Mistery Circle

2017-08

《 永遠を意味する言葉 》 - 2012.07.05 Thu

《 永遠を意味する言葉 》

 著者:氷桜夕雅








「すぐ裏の道で、人が二人、倒れとります」
突然道を歩いていてそんなことを言われたらご覧の皆さんならどうするだろう?
まぁとりあえずスルーだろう、しかもそれが旧時代の皮膚加工されていない半分機械の顔をした小汚いおっさんだったなら尚更だ。
なにかと技術が発展した今では機械化した人間なんてそこいらにいる。医者がちょっとした怪我や病気でも「それじゃ機械化しましょうか」なんて提案してくる世の中だ、人によっては体の99%機械なんてのもいる。もはやそれは人間なのかって感じだが今やパッと見は普通の人間と変わらないから困る、この話しかけてきたおっさんのように見るから機械化してますなんて顔をした奴は珍しいもんだ。
「あ、倒れてる人だって?」
本当だったら返事だってせずにスルーするところ俺、藍糸悟朗(あいとごろう)は何を思ったのか立ち止まりあろうことかその小汚いおっさんに向かって話しかけていた。別に特になにかあったわけじゃない、本当に気まぐれも気まぐれだったんだ。
「そこの奥、ほれそこに二人が・・・・」
「二人って、一人じゃないか」
おっさんに言われて薄暗い路地裏を覗きこむと確かにそこには真っ白な患者衣を着た青髪の少女が壁に凭れ掛かるようにして倒れている。うむ、とりあえず言えることは二人じゃないってことだ。あれか?このおっさん機械化のメンテしてないから耄碌しているに違いない。
「あれ、おかしいのぉ」
「まぁいいけどさ、おい大丈夫か?」
今からでも遅くない放っておいてしまうのが一番なんだろうがここまで来てしまって帰るというわけにもいかないだろう。しかし大丈夫なのだろうか、どうもさっきから声をかけ体を揺さぶってみるも反応はない。だがまぁ肌に触れた感じじゃしっかりと体温はあるし死んじゃいないとは思う。
「なぁおっさん。この辺に休憩できるところとかって知ってるか?」
「おおお、休憩、休憩ならそこの角を曲がって少し歩くと左手にあったはずじゃよ」
「そうか、じゃまぁそこまで行って休ませるか」
その方がこんなところで放置するよりかはずっとましだ、俺は少女の肩を支えるようにして抱くと歩き出す。
「若いのにできた男じゃのぉ」
背中にかかるおっさんの声、別に俺は良い人ぶってこんなことしているわけじゃない。おっさんの目と自分への責任感に後ろから突き動かされたってだけ。
「きっとすぐにイイコトあるぞ」
「本当かよ、だといいがね」
イイコトってなんだよ。俺はもはやおっさんの方を振り返ることなく言葉を吐き捨てるとその休憩できる場所ってのに向けて歩き出した。



