Mistery Circle

2017-05

《 M@STERPIECE 》 - 2012.07.09 Mon

《 M@STERPIECE 》

 著者:知








「言ってくれ。その古い決まり文句だけで俺は数ヵ月は生きられるから」
 仕事に忙殺された俺は目の前にいる女性に思わずそう叫んでいた。
「はい、マスター。『GIGO……garbage in, garbage out』……至極当然の事ですが、ごみを入れると出てくるのはごみでしかありません」
 俺の事をマスターと呼ぶ女性――名前を未幸(みこ)という――は冷静にそう返した。
「そうだよな。『garbage in, gospel out』なんてことはありえないよな……こんなごみなデータばかり寄越しやがって……ただでさえ忙しいのに、余計な手間をかけさせるな!」
 溜まっているストレスを発散させるかのように俺は再び叫び、
「……マスター。少しは落ち着きましたか?」
 未幸はそんな俺に動じることなく冷静にそう言った。
「ああ……少し休憩するか。こんなごみ、送り返してやる」
「ですが、マスター。私を使えばごみから福音を……」
「いや、そんな事しなくていい。君はそんな事するために生まれたわけではないのだから」
「……分かりました、マスター。では、コーヒーを入れてきます」
 未幸はそう言うと一礼をし部屋から出て行った。
 今の生活は未幸によって幸せなのだろうか、ふとそんな事を考えてしまうことがある。
『幸』という字は手枷を指す。未だ束縛がない。つまり、捕まることはない自由な生き方をして欲しいという意味を込め俺が名付けたのだが
「未だ幸あらず……になってそうな気がするな」
 未幸にそんな事を言うと冷静に否定するだろう。他人が置かれている状況が幸か不幸かはその人にしか分からない。
 本格的に疲れているようだ。考えても結論の出ないことを考えてしまう。

 彼女――未幸は人工生命体だ。
 科学と魔法の技術を駆使し偶然に生まれたのだ。
 そう、彼女を俺が作れたのは偶然でしかない。どうやって彼女を作ったのか全く思い出せないのだ。
 いや、正確には記録の通りに記憶通りにもう一度作っても彼女と同じような人工生命体はできなかった。
 人工生命体はできたが彼女と比べると色々な意味で質が悪いものしかできなかった。
 他の研究者と彼女について調べると彼女のような人工生命体を複製できるかもしない。けれど、俺はそんな事をする気は全くなく、寧ろ彼女が人工生命体だと誰にも言っていない。
 そう、彼女は人工生命体の研究者ですら人間と間違えるほどに人間に近いのだ。

 そんな彼女も最初からそうではなかった。
 様々な事を学ばせた。
 彼女に感情が芽生えた事がわかると、世界の綺麗な所だけではなく汚い所――犯罪や政治なども学ばせた。
 心を持った人と意思疎通ができる生命体が人間と社会の現実を知ってどういう反応を示すのか興味があったからだ。
 けれど、彼女には何も変化がなかった。
 いや、変化はあった。
 数ヶ月、彼女は与えられた情報を自分なりに消化するのに費やし、その後の彼女は人間と何ら変わらない反応、感情を示すようになった。
 他の人工生命体の研究者と会わせても彼女が人工生命体だと見抜く人は誰もいなかった。
 俺の前では人工生命体っぽく振る舞い、他の人がいると人間っぽく振る舞うようになった。
 何故、俺の前では人工生命体っぽく振る舞うのか、理由は分からない。おそらく、俺が尋ねたら彼女は何のためらいもなく答えてくれるだろう。
 でも、だからこそ、俺は彼女にそんな事を尋ねる事はできなかった。
 そう、俺は彼女を人工生命体ではなく、一人の人間として扱っている。だから、そんな事を尋ねる事はできないのだ。
 例え彼女は俺に人工生命体と扱って欲しいと思っていたとしても、だ。
「マスター、コーヒーが入りました」
「ういー」
 そんなことを考えていたら未幸がコーヒーを持ってきていたのに声をかけられて気づいたためか、気の抜けた返事をしてしまった。
「……マスター、又、休憩とか言いながら考え事してたのですか」
 そんな俺を見て呆れた口調で未幸が言った。
「……もう、100年以上続く癖だからな」
 人間の寿命は数百年前と比べて格段と長くなった。
 いや、長くなったというのは語弊がある。体のあらゆる部分を交換(移植)することで理論上、人間は永遠に生きることができるようになったからだ。
 かなりのコストがかかるため選ばれた一部の人間しか交換し続ける事はできないが、ある条件を満たした人は最低体の全部分を一回は交換することができる。
 その条件とは『親になる資格を有している夫婦から生まれたこと』だ。
 これは寿命が延びたことで人口が大幅に増えることを防ぐためだ。
 親になる資格を有している夫婦から生まれた子供は『P子』と呼ばれ、他にも様々な優遇措置がある。
『P子』でなくても優秀であれば様々な優遇措置を得ることができ、『P子』は優秀であることを求められるためかなりの重圧がかかることを考えるとどちらが幸福はわからない。
「マスターの場合、千年生きてもその癖は治りそうにないですね」
「……否定できないな」
『P子』として生まれた人の中でほんの一握りではあるが本人が望むまで生き続ける事ができる資格を有することができる。俺もその一人なのだが
「まぁ、千年も生きるより前に生き疲れて権利を放棄するだろうけどな」
 先のことはわからないがその資格を得た人の全員がその資格を放棄している。俺もご多分に漏れずそうするだろう、それが何時になるのかはわからないが。
 そう、俺は死ぬことができるからいいのだ。
「……さて、再開するか」
 軽く冷めたコーヒーを一気に飲み干しそう未幸に声をかけ
「Yes.マスター」
 未幸もいつもの調子で俺にそう返した。


