Mistery Circle

2017-11

《 X'mas GIFTBOX 2013 》 - 2012.07.07 Sat

《 X'mas GIFTBOX 2013 》

 著者:すずはらなずな








1.クリスマスキャロル

「サンタさんって、ほんもの?」

店頭販売のケーキの箱の山の向こうから可愛い声がした。ひょっこり頭を覗かせたのは6、7歳位の女の子。
ニットの帽子は被っているものの、パジャマのような服にキルティングの上着、足元も何だか寒そうだ。
塔子はどう答えたものか解らない。愛想笑いを返しただけで、用もないのにケーキの箱を何度も並べ直す。
ぱらぱら来るお客の相手をしていても、女の子は気にせず話しかけてくる。
「いいな、ケーキ屋さん。私もケーキ屋さんになりたかったな」
何も好きでサンタのなりをして、クリスマスケーキ売ってるわけじゃない…塔子は思う。
あいつに24、25日って暇?って聞かれて、変な期待をしたのが間違いの元、しっかりバイトを押し付けられた。
クリスマスケーキ売りに、25歳過ぎたお姉さんねぇ、店長は塔子を見て今時流行らない嫌味を言い、まぁサンタらしくしてよと、にやにや笑って真っ赤な衣装を手渡した。

女の子は返事もしない塔子に向かって話し続ける。
「あのね、私ツリー見に行くの。公園に大きな木があって、すごく奇麗 なんだって。きっと見に行こうねって約束したの」
─その格好じゃ寒いんじゃない?風邪ひいちゃうよ。誰かと一緒じゃないの?
以前の塔子なら絶対しゃがんで、そう話しかけたはずだ。女の子の服装、色の白さ。思い出すのは、この間辞めてきた職場。
担当した小児病棟の子供たちも 大きくなったらなりたいものを色々言った。お店屋さんが多かったな。好きなものに囲まれて仕事したいなんて、子供らしい発想。
私はいつからこんな風になったんだろう。忙しさにまぎれて、何を忘れてしまったんだろう。こんなことするために、看護学校を卒業したんだろうか。

「じゃあ、もう行くね、サンタさん」女の子がにこっと笑って塔子を見、手を振る。
駆けていく後姿がだんだん遠くなる。ぼんやり見送る塔子の心がざわめきだした。やっぱり放ってはおけない気がした。
「ゴメン、すぐ戻るから」
他のバイトの子に声をかけ、塔子は女の子の後を追う。付けひげを取り、邪魔な帽子を外す。
あの子の様子、まるで…そう、小児病棟を抜け出してきた患者さん。ううん、そうでなくても、あんな小さな子が一人、こんな時間にウロウロしてるなんて大変だ。

サンタの服が目立って、酔っ払いが声をかける。ボタンを外すのももどかしい。上着を脱ぎながら早足になる。
─私が小さい頃なりたかったものは…なりたかったものは…
息が白い、雪になりそうだ。思い出しそうな何か、心に引っかかってる何か。久しぶりのこの町、公園の向こうのあの病院、私知ってる。
ずっと若い頃…看護実習に行ったところだ。
ジーンズの上からはいているブカブカの赤いズボンが邪魔で走れない。仕方なく立ち止まり道の隅で剥ぎ取るようにズボンを脱ぐ。
─あの時 病室の窓の外、大きな木を見ていた女の子に、実習生の私は何を話したんだっけ。何を約束したんだっけ。

あの角を曲がると、公園の入り口だ。人ごみの間を縫い、少女の姿を探す。
あの子はあの時の子じゃない、あの子なら今もっとずっと大きいはずだ。
後悔や思い出や、忘れたふりをして、感じないふりをして、気付かないふりをしていたことが溢れてきただけだ。
私は今どうかしてる。クリスマスのせいだ。

息を切らして公園の前に立ちすくむ。いきなり眩しい輝きが迫ってきて目を見張る。
きらめく電飾。光の渦。

公園の大きな木は、目もくらみそうなクリスマスツリー。光の波が押し寄せてくる。クリスマスキャロルが何処からか聞こえる。
塔子は立ちすくみ、ツリーを見上げる。ほぅと息をついて目を閉じた。

