Mistery Circle

2017-10

《 探偵に推理はいらない 》 - 2012.07.13 Fri

《 探偵に推理はいらない 》

 著者:氷桜夕雅








"いかにも”探偵っぽい探偵を出して欲しいところだった。
今日みたいなうだるような暑さの夏なのに黒いコートを身に纏い、ソファに寝転がって煙草を吹かすハードボイルドな探偵。
いやそこまでじゃなくてももうちょっとあるだろ、こう探偵っぽい探偵!そして探偵事務所!
俺、秋口幸成はそんなことを心の中で思いながら今一度部屋の中を見る。
探偵事務所とは言いがたいピンクの壁紙にいたるところに貼られたアニメのポスター、そして特撮かなんかのフィギュアが木製の白いバーカウンターにずらりと整列している・・・・・・おっかしいな、確かに住所はあっているはずなんだけど。
俺は確か“鈴鳴探偵事務所”に依頼をしに来たはず、けどここはどう偏屈にとらえてもメイド喫茶でしかない。
なにより・・・・・・
「紹介状、あるとお聞きしましたが?」
「あ、はい」
目の前に腰かける女性の凛とした声に俺は慌てておじさんに書いてもらった紹介状を手渡す。
いや、でも渡しちまって良かったのか?
ここがメイド喫茶ではなく探偵事務所であるという微かな希望を完全にぶち壊してくれているこの女性に。
俺はじっと紹介状を読んでいる女性を注視する。いや、もしかしたらメイド喫茶に潜入調査している途中なのかもしれないってまた確率の物凄く低いだけど。
艶のある黒い長髪に出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいるナイスボディ、それがこれまたメイド喫茶にありそうなメイド服なんかじゃなくて本格的で高級そうな紺色のメイド服に包まれている。スカートなんてミニじゃなくてロングだ、しかもベルベット生地!
顔立ちも良く色白でうっすらとだけ引かれた紅が美しい。メイド喫茶なら間違いなくナンバーワンになれる実力の持ち主だろう。
うん、俺はあれだ入る場所を間違えた。それかおじさんが住所間違えて教えやがった、そうに決まっている。
「あ、あの~すいません、全然わからないですよ・・・・・・ねぇ?」
俺は様子を伺うようにしてそう言うと黒皮のソファから立ち上がる。
そんなおじさんの紹介状を全然関係ないメイドさんに見せたってしょうがない。
いやこんな美人なメイドさんとなら関係あるってことにしても個人的には全然オッケーなんだが、あいにくと俺にはナンパなんてしている時間はない。だから本来のちゃんとした探偵事務所に依頼をしてからもう一回ここに来て美人メイドさんとご関係をつくろうと思うのだ。
「確かに全然わからないですね」
「で、ですよね?すいません、なんか俺店間違えたみたいで」
覚めた表情で言葉を吐く女性の手から手紙を取ろうと手を伸ばしたときだった。
「でも事情はわかりました、この依頼お受けします」
「は?」
女性の口からでた予想もしていない言葉にただただ驚かされる。あれか一時は騒がれたメイド喫茶も最近では下火という話も聞くしな、昨今のメイド喫茶は探偵の真似事もやるようになったか。
「いやでもここメイド喫茶でしょ?」
「違います、ここは鈴鳴探偵事務所です」
ほほう、探偵事務所でしたか。じゃあ来るところ間違ってなかったというわけか・・・・・・って、ええ!?
「あのつかぬことをお聞きしますが昨今の探偵事務所って、メイド服着て仕事するんですか?」
「これはオーナーの趣味です。それで依頼はペットの捜索ということですが」
女性はきっぱりそれだけ言うと勝手に話を進めだす。いやなんだもっと突っ込んで話を聞きたい気もしたがそれを言わせない、というか散々説明してきてこれ以上また説明するのは億劫だから聞いてくれるな、という無言の威圧感があった。
「そ、そう!猫を探してもらいたいんだ」
俺は再び黒皮の腰を下ろすと口早にそう告げジーンズのポケットからスマートフォンを取り出すと俺が飼っていた猫“クロ”の画像を開き女性の前に差し出す。
「クロって言うんだ。雄で年齢は二歳、こいつを探して欲しい」
「クロという名前の割りには白猫のようですが?紛らわしいですね」
画面の白猫を見ながら小さく呟く女性に俺は待ってましたと身を乗り出す。こいつが白猫なのにクロって名前なのには聞くも涙、語るも涙な大長編。きっと映画化したら全米大ヒットで映画館の外にでてインタビューで「この映画くっそ泣けます!!」と言われるような逸話がある。
「知っていると思いますがペットの捜索はかなりの時間とそして費用がかかります」
そんな長話をする前に女性の言葉がスッと耳に突き刺さる。探偵に仕事を依頼するということ、それが物凄くお金がかかることなのは当然承知の上だ。
「浮気調査のように後で慰謝料が取れるわけでもありませんし、必ず見つかる保証も生きて会える保証もありません。」
「そう、ですよね・・・・・・」
彼女は暗に俺に諦めろと言っている。そりゃそうだ、ペットの捜索を探偵に頼むと大体一日辺り諭吉さん三枚が吹っ飛んでいくとは聞いたことがある、この美人メイドな探偵さんの言うことは冷たいようだが正しい。
そういや、おじさんも言ってたな「なんでもかんでも依頼を受ける探偵は金に目が眩んでいるだけで仕事しないぜ」って。まぁおじさんが紹介してくれた探偵事務所なんだからそれだけで信用に足ると言えばそうなんだが改めてこの探偵さんが信用できると判断した・・・・・・メイド服な所以外は。
「・・・・・・でも、お願いします。クロを探してください、俺のとってあいつは他には変えられない大切な奴なんです」
俺はしばらく考えたフリをしてから思い立ったように頭を下げる。どんなに諦めろと言われてもどんなにお金がかかろうとも俺の意思は最初、おじさんに紹介状を書いてもらったときから変わらない。クロは俺にとってそれだけ大事なやつなんだ。
そりゃクロは毛玉は毎回わざとかってくらいに俺のスマートフォンの上に吐き出すし、一度高級品な缶詰買ってきてやってから餌はそれしか口にしなかったりとやりたい放題な奴だがそれでもあの時クロに出会ってなかったら俺は親父と同じようなことをしてしまっていたかもしれない。


