Mistery Circle

2017-07

《 それも一つの愛のカタチ。 》 - 2011.09.01 Thu

《 それも一つの愛のカタチ。 》

著者:りん




おそらく一生のうちで最初で最後の現実逃避だと思った。
今あたしは、頭の中パニックしながら駅に向かって歩いている。
今日、彼氏と一緒に買い物に出掛けるつもりで、昨夜は彼氏ん家に泊まる予定だったんだけど、急に高校時代の友達同士で飲み会が入っちゃったって。
男同士の付き合いも大事だと思うから、あたしは誘われない限り一緒に行かない。
彼氏が嘘ついて他の女の子と浮気するとは思えないし、そこら辺は信用できる人だし。
だから昨夜はあたし、ちょっと寂しく一人で家に居たの。まぁ、今日の買い物リスト作ったりしてたけどね。
朝が来て、ウキウキしながら彼氏を迎えに彼氏の部屋に来たんだけど。合鍵持ってるし。
いつも呼び鈴なんて鳴らさないし、今日も鳴らさなかったわよ。
玄関の鍵勝手に開けて、靴脱いで。リビングの方は無人。まだ寝てるっぽい。
久々の友達との再会に呑み過ぎちゃったかな? なんて思いながら、寝室のドアをそーっと開けたの。

…現実逃避でもしてなきゃ、やってらんないわよ。

だって、おかしいじゃん。あたしという彼女が居るのに、何で?
百歩譲って、あたしに興味が無くなったからって事にしたって、おかしいって。
あたしより性格良くて、自分に尽くしてくれる可愛い娘を好きになっちゃった……っていうなら仕方ないと思う。
あたしは自分で言うのも何だけど、結構我侭だと思うし。
彼氏の事は大好きだけど、基本的に自分優先。尽くす女っていうのとは違うし。
だから他の尽くす系の女の子に気持ちが移っちゃったっていうなら、仕方ない。
でも、それでも、ちゃんとそういう気持ちは話し合いたい。
好きな人が他に出来たなら、ちゃんと話して欲しい。
話して自分が治せる所なら治して、一緒に居られるならそれに越したことはないと思うし、無理なら無理だったとしても、話してくれたら納得できると思うもん。
自分自身も、女として、一人の人間として、成長できると思うしね。
だけど。
だけど、こんなのって酷い。どうして? 何でなの?
あたしが彼氏の寝室で見たもの、それは。
彼氏と見知らぬ男が、2人仲良くベッドで爆睡してる絵。
しかも二人とも素っ裸だった。
え…何の冗談?これ。
いつもならあの場所に居るのは間違いなくあたしであって、そうでなきゃおかしい筈。
部屋の光景を見た瞬間、あたしは持っていたバッグを落とした。
多分、口もあんぐりしてたと思う。
バッグが落ちた音で、彼氏とその隣に居た男が目覚めたらしい。
寝癖のついた頭で、寝ぼけ眼の端にあたしの姿を捉えたらしく。
「あっ」
彼氏がしまったという顔をして小さな声をあげた。
「この女、誰?」
隣に居た男が気だるそうな声で彼氏に言った。
あたしは頭がクラクラしてきた。あたし、部屋間違ってないよね?
じゃぁ、目の前に居るのはあたしの彼氏と…どういう存在?
彼氏の眠気はどこかへ吹っ飛んだらしく、変わりに変な汗をかいていた。
「えーと……彼…女?」
『えーと』って何だ『えーと』って。しかも何で疑問形なんだ?
男は、あたしを頭の先からつま先まで眺めて、
「ふっ」
と、鼻で笑った。まるで、あたしが一方的に彼氏の所へ押しかけて来てる迷惑女なんでしょ?とでも言いたげな顔。
「きょ、今日は一緒に買い物行く約束してたんだ」
彼氏があたしの顔色をチラチラと窺いながら男に説明する。
男はちょっとつまらなそうに言った。
「ふーん。ホントに彼女なんだ」
彼氏は、今度は男とあたしの顔色を交互に窺いながら言う。
「そっ、そうなんだ。1年位付き合ってるんだ。いい奴なんだよ、サバサバしててさ」
「ふーん」