息を整え、そっと目を開けると、人ごみの中に「やっと、一緒に見られたね」と微笑むあの時の少女の姿を、塔子は一瞬 見たような気がした。





2.リボン結んで

「お疲れっ」

屈託ない笑顔と湯気立ち上る肉まん。従業員出入口から外に出たら待っているのはいつもタイミング良く「欲しいもの」。
「わぁ、温かい物欲しかったんだ。お腹、ずっと鳴りっぱなし」
「でしょ、でしょ」
大学の「B級グルメサークル」の後輩の一志がこうして菜穂の所へやってくるようになって もう2年近くなる。
特に都合を聞くでもなく 約束をするでもない。シフト勤務を終え何か食べて帰りたいなと思う時、一志はいつもいいタイミングでそこにいた。
今年一志はディスプレイの会社に入った。菜穂子の勤務するデパートが閉店した後に、ショーウィンドウの飾りつけの作業などをする。
すれ違いの仕事になってしまったけれどそれでも今日のように、何か美味しいちょっとしたものを持って、やっぱり一志はそこに立っている。
      
「今年のクリスマスプレゼントは餃子100個で決まりだね」
街路樹には電飾が輝き、ショーウィンドゥには高価なドレスやコート、「プレゼント最適品」が飾られ、リースやモールでクリスマスムードを盛り上げている。
確かにこの前一緒に見たポスターの、あの一口餃子は旨そうだった。
100個、と言った記憶はないが、これならいっぱい食べられそうだな、食べたいなぁ…と あのとき菜穂はそう言った。

─でも…なんでクリスマスプレゼントが餃子なんだ?
この いつも元気な後輩とのことも よくよく考えたら食べ物でしか繋がってない気がする。
菜穂は肉まんに嬉しそうにかぶりつく一志の横顔をチラリ、見る。
─そりゃ、一緒に食べたものはどれも美味しかった。小汚い裏通りのラーメン屋さんのニンニクたっぷりのラーメン、意外に上品な味のモツなべ。
地下足袋のおじさんに混ざって食べた一品料理屋さん、豪快なおばちゃんがやっている焼肉屋さん。
どの思い出も お洒落なデートには程遠いけれど、美味しいものを食べているときの幸せそうな一志の顔を見ながら食べるのは、菜穂の楽しみでもあった。


「吉岡さん、クリスマスイヴって、予定あるよね」
おずおずと聞いてきたのは職場の森野さん。優しくて真面目でよく相談にも乗ってくれて色々助けてくれる。誰からもいい人だと言われる、そんな先輩だ。
「よかったら、なんだけど…ディナークルーズなんて興味ないかなと思って。確か僕と同じシフトだったから。でも、早番で上がるのってやっぱり無理かな?」
『ディナークルーズ』、リッチでキラキラしたその語感。頭の中の天秤の餃子の皿がピコンと跳ね上がる。
クリスマスが忙しいとは言っても、全部のフロアではない。残業、応援、拝み倒されての交代…クリアする項目を頭の中で考える。
「え、予定あるといえば…あるような…」
一志の笑顔が餃子に加担して、天秤はまたゆらりと戻る。
「2、3日中に返事欲しいな。」
森野先輩はそう言って、そそくさと仕事に戻る。
バレンタインに課の女子皆で渡した義理チョコのお返しが、菜穂のだけリボンのかかった洒落たラッピングだったことは後から知った。