俺には二年前まで彼女がいた。中学の卒業のときに高校、大学と付き合っていた俺にとって大事な彼女。
彼女と過ごした五年間、俺はずっと彼女のことを愛していた。学生の分際でと言われるかもしれないが本気だったし、それ以外の言葉は・・・・・・文系な俺でも上手くでない。
好きだから大切にしたいし、好きだから健全に付き合いたい、だから彼女を夜遅くまで付き合わせたりはしなかった。門限前には帰れるように配慮してたし、怪しいクラブなバーはデートで行かなかった、それが正しい付き合いかただと思っていた。
けれどちょうど二年前、彼女から告げられたのは『つまらない男』という烙印だった。

彼女がずっと求めていたのは刺激だった。門限を破り、深夜の町を徘徊し、酒やセックスに溺れる・・・・・・そんな日々をご所望だったようだ。彼女の友達から「あの子実は高校のときから秋口君以外の男とも付き合ってたよ」なんて言われたとき、俺の中でなにかが切れ崩れ落ちた。
それを彼女に問い詰めた辺りから彼女にとって俺はつまらない男からめんどくさい男にクラスチェンジしたらしい、途端に電話が繋がらなくなりメールが返ってこなくなった。少しでも話がしたい、そう思って何度か彼女の家にも行ったこともある。でも待っていたのは国家の犬、警察さんからの「彼女は君が常々この辺りを彷徨いていることを怖がっている。これ以上彼女につきまとうならストーカーとして捕まえなければならなくなる」そんな言葉。
それで俺は完全に彼女に捨てられたのだと理解した。
我ながら酷い失恋だったと思う。理解すれば理解するほど涙が溢れ心が締め付けられる。心の雑巾から涙を絞りきるようにして俺は泣きわめいた、いい年した男がと思われるかもしれないが初恋だったし彼女への五年間の想いは本物だったんだ。

