Mistery Circle

2017-09

《 魔法少女は振り向かない・DAYS 》 - 2012.07.09 Mon

《 魔法少女は振り向かない・DAYS 》

 著者:ココット固いの助








それでもやっぱり魔法は使えない…念のため。




けっして感じた事のない寒い夜。

昔いた事があると思っているどこか。

冬と呼ばれるこの世界の寒さにも幾分は慣れた。

初めて経験した冬はこの世の終わりを思わせた。

今は知らない町を歩いていても不思議と初めてじゃないような気がする。

それだけ時間も経ったのだろう。

そうして春という季節が訪れた。今日は高校の入学式。

新しい学校の正門をくぐり僕は新しい生活を始める。

「大丈夫僕はどこから見ても普通。普通の何の取り柄もない高校生だ」

そう自分に言い聞かせた。

「違和感炸裂しまくりなんだけど」

私は思う。中学に入学した時もそう感じたのだが、すぐに慣れて忘れてしまいがちだ。

頑張って寝る間も惜しんで勉強して迎えた高校受験の日。


問題用紙を見た私は正直思った。

「なめてんのか?」

そう思えるくらいテストの問題はばか簡単で…正直拍子抜けした。

「まあ進学校と言っても所詮は公立高校。大体うちらの進路なんて中学の成績で決まってんのよ。余程ヒドイ点数とったり面接でやらかさない限りはね~」

別の高校を受験したクラスメートが話していた。

「バイクや車の免許だって教習じゃクソ難しい「何これ?意味わかんねえし!?日本語かよ!?」と思ったけど本番は簡単だったしねえ」

そんな風に頷く姉と兄。

同次元で語られては、たまったもんじゃないが。

冷めた言い方をする訳ではないが。

歴史ある公立の進学校とは言ってもあまり面白味のない古ぼけた建物と窓や机や黒板があるだけ。

それでも私は誇らしい。

かつて誰かが通り過ぎた後の廊下や手垢のついた壁や古い机であっても。ここには私が勝ち取った私の席がある。私の居場所だ。

「世界に蔓延る負の連鎖を断ち切る」

という私の大いなる野望の第一歩を記す場所。

この一歩は私にとっても人類にとっても偉大なる…場所になるはずなんだけどね。

私は周囲を見渡して思う。

「みんな変な顔」

中学に入学した時も思った。

誤解してもらっては困るのだが。

私は他人を「ブサイクな連中だ」と見下している訳ではない。

ただ無作為に1つの教室に集められた同い年の子たちは皆が皆異星人のような顔をしているように見えた。

男子はにきび顔で凸凹だし。

女子も優等生が多く髪は、ぱっつんだし市松人形みたい。

魚みたいだったり動物みたいだったり。

こんな感覚私だけだろうか?

多分すぐに慣れて何とも思わなくなる。

この異星に紛れこんだ感覚。

とは言え、この教室のざわめきと好奇な視線の注視の中心が私桐谷夏菜花である事は否定出来ない。

このバンピ-ル・レッドの赤い髪のせいで。

「大丈夫。すぐに色落ちして可愛いピンクになるからね」

ばか魔魅蔚。

娘の門出の日を何だと思ってるの!?

姉きも兄貴もだ。制服にテ-プで貼られた【喧嘩上等】の文字。

剥がすのにどんだけ苦労したか。

でも私は屈しない。

私は負の連鎖を断ち切るのだ。

私の憧れ続けたあの人のように。

「同じ中学だった子はこのクラスにはいないかな」

そう思って周囲を見渡したところ目が合ったクラス・メート達に次々視線を外された。

無理もない。こんななりでは仕方ない。

1人だけ見覚えのある顔を見つけた。

確か3年の時隣のクラスだった高倉とか言う男子だ。

3年の3学期に転校して来た子だ。

話しをした事は一度もない。

中肉中背の草笛でも吹いていそうな、おとなしげな男の子だ。

そういやクラスの一部の女子が「絶妙うけ」だの何だのと騒いでいたっけ。

私は好みじゃないんで気にも止めなかったけど。

姉の魔義華なら守備範囲。

ああ、もういい!!ここではうちの爛れた家族の事は忘れよう。

高倉は私と視線が合うと慌てて目を逸らす。

「私の事完璧に高校デビューのヤンキー化だと思ってるな。後でちょっと、しめ…いや説明しとくか…めんどくさいなあ」

クラスのざわめきは担任らしい名簿を持った若い女性が教室に入って来るまで続いた。

教室の黒板に奇妙な文字が並ぶ。

「辺野古芽良です」

(へんのこめら…変な名前)そう思ったけど、うちの家族の名前を考えたら笑えなかった。

気の毒に…痛親ってのは何処にでもいるものだ。

「みんな静粛に!はいはい、そこの君!よそ見してるとヤオイ穴にずこ-んだよ!!」

教室は水をうったように静まりかえる。

「なんくるないさ~」

「変な子だ」

「変な子だ」

「メンヘラだ」

「おいおい、ここ進学校じゃねえのかよ」

「芽良は芽良でもカウンター・テナ-とか冒険で最初に覚える攻撃魔法とかじゃないさ~沖縄の青い空と海と珊瑚に憧れる2(咳払い)歳です。本名はとっても地味なんで割愛します」

「本名じゃねえのかよ!?」

『教師なら名乗れよ本名』

教室のざわめきが収まらない。

彼女は軽く舌打ちした後低い声で呟いた。

「佐藤加代」

沖縄でもなんでもない。

「佐藤先生質問があります」

誰かが手を挙げたが彼女は返事をしなかった。

「芽良先生」

「はい何ですか~?」

こうも露骨だと逆に清々しい。

「何で先生は名前が2つあるんですか?」

うちの家族も…。

「そうねえ。2つ名は魔族なれば当然…まあ属性って言ったら身もふたもないか。辺野古芽良はネットで反米アジテ-ト小説書いたりネトゲしたり貝殻ビキニの写真ブログに載せたりする時の私で…あ!でも基本私そっちの人だから!仕事だってそのためにやってるようなもんだし~休みの日もお出かけしても気がついたら漫画喫茶のPCの前さ~」

「廃人じゃねえか」

なんか、うちの家族と同じ匂いがするんだけど。

「ああ、でも貝殻ビキニとかリアルでは無理よね。色んな具とかはみ出して…見たい人は会員登録をポチっとね!」

誰か止めさせろ。

「私も皆さんと同じ担任1年生です。本当はこのクラスを受け持つ予定だった宮森先生がご病気で…私が就任5年目にしてようやく念願の担任を受け持つ事となりました」

就任5年目で担任ってどんだけ無能なんだろう。

と言うか標準語!キャラが雑!オキナワ云々はどこ行った?

もはや、突っ込む気にもなれないが。

「…とまあ私の事はさて置き。今から名簿順に名前呼ぶから簡単な自己紹介お願いします」

来た!!私は机の下で拳を握りしめた。

ヤンキーの誤解を解くチャンス到来だ。

ここは、四の五の言い訳するより正直に誠実に行くのが一番だ。こんな感じで軽い笑いも混ぜつつ。

「や~姉が美容師やってるもんで悪ふざけでやられちゃって。私全然そんなヤンキーとかじゃないんで…第一ヤンキーだったらこの学校入れないっす。てかこの学校入ってヤンキーになるっていうのも意味分かんないし~あいつらほんとバカばっかし…」

「桐谷さん」

脳内でシュミレ-ションしてる内に名前を呼ばれ私は慌てて立ち上がる。

「桐谷スカー・レッド・バニシング夏菜花さん」

「はい?」

教室中がどよめいた。

私の名前に変な横文字のミドル・ネ-ムがつけ加えられている。

「あの…私…」

「心配しなくても大丈夫。貴女のマミ-からちゃんと連絡を受けてるから」

あんのババア!!

「マミ-ですって!?」

女子達が黄色い声を上げる。

「彼女の髪の色を見て奇妙に思った人もいると思うけど~彼女はクォーターでハンガリーの貴族の末裔でもあるの」

ヤンキーとヘンメルの間に生まれ父は自動車修理工場経営で母は美容師です。

「小さい頃はこの赤い髪のせいで随分イジメられたとかで、お母様もとても心配なされていて。みんな!桐谷さんは由緒正しい王族の血を引くお嬢さんなの。仲良くしてあげてね」

今の情報の中に私という人間の欠片も存在していない。

「違います…私…日本人」

「そうね。貴女は日本で生まれ日本で育ったのよね」

「スカーレッド・バニシングなんて素敵な名前だと思います」

「私も憧れちゃう」

クラス中に巻き起こる温かい拍手や歓声に私は包まれた。

【バニシング・レッド】っていうのは父と母が初デートの時映画館で観たドルフ・ラングレン主演の暴走カ-アクション映画のタイトルだよ。うちにあるよDVD。

結構タイプだよ私。

ロッキー4のロシアのサイボ-グ・ボクサー…ドラゴ役もやってるよ。どっちかって言えば私はそっちが好みだよ。

第一バニシングなんとかってハンガリー語じゃなくて英語だよ。

いねえよ、こんなシャナ髪の外人。

ゆとり教育とかもう終わったはずだ。

円周率は3じゃなくて3.14だぞ…大丈夫か?お前ら。

「バニシング・レッド…消失の赤色…皆さんにこの言葉の意味が分かるかしら?」

気がついたら私は教壇の上の芽良先生にロックオンされている。

「後は私に任せて」

私に向かって親指をつき出す。

「皆さんは錬金術ってご存知かしら?」

「魔法で金を作る事ですか?」

クラスの誰かが答える。

「その通り!魔法で金を作る…その過程に置いて最も重要なものが試金石。金になる最終段階。賢者の石とも呼ばれる試金石…その試金石こそが赤色。試金石から赤が失われた時黄金の魔法が完成する」