「ふむ、確かに休憩できる場所っぽくはある」
おっさんに言われるまま入った建物、店員はおらずパネルの中から部屋を選んでキャッシュカードを挿入、でてきたカード型キーを持って部屋の前まで来た。
「なぁんとなく予想はできるが」
徐に俺はカード型キーを差し込むと扉から空気の抜ける音と共にロックが解除されゆっくりと扉が横にスライドしていく。なんていうか目の前に広がる世界は予想通り過ぎてなんとも言えない気分だ。
「あの・・・・ここ、やっぱりラブホじゃねぇか!」
薄桃色の照明に照らされる部屋のど真ん中には円形の大きなベッドが鎮座し天井には古めかしいミラーボール、シャワールームは何故かガラス張りで外から丸見え。デザインはもう完全に旧時代のラブホテルって印象だ。
「はぁ、まぁ仕方ないか」
今だ目覚めそうにない青髪の少女を抱えると俺はベッドに寝かせつけ小さくため息をついた。
・・・・うん、実はちょっとわかってた。ここがラブホテルだってのは。そりゃあんなお城みたいな外見のホテルを見れば大体誰だって予想がつくだろう。でもこの少女を抱えたまま歩き回るのも大変だし確かにここには休憩ってシステムがある。意味は全然違う恐らく休憩にならない休憩なんだが、そこはまぁ俺がなにもしなければ良いわけで入ったところまでは平常心だったんだけど。
「いやいやいやいや、落ち着け俺。そんなことのためにここに来た訳じゃないぞ、うん」
患者衣からのぞく少女の白い太股に思わず手が伸びそうになるが必死にそれをもう片方の手で押さえる。
「そ、そうだあいつを呼ぼう。あいつならなんとかしてくれるかもしれないし」
俺の自制心が音を立てて崩れる前に俺は立ち上がると少女から少し離れ自分の右耳のちょうど付け根部分を押す。
古いブラウン管が帯電する時のようなヴォンという音が頭の中に響くと俺の目の前にずらりと名前が並ぶ。いわば電話なんかのアドレス帳ってやつだ、網膜に文字を表示される目はゲームのやりすぎで視力が落ちた中学生のときに、通話機能がついたのは小学生のとき中耳炎になって病院に行ったときに取り替えられたものだ。
「ええっと、あったあった」
視線を動かすと目の前の画像がスクロールし一人の女性の画像が浮かび上がる。俺の唯一の・・・・女友達である結城紗希、ちょっと気が引けたけどぱっと考える限りこいつくらいしか頼れそうない奴がいない。
「けど・・・・んまぁ緊急事態だし、いいよな」
一瞬『あの事』が思い浮かび躊躇したが通話ボタンに視線を移動させ目に少し力を入れると呼び出し音が鳴り始める、そのコールの二回目が鳴り出すよりも早く紗希は電話に出た。
『もしもし悟朗ちゃん!?ええっ嘘!悟朗ちゃんから電話してくれるなんて、ねぇねぇお母さん~悟朗ちゃんが~!』
「待て待て、一々報告しに行くな。戻ってきなさい!」
『あ、ごめん。悟朗ちゃんから電話してくれるなんて嬉しくて』
テンション高い紗希の口調に少しの安堵と同時にたっぷりの疲弊を感じ一瞬通話終了の文字に目が行きそうになるがそこをグッと堪えて話を進める。
「嬉しいついでにそのなんだ、俺の頼みを聞いてくれると助かるんだが?」
『うん、大丈夫だよ、まっかせて!』
「えっとだな、後でメールする場所にお前の持ってる服何着か持ってきてくれないか?」
なんかこう言うと誤解を生みそうな気がするが他に言いようもなかった。
『服?も、もしかしてお泊まりでデート!?お母さん~悟朗ちゃんとお泊まりデートだって~』
「おいこらだから戻ってこい、全然違うから。そして報告するな」
案の定な勘違いをする紗希を冷静に諭す。うむ、こんなこと頼める奴、こいつしかいないと思ったんだがこの調子だとラブホテルに来た瞬間発狂するんじゃないかという不安で一杯だ。
『なんだぁ、お泊まりじゃないのかぁ。えーじゃなんだろ?』
「まぁともかくサイズは気にしないから深く考えずに、そしてできたら急いできてくれ」
『うん、わかったよ悟朗ちゃん!』
「あーあと、紗希。一つ言っておくことがある」
『なになに悟朗ちゃん?』
「いい歳なんだから、その『悟朗ちゃん』ってのを止めろ!」
俺は鬱憤を晴らすように叫ぶと返事も聞かずに通話終了のボタンを凝視し通話を切る。ああ、もう全く二十歳を越えてまでちゃんづけで呼ばれるのは小っ恥ずかしい。
そしてなんであいつ、あんなにも「自然」だったんだよ。もう全然気にしてませんって感じだったな。
「はぁ、怒鳴ったら喉乾いたな」
俺は溜め息をつくとベッドの脇に設置してある小型の冷蔵庫の扉を開ける。ぎゅうぎゅうに押し込まれたジュースの缶の山からコーラを一本取りだし蓋を開ける。
「さぁて紗希が来るまでテレビでも見て待つとするかね」
コーラを一口飲むとベッドに腰掛けると近くにあったテレビのリモコンに手を伸ばし電源をいれる。
なんともまぁ内装が旧時代のラブホテルならテレビまで旧時代だ、今時リモコンを使うなんて・・・・そうゆうコンセプトの部屋なんだろうか。
「んでラブホテルでニュースなんて見る奴いるのかよ」
そしてテレビの電源をつけて真っ先に表示された国営ニュース放送に思わずツッコミを入れる。
『続きましてはノア地域の運営報告です』
スーツ姿の女性キャスターがちょうど俺の住むノア地域の運営報告をしているところだった。旧時代では日本と呼ばれてた所に俺は住んでいる、日本がなんで今ノアと呼ばれているのこれには理由がある。
明朗簡潔に言うのなら旧時代の人間は度重なる地球の異常気象に対し『地球を機械化』することで制御したってことだ。
もちろん地球だけではなく、太陽やら月もそいつの手によって制御され気温から風向き、日照時間からいつ雨が降るまで今は人間が決めている。
詳しくは知らないが一人の頭の良い科学者がぽっとででこんなだいそれたことしてしまったそうだ。『どんなに文明が発展しても自然の脅威には敵わない』なんてのは過去の話になり、それどころかまるでシミュレーションゲームをするかのように大地を隆起させたり陥没させたりし文字通り地球を作り替えた。
そしてそいつは次第に全世界の政治にまで介入し国という枠組みを完全に取っ払った。それよって日本という国はなくなり地域という名の区切りだけが残ったってわけだ。
「ぬるいなこのコーラ」
俺はニュースを呆然と見ながらコーラを喉に流し込む。
この話にはなんていうか一つおかしいところがあるのがわかるだろうか?
地球を機械化し国の枠組みを外すなんてことをやってのけた人物、その人物についての詳細が全く伝えられてないのだ。
男か女か、年齢、名前すべてが非公開。まるで宗教の名前を呼んではいけない神のようにその存在が明確にされていない。
初めから存在しないだとか、政府の陰謀だとか色々言われているがよくよく考えると個人的にはそれでも生活は良くなったと思ったのでどっちでもいいっちゃどっちでもいいわけだ。
『なお本日は午後六時より四十五分間、雨を降らす予定なので傘をお忘れないように・・・・』
「はぁ、雨とかまじかよ」
あいにくと傘なんて持ってない、紗希にもう一回連絡して持ってきてもらおうかそんなことを考えた、その時だった。
「171・・・・」
俺の背後で小さく言葉が呟かれる。言葉、というよりもなぜか数字だったがそれに思わず振り返るとキョトンとした顔で青髪の少女がこちらを見つめていた。
「お、気がついたみたいだな。大丈夫か?」
「・・・・・・・・?」
俺の言葉を少女はじぃっと考えるが結局上手く消化できなかったのか小首をかしげ「よくわからない」と言った感じのジェスチャーをする。
「723、171・・・・」
「えーっと、ん?なんだって?」
「558?」
「あれ?言葉通じないのか」
うむ、困ったな。国という枠組みが外れて様々な人種が入り乱れることになり最初に機械化が推奨されたのは言語の自動翻訳だったわけだが正直この少女が何を言っているのかはさっぱりだ。なにせ少女が先程から口にしているのは言葉というより数字だ、この数字にどんな意味があるっていうんだ。
「ええっと、どっから話せばいいのかわかんないんだがとにかく俺は怪しいものじゃない」
「81」
俺の言葉に少女はそう言うと小さく頷く。うむ、どうやら俺の言葉は通じているみたいだ。
「んでまぁなんでこんなところに来たかと言うとこれはだな、色々と事情があってだな」
なんとかラブホテルに連れてきたけどこれは疚しい感情があったわけではないということを伝えたいんだがどう考えても誤解しか生みそうにない。
「50?」
そんな俺のくだらない悩みなんか全く気にしてないようで少女はベッドの上に置いてあるテレビのリモコンを手に取ると興味津々といった感じに見つめている。
「テレビのリモコンがどうしたんだ?」
「50!」
少女はなにかを思い付いたように自分とリモコンの数字を交互に指差すと
「4、1、7!」
一つ一つ確認するように声に出しながらリモコンのボタンを押す。だがその少女の行動がやっぱり俺には意味がわからない。意味がわからない代わりにテレビ画面には
『あのしずくちゃんが今度は北条政子のコスプレでばいんばいん揺れる!!感じる!!』
少女がリモコンのボタンを押したことでコスプレ系のアダルト放送が垂れ流しになる。
「18!!!!」
服をはだけた女性が男に抱かれている映像は少女には相当ショッキングだったようでビックリして叫び声をあげると俺に向かってリモコンを投げる。それはもう俺の顔面に見事にクリーンヒットした。
「いってぇ・・・・なにするんだよ」
俺は落ちたリモコンを手に取るとテレビの電源を落とす。そんなことをしている間に少女はシーツを頭からすっぽり被り怯えるような目でこちらを見ている。完全に俺の事をアダルト放送のようなことをする輩だと警戒する目だ。
「いやいやいや、大丈夫だから!変なことしないから、な?」
「471?」
少女の言葉は相変わらずわからないがなんとかしないと、ここで大声でも出されたりしたらそれこそ面倒なことになるぞと、そう思った矢先
「悟朗ちゃーん!いるー?」
部屋の扉を叩く音と共に紗希の声がする。
「おお、紗希か。すぐ開ける!」
この時は紗希の登場が俺の助け船になると思っていた、うん・・・・思っていたんだがなんか扉を開けた先で見た紗希の姿に
俺は「やっぱりこいつ呼んだの間違いかも」と思ってしまった。
「可愛すぎて、御免あそばせっ~」
そんなことを言いながらニッコリと笑う紗希。栗毛のショートカットにくりっとした瞳、子供のような幼さと底抜けた明るさを併せ持ったこの俺の幼馴染みはなんでかメイド服を身に付けて俺の目の前に現れたのだ。
「なんて格好しているんだよ」
「えっ、悟朗ちゃんメイドさん嫌いだった?」
「はぁ、お前はなにを勘違いしているんだ」
「えええっ!?だってここラブホテルだし、お着替え持ってこいって言うから・・・・てっきりそうゆう趣向のプレイだと思ってたよ。あ、ついでに紅茶も入れてきたんだよ、自信作なんだ~」
そう言って銀色のトレイに載せた紅茶ポットを自慢気に見せる紗希にちょっと呆れてしまう。・・・・完全に勘違いなんだがそう取られてもおかしくないからなんとも言い返す言葉がない。
「いや、それはすまん。なんていうかこっちも色々あってさ。とりあえず中に入ってくれ」
これ以上ラブホテルの廊下で騒がれるのも色々と迷惑だ、さっさと紗希を部屋の中に・・・・と思った所でまぁた紗希が中に居るシーツを頭から被って怯えている少女を見て騒ぎ出す。
「あわわ!も、もしかして三人で!しかもコスプレ!ってことなの悟朗ちゃん!お、お母さんにメールしなきゃ!」
「はぁ・・・・とりあえず落ち着いてくれぇ!!!!」
思わず叫んでしまった俺、多分俺が一番騒がしかった・・・・と、思う。



