Mistery Circle

2017-09

《 オブザデッド・アヴェンジャー 》 - 2012.07.05 Thu

《 オブザデッド・アヴェンジャー 》

 著者:辻マリ








お前勇気あるなと声をかけられたが、最初はそれが自分にむけられたものだと気付けなかった。
何しろ周りには随分人が多かったし、歩きながらの移動中でその声が何処にいる誰から発せられたものかという事も分からなかったくらいだ。
「あの悪魔との約束、破るのかよ?」
無視しようと思った矢先に今度ははっきり聞こえてきた声に横を向くと、そこには自分の記憶さえ正しければ同期でもそれなりに名の知れた相手が、いつの間にか自分と並んで歩いていた。
あの悪魔とは誰かと問い返そうとして、自分が今約束を反故にしようとしている相手がそれなのだと思い至り、考えを途中で打ち切って、まあなと返す。
別にあれは悪魔でもなんでもないだろう。
ただほんの少し人より頭の回転が速くて軸がずれた場所で物事を見ているだけだ。
そもそも約束と言ってもそこまで重要なものではないし、正式に何かの契約を交わしているわけでもない。
それどころか、自分のおかれた立場と言う概念を取り入れて考慮した場合、反故にしなければならない約束になるものだった。
「規律は規律。俺達の立場からすれば守られて当たり前の話だからな。だからこれは、規律を破ってもしもの話を自分から実行に移したあいつの責任だ」
言い聞かせるように、聞く人間が聞けば至極全うな意見にも聞こえそうな言い訳を口にして、自分の手の中にある報告書を移動して向かった先で待ち構えていた事務方の窓口へと預ける。
「約束を破られたくなかったら、規律違反で深夜の外出なんざやめちまえってな」
溜息混じりに言うと、付き合いのつもりかわざわざ此処までついてきた男がなんともいえない顔でこちらを見ているのに気付いた。
「何だ?」
問いかけると、そいつは首を横に振って、
「人は見た目じゃ無ぇな。人情家に見せかけて、中々の薄情者だ」
と言って溜息をついた後、
「でも、大賛成だ」
と、何処か疲れた顔で付け足す。
見た目で判断されるのはあまり好きでは無い分、その付け足された一言は自分の中で相手の好感度を上げるには十分すぎる一言だった。
「大賛成ついでに、お前、名前なんだっけ?」
「・・・」
少し耳を疑う言葉が聞こえたが気のせいだろうか。
今の今まで普通に会話をしていたつもりだったんだが、どうやらコイツは名前も知らない相手と普通に他人の悪口にも聞こえかねない会話をしていたわけかと、眩暈を堪えて溜息をつきたくなる。
説教をしてやりたかったが残念な事に相手は全く悪い事をしているとは思っていない様子で、屈託無く笑って名前を名乗り始めた。
「俺は、ハルカ。九瀬ハルカだ。お前は?」
マイペースな奴だな。と、第一印象はその一言だった。
あわせてやる義理は無かったが、あわせない理由も無かったので、聞かれた言葉に素直に言葉を返す。
「七松リョウ。一応、同じ学科だ」
「あぁ、そうだっけ?」
実に素直に、嘘をついている様子も無く、さらりと言ってのけたあと、九瀬は握手しようと言って手を差し出してきた。
後から聞いた話だが、九瀬はこのとき、学科内で自分の名前が有名だという事を全く自覚していなかったそうだ。
それどころか、お前こそ有名人だろうと言葉を打ち返してくるくらいだった。
自分こそそれほど有名になるような行動はとった覚えが無かったから、それについては驚いた記憶が有る。
20年近く前、まだお互いに学生だった頃の話だ。
この時はまだ、お互い卒業してからの進路なんて想像しても居なかったし、まさか同じ業界に就職して、同じように日々命を懸けて戦う未来が待ち構えている事も、全く予想していなかった。