クラス中から感嘆と畏怖の声が漏れる。

「そういう事でいいかしら?桐谷さん」

保健室はどこだ。

「やがて黄金の魔女と呼ばれる少女。今は黙して語らぬか…それもよかろう」

くっくっく…じゃねえよ。

【わが家から逃れても負の連鎖の鎖は容易には断ち切れぬと知るがいい】

魔女の高笑いが聞こえる。

いけない!?私まで毒されてしまいそうだ。

「これからこのクラスで貴女がどんな魔法を見せてくれるのか楽しみにしてるわ」

だから私は魔法少女なんて好きじゃない。

私が本当になりたいのは。

ふと見ると高倉がぽかんと口を空けてこっちを見てる。

そりゃそうだよね。中学の時あんたが見かけた私が本当の私だよ。

ハンガリーの貴族でも王族の末裔でも魔法を継ぐ者でもないよ私。

「さて…皆さんも桐谷さんと同じですよ」

芽良先生はクラスの生徒全員に向かって微笑んだ。

「皆さんも今は試金石です。これから先どんな輝く宝石に姿を変えるか。先生楽しみだな。1年間みんなと一緒に過ごせる事を心から楽しみにしています」

強引にまとめやがった。

「先生もこれからです」

あんたもう羽化してるよ。

「スカーレッドさん!髪綺麗~!?」

「シャンプーとかトリ-トメントよかったら教えて欲しいなあ」

「あの…魔魅蔚ブランド」

「バニシングさんだからバニ-って呼んでいい?」

それじゃウサギだよ。

予想外の大人気。

クラスの女子の集団に囲まれた私。

お友達が沢山出来るのは嬉しいが誰も私を本名で呼んでくれない。

「日本語上手ねハンガリーの言葉以外に喋れるの?」

「ド・ドイツ語を少々(NHKのドイツ語講座で)」

「すごいなあ。外語大なら推薦で入れるよ。」

「さすが帰国子女」

や-私も出来る事ならそんな身分に生まれたかったよ。

て言うか後戻りできね~。

しかし私は意を決して言った。

皆これから1年間を過ごすクラスメートだ。

嘘と誤解で固めた学園生活なんて送りたくない。

「私は桐谷夏菜花。れっきとした日本人。だからこの名前で呼んでくれたら嬉しいな」

しばらくの沈黙の後。

「…そうよね。桐谷さん日本で育ったんだものね」

「この髪の色も好きじゃない。みんなの黒髪の方が余程知的で綺麗だと思う。私黒髪に染めたいと思ってるの」

「桐谷さんそこまで日本を」

「本物の大和撫子だわ」

「なんだか私…感動した」

「私高校入ったら髪染めようと思ってたけど止めようかなあ」

「桐谷さんの黒髪超可愛いだろうな」

な…なんとか一周して日本人に戻れそうな私だ。

「早速ファンクラブ作らなくちゃね」

え…?

「桐谷さんの髪が変わらない前に写真一杯撮ってえ。応援ブログ立ち上げるの」

「ああ、私そういうの得意」

ネットで全世界に社交界デビューだけはカンベンして欲しい。

「ごめん、ちょっといいかな?」

女子の人垣を押し退けるようにして割って入ったのは高倉だった。

「なに…ちょっと」

「なんなのこの人一体!?」

女子たちは目を丸くして高倉の横顔を見つめている。

「中学の時同じ学校だった桐谷さんだよね?僕高倉健汰。話をした事はないけど」

「ああ…うん。知ってるよ。これから同じクラスだね、よろしくね」

私は彼に微笑んだ。

見かけとは違い意外と社交的な性格なのかも知れない。

高倉は私の机に肘をつくと私の耳元で囁いた。

「学校の屋上で待ってる。桐谷さん、君に話があるんだ」

えっと…この状況は確実に誤解されるよ?

いいのかな…そういう事、なのかな。

高校初日に起きたイベントとしては充分刺激的だが。

私は彼の高倉健汰というフルネ-ムが気になって仕方ない。

もしや彼の家庭は私同様変態任侠マニアの集まりでは…とか何とか余計な事を考えてしまう。

ちなみに親父と兄貴は任侠物はよく観てる。

私はこれから先も人生をあまり楽しめない性格なのかも知れない。

「じゃ…そういう事で」

顔をやや紅潮させながら高倉はその場を後にした。

「ちょっと、なんなのあいつ!?桐谷さんにいきなり」

「さすが桐谷さん。告白タイム史上最速更新じゃないの!?」

「いや…けしてそんなんじゃ」

私はわたわたしながらその場を取り繕う。

「あれ?桐谷さんひょっとして告白とか初めて?」

「そんな翡翠の玉座から下民を見下ろすような容姿で」

あ、あたしそんな風に見えてんだ。

「萌えるなあ。そ~ゆう桐谷さんも」

まあヤンキーと思われてないだけおんのじだ。

「あいつ!あんなおとなしそうなつらして、いきなりクイーン狙いかよ」

「油断ならねえ」

「情緒や感情の機微が汲めねえやつは、はよフラれちまうがいいさ」

「まあ待て!どうせ玉砕するなら永く患う事もあるまい。むしろ俺はあいつ男の中の男と見るがね」

なんだか色めきたつ気恥ずかしい空気の中私は教室を出る。

欲を言えば…囁いていなくなるより。

手を強引に引いて連れ出してくれたりすると、きゅんと来るんだけど。

まどかちゃんだってマギカにそうしたんだよ。

確かに高倉健汰の行動に私の胸はざわついていた。

しかしそんな時でも私の胸に赤いマフラーは翻らなかった。

高倉健汰は私のタイプではなかったのだ。

いや、まったく、全然、申し訳ないくらいに。

やっぱりこの状況は告白以外考えられないよなあ。

屋上に向かう3階の階段を登りながら思う。

私は今まで男子に告白された事がない。

私の事を好きだと言う男子の話を小耳に挟んだ事はあるが誰1人告白された事がない。

桐谷家の素性を知って恐れをなしたか。

私が愛想がなくてきつい顔しているせいか理由はわからない。

おそらくその全部が理由かも知れない。

男子に告白されるチャンスなんてこれから先ないのかも。

自分の趣味嗜好に突っ走った挙げ句改造バイクを転がして惚れた男を力ずくで強奪。

そして生まれた子供たちは揃いも揃って…。

ぞくりと背筋が寒くなる。

こ…ここは何としても乙女としての通過儀礼は済ませておくべきではないか。

いや、まてよ…高倉は過去の私を少なからず知っているはずだ。

「桐谷さん君は僕が知っている桐谷さんとは随分違って見えるよ。いや見違えたと言うべきかな」

「いや、これは、ちょっとした手違いで」

「赤い髪に貴族の末裔…魔法使いか。いやいや高校デビューにしたら随分と盛るものだ」

「これには事情が…って何で魔法少女の事まで!?」

「興味があって君の事も君の家族の事も調べさせて貰ったよ…つまり君は後戻り出来ないってわけ」

「私どうすれば…ひっ!どうして、こんなところでズボンなんて下ろすの!?」

「決まってるじゃないか。君魔法少女なんだろ?今ここで僕の魔法のステッキを…」

「はぐう…こんな大きな魔法の杖だめだよう…」

なんて…昨日姉の部屋で読んだ同人誌のコマが脳裏にちらつく。いけない毒が脳に蔓延し始めているようだ。

そんな事をもやもや考えながら3階の屋上に向かう階段を登る。

空気は肌寒いのにあたたかく見える4月の日差しが差し込む階段の踊り場。

その隅っこの影に隠れるようにして変な生き物がいた。

うちの学校の真新しい制服に身を包んだそいつは私に気がつくとこう言ったのだ。

「桐谷さん!来てくれたんだね」

この2頭身の着ぐるみを着てるのは高倉健汰か。

目玉とか触覚とか…びょ~んとしてるとこは正直ちょっとだけ可愛いが。

「僕中学の時転校して来た時から桐谷さんの事がずっと好きでした!!」

着ぐるみ来て告白かよ。

「でも僕は見ての通りこの星の住人ではない。α星系ケンタウルス座にある惑星から来た異星人で…」

なるほど…ケンタウルス座から来たから健汰ね。

なんかフライドチキンみたいでいいじゃないか。

「告白する前に桐谷さんだけには僕の本当の姿を知ってもらいたくて」

私は家でも家の外にいても、こ~ゆう輩を引き寄せてしまう。

そんな星の下に生まれているのかも知れない。

「まあ、いいんじゃないか…君は君の好きにすれば」

私は頭を抱えた。

「え!?オッケーなの!?」

「誰が着ぐるみ来て宇宙人だとかぬかす男とつき合うかって…」

かっとなって顔を上げると目の前から高倉の姿が消えていた。

背後に妙な生き物が張りついていた。

「何してるのかな?高倉君…」

「桐谷さんの同意が得られので早速交尾とか…今好きにしてって」

私の体に眠るヤンキーの血が沸騰する。

怒髪天をつくとはこの事だ。

「て・め・え・・は!!昭和のギャグマンガの主人公みたいな事を告白した直後の女子にしてんじゃねえよ!!」

高倉の腕を掴んで放り投げる。

「ついでに着ぐるみの下から…なんか当たってるんじゃボケが!!」

私におぶさる格好だった高倉(らしき生き物)は宙を舞った。

「しまった」

下は階段。そのまま落下したら着ぐるみに守られているとはいえ無事で済むはずがなかった。

頭がやたら重たい2頭身の高倉は逆さまになってそのまま階段に激突…とはならなかった。

高倉は片手で倒立したままの姿勢で階段から落ちる事なくバランスを保っている。

そして右手をバネにして再び空中に舞うと、あり得ない体さばきで3階の廊下に軟着陸を果たした。

恐るべき身体能力だ高倉健汰。

〇ョッカ-にドラフト会議がなくて本当に残念だ。

「こんな俺どう?」

高倉は階段の下から私を見上げるが私は首を横に振る。

なんて言うか…見た目がダメ過ぎる。

一瞬の間があった。

そして高倉健汰に(おそらく)人生最大のモテ期が訪れようとは、この時誰が予想しただろう。

「きゃあ。ゆるキャラよ!?」

「キモ可愛い!!

「グロいけど触りてえ!!」

「どこの子?どっから来たの!?」

たちまち目敏い女子達の群れに取り囲まれた。

もしも言葉どおり、やつが自分の真の姿を今のそれだと信じて疑いを持たぬならば。

少女たちの言葉は思春期の少年にとって暴力以外の何ものでもない。

「ぶさかわ」

「汁はいて汁!」

目に見えない出刃包丁で八つ裂きだ。

まあ、しかしだ。捨てる神あれば…という事で良かったんじゃないかな、高倉。

あたしに向かって弱々しく手を伸ばした彼に私は言った。

「無理」

「僕は…僕は…」

両手の拳を握りしめた高倉が震えている。

「汁?」

「僕はゆるキャラじゃない!!」

高倉健汰は駆け出した。

そっちかよ!?

後を追うように女子の集団も移動する。

再び静寂が戻る。

「誰だ!」

さっきから屋上の扉の影に隠れてこそこそとこちらの様子を伺ってるやつに私は気がついていた。

宇宙人の仲間かそれともNASAの回し者か。

世の中めんどくさいやつばっかり。

私はこそこそするやつが大嫌いだ。

一度ヤンキーモ-ドに入ると私は歯止めが効かなくなるらしい。

わざとらしく、これ見よがしに魔魅蔚が鞄に忍ばせた魔法のステッキが視界に入る。

それが私の神経をさらに逆撫でした。

せっかくの高校生活第1日目だっていうのに…あんたらのせいで台無し!!

