Mistery Circle

2017-10

《 Reincarnation 》 - 2011.01.03 Mon

《 Reincarnation 》

著者:知





 猫は建築家だった。何度か生まれ変わったけれど、そのたびに建築家になる。
 猫と言っても私は人間だ。
 ただ、人は私の事を猫と呼び私も会話の中で自分の事を呼ぶ場合は猫と呼んでいる。
 勿論、猫は名前ではなく愛称だ。ただ、何故猫という愛称がついたのかは覚えていない。
 生まれ変わる前の記憶はあやふやなのだ。
 何かふとした拍子に思い出すことはあっても、自分で思い出そうとしてもできない。
 ただ、建築家としての知識は生まれ変わってもはっきりと覚えているので問題はなくあまり気にしていない。
 そして、建築家と言っても普通の建物を作っているわけではない。魔法道具を作っているのだ。
 遥か昔、魔法道具は凄く大きなものだった。
 いや、確かに小さな魔法道具もあった。でも、それは誰もが作れたのだ。
 例えば家など大きな物に何らかの魔法を施す。それはただ闇雲にすればいいものではなく、効率や相性等を考えてしなければいけない。それは家を作るというところから始まる。
 何らかの魔法を施した家は正しく大きな魔法道具だった。
 だから、魔法道具を作る事を仕事としている人を建築家と呼ぶことになった。
 今となっては魔法道具を自分で作る人が減り、家などを作る際も作るときに魔法を施すのではなく作った後に魔法道具を使うようになった。
 勿論、今でも作るときに魔法を施す事もあるけど、費用が膨大になるのでそのような注文をする人はいなくなった。
 重要な施設などを造る場合はそのような注文が入ることはあるけれど、建築家という名前だけがその名残として残っているというのが現状。


「ただ今戻りました」
 玄関の方から透き通った声が聞こえてきた。
「おかえり」
「あっ、猫師匠。ただ今です」
 弟子のマコが旅行から帰ってきた。旅行と言ってもただの旅行ではなく
「どうだった?」
「凄かったです。あれなら星を壊す程の威力は出せるでしょうね」
 現存する最古、かつ、最大の魔法道具――魔法建築物と言った方がいいかもしれない――スターブレイカーが特別に一般公開されていたので見に行かせたのだ。
「でも……何か足りないというか、どこかおかしいというか……そんな感じもしました」
 マコは続けてそう言った。
 どうやら見に行かせて正解だったようだ。そこまで見えるようになっているか、この若さで。
「その感覚は当たってるわよ。あれには封印がかけられているからね」
「封印……ですか」
「そう、あれは威力が強すぎてね。巨大な隕石を破壊するためにはそれぐらい必要だったのだけど、目的を果たした後どうするのかが問題になってね」
 激突すれば確実に人類が滅亡してしまうほどの巨大隕石の飛来。その隕石を破壊するために作られたのがスターブレイカーだった。無事隕石は破壊された。でも、巨大隕石を破壊できるほどの威力があるのだ。悪用されたら危険だけど壊すのも勿体無いと考えられたのが封印をかけることだった。
「まぁ、色々あったけど封印をかける事になったのよ。5つの封印をね」
「5つ……ということは?」
「うん、その通りよ」
 この星には5つの大きな勢力がある。昔は大小様々な争いがあったけどあるときを境にその5つの勢力の間では争いはなくなった。その一番の要因がこれなのだ。
「大きな勢力に封印の鍵を与えてその鍵が1つでも欠けると封印を解除できなくする。勿論、その鍵を無理矢理に奪うことができない形にしているわ。万事に備えるならどの勢力もスターブレイカーの存在は必要だし、5つの勢力の間での無駄な争いはなくなったというわけね」
「何と言いますか……上手く行きすぎという感じがしますね」
 呆然とした様子でマコはそう言った。
「確かにそうね。まぁ、どこまでその当時の人たちが計算して事を進めていたかはわからないけどね」
 あの事件がなかったら今の平和な時代はないということは間違いないだろう。
「んーどこか今一腑に落ちないといいますか、納得がいかないことが……うーん……」
 頭に疑問符を浮かべているマコの姿を見ていると思わず微笑みを浮かべてしまう。
 私のした説明は肝心な部分を態と省いたものだ。
 巨大隕石の飛来は天災ではなくある人物によって起こされたもの。
 醜い争いを繰り返す人類に鉄槌が降りたのだ。人類が皆協力し無事に防ぐことができたのは偶然なのかそれともそうなるように手加減したからなのかはわからない。
 スターブレイカーを後世に残していく事は彼女の怒りに触れたときの対処の一手段でもあり、又、もう二度とあのような醜い争いを繰り返さないという彼女との誓いの証でもあるのだ。
「それにしても、猫師匠は詳しいですね」
「そう? 書物や人づてに得た知識だからあなたも年月が経てばこれぐらいの知識は身につくわよ」
「猫師匠の下で修行すればするほど、背中が遠く感じます」
 私の言葉に下を向き肩を落としてマコはそう言った。
 私がこの事に詳しいのは当たり前のこと。
 スターブレイカーを作ったのは過去の私で、封印をかけたのも過去の私だから。
「それにしても、あの時代にあれほどの物が作れたのですね。現在でもあれほどの物を作れといわれると作れるのか……」
「そうね……同じものを同じように作れといわれたら不可能だろうね」
 マコが顔を上げて言った言葉に私は反射的にそう返していた。
「不可能……ですか」
「ええ。非効率的すぎるからね。今ならもっといい材料があるしもっといい技術があるわ。それらを使わずに作る事は今の人には知識がないから不可能だろうね。私を除いて、ね」
「猫師匠は作れるのですか?」
「ええ。でも、そんな無駄な事したくないけどね。使われなくなった知識、技術というのはそれなりの理由があるわ。それをわざわざ学ぶ事は無駄とも言えるわね」
「でも、猫師匠はその無駄な知識を持っているのですよね」
「ええ。でも、それを弟子のあなたに持てとは言わないわ。人の時間は限られている。歴史をなおざりにしてはいけないけれど必要以上に拘る事は時間の無駄遣いよ。それに……」
「それに?」
「もし、古い知識や技術であなたに必要なものがあると思ったら私が教えればいいだけの話だからね」
「確かにそうですね。でも、それだと私、恵まれすぎでは?」
 私の一言に微笑みを浮かべながらマコはそう返した。
「かもね。でも、あなたの恵ませた環境は偶然や運で手に入れたのではないでしょ」
 マコを弟子にすることを決める前にかなりの無理難題を押し付けた。それを乗り越えてきたのだ。
「そうですね……今思い返してもあのときの私、よく達成できたなって思いますから」
 そのときの事を思い出したのか軽く冷や汗を浮かべながらそう言った。
 おそらく、私の秘密についてもマコには教える日がいつか来るだろう。過去の私が弟子をとっても教えることがなかった秘密を。私はそんな予感がしていた。