目の前にニュっとつきだされた棒付き飴。従業員出入り口で一志はニコニコして待っていた。
「プリン味、菜穂さん大好きでしょ?」
そう 色々悩んだり身体が疲れたときは甘いもの。プリン味のこの飴大好きだ。
何だか読まれている気がして 菜穂は一志をまじまじと見つめる。
「あのさ、イヴなんだけど」
一息ついて菜穂が切り出す。
「あ、オレ仕事入っちゃって。でも心配しなくてもいいよ、餃子は必ず届けるから」
頭の中でお洒落なリボンがヒラヒラ舞いながら空の彼方へ遠ざかる。
「私さ、先輩にディナークルーズ誘われてるんだよね」
「ふーん」
一志は棒付き飴をくわえたまま 黙って菜穂を横目で見る。からかうようにも責めるようにも見える目つきに菜穂はちょっとイラっときた。
「そういうロマンチックな話とかさ、私だって憧れたりもするんだから。クリスマスにお洒落な所に連れて行ってもらうなんて、そんな事だって、たまには私だって期待とかも、するし…」
一志が吃驚した顔で菜穂を見つめる。まだ表情がふざけている 。
「何そのディナーナントカっていうの?そいつと菜穂さんは行きたいわけ?」
「そいつなんて言わなくてもいいじゃない、先輩のこと何にも知らないくせに。プレゼントにリボンかけて素敵にラッピングして…そういう気持ちって何だかすごく嬉しい時ってあるんだから。」
舐め切れていない大好きなプリン味の棒付き飴、口の中にもまだ味が広がってるっていうのに一体私は何を言ってるんだろう。そう思いながらも、菜穂の口から一志を責めるような言葉ばかりが続けて出て来る。
「…センスのいい気遣いとかそういうので、大切に思われてるって感じて、感激したりもするんだから」

何の反論もフォローもしない一志に拍子抜けする。だけどいきなりまくし立てられても怒って帰ってしまわないことにちょっとほっとした。
ぎこちない会話をぽつりぽつりしながらイルミネーションの輝く街並みを少し離れて二人歩いた。自己嫌悪で何だか泣きそうだ。
「今日はオレ、ここで仕事だから」
その日はお茶を飲むでも無く、一志の仕事場のファッションビルの前で別れた。プリン味の飴がこんなに不味く感じたのは初めてだった。
一志は それから2日間連絡して来なかった。




先輩にも返事をしないまま2日が過ぎた。クリスマス商戦で仕事は忙しく、忙しくしている方が何にも考えなくて良くて楽な気がした。
へとへとに疲れて足は棒。声が枯れて肌もかさかさ。外に出ると北風が冷たくて震え上がった。
マフラーを二重に巻きつけて俯きがちに歩き出すと、見慣れたスニーカーが行く手を遮った。
「欲しかったらあげる。菜穂さんの好きなシナモン入り。」
コーヒーショップのロゴの入ったカップにはココアが入っている。黙ったまま受け取る。カップに触れた指先から、身体全体にじわじわ温かさが広がってくる。
一口啜って、ああ、今これが飲みたかったんだ…菜穂は心からそう思う。
「それと、これ」
餃子屋のマークの入った紙袋を一志がぬっと差し出した。
「クリスマスにはまだ早いから、プレゼントとかそういうのじゃなく。家帰って食べて。あ、100個はないけどね」
両手でココアを持ったまま手を出さない菜穂に、紙袋を押し付けるように渡す。
「すげー嬉しそうな顔するんだよな、食い物の話する時の菜穂さんって」
「…」
「だからついつい、そういうのしかオレ、考え浮かばなくて。あ、これ」
ポケットをごそごそして一志が出してきたのは よれて草臥れた銀色のリボン。
「洒落で餃子の箱に結ぼうかなんて思ったんだけどさ、上手く出来なくて。ごめん」

菜穂は一志の持つ銀色のリボンにそっと手を伸ばす。
「あ、待って。こっちの手」
一志は菜穂の左手を取ると、薬指にくるっとリボンを巻きつけ、きゅっと蝶結びにした。
「この前の仕事先で、菜穂さんに似合いそうなの見つけてさ。こういうのって内緒で用意した方がいいんだろうけど、サイズとか全然解らないし」
自分の指を眺めながら、一志の言う意味がぼんやり解るのに少し時間が要った。
「ロマンチックとかも、あんまり良く解んないし…」
指のリボンを黙って見ていると一志が慌てて付け足した。
「ああ、このリボンをってのじゃなくて、あ、でも箱にリボンもかけてさ、ちゃんとクリスマスプレゼントはしたいから」
一志の言葉がしどろもどろで何だか可笑しくて、でも伝わる気持ちが嬉しくて、ものすごく嬉しくて、巻いたリボンの先がひらひら小刻みに震えた。
一志は菜穂の指から輪にしたままのリボンをそっと抜くと
「ええと…だから、あのナントカクルーズは…」
「うん。仕事があるなら少しの時間でもいいよ。イヴは一志と一緒にいる」
本当は銀色のリボンの指輪でも充分だった。ほかほか温かいのはココアのせいだけじゃない。