軽く説明をしておく。
少し前まで、この国の警備状況は日々、セキュリティを突破する者と、それに応じてセキュリティを複雑化していく者とのいたちごっこが続いていたし、現時点においてもそれはまだ終っていない。
ただ、今世紀の中頃にほんの少しだけその堂々巡りに変化をもたらそうとする動きがあった。
開けさせまいとするのではなく、開けられた後どうするか、それを考えようとした奴が居た。
それは元々セキュリティ関係の専門者ではなく、苦肉の策で招かれた門外漢の発言だったそうなんだが、何をどう間違えたのか、そいつの発言は採用されて、セキュリティ業界に斬新と形容するにはやや不謹慎なシステムが登場する事になった。
普段、何の問題も無く施錠されている間、そいつらは鍵の内側で剥製よろしく眠りについている。
だがひとたび非合法な手段によってセキュリティが突破されたが最後、そいつらは目を覚まし、目の前にある動くものへと襲い掛かる。
遺志は無い、かつて命と魂を持っていたはずの、生物兵器。
脳内に埋め込まれた装置から発せられる電気信号で凶暴化したそれらは通称【門番】と呼ばれている。
現在、多くの企業、施設でセキュリティの要として登用されているそいつらは、起動後は無法者達以外の人間を襲わないように、速やかに処分される手はずとなっていた。
その処分の役目を担うのが、一般には警備会社と呼ばれる組織に所属する、自分達特殊訓練を受けた戦闘要員、通称【門番狩り】というわけだ。










「へぇ、七松さんって転職組じゃ無かったんすか?」
何時見ても、テレビのCMに出てくる商品を食べてる奴だ。
同業他社が集まる合同勉強会で偶然顔を合わせた顔馴染みの二人組に捕まって、今自分は同じ企業から出向した連中とは離れ、他の会社から出向してきた二人組と同じテーブルで昼食を食べているんだが、わざわざ食堂に来てまでコンビニの商品を食う意味はあるのだろうか。
食堂に来たなら食堂で売ってるものを食えと、実際、自分の目の前に居る若造は隣にいる上司にとがめられている。
その言葉など何処吹く風で受け流し、若造は自分に向かっての会話を中断しないし食事も続けているのだから、中々図太い神経をしていると思えた。
「就職先こそ別々だけどな、元々俺と九瀬は【門番】導入前から今の会社で働いてるんだ」
別段秘密にする事でも無いのですんなりと明かしてやると、へぇとだけ相槌を打って、小柄な若造はまた食事に戻る。
それ以上話題を発展させようと言う気は無いらしい。
これは中々、九瀬の下につくには似合いの性格をしているんじゃないかと思って若造の隣に座る同期の桜を見ると丁度向こうもこちらを見たところだったようで目が合った。
「悪いな七松。こういう奴なんだが、悪い奴じゃない」
どうも先ほどの受け答えで、自分が何か気分を害したのではないかと心配をしているようだ。
正直なところ全く気にならなかったし、更に言うなら、
「昔のお前そっくりだな」
とだけは思ったので相手にそう伝える。
「似て無いだろ」
即座に否定が返ってきた。
図星だったからかそれとも本当に似てないと思っているのかは分からないけれど、後者だった場合九瀬は自分の性格が他人から見てどういうものなのかという事に関して自覚が無いのかもしれないと思う。
「いや似てる」
「似てない」
自覚を促すものと自覚もなければそもそも自覚するつもりが全く無いものとの言い合いは、当然ながら終着点の見えない堂々巡りへと発展する。
食堂の一番安い定食を食べながらいい年をした大人同士で何を言い合っているのだろうか。
自分でもそう思ったくらい、その時の自分達は滑稽なやり取りをしていたような気がする。
実際、若い頃の九瀬に似てると思ったその一条とか言う若造は、隣で始まった軽い口論を醒めた目で観察していたし、周囲のテーブルでは他の会社の連中がクスクスと笑いながらこちらを見ていた。
中年男が二人して何やってるんだと思われたに違いない。
「ところでな」
そんな、中年男の片割れである九瀬が唐突に話題を変えてきた。
「あいつ、覚えてるか?」
アイツとは誰の事だと即座に問い返すと、アイツだよアイツと九瀬は箸の先で人の顔を差しながら頭の中の記憶の引き出しをひっくり返して単語を探し始める。
行儀が悪いぞと睨みつけていると、こいつにしては早いうちに思い出したようで、表情がぱあっと明るくなった。
「アイツ、そう、黒川!今回の合同勉強会、出資先の企業に居るらしくてな」
「へぇ」
純粋に懐かしがっているだけの九瀬の言葉に相槌を返して、自分の記憶の中で検索をかける。
黒川と言う名前は多くはないがさほど珍しい名前と言うわけでもない。
この状況で九瀬が話題に出すであろう人物で、自分と九瀬の記憶に共通して登場する可能性が高く、尚且つこの手の企業に就職していそうな人間で、名前が黒川。
その条件で検索を絞ると思い浮かぶのは一人しか居なかった。
「・・・そうか、アイツもこっちの業界だったのか」
相槌の続きの独り言の振りをして黒川の顔を思い浮かべる。
奴は、九瀬と自分の学生時代の同期でもある男だ。
確か九瀬はアイツの事が苦手で、話題に出すとき時折「あの悪魔」と表現していたのを覚えている。
一見善人を形にしたような顔の癖に、過ぎるほど頭の回転の速い、小器用と言うか、狡賢いところのある奴だった。
学生時代につまらない私情で規律を破り、当時それなりに厳しいと評判の学生寮から追い出された事もあるが、他でもないその追放の原因を作った張本人と言うのが自分なので、当時は情のない奴だと随分周りから嫌われた記憶が有る。
九瀬が弁護してくれなかったら、今頃は自分も黒川同様に挫折していたかもしれない。
そういう私情も挟んで、出来れば参加していると言う情報だけを記憶に残し、今日この日に顔を合わせずに済ませたいと思っている相手だった。
理由としては、苦手意識と言うか申し訳なさと言うか、自分の中にある罪の意識と向き合う事を避けようとする思いが強い。
出来れば向こうも自分達の事には注視しないで平穏無事に今日一日が終ってくれることを願っていてくれと思う。
そうすれば今日は乗り越えられるし明日からはまた何も知らない振りをして生きていける。
波風を立てることを嫌う事なかれ主義を唱えた覚えはないが、今この場所においては別だった。