彼女と添い遂げれないなら死んでしまった方がいい、そう思った俺は涙で顔を真っ赤に染めながら気がつけばフラフラと車通りの多い道路の前まで歩いてきていた。
物凄いスピードで走っていく車を前に「俺のストーカーの前にこいつらのスピード違反を取り締まれよ」そんなことを思ったな。だがそのスピードは俺をこの世から消すには充分なもの、だった。
そんなあと一歩踏み出せば俺は車に弾き飛ばされ宙を舞い、激しく地面に叩きつけられて出欠多量で死亡・・・・・・というところで俺の目の前に現れたのがクロだった。
クロは俺の目の前で小さくにゃあと鳴くと体を丸める。良く見ればクロは泥だらけで腹はなにかで引っ掻いたか真っ赤な血が滲んでいた。クロの奴はその傷を「痛いから早く治せ」と言わんばかりの目で俺を見てくるんだ。
それは俺がそう思いたかった、だけかもしれないし、なんかこの黒猫の願いを無視して死んだら地獄に落ちるんじゃないかなんて訳のわからないことを考えてしまったからかもしれない。
結局俺は自殺を諦めてクロの奴を手当てしてやろうと決め家に持ち帰った。
「お前の傷が治るまでは生きていてやるよ」
手当てをしながらポツリと漏れた俺の言葉、それをクロは理解してたんだろうな、クロの奴は傷が治りかけた頃になるとどっかで傷を増やし、体を真っ黒に汚して俺に見せてくる「早く手当てしろ」「体が汚れてるぞ、洗え人間」なんて言ってるようにな。
そしてこれは俺の勝手なこじつけなんだけど「お前が死ぬ気がなくなるまで体を汚して傷つけてきてやるからな」そう言っているような気がしたんだ。
本当は真っ白で綺麗な毛並みしているくせにことあるごとにそうやって体を汚し傷つけてくることから白猫だけどクロ、俺はそう呼ぶことにした。
そしてそう呼ぶようになって、クロの傷が癒えきったころになると俺はもう死のうなんて思わなくなっていた。



