Mistery Circle

2017-05

《 ツンデレ武将がやってきてラブコメになるとおもいきや俺が征夷大将軍になっていた3 》 - 2012.07.09 Mon

《 ツンデレ武将がやってきてラブコメになるとおもいきや俺が征夷大将軍になっていた3 》

 著者:氷桜夕雅








第三話:夏の海にやってきて流刑にライバルドッキドキ

ほとんど空白の用紙にはそう書いてあった。
『このままでは受験どころか卒業も怪しいですよ。ちゃんと勉強しましょう』
現国の先生でクラスの担任でもある三樹先生のありがたいお言葉の前に僕、平野頼友はぐうの音も出なかった。
一言で言おう、夏休み前の期末テスト・・・・これがなんていうか大変ひどい結果であったのだ。
いやむしろ優しい三樹先生だからこれで済んでいるんだろう、これが他の先生方であったら屋上の柱に逆さ吊りにされててもおかしくない、えっ?いったい何点取ったんだって?
いいかい、聞いて驚くなよ





・・・・三点だ。





現国三点、百点中三点。しかもその唯一とれた点数ってのがお情けで名前が書けたからおまけでという悲しい現実。
いやでも聞いてほしい、まぁ確かに僕は勉強できるほうではないがこの点数をとった背景、これには深い、実に深い訳があるんだ。
「ねぇねぇ頼友、テストどうだったぁ?」
っと、今から聞くにも涙語るのも涙な話を展開しようと思ったのにやたらとニコヤカにテスト用紙を持ってこちらにやってきた北条政子によってそれは遮られてしまった。
校則違反だろと言いたくなる真っ赤なツインテールに少し着崩した制服を華麗に着こなすこの美少女、北条政子はええっとなんていうんだろうなぁ僕の家に居候しているインターネットゲーム『イクサカーニバル』からやってきた超絶美少女なのだ。って、自分で言ってても「なに言っているんだこいつ?」と思うんだけどこれが事実だからしょうがない。
「テスト・・・・ぼ、僕はまぁそこそこだったよ」
「ふっふぅ~ん、じゃ私の勝ちね」
そう言って政子は僕の前にテスト用紙を見せつけてくる。パッと見で分かった、なんか丸多い・・・・いや丸しかついてなくね、これってまさか。
「百点取っちゃった♪」
「はぁぁぁぁぁっ!?百点とかおかしすぎるだろっ!」
まさかの百点という数字に僕は思わず不満の声を上げた。いやそれもそうだ、政子のやつテスト期間中まるで勉強もせずにいつも通りポテチとコーラを食しながらゲームやってただけじゃないか。しかも対戦相手が欲しいからって勉強中の僕に『傀儡政権』を使って無理矢理付き合わせるんだものな、僕が今回現国三点なんて点数を取ったのは完全にこいつのせいだ。
因みに『傀儡政権』ってのは政子の持っている特殊能力で「傀儡政権の始まりよ~」なんて言いながらおでこを指で弾くだけで少しの間相手を思うがままに操ることができるという超絶危険な能力なのである。
「あれか、お前三樹先生に『傀儡政権』使ってテスト問題を教えてもらうとかしたんだろ」
「そんなことしなくても普段の授業聞いてたら余裕じゃない、先生もそう言ってたし」
「ぐっ!!」
なんていう正論、正論すぎて何も言えねぇ。これが地力の差ってやつなのか、いるんだよなぁたまに全然勉強してないのにテストで良い点とるチートみたいな奴が。
「へぇ~政子ちゃん、可愛いだけじゃなくて勉強もできるとかパーフェクトだね」
そしてそんなチートみたいな奴がもう一人そんなことを言いながら姿を現す。
「まっ、俺も百点なんですけどねぇ」
そうおちゃらけた感じで現れたのは相変わらずの整っているのか整っていないのかわからない茶髪にベイビーフェイスの悪友、三奈本だった。
「三奈本も百点なのかよ」
「ま、俺くらいになると勉強はベッドの中で覚えるもんだぜ」
「ぐぬぬ、なにかよくわからないけど凄く屈辱だ」
人は見かけによらないとはいうけど三奈本も相当チャラくてどうみても勉強できそうにないのに毎回きっちりクラスでもトップクラスの成績を取ってくるんだよなぁ。
「ん、わかんないか?あれだよ外国語を学びたいときは外国の女の子とベッドを共にすればいいという話だよ。ちなみに俺は昨日一日中しずくちゃんが黒人とやりまく・・・・」
「はいはい、三奈本その話もうお終い。というか現国の勉強とその外国語の覚え方っぽいのと一日AV見てたのは全然というかなんにも関係ないじゃないか!」
関係ないどころか昨日一日AV見てた奴が百点取れるっていうことに憤りを感じるよ僕は。
「それでそれで頼友は何点だったの?私が勝ってたら新作ポテチ奢って~♪」
「政子百点なんだから勝てるわけがないだろ!!」
僕はため息をつくとそそくさと隠すようにしてテスト用紙を折りたたみ机の中にしまいこむ。遊んで百点取ってるこの二人に三点の答案なんて見せれるわけないじゃないか。
「なんだなんだぁ?金欠なのか頼友、駄目じゃないか女の子に奢ることもできないとか男の恥だぞ」
「そうだそうだぁ~」
ケラケラと笑う三奈本に政子が同調するがこっちとしては死活問題なんだっての、政子には毎日コーラとポテチを奢らないといけないことになっているし僕がやっているネットゲーム『イクサカーニバル』は今や課金ゲームと化してしまってとにかく僕にはお金がないのだ。
「そんな頼友にがっぽり稼げるいい話がございますぜ」
そんな切羽詰まった状態の僕に三奈本はどこぞの時代劇に出てきそうな悪徳商人を思わせる不敵な笑みを浮かべつつ指を立てる。ああもうこれはなにか嫌な予感がひしひしと感じられるね、なにせ世の中にそんないい話なんてないからだ。うん、ないね・・・・この前も後輩に高額収入のバイトがあるから手伝わないかって言われてほいほいと手伝った報酬がまさかのネットゲーム内の通貨だったんだよなぁ、まぁ悪気はなかったみたいなんだけど。
「それで一応話だけは聞くけど変な話じゃないだろうね」
「なぁに信用してくれ、海の家でのバイトだ」
「海の家ぇ?」
海の家といえば海水浴シーズンによくあるバイトの一つじゃないか。なんていうかイメージ的に「やったぁ!!リゾート地で遊べるぜ!!」と思ったら茹だるような暑さの中重労働をさせられる感じがするんだけど。
「なに心配しなくても仕事自体は忙しい土日の二日で夕方になれば海で遊べるし、なにより俺の知り合いの人だからかなり給料も弾んでくれるってよ、実際悪い話じゃないと思うけど?」
「まぁ確かにそうだなぁ」
正直だらだらと稼ぐよりかは短時間でがっつり稼げた方がいい、なんていうか僕って自分の時間がないと駄目っていうか『イクサカーニバル』をやらない時間が長いと禁断症状でるしね。あっ、いや勉強もする、しますよ・・・・しないとゲーム禁止とかありそうだし。そう考えると確かに悪い話ではない気がする。
「あっ、そうそう政子ちゃんもどう?結構美味しい仕事だよ」
「えっ、あっ、私?え、ええっと海の家だっけ・・・・ん、ん~ないかな、うん、ないない!」
急に三奈本に話を振られた政子はなにか慌てた感じで首を横に振った。
「自分でお金稼げば好きなだけポテチとコーラ買えるんだから北条さんもやればいいじゃないか」
「嫌ったら~嫌っ!頼友にテスト自慢もしたし私は自分の席に帰りまーす」
政子が自分で働いてポテチとかを買うっていうのなら僕は全然反対しない、むしろそうしてくれると僕としては物凄く助かるので進言してみるも政子はふくっれ面で踵を返すと自分の席へと戻っていく。
あの政子が物に釣られないなんて珍しいなぁと、まぁでも政子のやつがいない方がバイトは捗るんじゃないかと思ったのだが帰っていく政子の背中を見つめながら三奈本は難しそうな顔をする。
「ん~困ったなぁ、これは困ったことになったぞ」
「なにが困ったのさ?」
「いやこのバイト条件があってさ、グループ参加というかなんていうか女子が三人はいないと駄目っていうんだよ」
「なんだよその条件・・・・」
そこまで聞いてやっぱり美味しい話には裏があるなと実感せざるを得ない。でも女子が三人いないとバイトもできないんじゃ探すしかないじゃないか。とは言えど正直女子の知り合いなんてそういないんだよなぁ。
「一人は日向さんに頼んだからいいけど政子ちゃんともう一人は頼友が誘ってきてくれよ」
「えっ、ああ・・・・ううん。でも女子の知り合いなんてそういないんだよなぁ」
政子はなんとか説得するとして後一人なんてそうそうでてこない、真っ先に出てきたのは妹の早苗だけど・・・・いやまぁあいつもどこかに友達と旅行するとか何とか言ってたしなぁ。普通に考えてそうゆう女子の知り合い多そうなのは三奈本の方だと思うんだけど。
「おいおい、一人いるだろ一人とびっきりの知り合いがさ」
割りと本気で自分の交友関係のなさに悩んでいると三奈本がそんなことを言いながら肘で小突いてくる。
とびっきりの知り合い?そんな人居たっけっと思っていると三奈本の口からとんでもない人物の名前が出たのだ。
「ほれ東雲さんだっけ?あのメガネの爆乳の子いたじゃん、頼友あの子にしよう!いやあの子じゃないとダメだ!!」
「ダメだってもうなんか趣旨変わってきてるし!」
三奈本の言う東雲さんというのはこの間の文化祭で知り合ったというか物凄く厄介なことに巻き込んでくれた後輩、東雲千影さんのことで『イクサカーニバル』のゲームマスターを高校一年生にしてやっている凄い子だ。まぁ凄いのはそういうところだけじゃなくて胸も高校一年生とは思えないくらいの大きさでそりゃそんな子が水着とか着たらそりゃ生唾ゴクリものなのはわかるんだけど。
「いや東雲さんとはそこまで仲が良いわけじゃないし」
「頼友ならできると俺は信じているぞ、じゃバイトは明後日からだからよろしくな!!」
「えっ、ちょっと待ってよ」
僕の声など無視して三奈本は僕の肩をポンと叩き、そそくさと教室を出て行ってしまう。
「ああもう、なんでいつもこうなるかなぁ」
なんていうか相変わらずの無茶苦茶な展開に行く前から物凄く不安になり思わず頭を抱えてしまう僕であった。


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提督、終業式ですよ終業式! - 2013.07.20 17:07 編集 URL


そんな山葵だけが入ったラーメンが一番利率良いとかもうファンやめます!な「ヤキトリはいらない」の管理人 平野頼友です!

ようやく僕の学校も終業式でこれから夏休みですよ、夏休み!!

これからはもうクーラーのキンキン効いた部屋で『イクサカーニバル』のレベル上げをガッツリやれますね!


しかしながら僕も結構忙しいんですよね。ほら今年受験生ですし、最近妙に女の子にモテちゃって今度海にデートをしにI



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「いや流石に嘘はいかんな、消しとこ消しとこ」
なんていうか顔の見えないネットだとつい虚勢を張って自分を大きく見せてしまいがちだ。元々『イクサカーニバル』のトップランカーとしてブログを始めた身としてはそういう肩書きを自慢したくて始めたようなものだからついやってしまいがちだけどそんな嘘をついたって現実がこれじゃ虚しくなるだけだからな。
スマフォのバックスペースボタンを連打しながら思いっきりため息をつく。
なんていうかこんなことを授業が終わってから学校内にあるコンピューター室の前でずっとしているような気がする。
「現実の僕はモテるどころか、女の子一人に声かけるのだって迷ってるんだからな」
いやまぁそれが東雲さんじゃなければすぐ話しかけるところなんだけど正直苦手なんだ僕、東雲千影さんのことが。
そりゃまぁちょくちょく僕の部屋で『イクサカーニバル』を協力プレイというかレベル上げの手伝いというかしているよ。でもそれで僕への好感度がちょっとでも上がっているのかと思ったらそれほどというか全く上がっていないらしく毎度感謝されているのか罵倒されているのかわからない感じで・・・・なんていうか後輩だっていのに威圧感ぱないんだもの。
「バイトは明後日だし明日出直そうかなぁ」
「さっきからなにをブツクサと言っているのですか平野頼友」
「うひゃあ!」
突然かけられた声に思わず素っ頓狂な声を上げて振り返るとそこには熟れた大きなメロンが二つじゃなかった見るからに仏頂面をした東雲千影さんがそこにいらっしゃった。
「何か用ですか?用があるなら速やかに仰ってください」
後輩だというのにこの冷ややかな対応、笑えばそこそこ可愛いくせに屠殺場の豚を見るような目ばっかりしおってからに自然と恐怖で敬語になってしまうじゃないか。
「ええっとですね、折り入って東雲さんに頼みたいことが」
「私に、頼み・・・・ですか?」
東雲さんは眼鏡の蔓を指で押し上げると腕を胸の前で組みながら物凄く怪訝そうな表情でこちらをみつめる。
どう考えても今、このタイミングで海に誘ったとしてもダメな気がするけど時間がそもそもないので玉砕覚悟だ。
「あのさ、明後日一緒に海に行ってくれないかなぁって思いまして」
「海・・・・ですか。しかしなぜ私が平野頼友と海になど行かなければならないのですか?」
「い、いやバイトがあって三人爆乳集めじゃなかった、金が必要でってええっと・・・・」
支離滅裂で的を得ない僕の言葉に険しかった東雲さんの表情が更に曇り思わず口ごもる。
「何を言っているのか全くわかりませんが私は忙しいので・・・・」
「よいではないか~たまには息抜きも必要なのだ!」
もう終わったと思ったところで助け船を出してくれたのは教室の扉からひょっこりと顔を出した織田信長だった。
織田信長と言ってもよく聞く切れ長で強面なあの織田信長とは違う、真っ赤な着物に紫色の帯、目元できっちり切られた金髪はどっからどうみても小学生か低学年の少女。言われなきゃ全くわからないだろうがこの織田信長も北条政子同様『イクサカーニバル』からやって来たキャラクターの一人だ。
「しののめーは最近根を詰めすぎなのだ、休息も必要ぞ」
しかしながら焼き鳥の串をクルクルと回す信長の様子はなぜか様になっている。
「根を詰めすぎてるってなにかやってるの?イクサカーニバルの話?」
「平野頼友、貴方には関係ないことです」
相変わらずバッサリと言い放つ東雲さんだが次に僕の顔をじっと見つめると諦めたように息を吐く。
「わかりました、行きますよ。だからそんな捨てられた子犬のような目で見ないでください」
「え、僕そんな顔してる?」
「してますとも、では私は忙しいので詳しいことはメールで教えてください。それでは失礼します」
「じゃあの~頼友、妾も楽しみにし・・・・」
信長が最後まで言いきる前にコンピューター室の扉はピシャリと閉じられる。
「ん、まぁこれで約束は取り付けたかな」
なにか最後の方東雲さん、慌てているというか・・・・僕の気のせいだと思うけどどこか照れてる感じがしたが、まぁこれで難関の一人を攻略できたからいいだろう。
「しかし何やってるんだろう?」
東雲さんっていつも放課後にはコンピューター室にいるけど好感度が低い僕ではなにやってるかなんて教えてくれないんだろうなぁ。
『イクサカーニバル』は普通のインターネットゲームのはずなのに怪しいところが沢山あるんだよな。その最も顕著なものが『扉形成プログラム』だ。単純に言ってしまえば『イクサカーニバル』の世界と行き来できるようにするプログラムだ。はっきり言って非現実なプログラムだと思うけど実際に北条政子や織田信長が現実世界にいる以上信じざるを得ない。そして運営はそんなプログラムなんてのを作ってどうするつもりなんだ?
強い武将を使って世界征服?それとも可愛い美少女を集めて酒池肉林なハーレムでも作る気か?
「考えてもしょうがないんだけどぁ」
わかってる、考えても答えなんてでてこないことは。東雲さんは「普通のプレイヤー」に戻れと言っていたけど正直普通のインターネットゲームの裏でこんなことが行われているなんて知ってしまったら気にするなっていう方が無理だよ。
「ま、しかしとりあえずは目の前の問題を解決することが先だな」
そう、今の僕にはそんなラスボス的な大きな闇に挑むよりも先にやらなければならないことがある。
僕は一息つくとラスボスよりも厄介な交渉相手の待つ我が家へと帰宅することにした。