「出て来いって言ってんだ曲者が!!」

私が鞄から引き抜いて投げつけた魔魅蔚のステッキ。

旋回しながら、おそるおそる扉の影から顔をだした芽良先生の顔面に直撃する。

「ぎゃん」

犬みたいな悲鳴を上げて芽良先生は階段を転げ落ちて来た。
私は慌てて彼女に駆け寄る。

「先生!?ごめんなさい」

「な・なんくるないさ~」

まだ言うか。

「ごめんね~覗き見するつもりとか全然なくてさあ~屋上でお弁当食べて帰ろうとしたら、うちのクラスの生徒が嬉し恥ずかし青春イベントの真っ最中だったんで出るに出られなくて」

芽良先生は私の手を借りて起き上がった。

「まだ風も冷たいのに屋上でお弁当って」

「先生職員室に居場所なくてさあ」

直球過ぎるだろ。

「クラスのみんなとは溶けこめそうだけど。職員室の先生方とは何か感性が違うっていうか万里の壁が」

「先生、もういいですから」

米良先生は洋服についた埃を叩きながら言った。

「まあ若い頃ってのは色々悩んで悩んで最悪の選択をしてしまうってのはよくある事でね」

高倉健汰の事?

「告白した勇気だけは認めて上げてよ…あいつ何だっけ?」

名前覚えてねえのかよ。

「私告白する勇気より大切なのはその後だと思うんですけどね」

「桐谷さん?」

「あれ?先生口元に何かついてますよ」

「ああ、お弁当の海ぶどう」

芽良先生は床に転がったままの魔法のステッキを拾って私に手渡した。

「やっぱり貴女は魔法使い?」

先生イノセント過ぎます。

「それ母の違法改造テ-ザ銃です。危険なんでスイッチに触れないで下さいね」

「なんか家庭訪問とか超楽しみ~」

高校はないだろ家庭訪問は。

いや、もしあったら…ほんとカンベンして欲しい。

「姫!姫!」

クラスの女子が階段をかけ上がって来る。

「先ほど廊下を走り抜けたのは姫の使い魔とお見受けしました…姫に言い寄る不埒な男は早々使い魔の餌食に…」

「あんたら何?」

「姫の親衛隊にございます」

いつ出来たんだそんなもん。

「使い魔まで使うとは桐谷夏菜花…なんて恐ろしい子」

あんたは一部始終見てたろ。

「もう、あなたたち、そこどいて下さらない」

私はぷんぷんしながらその場を後にした。

まだ何も書かれていない白紙のノ-ト。

始まったばかりの私の高校生活。

今日の1日を空白の用紙に書くとするならば。

混沌。怒り。誤解。陰謀。負の連鎖…タロットカ-ドじゃあるまいし。これじゃ家にいるのと変わらない。

私屈しないからね。

私は桜の花びらが舞う高校の正門を出て思う。

一言だけ記すとしたら。

生まれて初めて男の人に告白された日。

自称異星人とか着ぐるみとか交尾とかは…省いておこう。

やつが何者かなんてこの際どうでもいい。

美しい思い出だけを記憶に残す事にした。

夕食の席で。

「いや~夏菜花お前1日でクラスしめちまったんだって!?さすが俺の妹だよな」

「姫って呼ばれてるらしいじゃないか」

「なんで兄貴たちがそんな事知ってるのさ」

「さっき担任の先生から電話があったのよ。魔魅蔚すっかり意気投合しちゃった。今度お店にも来てくれるって」

嫌過ぎる拍車が止まらない。

聖域であるはずの学校までもが、どんどん汚染されていく。

「魔魅蔚!夏菜花に赤飯炊いてやりな」

この赤髪のおかげで今日は私お腹いっぱいです。




「授業なんかしてる場合じゃないって先生思ったの」

芽良先生は黒板にチョ-クを置くと物憂げな様子で窓際に立つ。

「今こうしてる間にも沖縄の海は押し寄せる心ない観光客の残したゴミで汚れ。生態系は破壊され。米軍基地の建設で珊瑚は死滅…私こんな所で悠長に授業なんかしてていいのかしら?教科書に書かれた文字をなぞる勉強なんて何の意味もない」

もう沖縄住んだらいいよ、この人。

「先生お願いします。授業を進めてもらえませんか?」

「まったく…師の心生徒知らずとは良く言ったものだ」

あんた今思いのたけを口に出して喋ってるじゃないか。

「先生…授業を」

「夏と言えば海、海と言えば…はい!そこの君答えて!」

「み・水着ですか?」

「その通りだ!!夏と言えば海。海と言えば水着。人がせっかくこうして水着イベントのフラグ立ててやってるのに…それはをなんだあ君たちは!?ぼさっとしやがって!!夏はもうすぐそこまで来てるんだ!!ぼやぼやしてると炎天下の中で寺巡りや四つ足の草食獣と戯れるはめになっちまうんだぜ。お前らそれでもいいのか!?」

修学旅行はまだ先の話だと思うが。

「芽良先生にそんな深いお考えがあったとは!? 」

バカ男子たちがハゼみたいに食いつく。

おうよ。一度しかない夏だ。男子も女子も全員貝殻水着で弾けるがいいさ」

あちこち痛い夏になりそうですね、先生。

「それが青春ってもんさ」

「水着イベントとなると先生は沖縄に親戚とか友人の別荘とかお持ちなんですね?」

「………………」

何故黙る。

「さて授業始めますか」

もしかして沖縄に行った事すらない?

「先生水着イベントは?」

「貝殻水着はあ?」

男子たちから不満の声が上がる。

「ああ大丈夫大丈夫。君らは所詮モブだから、あっても多分参加出来ないから」

ひでえ。

ところで入学式にいきなり私に告白して来た高倉健汰だが。

あの日以来一度も学校に来ていない。

彼の机は3日間ずっと空いたままだ。

というか、あんまり誰も気にしてない様子なのが逆に気になる。

存在感はもともと希薄だけどね。

「このまま来ないパターンかな?」

「告って断られたくらいでか?」

「俺桐谷さんだったら『ダメもとで行ったんだから仕方ないか』って思うけどなあ」

男子たちよ噂話するなら本人のいないとこでお願いしたいものだけど。

「ええっと今配ったプリントは今後の皆の進路に関する重要なものだから。御両親にしっかり読んで頂いて下さいね」

さすが進学校だけあって、まだ1年のうちからこんな進路希望調査とかするんだ。

私はプリントを鞄にしまうと席を立とうとした。

「桐谷さん」

プリントを持った芽良先生に呼び止められた。

「悪いけど帰りにこのプリントを高倉君の家に届けて欲しいんだけど」

「え…私席が隣でもないし。友達って訳でも…」

「調べたら貴女の家のご近所なの、お願い」

そう言った後で目に大量のゴミでも入ったみたいに先生は何度もウインクした。

めんどくさいし気まずい。

私はプリントを預かると教えられた高倉健汰の住所を訪ねる事になった。

確かに彼の家は私の住む町内からさほど離れていない場所にあった。

「なんで私がこんな事しなきゃいけないんだろう」

告白した挙げ句学校ばっくれてるやつの世話なんて。

そう思いつつ渡された地図と住所の紙を手に私は高倉健汰の家を探し歩いた。

結局彼の家にたどり着いた頃には陽が暮れかけていた。

住宅街の塀や電柱の影がのびて夜の暗闇に溶ける。

街灯が自然に灯る。

そんな魔法みたいな光景が子供の頃から好きだった。

しかし今の私は気が重く、さっさとインターホンを押して家族の誰かにプリントを渡し引き上げるつもりでいた。

自分がふってしまった相手に『元気だしなよ』とか『学校出てきなよ』とかわざとらしい口がきけるほど図太い神経はしていない。

第一私はうじうじした男が大嫌いなのだ。

高倉健汰の家は簡素な住宅街の中にあってとりわけ目立つ事もない、所謂普通の一軒家だった。

なんの変てつもない家の家庭で育ち、まったく目立たない容姿の少年高倉健汰。

しかし彼があの時階段で見せた空中でのアクロバッティックな動きは明らかに人間離れしていた。

おそらくは高難度の競技をこなす体操選手でも、あの動きは不可能だろう。

異星人だと言う彼の言葉を私の常識的な脳は着ぐるみという便利なツ-ルを使い一掃した。

当然だ。これから医学の道を志そうという私に地球外生命体の存在など魔女や魔法使い以上に現実感に乏しい。

フィクションの世界の産物を娯楽として楽しむならいざ知らず。己と架空を混同して生きるなど、うちの家族だけで充分だ。

「しかし、あの動き…あれでフォルムがああなら」

胸がとくんと1つだけ鳴る。別に特別な事じゃない。

私は自分の胸にそう言い聞かせる。

町を走るバイクの黒いライダース-ツを見た時だってそうなるからだ。

私は現実と幻想の区別もつかないような盲のような大人にはなりたくない。

インターホンを押しても返事はなかった。

しかし、このいかれたパッチワークみたいに錠前や鍵穴が取り付けられた扉はなんなんだろう。

ヒエログリフみたいな書き文字も存分に怪しい。

真ん中に一際でかい暗証番号を打ち込むセキュリティ装置がある…民家で?