『ピンポーン』
 丁度、会話が途切れたところで呼び鈴がなった。
 今日は来客の予定は入っていなかったはずだけど……
「あ、私が出ますね」
 予定を書いたボードをマコはちらりと見てそう席を立った。
 飛び入りの客はマコが応対する事になっている。こういうとき弟子をとってよかったと思ってしまうのはマコに失礼だろうか。
「……あの、猫師匠、少しいいですか?」
「ん?どうしたの?」
 席を立って数分後にマコが首を傾げながら戻ってきた。
「お客さん、猫師匠に用がある見たいなのですが……名前を尋ねても『名前を言っても実際に見てみないと私が誰かわからないと思うよ』と言ってまして……」
 実際に見てみないと誰かわからない……か。名前を言わない人に会う気は全くないのだけれど、その言い回しが引っかかった。
「んーわかったわ」
 私は席を立って玄関の方へ歩き出した。
「一応、久しぶりって言った方がいいかしら?」
 玄関に立っていたのは全く予想もしなかった人物だった。
「……マユ……ええ、久しぶりね。何年振りかしら」
 彼女の顔を見た瞬間、名前が浮かんできた。
 なるほど、確かにマユと名前を聞いただけでは私は彼女が誰かわからなかっただろう。
「ええ、凄く遠い昔のような気がするわね、猫。でも、安心したわ。会った瞬間、なにされてもおかしくないって思ってたからね」
 マユのその言葉を聞いて昔の記憶が次々と思い出され始めた。そうか……マユは……
「そうね、私もここまであなたと会って冷静でいられるとは思わなかったわ」
 無意識に私はそう口にしていた。
「あの……猫師匠のお知り合いですか?」
「ええ、遠い昔のね」
「では、お茶入れてきますね」
 私の後についてきていたマコの言葉にそう返すと、マコはそう言って台所へと向かった。
「ふーん、弟子取ってるんだ」
「ええ、働き者だし才能もあるし、いい子よ」
 ぼつりとマユがこぼした言葉にそう返した。
「どうやら私の知っている猫とは少し違うようね。いや、変わったと言った方がいいのかな?」
「かもね。そういうマユもあの頃とは変わってるでしょ」
「ふふ、そうね。私は長く生き過ぎてるからね。でも、猫あなたは違うでしょ? だって……」
 マユは微笑みを浮かべたまま続けてこう言った
「あなたは確かにあの時私がこの手で殺したのだから」
「ええ、あの私の記憶はあなたに殺されたところで終わっているわ」
 マユの言葉に動じることなくそう返した。
「転生……しかも、昔の記憶を持ったまま……なるほど、昔のあなたを危険だと感じた根本はそこにあったようね」
 納得がいったと、そうマユは言った。
「昔の記憶は持っていても性格も同じというわけではない、面白いわね」
「そうなの? 昔の事はあまりよく覚えていないから」
 マユにそう言われてもピンとこなかった。
「そうなの? それにしても面白いわね。今まで転生した人は何人も見てきたけれど、前世の記憶を持っていた人は初めてよ」
「そっちこそ、まさかあの時代の人がまだ生きてるなんてね。と言っても"人"ではないようだけれど。まさか、マユがそうなるなんてね。嫌ってたでしょ、あの子の事。それなのに同類になるなんてね」
「まぁ、私にも色々あったのよ」
 私の言葉に苦笑を浮かべながらマユはそう返した。
「さて、中に入って。こんな世間話をしにわざわざここまできたのではないのでしょ?」
「ええ、ではお邪魔するわね」
 そう言うとマユは家の中へと入った。