「まぁこんだけ買ってくればあいつも心変わりするだろう」
僕は家の階段をあがりながら勝利を確信していた。
手にはコンビニ袋、そこには今日発売の新作のポテチが大量に詰めこまれている。
政子の奴にはいつも普通のポテチばっかり買ってるからこの新作ポテチはまだ食べたことないだろうしがっつり食いついてくると思うんだよな。正直痛い出費だがバイトのためだ、ぐっと我慢しようじゃないか。
「と、いうことでただいまぁ!」
僕はありったけの元気を出しながら自分の部屋の戸を勢い良く開ける。
「ん、なぁんだ頼友か」
そこには僕のベッドで寝転がりながら漫画に集中している政子の姿があった。政子は一瞬こちらを見るとすぐに向き直しつまらなそうに呟く。うむ、なんていうかこの反応、冷えきった夫婦関係みたいでおもわずつらくなるが気にしないようにして僕は話しかける。
「あ~えっと政子ちゃん、ちょっとお話があるんですけど~」
「なに?いまちょうど面白いところなんだけどぉ」
振り返ることなく面倒くさそうに言う政子に構わず僕はコンビニから新作ポテチ『そうめんのつゆ味』を取り出す。
「新作ポテチを買ってきたんだけ・・・・」
「それを早く言いなさいよ、言いなさいよったら言いなさいよ!」
そしてポテチの名前を言っただけでこの結婚早々の新妻のごとくベッドから転がり落ちると這ってこちらにやってくる。というか『そうめんのつゆ味』以下なのか、僕の存在は。
「わぁ本当に新作ポテチじゃない、ありがと頼友」
「っと、そんなに簡単には渡せないなぁ」
僕は伸ばした政子の手をひょいとかわす。
「これは僕のお願いを聞いてくれたら、あげるよ」
「お願い・・・・?あっ、わかった!この超絶美少女である私に変態的なことをしようとしているんでしょう!その手には乗らないんだからね!!」
「いや、ただ海に一緒に行って欲しいだけなんだけど」
僕の言葉に政子は少しびっくりした様子を見せると不意に視線を外す。
「海には行かないって言ったじゃない、言ったじゃないったら言ったじゃない!」
「いやそこを頼むよ、バイトするのに女子が三人いないとダメなんだって」
「そんなこと言われてもぉ・・・・」
いつもの調子ではなく急にしおらしくなる政子。正直なんでここまで海に行くのを拒むのだろうか?
「しょうがない、もう一個の『冷やし中華味』もつけるからさ、頼む!!」
とはいえこちらも引くわけにいかず予め買っておいたもう一つの新作ポテチを袋から取り出してみせる。
「な、なによ!そんなの出してどんだけ私を海に誘いたいわけ?」
「いやむしろ政子がどんだけ海行きたくないんだよ、あれだぞ海は娯楽があるしイケメンだっているんだぞ」
北条政子がこっちの世界に来た理由は現実世界の娯楽を楽しむためと源頼朝を探すため、まぁ源頼朝はいないにしろ海には娯楽が満載なわけであってなんでこうも断るのかがわからない。
「嫌なものは嫌なの~でもポテチは欲しいなぁ・・・・」
そっぽ向いたままの政子がチラチラと横目で僕の手にあるポテチを確認している。後ひと押しかな、と思った矢先政子は僕の予想だにしない行動をとった。
「わかったわよ、しょうがないなぁ頼友は」
政子が向きを直すと僕の手を掴み、ぐっと顔を近づけてくる。
「海行かない代わりにキスしてあげるからポテチちょ~だい」
「はぁぁぁぁっ!?」
突然飛び出したキスと言う単語に思わず動転し距離を離そうとするも政子にぎゅっと握られた手がそれを阻む。
「あれれ~どうしたの頼友?童貞だからキスとかしたことなくて緊張しちゃってる?」
さっきまでの悄気返った顔とは打って変わって口元に指を当て誘惑するように言葉を紡ぐ。いつも馬鹿やっている政子だけどこういうことをやらせると地の美しさというかそういうものが際立ってきていつになくドキッとする。
白い肌にぷっくりと熟れた薄桃色の唇に思わず吸い込まれそうになるのをじっと抑えて政子を見つめる。
「もう恥ずかしいから目を閉じてよぉ」
「いやいやいや、ちょっと待て!どうせキスすると見せかけて傀儡政権やるつもりだろ!」
「・・・・ちっ!」
僕の言葉に政子はパッと手を離すと横を向いて舌打ちをしおった。ええそれはもうはっきり聞こえるくらいに思いっきりだ、やっぱり騙そうとしてたんだなこいつ!
「なぁんだ、バレてたのかぁ。というかなんでバレるかな童貞だから絶対にばれないと思ったのにぃ」
「なんだよそれ!というかだ、童貞だからとか以前にそのネタ前にもやったからバレバレだっての!」
まぁちょっとドキッとしたのは内緒だけどな。
「ああもう面倒臭いなぁ、行きますよ。はいはい行きますからポテチ頂戴!」
政子は軽く背伸びをすると本当に面倒くさそうに言い放った。
「えっ、いいの?」
「嫌だけどポテチ欲しいんだもん、しょうがないじゃない!ということで」
心底面倒くさそうな様子の政子だけどやっぱり食い意地には敵わないか、しぶしぶだけど海に行くことを承諾してくれた。僕から袋を奪い取るとベッドに戻りさっそくポテチに夢中になっている。まぁ行くって言ってくれたんだから良いんだけどさ。
「ところで政子、一つ聞きたいんだけど」
「なによぉ、今どっちが美味しいか食べ比べしてるとところなのにぃ」
政子が海に行きたくない理由、ここまで来ると鈍感な僕でもわかる気がする。
「もしかしてだけど政子って泳げないの?」
「な、な、な・・・・なに言ってんのよ!!そんなわけないじゃない!!」
明らかに動揺してんじゃないか、というか口からボロボロポテチこぼしてるぞ。っと政子って泳げないのか、これはまた当日面白いことになりそうな気がしてきたなぁとか思ってしまう僕は結構ドSなのかもしれない。


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海は広いし大きいし - 2013.07.22 08:11 編集 URL

はいはーい、元トップランカーの平野頼友です。いやぁでももう元トップランカーなんて言っても通じないくらいに今や「イクサカーニバル」の世界は混沌としてきましたねぇ

課金制度導入によるリアルマネーでのパワーゲーム、β時代からやってきている僕としては大変厳しい状況ですね。

まぁでもこんなことで諦める僕じゃありませんよ。

とはいえインターネット戦士にも休息は必要なもので今日は海にやってきてますよ!!海ですよ、海!!



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「と、こんな感じで送信っと」
ソマフォのボタンを押して一息つくと、まだ朝も早いがすでに真夏といった暑く焼けるような日差しに思わず手を翳し空を見上げる。
ベタな、実にベタな表現しか語彙のない僕には出来ないが目の前に広がる青い空、白い砂浜、透き通る海に、なんだええっと・・・・
「とりあえずなんで君達は相変わらずな格好しているの?」
僕は後ろを振り返り思わず嘆息する。目の前にいる北条政子と織田信長の格好を見てのことだ。なぁんで夏の海に来てるのにいっつもの黒と赤を基調としたゴスロリパンク、そして金の刺繍が美しい着物なんて着ちゃってるの?
「だって私これが正装だもの」
「せいそーなのだ!」
「さよですか・・・・」
正装って、まぁゲームのキャラなんてそんなものか、見るからに暑そうな格好だけど二人とも汗ひとつかいてないし、いいのだろう。
実のところこの二人よりもこの夏の海にふさわしくない格好で来ている奴がいるんだからな、それが・・・・
「よくきたピ!待っていたピー!」
変な語尾とともにピョンピョン飛び回るタヌキの着ぐるみ、これ実は三奈本の奴が入っている。現地集合で待ち合わせ場所についたときこのわけのわからん着ぐるみがいたときは帰ろうかと思ったくらいだ。
どこに向いているかわからない目にだらしなく開いた口、ゆるキャラだがなんだか知らないが三奈本の奴はお世辞にも可愛くないこれで海の家の客引きをやるつもりらしい。
「三奈本、それ暑くないの?」
「三奈本じゃないっピー!たぬきっぴーだピー!」
一々ピョンピョン跳んで甲高い裏声をあげるのは正直鬱陶しいというか暑苦しいんだけど大丈夫なのか?
「ああ、それ一応中に小型のクーラー入ってるから意外と快適だよ」
そう言うのは多分この中で一番の常識人と名高いクラスのアイドル日向みなみさんだ。日向さんはポニーテールが目印の明朗快活な女子で性格も良く、スタイルも抜群だ。
「まぁこんなに暑いからね、着ぐるみの中は涼しくしないとね」
水着の上から羽織っている麻素材のアウターの襟口を団扇のようにあおぎながら日向さんは言う。
彼女、どうみても運動部っぽい風体だけど実は科学部の副部長さんで一説にはなにかやらかすたびに爆発を引き起こすクレイジーボンバーの異名で知られている。ん、まぁでも僕は被害にあっていないから全然そんな印象はない。
「いやでも三回ほど爆発しているんで気を付けた方がいいよ~」
「そうなの?怖いから三奈本には近づかない方がいいな」
「え、まじで?これ爆発するの?」
急にオロオロしだす三奈本からとりあえずその場にいる全員が距離を離す。うん、なんていうか素に戻ってるよ三奈本。
まぁあいつのことだから爆発しても死なないだろうと、放っておいて、そして僕はこのバイト最後の一人へと目をやる。
「なんですか平野頼友、私がいることになにか不満があるようでしたらすぐにでも帰りますが?」
「いやいやいや!来てくれてありがとうと言おうとしただけだよ」
不満そうにそう言う東雲さんに慌ててフォローを入れる。なんというか約束したとは言え本当に来てくれるか不安だったんだよね。
「別に礼なんて必要ありませんよ。確かに息抜きは必要でしたしね」
そう言って柔和な笑みを浮かべる東雲さんは実に可愛い。花柄のワンピースに麦ワラ帽と映画かなにかのワンシーンのような美しさだ。普段からそうやって笑ってればいいのにと毎回のことだが思う。
「それで全員揃ったのなら早くその海の家へと行きませんか?私、あまり日差しが強いところは苦手なのですが?」
「そうだね。それじゃ三奈本、案内を・・・・」
東雲さんの提案に頷き三奈本の方を振り返る、と
「日向さん、本当にこれ爆発しない?ねぇしない?」
「う、うーん。だ、大丈夫だと思うよ。で、でもとりあえず三奈本君、皆から離れようか?」
震えた声を出しながら後退りする日向さんとなにやら背中から焦げ臭い煙をあげながらこちらに近づいてくる三奈本、もといたぬっぴーの姿があった。
・・・・間違いない、これは爆発する寸前だ。
「みんな逃げろぉ!!」
僕の叫び声とほぼ同時、この真夏の海に一つの花火が打ち上げられたのだった。



と、まぁ到着早々に大惨事があった僕達だったがなんとか無事にバイト先である海の家にたどり着いた。
ああ、誰も心配してないだろうが三奈本も無事だ。可愛くないたぬきの着ぐるみは所々に焦げ跡が残り綿らしきもが口から漏れ出して余計可愛いげがなくなっているが命に別状はないみたいだ。
たださっきまではクーラーが内蔵されていて涼しかったからピョンピョン跳び回っていたのがクーラーが爆発した後はみるからに暑さにフラフラしていて相当暑いんだろうなって事は誰がみても明らかだった。
「三奈本、それ脱いだら?」
本来海の家に案内するはずの三奈本が僕達の後ろでふらついているのだから困ったものだ。
「だいじょう、ぶ・・・・たかが、メインクーラーが壊れただけだ!」
「いやどうみてもそれダメじゃないか」
「きぐるみを着てたら水着の女の子に抱きついても・・・・平気、なん・・・・だ、負けてられる・・・・か・・・・・はっ」
「はいはい、その前に倒れそうだけどね。無理しないでくれよ」
完全に欲望が口から漏れている三奈本を放っておいて木製の風通しの良さそうな造りの建物に入る。
「へぇ~ここが海の家ってやつなの?」
「政子ちゃんは海の家初めて?」
「というか海自体はじめて~」
「妾もはじめてなのだー♪」
政子と日向さん、そして信長の会話を聞きながら辺りを見渡す。まだ朝早いからなのか店には誰もおらず、天井を回るシーリングファンの音だけが静かに聞こえていた。
「すいませーん。」
僕が声をあげるとほどなくして「あいよー」という威勢の良い声と共に奥にある扉が開く。
「悪い、悪い。ちょっちトイレに行ってたもんでよ、ええっとお客さんだったかな?」
そういって現れたのは短く刈り上げられた黒髪に健康的に焼かれた焦げ茶の肌、ばっちり割れた腹筋のシックスパック、アロハシャツにグラサンと見るからに海の男って感じの男性だった。
「あ、僕は三奈本君の友達の平野頼友といいます」
「おお、君がバイトの募集してくれた頼友君か!俺はこの店の店長の雪村権蔵ってんだ、よろしくな!」
権蔵さんは近づくと僕の手をとりぐっと握る。
「いやぁ頼友君の知り合いは可愛い子ばっかりだねぇ!それじゃ軽く紹介してもらおうかな?」
「あ、はい。ええっとですね・・・・こちらが日向みなみさん、その左が東雲千影さんで、このゴスロリパンクが北条政子でこっちの小さい子が織田信長です」
「ほほぉん・・・・」
権蔵さんは僕の紹介に手を離すと腕を組みいぶかしむ。
「北条政子に織田信長たぁ、あれかキラキラネームとかいうやつかぁ?最近多いんだなぁ」
「妾の名前はそのきらきらなんとかなのかえ頼友?」
「あ~う~ん、どういえばいいかなぁ」
信長が僕の袖口を引っ張りながらそんなことを聞いてくるが
はっきりいってどう答えればよいのやら。
「まぁ武将っぽい名前ではあるよねぇ、天下統一する前に本能寺炎上しそうな名前だよねぇ」
とりあえずそう適当に言っておいてさっさと話を逸らそうと思ったのだけど信長はそれを許さない。
「なにを言う頼友、妾はしょーしんしょーめー、だいろくてんまおーの織田信長ではにゃ・・・・むぐぐぐぐぐっ!」
「あははーまぁこの子の親が織田信長好きでつけたんですよ~」
なにかそのうちなにもかもぶちまけそうな織田信長の口を押さえ愛想笑いをする。下手に「この子ゲームからやってきた織田信長なんですよぉ」なんて言えるわけがない、北条政子はまだ女性の名前だし普通にいても問題ない名前だけど幼女で織田信長ってのは違和感しか覚えないんだからなにか考えないとな。
「ぷはっ!頼友、いったいなにをするのだ!」
「と、とりあえず後で焼き鳥奢るから静かにしようね」
僕の手を振りほどき大声をあげる信長に最終手段で耳元でそう囁く。
「む、むぅ・・・・しょうがないのだ、お口チャックするのだ」
口を両手で押さえる信長に一息つくも、よくよく考えたらこれからバイトをさせてもらう店長の前でなにくだらない茶番をやってしまったんだと猛省するしかないのだが。
「いやぁ~健の奴が面白い友達とは言ってたけどここまで面白いとはね」
一体なにが受けたのかはわからないが権蔵さんは両手を叩きながら笑っていた。ちなみに健っていうのはどうでもいいが三奈本の下の名前だ。
「ふぅ~笑った笑った。さて自己紹介的なものも終わったし、そろそろ仕事始めないといけねぇから」
一頻り笑うと権蔵さんはそう言いながら一人一人品定めをするようにして僕達を見渡すとしばらくしてポンと手を叩く。
「よし、平野くんと北條さんはキッチンで日向さんと東雲さんにはホールをやってもら・・・・」
「申し訳ありませんが私は過去の帳簿から無駄を削減し売上に貢献させて頂きます」
権蔵さんの言葉を遮って口を挟んだのは東雲さんだった。しかもその手にはいつのまにかノートパソコンが開かれ握られている。
「ちょ、帳簿?」
「そうです。人件費から材料費まで徹底的に見直せば売り上げは間違いなくあがりますのでおまかせください」
「そ、それならばお願いします」
東雲さんの淡々とした口調に思わず年上で店長な権蔵さんもなぜか敬語になってしまっていた。
ん~僕としては東雲さんにホールをやってもらいたかったんだがなぁ。エプロン姿でいつもの仏頂面じゃなくニコヤカに笑って接客すればそれだけで売り上げは上がると思うんだけどな。
「よし、なにか忘れているような気がすっけどそろそろ開店だ。みんなよろしく頼むぜ!!」
権蔵さんの掛け声とともにこうして僕の夏のバイトは始まることとなった。




