Mistery Circle

2017-05

《 Agony 》 - 2011.09.01 Thu

《 Agony 》

著者:知




『ねー、パパぁ、うちでもインターネットってできるの?』
 デサイファーを本にかけ読み始めて、最初に目に入ってきたのはこのような文章だった。
「インターネットって……なんだ?」
 思わずそう口に出してしまった。
 解読に失敗したのだろうか。でも、失敗したなら何が書かれているかすらわからない状態のままのはず。
 デサイファーをかける前に読んでみたけど、意味不明な文字が羅列されていただけだったし。
 でも、解読できているのならインターネットって何だ? 聞いた事もない魔法?
「あら、こんなところで何してるの?」
 そんな事を考えてると全く気配を感じさせないまま俺の背後に突如現れた人物がそう声をかけてきた。
「……マユさん、気配を消したまま背後に急に現れないでくださいよ」
「あらー流石に驚かなくなったのね? あの反応、可愛かったのにもう見れないのね、残念。でも……」
 俺の反応に心底残念そうにそう言うと、
「私の気配を感じ取れてなかったからまだまだね」
 彼女の豊かな双胸をわざと俺の背中に押し付け、甘く誘うような声色でそうささやいた。
 俺も健全な思春期真っ只中の男だ。マユさんのような綺麗な女性からこのような事をされたら普通は冷静でいられないだろう。
「……はぁ……」
「何そのため息、失礼しちゃうわね」
 俺のため息に楽しそうな声色でマユさんはそう返してきた。
 
 初めてこんな事されたときは凄く焦った。だって、俺も健康的な男だし。
 でも、恥ずかしくて赤面するだけで他には俺の体は何の反応も示さなかった。
「そうね……例えば毛並みの綺麗なメスの猫がいたとして、それを見て欲情する男性は普通いないでしょ? それと同じよ」
 その事に疑問を持って勇気を振り絞ってマユさんに尋ねてみたとき返ってきた言葉がこれだった。
 これ以上のことは「魔法使いとして成長していけばわかってくるわ」と答えてくれなかった.
 それ以降、マユさんは時々このようにふざけて抱きついて胸を押し付けたりしてくる。
 テンプテーション対策のためとマユさんは言っているが、俺をからかうと面白いからという意味も含まれていると思う。

「んー大分慣れてきたようね?」
「……はい。でも、健全な思春期真っ只中の男としては問題があるような気がしなくもないですが」
「まぁ、そこらへんは本当に慣れてきたらオン・オフが自分でコントロールできるようになるわ。テンプテーションの恐ろしさはあなたは身にしみているでしょうし」
「それは……」
 思わず心当たりのある人の顔を思い浮かべてしまった。
 あの人は例え知り合いであっても全く手を抜かない人だ。
 だからあの人の得意な魔法の一つであるテンプテーションを俺に対して使ってきても不思議ではないのだ。
 俺があの人の息子であったとしても。
 息子に魅了をかけるとはどうなんだ、と思いたくなるけどあの人はためらいなくかけてくる。
 その時がくれば間違いなく。想像しただけで嫌になってくる。
「はぁ……」
 思わずため息がもれてしまった。
「ふふ、あなたも大変ね」
 俺の反応に満足したのかマユさんは俺を抱きしめるのを止めた。
 柔らかな双胸の感触がなくなったのを少し残念に思うのは健全な男なら仕方ないことだろう。


「あら、机の上に置いてあった本を読もうとしてたのね、読めた?」
 マユさんは俺が本を持っていることに気づきそう聞いてきた。
「読めたとは思うのですが、分らない言葉が出てきて自信がないです」
 俺がそう答えると、マユさんは少し考えて
「じゃあ、この状態で読める?」
 と、デサイファーを解除して聞いてきた。
「……いえ、全く意味不明な記号が羅列しているだけです」
 何気なくやったとんでもない出来事に驚きながらもそう返した。
 補助系魔法の解除をここまであっさりできるのか。
「では、もう一回デサイファーをかけてみて」
「はい……これでいいですか?」
「……OK。正しく読めているわ。わからない言葉が出てきたのは文化が全く違う世界の本だったからね」
「違う世界?」
「ええ、ここはあらゆる世界の書物が集まってくるの。だからこことは違う世界の本も集まってくるわ」
 マユさんはそう言うと俺からその本を受け取り、机の上に置いた。
「違う世界の本だったのはあなたにとっては残念な結果だったけど、私にとっては嬉しい結果だったわね」
 本を机の上に置いて数秒後マユさんは微笑を浮かべながらそう言った
「それは……」
「マスター! 戻ってくるときはちゃんと入り口から戻ってくださいと何回言ったらわかってくれるのですか」
 どういう意味ですか? と尋ね終わる前に扉を入ってきた瞬間にマユさんにそう不機嫌そうに問い詰めてくる人物が現れた。
「おっ、フェイ。丁度いいところに現れたわ」
 しかし、マユさんはフェイさんの不機嫌そうな様子を気にすることなくそう言った。
「……何か御用でしたか?」
 何を言っても無駄だと思ったのだろう、フェイさんはそう返した。
「この机の上にある本を全部A-4とA-5の書物を置いてある書庫に移動させておいて」
 この言葉がフェイさんにとって予想外だったのだろうか、彼女にしては珍しく驚いたような表情をみせた。
「マスター、もう判別し終えたのですか?」
「ええ、彼のおかげでね」
 マユさんはそう言うと俺がデサイファーをかけていた本を手に持ちながら俺の方を見た。
「なるほど……わかりました。では失礼します」
 それだけで納得したのだろうかフェイさんはそう言うと、机の上にあった百冊近くある本を中に浮かばせ退室した。