「マスター、どうですか?」
 俺が手を休めたのを確認すると未幸がそう尋ねてきた。
「……又。まだ何も分かっていない事が明らかになったよ」
「そうですか」
 未幸は俺の返答に対し素っ気なくそう返したがどこか落胆の色が浮かんでいるのは気のせいではないだろう。
「正直、未幸の体の謎を完全に解明できる日がくるのか、疑問だよ」
 俺の弱気な言葉を聞き、未幸は眉をひそめながら
「マスターの弱気な発言は珍しいですね」
 と、驚いたという口調でそう言った。
「神……星や星に住む生命体を創った神が本当に存在するのかわからない。けれど、人は神の領域に近づいたと思っている人は多いだろうし、俺もそう思っていた。未幸が生まれてくるまでは、な。調べれば調べる程、新たな謎が発生する。未幸は神の領域まで達した人への神からの挑戦状、当初俺はそう思っていた」
「…今は違うのですか?」
「ああ。全く根拠はないのだけれど、未幸を俺が――人間がそう育てるか、どう扱うかを試している、そんな気がするんだ」
「……試している、ですか」
「全く根拠がなく、証明どころか疎明すらできないけれどな……っと、未幸、新しい薬は完成したか?」
 雑談を切り上げ、未幸にそう聞くと
「はい。完成しました。効能も問題なしです」
「……しかし、病気も毒を作り出しそれを元に薬を作ることができる性能、色々な意味で反則だよな」
 未幸の返答を聞き思わずそんな言葉を口から発した。
 俺の考えが正しいのなら俺のような『死ぬことがないように様々な処置を受けている人間』を殺す病気や毒もその気になれば作ることができるはず。
「この性能がどういう原理で働いているのか分からないのですが……」
「色々、謎だよな。まぁ、人も自分の体のことがわかるようになるまでかなりの年月が必要だったしな。そういうものなのかもしれないな」
「私の場合は、私一人しかサンプルがありませんしね」
「互いに時間だけはほ無限にあるのだからその内にわかるさ」