「わかりました。断言はできませんが出来うる限りのことは致します」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
その女性の言葉に俺は嬉しくなって思わず顔をあげる。女性は無表情のままそんな俺の顔を一瞥すると俺のスマートフォンのクロの画像を指差した。
「この画像、頂いてもよろしいですか?」
「あっ、はい。構いませんよ・・・・・・なんだったら俺が送りましょうか?」
「いえ、それには及びません。それと依頼を受けるに当たってこちらを記入していただけますか?」
そう言って俺の目の前に出されたのはバインダーに挟まれた一枚の紙切れとボールペン。見ればそれは依頼を受けるに必要な情報を書き込むようになっていた。
いついなくなったのか?どんな食事を普段与えているのか?最寄りの病院はどこかからよく遊ぶのに使っている道具のメーカーまで、ざっと三十項目ほどあろうか。これらの知識がクロの捜索に役に立つんだって言うのなら疎かにはできない。
・・・・・・疎かにできないのはわかっていたがこのアンケートを書いている最中ずっと目の前で女性に俺のスマートフォンを弄られるとなんだろう、彼女に浮気がばれて反省文書いているみたいで意味もなく気持ちがへこむ。
「よし、全部書けましたよ」
とはいえ下らない妄想にへこんでいてもしょうがない。俺はボールペン習字三級の流暢な文字で項目をそそくさと埋めると目の前の女性に差し出す。
「ありがとうございます。それではこちらはお返しします」
女性はバインダーを受けとるとそれと入れ替えるようにして俺のスマートフォンを差し出す。
なんだろう自分のスマートフォンだというのに女性から手渡されるとそれだけで少し動機が高鳴る。
スマートフォンはいわば個人情報の固まりみたいなもんだ、それを一時的とはいえ女性に見られたというのはもはや尻の皺まで確認されたというのと同じと言っても過言ではない気がする。
ああ、でもそれなら渡す前に巡回しているエロ動画サイトと無駄に集めたエロ画像なんて消して知的な文化遺産の画像でも入れておくんだった。
「画像は私の携帯電話に転送しておきました。そのついでといってはなんですが私のメールアドレスと電話番号登撮しておきましたので」
「えっ、まじですか!?」
スマートフォンを受けとる寸前、さらりと言った女性の言葉に俺は慌てて画面を操作し電話帳を確認する。
女性の方からメールアドレスと電話番号を教えてもらえるなんて俺の人生じゃ滅多にあることじゃない大イベントだ。
焦る指先で数少ない電話帳をスライドさせていくと見覚えのない名前が飛び込んでくる。
「七年坂、深雪・・・・・・」
なんだろう思わず口にしてしまうほど良い名前だった。名付けた親御さんに感謝状を贈りたくなるほどだ。
この場合どっちで呼ぶべきだろうか?年上っぽそうだから七年坂さんがいいだろうか、個人的には深雪って呼び捨てにしたい衝動が止まらないのだが。
そんな妄言に現をぬかしていると七年坂さんはおもむろに立ち上がりなにかの準備だろうか、メイド喫茶だったらガラスのグラスなんかが置いてありそうな棚からなにやら小さなプラスチック製の箱を取り出す。
「では、連絡先も交換したことですしもう一つの依頼の適正を見ましょうか」
「もう一つの依頼?適正?」
もう一つの依頼ってなんだ?と、いうよりも適正を見るってえっとここには七年坂さんと俺しかいないわけで・・・・・・つまるところ俺の適正ってことか?
なんとなくそうなんじゃないかと、そしてなにか凄く嫌な予感が背筋を寒気となって通りすぎる。
「響英俊はここをハローワークかなにかと勘違いしているようです」
そう淡々と七年坂さんは言うとおじさんの書いた紹介状をこちらに差し出す。ちなみに響英俊というのが俺がお世話になっているおじさんの名前だ。
「嫌な予感しかしねぇ」
俺は受け取った紹介状を見る。相変わらず汚いまるで蚯蚓が阿波踊りしているかのような万年筆の走り書きを長年の考古学者のような解析術で読み飛ばし重要そうな最後の一文だけを読み上げる。
「『ちなみに幸成の奴、無職なんで雇ってやってくれ』」
読み上げてる途中で思わず溜め息が漏れた。そしてなんでおじさんがわざわざ紹介状を同業者である鈴鳴探偵事務所書いたのか、なんとなく理解した。
同業者、そう俺のおじさん・・・・・・響英俊の仕事も探偵なんだ。
だがクロがいなくなったときおじさんは俺の依頼を受けなかった。確かにその時も七年坂さんが今日俺に言ったように「そこまで金をかけて探すものか?」とか「猫にだって猫の都合があるんだよ」なんて言われたがあれはどっちかというと本気で仕事を受けたくないという感じだった。
そこを俺が無理に頼み込んだら渋々おじさんは鈴鳴探偵事務所への紹介状を書いてくれたんだがまさかそこの罠が仕掛けられていたとは思わなかった。
・・・・・・確かに俺は働いていない。というか就職活動ってのを大学時代やらなかった。したいことがなかったんだ。
高校へ行ったらやりたいことみつかる、と思ったが見つからず・・・・・・
大学へ行けばそろそろなにやるか固まるだろと安易に考えてたら結局俺にはやりたい仕事なんてないってことに気がついてしまったのだ。
しかし俺もいい歳だ。五歳の頃からお世話になっているおじさんにいつか恩返しをしたい、そうは思っていたのだがそのいつかが定まらずにいた。そこをこうやっておじさんの方からご丁寧にお膳立てをしてくれたらしい。しかしその職業が探偵って、全く余計なことをしてくれるよ、おじさん。
「今回は秋口さんの尾行の適正をみたいと思います」
七年坂さんは淡々とした口調でプラスチックの箱を開けるとそこからこれまた年代物なんじゃないかって言うほどの古いビデオカメラがでてきた。
「だいぶ古いビデオカメラですね、これ」
目の前のビデオカメラを手に取り、素直な感想を述べる。ところどころ見れば銀色の塗装は剥げているしなによりこのご時世に8ミリフィルムとはまぁ今時売っているんだろうかと不安になるほどだ。
「最近のは規制が入って使いにくいですから」
七年坂さんはそんなことを言いながらなにやらホワイトボードを取り出しなにやら準備を始めている。
というかあれですか?物凄く普通に七年坂さん「尾行の適正」とか言い出してますけどこれ拒否権とかないんですか?
「えっと、それでその規制ってのは?」
とはいえこのなんとも言われぬ口の挟めない雰囲気になんとなく俺はビデオカメラのフェンダーを覗きながら問いかける。
「規制、それはS社で使われてたナイトビジョンという赤外線撮影モードに問題があったんです」
「ほうほう」
ビデオカメラで七年坂さんを捉え俺は頷く。そんな様子にも七年坂さんは表情を崩すことなく説明を続ける。
「本来ナイトビジョンは名前の通り夜間撮影に適したモードなのですがこれを日中とある条件で使いますと・・・・・・」
「使いますと?」
「服が透けます」
「マジで!?」
まさかの言葉に俺は慌てて手に持ったビデオカメラの操作パネルを確認・・・・・・しようとしてチラリと見えた七年坂さんの冷ややかな目線に思わず静かにビデオカメラをテーブルの上に戻した。
「そういう事情があってS社のビデオカメラは一時回収され、今現在は機能を制限、ないしは夜間でしか使えないように改良されたんです。探偵は夜間撮影することも多いのでこういう規制前のビデオカメラが重宝されるんですよ」
「へぇ~」
そんな関心の声をあげている間にも七年坂さんはホワイトボードにまるで活字印刷のような綺麗な文字を書き起こしていく。
「これから秋口さんに行ってもらう尾行対象者の設定です。メモを取っておいてください」
「は、はい」
言われるまま俺は手帳を開くとペンを走らせる。