イブの夜も結局お互いに仕事で、やっと会えたのは夜中近かった。
「菜穂さんに見て欲しいんだ」
一志が飾ったファッションビルのエントランス。吹き抜けの天井まで伸びた真っ白なクリスマスツリーは閉店後の暗がりの中、ぽぉっと光って見える。
「菜穂さんにスペシャルプレゼントだよ。」
一志が電源をONにすると、ミラーボールの光がキラキラ雪のように舞う。ブルーのライトに照らされたツリー、飾りはあの時菜穂の指に結んだのと同じ銀色のリボンだ。
その下で一志はリボンをかけた小箱を照れくさそうに差し出した。



「緊張解けたら何か食べたくなっちゃった。菜穂さん何食べたい?」
空調は切っていてもビルの中はまだ暖かかった。外に出た途端、ビルの隙間から冷たい風が吹き付ける。
そうだなぁ…まだ 夢見ごこちの顔で菜穂は考える。
「うーん 美味しい屋台のおでんかな?素晴らしいクリスマスのディスプレイに乾杯!といきますか」
一志、凄い、凄いよ、っていっぱいいっぱい褒めたかった。一志と一緒にいられて本当に良かった。本当に良かったよ、って告げたかった。
泣きそうな顔が照れくさくって菜穂は先に走り出す。一志が慌てて後を追ってきた。
「菜穂さん、おでんって。それってさ、ロマンチックなの?」

立ち止まって振り向くと、すぐ後ろに一志が立っていた。思ってたよりがっちりした大きな身体。背だってこんなに高かったんだ。
菜穂子は一志の胸にコツンと頭をひっつけて答える。

「ロマンチックだよ。すごく、ね」





3.Merry X'masを そこで 言う


トキ婆が起きない。

お腹すいたぞトキ婆、ぺろり舐めた頬は酷く冷たかった。
布団に潜り込んで寄り添ってみたがトキ婆はますます冷たくなっていく。

電話が鳴った。電話だぞ、にゃあにゃあ鳴いて騒いだら隣の住人がやっと来た。玄関をガタガタ揺らして声を掛けてくる。
オレがいつも出入りするために縁側の引き戸の鍵は普通に開いている。息子の誠が、来る度に不用心だと文句を言っていた。
引き戸を開けて出て行ってやったら、気が付いて隣の住人がついて来た。人間が声を掛けても、揺すってもトキ婆はやっぱり起きなかった。
箪笥の上、「ゆき」はいつも通り座っている。朝の光を受けて、ゆきの眼尻がキラリと光ったような気がした。

それから後は、知らない人間がばたばた行き来して、トキ婆は寝たままどこかに連れて行かれた。
それっきり。




「家ではもうお通夜もお葬式もしない世の中なのかしらね。母さんの思い出の詰まった場所なのに」
しんと静まった部屋で、ゆきが何だか不満そうに言う。数日の間、トキ婆の息子の誠と嫁が出入りして必要なものを探したり、あちこち電話連絡をしたりしていた。
どうやらどこかで通夜だの葬式だのも済ませ トキ婆はもうここへは帰ってこないらしい。
「父さんの時はここに白黒の幕張って、沢山の親戚が来たのにね。田山のおじさんとか静江おばさんとかカヨ子さんとか…」
「沢山の親戚って、そんなのトキ婆より年寄りなんじゃねぇの?来ようにも来れないさ」
─ああ、もう誰もいないのかしらね。
ぐずぐずゆきは言い続ける。この数日は押し黙ったままひとっことも言わなかったくせに。
トキ婆は死んだんだ。オレだって理解はしている。死ぬってことはもうどこにもいないことだ。
本当は誰も何者も代わりになんかならないはずだ。
母親も一緒に生まれた兄弟も後で庭にやってきたノラ猫も、一匹一匹先に逝った。トキ婆は冷たくなった身体を抱いて擦って、毎回泣いて、そして庭に埋めた。
オレは確かに沈んだトキ婆の慰めにはなったはずだけど、だからって母親や兄弟猫の代わりに大事にされたなんて思わない。
「ゆき」。コイツは自分のことをどんな風に思ってきたんだろう、文句ばかり言い続ける日本人形をオレは横目で窺い見た。