「あの……」
「わからならいのなら今はまだ知るべきでない事よ」
 マユさんはそうとだけ言うと、どこからかティーカップを取り出し口をつけた。
 匂いからすると紅茶だろうか。
「そうそう、武道会、準優勝だったみたいね。おめでとう……と言ってもいいのかしら?」
 マユさんが今思い出したというようにそう言った。
「ありがとうございます。ただ、ミオには惨敗でしたが」
 傍目から見たらいい試合だったようにも見えたかもしれないけど、あれは俺にとっては惨敗としか言いようがない試合だった。
「武道会のように空間が限られているとあなたではあの子に勝つのは不可能に近いわね、現状だとね」
 マユさんの歯に衣を着せない言葉に思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「わかってはいてもあそこまで惨敗すると……マユさん、質問したいことがあるのですが大丈夫です?」
「ええ、いいわよ。何か武道会で気になる出来事でもあったの?」
「はい。セカンダリーの生徒でメロディフラワーを初見で耐え切れる人っていると思います?」
「そうね、普通ならいないわね。でも、そんな事を聞くということは武道会でいたということね」
 俺の質問にマユさんはそう返してきた。
「普通ならいない……ということは……」
「ええ、普通ではない人って案外結構いるのよ」
 マユさんには思い当たる事があるのだろう、そう言うと紅茶を一口飲みティーカップを机の上に置いた。
「でも、ちょっと信じられないのよね。というわけで、記憶を見させてもらうわ」
 そう言うと椅子から立ち上がり俺の頭の上に手を置いた。
「試合について思い出して。そして、心は落ち着かせて。何か違和感があってもそれを拒否しないように」
「はい」
 言われたとおりに試合について思い出そうとすると頭の中に何かが入ってくるような違和感を覚えた。
「今の感じでいいわ。心を落ち着けてね……」
 マユさんはそう言うと数分間全く動く事も話すこともなかった。
「ありがとう、もういいわ。にわかには信じがたいけど私の予想通りだったみたいね」
 俺の頭から手を除けると椅子に座りそう言った。
「あの、さっきのは?」
「ごめん、始める前に言うの忘れてたわね。試合の記憶を見せてもらっていたのよ」
 マユさんは事も無げにそう言った。
 他人の記憶を見ることができる魔法という事か? そんな魔法まで使えるのか、改めて恐ろしい人だと思った。
「まぁ、拒否されたら失敗する欠陥魔法だけどね。物は使い様というわけ」
 マユさんはそう言うと一呼吸置いてから続けた。
「レゾナンスって聞いた事あるかしら?」
「はい」
 簡単に言えば、ある集団の中に優れた魔法使いがいると、他の魔法使いも優れた魔法使いに共鳴したかのように強くなること。
 俺とミオがプライマリーに通っていたときに起こった事だ。
「でしょうね。でも、一般に知られているレゾナンスは広義の意味でのレゾナンスなの」
 広義の……という事は。
「ええ、狭義の……というか本来のレゾナンスは別の意味で使われていたの」
 マユさんは冷めた紅茶を一口飲んで眉をしかめ、又どこからか新たにティーカップを取り出し一口飲んでから続けた。
 匂いからすると今度はコーヒーのようだ。
「本来は魔法を見たり魔法に触れたりするだけで、その魔法の特性、威力、込められた魔力などが分る能力のことを意味していたの。ミオと対戦した子はその意味でのレゾナンスの持ち主だったわ」
 見ただけでわかる? もしそんな能力があったら……
「でも、そんな事は真に実力のある魔法使いなら程度の差はあれ誰でもできることなのよ。でも、セカンダリーでこの能力を持っているのなら勝手が違うわ」
 ミオさんの口調が速くなっていく……その声色はどこか楽しそうな感じだ。
「そう、レゾナンスは先天性の才能――ギフト――として持ってる人も稀にいるの。でも、その才能が小さい頃に開花する事は0に近い、どうしてだかわかる?」
 マユさんの質問に首を横に振る。
「レゾナンスの恐ろしいところは見たり触れただけでその魔法のことが分る事ではない。その魔法を使えるようになることなの」
 マユさんの言葉に絶句してしまった。マユさんはそんな俺に気づくことなく話を続ける。
「ここまで言えばわかると思うけど、レゾナンスの開花にはレベル差のある人と相対する必要があるわ。でもセカンダリーを卒業するまでそんな機会は滅多にないわ。彼女の場合はおそらく家族とか近しい人の中にいるのでしょうね」
 そこまで言うと一息つくためにティーカップの中のコーヒーを一気に飲み干した。
「でも面白いのがまだ本人に自覚はないみたいなのよね、少なくともあの子と戦う前まではね。でもレゾナンスがあの段階まで成長しているということは、開花の要因となった人が気づいたのでしょうね。そして、本人に悟られないように伸ばしていった」
「悟られないようにした意味ってあるのですか?」
 黙って聞いているつもりが思わず疑問に思ったことを口に出してしまった。
「レゾナンスは受身の能力だからね。自分が強いと自惚れたらそれで成長が止まるからね。プライマリやセカンダリでちやほやされて天狗なる人っているでしょ?」
「……いますね」
 その言葉を聞いて武道会の予選1戦目で対戦した奴を思い出した。
 あれ? あいつの名前……まぁ、思い出さなくても支障はないか。
「それを防ぐためね。上手く育てたものだと感心するわ。やはり私の時代と違ってきちんとしている人が多いみたいね」
 感慨深げな声でそう言った。俺の方を見てはいるけどその目は俺を写していないみたいだ。
「……羨ましいわね」
 ぽつりとマユさんがそう言った。
「私は遥か高い山を一里塚もなく登っていたわ。どんなに登っても頂上が見えない、もしかしたら離れて行っているのではないかと思ったわ、あの時は」
 俺を見つめながらそう言うと、一呼吸置いて話を続けた。
「今、あなたは私と同じ道を歩いているわ。でも、あなたは私と違って一里塚――ライバルと呼べる存在がいるわ。これはとても幸運な事なのよ。前に言った事があったはずよ。強くなるには才能や努力だけでは足りない、時には運が必要だと。人との出会いもその運の一つよ、上手くその幸運、生かしなさいよ」
「はい、わかりました」