「とまぁこんな感じで焼きそば作ってもらえばいいぜ!!俺は向こうで串焼いてるからなにかあったら呼んでくれ」
「は、はい!」
キッチンの熱く焼けた鉄板の前で首を伝う汗を拭いながら僕は権蔵さんから焼きそばの作り方を手帳にメモっていく。
僕ははっきり言って料理なんてしたことがない、しかも僕の作ったものをお金を払って食べる人がいる、当たり前のことだけどこういうバイトは初めてだしかなり緊張していた。
「あれぇ?もしかして頼友、緊張してるの?」
「まぁ少しな・・・・って、政子だってやるんだからな。お前料理できないだろ?」
ゴスロリパンクの上からエプロンをつけている政子がそうおちょくってくるのに僕はため息混じりに答える。僕が知るかぎり政子が料理をしているところなんて一切見たことないからな・・・・と思ったんだけど
「私だって料理くらいできるわよ、できるわよったらできるわよ」
なにやらと自信あり気な政子は両手で、てこを持つ。
「焼きそばなんて初歩の初歩じゃない。お湯入れて、三分待って、お湯捨てる。この工程さえミスらなければ簡単簡単」
「そうそう、よく先にソースを入れてしまうんだよね・・・・ってそれインスタント焼きそばの作り方じゃねーか!!全然話聞いてないじゃないか!」
「はいはい、冗談に決まってるでしょ。ま、とりあえず見てなさい」
そう言って政子はサラダ油を鉄板におもむろに引くと薄いばら肉を鉄板の上に並べていく。
「超絶美少女はなにをやらせてもそつなくこなすのよ~」
肉の焼ける音が良い頃合いになると政子は脇に大量にある切っておいた野菜を鷲掴み鉄板のへと放り込む。
「ほっはっとっ!」
端から見ている僕でもわかる、なんていうか政子の動きは実に手際がよかった。しかもパフォーマンスのつもりか途中でてこを空中に放り投げジャグリングをするという無駄な演出までしている。
「こっからが大事なのよ~まずは野菜と肉をちょっとどけて、麺を解しながら投入~」
「ふむふむ」
「そしたらここでいきなり混ぜないでまずお湯を入れて蒸らすのよ」
「へぇ~・・・・ってあれ?」
政子の解説を聞いていてふと僕は気づいた。権蔵さんに聞いた話にそんな説明なんてなかったのだ、つまりこれは政子が最初から知っていたことを意味していて・・・・
「湯気で蒸されて麺が温まったらほぐしてほぐして、野菜を混ぜてソースをかけるのよ!」
政子が鉄板にソースを注ぐと辺りに湯気とともに美味しそうな香ばしい匂いが立ち込めてくる。
「まぁこんな感じね。食べてみなさい頼友」
「う、うん」
恐る恐る箸を持って出来上がった焼きそばを口に入れる。なんというか食べる前から美味そうなのはわかっていたが一口食べた瞬間、僕は衝撃を受けた。濃厚なソースの味が野菜、肉、麺にうまい具合に絡み合い旨味が口の中に広がっていく、それでいてくどくなくいくらでも食べれそうだ。
正直言えば政子の作った焼きそばは今まで食べた中で一番美味しい出来だった。
「なに、これ・・・・物凄く美味しい。本当に料理できるんだな政子」
「あったりまえじゃない、超絶美少女で将来源頼朝様の妻となる私にできないことはないのよ」
言っていることは無茶苦茶な気がするがここまでの物を作り出されてしまうとぐうの音も出ない。
「平野君、早速オーダー入ったよ!」
政子が料理ができるという衝撃の事実にちょっと意気消沈していたところにホールにいる日向さんからカウンター越しに声が掛かり振り返る。
「あ、うん・・・・ってなにか凄い格好だね日向さん」
日向さんの姿を見て少し吃驚してしまった。なにせ一瞬裸エプロンをしてるように見えたからだ。いや冷静に見れば実際はエプロンの裾辺りから見える真っ赤なビキニに水着の上からエプロンをしてるのだがパッと見だとそれがわからないから困る。
「えっ、やっぱそうかな?どうせ皆水着だし動きやすくていいかなぁって思ったんだけど」
あっけらかんとした様子で日向さんは言うが、なんていうのだろう確かに水着だけでもセクシーなんだけどそこにエプロンが足されることでより淫靡な容姿になっていると思う。
「とりあえず私の格好はいいからオーダー、焼きそば三つお願いします」
「焼きそば三つね、わかったよ。政子焼きそば三つ~」
僕は振り返り鉄板の前にいる政子に声をかける・・・・が返ってきたのは予想外の言葉だった。
「嫌よ、頼友がやればいいじゃない、いいじゃないったらいいじゃない」
「はぁ!?いやいやいや、政子焼きそば作るの物凄く上手いじゃないか」
あんなに美味しい焼きそばが作れるのならもう僕が作るよりも政子が作ったほうがいいに決まってるじゃないか。
「私が料理を振る舞うのは好きな人だけなの、でもまぁ青のりパラパラだけはやってあげてもいいわよ」
「なんだよ青のりパラパラって、そもそもさっき僕に作ってくれたけどそれは・・・・」
そこまで言いかけて政子が僕のことを好きだなんてことがあるわけないと言いよどんだ。あきらめ気味に溜め息をつくと鉄板の前に立つ。
「んじゃまぁちょっとその政子は青のりパラパラでいいから横で指示してくれよ」
「指示?ん~いいけど私がもっといいことしてあげる」
「えっ?」
その言葉にふと振り返ると目の前に政子の指が見えて・・・・あっ、っと思った時には時既に遅かった。
「傀儡政権の始まりよ!!」
「なんもいいことねぇ!」
叫び声とともに目を押さえるがそんなことは関係なく光が瞼に焼きついてくる。『傀儡政権』は少しの間、政子の言うとおりに人を操ることができる能力なんだけどその時に政子から後光が差しとっても眩しい、アレ本当に慣れない。
「つぅ・・・・一体なにをやらそうっていうんだ」
「うーんとね。とりあえず焼きそば百人分作ってみようか」
「ひゃ、百人分!?」
百人という驚きの言葉に動揺しつつも体は勝手に動き、てこを持つと焼きそばを焼き始めている。というかこれってあれだよな百人分作らないと能力が切れないってことだろ、なにがいいことなんだよ。
「百人分も作れば嫌でも上手くなるわよ。そして上手くなったら家でも作ってね、私のために」
「ってイイコトって政子自身にとってかよ!!」
不満を漏らしながらも手は着々と焼きそばを作っている。
「あったりまえじゃない、頑張りなさい私の征夷大将軍」
征夷大将軍は全然関係ないだろと心の中で呟きながら黙々と焼きそばを作ることになったのだった。





「おうおう、いつもバイトの子に作らせているがここまで美味い焼きそば作る奴は初めてだぜ!」
「ど、どうも」
昼が過ぎて数時間、未だに僕は焼きそばを作っていた。というかそこまで焼きそばの注文がなくて無駄に作り過ぎ、権蔵さんや日向さん他の昼の賄いとして振る舞われることとなった。
「うんうん、良いお婿さんになれるよ平野君」
「ありがとう、まぁ焼きそばしか作れないけどね」
日向さんの言葉に答えながらも手は次の焼きそばを作ろうと麺に手を伸ばしている僕。ちなみに僕をこんな状況にした政子はというと・・・・
「はぁ、疲れた。もう皆好き勝手に青のりパラパラしてぇ」
なにか僕の隣で僕よりも疲れている政子の姿があった。全くなんでだよ、政子なんて本当青のりパラパラしてただけじゃないか。
「しっかしあいつら遅いなぁ、もうそろそろ帰ってきても頃なんだが」
僕の焼きそばを一気に啜りながら権造さんはそんなことを言う。
「ん?誰か来るんですか?」
「ああ、いつもなら朝漁にでて昼前には帰ってきてるはずなんだ」
そう言いながらこれで何皿目かという焼きそばに手を付ける権造さん、いや作ってるほうがいうのもなんだけどどれだけ食べるんだこの人。
「漁に出てるんですか?」
「ん~娘の芽衣と信玄さんがな、まぁ信玄さんがいるから大丈夫だとは思うんだが」
さらっと言った権蔵さんの言葉にピタリと僕の手が止まる。手が止まったのはちょうど百皿目の焼きそばが出来上がったから、そうなんだろうけど信玄って・・・・信玄って言ったら僕の知る限り一人しかいないんだけど。
「あ、あの~もしかしてその信玄っていうのは武田信玄だったりはしないですよねぇ」
恐る恐る尋ねてみる。いやまさかとは思うんだけどまた『イクサカーニバル』から武将がやって来ているなんてことは。
「そうそう武田信玄。いやぁでもこれがまたエライ美人でな、なぁんでそんな戦国武将みたいな名前つけてるんだか」
権蔵さんの言葉に僕は確信した・・・・間違いない、その武田信玄は『イクサカーニバル』からやってきた人物だ。でも一体なんのためにこんなところに現れたんだ?政子みたいに遊びたいだけか?それとも伊達政宗の時のようにこちらの世界への侵攻を考えてたりするのか?
「お父さん、ただいま~」
そんなことを考えていると勝手口の扉が開き、一人の女の子が入ってくる。歳で言えば僕より少し下、中学生くらいだろうか小柄な体型に肩ほどまで伸ばした髪を揺らす女の子は手に大きな篭を抱えて少しふらつきながらこちらにやってくる。
「遅かったじゃないか芽衣」
「ごめんなさい。でも思った以上に大漁で・・・・あっすいません、そこちょっとどいてもらえますか?」
権蔵さんに芽衣と呼ばれた女の子はふらつきながら僕と政子の間に割って入るとテーブルに篭をどんと置く。大漁と言うだけあって篭の中には沢山の活きの良い魚たちが入っていた。
「あ、もしかしてバイトさんでした?初めまして、私は雪村芽衣っていいます」
僕の方を見るとペコリと頭を下げる芽衣ちゃん。
しかし近くで見ると芽衣ちゃんは小動物的な可愛さがあるな、これが権蔵さんの娘とはちょっと想像と違って吃驚だ。
「初めまして。僕は平野頼友、んでこっちにいるのが北条政子でカウンターにいるのが日向みなみさん。あと何人かここにいないけど・・・・」
「えええええええええっ!?」
僕の自己紹介を遮って芽衣ちゃんが小柄な体に似合わない大声をあげる。
「なんだなんだ芽衣、大声だして」
「お、お父さん!平野頼友さんが来るってなんで教えてくれなかったの!?あの、平野頼友さんだよ!?」
なにやら妙に興奮した様子で僕の名前を連呼する芽衣ちゃんに思わず権蔵さんは狼狽え気味だ。
「平野君がどうしたんだ、ええ芽衣?」
「『イクサカーニバル』のトップランカーさんだよ、超有名人だよ!!」
早口で芽衣ちゃんは捲し立てるがなんかそこまで言われると照れるというかなんていうか。
「ふぅん頼友ってトップランカーだったんだ」
「元だけどな、というかなんで政子はそんな初めて知った風に言ってるんだよ」
「だって初めて知ったもの、頼友のこととかどうでもいいし」
どっから持ってきたのか椅子に腰掛けうちわを扇ぎながらそんなことを言う政子にはもうがっかりとしか言い様がない。
「元とはいえβ時代からトップランカーだったじゃないですか!私もβ時代からやっているんですけどその人からすれば英雄ですよ、英雄!」
その場でピョンピョンと跳びながらそんなことを言ってくれる芽衣ちゃんにはもう嬉しいというか恥ずかしいというかそんな気持ちの入り混じった、そんな気分だ。
僕がネットゲーム『イクサカーニバル』に出会ったのは本当まだβテストと呼ばれる言うなれば正式公開前のテスト段階の作品をユーザーがテストプレイ的に遊べるってそんな段階の頃で右の左もわかならない、ちょっと変なことをすればバグが待っているそんな状態で運良く攻略法を見つけてトップランカーになっただけなんだけど・・・・正直現実世界ではさっぱりな僕が「英雄」なんて言われるのは嫌な感じはしない。
「それはありがとう。それで芽衣ちゃんだっけ、β時代からやってたって言ったけどその時は誰を使ってたの?」
「えっと、信玄ちゃんを使ってまして・・・・」
「“信玄ちゃん”じゃなくて“親方様”って言ったでしょ雪村」
芽衣ちゃんの言葉を遮ったその言葉に振り返ると勝手口にはこれまた美人な女性が立っていった。
背丈はいうに180cmはあろうかという大柄でジーパン姿に胸元をさらしで巻いただけというラフな格好、長く伸びた伸びた髪をかきあげながらキッチンに入ってくると先程芽衣ちゃんが置いた篭の上にこれまた大きな魚をどんと乗せる。
「権蔵殿、活きの良いカジキが捕れたからおいておくよ」
「ああ、いつもありがとう信玄さん」
権蔵さんの言葉に「いつものことなんで」とだけ言うと政子の横にある椅子に腰掛けると僕の大量に作った焼きそばを一気にかきこみ始める。その勢いと言ったら豪快で僕の知っている『イクサカーニバル』の武田信玄の姿まんまだった。
「うむうむ美味い!それで、この人達がバイト君達ね。んでなにを雪村はなにをはしゃいでたんだ?」
どうやら信玄さん(ちゃんとは呼び辛い)は芽衣ちゃんのこと雪村って呼んで権蔵さんに対しては権蔵殿と呼ぶみたいだ。なぁんで芽衣ちゃんのことそう呼ぶんだろと思ったが、あれか芽衣ちゃんのこと真田幸村みたいに扱ってるんだろう。なぜか芽衣ちゃんには『親方様』と呼ぶようにしているみたいだし、まぁ微妙に年代合わないけど。
「あのねあのね、この人私がいつも言ってるトップランカーの平野頼友さんなんだよ」
「ほほう、こいつがかの平野頼友か」
焼きそばを口にくわえながらまじまじと僕の方を見る信玄さん。しばらくして一気に焼きそばを啜ると箸を置きポンと手を叩く。
「なるほど、これは見事な童貞だ」
「童貞に見事も糞もないですよ!!」
まさかの言葉に思わず大声で反論していた。なんだこれで初対面の人に童貞だとばれ・・・・言われたのは何回目だよ!
そんなに童貞オーラが出ているのかと思うとなんというか悲しくなってくるよ。
「いやまぁ現実世界生活マニュアルに『おおよそイクサカーニバルのメインプレイヤー層は童貞で、トップランカーともなるともう・・・・現実世界では生きていけない可哀想な人なので腫れ物を触るように扱いましょう』と書いてあったからな」
「あ~そういえばそんなことも書いてあったような気がする~」
信玄さんの言葉に政子が物凄く適当な感じで同調するが本当かよ!というか腫れ物を触るように扱ってもいないじゃないか!
くっそ目の前に現実世界生活マニュアルがあったら破り捨ててやりたい気分だよ。
「ふむふむ、まぁ話はよくわかんねぇが平野君と芽衣は知り合いみたいなもんなんだな、だったら今日はもうあがっていいぞ」
「いいのお父さん!?」
「まぁピークは過ぎたし店の方大丈夫だ、北条さんと一緒に行ってきな」
「ありがとうございます」
もう百人分も焼きそば作って腕がパンパンだったから休憩にはいれるのは本当に助かるところだ。
「それじゃ行きましょう!えっと、平野頼友さん!」
「あっ、そのまえにちょっと東雲さんに会ってきていいかな?」
燥ぐ芽衣ちゃんにはちょっと悪いけど完全に馴染んじゃってる武田信玄のこと東雲さんに報告しておいた方が良い気がしたからだ。
「えっと、はい!それじゃお外で待ってますね!」
「ごめんねすぐ行くから。それで権蔵さん、東雲さんは二階ですか?」
「ああ、あの堅物眼鏡なら二階にいるぞ」
疲れたように大きく息を吐くとそう答える権蔵さん。堅物眼鏡、なんともな言い草だが僕が焼きそばを作っているときにちょこちょこと権蔵さんのところに来てはやれ「材料費の見直しが~」とか「人件費が高い~」なんてことを事細かに進言していたからなぁ、相当耳が痛かったんだろう。
「それじゃ行ってきます~」
武田信玄がこっちの世界に来ていること、これをその堅物眼鏡さんに伝えたらどんな反応をするだろう?
なにかまた面倒なことにならなければいいけど、それが少し気になりながらも僕は東雲のいる二階へと足を運ぶのだった。