突然扉の上の隙間から触手のような物体が這い出して来た。

私は思わず悲鳴を圧し殺し門柱まで後退る。

「逃げなきゃ」

本能じゃない。視覚的に物理的に見てはいけない、あってはならない物に遭遇してしまった人間の純粋な戸惑いと恐怖に他ならない。

私は一目散にその場を逃げ出す事にした。

動揺しているせいかステンレスの門に背中から激突し手にしていた鞄を地面に落としてしまう。

触手は手探りで数字が羅列した暗証装置を探り当て数字ボタンを4回押した。

外側から解除って…鍵そのものの概念すら間違ってるじゃないか。

「お待ちくだせえお嬢さん」

開いた扉の向こうから低い男の声がした。

「赤い髪…その制服…間違いありやせん。王子のご学友桐谷夏菜花さんとお見受けいたしやした」

扉から顔をだした長身の男は黒いス-ツにサングラス。

どっから見てもスカイネット社製T?〇〇〇のサイボ-グに見えた。

見るからにヤバそうな風体だが、見た目は結構タイプだったりする。

しかし黒服の上にはおってるのは割烹着。

頭には姉さん被り。

やっぱり逃げた方が正解だ。

色んな意味でヤバい。

何をされるか分からない。

触手とか。

「手前…いや私は王子の身の回りの世話をさせて頂いております。マサと呼んで下さい」

日本人でもめったに見かけない綺麗な御辞儀だった。

「お話は王子が中学の時から伺っております。侘しい東屋ですが、どうぞ中へ」

誰が入るか。

「ささ遠慮なさらずに」

「いや、私プリントを届けに来ただけですから」

「王子は二階におりますのでご案内致します」

そんな家嫌だって。


私は結局マサさんに請われるまま高倉の家に上がり込んだ。

普通なら何を置いても逃げ出すべきところだ。

私がそうしなかった理由の1つは家の奥から漂う香りだった。

昔から夕暮れ時にその匂いがどこかの家から漂って来ると何故か私は人恋しくなるのだ。

「今夜はカレ-ですか?」

と私はマサさんに緊張感のまるでない質問をした。


「王子の好物なんです」

マサさんの手の指には絆創膏や火傷の痕がたくさんあった。

「なにぶんにも男所帯なもんで…私も家事はまだまだ新米で至りません」

「働く男の手は嘘はつけねえもんだ」

父がそう話していた。

「お邪魔します」

で私は靴を脱いで彼らの家に上がる事にした。

「こちらに来てから半年になります。見馴れぬ食材ばかりで…色々作った中でカレ-だけは最初から気に入ってたくさん召し上がって頂きました」

これが私を取り込んで危害を加えるための周到な罠だと言うなら仕方ない。

お手上げだ。

私はこういうのに滅法弱かった。

不思議な安心感がある家の空気と立ち振る舞い。

私は先に立って階段を登る彼の背中を見つめながら思った。

「私のせいで高倉君は学校に来なくなったんですか?」

「王子は中学から高校に進学し、かねてから思いを寄せていたお嬢さんに告白して断られたのは事実です」

「よくご存知なんですね…高倉君はそんな事までマサさんにお話しするんです?」

「王子の身の安全をお守りするのも私の職務なので常に学校にも移動型の監視カメラを飛ばしています」

「過保護過ぎます」

「昔からよく言われます」

「カメラって虫型?」

「?」

「いえ、なんでもありません」

「私は桐谷お嬢さんにお礼が言いたいです」

「お礼、ですか?」

「王子は異世界に来て学校に通い学んでおられます。異星の方とは言え、思いを寄せた女性に告白をして…豪気にも己の素性までさらけ出し」

マサさん、ちょっと声が怒ってません?

「にも 関わらず断られ。今は1人でいじけ…いや御自身と向き合っておられる。以前の王子の姿からは考えられぬお姿です」

学校に通って皆と馴染もうとする事や失恋して気持ちが落ちたり。

私たちにとってみれば普通の事過ぎるくらい普通の事だ。

高倉健汰が異星人という事実以外は。

「そうした積み重ねが王子にとっては大切なんです」

とマサさんは言うのだ。

「私には男女の事はよく分からない。こればっかりは、教えても差し上げらないものですから」

王子というからには高倉健汰の身分は彼の星では見上げるほどに高い、はずだ。

それが今更そんな経験が何故必要なのか私には全く理解出来なかった。

「王子、桐谷のお嬢さんが学校のプリントを届けに来て下さいました」

2人して高倉健汰の部屋の前に立つ。

マサさんは見上げるほど長身で私が知る限り地球のどの男よりもスーツが似合っていた。

割烹着と姉さん被りさえなければだけど。

「入ってもらってくれ」

高倉ア…なんか、ちょっとイラつくんだけど。

中から声がしたのを確認してマサさんはドアを開けた。

ドアに【王子】の札が掛けてあるのを見て私は少し笑いそうになる。

「私はお茶菓子などをご用意致しますので」

マサさんは行きかけて部屋のドアを少しだけ開けておいた。

「一応このようにしませんと」

この人ディテールが細かいな。

部屋に私と高倉健汰の2人が残された。

「明かりぐらいつけたら」

私の言葉にベッドに腰かけた高倉は「ああ」と答えただけだった。

眠っていたのかも知れない。

声が少し掠れて聞こえた。

「色々ごめん」

暗がりの中の高倉健汰はどっから見ても普通の高校生だ。

何光年もの旅を経てこの星に辿り着いた異星の客という風体にはやはり見えない。

「別に謝る事なんかしてないじゃん」

多少はあったが。

私の言葉に彼はおし黙る。

「今マサがお茶を…遅いな」

「別にお茶を飲みに来たわけじゃないからさ」

私はプリントを差し出す。

「ありがとね」

プリントを受け取りながら高倉が顔を上げる。

同い年だけど彼の顔は随分と幼く見えた。

「私、告白してくれて嬉しかった。高倉君が初めてだったんだ。好きだって言ってくれたの」

思えば不可抗力とはいえ髪の色だって前とは、こんなに違う私なのに。高倉健汰はお構い無しに私に気持ちを打ち明けてくれた。

「いきなりで驚いてしまって階段から突き落としちゃった、けど嬉しかったよ」

「僕が異星人でも?」

私は頷いた。

「最初は驚いたけど今は嬉しいと思う」

「僕好きな人に嘘つくのが嫌だったんだ」

私は頷いた。

「でも、突っ走ったのはいいけど。その後自分の正体を明かした事や告白して断られて、色々マイナスな事ばかり考えて『学校に行けない』なんて思ったり、情けないよ」

「また学校で話そうよ」

「桐谷さんは僕の事他の人には…」

「話してないよ。お前が宇宙人なんて話誰が信じるよ?」

私が笑うと高倉も笑った。

「お茶本当に遅いな」

「そんなに私と2人で話をするのが嫌なの?」

高倉は俯いて言った。

「休んで部屋に隠れるのは我ながら情けない。けど桐谷さんが来てくれた」

「また明日学校でね」

私は高倉健汰にそう言い部屋を出ようとした。

「桐谷さん」

高倉の声に振り向く。

「僕がもし異星人じゃなくて元々この容姿でも桐谷さんの返事は変わらなかった?」

私は頷いた。

「変わらないよ」

「そっか」

「私ずっと好きな人がいたの。小さい頃から憧れてた」

「どんな人?」

「人じゃないかも」

「僕と同じだね」

「高倉君は今こうして現実にそこにいるけど架空の人だもん。私結構痛い人なんだ」

高倉は黙って私を見つめていた。

「そろそろ私もリアルな彼氏とか作らなきゃって思うんだ」

「桐谷さんが幸せなら僕はそれでいいと思う。ずっとそんな事考えてたんだ。僕のせいで嫌な思いとかさせちゃったんじゃないかって」

「高倉君は優しいね」

「多分弱っちいだけなんだと思うよ」

優しくて弱い。それが私の目に映る高倉健汰という男の子だ。

自分の弱さを臆面もなく人に見せてしまうくせに人に対して優しくあろうとする。

もしも彼と私がつき合っても私は彼の弱さは最初から愛せない気がした。

疎ましく思う事できっと傷つけてしまったりするんだろうな。

ふと、そんな事を考えた。

「中学の時は高倉君うちのクラスの女子に結構人気あったんだよ」

思わぬ台詞が口をついて出る。

「そう…だから高校でもきっと可愛い彼女も出来ると思うんだ」

黙れこの口…と私は思う。

私嫌な女だ。

自分で一番よくわかっている。

周りにどんだけチヤホヤされても、その中に好きな人の姿がないんじゃ意味がない。

なのにそういう事を平気で口に出来る女の子って一体どんな神経してるんだろう?ずっと思ってた。

私って魔魅威が言うとおり「いけすかない女」だった。

「桐谷さん」

そんな私を見て高倉健汰は微笑んだ。

「明日学校で会おう」

彼の部屋を出た私は足早に階段を駆け降りた。

何か後ろめたい気持ちが込み上げて来る。

「マサさん私これで失礼します」

台所にいるマサさんに一声かけた。

「もうお帰りですか?」

マサさんはカレ-の鍋を中火にして換気扇の下で腕組みしていた。

くわえたタバコに火をつけようとしているところだったらしい。

「どうも悪い習慣だけはすぐに身についてしまうらしいです」

私と目が合うとタバコをシガレットケ-スにしまい込んだ。

シンクの上にはティーポットとカップが2つと…。

「これ確か落雁て言うんですよね?お仏壇にお供えする」

ピラミッド型の砂糖菓子を見て私は仰天した。

「お茶菓子ではないんで!?」

「菓子ですが死者に備えるものです」

「か体に害なんざあ」

「別にありません。食べても大丈夫です」

「王子の好物なので…ヒヤッとしました」

やっぱり異星人だけあって味覚が多少変わってるのかも知れない。

「日本語お上手なんですね?」

あれ…私も入学式で同じ事言われたよな。

「こちらに来る前に地球から傍受した電波の映像を解析して学びました」

間違いなくスカパーとかの任侠映画の特集だろうな。

「こちらに来てからもレンタルなどで、日本の男の生き様について深い感銘を受けました」

それで高倉健汰か。謎が解けた。

「もしかしたら高倉健汰って名前はマサさんがご自分で名乗りたかっのでは?」

「ですから王子のお名前にと思いまして…私なんぞは舎弟で構いません」

パチもの感半端ねえ…なんて口が裂けても言えない。

我が母星がある、こちらで言うところのケンタウルス座にもかかってますし!」

やっぱり愛想笑いとかって人が生きる上で大切なものだ。

この時思った。

「あの、ところで王子は…」

「明日から学校来るそうです」

「そうですか安心しました」

マサさんは健汰君の本当のパパみたいだ。

実際彼にとってもそういう存在なんだろうな。

「たとえコミュニケーション…こちらで言う【告白】というやつに失敗したとしても今の王子に必要な事は勇気をもって積極的に人と交わる。それが何より必要だと私は思っていました。」

「それじゃナンパと変わんないと思いますよ」

「な・ナンパ…ですか」

「生殖の快楽だけを目的にのべつまくなし異性に求愛行動を取る行為をこの国ではナンパと言います」

「そんな!王子は純粋に一途にお嬢さんの事を」

親の心子不知。

「勿論健汰君はそんな子じゃないです…と思います」

「それを聞いて安心致しました。王子たるものそのような行為は国辱万死に値するものと」

これ以上掘り下げては面倒な事になりそうだ。

「勇気を持って告白するのは大切な事ですし告白されて嬉しくない女子はいないと思います」

「でしたら」

「問題はその後なんです」

「その後…ですか」

恋愛経験の乏しい、いや皆無と言っていい私でも中学時代友人やクラスメート達の恋愛事情はつぶさに見て来た。

「マサさんは愛を告白する側とされる側どちらが立場が上だとお考えでしょうか?」

「そ…それはこ・恋の奴隷と言うくらいで先に好かれた方が優位なんじゃないですかね…一般的に考えても」

「確かにその通りですが、告白したら逆転する事もあるんですよ」

告白はした者勝ちという諺は辞書には載ってない。

「余程性格がひん曲がった女か相手に問題がなければ告白して来た相手を悪く思うなんて出来ません。断って申し訳ない…少なくとも私は健汰君に対してはそう思いました」

「なるほど」

「でも自分の気持ちが受け入れらなかったからと言って逃げ出したり冷淡な態度を取られると本当に女の子は傷つくんです」

誰かが誰かに気持ちを告白をしては断られ。

叶わない想いが憎しみに変わったり。

以前と違う素っ気ない態度や告白した相手を悪く言ったり。

私はそんな男の子たちの姿を今まで結構見てきた。

自分の思いを伝える勇気は大切だと思う。

でも勇気とエゴはいつも隣り合わせで例えば優しさと弱さのように親い。
そして女の子は女の子で自分がふった相手にさえも嫌われまいとするずるい生き物だ。

「だから私は告白する勇気よりもその後見せる男らしさの方が大切なんだと思うんです」

「王子は…貴女を置いて逃げたんですね」

「いえ、あの」

「わかります。王子の性格は誰より私は理解しているつもりですから」

マサさんは不思議な人だ。

宇宙人だから当たり前と言われたらそれまでだけど。

こんな恋愛経験もない小娘の恋話にも真剣に耳を傾けて聞いてくれる。

こんな大人に会うのは初めてだ。

「桐谷のお嬢さん」

「夏菜花でいいです」

「聞けば貴女は学校では姫と呼ばれているとか」

「偽物ですけど」

ふいに大きな掌が私の両肩にのる。

「王家に長年お仕えして来た私が言うんだ間違いねえ。あんた王妃の器ですよ」

「え…王妃…ですか?」

「そうともです。世が世なら、私はどんな手段を用いても夏菜花さんを王子の王妃の座に据えて見せます」

ここが地球でよかった。ていうかマサさん何とかして私と高倉をくっつけようとしてません?