「ふぅ、とりあえず状況把握したか?」
メイド服の紗希と相変わらずシーツを頭から被った少女がベッドに座り、なぜか俺が床に正座している状態で話しかける。
「うん!悟朗ちゃんが倒れてるこの子を助けてラブホテルに連れ込んだってことだよね!」
「ああ、うん・・・・なんか一言言いたいことあるがまぁだいたいそんな感じだ」
なんかナチュラルに語弊のある言い方をする紗希にツッコミしたいところだけど言い出すとキリがないので黙っておく。
「それでそれでこの子の服を頼れる私に持ってくるように連絡してくれたんだよね!」
「そう、うん・・・・そうだな」
紗希を呼んだ俺自信はもうちょっとこいつ使える奴だと思ってて認識を改めようとしたところなんだけど、まぁこれも黙っておく。
「うんと色々服は持ってきたんだけど・・・・そういえば悟朗ちゃん、この子名前なんていうの?」
鞄から洋服を出しながら紗希にそう言われ状況を語ったのはいいがこの少女についてなにも伝えてないことに気づく。
「ああなんだ、名前以前にまともに会話できないんだよ。なんか数字ばっかり喋ってさ」
「数字ばっかり?んーなんだろ、ねぇねぇ」
紗希がゆっくりと少女に近づく、俺ほどではないが少女は紗希に対しても覚えてしまっているようで少し遠ざかる。
「怖がらなくてもいいよ、私の名前は結城紗希。貴女の名前教えて?」
ゆっくりとそして優しい口調で言う紗希の言葉に少女は少し落ち着いたのかなにかを考えるようにして口を開いた。
「417・・・・」
「ふむふむ、シイナちゃんでいいのかな?」
「え?」
突然湧いてでた紗希の言葉に俺と少女はお互い違う意味で驚きを隠せなかった。
「なんだそのシイナってのは、もしかしてお前こいつのいってることわかるのか?」
「うんとね、わかるというかなんていうか」
俺の言葉にあっけらかんとした様子で紗希は答える。
「ただ語呂合わせで言ってみただけなんだけど」
そう紗希は言うがシイナと呼ばれたその少女の驚きっぷりからしてあながちそれで間違っていないと思う。
「シイナちゃん、私は結城紗希だから・・・・39、かな?」
「39!」
頭から被っていたシーツを放り投げシイナは紗希に抱きつく。なんていうか紗希は昔から人と解け合うのが上手いとは思っていたがこんなにも早いともう一種の特技といってもいいだろう。
「よしよし~。んでね、あそこにいるのが悟朗ちゃん、数字で言うと56かな?変な人じゃないから安心して」
「56・・・・81!」
シイナがこちらをしばらく見つめると徐に頷く。
全くもって変な感じだがまぁこれでこの少女、シイナの俺への誤解が解けたって言うんならそれでいい。
「とりあえず紗希、シイナの体大分汚れているみたいだからさシャワーとか、そのやってくれないか?」
「あ、うん。それじゃシイナちゃんお風呂行こうか」
「026?」
「そそ、026~026~♪さぁ行くよ~」
何故か不思議そうなシイナを紗希が後ろから押す感じで二人はシャワー室に消えていく。なんていうかガラス張りのシャワー室なんでいくらでも覗けてしまえるのだがそこは自重して背を向け座禅を組む。
「それじゃぱぱぱっと脱いじゃうよ」
「・・・・81」
紗希とシイナの声、服を脱ぐ音、そして流れるシャワーの音・・・・なんか拡張器でも置いているんじゃないのかってくらいに静かな部屋にはやたらと響く。
「うわぁシイナちゃん肌綺麗~」
「3、39!?」
「女の子同士なんだから照れない、照れない」
シャワー室から聞こえてくる声に変な妄想が沸き起こるが必死に頭を振って平静を保つ。
「ねぇねぇ悟朗ちゃんも入る~?」
「は、入るわけないだろ」
「えぇ~昔はよく一緒に入ったのにぃ~」
「はぁ、そんな昔の話を出すんじゃない!」
本当紗希と話していると頭が痛くなる。一緒に風呂に入ってた頃なんて十数年前の話、幼馴染みだからってナチュラルにそういうことを言うから困る。昔の、小さい頃のまま接されて好意を向けられても俺はどう答えればいいかわからねぇ。
俺が少し声を荒げたせいか紗希はそれ以上何も言うことなかった。しばらくしてシャワーの音が止むとけろっとした顔でシャワー室からでてくる。
「ふぁ~いいお湯だった~。そして悟朗ちゃん!見てこのメイド服!」
俺が振り返ると同時にスカートの端を持ってくるりと紗希が回転する。
「いや、メイド服はさっきも見ただろうに」
「ポイントはこの眼鏡だよ、知的に見えるでしょ?」
赤い縁の眼鏡の蔓を人差し指でクィっと持ち上げてそう言う紗希。まぁ知的に見えなくもないが紗希が言うとなんとも言えない気分になるので俺は話をそらした。
「それでシイナの方は大丈夫なのか?なんかコスプレ衣装ばっかり持ってきてそうで不安なんだが」
「それなら大丈夫!ねぇシイナちゃん、でておいで」
「・・・・81」
紗希の言葉にシイナがコソコソとした様子で俺の前に立つ。
「これはまた・・・・凄い格好を」
赤いチェック柄のミニスカートに鼓笛隊のような装飾があしらわれた上着、そして頭にはミニシルクハット・・・・形容しにくいがどうやら色んなコスプレを混ぜたみたいな感じだ。
「可愛いでしょ悟朗ちゃん」
「ん、まぁ・・・・ナース服とかバニーガールな格好よりかはましかな」
自分はメイド服なんて着ている紗希のことだ、とんでもない格好がでてくると思ってたがまぁこれなら外へ出てもさほど問題はないだろう。
「56、11?」
俺の表情にちょっと似合ってないんじゃないかと心配したのかシイナがこちらに歩み寄ってくる。なんとなくそれは言葉にしなくてもよく分かった。
「ああ、大丈夫。よく似合ってるよ」
俺はシイナの頭を優しく撫でながらそう言う。
「56!」
少し恥じらうように頬を染めるその表情にちょっと可愛いなと思った矢先シイナが俺に抱きついてくる。
「ちょっとこら抱きつくなシイナ!」
「いいなぁ~私も抱きついちゃえ!」
調子に乗って紗希までも抱きついてくる。ああもう、こいつら揃いも揃ってなんで抱きついてくるんだよ誘ってるのか?
「と、とりあえず二人とも離れろって!」
理性を失う前にとりあえず二人を突き放す。まずい、本当に今のはマズイ、シャワー後の女の子の仄かな香りに一瞬本当に理性が飛びかけたからな。
「と、とりあえずシイナをこれからどうするか考えようぜ」
「ん~そうだね。シイナちゃんはどうしてあんな格好で倒れてたんだろうね?」
シイナが倒れていたときの格好、あれは患者衣だ。だから病院かどっか施設から抜け出して来た、そんな感じなんだろう。なんでかは知らないがもしシイナが病気かなんかなら早いところ返してやりたいところだ。それが彼女が望まないことだとしてもだ。
「そういえば俺、変なおっさんに呼び止められてシイナを見つけたんだけどその時おっさん『人が二人、倒れてる』って言ってたんだよな」
「二人?ってことはシイナちゃんの他にもう一人誰かがいたってこと?」
紗希の言葉に俺は静かに頷く。ただその場を見た時にはそのもう一人ってのはいなかったんだよな。
「多分二人でどっかから逃げ出してきたんだと思う。だからもう一人の奴を探してやるのが一番良いと思うんだけど」
「723!723!」
「ん?723ってなんだ?なにみ?」
シイナが頻りに数字を叫ぶがどうにも俺は語呂合わせってのが苦手らしくまともな文章ができあがらない。
「なぁ紗希、わかるか?」
「ん~もしかしたらえっと723ってのが名前でナツミさん?その人がシイナちゃんと一緒に逃げてきたもう一人の人なんじゃない?」
「なるほど、あってるのかシイナ?」
俺が問いかけるとシイナは小刻みに頷いてる、まぁそれが正解と言うことなんだろう。
「やっぱり!じゃそのナツミちゃんを探しに行こうよ」
ポンと紗希は手を叩くと立ち上がる。
「まぁそれが一番だと思うけどあてでもあるのか?」
「ないけど、ここにいるよりかはましだと思って」
確かに、いつまでもここで“休憩”していてもなんにも始まらないのは確かだ。
「そうだな、それじゃ行くか」
俺は立ち上がり部屋の扉まで歩いていき引き戸になっている取っ手を掴む。
「あれ?」
そこでなんていうか出鼻を挫くようなことが起こった。よくわからねぇんだが扉がうんともすんとも動かないのだ。
「どうしたの?」
「いやなんか扉が開かない」
心配そうに駆け寄る紗希に吐き捨てるように言うと強引に扉を開けようと力を籠めるが扉はびくともしない。
よくある「実は引き戸じゃありませんでした」なんてオチかと思い色んな方向に押したり引いたりしてみるがそれでも扉は開かない、どうなっているんだ?
「ねぇ悟朗ちゃん、これ電源落ちてるんじゃない?」
「電源?」
紗希が扉の横にある操作パネルのような指差しながらそう言う。普通ならそこで部屋のロックとか空調の調整ができるんだが確かに画面は真っ暗でなにも映っていない。
「まさか停電?いや、でも照明はちゃんとついてるし」
部分的に停電?よくわからないがそんなことがありえるのか?
そもそも停電になったらなんらかの情報があってもよさそうなものなんだが。
「あ、停電時にはこの手動レバーで開くみたいだよ。ちょっと待って」
俺が考えている間にパネル横の注意書を読んでいた紗希が操作パネルの真下、雑誌の大きさほどの小さな扉を開く。そしてそこの鉄製のレバーを引っ張ると扉は空気の抜ける音と共にあっけなく扉は開いた。
「良かった、開いたね」
「ああ、全くなんなんだこのラブホテル」
全く冷蔵庫は冷えてないし扉は開かなくなる、とんだラブホテルだな。二度と利用しないぞ・・・・って今は一緒に行く相手もいないんだがな。