合同勉強会は午前中が座学、午後が新製品の研修と言う予定になっている。
「昼飯挟んで眠くなる午後に座学を持ってこない点は中々評価できるな」
予定表に書いてある部屋へと向かいながら九瀬が溜息をつく。
「終日研修って時点でだりーっす」
一条は午前の座学で随分と退屈したのか既に眠そうな様子で一番後ろをついてくる。
二人を先導する形で歩きながら、次の新製品研修とは何かと予定表に目を通す。
最初は【鍵屋】が持ち込む新しいタイプの【門番】の紹介と、処理方法のレクチャー。
その後で処理時に有効とされる武装用具一式のプレゼンテーションらしい。
夕方には全ての研修項目を消化する予定だというから、中々に急ぎ足の研修になるのは間違いないと思われた。
「七松、終ったら久しぶりに飲みにでも行くか」
「そうだな」
先ほどの昼食時間に黒川の話題が出ていたが、出資企業という事は恐らくこの後の製品研修に出てくるなんらかに関わっているのだろう。
商品に関わっているのか商品のプレゼンテーションに登場するのかは知らないが、出来れば間近に顔を合わせる可能性の高い武装用具の研修では無い事を祈りたい。
どうしてそこまで奴の事を苦手に感じてしまうのか原因は定かではないのだが、とにかく遭遇しないに越した事は無いと自分の中のなにかが叫んでいた。
廊下を曲がり、予定表に書かれている製品研修に使う予定の会議室を探し、部屋番号を探し当ててその中へと入る。
其処までは割と早めに、研修会氏の予定時間よりも10分早く到着する事ができた。
途中誰ともすれ違わなかったのだけが不思議だが、この後から人の出入りが増え始めるか、既にほぼ全員到着しているかのどちらかだろう。
そう思いながら扉を開けて中に入った。
のだが
「・・・おい、部屋間違えてんじゃないのか?」
自分もそう思いたい。
すぐ後ろから聞こえてくる九瀬の言葉を肯定したいところだったが、何も言えなかった。
午後一番の会議室には明かりがついておらず、室内には誰の姿も無い。
研修と言うのであればそれなりのレイアウトに机を並び替え参加者用の資料が揃えられて無いといけないはずなのだがそれすらも無く、スクールタイプの並び方で机と椅子が整列しているだけの空間のままだ。
勿論手持ちの資料を確認してみたが、部屋番号は記載されているもので相違ない。
プリントミスだろうかとも思ったが、その割には先ほどまで居た食堂で何のアナウンスも聞こえてこなかった。
通常主催側の手落ちが有る場合は何処かのタイミングで訂正と報告、通知が入るはずなのだがそれが無かったという事は、考えられる可能性としては
「何かイレギュラーな状況に俺たちが陥っていると言う可能性も有るな」
自覚したくは無いのだがその可能性が有る。
「マジかー勘弁してくださいよ」
「イレギュラーってな何だ?まさか俺達に恨みを持つ奴がどこかに居て俺達だけパンフレット事前にすり替えられててとか言うオチか?どっかの映画か?」
口に出して自分で納得しようとした一言だったのだが、間近に立っている都合上当然一条と九瀬にも聞きとがめられ、ほぼ二人同時に話しかけられた。
一度に言われても困ると抗議すると、一条は何度もいう事じゃないと一歩下がり、九瀬だけが先ほどの発言を言い直す。
「恨みを持つ奴、か・・・」
もしもそんな事が実際に有るのだとしたら、まさしく何処かの映画か酷い三文芝居の脚本さながらだ。
一条はどうか知らないが、九瀬も自分も年齢的に清廉潔白とは言い難い。
恨みを買ったことなどいくらでもあるし、余り大声では話したくない失敗も一つ二つではきかない程度にはお互い知っている。
ふと頭を掠めたのは先ほど食事中に耳にした名前だが、まさかと思う。
あれはもう20年近く前の学生時代の出来事だ。
四十近くなってどうしてそんな話が蒸し返されてくる。
同じ業界にいたというのなら、こんな大勢が集まる場ではなくもっと他で幾らでも意趣返しの機会は有っただろう。
そう考えて、自分の頭の中から黒川の名前を一端脇にどけておこうとした、その時だった。
にゃあ、と耳に馴染み深い、けれど聞いた事のない音色の鳴き声が、会議室の入ってきた扉とは逆側、向かって奥の壁側から上がる。
「・・・猫?」
どうしてこんなところで猫の鳴き声がするのか。