「そうですか、武田信玄が・・・・」
店の二階、小さな扇風機が回る部屋で僕の報告を聞いた東雲さんはパソコンに向かったまま静かにそう言った。
「一応言っておいた方がいいかなって」
「そうですね、ありがとうございます平野頼友。しかし話を聞く限り危険はないのではないかと思います」
「まぁ、そんな感じだけど」
まだ会って少ししか話してないからはっきりとまではわからないけどあの武田信玄さんが伊達政宗の時のように現実世界への進攻は考えていないと思う。
「でも『扉形成プログラム』がそんなに出回っているのはまずいんじゃないの?」
武田信玄さんが良い人そうだからいいものの厄介な伊達政宗みたいなのがそれこそどこからでも湧いてきてこっちの世界で色々面倒をやらかす可能性もないわけだし。
「『扉形成プログラム』の流出に関してはこちらでも調査しています。貴方が気にすることではありません」
「いやでも・・・・」
こちらも見ずにパソコンに集中しながら吐き捨てる東雲さんに少し釈然としない。元はといえば『イクサカーニバル』の運営である東雲さん達のミスで「扉形成プログラム」が流出し僕が色んな意味で被害にあっているのに気にすることではないとか言うのはおかしいじゃないか。
「まぁまぁ頼友、ネギまでも食べて落ち着くのだ!」
そう言って僕の目の前にタレのネギまを差し出したのは信長様だった。
「しののめーも頑張っているのだ、許してやってほしいのだ」
「う、うん・・・・。ところで信長様はなにしてるの?」
なんとなく焼き鳥の串を受け取ってみたが見ると信長の近くには大量のネギまとそれを食べたであろう串が山積みになっている、まさか全部食べるつもりか?
「妾はぽいんとおぶなんちゃらかんちゃらを作っているのだ!」
「ポイントオブ?なに?」
「POP広告の作成のことです。仕事がなかったので割り当てました」
「ああ、そういうことか」
信長様の言葉ではさっぱりわからなかったが東雲さんの補足でようやくなにをしているのかが理解できた、商品を宣伝するための広告を作っていたのか。
確かによく見れば串の皿に隠れてほとんど見えないがペンと紙がテーブルにはある、っていっても全然使ってない気がするけど。
「広告を作るのにはまずは味を知っておかないといけないのだ!」
「って、食ってるばっかりじゃないか。ちゃんとやらないとダメじゃないか。それじゃお給料もらえないぞ」
「美味しいのだから仕方ないのだ」
全く回答になっていないことを言いながら信長は美味しそうにネギまの串を頬張っている。まぁ楽しそうで全然良いんだけど・・・・
「ちなみに信長が食べている焼き鳥代は平野頼朝、貴方の給料から引いておきますので」
「はあっ!?」
さらっと言った東雲さんの言葉に思わず変な声が出た。なんて言った?僕の給料から引くだって?全然良くないじゃないか!
「ごちそうさまなのだ!」
「いやいやいや!じゃなにそんなに食べてるのさ、POPつくるのにそんなに食べなくてもいいだろ」
僕のそんな言葉にも動じる様子なく更なる焼き鳥串を皿から取りあげている。
「昔から~武士は食わねど高楊枝~って名台詞があるのだ」
「それ名台詞って言わないよ、ってか食わねどって食ってるじゃねぇーか!」
一体いくら給料からマイナスされるんだ?ざっと見ても五十本くらいあるんだがもうこれ給料もらうどころか下手すれば支払いで終わるんじゃないか?
「人件費等などを計算すればロハで食べさせるわけにはいかないでしょう。売り上げをあげなければ店を畳まなければならないような状態なんですから」
そう言いながら東雲さんはパソコンのキーボードを叩く。
「いやでもなんで僕の給料から・・・・それもあるけど権蔵さんのお店ってそんなに経営まずいの?」
僕の見る限りじゃ開店と同時にどっとお客がやって来て注文がひっきりなし入ってきてたから店を畳むなんてのは考えられなかった。
「売り上げ自体は悪くはないです、ただ今の現状じゃこの辺りの地域開発事業に負けてしまうのです」
そう言って東雲さんが僕の前に差し出したのは一枚の紙切れ。『地域活性化大戦略』と大きな文字で書かれたそれにはこの辺一帯を埋め立てアミューズメントパークにする計画が事細かに書かれていた。確かにこの大規模な工事が開始されたらまずこの店は潰され道路になるだろう。
「そのアミューズメントパークの経済効果からすればこの店の経営がいくら上がろうとも無理かもしれません。ですが工事に差し当たり自然環境を破壊することになるので反対派と推進派が今揉めている状況。この店が周りから必要な存在だと広まれば反対派が増え工事の延期、もっと言えば中止にすることができるかもしれないのです」
「なるほど、凄いな東雲さん」
ホールやキッチンの仕事をせずに売り上げを見直すと言ったときには焦ったがいつのまにかこんなことをやっているなんて凄いとしか言いようがない。
「乗り掛かった船ですから、やっているだけです。こういう仕事のほうが向いてますから」
こちらを見て一瞬柔和な笑みを浮かべた東雲さんはすぐパソコンに向きなおして作業を続けている。
「そっか、じゃ僕は戻るよ。政子達が待っているから」
なんだったら一緒に海にいかないかと誘おうと思ったが東雲さんのあまりに真剣な様子に水を差すのも悪いと思い、諦めることにした。
「あんまり無理するなよ」
「お気遣いありがとうございます」
「いってらっしゃいなのだ~!」
信長様があの小さな体でこれから後どれくらい焼き鳥を食べるのかだけ少し気になりつつもあまり考えないようにして僕はその場を後にすることにした。



「おっそ~い頼友」
「いや悪い悪い、ちょっと長話をしてしまってな」
店の一階に降り外に出た僕を真っ先に待っていたのは政子だった。どっから持ってきたのか、いつものゴスロリパンクと同じ配色、黒と赤のヒラヒラのついたパラソルを退屈そうに回転させている。
「おぉ、焼きそば名人のご帰還か」
そう言って、まぁだ焼きそばを食べているのは信玄さん。もしかしてこの人今までずっと焼きそば食べてたのか?
「お帰りなさい頼友さん!」
「あっ、ごめんね芽衣ちゃん。遅くなって」
「いえいえ~大丈夫ですよぉ」
芽衣ちゃんは口ではそう言っているものの、もう待ちきれないと言った様子ではしゃいでいる。なんていうのかなぁ、女の子にこんなに待たれているなんて状況が滅多に無いので内心少し嬉しい。
「それじゃ早速あんまり人のいない穴場スポットがあるんでそこに招待します!」
踵を返し歩き出す芽衣ちゃんにその後ろを焼きそば啜りながら歩く信玄さん、更にその後ろに僕と政子が続く。
朝来た時よりも日差しはギラギラと眩しくてそして暑い。ほぼこの場にいる全ての人が水着やそれに近い涼しげな格好をしているところに政子のゴスロリパンクは奇異としか言いようがなく、完全に注目の的となっていた。
「ふふっ、私みたいな超絶美少女の隣を歩けることを感謝することね頼友。皆、『なんであんな可愛い子の隣に童貞がいるんだぁ~きぃ~!』的な目で見てるわよ」
「いや、どうみても『暑くないのかその格好』って目だと思うんだけど?あと童貞は関係ないし!」
お世辞にも格好いいとは言えない冴えない僕だけど一般人の方々にまで見ただけで童貞とか思われたらたまったもんじゃない。
「というかまさかと思うけどその格好で泳ぐ訳じゃないよな」
「当たり前じゃないったら当たり前じゃない。でも私の色白の極め細やかお肌を早々には晒さないのよ」
僕の問いかけに政子は膨れっ面をするとそう答える。
ま、そうだよないくらなんでも政子のゴスロリパンクでなんかで泳いだら相当泳ぎにくいだろう、いやまぁ袖のヒラヒラとかが水中で揺れるのはちょっと幻想的な気もしないでもないが。
「アミューズメントパーク建設の署名をお願いしまーす!」
「ん?」
政子とそんな他愛のない話をしていると少し離れたところからそんな声がする。気をつけてみると水着の人達の中に四、五人といったくらいだろうか真っ赤なキャップと『アミューズメントパーク推進派』という幟を背負った人達がクリップボード片手に色んな人に声をかけている姿があった。
「なになに頼友?アミューズメントパークって!?」
「ああ、さっき東雲さんに聞いたんだけどこの辺にアミューズメントパークを建てようとしてるんだって」
「へぇ~なになに私一度アミューズメントパーク行きたかったんだよね、いいな~いいな~」
「全然よくないですよぉ!」
嬉しそうな声をあげた政子にくってかかるようにして芽衣ちゃんが叫ぶ。急な声に驚きながら芽衣ちゃんを見ると先程までのルンルン気分だった彼女の目は力が込もって今にも爆発しそうな位だった。
「いいですかぁ!ここにアミューズメントパークができるってことはこの海に道路ができてなくなっちゃうんですよ、そうしたら、そうしたら!」
「芽衣ちゃん・・・・」
うっすらと芽衣ちゃんのその瞳には涙が浮かんでいる。それもそうだろう、アミューズメントパークができれば東雲さんの話じゃ権蔵さんの店は潰されるらしいからな。
「それに署名を書いてもらってるのは観光客の人ばかり。観光客の人からすればアミューズメントパークができることはいいのかもしれませんけど、そうすれば環境を破壊することにもなりますし私は反対です」
最後の方は消え入りそうな声で言う芽衣ちゃん。
「ま、今までも推進派は色々やってきたがここまで来るとはね」
落ち込む芽衣ちゃんの肩にポンと手を置くと信玄さんがニッコリと微笑む。
「雪村、ちょっとあたし行ってくるわ」
「えっ?信玄ちゃんなにするの?」
「なにちょっとね、雪村は焼きそば名人と政子を連れて先に行ってな」
そう芽衣ちゃんに先程までかきこんでた焼きそばを押し付けると信玄さんは踵を返し走り出す。
「ちょっと信玄ちゃん、危ないことしないでね」
「分かってるよ、後・・・・信玄ちゃんじゃなくて親方様!」
走りながらそれだけ言うと信玄さんの姿はあっという間に小さくなっていく。ここから見る限り推進派の一人を捕まえてなにやら話をしているようだ。まぁあのガタイでいきなり殴りかかるとかそういうのではなさそうなので大丈夫だとは思う。
「そういえばさっき信玄さんが推進派は色々やってきたとか言ってたけどなにかあったの?」
「えっとですね、頼んでもないのにいきなり高級なプレゼントが送られてきたり。かと思ったら嫌がらせのようにゴミが店の前にばらまかれたり。証拠がないのでなんともいえないんですが」
「へぇ~陰湿なことするのもいるのね」
「そうだなぁ、証拠がないとはいえやることは汚いな」
「あっ、すいません。バイトできてくれてる人にこんな話して、もう少しで着くんで早く行きましょう!」
涙を拭うと精一杯の笑みを芽衣ちゃんは浮かべるがそれがやせ我慢をしているのは僕の目から見ても明らかだった。でもたった二日しかいない僕達にとってできることなんてほとんどない、芽衣ちゃんの手助けをしてあげたいと思う気持ちは強いのになにもできない今の現状に少しやるせない気持ちになってしまった。