それから一時間、日が傾きはじめた頃俺達三人は郊外にある公園のベンチに並んで座りソフトクリームを食べていた。
「まぁそんなに簡単に見つかるわけないよな」
「見つからないね~」
俺と紗希はお互い顔を見合わせてため息をつく。まぁでもこうなることは大体わかってはいた。そりゃそうだ、わかるのはナツミって名前だけでシイナの情報からじゃ顔も容姿はっきりとわからない。他人との関わりが希薄になった昨今じゃ一々すれ違ったとしてもそいつのことを覚えている人間なんてほぼいないのだ。
「さてどうしたものかね」
俺はソフトクリームを食べきると目の前でついたり消えたり繰り返しをしている街灯を見つめながら呟く。
「そうだねぇ、もしかしてもうナツミちゃん病院に帰ってるかもね」
「となると病院をしらみ潰しに当たってみたほうがいいのか」
しかしそう考えるとそのナツミって奴の行動はよくわからないな。シイナと一緒に飛び出してきたんだろうがシイナを置いてどこかに消えた、たまたま利害が一致してあそこで別れたというだけなのか?シイナの様子じゃどうにもそんな感じはしないんだが。
「それじゃシイナ、まぁ抜け出してきて戻りたくはないだろうけど病院に・・・・」
「18!!」
俺の言葉を遮りシイナが耳を劈く勢いで叫ぶ。もう散々聞いたから18=イヤってのはよぉくわかった。そこまで拒絶しなくてもという感じはあるがな。
「いやでもなシイナ・・・・」
「18!56、18!!」
俺から顔を背け紗希に抱きつくシイナにお手上げといった感じで両手をあげると紗希はシイナの頭を撫でながら静かに呟く。
「多分抑圧された生活しているから逃げ出してきたんだと思うなぁ。楽しいこととかやったことないのかも」
「楽しいことねぇ」
まぁ確かにどうゆう病気かは知らないけどあれもダメ、これもダメな生活だとすれば逃げ出したくなるのも分かる気がする。
「だからちょっと楽しい思い出でも作ってあげたらシイナちゃんも帰れるんじゃないかな?」
「思い出か、でもそれじゃ一体どこに行くんだ?」
俺と紗希はほぼ同時にここから見えるとある場所をチラリと横目に見る。そこにあるのはあんまり良い思い出のない観覧車・・・・。
「いやでも紗希、あそこは・・・・」
「あ、うん。悟朗ちゃんの言いたいことは何となくわかるけどシイナちゃんの思い出作りだから」
紗希の言葉に俺はそれ以上何も言うことができなかった。いや多分俺にそんなことを言える権利もないのだと思う。
「ねぇねぇシイナちゃん、あそこに観覧車見えるでしょ?あれ乗ろっか、楽しいよ」
「・・・・19!」
興味を示したのか顔を輝かせて観覧車を見つめるシイナにこれはもう行くしかないなと、俺は諦めた。