顔を上げて、何かが近付いてくる気配に三人揃って身構える。
続いて、会議室の壁に設置されているスピーカーから、これまた馴染み深いノイズ音が上がった。
『・・・・っ、ザーザッザー・・・・・・、七・・・』
館内放送かと顔を上げると、ノイズから始まったスピーカーからの音声は次第に明瞭な音声を発信し始める。
『聞こえているか、七松?』
軽くノイズを残した声が最初誰のものなのか良く分からなかった。
「おい、まさか黒川か?」
斜め後ろで九瀬がそう言って、ああやっぱりなと心のどこかでもう一人の自分が納得する。
『九瀬も居るな?久しぶりだなあ、俺だよ、黒川だ。俺が大学を辞めて以来か?』
監視カメラでも取り付けているのかまるで会議室の中の様子が見えているかのようにスピーカーからの声は喋り続ける。
その声が、本人が名乗るとおり本当に黒川のものなのかどうか自分には今ひとつ判別がつかなかった。
なにせ、直接言葉を交わしたのはもう20年近く前だ。
『今日は、お前らにだけ特別に実戦形式で我が社からの新製品実験に付き合ってもらいたくてね』
考えながらスピーカーからの自称黒川からの言葉に耳を傾けているうちに、先程よりも近くでまた猫の鳴き声がする。
「ちょ、所長、何スか、あれ」
一条の狼狽する声に振り向くと、スクールタイプの配置を施された机の陰から顔を出す、確かに形状だけは一般家庭で飼われている猫そのものの姿が見えた。
ただ問題なのは、その猫は通常、この国の一般家庭で飼われている猫と言う動物に比べると遥かに巨大で、テーブルの下を潜り抜けられないほどあるのではないかというサイズな上に、聞こえてくる鳴き声から判断するに恐らくこの会議室内に複数居るという事だった。
「でっか!何だあれでけぇ!所長、アレマジで猫っすか!?ライオンじゃなくて猫ぉ!?」
「一応猫だな、メインクーンって言ってな、普通はあそこまではでかくならないんだが・・・オイ黒川、まさかお前ら【門番】用の品種改良をしたんじゃないだろうな」
目の前に居る猫の大きさに一条が素直に驚いて、九瀬が何処か苛立ったような口調でスピーカーに向かって問い詰める。
スピーカーの向こうからはノイズ交じりの笑い声だけが聞こえてきた。
どうやら全て起動された【門番】であるらしい巨大な猫はじりじりと距離を詰めてきている。
少しだけ「まずいな」と感じた。
自分達は基本的には警備会社の社員であり、警察官や傭兵、SPなどと言った特殊な事情の有る職業に就いているわけではない。
よって、今日の勉強会のような、本来出動の必要の無い座学メインの場などには出動時に携帯する武器は装備しておらず、基本丸腰である。
そんな状態で【門番】に襲われれば、対抗手段は逃げる以外にほぼ方法が無い。
救いと言えば、職務の都合上ある程度格闘技に覚えがあるくらいか。
「って所長!」
鋭い声と、何かが会議室の床に敷かれた絨毯を蹴る軽い音が聞こえた。
猫型【門番】が九瀬に飛び掛った事と、それに応戦すべく一条が咄嗟に前に飛び出したのだという事を、自分の頭が一秒遅れて理解する。
空気を裂く音がして、血飛沫が上がった。
「!!」
一瞬、ほんの一瞬だけ、一条か九瀬のどちらかが負傷したのかと思ったが、二人のどちらからも悲鳴や痛みを訴えるような類の声は上がらない。
よく見ると床に猫型【門番】が一匹転がっている。
その首が綺麗に胴体から切り離されているのは、恐らく一条が今手に持っている折りたたみ式のナイフの功績だろう。
「お前、ペンケースにそういうの隠し持つか普通?」
「え、やりません普通?」
「しねぇよ。中学生かお前は。てか基本やるなよ、職質されたら一発アウトだぞそれ。ってか」
普段携帯している武器以外に妙なところに殺傷力のあるものを隠し持っていたらしい部下の素行に溜息をついてから、九瀬はスピーカーの向こうに居るであろう相手に向かってのつもりか、スピーカーを睨みつける。
「この猫、生活反応が有るな・・・黒川、手前ェこいつらを生きたまま改造しただろ?」
九瀬の言葉に、一条が驚いて小さな声を上げ、自分も驚いて猫を睨みつけていた顔をそらしてスピーカーへと向けた。
【門番】は原則として一度死んだ動物の肉体を改造して制作するように条例が設けられている。