「で、どういう依頼かしら?」
 マコがお茶を持ってきて、一息ついたところでそうマユに尋ねた。
 マコには今日私がする予定だった魔法道具の作成を命じておいた。あのレベルのものならばマコでも半日かからずに仕上がるだろう。
「察しがいいわね」
「私にわざわざ合いにくるなんてそれぐらいでしょ? 今のあなたは力があるのだから」
「そうね、これ見てもらえる?」
 そう言うとマユはどこからか紙を取り出し私に見せた。
「どれ……って、これは……」
 書かれていた内容に思わず絶句してしまった。
「どう?作れる?」
「作れるとは言い切れないわね……」
 材料が問題なのだ。入手が困難とかではなく何を使って作ればいいのかわからないのだ。
「必要な材料は私が全部揃えて届けるわよ」
「なら……時間がかかってもいいなら作れるわ」
 マユの言葉に少し考えてそう返した。
「よかった……この依頼を他の人に頼むわけにはいかないから」
 安心したようにほっと一息吐いてマユはそう言った。
「でも、こんな武器を作ることを依頼するなんて、もし、この武器が量産されたらかなり危険な事になるし、今のあなたなら要らないと思うのだけど?」
 疑問に思ってそう聞いてみた。
「量産される可能性は0よ。だって今回使う材料は私にしか用意できないし。そもそも一番肝心要の精霊を用意できないでしょ?」
 言われればそうだけど。
 マユが依頼してきたのは精霊武器だ。
 武器の中に精霊を宿しその恩恵を受ける。ただ、その精霊をどうやって捕まえるかが問題だけれど。
「それに、もし、捕まえることができたとしても捕まえた精霊では恩恵受けられないしね。武器が完成してその武器を盗まれたとしても力を引き出すことは私にしかできないしね。ある意味ではかなり安全な武器になるはずよ」
「そう、なら問題ないわ。この依頼引き受けます。だけれど一ついい?」
「何?」
「あの子、マコにも手伝ってもらうのだけれどいいかしら?」
 マユは私にしか頼めないと言った。なら、私以外が作るのに関わる事は了解を得ておいた方がいいだろう。
「いいわよ、勿論。あの猫がとった弟子だもの。信用してるわよ」
 昔の私はどんな性格だったのだろうかと少し不安になるような言葉をマユは言った。
「そ、そう、ならいいわ」
「じゃあ、後で必要な材料持ってくるわね。時間はどれくらいかかってもいいから」
 そう言うとマユは立ち上がり背を向け帰ろう2、3歩歩き出したところで立ち止まり、振り返らずに
「あ、何故私が武器を必要としているか言ってなかったわね。あの子が最近動き出しているのよ、しかも活発にね」
 と、さらりと爆弾発言をした。
「それってまさか!」
 思わず立ち上がり大声を上げてしまった。
「何もないかもしれない。けれど、もし何かがあったらね。あの子が本格的に動き出すほどの事ではないのを願ってるけど。備えはしておかないとね」
「その情報を聞けただけでも十分な価値があるわね」
 あの巨大隕石を召喚したあの子が動き出している。何事もなければいいけど。
「おそらく、数日中には用意できるから、よろしくね」
 マユはそう言うと帰っていった。