「88888!」
シイナが観覧車を見上げてパチパチと楽しそうに拍手をする。
郊外の公園に設置されたさほど大きくはない古い観覧車、元々年開発の象徴として建てられたこれも今となってはその存在を知る人も少ないくらいの存在になってしまっている。
正直俺としてはここに来ることなんてもうないと思ってただけに気が重い。きっとあの話にはなると思うからな、まぁ今までそこに触れずに紗希に助けてもらおうなんて事自体が都合の良いことなんだが。
「えっと三人でお願いします、はい」
「39、56、889!」
紗希がチケットを手渡してる間にシイナは観覧車のゴンドラの前でピョンピョンと跳ねる。
「56~!!」
「はいはい、そんなに慌てなくても行くよ」
燥ぐシイナの頭を撫でながら俺はゴンドラに乗り込む、俺の正面にシイナが座りその横に紗希が座る。
『それでは短い間の空の旅ごゆっくりお楽しみください』
この雰囲気に合っているのか合っていないのかよくわからないBGMが流れ機械音声と共にガクンとゴンドラが動き出す。
「11!3514・・・・39、56!」
まだちょっとしか動いていないってのにこの喜びよう、シイナの素性ははっきりしないけど観覧車に乗るのでさえ初めてなんじゃないかって気がする。
「シイナ、そのうち人が米粒みたいに見えてくるぜ」
「351・・・・!」
シイナに声をかけながら窓の外を見る。日も暮れてポツリポツリと地上の建物に灯りが点り、まるでイルミネーションのように瞬いている。
頂点に達する頃にはBGMも止まりゴンドラの動きはぐっと遅くなる。
紗希はゴンドラに乗ってから一言も喋っていない、ただずっと俺とは反対の景色を眺めているだけ。
やっぱりこんなところ来たくなかったんだろう、それも俺なんかと一緒になんてな。
「なぁ怒ってないのか、俺のこと」
俺は外を見たまま独り言のように呟く。
俺は甘えてしまった。電話をしたらいつも通りの紗希の声がしてそれに安堵していつもと同じ風に喋ってしまった。
「別に怒ってなんかないよ」
本当か?本当にそうなのか?紗希の言葉に心の中で何度も呟く。声にして聞いてみたいがそんな勇気、俺にはない。
わかってるからだ、あんなことされて怒らない奴なんていない。
チカチカと光るイルミネーションが少しづつ遠くなり消えていく。
「怒ってたら電話とかでないもん」
あの時は正面に座っていた紗希が今は斜向かいに座り外の景色を見ながらポツリと漏らす。
その様子を見れば怒ってないとは言っていてもあの時とは違うのがハッキリとわかる。そりゃそうだ、俺はちょうど一週間前ここで紗希に────別れを告げたんだから。

