Mistery Circle

2017-08

《 お菓子の国のアリス 》 - 2012.07.04 Wed

《 お菓子の国のアリス 》

 著者:すぅ






「普通で、いいと思うよ。」
あの時、彼女は俺にそう言った。
俺をまっすぐ見つめるその目は、どこまでも澄んでいて、
何もかもを包んで、何もかもを許してくれそうなほど深かった。

「あなたは、あなたでいいじゃない。」
そう言って、そっと俺に触れたその手は、とても白くて綺麗だった。
少しでも力を込めてしまえば、折れてしまいそうなほど細い。

「でも・・・・・。」
その彼女の言葉を素直に受け止められなくて、俺は否定の言葉を口にしてしまった。
だけど、彼女はそんな俺を見つめ返しながら、こう言った。
「ううん、あなたはあなたの存在だけで価値があるんだよ。」
顔を背ける事もなく、微笑みながらまっすぐ俺を見つめてくれた。

その時、そよ風が通り抜けた。そんな気がした。
通り抜ける風が、彼女の香りを運んできた。
暖かい、優しい香り。
それが俺の心を溶かした。

「ありがとう。」
気がつくと、俺は彼女にそう言っていた。

今まで笑顔なんて作った事は無かった。
それでも、彼女に贈った笑顔は、きっとぎこちないものだったに違いない。
よっぽど変な顔だったのか、彼女がクスっと笑った。
俺も、彼女を真似て笑う。

ああ、笑うってこんなに気持ちが良い事だったんだ。
それを教えてくれた彼女に、もう一度、今度は心の中でお礼を言った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

彼女と初めて会ったのは、どんよりと空が暗い日だった。
嫌な色の雲が立ち込め、今にも雨が降ってきそうなそんなある日の夕方。

人もあまり通らない俺のお気に入りの場所で俺は景色と同化し、当てもなくぼんやりと空を眺めていた。

その時、ふと視線を感じた。
(オレニキヅイレイルノカ?)
そんな疑問を持つ間もなく、心地よい声が聞こえた。
「どうしたの?」
それが、彼女が俺に掛けた最初の言葉だった。

(ナンデ、コイツハオレニハナシカケタ?)

それが、俺が彼女に感じた気持ちだった。
俺は、人が嫌いだった。
人・・ではない。自分の他のものが信じられなかった。

信じたら、裏切る。
与えられたら、奪い合う。
不遇か、そんな光景を何度も目にしてきた。
だから、俺は俺以外のものが嫌いだった。
嫌いだったというより、信じられなかった。
いや、信じられなくなっていた。
(ドウセ、オマエモソウナンダロウ?)

浮かんでは消える沢山の記憶と闘いながら、俺は声のする方を見た。

俺の視線の先に、真っ直ぐに俺を見つめる瞳があった。
それは、制服を着た髪の長い少女だった。

その彼女を俺は、今にも噛み付こうとする勢いで睨みつけた。
大抵の奴は、これで怖気づいて離れていく。
そうさ、これで良いんだ。
俺に、関わるな。
しかし、彼女は違っていた。
一切怯まず、それどころか更に歩み寄ってくる。
「怖がらないで。」
そう言って、俺に触れようとする。

(オレニサワルナ!!)

彼女が触れようと伸ばしたその手を、勢い良く跳ねのけた。
「っ・・・!」
爪で引っ掻いてしまったようで、彼女の手に血が滲んだ。

(・・・キズツケルツモリナンテ・・・・)

そんなつもりは無かったのに。
・・・でも、これで良い。
これで、こいつも怖がってどこかへ行くだろう。
これで良いんだ、これで。

ふと、俺の顔に柔らかい何かが触れ、甘い香りがした。
彼女は怖がるどころか、俺を抱きしめて来たのだ。
あまりの出来事に、俺は驚いて言葉を失う。

「大丈夫、痛くないから。」
(イタクナイ・・・?)
血が出るほど、俺は乱暴にしたのに?

「私は痛くない、あなたは痛かったね。」
(イタカッタ・・・?)
(オレガ?)

「怖かったんだね、苦しかったんだね。」
彼女の声が、震えているのが分かった。
傷が痛むからか?
「ごめんね・・・一杯傷付けちゃったね。」

(ナゼ、コイツハオレニアヤマッテイル?)
(ワカラナイ・・・。)
(・・・アタタカイ・・・・。)

気付くと、俺は彼女に体を預けていた。
さっきのように、跳ね飛ばすのはたやすいことなのに、俺にはそれが、出来なかった。
もう一度、自分以外のものを信じてみようという気持ちが俺の中に生まれた。
ずいぶん長いこと、忘れていた感覚だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それからも、彼女は何度も俺に会いに来た。
同じ時間に同じ場所で。
違うのは、空が綺麗な青色に染まっているぐらい。
そして色んな話を、彼女から聞き、彼女に話した。