「……夢、ですか」
 懐かしい夢を見た。もう、どれぐらい前の事になるのでしょう。
「……どうして、マスターの夢を見たのでしょうか」
 思わず疑問を口に出してしまいました。
 私は生まれてから現在までのあらゆる事を記憶してる。マスター視点の記憶は後に私の役に立つかもしれないからとマスターが私の脳に刻み込んだ記憶。世界が私一人になったときよくその記憶を引き出していたのも懐かしい話。
 記憶している、と言っても全ての事が同価値で記憶されているわけではありません。必要な記憶はすぐに思い出せるようになっています。その必要不必要は寝ている間に更新され、私はその作業中に夢を見ます。必要になった記憶に関する夢を。
 マスター視点の記憶は今まで不必要なもの。ならば、今後、必要になる事態が迫っているということなのでしょうか。
「ただいま」
 そんな事を考えていると騎士様が帰ってきたようです。
「お帰りなさい。流石に復活に時間がかかったみたいですね」
 出迎え騎士様にそう声をかけると、
「……何年経ちました?」
 騎士様がそう尋ねてきたので、少し考えてから
「二、三年程でしょうか。流石に灰になってからの復活はまだ時間がかかるみたいですね」
 と、返しました。
「いや、あそこまで徹底的に死体処理されるとは思わなかったよ」
 ため息混じりに言う騎士様を見て、思わず微笑が浮かんだ。
 騎士様が仮初の不老不死になってから五百年近く経った今でも騎士様は出会った当初とあまり変わらない。
 その事が私を安心……
 そこまで考えて、私がマスター視点の記憶を夢に見た理由がふと頭に浮かびました。
「……巫女様?」
 そんな私の変化を敏感に感じ取ったのか、騎士様が私に話しかけてきた。
「本来ならもう少し、そうね、百年ぐらい前に尋ねるべきだった事かも知れない……騎士様、仮初ではなく、本当の不老不死になる覚悟はありますか?」
「本当の不老不死、ですか?」
「ええ、私が解除することのできない本当の不老不死に。簡単に言えば私と同じような存在になる覚悟はありますか、ということです。勿論、すぐに返事を求める気はありません。ですが、今後はその事を念頭に入れて欲しいのです」
「どうして、今、そのようなことを?」
 騎士様の疑問は尤もなもの、
「今まで騎士様のように私についていきたいという人はいました。ですが、その全員が二、三百年ぐらいで不老不死の解除を望みました。理由は様々ですが、中には『ごめんなさい。心をなくしちゃって……』と、無表情でその理由を言った人もいました。
 何百年も生きるということだけで人にとって辛いもの、騎士様もそうなると思っていましたが。五百年経っても騎士様は全く変わらない。ならば、本当の不老不死になって私とともに歩んで欲しいと思ったのです」
 だから、私は思っていることを素直に答えました。
「俺が本当の不老不死になることでこの世界にいい影響を及ぼすのか?」
 騎士様は少し考えた後、そう尋ねてきました。
「例えば、二つの勢力が争い私たちが介入しないといけない事態になりました。しかし、その両勢力のどちらが悪いわけではなく、どちらの言い分も納得ができます。
 このような場合、今までは私の考えで私が味方につく勢力を判断し、その勢力が勝利をしてきました。ですが私の考えが絶対的に正しいわけではありません。私の判断が正しかったのか後になってもわからないままの事も多々あります。その度に思うのです、私と同じような立場の人がいれば、と」
「俺にそうなって欲しいと?」
「はい。騎士様の考えで判断して欲しいのです。その結果が私の判断と違って構いません」
「俺と巫女様が争う可能性がないか? 別々の勢力につくことになって」
「いえ、寧ろそれは歓迎です」
「……そうなのか?」
「今は納得できないかもしれませんが、その内に納得できるようになりますよ」
 納得ができないという感じの騎士様の様子をみて、微笑を浮かべながらそう返した。
「……返事はどれくらいまでに出せばいいんだ?」
「そうですね、遅くても二百年後までには。そのとき、もし、騎士様が本当の不老不死になると判断したならお互いに名前を交換しましょうか。まぁ、騎士様にとってあまり変化はないかもしれませんが」
「……ん? それはどういう?」
「さて、そろそろ行きましょうか」
 頭に疑問符が沢山浮かんでいるような様子の騎士様を横目に私はそういうと旅立つ準備に取り掛かった。
 騎士様がどういう判断をするかはわからない。けれど、どういう判断をしようと笑顔でそれを受け入れよう。私はそう誓った。





《 M@STERPIECE 了 》





【 あとがき 】
 当初の予定の半分ぐらいの長さになっています。
 時間がなく結構話を削ったのでわかり辛い作品になっているかも。
 同じ設定の話をもう一回書くかこの話の加筆をするかをしたい、とか考えている。

 省略したせいでなぜこのタイトルかわからないかも


【 その他私信 】
 流石に午前4時まで仕事でそのまま直で10時の新幹線に乗り約4時間40分のライブに参加。
 そして、翌日の午前7時に新幹線に乗り帰宅。その5時間後に会社に行く、という強行日程はきつかった。
 十二分にその価値があったライブだったけれどね。


忘れられた丘  矢口みつる(知)
http://wasureraretaoka.blog86.fc2.com/


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