「お待たせしました、ここが地元の人でも知る人ぞ知る隠れスポットですっ!」
「はぁ・・・・凄いな、ここ」
思わず感嘆の声が漏れる。
芽衣ちゃんに案内された先はまさに隠れスポットというのにはピッタリの場所だった。足元は砂浜というよりかは岩場が多いところだが人が全くいないのとやたらと透き通った海の色はさながらテレビで見たことある南国の海のような美しさだ。
「よし、それじゃ泳ごうぜ政子!」
「え、あーなに頼友?」
目の前の光景にテンションがあがり今すぐにでも海に飛び込みたいところなのだが政子は完全に呆けた状態でこちらを見ていた。
「ん、まぁ・・・・頼友だけ泳げば良いんじゃないかなぁ~みたいな~」
「いやいやいや、ここまで来てなに言ってるんだよ」
「そうですよ~気持ち良いですよ~」
完全に海を見て固まっている政子にいつのまにか海に入っている芽衣ちゃんが手を振っている。
ここまでの様子を見るに政子の奴が泳げないのは確定だろう、それは日頃の鬱憤を晴らす絶好のチャンスでもあるわけだ。
僕は不適な笑みを浮かべながら政子の顔を覗き込む。
「くくくっ、どうしたのかな~政子ちゃん?水着持ってきてないの?」
「服の下にき、着てるし」
震え声で言う政子にニヤつきながら話しかける僕は相当ウザい奴に映っただろう、だがそれでいい・・・・泳げないとわかったら五分に一回は「えー泳げないのー」って煽ってやる。日頃人の事を童貞童貞言ったことを後悔させてやるわ!
「へぇ~ちゃんと水着持ってきてるんだねぇ~てっきり僕は政子泳げな・・・・」
「うるさいうるさい!そんなに見たければ見せてあげるわよ!」
僕の言葉を遮ると政子は持っていた日傘を僕に押し付けると地団駄を踏みながら少し大きめな岩の後ろへと回る。
「着替えるところ見たらただじゃおかないんだからね!」
「へいへい、わかったからさっさと着替えてくれよ」
岩の向こう側からする政子の声に適当に返事しながら僕は手頃な岩に腰掛ける。
しっかし政子にこんな弱点があるとはなぁ。あ、いやまだ確定じゃないがまぁほぼ確定で政子は泳げないだろう。
「全く奥ゆかしい鎌倉時代出身の私にこんな恥ずかしい格好させて後で絶対にポテチ奢らせるんだから!」
そんなことをぶつくさと呟きながら政子が岩の向こうから姿を現す。
「す、すごいな・・・・」
その姿を見た瞬間思わず僕の口からはそんな感想が漏れた。ゴスロリパンクと同じ黒を基調とし赤いフリルのついたビキニを身に付けた政子の姿はもうパーフェクトな美しさを誇っていた。
色白のスラッとした手足にそこそこに張りのある胸にくっきりくびれたウエスト、あんだけ毎日だらだらしているのにどうやったらその体型を維持できるんだと言うほどの黄金比に唖然とするしかなかった。
「なにをじろじろ見てるのよ変態」
「いや綺麗だなと思って」
冷ややかな目で言ってきた政子に素直な感想が言葉となってでる、一度事故で政子と風呂場でばったりと会ったときは気がつかなかったがなんていうチートな格好しているんだこいつ。
「あ、当たり前でしょ~!大体気がつくのが遅すぎなのよ」
そう言いながら少し照れながらゆっくりと近づいてくる政子からいつのまにか目が離せなくなっていた、なんていうか魅了されたというかなんというか・・・・。
「ということで傀儡政権の始まりよっ!」
「はっ!?」
気がついたときには政子の指が僕の額をお決まりの言葉と共に弾いていた。瞬間、視力低下待ったなしの光が目に焼き付いてくる。
「ちょ、なんでこのタイミングで」
水着姿の政子に見とれてたのは間違いないんだけどまさかこの状況で『傀儡政権』使ってくるとは思っても見なかった。というかなにをする気なんだ政子の奴。
「命令・・・・私に、えっとその・・・・泳ぎを、教えなさい」
「はい?」
海の小波に消えてしまいそうなくらい小さな声で言った言葉に思わず聞き返す。もしかしてこいつ今「泳ぎを教えろ」って言ったのか?
いつのまにか収まった光に目を開けてみると照れているのか色白の頬を薄桃色に染めた政子がプイッと顔を反らした。
「あのさぁ、政子」
「な、なによったらなによぉ!命令なんだからね、この超絶美少女に泳ぎを教えれるんだから感謝しなさ・・・・」
「いや別に『傀儡政権』使わなくても教えるつもりでいたし。政子泳げないの知ってるからな」
「っ・・・・え、嘘!?」
政子は驚きの声をあげるがあんだけ海に行きたくないと宣ってれば誰だって感づくだろ。ま、日頃の仕返しで煽るだけ煽ったら泳ぎを教えるつもりでもいたさ。僕はそこまで鬼畜じゃないんでね。
「まぁ僕もそんなに泳げる方じゃないけど教えてやるよ」
『傀儡政権』の影響か自然と僕の体は動きだし政子の手をとると海へと入ろうとする・・・・のだが
「ちょ、ちょっと待ってよ頼友。私、心の準備が!」
「何言ってるんだよ、体が勝手に動くんだからどうしようもないって」
そんな会話をしながらも足はドンドン海の中へと進んでいく。
「やっぱやめやめ!私、海怖い!」
「海が怖いってなにかあったのかよ」
史実にだって北条政子が海が怖いなんて話ないはずだ、なにがあってこんなに海を怖がるのか少し気になった。
「なにかあったって史実だと最期流刑されてるのよ私!そりゃ怖いに決まってるでしょ!」
「海が怖いのと流刑が怖いのは微妙に違う気がするんだけど」
「似たようなものじゃない!って、うわっ、ちょ・・・・ここ足がつかないんだけど!」
足が地面につかない状況に完全に混乱し僕の体にしがみついてくる。
「お、おい・・・・落ち着けって」
「溺れる~溺れちゃう~」
「そんなわけないだろ・・・・この高さで」
完全にパニックになっている政子には悪いが僕は思いっきりため息をつく。そりゃそうだ、確かに今政子のやつは足ついてないけど僕は普通に足がついているんだからな。
だが僕は別の意味で落ち着かないといけないな、なにせさっきから政子に抱きつかれて意図はしてないんだろうけどぐいぐいと胸を押し付けてくるんだからな。これはピュアな高校生男子にとっては彼処が大惨事大暴走になりかねない事態だ。
「だ、大丈夫ですかぁ?」
そんなことに集中しているとあまりの政子の取り乱しっぷりに心配そう表情でこちらに芽衣ちゃんがやってくる。
「大丈夫大丈夫、政子のやつ泳げないもんだから暴れてるだけで、ほら政子足着くんだから冷静になれって」
優しく落ち着かせるように背中を撫でてやるとしばらくして落ち着いたのか政子は暴れるのを止めて足をつく。
「本当だ、足つく・・・・。んもぅ!それならそうと言ってよね!」
「いやだから言ったじゃんか。とまぁ、こんな感じだから大丈夫だよ芽衣ちゃん」
こんな浅いところで溺れる溺れるなんていうやつ今日日小学生でもいないだろと嘆息するもその様子を見ていた芽衣ちゃんの次に言った一言は衝撃的なものだった。
「そうなんですか、てっきりお邪魔しちゃいけない雰囲気かと思って声かけようか迷いましたよ」
「「えっ?」」
安心した様子で言った芽衣ちゃんの言葉に思わず政子と顔を見合わせる。言われてみれば政子の腕は僕の首に回され体は密着し顔なんかもうキスする寸前、もしこれが夕方だったら完全にラブシーンだ。
「もうなに抱きついてんのよこのバカァ!」
「う、うわぁ!」
政子に突き飛ばされ僕は水しぶきとともに思いっきり尻餅をつく。というか酷いだろ勝手に抱きついてきたのはそっちだってのに。
「頼友と私が恋仲なわけないでしょったらないでしょ~!」
「そうなんですか?お互い名前で呼び合ってたりもしてたので深い関係かと」
「あっ・・・・それは」
思わずその言葉にハッとなった。学校だとなにか変な関係と思われたくなくてわざわざ『北条さん』なんて呼んでたのにこと芽衣ちゃんの前では家にいる時のように名前で呼んでいたから恋仲なんて思われてしまったのか。
「全然、ぜぇ~んぜん!浅いわよ、誰がこんな童貞と恋仲になんてなるのよ」
そんなことお構いなしに呆れた感じで政子は両手をオーバーにあげる。
「そうなんですかぁ!」
それを聞いた芽衣ちゃんは妙に嬉しそうに微笑みながらなぜか僕のところに近づいてくるとおもむろに腕に抱きついてくる。
「それなら良かったです、じゃ私が頼友さんの彼女に立候補しても大丈夫ですよね?」
「「はっ?」」
芽衣ちゃんの突然の言葉に僕と政子の声がまた重なる。えっ、なんだって?彼女に立候補だってぇ!?
「やっぱり、私みたいのではダメですか?」
腕に抱きつき上目つかいでそんなことを言う芽衣ちゃんに僕は無言で首を横に振る。ええ、でもなんでだ?僕好かれるようなことなにかしたっけ?
いやそもそも芽衣ちゃんって中学生だっけか、結婚できるのが十六歳とかだったからええっとこれって合法?
完全に先走りした妄想に頭がついていかない、まさかこんなところで彼女に立候補なんて言葉がでるとは思ってもみない、今日日ラブコメでもやらないぞこんな展開。
「トップランカーだった頃から頼友さんに凄い憧れてていつか会ってみたいって思ってました。それで今日実際会ってみて・・・・『イクサカーニバル』の中で見る平野頼友さんと同じでとってもいい人で格好良くて、えっと、その・・・・」
芽衣ちゃんは顔を真赤にしながら一つ一つ言葉を出していく。なんていうか僕はただ普通に暇つぶしでゲームをやっていただけだっていうのにこんなにも憧れを抱いたりしている子がいるなんて驚きだ。
というかやってて良かった『イクサカーニバル』って話だよ!これでついに僕も童貞卒業だぜ!ひゃっほ~い!
「そんなの許せるわけないでしょうがぁ・・・・」
そんな幸せ雰囲気に水を差すように身の毛のよだつような物凄く低い声がする。声のする方を見るとなにやら物凄い目つきの悪い北条政子さんがこっちを見ていらっしゃいました。
「あいにくと頼友は私の征夷大将軍なの、そう簡単には譲らないわよ」
「征夷大将軍ってなんですかぁ、彼氏じゃないんだったらいいですよね」
「よくなぁ~い!」
政子がぐぐいっと芽衣ちゃんが掴んでいる方とは逆の腕を掴む。なんだなんだこの状況女の子二人に腕を捕まれ引っ張られやいのやいのしてるなんてこれラブコメ始まってるじゃないか!
「いやぁモテモテだねぇ焼きそば名人。やっぱり恋人は胃袋を掴まないとな」
「あっ、信玄ちゃんお帰りなさい」
少し小高い岩に立っていた信玄さんは「だから親方様だっての」と言いながらこちらにやってくる。
「大丈夫でしたか?その推進派との話し合いは」
「ああ、そのことなんだけど」
僕の問いかけに少し言葉を濁す信玄さん。なにかあったのだろうか、なにせ推進派は結構えぐいことをやってきてるらしいし。
「いや大したことなかったんだけどさ、ちょっと雪村話が」
「ん、どうしたの信玄ちゃ・・・・親方様?」
珍しく煮えきらない態度の信玄さんに芽衣ちゃんが心配そうな声をあげる。
「なになにそんな顔しなくても大丈夫だって、じゃとりあえず雪村借りてくよ」
不安そうな芽衣ちゃんの気持ちを払拭するかのように軽く笑うと芽衣ちゃんを抱き抱える。
「わっ、ちょっと信玄ちゃん歩けるよっ!」
「はいはい、信玄ちゃんとか言う雪村にはちょっとお仕置きだねぇ」
そんな会話をしながら遠ざかっていく信玄さんと芽衣ちゃんを見守りつつ僕はさっきから腕を掴んでいる政子に目をやる。
「まぁよくわからないけど,、とりあえず泳ぎの練習でもするか」
「えっ、まだやるのぉ?もういいかなぁって思ってるんだけど」
「なにがもういいかなぁ、だよ!まだなにもやってないだろ、ほら手を持ってやるから足伸ばして」
ぐずる政子を宥めて手を取ると指示を飛ばす。実のところ泳ぎの練習なんて小さい頃に妹の早苗に教えたっきりでその早苗が結構早く泳ぎをマスターしたもんだからどう教えればいいか微妙なんだよね。
「もうちょっと力抜いていいけどまぁそんな感じかな。次はバタ足かな、足で海をおもいっきり蹴ってみて」
「はーい」
そんな風にして政子との時間が過ぎていく。一体どれくらいで政子のやつが泳げるようになるのか楽しみだ。



───数時間後

なんていうんだろうな、世の中には二種類の人間が居るってのがわかった気がした午後七時。
それはなにやらしてもそつなつこなす奴となにやってもダメな奴、の二種類。
そのダメな方が僕でなんでもこなしやがる方が北条政子だ。そういや現国のテストもなぁんもしてないのに百点だったしな。
「ふふ~ん、流石超絶美少女の私ね。もはやオリンピック狙えるんじゃないの?」
「そうかもな、はぁ」
夕日も沈みかけてきた海をそんなことを言いながらそれはもうガチの水泳選手みたいな泳ぎを見せる政子に溜め息が出る。
ちょっと前まで「きゃ~海怖~い」な感じだったのに今やクロールから平泳ぎ、背泳ぎから僕のできないバタフライまでマスターしてもはや僕が教えるというか僕が教わるようなそんな状況に変わってしまってる。
「あ~泳げなかった頃の政子ちゃん可愛かったな~可愛かったなぁ~」
「なにブツクサ言ってるの頼友、私が可愛いのはいつも通りでしょ」
「そうかもしれないけどなんていうのかな、違うんだよなぁ。完璧な子に弱点あるのがいいと言うかなんていうか。ほら学園のマドンナ的な完璧の子が料理下手のほうが萌えるじゃん?」
自分でも政子相手に何を言ってるんだかって感じだ。政子もそれを感じ取ったのか見事なクロールでこちらにやってくるとじぃっとこちらを訝しむように見てくる。
「な、なんだよ」
「まぁ私には関係ないことだけど頼友ってそういうのがタイプなわけ?」
「タイプとか言われると困るんだけど」
確かにそういうギャップのある女の子はいいなぁって思うけどそれが自分のタイプかと言われると素直にはいとは言えないんだよね。なにせ今まで生きてきてリアルな女の子に恋とかしたことないもんな、そりゃ可愛いなぁとか思うことはあってもそんな子に告白とかする以前に僕自身がその人に好かれる自信がちっとも湧かないんだよね。
勉強もダメ、運動もダメ、見た目も格好良いわけじゃない僕がなにをもってしてその可愛いなぁとか思う子に好かれる展開になるわけ?そんなの『イクサカーニバル』でレアドロップがでる可能性よりも低いのはわかりきったことじゃないか。
「ふぅん、じゃあの芽衣って子お似合いなんじゃない?ギャップの塊みたいなもんじゃない」
「は?芽衣ちゃんにそんなギャップないだろ、可愛くて良い子じゃないか」
悪戯っぽく言う政子に僕は思わず食って掛かった。会って一日だけど芽衣ちゃんは素直でとっても良い子にしか僕の目には映ってない。
なんだなんだ?まさかさっき僕が告白されたのをやっかみしてるのか政子は?
「あの芽衣って子、あんな感じだけど一方で自分が可愛いのを知ってて強かに男を利用するタイプだって言ってるの、でもそれが頼友の好みならお似合いじゃない?」
「なんだよその言いぐさは。あれだろ政子は僕が芽衣ちゃんに告白されて浮かれてるのが気に入らないだけだろ!」
いくらなんでもなぁんで政子にそこまで芽衣ちゃんのことを言われなきゃならないんだ。
「はぁ、これだから童貞は。まぁ私には関係ないけど気を付けた方がいいわよって話」
「余計なお世話だよ!ああもういい!僕、もう先に帰るから!」
呆れた様子で言う政子に怒りのまま語気を強めて言い返すと僕は海から上がる。
「じゃあな、暗くなる前に政子も戻ってこいよ」
それだけ言うと振り返りもせずに僕は権蔵さんの店へと歩き出す。いくらなんでも政子のやつは言い過ぎだ、なんか人生イージーモードで泳ぎもあっさりマスターしたってのもあって僕の心の中にやりきれなさというか余裕がなかったかもしれない。
「いやいやいや、確かにそうかもしれないけどあんな言い方はないよな」
夕日の沈む浜辺を息を吐きながら独り言を呟く。昼間の人混みからすればだいぶ人もまばらだ、砂浜を踏みしめるサンダルの音だけが虚しく響く。
「ん~なんか嫌な気分だ」
僕はなんていうか喧嘩とかそういうのが苦手だ、穏やかに人間関係が進めばそれが一番いいと思ってるからなぁ。政子のあの言い方じゃまるで芽衣ちゃんが悪女みたいな言い方にしか聞こえないじゃないか。
「そういえば芽衣ちゃん達戻ってこなかったな、なにかあったのかな?」
信玄さんに連れられてどこかに行ったきり戻ってこなかったけどなにかあったのかな?
「推進派の件もあるし少し心配だな、なにもなければいいけど・・・・」
「あ~頼友さぁん!」
噂をすればなんとやらというべきか、そんなことを考えてたらちょうどお店の方からこちらに向かって芽衣ちゃんが大きく手を振りながら走ってきた。
「芽衣ちゃん、戻ってこないから心配したよ」
「ごめんなさい、信玄ちゃんの話が長くって」
そんなことを言っている間にも芽衣ちゃんは僕の腕に手を回し抱きついてくる。芽衣ちゃんの姿は別れたときの水着姿から薄桃色のキャミソールに変わっている、その風通しの良さそうな隙間から色々見えちゃうんじゃないかと思わず僕は息を飲んだ。
「ちょ、ちょっと芽衣ちゃん?」
この過度なスキンシップ、最近の中学生は大胆と言うか凄いと言うか・・・・。腕に押し付けられている柔らかい胸の感触に頭がどうにかなりそうで理性を保とうと必死に僕は頭を振る。
「頼友さんはこうゆうことする女の子嫌いですか?」
「いやいやいや!そんなことはないけど」
歩きながら視線はどんどんと近づく権蔵さんの店を捉えている。いやなんていうのかな、こんなところを権蔵さんに見られたらとんでもない大目玉をくらいそうだ。
「あ、大丈夫ですよ。今はもうお父さん寝てますから」
「えっ!?」
それはまるで僕の心を完全に見透かしているかのような一言だった。その言葉に面食らっていると芽衣ちゃんは僕の手をぎゅっと握りぐっと顔を近づけてくる。
「ねぇ、頼友さん?」
そう言った芽衣ちゃんの顔は本当に中学生かってくらい色っぽく僕の目に映る。そんな風に頬を紅く染めじっと上目つかいでこちらを見つめられるとなにを言われても断ることができないじゃないか。
「これから私の部屋に来ませんか?」
「め、め、めっ!芽衣ちゃんの部屋に!?」
ただ「部屋に来ないか」と言われただけなのに僕の脳内では既に先の先まで想像してしまい、どうしようもないくらいに胸が高鳴る。
「ダメ、ですか?」
「そそそそそんなことはないよ!気が変わらないうちに今すぐ行こう、そうしよう!」
はしゃぐ気持ちが抑えれず早口で捲し立てると僕は芽衣ちゃんの手を握る。
「くすっ、大丈夫ですよそんなに慌てなくても逃げませんから。それじゃ行きましょう~」
芽衣ちゃんは僕の様子にくすりと笑うとぎゅっと握り返してくる。これはいける!これは行くところまでいっちゃうぞ、だ、大丈夫なのか僕は!?