「クリスマスイヴに遺品整理とはな」
今日は誠と嫁が来ている。以前は付いて来た孫たちもこのところずっと見ない。誠と嫁が来るのだってあの日もかなり久しぶりだった。
「そんなに物、多くないね。お義母さん綺麗に片付けてる」
ほこりよけにマスクをしながら部屋をざっと見渡して嫁が言う。子供を連れて来た時もすぐに手を洗えとか消毒しろとか騒ぐ。何だか神経質で嫌なヤツだ。
おまけに自分も子供たちも猫アレルギーだとか言って寄りつかない理由にし、猫を見るとあからさまに嫌な顔をした。
だからオレもわざとしつこく陰気な声を出したり、遠巻きにじっ見たりして 結構嫌がらせをしてやった。

「お袋、倹約家だったしな。あ、これ」
箪笥の小引き出しの中のお菓子の缶から、誠がくすんだ銀色のメダルを摘み上げる。
「何、それ?」
「子供の頃、山の展望台で買ったヤツだ」
「山の展望台って?」
「近場だし、子供の頃は家族でよく行ったんだ。桜も紅葉も結構奇麗でさ。ちっちゃなケーブルカーと、こーんな低いリフトがあって」
話しているとだんだん鮮明に思い出すようで、誠は手のひらでメダルを弄びながら語り続けた。
「母さんが作る弁当よりさ、オレは売店のもの、食いたかったんだよね。大したものなかったんだけどさ、外食とかあんまりしない家族だったし」
「ふうん」
嫁は気の無い返事をしながら 棚や引き出しの物を次々仕分けしていく。
トキ婆が家の中からどんどん消える。

「お年寄りの家って大抵こういうのがあるよねぇ」
あからさまに迷惑そうな顔をして嫁が指挿したのは箪笥の上のガラス戸の飾り棚。
誰のどこのお土産だか、こけしだのくす玉の飾りものだの、木の実で作った変な顔のサルの置物だのに加え 銀行の名前が入った貯金箱まで並んでいる。
「ざっくり捨ててもいいよね。こけしっていうのも何だか嫌だけど」
「いいよ、気にしてたらきりないし」
ゴミ袋に入っていく人形たちはただのモノなのか、何も言わない。そういえば「ゆき」以外の人形が喋るのは聞いたことがなかった。
「話をしたい、聞きたいと思う相手にはちゃんと伝わるのよ。猫のあんたと母さんだって『話せた』んじゃない?そういうもだわ」
人形相手と猫相手じゃ何だか違う気するが、ゆきは悟りきった顔でそう説明した。そういうものなんだろうか。
こけしと喋りたくなったら、あのこけしの言葉も聞こえてくるのだろうか。松ぼっくりに目玉が付いた変なヤツも実は何か考えているのだろうか。
捨てられていく沢山の「もの」たちが皆嘆いたり叫んだりするのを聞くのは怖い気がしたが それが本当ならこいつらと「ゆき」とを隔てるものも実のところは、ないのかもしれない。


「これって…お人形の手袋?」
様々な「がらくた」を箪笥からゴミ袋に移した後、嫁が赤い毛糸で編んだ物を見つけた。最近までトキ婆が編んでたヤツだ。
目も悪く、指先だって動きにくくなっていたのに、背中を丸めてトキ婆は編物を続けていた。
小さい頃はオレも毛糸玉を転がしたり追いかけたりして よくトキ婆の邪魔をした。
「こらこら、悪ねこめ」窘めながら、それでもトキ婆はオレに向かっていつも笑っていた。

