこさないなんて・・」
唇を尖らせたふくれっ面も可愛い。
「スマン。美紀。」
どうやら彼女の名前は、美紀というらしい。
「冥斗ってば、夢中になるといつもこうなんだから・・・。どうせろくに食事もしてないんでしょ?買い物してきたから。」
そう言ってリビングに入って来た彼女の視線は、ソファーの上の俺で止まった。

「?」「猫?」「冥斗、いつ猫を?」
そう言って俺のそばに座る彼女。
華奢な指が、おれの背中を撫でる。
「綺麗な毛並み・・。漆黒ってこういうのをいうのね。」
俺が右目を開けると、目の前に大きな黒い瞳があった。
「綺麗・・・・。綺麗な青なんだね。」俺の目を見て彼女が言った。
ゆっくりともう片方の目を開けた時、彼女が息を呑むのがわかった。
「あ・・・左目・・・金色なんだ・・・。」
そして俺は、彼女に抱きあげられた。
ベタベタされるのは、好きじゃないんだが、まぁ初対面だし、今日はヨシとしておこう。
「ああ・・。珍しいだろ?オッドアイって言うらしい。俺も初めてみて驚いたんだよ。
だから思わず連れてきちゃったんだ。」
そう、俺の右目は青、左目は金色なんだ。



「ねぇ 冥斗 連絡もくれないで・・・何にそんなに夢中になってたの?まさか、他に好きな女性でもできたとか・・・。」
そういう美紀に、冥斗は顎で模型を指す。
「そうか、N市の公募に通ったって言ってたね。」
「うん、最終課題がこの模型ね。」
「へぇ・・良くできてるのね。」
俺を抱いたまま、彼女が模型を覗き込む。
「でも何かが足りないんだよなぁ・・。何かが。」

その時、俺の爪が一閃。模型の一部を弾き飛ばした。
「ああっ!コラ!駄目じゃない!」
「!!」
「・・・・・これだ・・・!」
「そうだよ。アンバランスの調和。これだ!」
どうやらご主人はヒントを見つけてくれたようだ。
これは、大きな収穫だった。
(ミィツケタ・・・)
「ん?何を見つけたの?冥斗。」
「え?ああ・・・。今クロミが引っ掻いて無くなったところを見て閃いたんだよ!」
冥斗は興奮した声で答えた。
「そうか。この子クロミっていうのね。いい子・・。」
美紀の手が俺の頭を撫でる。
「あら?冥斗、この子オトコノコだよ?クロミはかわいそうじゃない?」
(ソウ、オレハクロムダ・・・)
「ねぇ、この子の名前「クロム」にしない?」
「いいけど。」






「ねえ、ねえ、こっちに来て!面白いもの見つけたの!」
小さな女の子が、男の子の手を引っ張っている。
「ねぇ、ここ素敵でしょ?秘密の隠れ家を作ろうよ。」・・・
・・・ああ、木の上に隠れ家が・・・

「見つけましたぞ、王様。」
「今度は何を見つけたのだ、イムホテプ。」
「宝をうまく隠す方法を見つけたのですよ。ここを通気口に見立ててですね、この通路はダミーです。ここから入れば、宝物庫には訳なく忍び込める訳です。」
「ふむ。まさかピラミッドの建築者が宝を盗掘したとは誰も思うまい。」
「これで、埋めたはずの宝はその日のうちにまた倉庫に戻るわけです。」
・・・・ピラミッドの内側に入るのは難しそうだ。外から見ると。でも実際は内側っていっても別天地ってほどでもないんだが・・・・




夢を見ていたのか、それとも遠い記憶なのか・・・・
そんなこともわからないくらいの月日が流れていた




最終審査を経て、冥斗のデザインは採用された。
そしてN市の記念館の完成披露の式の当日、着なれないタキシードに身を包んだ冥斗が、緊張した面持ちでホールに立っていた。
式典で、設計者としての挨拶をすることになっている冥斗は落ち着かない。
その横で、冥斗の手を握る美紀の左手には指輪が光っていた。
式典で司会者から、冥斗は「新進気鋭の建築家で、さらに美しいパートナーまで手にしました。」と紹介され、大いに照れていた。


式典が終わり、ロビーのソファに座った二人は、安堵のため息をついた。
冥斗は、クロムのケージのふたを開け、クロムを抱き上げた。
「クロムありがとう。お前のおかげだな、きっと。」そう言ってがしがしと頭をなでる。
「そうね。クロムありがとう。」美紀もクロムを抱きしめた。
・・・・・(ツ~カマエタ・・・)

その時、美紀の身体がブルブルっと震え、ソファーに倒れこんだ。
(クロム・・・黒無・・・・・・チュ・・?)