「世が世なら…ですか」

私は一番聞いてみたかった事をマサさんに訪ねた。

「どうしてマサさんと健汰君は地球に…私たちの星に来られたのですか?」

王子と呼ばれている存在でありながら民家で2人暮らし。

他に仲間はいないのだろうか?

そもそも目的は、観光、留学、調査、それとも侵略?

この2人の行動を見ていると、どれも当てはまらない気がした。

むしろ移民のようにどうにかしてこの国の人間になろうとしている。私にはそんな風に見えた。

「私たちは負けたのです」

負けた。負けるという事はどういう事なのか。

私が住むこの世界での敗北…恋愛、受験、社会でのあらゆる競争、政治闘争、戦争。思いつく人の世の争い。考

えあぐねる私を見てマサさんは言った。

「私と王子は王位継承の争いに巻き込まれ敗北したのです」

マサさんの話では高倉健汰の母星での地位は王室の第1王位継承権を持つ第1の嫡子。

他の継承候補者は弟の第2王子だけで弟は幼い頃から病弱だった。

「国王は早い時期から王位の継承を第1王子にと明言されておりました。王の側近であった私は王子の教育と身辺の警護を命じられ…王位継承には何の問題もなかった」

「それなのに何故継承争いなんて起きたのですか?」

継承権がなければ王位になど就けないはずだ。

歴史上起きうるとすれば。

「あれは、テロと言っても差し支えありません。まさか、まさか、あの聡明な王妃殿下が夫と実子である王子の寝首をかくとは…想像しませんでした」

「実の母親なのに…ですか?」

「軍の中に反乱分子がいる事は私も王も察知していました。しかしいくら調べても首謀者が特定出来なかった。それも然り。王妃と反乱分子の首謀者は愛人関係にあったのですから…獅子心中の虫とはこの事です」

マサさんの話では第2王子が王の血を受け継いでいるかも今となっては疑わしいと。

王は王位継承の儀式を目前に控え暗殺された。

「気がついた時は残った駒は私と王子だけ。この国の言葉で言うなら万事投了ってやつです…私の責任です」

第1王子である彼は乱心による国王殺害の汚名を着せられた。

本来ならば国王暗殺の最中に王子も闇に葬られるはずだった。

王子を暗殺の危機から救ったのは側近であるマサさんだった。

「結局王子を人質に取られた私は王妃と王室の持ちかける取り引きに応じました」

「取り引きって?」

「法廷で王子が国王殺害の犯人である…そう証言する事が王子延命の条件でした」

横を向いたマサさんの表情サングラスの影に覆われ伺い知る事は出来ない。

「王子は王位を受け継ぐに相応しいお方。少なくとも私はそう信じ王子が玉座に着かれる日を夢みてお仕えして参りました。それが私の証言で…歴史に王を殺した逆簇の名を刻む事になろうとは」

ケンタウルス座のα星系とか言う場所が地球からどれ程隔たりがある場所にあるかなんて私は知らない。

きっと気の遠くなるような距離にある惑星。

そこから地球まで移動出来る文明や科学力を持った星の人々の間で何故大昔この星にあったような争い事が起きてしまうのだろう。

聞けば高度な文明と科学力を誇り周囲の星系にも植民地支配の手を伸ばしているという彼らの母星。

「民間レベルでの犯罪などは皆無に等しいのです」

暗殺や権力闘争による骨肉の争いなどは王室や王公貴族といった高位の者の間でしか起き得ない。

何故なら犯罪者の遺伝子は国家に管理された遺伝子情報から生まれる前に排斥されるからだ。

「よしんばイレギュラー的に凶悪な犯罪者が世に出る事態になっても高精度の犯罪予測システムが確立されていますから」

そういう話は私たちが住むこの世界でも、あるべき未来の姿として時より耳にする事が増えた。

もしかしたらマサさんや健汰君が住む星と似たような未来を私たちの世界も選択するのかも知れない。

「遺伝子レベルで撥ねられそうだな、うちの家族は」

ふとこんな時にうちの家族の顔が頭に浮かぶ。

「それほど徹底的した管理化が進んだ世界で…身分の高い人々は前時代的なままなのですか?」

マサさんの答えは明快だった。

「一体どこの誰が神々の脳や遺伝子を弄れるっていうんですか?」

民間の人々は王宮で繰り広げられる子殺しや親殺し、謀殺や近親相姦といった様々な愛憎劇を神話を聞くような気持ちで受けとめているのだという。

「無論私たちの国家には死刑という制度もありません。古代の野蛮な風習として歴史の中で語られるだけです」

犯罪のない世界が実現化した国家なら頷ける話だ。

「死刑を矛盾した野蛮な制度と謳いながら他の星系への略奪植民地化を押し進めているのですから」

「それこそが最大の矛盾でしょう」
マサさんは自嘲気味に笑う。

王公貴族の犯罪や権力闘争に敗れた者にはどのような罪が科せられるのか。

「王殺しのような大罪には流刑制度が適用されます。つまりは私や王子のようにです…夏菜花さん、この星は我々にとって2度と戻れぬ流刑の星なのです」

恒星間の航法技術が遥か昔に確立した彼らの星では政治犯や危険思想犯等の大罪人には未開の星への島流し罪が適用された。

「我々の住む星とはかけ離れた未開の野蛮人が住むと言われる惑星に置き去りにされる…考えうる限り最大の重刑と言われています」

「私たちの住む星が野蛮人の未開の星ですって!?」

「数ある流刑地の1つです。ですが…」

マサさんは私に言った。

「それは私たちの国家の認識であり私や王子は今そんな風には思っていません」

流刑地と呼ばれる星に送られた追放者は遺伝子レベルでその身を先住民へと変えられてしまう。

記憶を全て消去された後その世界で最も身分の低い奴隷のコミュニティなどに送り込まれるのだという。

「私たちが言う敗北とはそういうものだとお考え下さい」

「でもマサさんも健汰君も記憶は消されていない」

「冤罪にしろ王殺しは神殺しと同じ大罪中の大罪です。まして元々の身分が王となるべくして生まれた第1王子ともなれば…お察し頂けるかと思います」

記憶を消されないのは温情でも何でもない…という事なのだろうか。

「この世界で王子が元の姿に戻れるのは5分間だけです。いっそ今の姿のままなら過去を忘れて生きる事も出来ましょうに」

5分間見知らぬ惑星で過去の姿に戻れたとしても、無力感と虚しさが募るだけだとマサさんは私に言う。

「私にも王子は過去のお姿を見せる事はありません。夏菜花さんの目には王子の姿はどう映られました?」

「なんと言うか…頼りなげで怯えている生き物と言いますか…すみません」

「多分それが今の王子の心情が現れた姿なんでしょう」

「心で姿って変わるものなのですか?」

「我々とこの星の人々ではそもそも生命の起源が派生した成り立ちからして違うのです。夏菜花さんは擬態ってご存じですか?」

私は彼の言葉に頷いた。

「この星にも生命を守るために擬態を使う生き物は数多く存在しますが我々は精神状態によって肉体そのものを変容させる能力に特化した生命体なのです」

現在の高倉健汰の置かれた境遇が彼をあのような姿に変容させた。

「マサさんも悪いやつらに改造されたんですね」

「改造…そうですね。私は肉体だけでなく脳や記憶も弄られるはずでした。しかし私の一族は古来より最も高度な擬態能力を持つ種族と呼ばれて来ました。肉体こそこのようになりましたが彼らが治療したのは私の脳ではなく虫歯です」

マサさんの白い歯が光る。

「肉体は改造されても心までは改造されなかった」

「どうされました?顔が赤いようですが…熱でも」

マサさんの手が私の額に伸びる。

「だ・大丈夫です」

私は俯く。

「に・日本には有名なヒ-ロ-がいて、私はそんなに好きな訳ではないですが、彼に与えられた時間は3分間だけです。3分あればヒ-ロ-にだってなれるんです」

「なるほど」

とマサさんは頷く。

「このようなお話を聞かせてしまって申し訳ありませんとお詫びするつもりでした…しかし言葉を変えます」

「マサさん?」

「銀河系の塵芥のように消え行く私と王子の運命と命…私はそのように思っておりました。ですが、お嬢さんのお話を聞いているだけで、このマサの心にも小せえ、けどあったかい灯が灯る思いが今はしています」

マサさんは私に向かって深々と頭を下げた。

「今後とも王子を宜しくお願い致します」

マサさんは私に言うのだ。

「囚人としてこの星に護送され下ろされたのはこの町の北外れの岬。季節は冬で真っ暗な海の音以外はなにも聞こえねえ真夜中で…空からは雪が降っていました」

雪を見るのは生まれて初めての事で冬という季節も初めて体験する2人だった。

「かつては私の星にも冬はありました。しかし私たちは自然や気候を御し管理する術を身につける事で種の寿命すら伸ばした。なぜなら私たち種族にとって冬とは死そのものであったからです」

死を予感させる異星の冬。

その寒さに震えながらマサさんと高倉健汰は遠くに見える町の灯りを目指して海沿いの国道を歩いた。

辿り着いたのが私たちの住む町だった。

「考えても見れば私たちはその時既にお嬢さんと同じ地球人に体を作り変えられていたんです。怯えは本能から来るものだったんですね…しかし私は王子だけは何としてでもお守りせねばと思っていました」

