Mistery Circle

2017-05

《 クリック 》 - 2011.09.01 Thu

《 クリック 》

著者:空蝉八尋




 いなくなる前まではいつもそばにいたし、それが当然だと思っていた。

【削除されました】

 何かが無くなったとき、誰かが死んだとき。
 不思議だった。
 生きているもの、死んでいるもの。
 同じ物質のはずなのに、何かが決定的に違う事を、確かめたかった。
 絶えず動いていた心臓が、止まっているだけではない。
 何かがぽっかり無くなってしまったような、そんな、有るか、無いかの違いを。
「君は、どちらが悲しいと思う?」
 キーボードを叩く手を止めて、僕はイザワさんを見た。   
 イザワさんは椅子に逆向きに跨って、くるくる回りながら僕へ微笑んでいた。
「居なくなることに、心の準備って必要かしら? 例えば……死ぬときが、事前に分かるとか」
「突然の方がいいに決まってます」
 飼っていたハムスターが、2年経って死んでしまった。
 分かっていた。小動物の寿命くらい、理解してから飼った。
 前足に血がたまって不自由そうだった彼は、夏の暑い日に滅多に出さない鳴き声を上げた。
 横たわったまま、何度も小さな体を縮めた。伸ばした。心臓の鼓動が、腰の部分でくっきりと主張した。
 僕はその場に座って、見つめ続けた。
 時折痙攣する体を指先でさすって、今にも途絶えそうな必死の灯を見つめた。
 水を2適、指から滴を垂らして飲ませた後、何度も口を開けては閉じてを苦しげに繰り返した彼は、三度目の鳴き声を上げて、そして、4回前足で宙をかいて、命を終えた。
 僕は見つめていた。来るべき日を過ごして、見つめなければならないその瞬間を、瞬きもせずに。
「ふーん、そっか。そうね」
 なんとなく投げやりな返事を返したところで、イザワさんは突然姿を消した。

【IZAWA:退室しました】
 
 イザワさんが突然消える事には、もう慣れたものだった。
 大方、旦那が帰宅したか、飼い犬が吠えたかのどちらかだ。
 そういえば喉が渇いた、と、ふと思い立った時、ノックされた扉が開く。
 開くはずのないそれに、吐く息が詰まった。
「久しぶり。ひとりなの?」

【MINN:入室しました】

 僕はあからさまに、怪訝そうな顔を向けた。
「あれ……鍵、開いたの?」
「やっぱり鍵かけてたんだぁ。新しいアプリ試してみた。なかなか使えるねっ」
 憎たらしく笑うミンの早口には、いつも緊張した。
 僕の指先はわずかに震えて、いつも通りに言葉が紡げなくなるのだ。
「どうして鍵かけるの? 意味ある?」
「見られたくないから」
 ミンは心底分からないというように、形の良い眉をひそめる。
「変なの。だったら、ここに来なければいいのに」
「足跡だけは、残せるだろ」
「つかないよ、この部屋は。パスワードないと、メモだって残せないもん」
「違うよ、他人じゃなくて僕の……」
 ミンはますます分からないというように、鼻息を荒くする。
「そりゃ、自分の部屋だから当たり前でしょっ」
「……いいよ、分からなきゃあ」
 僕が残したいのは、自分の痕跡だ。
 縄張りにもなれば証拠にもなる。
 僕はわざと歩き回るのだ。汚れた裸足で、ぺたぺたと、渇いた地面を。