生きている動物を改造するような案も当初は有ったらしいが、倫理的な面や世論の風当たりなど諸事情を踏まえた結果、死体を改造するようにガイドラインが作成された。
だが九瀬の見立てでは今自分達の前に居る巨大な猫達は生きたまま【門番】に改造されているという。
確かに、鳴き声がした時点でおかしいと思うべきだった。
家庭で飼われているペット品種を死後改造して【門番】にした商品は他にも有るが、それを処分した時に生前動物だった頃のそれらが鳴き声をあげるような状況には遭遇した事が無いし、報告書や記録媒体などでも、発声器官を切除している、していないに関わらず、【門番】が鳴き声を上げる様な現象は報告されていない。
「!」
考え事をしようかと思っていたところに、一体猫にしては巨大な身体をバネのように使ってこちらに飛び掛ってきた。
それの首元を捕まえると、掌底を使って頚椎の組織を潰すように全体重をかけ壁に向かって叩きつける。
掌越しに肉と骨が潰れる感触が伝わってきた後、それは動かなくなり壁にへばりついた一部分を残して足元の床に落ちた。
落ちたところを確認してみると、引き千切れた首から血が流れ出している。
【門番】では本来確認されないはずの生活反応がこの個体からも確認できた。
「黒川」
何処で見ているのか定かではない相手の、とりあえず声が聞こえてくる機械を睨みつけて、どうすればこの意味の分からない悪戯を仕掛けてくる男が少しでも罪悪感を覚えてくれるだろうかと考える。
「どうしてお前が俺と九瀬とこういう目に遭わせてるかは知らんがな、昔の事を持ち出すなら筋違いも良い所だぞ」
『やっと喋ったなあ七松。素手で倒したか、そう言えばお前は昔から腕っ節が強かったよなあ』
やはり何処かでカメラを操作して見ているかと、返ってきた言葉を聴きながら考える横で、九瀬がもう一体猫型【門番】の首を踏み潰して機能を停止させた。
『腕っ節が強くて頭もそれなりに切れて人望もあって、教員方の受けも良いからお前は俺の監視係だった。だからお前は俺があんなに頼んだのに教員に俺の素行を逐一告げ口して、お陰で俺は学生生活で大きく遅れをとる羽目になってしまってね。随分大変だったよ?本当ならこんなコソ泥向けの防犯用品の開発なんかじゃなくて、もっと大きな研究機関にだって就職できる道を歩いてたんだ、俺は、あの時までは!』
スピーカーの向こうから聞こえてくる主張が全て正しいなら、本当に学生時代の恨みだけで黒川は今回こういう馬鹿げた仕掛けを用意したという事になる。
恨みか。
自分達に対する恨みの念が、あの男を歪ませてしまったという事か。
学生時代は自分勝手なきらいこそ有ったが、もう少し冷静に周りを見渡せる頭の良い人物だったように記憶していたのだが。
「あのオッサン馬鹿じゃね?」
「昔は悪魔かって思うほど切れる奴だったんだけどなぁ」
呆れているのか背後で一条と九瀬の会話が聞こえる。
猫型【門番】もその会話の直前に、最後の一匹が一条のナイフで首を突き刺されて壁に磔状態にされたところだ。
『あーあ強いなあ、お前らは。・・・猫じゃ駄目か、もっと強力な・・・せめて軍用犬品種にでもしておくべきだったかぁ』
ノイズ交じりのスピーカーの向こうで黒川が笑っている。
どうやら馬鹿といわれようが、自分達から説教されようが聞く耳を持つつもりは無いらしい。
『少しは怪我ぐらいして欲しかったんだが残念だ』
生き物を平気に改造して他人にけしかけた割には明るい口調だった。
スピーカーのノイズが一瞬大きくなり、向こう側の部屋の扉が開けられたのか、黒川以外の複数名の声が聞こえ始める。
『・・・おーいチビ!無事かー!?』
唐突に、相変わらずノイズ交じりの音声だったが、全く別人の声色がスピーカーから聞こえた。
「あ、ユウキちゃん」
それはそれで何処かで聞いたような声だと思った瞬間、猫を壁に縫い付けたナイフを回収していた一条が暢気な声でその名前を言い当てる。
「なんだ、五藤も来てたのか」
九瀬もその声に心当たりが有るらしく名前を出して、五藤ユウキ、とフルネームが揃ったところで、自分の記憶の中でも声の主が先日金庫破りの産業スパイ女を庇って門番から逃げ回っていたあの【鍵屋】だという事を思い出す。
随分世間は狭いと思いながら溜息をついた頃、猫の死骸が転がる会議室の外に、人が集まる気配と騒音が届き始めた。