驚いたことに、どんな話をしても、彼女はそれを受け止めてくれた。
俺の身の上話をしても。
俺がどこで何をしてきたかを話しても。

「だって、貴方は貴方だもの。・・・・ねえ、・・・・さん。」
「!!」

彼女にはわかっていた。
俺が何なのかを。
それでも俺のそばにいてくれたのか・・・。

何だか肩の力が抜けた。
こんな気持ちは久しぶりだった。
誰かと話し、そして笑う。
嬉しいってこんな気持ちなんだな・・・・。
ずっと忘れていた・・・・。


そんなある日、彼女が友達を連れて来たいと言った。
なんでも、その友達が俺に会いたいと言い出したらしい。
なぜかはわからないが、俺と彼女が話しているのを知っていたのだそうだ。
彼女は何度も断ったが、とうとう根負けしてしまったと、申し訳なさそうに俺に言った。
なんでそんな事に・・・と思ったが、彼女の頼みなら断れない。
俺は、不安を感じながらも承諾した。


次の日、彼女はその友達を連れて俺に会いに来た。
その子は、俺をじっと見つめて微笑んだ。
その笑顔に不安を感じたが、俺は、彼女と同じようにその子と話した。
しばらく話し、彼女達は帰って行った。
帰る二人の後ろ姿を見送りながら、俺は違和感と胸騒ぎを感じていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(なぜ、彼女の友達は俺に会いにきたのか?・・・・)
わからない。
そう考えていると、後ろに誰かの気配を感じた。

振り向むくと、そこには彼女の友達が立っていた。
(何で?何をしに・・・?)

あまりに急なことに、対応に困っている俺に、その子から話し掛けてきた。

「ねぇ。」
・・・!?

いきなり肌が粟立った。
(何だこれは・・・。)
彼女の友達は、口元に笑いを浮かべながら近づいてくる。

さっき会ったその子の雰囲気ではない。
知っている。
この感覚。

「彼女に近づいたら見つけたわ。あなたのこと。思ったより可愛いのね。中学生?」
まるで、口が耳まで裂けてるように見えるほどその子は笑っていた。
その笑顔は、彼女が見せるあの笑顔とは全く違う別のもの。

「ねえ、私に力を貸して欲しいの。」
その子の目が、黒く黒く染まっていく。
あの日の、嫌な空の色と同じ。
「貴方の事は誰にも言わないでね、って言われたけど。私が貴方に会うのは構わないわよね。」
嫌な匂い。
湿った、よどんだ匂いがする。

(コノニオイ、アイツラノニオイダ。)

信じたのに裏切って、与えられたのに奪い合った。
人の、欲望の匂い。
「私、あの子が嫌いなの。周りからチヤホヤされちゃってさ。」

(・・・・・・オレニチカヨルナ。)

「だからね、あの子の後をつけて、貴方を見つけた時に思ったの。」
(やめろ・・・・・。)

「普通じゃない貴方の力で、あの子に勝ちたいって。」
(やめろ!!)
「そしたら、私がチヤホヤして貰える。あの子の代わりにね。貴方の力ならそれができるわよね。」
(やめろ!!)

「ねぇ、私も抱きしめてあげよっか。」
その子の歪んだ笑顔が近づいてくる。
(来るな・・・!)
「ほら、来てよ。・・・さん?私達仲間じゃないの?」
(・・・・・!!)
俺の、本当の名前。
なぜお前が、呼ぶ?
その名前を。

その名前で俺を呼ぶな。
彼女にだけ教えたその名前を。

(・・・・ヨブナァァァッ!!!)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
わかっていた。
その子が、普通でないことに。

だけど、彼女に言えなかった。
彼女の友達を悪く言うなんて、俺にはできない。

でも、その子の頼みなどはもちろん聞く訳もなかった。
その子がどうなろうと、俺には関係のないことだった・・・。


慣れていたはずだった。
こういう厄介な頼みごとも。
一人で暮らしていくことも。

平気なはずだった。

でも、「平気って言っても、痛いものは痛いんだよ。」
彼女が言った言葉が思い出される。



(久しぶりに、こんなことしてみてもいいと、誰かが俺にそう言ったんだな・・・・)



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「こんにちは。」
藪影庵の木戸を開け、誰かが入って来た。

「あ・・・あのう・・・まだ開店前なんですが・・・・。」
私は、入ってきた人に、申し訳なさそうに答えた。

「あ・・いや・・・。この店従業員を募集していると聞いたもので・・・。」
素敵に年を重ねた、渋い中年の男性がそこにいた。

(あれ・・・?うちの店従業員募集してたっけ?)
と少し考えたが、とりあえず話を聞こう。

「今、父を呼んできますね。」
そう言ってもう一度彼の顔を見て、驚いた。

「・・・・あ、もしかして貴方、・・・・・さん?
オトコノコじゃ・・ないの?」

「あ~。気づかれてしまいましたね。貴女にはかなわないな。
中学生じゃ働けないでしょ?」
なんてこと・・・?