地球に護送される舟の中でマサさんは主に詫びた。

自分が至らぬばかりにこのような境遇に主を貶めてしまった事を。何度詫びても取り返しのつかぬことだと自分を責めた。

「自分の一命に代えても王子を国王の座にと誓いました」

しかし彼の主である王子は言った。

「別にそんな事はどうでもいい。僕の方こそお前を巻き込んでしまい申し訳なく思っている」

驚いて顔を上げると王子は言った。

「国王の座を取り戻すという事は少なからず星に争いの火種が起きる。僕は王になんかなれなくても母や弟や国の人々が以前と変わらず幸せならばそれで構わない。僕1人世界からいなくなる事でそれが実現するならね」

王子は私を気遣ってそのような言葉を私にかけて下さったのだと私は思っています」

元々第1王子とは言え国王や王妃との関係は私たちが考える親子関係とは随分と隔たりがあるのだとマサさんは言う。

反乱分子や政敵の暗殺を避けるために王子である彼は別の植民星で乳母やマサさんたちに育てられた。

「実際に王子が国王と謁見し王宮のある母星で暮らすようになったのは10歳になってからです」

マサさんの口から語られる高倉健汰の境遇。

しかし私は釈然としない気持ちが残った。

「私が高倉君なら母星へ還る道を模索します」

また私の心の中のいらぬ虫が騒ぎ出す。

「ほう、それはまた…理由をお聞かせ願えますか?」

「高倉君は母や弟や国民が幸せなら自分が消えても構わない、そう言ったんですね?」

「確かにそう申されました」

「自己犠牲の上に成り立つ平和が間違いだとは私は思いません。しかし犯罪行為や偽りの上に成り立つ平和となれば話は別です。マサさん、あなた方の星は他の星に侵攻し植民地化を推し進めていると聞きました」

「仰る通りです」

「私が国王の権利を持ちながら不当な策略により石持てその地位を追われたのだとしたら…必ず王の座を奪還します」

「王の座に返り咲いた貴女はまず何をしますか?」

「直ちに王室を解体します。王公貴族の時代に私の代で幕を降ろし主権を民に渡し植民地の星ぼしの解放を宇宙に宣言します。王の権限に於て」

「星系の秩序は乱れ国土は荒れ内乱が長く続くでしょうな」

「星と民の寿命ほどに永いものだとは思えません」

「それを見つめる王の御心は私には窺い知れぬものです」

「悪しき不の連鎖を断ち切るためです」

私は答えた。

「世界が新たな秩序や統治を王の姿に求めるのならば再び立ちもしましょう」

「無礼な事に私は貴女を王妃の器と申し上げましたが間違いでした、女王陛下」

マサさんは私の右手に素早く口づけをした。

「地球では敬意を表するためにする行為と聞きました」

「も…もう1つ女性の前では守らなくてはならないルールをご存知ですか?」

「それは何ですか?」

顔を上げたマサさんが私を見つめる。

「女性の前ではサングラスは必ず取らなくてはいけません」

「は・早く言って下さい」

マサさんは慌ててサングラスを外した。

「ウソです」

私は即座にウソを否定した。

「本当は女性の前で安易にサングラスを外してはダメです…私以外」

教えて上げたい。

誰かを好きになった女の子は嘘をついても許されるのだと。

最初玄関で会った時から気づいていたけど。

この人超絶かっこいい!!

宇宙とか太陽とか月とかケンタウルスとか王公貴族の舞踏会とかが星ぼしを跨いでぐるぐる回る。

でもそんな事より。

2階の階段を駆け降りる私の爪先は後ろめたさと彼に会って話がしたい気持ちでいっぱいだった。

「どうしよう魔魅蔚。私、また人間以外の人を好きになっちゃったみたい」

新しく始まったばかりの私の高校生活。

私は今まで書いたページを破り捨て丸めてゴミ箱に放り込んだ。

その日、まだ何も書かれていない白紙のページに震える指先で初めて書かれた「恋」という一文字。

私はそれを大切にそっと胸に抱いてこれから青春の…。

「やはりお体の具合が…お嬢さん顔も耳も赤いです」

マサさんの大きな掌が私の額に添えられた。こんな事が私の人生に起きるなんて、夢みたい。


「こうする事でお嬢さんの記憶を消去する事が出来ます」

「え…そんな…私嫌です」

「ずっと迷っていました。王子のためを思い…しかし私は今お嬢さんのおでこの熱が心配です」

「マサさん」

知らず知らずのうちに私が見つめる彼の姿が涙で滲む。

人を好きになるとこんなに簡単に涙って出てしまうんだ。

せっかく会えたのに。

「私もお嬢さんに告白致しやす」

「告白…ですか?」

「私が護送船の中で王子にかけて頂いた言葉…涙が出る程嬉しかった」

宇宙人も悲しいと涙が出るのだろうか。多分言葉のあやだろうな。

「ですがお嬢さんの星の未来に関するお話を聞き及び…私は貴女の中に王道を、真王の姿を見させて頂きました」

マサさん…そんな話今はどうでもいいです。

「ですが私は王子の家臣。貴女に鞍替えするつもりは毛頭ありません」

ああ…やっぱりふられちゃうんだね、私。

「私はこれからも王子をお守りしていく所存です」

「それなら以前とまったく変わらないです」

「いいえ」

マサさんは微笑んだ。

幼い子をあやすように私の頭の上に掌が添えられた。

「お守りするのは王子だけではありません。この星に来て守るべきものがまた1つ出来ました」

「では、マサさんの記憶を私から消したりはしない?」

「しませんとも。私は貴女に「王子をよろしく」とお願いしたはずです」

「私、恒星間宇宙船のエンジンでも、わワ-プとか波動コアでも何でも発明します!?私、こう見えても勉強とか出来る方なんで!!」

「そいつは心強い」

「マサァお腹すいた~夕飯まだ~」

間延びした声と階段を降りる足音。私は思わず舌打ちする。

「今のはどんな感情表現で!?」

「鈍すれば貧す!」

「どういう意味ですか?」

「鈍感な男はいつまでも女にもてないって意味です」

「き桐谷さん…まだ帰ってなかったの!?」

キッチンを覗く高倉と目が合う。

私は思わずではなく結構思わせ振りに目を反らす。

「ど、どうしてマサと桐谷さんがそんな近くに!?お・おでこに手まで当てて…何なの!?何なんだよ一体…」

察しろバカ。

「王子これは…桐谷さんが熱を出されて」

「桐谷さんはマサにお熱だって!?」

その通りだ。否定なんかしないぜ。

「僕だって!僕だって!宇宙人なのに!!」

再び階段を駆け上がる音。

「また逃げた」

「王子からは私がきちんと説明を」

してくれなくて結構です。

結局それで私は高倉家にお暇する事になった。

「ぜひご一緒に夕食のカレ-でもと思ったのですが」

私は鍋からのぞいてる触手…いや多分タコの足(きっとそうだ。そうに違いない)を見て「もう少し親密になってから」と微笑んだ。

「親密!では王子と今後も仲良くして下さるんで?ぜひその節は家にも遊びに来て下さいね」

ボクネンジンセイジンでテンネンか…前途多難だ。

マサさんは私を玄関まで送りながら言った。

「私はこの星が…この町が好きです」

背中越しの声がくすぐったく温かい。

私本当に熱があるのかも知れない。

だって彼の声を背中越しに聞くだけで足が地につかない感じ。

「こんなどこの星から来たかも知れねえ男に今じゃ商店街の人たちは野菜や魚の『いいのが入ったよ』とオススメしてくれたりコロッケをオマケしてくれたり」

「ミサワ・ミ-トのおばさんですね…コロッケ1つ50円のコスパって!?」

「そうです。いつもお世話になっています」

「あそこの唐揚げはヤバいです。冷めても美味しいけど11時半と3時半に行けば揚げたてが食べられます。私学校帰りによく寄ります」

「それはそれは大変貴重な情報ありがとうございます」

もっともっとこんな風にマサさんとお話していたいな。

「商店街の皆さん始め肉屋のおばさんも勿論王子も…短い間に私が大切にしたいものが随分増えました」

王子はともかくまだ私は肉屋のおばさんと同レベル…か。

「この星で王子が幸せを見つけてくれたら私は本望なのです。たとえ星に帰れなくても」

暮れかけた空に浮かぶ一番星を見て彼は言った。

私は頷いて彼と同じ空の下星を見上げた。

「ずっとずっとこの星…私たちの町にいて下さい」

本当は「私の近くに」と言いたかった。

「もしも王子がずっと1人なら」

「1人なら?」

「私が王子の子を生みます!!」

「いや…マサさんそれはちょっと」

「自分メタモルフォーゼにはひとかどの自信が」

「いや、しかしですね」

「絶滅にひんした個体に雄しかいない場合種の保存のために雄が雌に変容するのは自然界ではよくある話でして」

無駄無駄無駄!そんな無駄な知識は即刻私が消去してやりたい。

高倉健太…お前に課せられた使命は重大だぞ。

でないとここにいる全員地獄の辛酸を舐めるはめになる。

「お体が心配です。家までお見送りします」というマサさんの言葉にすがりたい思いはあったが、彼の主に拗ねられては困る。

王子には明日から学校に来てもらい多くの雌…いや女子と触れ合って頂かないと。

私はマサさんと別れ玄関の外に出た。

2階の窓からやつがこちらの様子を伺うシルエットが見える。

頼むよ高倉。

私の恋の行方は不本意ながらもお前の肩にかかってるらしい。

「明日は学校出て来いよ~待ってるからな~」

景気づけに小石を1つ、やつの部屋のある屋根に放り投げた。

小石は屋根に当たらず空中で蒸発して消えた。

「え…なに今の!?」

【自動セキュリティ・システム起動・不法侵入者及び破壊者…存在…確認…】

夕暮れ時の住宅街に響く声。

コンピュータの合成音ではない。

姉なら3番目…兄ならいの1番に攻略(バカだから解除も解けてないのに)対象に上げる。

無口で神秘的なキャラ、ボイス。

警告のメッセージなのにぼそぼそ喋りが不安を掻き立てる。

とてつもなく嫌な予感がする。

塀の壁から銀色の腕が2つ突然目の前に現れる。

一糸纏わぬ銀色の体。

銀色の髪の少女が目の前に現れた。

少女の体は髪色の銀だけを残し生身の人の体に変わって行く。

「私は…ヒューマノイド型自立防御プログラム…」

喋った!!

「自立…自走型…名前はルンバ…」

だからネーミングが!?

お嬢さんセキュリティシステムが未調整で…」

お前の仕業か!?

ルンバと名乗る少女が掌を上に翳す。

ふわりと球体が2つ掌から浮き上がる。

「ルンバのかわゆいサンバたち」

ほんとだ~なんか毛玉みたいで確かにかわゆい。

「行け!」

球体から殺人光線が放たれた。

飛び退いた私の足元の地面は溶け電柱は消滅した。

これが殺人光線でなくて一体なんだと言うんだ!?