「ホンの軽い意趣返しのつもりだったそうだ」
「そうか」
血の匂いがこびりついた掌を消毒液で洗い、汚してしまった壁と床について施設主に数十分掛けて頭を下げて、散々な思いをする羽目になった研修の翌日、念の為行って来いと有給を強制的に取らされて送り出された保健所の窓口で遭遇した九瀬にそう教えられた。
「馬鹿だよな、俺達は前線要員で自分は研究員で、立場からすれば向こうの方が上のはずなのに」
受付の順番待ち用紙を受け取りながら、感染症検査の列に並ぶ。
結局あの声は本当に黒川だったのか、それとも黒川を名乗る別の誰かだったのか、取調べを担当した連中からは具体的な情報は殆ど何も聞き出せていない。
「でも、お前も災難だったな。20年も前の恨み引きずられて」
問診表に名前を書き込みながら言う九瀬に、そうだなと返した。
動機にしてもスピーカー越しに聞いたあの言葉と、九瀬から又聞きで教えてもらった話だけでは、本当に20年前の恨みだけだったのかどうかは定かではない。
それでも、20年前の学生時代、黒川と言う男が自分達の同級生に確かに存在し、挫折して消えて行ったという事を、あの声の主が知っている事だけはハッキリしていた。
「今度、久しぶりに飲みにでも行くか?」
九瀬の言葉に、それは賛成と笑ってみせる。
「和食で良いか?芋の煮っ転がしの美味い店がある」
「お、良いなあ。芋。俺の大好物だ」
待合の固いソファに並んで座りながら、九瀬とは次の約束を交わした。
この長年の友人とは、中々に長い間縁が切れないままで居る上に、お互いの連絡先も把握しているから、次の約束はきっと近い日に果たされる事だろう。





《 オブザデッド・アヴェンジャー 了 》





【 あとがき 】
そろそろ読んで下さる方にはこの話のルールが気付かれてるかもしれない。
オッサンの肉弾戦もうちょっと激しくても良かったかな・・・。
あと、提出が遅くなりまして誠に申し訳ありませんでした(土下座)
いい加減企画にも本腰入れます・・・。


【 その他私信 】
まだ何とか生きてます特撮面白すぎてもう何と言うか毎週楽しい。
鎧の勇者と弾丸の勇者が画面の隅で色々小ネタ振りまいてるお陰でツイッターが荒ぶってます。
bot同士なんですが奴らがデートの約束してるだけで提出が宣言より5分遅れる程度には。
あと宇宙戦艦ヤマト2199面白いのですが私の一番好きなキャラは出ないようですねええ分かってましたよそれぐらい!あれだろあの坊主頭が代わりなんだろ!?
ガミラス帝国側もキャラ濃くて楽しいからもうそれでいい。うん。
そんな感じでまだ元気です。


辻マリ
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