「不肖、私「たつ」は・・・・藪影庵の助っ人に参上しました。いろいろお役に立つこと請け合い。」
そう言って、彼はいたずらっぽく笑った。

「「たつ」・・・さん、ね。」
「貴方がここで働いてくれるなら嬉しいな。」

その時に見せた彼の笑顔は、今でも忘れない。
そう、ナイスミドルなのに少年のような笑顔。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

お嬢さんの制服姿を見て、そんなことを思い出していた。

いつの間にか女将さんがそばに来て、俺の肩越しにお嬢さんを見ている。

「ねえ、辰さん。何考えてるの?」
いたずらっぽく笑うその顔は、あの頃のままだ。

「彩見の制服姿見て昔のこと思い出したとか?」
(やっぱり、この女性妖だよな・・・)
苦笑いをしながら俺は答える。
「わかっちゃいました?」


「ねえ・・・・・・辰さん。あの子のこと覚えてる?」
唐突に聞かれて驚いたが、それが誰のことかはすぐにわかった。

「私と彼女が貴方と一緒に会った日、あの後何があったのか、ずっと気になってたの。・・・・・・・だってあの子・・・・・・。」
「わかっていたんですね?」
「次の日、学校に行っても、誰もあの子のこと知らないんだもの。まるで前からいなかったみたいに。」

「女将さん・・・。あの子は・・・・・。」
「あの子は・・・?」

「あの子は違う世界に帰ったんです。」
「あの子は・・・・やっぱりこの世のモノではなかったのね。」
「そうなんです。ふと気付くと以前からいたようにみんなの中にいる。でも顔を思い出そうとしても思い出せない。小さい頃、そういう友達がいたでしょう?」
私は黙って頷く。
「あの子は私の力で、そこにとどまっていたかったんです。でも・・・・。」
「私が断ったから、同じこの世のモノではない私に断られたから。あの子は女将さんのせいだと思ったんです。女将さんが邪魔だと思ったんです。だから・・・」
「辰さん・・・・・。」

「あの子はずいぶんねばったんですが・・・。私が首を縦に振らなかったから、あの子は約束の通りに・・・・。」
「約束?」
「あの子の願いを叶えられる力を手に入れられたら、あの子は現世にとどまれる。・・・そういう約束をしていたんですね。」

「でも、ダメだった。だから・・・・。あの子は連れて行かれた。あの子の痕跡も残さないで。」
「どこへ?」
「お菓子の国です。」
「お菓子の国?」
「そう・・・。王子様と盟約を交わし、その期限までに実行を迫るのなら、その女の子はお菓子の国に連れて行かれて、この世界からいなくなっちゃうんじゃないかって・・・・。そう言われていることがあるんです。昔から。」

「あの子は、お菓子の国へ行ったのね?」
そういう私に、辰さんが頷いた。
「本当は、悪禍死・・・・の国と書くんですがね。」


「あの子は女将さんの事が憎かった訳じゃない。気づいていたんです。女将さんの力に。だから一緒に私に会いに来た。自分のことをわかってくれるかもしれない女将さんと、もっと一緒にいたかったんですよ。お菓子の国に行きたくなかったんです。」
「あの子が消えても、女将さんだけはあの子のことを覚えていた・・・。違いますか?」

思い出した・・・。彼女の顔。
大きな口で笑っている彼女を。
彼女のそんな笑顔を見たことはなかった。
私の記憶の中にあるのは、いつもつつましく微笑む彼女だ。
でも、私は見ていたんだ・・・・本当の彼女を・・・。
今、やっと気付いた。
あの子は、この世界に迷い込んで来ていたのだということに。


「お菓子の国から、あの子はまたこっちへ来ることがあるのかしら?」
そう聞く私に辰さんは笑って答える。

「ここのお蕎麦は美味しいですからね。食べに来ているかもしれませんよ。」

ふと、お店の奥をみると、きつねそばを食べている娘の隣に、同じ制服を着た女の子が見えた気がした。


「藪影庵、特別営業やってますよ。ご来店お待ちしています。」
私は店の奥に向かってそう呟いた。





《 お菓子の国のアリス 了 》





【 あとがき 】
今回は、本当に悩みました。
特に終わりのフレーズ。
途中までは書けたものの、途中で止まってしまい、
どうやって納めるのよぉぉ~~~!で、放置。

ようやく形になりました。
おかげで、妙な趣味のアルバムを晒すことになしました。(汗

なんだかストーリーがむちゃくちゃですが、どうかご容赦を!


【 その他私信 】
やっと書けたと思ったら・・・・。
私、もしかして6月担当でしたっけ?

・・・・どぉしよぉ~~!(汗


すぅ
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