紗希、結城紗希は俺の唯一の女友達であり、一週間前までは俺の彼女だった。
シイナの事がなければもう一生話すことなんてない、口なんて聞いてもらえないと思ってたのに今またあの時と同じように観覧車に乗っているなんて滑稽すぎる。
「怒ってない、なんてことないだろ?」
やっと喉元に詰まっていた言葉が出る。けど紗希はその言葉にじっと目を瞑るだけ。
悪いのは全部俺だ。俺は紗希の事が本当に好きなのかわからなくなって一週間前、ここで別れを告げた。
物心ついた頃からずっと一緒にいて気がついたら付き合ってた。初めてデートしたのも初めて手を繋いだのも初めてキスしたのも初めて二人で夜を明かしたのも紗希だった。
でもある時、俺は紗希の事を本当に好きなのかわからなくなった。なにかがあったわけじゃない、本当ならずっと前に気づいていてもおかしくないことが海の底からふっと沸き上がる泡のように出てきてしまった。
俺は本当に紗希のことが好きなんだろうか?
特別仲が良い訳じゃない、ただずっと一緒に居たからそう考えてしまってるんじゃないのか?
紗希だって同じだ、一緒にいる時間が長いから俺のことを好きだと言うだけで本当はもっとあいつに適した奴がいるんじゃないのか?俺なんかよりもずっと・・・・
そんな考えばかりが永遠と頭の中をループした結果、俺は紗希に別れを告げた・・・・。
その時紗希は怒ることも嘆くこともせず、いつも通りの笑顔で「そっか、じゃ別れよっか」なんて言った。
俺は何を期待していたんだろう?
もっと「悟朗ちゃんと別れるなんて嫌!」と泣いてほしかったのか、「他に好きな人でもいるの!?」と怒ってほしかったのか、どっちにしろ自分から別れを切り出しておいて卑しい考えだった。
結局俺は紗希に構ってほしかった、ただそれだけなんだろう。
別れを切り出したあの時も、今日電話したときも紗希は平静を装いつつもきっと苦しんでいたに違いない。
「ごめんな紗希・・・」
「悟朗ちゃんが謝るなんて珍しい~。あとでお母さんにメールしておこっと」
いつも通り微笑みながら紗希は言う。けど外を眺めたまま決して俺の方は見ない。
「私はね、悟朗ちゃんが幸せならそれで良いよ」
「紗希・・・・」
「もちろん一緒の景色、見れてたら一番良かったけど」
それはきっと
俺だって同じ気持ち、のはずだった。今でもそうしてやりたいのは山々なんだが俺は自分の気持ちがどっちに向いているのか今だハッキリとしない。そんな煮えきらない考えで頭がどうにかなりそうになってきたその時だった。
「56・・・・37027210」
ぼけっと景色を見ているだけだと思っていたシイナが不意にこちらを向くとそんなことを呪文のように口走る。うむ、18とか19とか短い言葉ならすぐわかるようになったがここまで長いといまだにはっきりと理解できない。
「そうだねシイナちゃん、悟朗ちゃんにはそれ必要だと思う」
「な、なんだよ」
紗希にはシイナの言葉が理解できたみたいだ、指先で自分の髪を弄りながらクスリと笑う。
「悟朗ちゃんだけじゃない、私も・・・・多分人間みんなそうゆう風に生きれたらきっといいよ」
「114~」
「ますますわかんねぇ・・・・」
紗希の言葉にますますシイナがなにを言ったのかわからなくなり思わず現実逃避で外の景色を見る。
「ん?あれ・・・・?」
「どうしたの悟朗ちゃん、もしかしてシイナちゃんの言葉わかったりした?」
「いや違う?なんか外が真っ暗だと思っ・・・・」
違和感を言葉にしようとした瞬間、ガコンとゴンドラが揺れる。
「18~901!」
「な、なに・・・・停電!?」
「また停電かよ、どうなってるんだこれ異常だぞ」
外の建物の灯りが軒並み暗くなったのを見ると大規模な停電のようだ。ラブホテルの冷蔵庫や扉にソフトクリーム食べてたときの街灯といいなにか都市全体の電力供給が不安定すぎる。
「これ、大丈夫かな悟朗ちゃん」
「どうなんだろうな、なんでかしらないがネットにも繋がらないし」
目の前に表示されるネット画面でいくつかそれっぽいことが書かれてそうなサイトにアクセスするも停電について書かれている所は見当たらないどころかページが表示されさえしない。
普通なら復旧の目処だの原因などがすぐに掲載されるもんなんだが一体どうゆう事なんだ?
「このままってことはない、よね?」
「わからん、復旧に時間がかかれば時間はかか・・・・」
「703!」
そこまで言いかけたところでシイナが急に叫びながら立ち上がった。その勢いと停電でゴンドラが止まっていたことが合わさりゴンドラが大きく揺れる。
「お、おい急に立ち上がるなよ揺れるだろ」
「シイナちゃん危ないよ、座って」
俺と紗希の言葉にシイナは首を横に振るとゴンドラの天井、ちょうどLEDの電灯の手を触れる。
「4946161987461564691321564・・・・」
そして静かに呪文のようになにか数字を呟く、それは明らかに今までのような語呂合わせなんかではなく数字の羅列だ。
「117034、700」
そうシイナが言葉を言いきった途端だ、パッとゴンドラ内が明るくなり暗かった外も建物にも灯りが点る。
「すごいシイナちゃん!」
「ああ、一体なにをしたんだ?」
「・・・・・・・・。」
俺の問いにシイナは答えない、いや答えられないと言った感じなんだろうか?
シイナがやったことと言えばちょっと照明に触れながら数字を呟いただけだ。それだけだってのに街全体の停電を復旧させてしまったシイナ。もしかしてシイナは病気、なんかじゃなくてなにかの能力を持った子でそれを研究しているところから逃げ出してきたんじゃないのかって考えが頭を過る。
『ご迷惑をお掛けしました。停電は普及しましたので運行を再開します』
無機質な機械音声と共にゴンドラが動きだし建物にも灯りが戻った、でもどこか罰悪そうな表情を浮かべるシイナに俺は少し心配になる。
もしかしたら今の出来事がシイナにとって重要ななにかを秘めているんじゃないかって気がしてならなかった。