【IZAWA:入室しました】

「ごめんごめん、あらミン。ご無沙汰」
「やっほー」
 親しげに手をふったふたりは、職場の愚痴を語り始める。
 僕は突然、まるで、そこに居ないようになった。
 僕が一言も口を開かなければ、僕はまるで存在しないのだ。
 ただ、ふたりの会話を眺めるだけの空気になるのだ。
「ねえ、どうして黙ってるの?」
 イザワさんが僕を、「有るもの」に戻す。
「……喉が痛いんだ」
 ほんの、小さな画面。
 考えてみれば、可笑しかった。
 初めてこの世界に触れたとき、恐ろしかった。おぞましかった。
 あまりにも広すぎる無防備な世界が突然に自分の手で触れられるようになった一瞬。
 不可能なことなど、何もないように思えた。
 井の中のちいさな世界のすべてすら、まだ知り尽くしていないのに。
 大きすぎると思っていた。
「具合が悪いみたいね」
 イザワさんを押しのけて、ミンが僕の前に詰め寄った。
「それなら部屋になんか来ないで、おとなしく寝てればいいのに!」
「それじゃあ、ダメなんだよ。ミン」
「だめって?」
 僕はキーボードから手を離した。
 書きかけの小説。完成はまだ見えていない。
「僕は、この場所で僕になる。それで、僕が居たしるしを残すんだ」
「え……やだ、なに言ってんの?」
 ミンの顔がいかにも気味悪いといった風に歪む。
 イザワさんは無表情だった。
「僕はね、ここでしか僕にはなれないんだ。この、なんでもできる世界でしか」
 良い世界だ。
 今の僕が出会うくらいが、丁度良い。
「そうね。この世界で、貴方はいつまでも存在してゆくのね」
 真っ先に退室しそうなイザワさんは、何故かまだ部屋に居た。
 なにか、とても、言いたげだった。
「でも僕……気付いたんだ。存在することの意味は、消えゆくときを見つめてもらう為なのかもしれない」
 真っ白に、一瞬でなにもかも削除されてしまうこの世界に、本当の存在など置けないのだ。
「骨、拾ってやれないもんね」
 ミンの意地悪い笑みが、やけにまぶしくて、僕のしわだらけの頬にひとつ、枯れたと思っていた涙がこぼれた。
 一行で、この身体が消えてゆく。
  

 

【Master:退室しました】 




 燃えないものは、いれちゃだめなのよ。 
 じゃあこれ、お葬式の時に並べましょ。お義母さん。
 親父もほんと、離さなかったよなあ……ノートパソコン
 パパぁ、明日も黒い服着るの?


 パパぁ、これなぁに  

 

「ねー、パパぁ、うちでもインターネットってできるの?」



《 クリック 了 》



【 あとがき 】
 読んで頂きありがとうございました!
 読みやすさを追求しはじめる今日この頃……飾りのない文字の美しきかな……
 とか言って、逃げてるわけじゃないんだからねっ!(なぜにツンデレ)
 逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ……
 でもいつの間にか、左折をぐるりと繰り返して、もとの道に出てしまうんです。
 逃げても結局、元通り~♪
 
 あとがきで説明してしまって申し訳ないのですが、この話の「インターネット」は、今よりもう少し未来の雰囲気で書いてみました。
 

【 その他私信 】 

 信じやすく騙されやすい自分です。
 幼少の頃、母につかれた嘘。というか、適当な説明(この言い方が多分正しい)
 小学2年生くらいでしょうか。
 教科書に載っていた、田中正造の写真をみて、右目が腫れているように見えたんですね。
「どうして右目、こうなっちゃったの?」
 母に、庭で(何故か)尋ねました。
 母の回答です。

「ビービー弾(エアガン)でうたれたの」

 その後、危ないからエアガン的なおもちゃで遊んじゃ駄目だという説法が繰り広げられ……。
 当時、ビーダマン(ビービ弾やビー玉を飛ばすおもちゃ)や、公園で落ちてるビービー弾を拾ったりが流行ってたんです。
 
「そっかぁ~」

 納得。幼き日の私。

 そして時は過ぎ、中学生になった私。
 何気なく過ぎていく歴史の授業中、ふと彼の写真が目に入ったのです。
 過去何度もよみがえった、母の言葉……
 よくよく考えたら……


 な ん だ あの説明は!?


 そうです。
 中学になるまで、何度も田中正造さんとは教科書で出会ってきました。
 しかしその時まで、中学2年のあの日まで、私は母の説明を信じきっていたのです!!

 恐るべし、親が子に語る言葉……。

 
 ちなみに母、現在その事まったく覚えてません。
 私の夢扱いされております。

『 片翼てふてふ。 』 空蝉八尋

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