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オンニャノコノヘヤデスヨォ - 2013.07.22 19:07 編集 URL


へいへいほぉ~「ヤキトリはいらない」の管理人、平野頼友ですっ!!!!!!

いきなりテンション高くてすいません!!!!

いやぁ~海っていいですねぇ、海の解放感に人の心も解放し
一夏の恋が生まれるんだよなぁ

と、それはいいとして自分の部屋に女の子が来るのはよくあるんですど(自慢)女の子の部屋に来るのは初めてなんだよなぁ

凄いよなぁ女の子の部屋って、ピンク色の部屋にぬいぐるみが沢山あってさ、とてもいい匂いが充満しているんですよ

こんな部屋に案内されたらそりゃ理性も吹っ飛ぶよ


・・・・でも、流れとかわかんないぞ。

なんの流れって、ほらあれだよあれ・・・・!!!


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「非公開で更新っと・・・・なんか逆効果だなこれ」
僕はスマフォのボタンを押しながらなんとなくそう思った。
今僕がいるところは権蔵さんの店の二階、芽衣ちゃんの部屋だ。そしてなんていう幸運か芽衣ちゃんの部屋に入るところを誰にも見られなかった。
もし日向さんや東雲さんに会ってたら芽衣ちゃんの部屋には行かなかった・・・・と、思う。それくらい、今僕は緊張している。
「飲み物を持ってきます」と芽衣ちゃんが部屋を出ていった隙にブログを更新し気持ちを落ち着けようとしたのだがこの有り様だ。
「ど、どうゆう風に持ち込めばいいのかわからないぞ。というか付き合ってることになるんだよな、付き合ったらいきなりやっちゃってもいいものなのか」
頭の中がこんがらがる中なんとか気持ちを落ち着かせようと部屋の中を見渡すが芽衣ちゃんの部屋のドピンク具合に逆に調子が悪くなってくる。
まさか芽衣ちゃんがここまで甘ロリ嗜好だとは思わなかった。それこそヒラヒラついた服はないけど壁紙から机、ベッドから僕の目の前にあるテーブルまで全部がピンク色でハート型だ。これが海の家の二階の部屋だなんて言われても正直だれも信じないだろう、それくらいこの部屋は異質で切り離された空間だった。
「頼友さん、お待たせしましたぁ」
そんな事を考えていると部屋の戸が開き芽衣ちゃんが入ってくる。そりゃそうだ、だってここ芽衣ちゃんの部屋だし。
「アイスティーしかなかったんですけどいいですかぁ?」
「ああ、うん。全然、全然大丈夫」
芽衣ちゃんの方を向かないまま首だけをぎこちなく上下に動かし頷く。
「そうですか、よかったですっ!麦茶切れてたんですよぉ」
そう言いながら芽衣ちゃんはもはや当たり前のように僕の隣に座るとガラスのグラスに入ったアイスティーを僕の前に差し出す。それでアイスティーと麦茶の違いってなんだ?・・・・やばいなにか単純なことの区別もできないほど混乱してしまってる。
「はぁ~今日は朝から信玄ちゃんの漁に行って疲れちゃいましたよ」
アイスティーを飲みながら寄りかかるように体を寄せてくる芽衣ちゃんに僕の心臓はもう破裂寸前だ。
やっぱこれはあれだよな、年上である僕がリードするべきだよ・・・・な。
遠くからの海の小波だけが支配する部屋でゆっくりと時間が過ぎていく。僕は一気にグラスのアイスティーを一気に飲み干すと覚悟を決めた。
「あ、あの!芽衣ちゃ・・・・」
「頼友さん、ちょっと聞きたいことあるんですけどいいですか?」
まさかの決意の言葉は芽衣ちゃんの言葉が被り、かきけされた。視界に入った芽衣ちゃんの真剣そのものな顔に言葉を失う。
「な、なにかな?」
「あの・・・・もしなんですけど、頼友さん。芽衣のためだったらなんでもしてくれます?」
「えっ、そりゃもう!芽衣ちゃんの頼みならなんでもするよ!」
そこまで言って、あれ?なにかおかしいと思ったのだがそれがなにかに気がつく前に
「わぁい、頼友さんありがとう!」
芽衣ちゃんに抱きつかれそんな細かいことはどうでもよくなってしまっていた。
これはあれだよな、もういいよな?押し倒しても、いやいやキスが先か?・・・・まずはハグか、芽衣ちゃんもやってきたわけだし断られたりはしないだ・ろ・う?
「め、芽衣ちゃ・・・・」
「あっ、それじゃ早速頼友さんにやってほしいことがあるんですよ!」
抱き締めようとした僕の手をスルリと避けるとテーブルの下からこれまたピンク色をしたノートパソコンを取り出す。
しまった、完全に今タイミング逃したぞ。おお、童貞ヨリトモよ、この千載一遇のチャンスを逃すとは情けないって御先祖様に笑われるじゃないか!って、童貞は関係ないわっ!
「ケーブルを差してっと、あとは電源ポチっと」
そんな小もない一人ツッコミをしている間に芽衣ちゃんはそそくさとノートパソコンをセッティングして電源を入れる。
落ち着け、チャンスがなくなったわけじゃない。芽衣ちゃんだって好きでもない男にそこまでしないだろう?つーことはイケル!全然イケるよ!
「あの、芽衣ちゃんなにをするの?」
「なにって勿論芽衣の大好きな『イクサカーニバル』ですよっ」
芽衣ちゃんはそう言うと立ち上がり僕の背中へと回り込む。
「元トップランカーの実力ぅ・・・・芽衣、みたいなぁ」
耳元でそう囁きながら僕の手をとるとマウスを握らせる。小さくて柔らかな手の感触と耳元にかかる吐息に心臓の鼓動が更に高鳴る。芽衣ちゃんは一体僕になにをやらせようっていうんだ。
「それじゃアイコンをクリックしてっと」
言われるままにというか芽衣ちゃんにされるがまま僕はマウスを動かし見慣れた『イクサカーニバル』のアイコンをクリックする。
もう何度も見た『イクサカーニバル』のロゴとともにデータを読み込むゲージがサーバーにアクセスすると共に増えていく。
・・・・マップデータをロード中
・・・・クエストデータをロード中
・・・・キャラクターデータをロード中
・・・・扉形成プログラムをロード中
「えっ!?あ・・・・ちょっと!」
見慣れた文字に混じってでてきた「扉形成プログラム」という言葉に思わず身を捩ろうとするもそれを阻むようにして芽衣ちゃんががっしりと僕の体を抑えつける。
「ちょっと、芽衣ちゃんなにをしてるの!?」
「ん~?なんですかぁ?」
慌てる僕に対して芽衣ちゃんは呑気な様子でそう言う。その間にも芽衣ちゃんのノートパソコンの画面が白く光出してくる。これはあれだ、伊達政宗に『イクサカーニバル』の世界に引きずり込まれた時と同じだ、ということは・・・・
「むぐぐぐぐぐっ!!」
案の定画面から光の手が飛び出し僕の顔をがっしり掴む。もはやこれホラーだろ、ってそんなこと言ってる場合じゃないのだけど
「頼友さん、芽衣の為ならなんでもするって言ったよね?」
ドンと背中が押され非科学的なことだけどノートパソコンの画面に顔が、体が引きずり込まれていく。
ノートパソコンに引きずり込まれる瞬間、僕はさっき気がついたなにか「おかしい」って感じの正体に気づいた。
それは芽衣ちゃんの一人称がおかしいってこと、会った頃はずっと“私”だったのが二人っきりになったときから芽衣ちゃんは自分のことを“芽衣”って言ってるんだ。
それが何故?というところにまでは至らず僕の意識は太い綱が一気に断ち切られたかのようにして一瞬にして闇へと落ちた。