ぁ…何かイラッとしたぞ? っていうか、何であたしはこの男に馬鹿にされたように見られなきゃならないんだ? …駄目だ。だんだんムカついてきた。
あたし、我侭だけど、浮気なんてしたこと無かったのに。
今まで色んな男と付き合ってきたけど、やっと気兼ねなく付き合っていける人と出会えたと思ったのに…。
この人となら結婚してもイイって思ってたのに。そうなるもんだって信じてたのに…。

色々な想定外の現実に頭が痛くなってきてるあたしとは反対に、男は興味なさ気にベッドに寝そべっている。彼氏も、変な汗をかきながらもベッドから出ようともしない。
何、この状況。今って、もしかしてあたしが邪魔者?
っていうか、これって浮気…なのか?
あたしは考えた。
この人と、あたしはどうなりたいのか? 別れたいのか?
答えは 否 だ。この人はあたしにとって、とても居心地がイイ。
まだ付き合って1年位だけど、今までの男達と比べて他の女の子の存在が気になったり、考え方や行動がどうしても嫌って事も無かった。
むしろ、こんな我侭なあたしなのに、大事に可愛がってくれた。
この先も、ずっとこの人と一緒に居たい…。

「駄目じゃん」
あたしは彼氏に向かって言った。
「たくさん呑み過ぎて暑かったからって、何か着なきゃ風邪ひいちゃうよ。それに…」
彼氏は戸惑ったような顔をしている。
あたしは言葉を続けた。にっこりと微笑みながら。
「ちゃんとお布団出してあげなきゃ。大の男が2人で一つのベッドじゃ、狭いでしょ」
その言葉を聞いて、男が初めてほんの少しだけ顔色を変えた。
あたしはそれを目の端で捉えながら、心の中で小さく舌を出した。
ザマーミロ。
この見知らぬ間男のせいでモヤモヤしてた気持ちをほんの少しだけ解消したら、さっきより冷静になれた。
あたしは床に落としてしまったバッグをひょいっと拾い上げ、彼氏に言った。
「何か今日は買い物いける雰囲気じゃないね。また今度にしよう」
彼氏は相変わらず変な汗をかいている。
「じゃぁ、今日はあたし、帰るね」

あくまでも明るく。
何事も無かったかのように。
けれど、何の言い訳も文句も受け付けない態度で。

そうやって、彼氏の部屋を出て、電車に乗り、今は独り。
予定していたデパートに居る。エントランスを抜けて、化粧品の芳香を嗅ぎながらエスカレーターに乗る。
お目当てのお店に近づくにつれ、周りはギラギラと目を光らせた女の子達。
気に入った商品を手に入れる為、気合充分だ。こちらも負けていられない。
目的のお店の前に着いた。店員の元気な呼び声と、店内を物色する女の子達。
お気に入りの一枚になるかも知れない商品を山のように積み上げた大きなワゴンが店の前に出されると、店員が叫んだ。
「今から、こちらのワゴンの商品50%オフでーす!!!!」
黄色い歓声を上げながらワゴンに群がる女の子達。
一つ深呼吸をして、あたしも群れの中に飛び込んでいった。

数時間後、欲しかった商品を手に入れてホクホクしながらの帰路の電車の中。
彼氏からのメールが入った。

“今日は、本当にごめん。あいつとはもう終わったから。帰ってきて”

おいおい『想像するのも腹立たしいコト』があった事は否定しないのかよ。
思わず苦笑いした。

でもまぁ、そんなでもあの人を選んだのはあたし。
今はまだあの人と別れるとか小指の先ほども考えられないし、仕方ない。
あの人が高校時代にどんな交友をしてたのかは、過去の事。
過去を責めたって、時間は戻らないんだし。
あたしは、あたしと彼のこれからの時間を大事にしたいと思った。
過去は過去。あたしは彼と一緒に未来に向かう。しっかり前を向かなくちゃ!