「全く酷い目にあったぜ、普通止まるか観覧車が」
「そうだねぇ、でもシイナちゃん凄いよね直しちゃうんだもん」
「・・・・81」
観覧車を降りてからもシイナの表情は暗い感じがした。元よりろくな会話ができないが明らかになにかに怯えるような表情をしている。それはやたらと辺りを見渡したり紗希や俺の背中にくっついて歩くその様子からもはっきりとわかる。
「そろそろ雨降るみたいだしそろそろシイナちゃん、そろそろお家か・・・・えっと病院に帰ろ?家族の人も心配してるよ?」
「・・・・18!1818!」
シイナは首をブンブンと横に振ると紗希の後ろから今度は俺の背中にくっついてくる。こうゆう駄々のこね方はまるで子供だ、紗希に言われたから俺に助けを求めるって言うね。でもさっき見たシイナの不思議な力は明らかに人智を越えている。
「ん~じゃ、シイナちゃん。あそこでおみやげ買ってあげるからそれ買ったらお家に帰ろ?」
「038・・・・038・・・・」
俺の肩からひょっこりと顔を出すシイナ。どうにもおみやげはほしいけど帰りたくないそんな感じだろう。
「シイナ、おみやげ欲しいだろ?」
「81・・・・」
「帰ると怒られるって言うんなら俺と紗希が一緒に謝ってやるからさ」
「・・・・・・・・。」
シイナは考え込むように俯き、しばらくしてなにかを決意したように顔を上げる。
「038、16!」
「それじゃ決定だね!約束だよシイナちゃん」
「81!」
ニッコリ笑いシイナが紗希に駆け寄ろうとした、その時だった。
「・・・・生憎とそうはいかないよ」
「えっ!?」
不意に背後から知らない人の声がして俺は振り返り、そこに立っていた人物を見て唖然とした。
「えっ、あんた・・・・」
そこにいたのはシイナと瓜二つの顔をした短い青髪の少女、違うのは真っ白な白衣を来ていることくらい。屈強そうなスキンヘッドの大男を二人従えたそいつは同じ顔をしたシイナとは似つかわないような残忍な笑みを浮かべながらこちらに近づいてくる。
「あれ、もしかしてシイナちゃんの保護者の人かな?」
「シイナ?保護者?何を言っているんだ?」
紗希の言葉にその人物は舌打ちをしながら嘲笑うように言う。
「何のことかは知らないけど私は保護者ではないし、そいつはシイナなんて名前ではない。そいつはただの所有物のナンバー417だ」
「18782・・・・」
シイナが紗希の背中に隠れながらポツリと呟く。“嫌な奴”・・・・俺も全く同じ意見だ、よく事情はわからないが人のことを番号で呼び所有物と言い張るこの少女が気に入らなかった。
「あんたは一体何者なんだよ」
「私は不破澪、このノア地域のシステム管理者よ」
このシイナと瓜二つの少女、不破澪から出た“システム管理者”という言葉に驚かされた。わからないことばかりだ、システム管理者がなんでこんなところにいる?そしてそいつとシイナになんの関係が?
「ナンバー417を返していただきましょうか」
澪の言葉に後ろに控えていた大男二人が紗希とシイナに近づく。
「ちょ、ちょっと待てよ!お前ら本当にシイナの保護者か?」
俺は慌てて紗希達と大男達の間に割って入ると思っていた疑問を投げかける。シイナのことを所有物と言ったこの澪って女、やっぱり気に入らない・・・・もしかしたらあのシイナの能力を狙っているなにか別の組織なんじゃないのか?そいつらからシイナともう一人、ナツミは逃げているのではないのか?
「だからそいつはシイナなんかではないし、私は保護者ではないと言っている。何度も同じ事を言わせる、ナンセンスだ」
少し苛立ったように言う澪は髪を掻き上げながら嘆息する。
「それに君は勘違いしているようだ、それについて誤解を解いておこうか。なんだか私を誘拐犯かなにかと勘違いしているみたいだしね」
「勘違いだと?」
澪の様子からしてどうみたって誘拐犯と思われても仕方ないだろう、そう思うとつい苛立ちが募り声が荒くなる。それを心配した紗希が声をかけてくる。
「ご、悟朗ちゃん。大丈夫なのかな?」
「56・・・・」
「大丈夫だ、俺が紗希もシイナも守ってやる」
「だからそれが大きなミステイクだっての!」
小さく呟いた言葉に澪が声を張り上げる。
「あんたらがそいつナンバー417・・・・ああ、あんたらの言うシイナを庇えば庇うほどこの都市のシステムがおかしくなるんだよ」
「システムが・・・・おかしく?」
「シイナはこの都市のシステムを制御する生体コンピューターだ。この都市のインフラ設備すべてをシイナが管理しているといってもいい」
「生体コンピューター・・・・!?」
シイナがこの都市のシステムを制御する生体コンピューターだって?つまり・・・・この機械制御だらけになったこの都市をシイナが一人で制御しているっていうのか?
いやだからか、今までなにか色んな所で停電のようなことが起きていたのはもしかして・・・・
ハッとした俺に澪は冷静な声で言う。
「シイナがいなくなくなってこの都市の状況はあんた達が思っているよりも酷いことになっているのよ。やっぱり新人の捺美になんてシイナの管理を任せたのは失敗だったわ。変な感傷でシイナを連れだしたりするから」
独り言のように呟く澪に色々な謎が解けてくる。つまり捺美っていう人が生体コンピューターであるシイナを連れだしたってことだ、それによってあの色んな所でシステムの制御が上手くいかずに停電が起こった・・・・ということなんだろう。
「なんでそんな人を使うようなシステムを・・・・?」
「機械化が進んで今や気温から天候なにもかも制御できるようになった」
澪は淡々とした様子で言葉を続けていく。
「それら全てを一括で制御できるものを私はシステム管理者として作らなければならなかった。しかも機械としてシステムとしてかなりの柔軟性が求められたわけ」
「それで生体コンピュータを?」
俺の問いに澪は小さく頷く。
「生体コンピューターなら人間の思考、柔軟性が得られるからね。そしてそのために何度も実験は繰り返させられできたのがまさに専用とも言える生体コンピューター、それがシイナよ」
「あれ、でもちょっと待って。地球の機械化が進んだのってもう百年近く前の話じゃなかったっけ?」
紗希の疑問はもっともだ、でもこう見る限り澪の姿は十代の少女にしか見えない。
「ああ、私は体の全てを最新テクノロジーで機械化しているからね。見た目こんなのでも中身はもう二百歳は越えてる、君たちよりずっと年上さ」
澪はケラケラとしばらく笑うと急に地団駄を踏み出す。
「けど困ったものだよ。ようやく納得いく生体コンピューターができたってのになにを勘違いしているのかあいつは。そのシイナは都市を管理するためだけに生まれた存在だっつーの、変な情報を与えてくれたらシステムに影響するっての!」
あいつとは捺美のことだろう、苛立ちを隠すことなく澪は悪態をつく。
「『私が代わりになる』なんて言ってるから捺美を代わりに生体コンピューターとして使ってみてるけどやはり普通の人間にそれはできないに決まってるんだよ。シイナ以外に生体コンピューターとしてこの都市を制御することは出来ない。膨大な量のデータを脳内ですべて処理するなんてことはね」
つまりシイナを連れだした捺美さんはシイナを庇って自らを犠牲にしようとしたその結果がこれだったのか。
会ったこともないが俺には捺美さんの気持ちよく分かる。せっかくこの世に生まれたというのに楽しいことも知らないまま生体コンピューターとして使われるなんて悲しすぎる。
「だいたいはっきり言ってこれ以上捺美を生体コンピューターとして使うのはこの都市にとっても捺美の体にとっても良くはない。やはり生身の人間ができることじゃないの、シイナは私のクローン遺伝子を利用した特別な存在なんだから」
「シイナ・・・・」
澪の言葉に俺はどうすればいいのかわからなくなった。確かにシイナがいなければこの都市はまともに制御できなくなる、それだけでもなく今生体コンピューターとして使われている捺美さんの命もこのままじゃ危ないってことだ。
「いつまで持つかわからないわよ、捺美の命も。でも私は止めることはできない、止めてしまえばこの都市は制御不能になりもっと多くの犠牲がでることになるのだから」
「732・・・・!」
「シイナちゃん!」
シイナが紗希の元からゆっくりと澪達の前に歩き出す。
「シイナ!」
「56、39・・・・3470」
言葉の意味はすぐにはわからなかった、けどそれが別れを意味する言葉だということだけはなんとなくわかる。
そして俺には何も出来ない、それもすぐにわかった。
「シイナちゃん、お別れなんだね」
察した紗希の言葉にシイナが振り返る。その目には薄っすらと涙が浮かんでいる。
「別れの言葉くらい言わせてあげるわよシイナ。まぁ二度と会うことはないけどね」
澪の言葉にシイナが頷くとじっとこちらを見つめる。なにか言葉を紡ぎ出そうとするシイナだがなかなかそれは口には出てこない。
「特に言うことはなしってことでいいのかな?こちらとしてはその方が手間が省けていいんだけど」
澪が指で合図をすると大男達がシイナを取り囲み両腕を掴む。その時だった。
「3.14・・・・3.141592653589793!!!」
シイナが堰を切ったように早口で数字を叫ぶ、それはもう大男に掴まれているというのにそれを振り払わん勢いだ。
「シイナ・・・・」
「シイナちゃん!」
俺はシイナに駆け寄りたかった体を必死に抑えつける。俺にはシイナ一人を救うためにすべてを犠牲にできる覚悟、そんなものを持ちあわせてなどいないのだ。納得なんてできるわけがない、けど俺にはなにもしてやることができない。
「なぁんで円周率?よくわからないけどそれが最後の言葉?まぁいいわ、それじゃあんた達さようなら。今日のことは忘れなさい」
そう言って澪とそして大男に連れられてシイナが俺達から遠ざかっていく。
俺と紗希はその姿をただずっと見ていることしかなかった・・・・。