「うううっ、なんでこんなことになってるんだ」
朦朧とする意識の中頭を振り辺りを見渡す。そこに広がっていたのは白い砂浜と青い海、そこはまるでさっきまで泳いでいたあの海と瓜二つといった感じだった。
「ようやく来たかぁ焼きそば名人」
「うひゃぁ!?」
突然背後からした声に素っ頓狂な叫び声をあげて後ろを振り変えるとそこにいたのはこれまた豪華絢爛な鎧に身を包んだ武田信玄さんだった。
「ああなんだ・・・・って信玄さん、その格好」
「これ?これはまぁ芽衣に貰ったと言うかなんていうか・・・・というかやっぱわかるか?」
「わかるもなにも超レア装備ばっかりじゃないですか!!」
少し歯切れの悪い感じで頭を掻きながら答える信玄さんに思わず大きな声が出た。パッと見るだけでも信玄さんの装備している武具はレア中のレア装備ばっかりなのだ。
「金獅子の籠手に車骸の靴に、ええっとこの鎧は・・・・」
「これは星影の聖鎧ね」
「そうだ、そうだって・・・・レア装備過ぎぃ!!」
もはや唖然とするしかなかった、この辺の装備なんてトップランカーが何ヵ月と洞窟に籠って、二時間湧きとかのボスを倒したときに物凄ぉぉぉぉく低い確率でしかでないって装備ばかりなんだから。
「もしかして芽衣ちゃんってトップランカーなの?」
そうとしか考えられない、元トップランカーの僕でも今信玄さんが装備している武具なんて一つ持っていたかどうかだ。
「あ~別に雪村はそんなトップランカーとかじゃないさ、ただ・・・・」
「ただ?」
「いや、これ言ってもいいのかなぁって」
信玄さんの煮えきらない態度に僕は自分が『イクサカーニバル』の世界に放り込まれたことも忘れて詰め寄り問いただす。
「教えてくださいよ!一体なにをしたらそんなレア装備が沢山手に入るんですか!?」
「あ~そうだねぇ・・・・。まぁいいか、こっちの世界に来ちゃってるんだしな」
こっちの世界に来ちゃった?その意味がよくわからなかったがそれよりも次に信玄さんが放った言葉で全てが吹き飛んだ。
「雪村は姫キャラなんだ、そして貢がせてるのさトップランカーに」
「芽衣ちゃんが姫キャラ・・・・」
それは頭をハンマーかなにかで思いっきり叩かれたような衝撃だった。
姫キャラというのは言うなればそのままお姫様だ、文字通り。お姫様というとそりゃ豪華な衣装に身を包み綺麗で心優しい女性というイメージだけど、ただことネットゲームにおける姫キャラというのはとても厄介な存在なのだ。
まぁ誤解のないように言っておくけど一応ネットゲームをやる女性のことも姫と呼んだりもするがそれとは違う、僕の言う姫キャラというのはまさにお姫様になりきって我儘を言いまくったり、ちやほやされたがったりする輩のことだ!
そしてその姫キャラに誘惑されて色々アイテムを貢いじゃうのが従者と呼ばれる可哀想な童貞達だ。
「わたしぃ~あのレアアイテムほしいなぁ~」
「姫ちゃんのために俺頑張るよ!ほら!取ってきたよ!」
「わぁ~ありがとう~、○○君が一番好きかも~」
といった風に!言った風にぃ!!男を食い物にする存在!!
それが姫キャラっていうものなのだ、しかも悪いことにこの姫キャラってのは別名サークルクラッシャーと呼ばれる恐ろしい別名も持っている。
例えば男友達同士でやりだしたネットゲームにひょいと姫キャラが混じるとあら不思議、仲良い男友達同士が姫キャラの取り合いになりもれなく仲たがいするという。他にもギルドとかに姫キャラが入ったりすると他の女性プレイヤーがいないところで「あの子きらーい」とか言い出しギルド内の空気を排ガスで満たすような逆空気清浄器のようなやつなのだ!!
「あー長々と説明してくれてるところ悪いんだけど雪村はもっと凄いことやってるよ、見抜きさせたりとかチャットHとかね」
「はぁぁぁぁぁぁっ!?」
言葉にならない叫び声をあげて僕は膝から崩れ落ちる。なんちゅうことをなんちゅうことをしてくれたんや芽衣はん・・・・僕の純情をここまで踏みにじってくれるとは・・・・。
もはや見抜きとかチャットHの説明なんてしてるほどの気力はもう僕にはなかった。もう勝手にコピペしてインターネットで調べてくださいって感じだ。
「まぁしかし雪村は演技する時一人称が変わるからわかると思ったがこうもあっさり引っかかるとはねぇ」
呆れた様子の信玄さんをよそに僕はもう立ち上がれそうにもない、そうかさっき気になってた芽衣ちゃんの一人称の謎はそうゆうことだったのかぁ・・・・。
「って、よく考えたら僕なんでこっちの世界に連れて来られたの?」
芽衣ちゃんが姫キャラなのはわかったけどそれと僕が『イクサカーニバル』の世界に連れて来られたのになにが関係あるのだろう?
「それじゃあたしがそのことについて説明しようか」
そう言いながら信玄さんはゆっくりと砂浜を歩き出す。
「ところで焼きそば名人は海は好きか?」
「焼きそば名人じゃなくて平野頼友です。海、ですか・・・・まぁ嫌いじゃないですけど」
「あたしはね、海が好きなんだ。あたしの元ネタっていうのかな、史実の武田信玄も海に面した領土を欲していたからその影響かもしれないな」
そこまで言うと信玄さんはゆっくりとこちらを振り返る。
「あたしも面倒なことは嫌いだからはっきり言うよ、推進派の一人に条件を突きつけられたのさ」
「条件・・・・ですか?」
そこまで聞いても僕がなんでこの世界に引き込まれたのかさっぱりわからなかった。だって推進派のやろうとしていることは現実世界のアミューズメントパークの建設であってそれが『イクサカーニバル』とはなんら関わりあいがないと思うのだけれど。
「条件、というよりかはもはやこれは脅迫と言ってもいいかな。『建設を止めたければ北条政子を差し出せ』そう言われたのさ」
「は、はいぃ!?」
突然出てきた北条政子の名前に訳の分からないのが更にわからなくなった。なんで推進派が政子の奴を差し出せなんて言い出すのか?
「政子を?いやそもそもなんで政子を差し出せなんて言ってきているのか、僕にはさっぱりなんですが」
「あたしもそうさ。推進派の署名を止めさせようとして行ったらさ、変な奴が現れて『北条政子を差し出せば建設を止める、差し出さなければ建設は強行させる』なんて言われて」
「なんだよ、それ」
思わずそんな言葉が口から出た。よく考えればなんでその変な奴の目的は政子なんだ?政子の存在自体知っている人間なんてそういないはずだ、それが『イクサカーニバル』のキャラクターであることを知っている人間なんて本当僕と東雲さんくらいのはず。
「そいつってどんな奴だったんです?」
「この暑い夏の海で白衣なんか着てる変なおっさんだったよ。馬鹿らしくて信じられないとはあたしも最初は思ったけどあれを見せられたら信じるしかなかった、そいつの力を」
そう言う信玄さんの声は畏怖の存在に恐怖しているようにも聞こえた。
「力・・・・?」
「目の前で一人、推進派の奴を消したのさ。文字通りにね・・・・つまりそいつに掛かれば事をどうにもでできるってことだ。だからあたしは試してみたのさ平野頼友、あんたのことを」
「えっ?」
僕を試す?急にそんなこと言われてもさっきのことから混乱しすぎてなにを試されたのかさえ理解できない。
「あたしと雪村は海を守るためにそいつに北条政子を差し出そうとしている。だけど平野頼朝、あんたが北条政子を大切に想っていて芽衣の誘惑に動じなければ諦めようとしていたのさ」
「えっ・・・・あっ・・・・」
あまりに唐突な話に僕は上手く返事を言葉にすることが出来なかった。そんなことを急に言われても僕の行動で全てが決まってたってことか?こんなのゲームで言えば攻略サイトを見てないと分からないような話じゃないか。
そりゃあんだけ女の子に積極的に来られたら誰だってのろけてしまうよぉ!
「そろそろ雪村が北条政子をこちらの世界に案内しているはずだ」
信玄さんのその言葉とほぼ同時だったろうか、僕の背後で空間が歪みそこからゆっくりと政子が姿を現す。
「・・・・はぁ」
いつものゴスロリパンクの衣装を身に纏った政子は僕の姿を見るなり思いっきりため息を付いた。これあれじゃないか、めっちゃ政子のやつ絶対に怒っているじゃないか。
「や、やぁ政子ちゃん」
「なぁにがやぁ政子ちゃんよ、私の言わんこっちゃない」
「ぐぐっ・・・・」
政子の冷ややかな言葉にぐうの音も出ない、芽衣ちゃんに気をつけろって言ったのは誰でもない政子なんだからな。
「話は聞いているわよね北条政子。さてと役者も揃ったことだし、始めようじゃないか」
そう言って信玄さんはどこからともなく刀を取り出すと構える。背の高い信玄さんの身長よりも長く伸びた黒塗りの野太刀、それは超レア装備である「封麟華斬」だ。
「えっとなんだっけ、私が負けたらその変なおじさんのところに私が行かないといけないとか?まったく面倒なことをしてくれるわよね頼友」
完全に嫌味を言いながら政子が宙に手を翳すと空間が歪みそこから一振りの刀が姿を現す。その名はトキマサブレード、北条政子の父親である北条時政が使ったとされる刀で『イクサカーニバル』では普通にやっても手に入らないデータ上にしか存在しない刀、無論攻撃力も異常でステータスの上昇値もおかしいっていうチートな武器だ。
「まぁ結局私が勝てばいいだけの話でしょ、本当迷惑な話ね!」
「そういうこと、勝手に生贄に祭り上げられた北条政子の最後のチャンスって・・・・ことよ!!」
「うおっ!」
瞬間信玄さんはその重装備からは想像できない速度で砂煙を巻き上げ僕の前を駆け抜け一気に政子に斬りかかる。
「ふふん、でも残念ね~残念ねったら残念ねぇ~私ってばテストプレイ用のキャラクターだからいくらレア装備を使ってたって私には・・・・っ!?」
余裕を見せていた政子の表情が信玄さんの攻撃を刀で受けた瞬間曇る。そして次の瞬間───
「どぉぉぉやりやぁぁぁ!!」
「くっ・・・・きゃぁぁぁぁっ!!」
力任せにぶん回したとしか形容できない信玄さんの一撃で政子の体は僕からでは見えないくらいの距離まで一気に吹き飛ばされる。
「えっ、政子・・・・?」
なにが起こったのか僕にはすぐには理解できなかった。
政子は『イクサカーニバル』のテストプレイ用のキャラクターであり普通のプレイヤーがどんなにレベルを上げてもステータスを全て最大にできないところを政子は全て最大、スキルも使いたい放題そんなチートみたいな性能していて僕がトップランカーだった頃に使っていた伊達政宗でさえ赤子の手をひねるようにあしらったんだ、だから政子がこんな風にダメージを受けるのを見るのは初めてなわけで。
「はぁはぁ、なんなのよぉ~なんなのよったらなんなのよぉ!」
吹き飛ばされた衝撃によって巻き起こった砂煙から政子はすぐに姿を表したが服はいたるところが破れ頭には砂が乗っている。
「さすがに一撃とはいかなかったか、テストプレイ用のキャラクターなだけはある。だが次の一撃で終わらせてもらうよ」
ゆっくりと野太刀を構える信玄さんに政子は大きく息を吐く。
「なんでそんなに強いのか全然わからないけど、私だって負けるわけにはいかないのよっ!」
叫び声とともに今度は政子の姿が消える。瞬きする間もなく信玄さんの背後に回りこむと政子の存在に気づき振り返った信玄さんの額に向かって指を伸ばす───
「傀儡政権の始ま・・・・りって!」
「残念だったね、それは警戒済みだよ」
あと少しで政子の指が信玄さんの額を弾くそんな距離でがっしりと政子の腕は信玄さんによって掴まれていたのだ。
「うっ、そんな・・・・」
「生憎とその一番厄介な攻撃は事前に把握してるよ。『傀儡政権』、相手の額を弾くことで少しの間思い通りに動かすことができる能力だっけか」
政子の手を捻り上げながら静かに信玄さんは言う。見た目からして強そうとは思ったけど強さだけじゃない頭もこんなにも切れるとはまさに史実通りじゃないか。
「あいた、あいたたたっ」
「あたしに『傀儡政権』は通じないと思いなっ!」
腕を捻られ開いた横腹に抉るような蹴りが入り政子が吹き飛ばされる。
「きゃぁ!」
「くっ政子ぉ・・・・ってうわぁ!」
咄嗟に僕は走りだし吹き飛ばされた政子を抱きとめる・・・・が、あまりの勢いに僕ごと吹き飛ばされ砂浜を転がった。
「いってぇ・・・・大丈夫か、政子」
「大丈夫なわけないでしょ!!もう、誰のせいでこうなったと思ってるのよ!思ってるのよったら思ってるのよ!!」
「いや、それはその、ごめん」
正直今回ばかりは謝り通すしかない。ネットの世界なのにじんわり痛む背中を抑えながら立つとゆっくりとこちらに歩いてくる信玄さんを視界に入れる。
「なんたってこんなに強いんだよ、チートかなにかかよ」
「多分、あれウィルスかなんかだよ。戦ってわかったけど私より強いってことはもう数値がバグってるとしか言いようが無いわ」
「ウィルスだって?」
政子の言葉はにわかに信じがたかったがよく見ればこちらに向かってくる信玄さんの鎧の隙間からは薄っすらと紫色のいかにも毒ですって言わんばかりの煙が噴き出しているのが見えた。
「へぇ、よく気がついたわね。その通りだよ、あたしは今ウィルスに侵されていてこの力を得ている」
そう言いながら刀を構え射程圏内に入った信玄さんの体からは物凄い勢いで紫色の煙が噴き出してきている。遠目で見てた時は薄っすらとしか見えなかったのが今ははっきりと見えている、これはあれかウィルスがかなりの速度で進行しているということか。
「そんなことしたら信玄さん、体が!」
「いいのさ、あたしは海を守れればね。そのためにも北条政子、あんたに勝たなければならない」
信玄さんの目は真剣そのものだ、あとどれくらい戦えるのかはわからないがその間に僕達を倒すことなんて容易にできるだろう。
「ど、どうするんだよ政子!」
「どうするってウィルスとかそういうのだったら運営に任せるしかないじゃん」
「運営って、東雲さんか!」
確かに『イクサカーニバル』のゲームマスターである東雲さんならこの状況をなんとかしてくれるかもという期待がある、あるが・・・・この状況でどうやって東雲さんを呼べばいいんだよ。
「運営、あの東雲千影って子ね。けどそれも対策済み、雪村が部屋に鍵をかけて入れないようにしているから」
「くっ、万事休すかよ」
まさかここまで周到に用意された作戦だったなんて思いもしなかった。このままじゃ政子が負けてなにかよくわからないおっさんに連れてかれちまう・・・・。
なんとかしなくては、そう頭の中では思っていても僕にはなにも、なにも手立てがない。
「ま、政子・・・・」
横目で政子を見やると政子はなぜか笑っていた、なんでだ?もう諦めたそういう笑いなのか、それともなにか作戦でもあるのか?
「安心しなよ、死ぬわけじゃない。少し戦闘不能になってもらうだけさ!」
信玄さんが野太刀を真っ向に振り上げる。紫の瘴気が黒い剣身に吸い込まれて見るからに危なげなオーラを放っている。いや死ぬわけじゃないって言ってるけど、これ受けたら死ぬんじゃないのかってくらいの禍々しさだ。
「これで終わりだっ!!!」



『みなさんこんにちわ!「イクサカーニバル」運営チームです!』



「なにっ!?」
突然辺りに響き渡った声に信玄さんの振り下ろそうとした刀がピタリと止まった。
「東雲さん!」
『全く、なにをやっているのですか貴方達は』
聞こえたのは間違いない東雲さんの声だった、僕は思わず嬉しくなって天に向かって声をあげると東雲さんは飽きられたように言葉を返す。正直いつもならもっと愛想良くしろよとか思う東雲さんの口振りが今このときは実に頼もしく聞こえる。
「運営が出てくるとか、馬鹿な雪村が失敗したのか」
『失敗?私がここに来たのはその雪村芽衣に呼ばれたからですよ、まぁその後拘束するのに少し手間取りましたがね』
「芽衣ちゃんが自ら・・・・ってまさか政子が!?」
僕は気づき政子の方を見やると政子はこれはもう本当にメインヒロインかと疑いたくなるような邪悪な笑みを浮かべていた。
「ふふぅん。武田信玄、あんたには『傀儡政権』が効かないかもしれないけど芽衣にはばっしり効くのよん」
つまり政子はここに来る前に芽衣ちゃんに『傀儡政権』を使って東雲さんを呼ぶように仕向けたわけか。
「なにがあるかわからないからね、じゃそうゆうわけで運営さんちゃちゃっとやっちゃってくださいな」
『北条政子、貴女に指図されるのは些か不服ですが仕方ありませんね』
「さてと、それじゃさっさと逃げるわよ頼友!」
言うが早い、政子は僕の首根っこを掴むと
「飛んでけぇ!!!」
もう力一杯に後ろへと軽々と放り投げた、ええそれはもう思いっきりにだ。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!」
一気に信玄さんの姿が小さくなり回りの景色が高速で流れていく。いやこれまずいでしょ、地面に突撃したら痛いじゃ済まないでしょ!っと思ったら地面に当たるギリギリってところでいつまにか追い付いている政子に体を受け止められる。
「よいっしょっと!じゃ次行くよ!」
「いやいやちょっと待てぇって、うわぁぁぁぁぁっ!」
僕の制止も聞かずに再び宙に放り投げられる。もしかしてこれ東雲さんがなんとかするまで続くのか?
「東雲さぁん、早くなんとかしてくれぇ!」
物凄い勢いで空中を飛びながら必死に叫び声をあげるが帰ってきた東雲さんから返ってきた言葉は心底僕を震えさせる一言だった。
『申し訳ありませんが何者かに妨害を受けていて武田信玄や貴方達を強制的にログアウトにしたりすることはできないみたいですね』
「ええっ!?」
妨害って、もしかして政子を欲しているその謎の白衣野郎の仕業か・・・・。しかしなんだゲームマスターである東雲さんを妨害できるって本当何者なんだよ。
「だったらあのウィルスをなんとかできない?それさえなければ私が武田信玄を倒せるかも!」
『ウィルスですか・・・・わかりました、何とかしてみます』
落ちる僕の体をキャッチしながら政子と東雲さんがそんな会話をかわす。ウィルスをなんとかするってどうやるのか、僕にはさっぱりわからないのが
『平野頼友、貴方のデータを使ってアンチウィルスソフトを作ります。時間を五分、いえ三分稼いでください』
「僕のデータを使ってって、えっ!?しかも三分・・・・」
「了解っと、それじゃもう一回飛ばされて頼友!」
「うわぁぁぁまたかよぉぉぉ!」
平野頼友十八歳、ただ今現在女の子に投げ飛ばされ三回目の空中遊泳を楽しんでおります。さすがに三回目ともなると慣れ・・・・
「慣れるわけねぇだろぉぉぉ!」
視界はぐるぐるするしなにもつけてない状態での自由落下は気持ち悪くなるし!
大体なんだ僕のデータでアンチウィルスソフトを作るって、しかも三分でってそんなことできるのか!?
だがもうそれに託すしかない、というかなにもできない僕にはなにか口を挟む余地なんてない。
「よっと、ちょっとこれ以上はこの逃げかたじゃ無理そうね」
「えっ、無理そうって?」
政子に抱き抱えられながらそんな間抜けなことを言っていると
不意に政子は砂浜に僕を降ろし刀を構えた。
「追い付かれてる、多分次は投げた瞬間に私が斬られるわ」
目の前の砂を凄い勢いで巻き上げながらこちらに突っ込んでくる信玄さんの姿があった。
「来なさい、武田信玄!」
「はぁぁぁぁぁっ!!」
刀を構え受けに入る政子に突撃の勢いのまま信玄さんの横凪ぎに払った野太刀の一撃が入る。
「うおっ!」
刀同士がぶつかった衝撃で激しく風が巻き起こり思わず地面を転がり顔を伏せる。そして僕が顔を上げたその瞬間目に入ってきたのは
「きゃぁっ!!」
信玄さんの横薙ぎに払った一撃の前に政子の刀は真っ二つに折れ宙に吹き飛ばされる政子の姿だった。
「くっ、政子!!」
もはや空中で姿勢を維持する余裕もなく頭から地面に落ちていく政子の姿に思わず僕は地面を蹴る。
「間に合えっ!!」
僕の今の体力では到底間に合わない距離だった。だがそこで諦めれるほど僕も頭が良い訳じゃない、今回のことは元はといえば僕のせいでこんなことになったんだ、なんとか役に立たなければと必死に足を動かす。
「・・・・・・・・。」
信玄さんの前を横目に通り過ぎる。信玄さんはもう勝負は終わったと言わんばかりにじっと目を閉じて僕が通りすぎるのを見逃してくれた。ここで掴まれてでもすればもう完全に政子を助けることなんて出来なかっただろう。
「うぉぉぉぉぉぉっ!!」
政子の体が地面につくほぼ寸前、僕は手を伸ばし力の限り砂浜を蹴り跳ぶ。
その瞬間はまるでスローモーションのようにゆっくりだった。自分でも無理だと思った距離だった、でもそれは現実世界での話だったからなのか想像よりも跳んだ飛距離は伸びて・・・・
「やった!」
本当地面まで数センチといったところで滑り込みながら政子の体をキャッチできた。
「お、おい政子大丈夫か!?」
さっきまでも結構ボロボロだったけど今腕の中にいる政子はもうダメなんじゃないかってくらいに酷い状況だった。ゲームの中だからかもしれないけど政子の白い肌に傷はついていないものの一帳羅であるゴスロリパンクは見るも無残に破れておりほとんど生地が残っていない、信玄さんの一撃が相当なものだったことを物語っている。
「ったく・・・・なにをどう見たら大丈夫だと思うのよ、この馬鹿ぁ」
「いやそうだけどもさ、良かった良かったよ」
なんていうか政子がこうして目を覚ましていつもの悪態をついてくれるそれだけでも嬉しかった。だけどまだ戦いが終わったわけじゃない、信玄さんを止めないとそう思ったのだけれど
「なるほどね、それがアンチウィルスソフトってわけ」
「えっ?」
消え入りそうな小さな声で言った政子の言葉に最初はなにを言っているか良くわからなかったが政子の視線の先を見てそこにあったモノを見て僕は全てを理解した。
「これが東雲さんの作ったアンチウィルスソフト・・・・」
「ま、まぁそこのデータを使うとは思わな・・・・ぷぷぷっ」
僕と政子の体のいつの間にかあった一振りの剣、そしてなぜかそれを見て笑いを堪えれないのか口元を抑えている政子。
「なにがおかしいんだよ、やるぞ政子!」
「えっ、いやなにがおかしいって・・・・ま、いいや、はいはいやりますよ」
柄の部分に赤い宝石が施された剣を政子と一緒に掴むと立ち上がる。
『おまたせしました、それがアンチウィルスソフトを具現化したウィルス・バスターです』
「って、そのまんまかよ!まぁでもいいやいくぞ!」
剣を握る手に力が入る。それに呼応するかのようにしてウィルス・バスターの刀身は眩しいくらいに光輝く。
「面白いじゃないか!でもあたしも負けられないんでね、時間も時間だ次で決めさせてもらうよ!」
信玄さんも野太刀を上段に構えるとどす黒いウィルスの瘴気をその刀身に纏わせる。
奇しくも光と闇とかいうどこの中二病対決かよと思いつつもお互いが真剣でそして次の一撃で決まるというのがわかっていた。
「うぉぉぉりゃぁ!!」
「はぁぁぁっ!」
一瞬の静寂の後、どちらからというわけでもなく一歩踏み出すと力の一杯剣を振る。僕と政子の剣と信玄さんの野太刀がぶつかり合い辺りに光と闇の波動が激しく飛び散る。
二人で持っているからか、それともウィルス・バスターの力なのか打ち合いは互角だ。僕と政子はお互いを顔を見合わすと頷き更に剣に力を込める
「「いっけぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」」
僕と政子の声が重なりウィルス・バスターの輝きが増す。
「なっ、くっ・・・・馬鹿なっ!」
次の瞬間、一気に野太刀を砕き光の帯となったウィルス・バスターが信玄さんを包み込む。
「やっ・・・・た!」
信玄さんを取り巻いていたウィルスの瘴気が消えていくのを確認すると安心したのかどっと力が抜け膝から崩れ落ちる。
「はぁ、疲れた。もうやんなっちゃうわ」
気がつけば僕の隣に同じように座り込んだ政子の姿があった。
「良かったな政子」
「なぁんにも良くないわよ、後でポテチ奢ってもらうからね頼友!」
「いや、はい・・・・すいません」
そんな会話を交わしお互い笑い合う。こうして政子と笑い合えるのならポテチでもなんでも奢ってやるさ。
「負けたよ、流石の強さだ北条政子と平野頼友」
「信玄さん・・・・」
すっかりウィルスの呪縛から解き放たれた信玄さんが僕たちの目の前にどっしりと座り込む。
「今回の事は私が芽衣に言い出したことなんだ。あたしの事を煮るなり焼くなり好きにしてくれていいから雪村のことを許してやってほしい」
「許すもなにも、ようはその白衣の男に脅迫されたようなものだよね。だから僕は芽衣ちゃんや信玄さんをどうにかするつもりはないよ」
これでいい、僕の選択は間違っていないと思う。まぁちょっと芽衣ちゃんに騙されたのは悲しかったけどね。
「そうか、ここまでしたあたし達を許してくれるのか。思った以上に男なんだな、うん平野頼友惚れたよ」
「えっ、いや惚れたって!?」
「どうだ、あたしの婿にならないか?」
「む、む、婿ですかぁ!?」
信玄さんからの突然のお誘いに思いっきりどぎまぎしていると不意に政子が僕の腕を掴んだ。
「駄目に決まってるでしょ!頼友は私の・・・・ぷぷっ、征夷大将軍なんだから」
なんかちょっと嬉しいことを言ってくれる政子、でもなんでこいつ途中で笑ったんだ?
「ん~?征夷大将軍がなんだかあたしは知らないけど、それだったら愛の言葉の一つでも聞かせてくれよ。そうしたらあたしも諦めるなぁ」
「え、なによそれ!なんで私がそんなことを言わなくちゃ・・・・」
「ん~いや、なんとなく。ほらほら早く言っちゃいなよ」
もはや先程まで死闘を繰り広げていた二人から一転、修学旅行の好きな子発表会のような様相になってきている。
「言えばいいのね、あーあー言いますよ。言えばいいんでしょ」
「ちゃんと頼友の顔を見てな」
「わかってるわよ!!」
なにかもう自棄になっているのか政子は口早にそう言うと僕の方をじっと見つめて・・・・なぜか吹き出して笑いだした。
「えっと、私は・・・・ってぷぷぷっ、ダメだ笑いが止まらない」
「なんだよ政子さっきから変なところで笑いだして」
「な、なんでもないわよ!それじゃ言うからちゃんと聞いてなさいよ」
政子は大きく息を吐くと物凄くか細い声でこう言ったのだ。
「私、北条政子は・・・・・・・・平野頼友が・・・・が好き、はい!言ったからね!!」
顔を真っ赤にしながら僕から目を反らす政子に思わずドキッとした、なんていうかこう胸をがっしり掴まれた感じで信玄さんがいなければ今すぐにでも抱き締めたいくらいだった。
「うんうん、やっぱり人間素直が大事だな。それじゃあたしは諦めるから末永くお幸せにな」
「いやぁそんな事言われると照れるなぁ。って・・・・でもどうするんですか、アミューズメントパークの件は」
政子を守れたのはいいけど、このままだと結局その白衣の男によってアミューズメントパークの建設を強行されるってことになるんだよな。
「ああ、まぁ諦めるしかないな。もはや私達に手立ては・・・・」
『いえ方法ならありますよ』
少し残念そうに言う信玄さんに天から東雲さんの声が言葉を挟む。
「えっ、本当なの東雲さん!?」
『ええ、貴方達の会話ログを見させてもらいました、とりあえず話はこちらに戻ってきてから話します』
そう言うが早い、僕達の体がゆっくりと消えていく。こうやってログアウトできると所を見るとその白衣の男の妨害と言うのはなくなったようだ。しかし東雲さんは一体どうやってアミューズメントパークの建設を阻止しようというのだろう?
「どうするんだ、東雲さん」
なんにも思い浮かばないまま完全に体が消えると本当糸が切れたようにして僕の意識は再び闇へと落ちた。