「今回は時間がかかった・・・。なぁ、ミカギちゃん。」
「あ~あ、やっぱり捕まっちゃった・・・。」
「まぁな・・。そういうルールだからね。」
「しっかし、面倒なルールよね、これ。見つけた時に(ミツケタ)って言ってから、作った建物の中に入れなきゃいけないんだから。」
「いくつもの鍵を開けて最後に(ツカマエル)って訳だ。」
「しかも、私のほうは、ツカマル前までわかんないんだから・・不公平よね。」
ミカギが口をとがらせる。
「しかたないだろ。初めからそういうルールだから。だから俺はいつも建築家なんだよ。」
「そういうことよね。・・・ところで、今回で何度めだったっけ?」
「1988回目だったかな?俺の記憶が確かなら。」
「よく覚えているのね。」
「あいにく、記憶力だけはいいんでね。」
「さて、余計な話はこのくらいにして、今回もジ・エンドといきますか。」
「相変わらず、冷たいのね。」
「仕方ないだろ。(ツカマエテ)からのタイムリミットは3分だからな。」
「まったく・・・いつもここまでなんだから・・・。」
ミカギはちょっと恨めしそうな顔で俺を見る。
「それじゃあ・・・サヨナラ・・・だ。」
俺はミカギを抱きしめ、ゆっくりキスをする。
その途端、ミカギの身体は砂のようにさらさらと消えていく。
「サヨナラ、ミカギ。1988回目のサヨナラだな。じゃあ、また・・・。」
「さて・・・次はどこの誰になるのかな・・・。」




「美紀!どうした?」
冥斗に肩を揺さぶられて、我に返る。
「あ・・・わたしどうしたのかしら?」
「大丈夫か美紀、お前今倒れたんだぞ。」
「・・・疲れていたのかな?ゴメン。大丈夫だよ。」
「忙しかったからな、あんまり無理するなよ。」
「うん。とにかく今日はおめでとう。そろそろ帰ろう・・・。」



リビングのテーブルで向かい合い、冥斗と美紀はグラスを重ねていた。
「あらためて、おめでとう。冥斗。」
「うん、これもみんな美紀のおかげだよ。・・・それに、クロムのおかげかな。クロムは俺たちに幸せを運んできてくれた天使だったんじゃないか・・って思うんだ。」
「うん・・・・きっとそうだね。それにしても、クロムも疲れたのかな?ケージから出てこないよ。中で寝てるのかな?」
「出てくるまで、そっとしておこう。人がたくさんいるところで疲れたんだろう、クロムも。」



クロムの両眼が、緑色に変わっていたことに二人が気づくのは、しばらく後のことだった。




ある穏やかな昼下がり、私は記念館の中にたたずんでいた。
「何を見ていらっしゃるんですか?」声をかけてきたのは若い夫婦のようだ。
「この記念館、形が面白いなぁ・・と思いましてね。」
「この建物を見ていたんですか?」
「ええ、本当にこのデザインは興味深い。少し離れて見るとまた趣が違いますな。」
「そう思われますか?もしかして建築関係のお仕事をされているのですか?」
「まぁそんなところです。それから、これをデザインしたのは若い建築家で、一般の投票でも選ばれたとも聞いていますよ。」
「よくご存じなんですね。」
若い夫婦は嬉しそうに話す。
「ええ、記憶力だけはいいんですよ。私は。」



ミカギと私は、ツカマエタ時だけ言葉を交わす。
ほんの刹那のことであるが、その時「クロムとミカギ」はお互いを認め合うのだ。
そして、またゲームは始まり、ツカマエタ証がひとつ増える。
ここは、私とミカギの1988番目の証なのだ。
繰り返させるゲームの中の一つの記憶だけれど、
少しだけでも、確かなものがあると嬉しい。
私は帽子をかぶり直し、記念館を後に、ゆっくりと歩き始めた。



《 モニュメント 了 》



【 あとがき 】
さて、このジャンルは何になるんでしょうか?
久々に、仕事以外での文章を書いてみました。
今回は、いろんなところで遊び(といってもかなりマニアック)を取り入れています。
たとえばネーミング。クロム(黒無)は、物事を黒に帰す猫にして死神を現しています。
では、相手の「ミカギ」と「冥斗」は何に、ちなんでいるでしょうか(笑)とか、
(同様にご主人「冥斗」と彼女「美紀」の名前もかなりこじつけです。)

分かった方は・・・ってクイズじゃないしw

七穂
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