「お待たせ悟朗ちゃん」
「ああ、んじゃまぁ行こうか」
いつもの街の時計台の前、燦々と光が降り注ぐ中紗希が白いワンピースに麦藁帽なんて完璧な夏スタイル駆け寄ってくる。
「悟朗ちゃん、今日はどこ行く?」
「ん~とりあえず歩きながら考えようぜ」
遊園地でシイナと別れてから一週間が過ぎた。あれから都市の停電だったり異常は起きていない。いつもの日常だがそれは同時にシイナが生体コンピューターとして都市を制御しているからという実感でもある。
「それにしても暑いね~誰が望んでるんだろこの暑さ」
「さぁな、んじゃまぁかき氷でも食べにいくか」
「うん、いくいく~」
あれから俺は紗希と微妙な関係を続けている。周りの人間からすればもう完全によりを戻したなんて言われているが付き合っている訳じゃない。一緒に遊んだり一緒に飯食べたりするだけの仲、ってそれだけだ。まぁそれをよりを戻していると言われればそれまでなんだが。
あの日、シイナに会ってなければこんな関係にはなってなかっただろう。シイナが観覧車で俺に言った言葉、「37027210=素直になって」、あのときは意味がわからなかったが後で紗希に聞いて自分に足りないものがなんだったかわかった気がする。
・・・・とはいえそんなに簡単に人間が変われるものでもないから
こんな付き合っているのか付き合っていないのか微妙な関係になってしまってるんだがな。
「付き合ってないから手を繋ぐのはおかしいよねぇ~」
なんて紗希に冗談混じりに言われる昨今、本当は自分が繋ぎたいくてタイミングを計っているというなんか初々しい状態がなんでか今になって起こっているがそれはそれで楽しいからいいか。
結局俺は紗希のことが好きなのか未だにわからない。けどシイナのことを考えると俺の悩みなんていかに恵まれていた悩みなんだろう。
俺にはヒーローみたいにシイナをあいつから救い出す、なんてことはできないだろう。だからだからこそ俺と紗希であいつのこと、シイナのことを時折思い出す。
ほんの短い間だったけど一緒にいたあの時間を
「あっ、悟朗ちゃんあれ」
紗希が電光掲示板を指差す。流れる一言ニュースに時折混じる3.14から続く数字
それはシイナが別れ際に言った円周率
「なんでシイナちゃん最後に円周率なんて言ったんだろ」
「あれ紗希、語呂合わせは得意なのにこっちはわからないのか?」
「えっ、悟朗ちゃんわかるの!?」
驚く紗希に思わず心の中でガッツポーズ。もうちょっと俺の中だけで秘密にしてもよかったがシイナの件に関しては紗希にも世話になったしな。
円周率は永遠に続く文字の流れ、きっとシイナは「永遠」という言葉の語呂合わせが見つからなかったから円周率を叫んだんだと思う。
きっとあの円周率には「永遠に忘れない」とか「ずっと友達」なんて意味が込められている、あってるかどうかなんか確認する術はない。でも俺はそうだと信じているんだ。
「えーなんだろ3.14って円周率でしょ、ん~」
腕を組んでブツクサ唸っている紗希の頭をぽんと撫でる。
「しょうがないな、んじゃヒントを出してやるよ」
どんなに離れていたって円周率が3.14で終わらず永遠に続くように俺はシイナのことを永遠に忘れない。
俺は自分でも照れ臭くなるような笑顔でこう呟いた。
「円周率は3.14じゃない」
それはもっと続く、永遠を意味する言葉





《 永遠を意味する言葉 了 》





【 あとがき 】
これがですね、なにが書きたいかよくわからない小説の見本ですよ。
あまのじゃくすぎてよりは戻さないわ、シイナを助けるわけでもないわ円周率って必要だったのかなどなど
てか無理あるんじゃああああああああああ!!!!



海原雄山「このお題を出したものはだれじゃーー!」



自分でもなに言ってるんだこいつ?になるような話でした
シュランプですわ、シュランプ(去年のネタを今年も使う物書き界の屑


【 その他私信 】
※人間性の捧げすぎには注意しましょう


どうでもいい夕雅ちゃんメモ

悟朗→56
紗希→39
シイナ→417
不破澪→280

一応全員数字が被らないようにした。だから澪は「みお」じゃなくて「れい」だって!誰も気づいてくれないので勝手にここで公表

ついでに悟朗の苗字が藍糸なのは結城紗希と合わせて
「愛と勇気だけがともーだちーさー」というネタのため

ちなみに結城紗希ちゃんは友達に絵を描いてもらいました、というか絵が先にできていてそれに合わせて小説書いたから変な感じになったのかなぁ(´・ω・`コンカイノネタ?ソンナモノナイヨ


【 お題当てクイズ回答 】
浜村渚の計算ノート・・・・じゃなかったらざんねーーーん!


べ、べつに好きで書いてるわけじゃないんだからね!  氷桜夕雅
http://maid3a.blog.shinobi.jp/

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