「すぐにシステムの電源を切りますから!」

早く!早く!シャットダウンしてくれ!!

「無駄…システムダウン後0.7秒後に再起動自立稼働システムに切り変える」

おい!なんか言ってるぞ~こいつ!?

「お嬢さん!そいつはまだ試作中、追尾可能範囲はここより半径1K圏内です。逃げて…私が食い止めます!!」

ありがとうマサさん…というか流刑の身分にしたら結構ヤバい科学力じゃないか、ここん家。

「侵入者を排除」

ルンバの背後の空間に夥しい数の銃火機が孔雀の翼のように現れる。彼女の体がふわりと宙を舞う。

私を殺す様々な形状の兵器。全ての銃口と球体が私を狙う。

「お嬢さん!」

「こんな時こそ夏菜花って呼んで!!」

「そいつにだけは…捕まらねえで下さい」

「うわあああああああああああああああああああああああ!?」

私は今まで上げた事もないような雄叫びを上げて走った。

後で思い出したら死にたくなるような顔と走り方をその時していたと思う。

高倉家の防衛システム、ルンバ。

私は彼女に追われ住宅街を疾走する。

ルンバは空中を舞い私を追尾するがその姿は通行人の目に入らない。

視角に映らないぎりぎりのポイントから私を狙撃する。

追いたてるように足元を狙う。

命中しないのは精度の問題ではなく彼女は私を徐々に人影がない場所へと誘導した。

これ防衛システムじゃなくてアサシンだろ。

立ち止まれば殺られる。

私は無我夢中で路地の角を曲がる。

曲がったところで足が縺れ路上に倒れた。

「立ち上がらなきゃ」

顔を上げた視線の先に彼女がいた。

冗談がまったく通用しない顔してるなあ。

「はは…ルンバちゃんだっけ?とりあえず服…着た方がいいと思うよ」

私の言葉を一切無視して彼女は私の前に右手を突き出した。

「侵入者の除去…これよりトルネ-ド…吸引を開始」

広げた掌。

空間が歪み渦が発生する。

「吸引て…私どこに吸い込まれるの!?」

「外宇宙」

いっそ一思いに殺してくれよ。

しかし彼女は一見すると全く無防備な姿に見えた。

彼女を衛る球体は分裂を繰り返し今や星のように周囲に散らばる。

転送された兵器の翼…これ程の装備を持ってすれば女子供1人始末するのは造作もない事か。

しかし私だって喧嘩相手を全員学校の大銀杏に吊るした宙吊りの魔女…女装して族狩りに明け暮れた町内のシリアルキラー「女装家」を兄と姉に持つ!

「ほらほらボディがお留守なんだよ!!」

私は立ち上がり様にルンバのがら空きのボディに蹴りを叩き込んだ。

「警戒は警備…攻防一体」

鉄の防壁が目の前に現れる。

「なら足だ!」

右足の蹴りをフェイントに私はルンバの足首を刈ろうと試みる。

「無駄」

ルンバの爪先が私の爪先を掠めるが彼女は既に手の届かない場所にいた。

「吸引排除、2秒前。四肢を破壊…行動を停止」

火機の銃口が一斉に私に向けられる。

「任務遂行」

悔しい!私は歯を食い縛る。

防衛プログラムだか何だか知らないが、こんなイカれたバグ女に消されるなんて…何とかならないか!?

の時私の耳に届いたのは心に轟くバイクのエンジン音とマフラーのエグゾ-ストだった。

それは死を間際にした私が見た幻影だったのか。

路地裏の出口に夕日を背にしたバイクにのる男のシルエット。

ライダース-ツ姿の…私に向かって腕を差しのべる。

彼が私を呼んでいる。

「こんなところで死ねるものか!!」

手探りで手繰り寄せた鞄の中には性懲りもなく魔魅蔚のロッドがアルト笛みたいに忍ばせてあった。

今日だけは「ありがとう」と母に言いたい。

私はロッドを鞄から引き抜くと目の前のルンバに向け躊躇いなくボタンを押した。

「日本の魔法少女をなめるなAI!!」

放たれたワイヤーが彼女の体に触れた瞬間凄まじい火花が散り周囲を青白い光で照らした。

同時に彼女の掌が造り出す渦は消失した。

「推定…高電圧80000…0…磁気シ-ルド展開」

次はもう効かないって事か。

目の前に兵器の雨が降り注ぐ。

地上に降りたルンバは方膝をついた姿勢のまま動かない。

「過電圧によりシステムに不具合…システム復元…」

「いちいち自分の状態を言っちまうのがあんたの弱点だよ」

私は振り返る事なく路地の出口に向かって駆け出した。

「音声ガイダンス…遮断」

お利口だこと。

もうすぐ路地の入り口にたどり着く。

ちらりと後ろに目をやると再起動したルンバがこちらを見ている。

瞬時に背後に彼女が姿を現す。

腕を伸ばし私を捕まえようとする。

私は路地の入り口に辿り着いた。

「よお」

バイクに跨がった男はうちの兄貴だった。

「ちょっと!?何そのバイク…気でも狂ったの!?」
「これは、お客さんにレストア頼まれたバイク【電人】だ」

電人…兄貴と親父が以前DVD借りて観てた記憶がある。

バイクが戦闘用ロボットに変形する大昔の特撮番組だ。

赤と銀のバイクは真横になった電人のボディ…カウルの部分がロボの顔。

正にレジェンド級の痛車。

「お困りのようですね、お嬢さん」

何気取りだ、お前!?

「さあ乗れや!!」

兄貴が私に向かって手を差しのべる。

「絶対嫌!!そんな恥ずかしいバイク死んでも乗りたくない!!そんなに跨がったら学校行けないし町内も歩けない!!お嫁にだって行けない!!!」

「お前がピンでこんだけ追い詰められてんだ…ヤバいやつに違えねえ。恥ずかしがってねえで早く乗れや!!」

「うう~」

しかしルンバは追って来なかった。

路地の暗がりで制止したまま、つぶらな瞳が2つ、こちらを伺っている。

その視線の先は私でも兄でもなく電人のレプリカバイクだった。

「未確認…機動兵器確認…デ-タ検索照会中」

目を閉じたルンバの瞳が再び開く。

「口蓋部にバルカン砲…口径不明。他腰椎にロケットランチャー2機装備…警戒を要す」

ああ…どっかの動画サイトの映像拾ったみたいだ。

「何なんだよ!?さっきから…見たとこ女の子1人…」

暗がりの中からルンバが姿を現す。

「つ!つるぺた!?」

「兄貴は見るなあ」

私は兄の目を両手で塞いだ。

「つるぺた…不明ワード検索中」

答えは瞬時に出たようだ。

「屠畜…生」

なんか分かんないけど兄貴とんでもなく酷い殺され方されるらしいぜ。

「轢殺煮殺軛ル」

機能を停止していたはずの兵器で路地の空間が埋めつくされる。

こんなもの一斉に撃たれたら私たちだけでなくこの区域全てが消し飛ぶ。

「お嬢さん。伏せて下さい」

背後から声。銃声。

マサさんが撃った銃弾がルンバの右肩に命中した。

そのままバイクを飛び越えたマサさんは躊躇う事なくトリガ-を引いた。

2発3発…銃弾を浴びた少女は後退り、前のめりに倒れると今度こそ沈黙した。

マサさんの銃から白煙は上がらなかった。

実際に銃が発射されるのを見るのは初めて…煙とか出ないんだ。

「AIとは言え人の姿をしたものを撃つのはいい気持ちがしません」

マサさんは振り返って私に詫びた。

「遅くなりました。とんでもねえ事態に巻き込んでしまい申し訳ありません」

「あの子死んだの?」

「初期化プログラムを打ち込んだだけですから」

「そう…よかった」

「え?なになに!?どうなってんの!?」

「マサさんが私たちの前に出ても、あの子全然攻撃しなかった…何故?」

「本来私たちを守るためのセキリュティ・システムですから。一か八か前に出るのは賭けでした」

「どういう事ですか?」

「あれは元々王宮を守るための防衛プログラムです。あれを退けるとは…お嬢さん貴女はやっぱり凄いお方だ」

「どうしてあんな暴走を、やはりバグですか?」

「警護エリア内にいる人間の中で起動と同時に王子を殺すようにプログラムが書き換えられていました」

「そのプログラムを一体何処で?」

「友が、宮廷内にいる唯一信用出来ると私が思っていた友が別れ際に私に手渡してくれたものです」

マサさんが空を見上げるのを見るのは今日2度目だ。

この人は辛い事やどうにもならない気持ちになると、こんな風に故郷のある空を見るのだろうか。

出来る事なら貴方を捨てた星なんか探さないで。

私を見て欲しい、と思う。

「…高倉君を抹殺するはずのプログラムがどうして私を?」

「信じられねえ話ですが…王子よりも貴女を王と認識したとしか」

「ええ!?そうなの!?」

なんだ、高倉健汰お前もいたのか。存在が空気過ぎて分かんなかった。

「おい!ナナ!いつまで兄ちゃんに目隠ししてんだ!?兄ちゃん言っちゃうぞ…暗いよ!」

あ~もう、うるせえな。

マサさんは私に手を退けるように合図した。

「どうもマサと申します」

「王子のご学友の夏菜花さんには日頃格別の御愛好賜りまして」

目の前に現れたマサさんの顔に早くも滝汗が止まらない。

「は・はあ」

「失礼しやす」

そしてさようなら。

マサさんは兄貴の額に手をあて記憶を消去した。

兄貴はくたりと首を下げ眠り込んだ。

「目を覚まされた時は私らの事は覚えてらっしゃらねえはずです」

考えようによっては恐ろしい人だマサさん。

いや絶対敵にしたくない。

「お嬢さん、このお詫びは必ず、今日のところはこれで」

ルンバを肩に担いだマサさんは完全に人さらいだ。

「お詫びなんていりません」

「しかし、ここまでお嬢さんを巻き込んでおいて、私の気が済みません」

「私巻き込まれたくて巻き込まれたんです」

そう、あなたたちの家で靴を脱いだその時から。

「変わったお嬢さんだ」

「1つ貸しにしておきます。お詫びじゃなくて」

マサさんは頷いて立ち去りかけた。

「1つ、質問いいですか?」

「何でしょう?」

「そこにいるルンバちゃんの造形は?マサさんの御趣味ですか?」

そこ大切。

「?…いえ地球上のプロトタイプのカタログからランダムに選別しました」

「そうですか、ならよかった」

私は側にいる高倉健汰に顎で合図した。

「え?何かな何かな?」

「あんたの着てる上着ルンバちゃんにかけてあげなよ。男2人揃ってデリカシーないんだから!」

「王子私たちはまだまだ学ばなくてならない事が多いようです」

「だな」

2人が帰った5分後兄貴が正気を取り戻した。

「あれ…つるぺた…どこ?」

お前が一番宇宙の神秘だよ。

一体どこのメモリーに記憶してんだ。

結局兄貴のバイクの背中に乗って家に帰った。

兄貴が「海まで流すか?」と聞くので。

人目につかないルートを選んで。

私はマサさんと健汰が初めて降り立った夜の海をこの目で見たかった。

明日から何が起きるのか今は想像もつかない。

私の日常に現れたマサさんという異星人。

私は彼に恋していた。

もはやそれは非日常のラインを飛び越えた私の日常となりつつある。

そうあればと願う私がいる。

しかし私とマサさんが暮らすこの町に、いや、この星に未曾有の危機が近づいている事をその時私はまだ知らなかった。





《 魔法少女は振り向かない・DAYS 了 》





゜゚ *+:。.。:+* ゚ ゜゚ *+:。.。.。:+* ゚ ゜゚ *+:。.。:+* ゚ ゜


《 サンバでルンバ 》





「今日は皆さんのクラスに転校生が来たので紹介します。まずお名前から」

「ルンバ」

「えっとルンバさんは桐谷さんと同じ帰国子女でご出身国はどちらだったかしら?」

「牛」

それ言うなら馬!