 前にマユさんから言われた事がある。
 それは俺やミオの年でこの場所に――あらゆる世界のあらゆる書物を収めている大図書館に――これた事は幸運だということだ。
 幸運・不運は誰にも訪れる。でも、それをどう生かすかに違いが出てくるのだ。
「それにしても、あなたは大きな幸運もやってくるけど、その分、不運も大きいみたいね」
「はい?」
 マユさんが微笑を浮かべながら言った言葉に間抜けな反応をしてしまった。
 不運って一体……
「やはり気づいていなかったのね。彼女がメロディフラワーを受けた後、何故ギブアップしたと思う?」
「それは……」
 メロディフラワーで受けたダメージが大きかったから、と言おうとしたが自力で治療室に歩いていったのを思い出した。
 そうだ、すぐに歩けたのだからダメージは然程大きくなかったはずだ。
「小さな光玉、あれを見てギブアップしたみたいね。賢明な判断よね。あの光玉にこめられている魔力は彼女の魔力の総量と同じだったからね」
「なっ!」
 マユさんの言葉に絶句してしまった。ミオそんな魔法を使えるようになっていたのか。
 なら、どうして俺との試合で使わなかったんだ?
「どうやら彼女はまだ見ただけでは魔法に込められた魔力の大きさしかわからないみたいね。あの魔法は攻撃魔法ではないのよ」
 攻撃魔法ではないのに込められた魔力が大きい……っ、まさか。
「思い当たった見たいね、その通りよ。あなたとの試合で使っていないという事はあなたとの試合ではまだ使う余裕がないみたいね。でも、少しでも大きな隙を見せたら……というところかしら」
 楽しそうにくすくすと笑うマユさん。
「あなたも成長しているけどあの子はそれ以上のスピードで成長しているみたいね。あなたは自ら望んで茨の道を進む事にしたのよ。頑張りなさい」
「……はい、頑張ります」
 マユさんの言葉にがっくりと肩を下げ地面の方を見たままそう返した。
「さて、今日はこの辺で終わりね。迎えが来たみたいだし」
「あ、やっぱりここにいたんだね。もう、ここに行くときは私にも声かけてって言ってるのに」
 マユさんの言葉に顔を上げ振り向いた視界の向こうに見慣れた人影が頬を少し膨らませながら佇んでいた。



《 Agony 了 》



【 あとがき 】
このお題から無理矢理にファンタジー路線に持っていってみた
まさか、あの設定がこんな形で生きるとは思いもしなかったよ

はい、一応、前回の続編みたいなものに仕上がっております
実は最初に予定していた1場面を省略しています
書いていくうちに、あれ、その場面余計じゃね?と思ったので

べ、別に時間が足りなかったから省略したんじゃないんだからね

と、ツンデレっぽく言ってみる

『 忘れられた丘 』 矢口みつる(知)

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