赤い小さな手袋を受け取り、誠は苦い物でも食ったような顔をして黙り込んだ後 ぽそりと言った。
「その日本人形のかな。母さん『ゆき』って呼んでて…」
指さした先にはすました顔のゆきがいる。
「ゆき、って確か…亡くなったお姉さんの名前?」
「小物や飾り作ったり…話しかけたりもしてた。俺なんかは正直気味悪かったし、やめて欲しかったけどさ」
「そうなんだ」
ゆきを見ながらも手を触れようとはせず、斜に眺めるようにして嫁が言う。
「だけどそんな大事なお人形なら…どうする?捨てるって訳にも…」
「じゃ、お前持って帰る?」
「え、それも…」

ふたりが人形供養がどうとか言ってるのを聞きながら、そろりと起き上ったら
「きゃ、嫌だ、黒猫」
嫁が初めてオレに気がついた。





「その運び方、何とかならない?着物 汚れちゃうじゃない…」
「手袋、嵌めてくれるんならちゃんと嵌めて欲しいな。脱げそうよ」

ゆきを連れて外に出たのはその翌日。このままだとオレは保健所、ゆきは人形供養が関の山だ。
そう思ったらのんびりあの家で寝起きする気になれなかった。
「るさい、人形のくせに。歩けないなら黙ってな」
「失礼ね、わたし、ただの人形じゃないわ」
「人形だろうが」
知っている。誠や嫁がどう思おうと、トキ婆にとってこいつは全然「ただの人形」じゃなかった。
「どこ行くの?」
「展望台」
「母さんの思い出の場所?」
そう、オレの親が拾われた場所でもある。
「ノラ暮らしなんてあんたにできるの?」
さあ、どうだろう。簡単にギブアップかもな。
「汚いところは嫌よ。濡れるのも勘弁してよ」
「解ってる」
とりあえず、その展望台に行く。辿り着いたら、コイツとトキ婆とトキ婆の大事にしてた全ての思い出に「メリークリスマス」を言う。
その後はまだ考えていない。



赤い手袋をした日本人形をくわえて歩く、奇妙な黒猫を見かけたら
どうぞ そっとしておいて欲しい。





4.そして今年のクリスマス。(あとがき&ひとりごと)

何だかたどたどしい話と甘ったるくて胃もたれしそうな話と 字数制限で四苦八苦して作った話をちょっと弄って無理やり送り付けてしまいました。
自作の文章をひとりでごそごそ書いてはネットの絵日記として人前に出すようになった、ずっと以前の2編、
そしてサークルが休止していた期間に別の場所でお題を頂いて800字で無理やりまとめた短編。
表現を手直しし、エピソードを増やし、物語を膨らまして書こうと思ったのですが、
先の2作は行間を詰めたりカタカナを漢字にしたりしたくらいで結局内容はほぼそのままです。

甘甘すぎる台詞や文は は気恥ずかしさに幾分固めに変えてみたりしています。ざっくり切ってしまった台詞もあります。
何年かするうちに自分の中で甘さを求める気持ちが失せたのかもしれません。
実際最近、ネット上の読書感想会で巷で人気の作家さんによる甘甘恋愛小説を「全然ダメでした、私」と書いたところでもあります。

アイドルでも2次元でもいい、「恋」をしないと老けこむよ、なんていう話を友達がします。
うーん、そうだねぇ。ベタ甘は無理でも恋愛物を書くのを来年の課題にしようかな、なんて思ってみたり(期待しないで下さい)

あたしはずっと何を書いてきたんだろう。何が書きたくてやってきたんだろう。
自信を持って、この3作を読んでくださいとは言えない。でも、古いものは古いだけに長い付き合いの相手のような捨てがたい感情(感傷)があるものですね。
ほんとうは新作を添えて4編で「ギフトBOX」にしたかった。
もうネタが枯渇したとは思いたくないけど、今は何にも出てこない。残念ですが、もし出てきたら次のクリスマスまで温めることにしよう、と思います。

皆様 よいクリスマスを。
今年もお付き合い有難うございました。



STAND BY ME  すずはらなずな
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