“今回は許してあげる。でも、次は無いからね? じゃぁ、今からそっち行くね”

彼氏にメールを入れ、窓の外を眺めると綺麗な夕日。
何か色々あった一日だったな…。
朝、パニックしながら電車に乗り込んだ駅に降りる。
デパートであれだけ大騒ぎして消耗した筈の体力は、気に入った戦利品をしっかり手に入れた充実感と、彼氏との初めてのトラブルを回避できた喜びとで消えていた。
両手一杯の買い物袋を提げて、足取りも軽く彼氏の部屋に向かう。
合鍵を使って、勝手に鍵を開ける。

あたしは彼からちゃんと合鍵を貰える立場の女なんだから。
過去の友人か恋人か知らないけど、あんな男に負けるもんか。

「ただいまー」
部屋のドアを開けると、彼氏がホッとしたような声で言った。
「おかえり。今日はホントに…ごめん!」
改めて彼氏の顔を見ると、痣が出来ている。
「どしたの、その顔」
彼氏は申し訳なさそうに、困ったような顔で言った。
「やぁ…俺が好きなのはお前だから、あいつに『気持ちに応える事はもう出来ない』って言ったんだ。そしたら…」
どうやらあの男は、彼氏に別れ話を持ち出されて逆上したらしい。
彼氏の身体には顔以外にも、あちこち痣が出来ていた。

あの男はあの男なりに、この人の事、本気だったのか…。
身体は男だけど、気持ちは女の子だったんだ…。ちょっと可哀想…かな。
でも、あの男が彼と…してたかも知れない同じシーツの上で寝るのは嫌だ。

あたしは、ベッドのシーツを交換しようと寝室のドアを開けた。
「何…これ…爆撃でもされたの?」
思わず彼氏の方へ振り向いたが、彼氏はウルウルした目であたしを見る。

床に散乱する枕の中身。壁にかけてあったパズルはフレームから飛び出してバラバラになっていた。クローゼットの中の彼の服も外にぶちまけられてたし、棚に飾ってあったあたしと彼の写ってる写真も写真立てごと壁にぶつけられて砕けていた。
…前言撤回。やっぱりあの男は単なる間男だっ!!
目の前に、まさに戦場そのものの光景がひろがっていた。



《 それも一つの愛のカタチ。 了 》



【 あとがき 】
初めまして。りんです。
兄さんから半ば強制的(?)に組み込まれていて、
かなりドキドキしながら、お題が出るのを待ってました。
やるならやったろうじゃん! って考えと、
お題見て、無理そうならお断り入れちゃおう! ってヘタレ根性との狭間で揺れに揺れながら(とんでもない奴だ。
そしていただいたお題を拝見…ちくしょう。絵が浮かんじゃったじゃねぇかよ。
あたしは基本的に脳内に絵が浮かぶか浮かばないかで決まる奴でして。自称絵描きなので。
なので、普段は逆なのです。何らかの文章なり曲なりがあって、それを見聞きして、絵が浮かぶ。
最初は、短いお題文章を見て、絵が浮かぶとは思ってもなかったんです。正直な話。それが、幸か不幸か浮かんでしまった。
後は、書けるだけの環境でした。
5月に生まれた娘はほぼ一日中おっぱいに吸い付いていて、8月に魔の2歳を迎える息子は、一日中何かしらのイタズラをして、あたしの仕事を増やしてくれるという…(涙
そんな一日を送っているので、どうなる事かと思ってましたが、昨晩(7/29)、神様があたしに時間を下さいました。
いつもは0時近くまで寝ない息子が8時頃に爆睡に突入。娘は起きてましたが、いつもより全然機嫌が良くて。
そんな訳で、脳内に浮かんでいた絵を、それこそガガガ---っと。途中、娘のおっぱいタイムを挟みましたので、合計5時間。
出来上がってみて、色々とうむむ~な感じはありますが。
久々に文字書きとしての時間を楽しく過ごさせていただきました。
多分、間違いなく、兄さん達からすると「なってねぇ!何じゃこりゃ」な駄文だとは思いますが、これが、いまのあたしの精一杯(苦笑)
でも、最後に一言。
「めっちゃ楽しかったーーーーーー♪」
長文、失礼いたしました。

りん
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