Mistery Circle

2017-11

《 夏の夜の悪夢? 》 - 2011.09.01 Thu

《 夏の夜の悪夢? 》

著者:ひとみん




少女の姿を見た途端、そうしなければならないという衝動にかられていた。

「あの、これからお時間ありますか?よければ私とお茶でもいかがですか?」

なんて典型的で陳腐なナンパだろうか。自分で自分にダメだしするくらいにベタな話しかけ方だった。
そして気がついた。ここは公共の場、駅のホームだ。周りの人が歌舞伎上映中に突然現れた秋葉原によくいるのメイドさんを見るような目で見ている気がする。私はいたたまれなくなって、自分の足元を見た。もはや前を向けない。
個性的さで点数をつければ0点であろうベタなナンパを衝動的にしたものの、このあとどこに行くか全く決めていなかった。ああ、穴があったらマントルぐらい掘って入りたい。



「あの~」

恐る恐る顔を上げる。すると私に声をかけられた可哀相な張本人が、遠慮がちに話しかけてきた。私と目が合うと、人を安心させるような朗らかな笑みを浮かべた。

「ここじゃなんですから、駅から出てどこかに入ってお話しませんか?」
「え?君・・・」
「ほら、改札口はこっちですよ。」

戸惑う私の手首を掴み、歩き出した。その歩みに迷いは無い。すいすい人ごみを抜けて、改札を通り抜ける。
傍から見たら相当に奇妙な光景だったと思う。くたびれたスーツを着た中年男が、綺麗な顔をした、赤と茶のチェックワンピースを身に着けた少女に手を引かれて歩いているのだから。

いや、訂正する。先ほどの声で気づいてしまった。


ワンピースを身に着けた、少年に手を引かれて歩いているのだから。










改札を出たものの、少女――もとい少年は駅を降りてすぐ右にあるカフェには入らず、どんどん前に進んでいく。まるでこの駅の周囲を熟知しているかのように、右へ左へ歩いていき、辺鄙な路地裏へ入っていく。そして少年はひとつの建物の前で止まった。

「ここにしましょう」
「え?ここは、あの」
「さあ、早く」
「いや、でも、あの」

少年がいい笑顔で示したビルは、どう考えても3時間6千円くらいの、ラブホテルだった。

今更ながら、私は少年に声をかけたことに後悔した。





どぎまぎしながら入ったホテルの一室は、やはりそれなりのものが整った部屋だった。落ち着かない気持ちになりながら部屋の中へと進み、持っていたかばんを壁際に置く。男2人でラブホの経験は私にはなかったが、少年の格好のおかげで何のお咎めの無くすんなり入れた。男2人だったら断られるのだろうか。こんど同僚に聞いてみようか、いやでもそんなことを聞いたらどんな反応をされるか分からない。どうでもいいことばかりが思い浮かんでは消える。
ちらりと少年を見ると、部屋の中にあったインスタントのコーヒーを二人分入れていた。鼻歌を歌っている。この状況に何の違和感も抱いていないらしい。いったいどういう神経の持ち主なんだろうか。
手持ち無沙汰になったので、少年の動きを見るとはなしに何となく眺めていた。少年は2人分のコーヒーを入れ終わり、カップを両手に持って、一つを私に差し出した。

「ありがとう」
「いいえ、こちらこそ」

少年の返答は的を外れているように思えたが、気にせずコーヒーを口に入れた。緊張していたせいか、飲み物が体中に染み渡る。おいしい。私は夢中でコーヒーを飲んだ。入れたてであるにも関わらず、一気に飲み干した。

少年はまだコーヒーをゆっくり飲んでいる。どことなく優雅な飲み方だった。どこかで作法をならった人間のような、綺麗な飲み方だ。やはり私は、少年をぼんやり見ていた。コーヒーを飲んで多少落ち着いたせいか、肩の力が抜ける。そういえば、今日は特別疲れていたのだった。駅のホームでの出来事からすっかり忘れていた。
仕事でクレーム処理をこなし、上司の機嫌が悪かったせいで理不尽に起こられ、部下には仕事をサボられ、今日中にこなさねばならない仕事を一人でしていたのだった。電車に乗って、帰路についても気分は晴れず、しまいには前にいた酔っ払いとトラブルになりかけたのだ。

そういえば、あの酔っ払いとはどうなったのだろうか、確か・・・揉み合いになり、私が突き飛ばし、そして、そして・・・?