「しかし、これは時間がかかりそうね」
 マユの依頼を受けてから一ヵ月が経った。しかし、全く武器の製作は進んでいなかった。
「そうですね。でも、大分この子達と仲良くなってきたと思いますよ」
「まぁ、そうね」
 マユからは精霊を宿せるものかは実際に精霊を使って試さないとわからない、ということで2体の精霊も送ってきた。
 生まれたばかりの精霊だから力は弱いけど、居心地が悪い場所には決して近づかないから丁度いいでしょ、との事だ。
「どうやらこの子は私に懐いて、そっちの子は猫師匠に懐いているみたいですね」
 と、私の側を飛び回っている精霊を見てマコはそう言った。
「うーん、駄目ね。やっぱりこの金属だけだと実用的な剣を作る事はできないわ。硬いけれど折れやすい」
 精霊を意図通りに動かすほどになるには時間がかかるとマユが言ったので、渡された金属をどう武器に仕上げるかを色々試しているのだけれど、刀と同じ方法では駄目なようだ。
「お疲れ様です。一息ついてください」
 マコはお茶を持ってきてそう言った。
「ええ、ありがと」
 さて、どうしようか。
「流石にこの依頼だけに集中できるのは後一ヶ月が限度ね」
「そうですね。定期的なものは今でも受け入れていますが、特注は断っていますし」
「ずっと断り続けると色々怪しまれるからね」
 難しいとは思っていたけれど思っていた以上に難しいものだった。
「それにしても、不思議な金属ですよね。精霊って金属嫌う子が多いと聞いたことがあるのですが、この金属は嫌うどころか好んでいるみたいですし」
 と、マコは不思議そうに金属の塊を手に取った。
「っと駄目ですよ、入っては……あれ、もしかして……猫師匠、これ!」
 この精霊たちは自由気ままに飛び回っている。この金属を近づけると中に入ってしまう。居心地がいいのだろうか。
「ん?どうしたの?」
「今気づいたのですけれど、この子、表面部分にしか入っていないですよね? これ、内側には入りにくいようですね」
「確かにそう見えるわね」
 表面部分にしか入らない……もし、そうなら普通に刀を作ってからこの金属で表面をコーティングすればいける?
「うーん、どうやら内側には入りたがらないようですね」
 時間が経っても表面までしか入らないのを確認してマコがそう言った。
「どうやら、最優先にすることを間違えていたみたいね」
 その様子を見て私はぼつりと呟いた。
「そうですね。先ずはこの子達のことを詳しく知らないといけなかったですね」
 マコも同じ事を考えていたのだろう、私の言葉を聞いてそう言った。
「さて、そうと決まれば……この依頼については中断ね。今日から特注のも受け入れ再開しましょう」
「はい」
 私とマコは微笑みを浮かべていた。
 一寸先さえ見えないと感じるような難しい依頼。その中で少しだけでも確かなことがあった。それを発見できて嬉しくて自然と微笑みが浮かんだのだった。



《 Reincarnation 了 》



【 あとがき 】
さて、今回も前回までと同じ世界の話だけど時間が飛んでいます。
前回の話から5、6年後の話になります。
しかし、あれだね。猫師匠は当初はもう少し謎めいたキャラだったのに、お題のせいでそんなキャラとは程遠い猫なんていう愛称になってしまったね。
この世界の話、長編用に考えていたものなんだけれど、終わりが見えなくてボツにしたんだよね
こうやってそれが再利用できて嬉しかったりする

『忘れられた丘』 知

● COMMENT ●


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック:

http://misterycirclenovels.blog.fc2.com/tb.php/177-da5fb0e3
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

《 猫も歩けば 》 «  | BLOG TOP |  » 《 モニュメント 》

プロフィール

MC運営委員会

Author:MC運営委員会
このブログの八割は、カボチャで構成されております。

カテゴリ

Mistery Circle(メインカテゴリ) (40)
寸評 (30)
MCルール説明 (1)
お知らせ (36)
参加受付 (24)
出題 (35)
メールフォーム (3)
内藤クンのおもちゃの部屋 (9)
天野さんの秘密の部屋 (8)
Ms.伍長の黙示録の部屋 (0)
伊闇かなでの開かずの部屋 (4)
未分類 (28)
亞季 (2)
いつき (1)
伊闇かなで (3)
空蝉八尋 (4)
黒猫ルドラ (13)
ココット固いの助 (22)
桜井 (1)
桜朔夜 (1)
鎖衝 (11)
知 (21)
しどー (13)
瞬 (3)
白乙 (12)
すぅ (13)
すずはらなずな (30)
田川ミメイ (2)
辻マリ (14)
夏海 (3)
七穂 (1)
氷桜夕雅 (32)
ひとみん (4)
松永夏馬 (12)
望月 (8)
幸坂かゆり (21)
李九龍 (13)
りん (3)
ろく (1)
Clown (12)
MOJO (1)
pink sand (9)
rudo (8)
×丸 (4)
MC参加者に聞け (7)
Mistery Circle ヒストリー (2)

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

検索フォーム