「ルンバさん帰国子女だから~」

それで万事解決かよ。

翻訳機能に不備…出身はケンタウルスα…」

「皆さ~ん!仲良くして上げてねえ!…えっと席は…」

ルンバは高倉健汰の席を指差し、すたすた歩き始めた。

「ルンバさん今日は仕方ないけど明日からメイド服じゃなくて制服で登校してね」

「私は王子に仕える身」

ルンバは私の前で立ち止まり言った。

「もとい…王子君の命は私が守る」

クラス・メートだから王子君か。

「私は2人目だから」

意味わかんね。

高倉健汰は今日から登校して来たのはいいが、いきなり私の手を取りキスしようとしたのでその手を叩き落とした。

「なんで!?家臣のマサはよくて僕はダメなの!?」

勝手に親衛隊に連行されるがいい。

「家臣のマサってなんだ!?」

「アイツ桐谷さんにフラれて頭が…」

クラスがざわついていた。今は今で。

「王子って…アイツ本当に王子なの?」

「桐谷さんはともかく高倉はどっから見ても日本人だが…」

いや、あっちが本物の宇宙の王子なんだけどね。

「にしてもルンバちゃんか…あんな可愛い子がメイドかよ!なんてうらやましい!!」

殺人セキリュティシステムなんだけど。

今はしらっとした顔で高倉健汰の1つしかない椅子に強引に腰かけている。

で、ルンバなんだけど。

放課後帰宅する私の後をついて来る。

高倉健汰の警護そっちのけで。

朝は朝で玄関から出ると電柱の影からこっちを伺っている。

一体なんだっていうんだ!?

私はある日距離をおいて後をついて来るルンバに訊ねた。

「あんた大切な王子様の警護はしなくていいの?」

「王子の衛セキリュティ・ネットワークはこの町全域に拡大した。私はそのタ-ミナル。王子に危機が迫れば即座に感知…私はこの町の何処にも存在する」

この短期間で、さすがマサさんと言うべきか。

マサさんに聞いてみた。

「あのルンバのトルネ-ド吸引とか何とか…外宇宙まで人を飛ばせるならマサさんたち星に還れるのでは?」

「いや、あれは実際何処に飛ばされるか皆目分からないんです。下手したら頭と足、内側と外側が入れ替わって出てくるはめになります」

そんなやつに私は毎日毎日背後をとられて生活してる訳だ。

私とマサさんは最近よくお話をする。

少しだけど距離が縮まった気がする。

マサさんと私が会っている事は友達にも家族にも勿論高倉健汰にも秘密だ。

ただ商店街でお買い物の時顔を合わせる程度。密会でも何でもない。

そんな私の密やかな楽しみも王子直属のこいつに付きまとわれた日には…。

ルンバは今日も私の後をついて来る。

一定の距離を保っていても赤髪と銀髪の並びはかなり人目を惹く。

「お茶でも飲んでく?」

聞いても首を横に振りしきりに何か探しているようである。

ある日の朝。

「親父俺先工場行くわ!」

兄と一緒に玄関を出た。

玄関の外にはルンバがいた。

「お!つれが迎えに来てるぜ!」

「もう英二兄がら悪い」

ルンバは相変わらず口数少ない、おはようでもなく…と思ったら。

玄関で兄貴の顔を見るなり私たちの側まで駆けて来る。

ほんとは空飛べるくせに…なんだよ、その乙女走り。
「おはようございます。

高倉ルンバです。桐谷さんとは同じクラスです」

「か・可愛い子じゃん。お前の同級生」

あんたがルンバがストライクなのは、あんたが知らないだけで知ってるよ。

ミンチにされかけた事も。

私桐谷さんのお兄さん町内で見た事あります」

初期化されたはずだが。

「あ…そうなの」

「すごくかっこいいバイクに乗るかっこいい人!何処の人だろう?もう会えないのかな…なんて毎日思ってました…これって運命だと思います!」

流暢だなルンバ。

「運命…なのかな?」

鼻の下が玄関に着きそうな兄とルンバを残して私は玄関を出た。

「今度お兄さんのお仕事してるとこ見てみたいです」

どうやら私はルンバから解放されたようだ。

「明け方からドタバタドタバタ英二の部屋がうるせえから寝られやしねえ」

朝食のテ-ブルで姉の魔義華が欠伸を噛み殺している。

「まあ英二兄ちゃんにも春が来たって事でさあ」

「まさか、あのバカに彼女がねえ。親父嘆いてたぜ『仕事そっちのけで、ほけ~っとしやがって』って」

最近ルンバは放課後兄貴の働く工場に入り浸っているらしい。

とは言え隅っこで大人しくしているだけなので悪いのは兄の英二だ。

そんな話を姉としていると兄が大荷物を抱えて階段を降りて来た。

「英二、どうした?命より大切なエロゲや薄本抱えて、家出か?」

「うっせえな!捨てんだよ、こんなもん!」

「お前が?臍の緒がエロゲで繋がって生まれたような…お前本当に英二か?」

「リアルが充実しまくりの俺にはこんなもん必要ねえの!彼氏もいねえ可哀想なお・ま・え・らと違って」

鼻唄まじりで私たちの前を通り過ぎる。

「あんのクソが!エロゲと一緒に水曜日のゴミに出してやろうか!?」

立ち上がろうとする姉を私は制した。

「なんだよ夏菜…あの調子くれてるバカほっとく気かよ?」

ネタバレするまでもない。吉本新喜劇でも今時ないようなオチだ。

「ルンバの目当ては兄貴じゃないよ、多分」

「英二じゃなきゃ親父かよ!?」


姉、頭悪!

「ルンバのお目当ては多分【電人】」

「【電人】って…あのロボット型の変なバイクか!?」

「間違いないよ」

兄貴と話しながら、抜かりなくバイクが置いてある車庫を見ていたルンバ。

兄貴よあんた当て馬だよ。

「あいつ張りぼてロボに負けるのか、それって…」

「ど~する?魔義姉」

「ど~する?ってこのまま泳がしとくに決まってんだろ」

「だね」

私と姉が笑いを噛み殺していると母が話に割って入る。

「何?何?恋バナなら魔魅蔚も混ぜて!?」

さながらそれは。


会おう、会おう、会おうよ英二に会おう

会ってみたいなそんな英二に

三人集まりゃ輪になって

人の定めを駆け巡る

覚えていらっしゃい魔女3人

これから起こる出来事を

いいはひどい♪

ひどいはいい♪

すぐに向かおう、彼の元♪


マクベスに登場する3人の魔女の宴のようであった。





《 サンバでルンバ 了 》





【 あとがき 】
次回…【魔法少女は振り向かない・DAYS EBREAKER】 うそ予告。

「なんくるないさ~っとナックル~カイザ~♪」

「マサ…嘘でしょ!?マサまで…僕を裏切るつもり!?」

「この国の寒さは…骨身に染みます」

「植民地?餌だよ餌!」

「てめえら!黙ってねえでイ-!だのキ-!だの言ってみやがれ!!」

「お願い立って…電人」

「なんだ、こいつの動き!?バッタかよ!?」

「王子は誇り高き飛皇族…その末裔です」

「これが赤の消失!?」

「死んでもらいます」

「いつか私がマサさんを星の海に」

「こんな言葉知ってますか?宇宙の海は俺の…」


「これで墜ちなきゃ反転蹴りだ!!絶対諦めない、諦めてなんかやるものか!!!」

「さようならレイジングフェイト」

すっごいネタばれしまくり!?・・これじゃあ続きなんて書いてもしかたないなー(逃 さて記念MC・・


【 その他私信 】
初めての二話掲載ですが・・カレ-でつないでみました。「私のつばさ」という作品のタイトルがおじゃ魔女ドレミの歌というのは書いてから知りました。これは見た事なくて「私のつばさ」という歌詞が出てくる「学びの雨」という曲からタイトル思いついたのでありました。


ココット固いの助
mixiアカウント
 http://mixi.jp/show_friend.pl?id=20662502

● COMMENT ●


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック:

http://misterycirclenovels.blog.fc2.com/tb.php/274-5b6c51b5
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

《 ツンデレ武将がやってきてラブコメになるとおもいきや俺が征夷大将軍になっていた3 》 «  | BLOG TOP |  » 《 私のつばさ 》

プロフィール

MC運営委員会

Author:MC運営委員会
このブログの八割は、カボチャで構成されております。

カテゴリ

Mistery Circle(メインカテゴリ) (39)
寸評 (29)
MCルール説明 (1)
お知らせ (36)
参加受付 (24)
出題 (35)
メールフォーム (3)
内藤クンのおもちゃの部屋 (9)
天野さんの秘密の部屋 (8)
Ms.伍長の黙示録の部屋 (0)
伊闇かなでの開かずの部屋 (4)
未分類 (27)
亞季 (2)
いつき (1)
伊闇かなで (2)
空蝉八尋 (4)
黒猫ルドラ (12)
ココット固いの助 (21)
桜井 (1)
桜朔夜 (1)
鎖衝 (11)
知 (21)
しどー (12)
瞬 (3)
白乙 (12)
すぅ (13)
すずはらなずな (29)
田川ミメイ (2)
辻マリ (14)
夏海 (3)
七穂 (1)
氷桜夕雅 (30)
ひとみん (4)
松永夏馬 (12)
望月 (8)
幸坂かゆり (21)
李九龍 (13)
りん (3)
ろく (1)
Clown (12)
MOJO (1)
pink sand (9)
rudo (8)
×丸 (4)
MC参加者に聞け (7)
Mistery Circle ヒストリー (1)

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

検索フォーム