「ねえ、おじさん」

目の前に少年の顔がどアップであった。私は驚いて、後ろに下がろうとしたが、背もたれのあるソファだったため、下がれなかった。この超至近距離のまま、少年は口を開く。

「今日はもう、寝ようか」

寝るとはどっちの意味なんだろう。呆然とした私が思った言葉は口に出してしまっていたらしい。
少年は笑顔のまま、私の目を片手で覆う。

「そのままの意味だよ。―――おやすみなさい」

パチンと指を鳴らした。










「そのおじ様、寝た?」
「うん、ぐっすり」

眠った男性を見下ろしながら、少年は返事をした。ゆっくり後ろを向くと、ドアの前に少年と同じ顔をした少女が立っている。

「相当疲れてたのね」
「そうだね、何せ、ね」
「ええ」


「「衝動的に人を殺しそうになるくらいだったし」」


「とっさに僕が酔っ払いの腕を引っ張って、事なきを得たから良かったものの、一歩間違えたら危なかったよ」
「あまり大きくない駅だから良かったわね。周りに人がいなくて幸いだったわ」

少女はこちらに歩いてくる。

「ところで何で私の服を着ているのかしら?」
「ああこれ?こっちのほうがここに入りやすいかと思って」
「それだけ?」
「うん」

少女はため息をつくと、少年の隣に並んだ。真っ直ぐに男性を見る。その目は弱いものを慈しむ様であり、また美味しそうな食事を目にした美食家のようであり、そして同時に捕食者の目であった。

「あなたが選んだだけあって、おいしそうね」
「だろう?とてもやさしそうで、純粋で、何より負が貯まったいい味がしそうだろ」

少年と少女は顔を合わせて互いに笑いあう。

「では、久々に」
「ええ」
「ニンゲンのニホンという国の挨拶でいこう」
「そうね」
「では」


「「イタダキマス」」


行儀よく食事前の挨拶を述べると同時に男性の左手に少女が、右手に少年が鋭い牙を出して噛み付いた。



















「持ちつ持たれつってね」
「私たちはニンゲンの溜まったストレスと少しの血液をいただき、彼らはストレスを発散する。いろんなゴハンを食べてきたけど、やっぱりニンゲンが一番美味しいわね」
「そうだね、やはりニンゲンカンケイ、というものが一番ストレスをためこむからかな」
「私たちには理解不能ね。同族同士でいがみ合い、殺しあうなんて、不毛だわ」

先ほどのニンゲンは駅のホームの椅子に座らせてきた。あと数分もすれば起きるだろう。終電には間に合うだろうし、自分と会ったことなど忘れ、今までどおりの日常を過ごすだろう。

「体は大人になり、結婚し、子供が出来ても自分の生き方に悩み続ける。」

「ニンゲンは未完成だから尊いね」

未熟で、未完成で、利己的で、排他的で、嫉妬深い。

「愚かでとても、愛おしい」

──君はまだ未熟だ。君でさえまだ未完成だ。

「その未完成の器を嘆きながら、生きていく姿が愛おしい」



《 夏の夜の悪夢? 了 》



【 あとがき 】
男同士でもラブホに入れるそうです。友人が言ってました。友人がパチ屋通いのときに節約のために近くのラブホに男2人で泊まったことあるぜ発言からこの話が出来ました。

はじめは登場人物に名前を付けてましたが、付けないほうがいいんでなイカ?と思って全部変えました。えらい時間がかかって途中で心が折れかけたのは内緒です。

遅れてすみませんでした!!!!!トリプルアクセルとんで後にタップダンス並みの土下座。

ひとみん
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