「はぁ?話し合ってくるってどういうこと!?」
すっかり日も暮れた芽衣ちゃんの部屋に戻った僕達は東雲さんのまさかの言葉に唖然とするしかなかった。
「そんなので解決できるんなら苦労しないんだよおっぱいお化け!」
そう言ったのは文字通り縄でグルグル巻きにされている芽衣ちゃんだ。もはや演技の必要はないと言った様子で物凄い悪態をついている、ああなんていうかな女性って怖いなぁ。
「でも確かに芽衣ちゃんの言う通りだよ東雲さん、話し合いで解決しないから・・・・」
「その白衣の男、それは多分私の父です」
「ええっ!?」
突然の東雲さんの告白に部屋にいる全員が驚いたのは言うまでもない。まさかその白衣の男ってのが東雲さんの父親だなんて・・・・いや、ちょっと待てなんで東雲さんの父親が政子の事を付け狙っているんだ?
「私を妨害するなんてことができるのは私の父以外にありえません。そしてこんなことをするような人間も」
そう言う東雲さんの表情はかなりの怒りが込められてる。そういえば以前東雲さんって独り暮らしだとか言ってたし父親との間になにかあるのだろうか?
「まぁそれで海が守れると言うのならいいけどなんであんたの父親は北条政子を狙っているんだ?」
僕の聞きたいことを信玄さんが代弁してくれる。多分僕が聞いても「好感度が足りません」とか言われ一蹴されると思ったからこれは助かる、そう思ったのだけど。
「残念ながらそれを皆さんに教えることはできません。でも必ず建設は阻止しますので信じてください」
深々と頭を下げる東雲さんに全員が押し黙った。芽衣ちゃんや信玄さんにはわからないだろうがあのいつも不機嫌なあの東雲さんが人に頭を下げるということは相当なことなんだろう。
なぜ政子が狙われているのか、そこは凄く気になるが僕は東雲さんを信じることにする。
「まぁそう言っているんだからそれでいいんじゃないの?もう私は疲れたから部屋に戻るね~」
重い空気の中、沈黙を破ったのは政子だった。自分が狙われているというのに暢気にそんなこと言うとさっさと部屋から出ていってしまう。そりゃ考えたって仕方はないんだけどここまで楽観しているのにはもはや尊敬するしかない。
「では私も失礼します、やることが山積みなので」
そう言って一礼すると東雲さんも部屋を出ていき、残ったのは僕と芽衣ちゃん、そして信玄さんだけになった。
「はぁ、なんだよあんな作戦立てなくても済んだんじゃないかよ」
「ま、そうみたいね。でも良かったじゃないか雪村これで店も守れるんだから」
悪態をつく芽衣ちゃんをなだめるように信玄さんは言う。色々あったけど確かにこれで一件落着なんだから良かったと僕は思う。
「おい、そこのハゲ童貞。ぼけっとしてないで私の縄ほどけよ。あのおっぱいお化けめ力一杯に締め付けてくれて痛いんだから」
「え、あ・・・・うん」
芽衣ちゃんに言われて渋々と僕は芽衣ちゃんの縄をほどく。
「・・・・って童貞はともかくハゲじゃないんだけど僕」
うーん、姫キャラだったとはいえ可愛かった頃の芽衣ちゃんはいないんだと悲しくなるが、断じて僕はハゲではないのでそこだけは主張する・・・・のだけど。
「どっからどう見てもハゲじゃねぇーか!ほれ鏡見てみろ!」
縄のほどかれた芽衣ちゃんは近くにあった手鏡を投げて寄越す。
いやいや僕はまだフサフサですよ~っと受けとった鏡を覗き込むとそこにいたのは・・・・完璧に髪の毛のなくなっている僕の顔だった。
「はぁぁぁぁぁぁっ!?ええっ、なんでいつの間に!?」
「なんだ今気づいたのかい?ほら私と戦っている最後に剣を出したろう?あのときからなかったけど」
「えっ・・・・」
信玄さんの言葉に僕はなんで髪の毛がなくなったのかに気づいた。そういやあの辺りから政子のやつが僕の事を見てちょこちょこ笑っていたな、そして東雲さんが使った僕のデータってのは!
「髪の毛の事だったのかよぉぉ!!!」
「あ~あ~うっせぇなぁこのハゲ童貞は」
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
僕は悲痛な叫び声をあげ天を仰ぐしかなかった。一件落着で良かったねなんてさっきまでの気分は一瞬で凍りついたのだった。





次の日、海の家での仕事は昨日の細やかのお詫びということで芽衣ちゃんと信玄さんそしてすっかり忘れ去られていた三奈本がやることとなり僕達は一日休みということになった。正直僕は部屋に引きこもりたかった。
「それぇ~いくよ信長ちゃん!」
「任せるのだ~みなみ、ほうりゃなのだ!」
僕の視線の先では日向さんと信長様が楽しそうにビーチボールで遊んでいる。あ、ちなみにアミューズメントパークの建設は東雲さんの見事な働きで宣言通り中止になることになった。
まぁそれでだいぶお疲れなのか東雲さんは今お部屋でお休み中だ。なんだったら僕も部屋で休みたかった。
「あ~テンション下がるわ、まじで」
「まぁだ言ってるの?」
そんな僕、平野頼友は政子とビーチパラソルの下で物凄く気分を落ち込ませていた。なんせあれから東雲さんを問い詰めたんだけど返ってきた言葉は「そのうちはえますよ」の一言だったんだからな。
「いいじゃん、海に入ってもすぐ乾いて」
「そういう問題じゃないんだよ!」
僕の隣で暢気にポテチを食べコーラを飲みながら言う政子に心底ヘコみつつ言葉を返す。今日日坊主姿なんて野球部でもしてないっての!案の定、三奈本や権蔵さんには笑われるしたまったもんじゃないよ。
「けど案外良いものね海って、私海好きになりそう」
海を眺めながらしみじみとそう言う政子に僕は一つ思い出すことがあった。
そうそうだ今回は色々酷い目に遭ったけど一つ良いことがあったことを思い出した。あれから何も言ってこないけど政子のやつ、僕の事を好きなんだってことだ!
「なぁ、政子。あの信玄さんと戦った後に言った告白もう一回聞かせてくれよ」
「え~なんで言わなくちゃならないのよ」
「言ってくれ。その古い決まり文句だけで僕は数ヵ月は生きられるから」
まじまじと僕は政子の方を見て言う。もう僕の心の支えは政子、君しかいないんだから。芽衣ちゃんにはお別れと言うか「ハゲで童貞とか百年の恋も覚めるわ」なんて辛辣なお言葉を頂いたけど僕には政子がいる、いや政子がいればなにもいらない!ハゲでも頑張れる!
「もう、何回も言わないんだから。これっきりにしてよね」
真っ赤に頬を染めて恥ずかしがる政子ちゃん、マジ可愛い。そして指をモジモジとさせながら政子は僕の事をじっと見つめるとこう言った。
「私、北条政子は平野頼友の買ってきたポテチの中じゃそうめんのつゆ味が好き。はい言った!」
「は?ポテチ?」
「そうだよ、あのポテチは本当美味しくて恋しちゃいそう。また買ってよね」
そう言いながら実に美味しそうにポテチを頬張る政子。
ん、おかしいぞ。話が噛み合わない、確か信玄さんに言われて政子、僕の事を好きって・・・・あれ?
「えっ、あの僕の事を好きって話は?」
「は?誰が頼友のこと好きなんて言うのよ私はあのときもポテチのことしか言ってないわよ。大体、ハゲ童貞の癖にこの超絶美少女と釣り合うわけないでしょ~ないでしょったらないでしょぉ~」
あっさりとそう答える政子に僕の希望は無惨にも砕け散る。
あれは夢か幻か、結局僕はこの海に来て良いことなんて一つもなかったんじゃないか!
「ハゲで童貞とかもう貰い手いないんじゃないの頼友♪」
「っ~~~!!だからハゲ童貞って言うなぁぁぁぁぁっ!!」
僕の悲しみの叫びは真夏の空に消えていくのだった。





《 ツンデレ武将がやってきてラブコメになるとおもいきや俺が征夷大将軍になっていた3 了 》





【 あとがき 】
んあーもう今回は疲れましたよー二徹しちゃいましたよー
しかもなんかプレッシャーで全然面白く書けなかった&後半の飛ばし具合に、もうシュランプ、シュランプ(´;ω;`)
武田信玄じゃなくても良かったなよなぁ今回


【 その他私信 】
全員「新春キャンペーン実施中!!」

(^_^)「北条政子ですっ」

(^_-)-☆「みなみっ」

(-_-)「ちかげ……」

(≧-≦)「信長なのだ!」

(^▽^)「平野早苗ですっ!」

(^_^)「政宗です・・・・」

(^q^)「ひらあぁのーーーよりとぉぉもですおwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

(^_^)「あなたは?」





?「 親の心、子の心。大切な心を守る、スパイダーマン!!!」

S造「ダメダメ!!!!全然伝わって来ない!!!!もっと心の底から言って!!!!!」

?「えっ・・・・ カメラのレンズは真実を見る瞳。曇りなき瞳を信じる男、スパイダー・・・・」

S造「頑張れ頑張れそこだそこだ諦めるな!絶対に頑張れ積極的にポジティヴに頑張れ!!北京だって頑張ってるんだから!!!」

?「鉄十字キラー!!!!!スパイダ・・・・!!」

S造「うるさい!!!!!」


【 お題当てクイズ回答 】
いつ調べたのかメモ帳にガラティア2.2って書いてあったよ、間違っててもしらん(´・ω・`)



べ、べつに好きで書いてるわけじゃないんだからね!  氷桜夕雅
http://maid3a.blog.shinobi.jp/

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