・依頼人は妻が浮気をしているのではないかと疑っている夫
・結婚三年目、子供はなし
・最近妻が携帯電話を持って外に行き誰かと話していることが多い。
・妻の携帯電話を盗み見たところあきらかに男と思われる人物との親しそうなメールがある
・夫が仕事で三日間県外にでるため、その間にきっと男と会うはずだ。それが誰なのか調べてほしい。

箇条書きにして書いた文字を見ながら「これは間違いなくクロだな」とぼやく。
クロといっても俺の飼っていた猫ではない、というか俺はクロの捜索依頼をしに来たはずなのになにやってるんだ。
「それでは秋口さん、そのビデオカメラを持って外で張り込んでください。そして十分後に私が外に出ますからそれを尾行し浮気の証拠を見つけてください」
「えっ、もしかして七年坂さんを尾行するんですか?」
「私以外に居ませんから」
「まさかとは思いますがその格好で?」
「ええ、オーナーの意向なので」
さも当然と言った感じで七年坂さんは頷く。
なんていうかさっぱりしている、いやドライと言った方がいいんだろうか?
そんな七年坂さんにメイド服を着せて仕事させるようなオーナーっていったいどんな人なんだろう?
俺はビデオカメラを自分の肩掛けのバッグに放り込みながら漠然と思い黒皮のソファから立ち上がった。



鈴鳴探偵事務所の外にでて近くにこれみよがしにあった電信柱の影に隠れること五分。
立秋が過ぎて手紙で言えば残暑見舞いだというのに暑さはいまだフルで残っている感じだ。
太陽の熱で暖められたアスファルトから溢れ出す蒸し返るような熱気に俺は額の汗をハンカチで拭う。
おじさんの手伝いで現場への運転手くらいならやったことあるが俺が実際尾行をするというのは初めてだ。
なんだって初めてというのは緊張する。
今こうやって張り込んでいるのだって七年坂さんが「十分後に出る」という情報があってもなお緊張し、出てくるだろう鈴鳴探偵事務所の扉から目が離せない。
実際の現場じゃ相手がいつ動くなんてわからないのだから想像するだけでも胃がキリキリとしてくる。
そんな俺の気持ちを弄ぶように七年坂さんが外へ出てきたのは約束の十分から五分過ぎたころだった。
それがわざとだってのはなんとなくわかった。いやきっとあの人なら本来ならきっちり秒数まで計って外にでて来そうだからな。きっと予定の時刻の出ないことで集中力を切らせたりそういう意図があるんだろうと勝手に判断した。
「しかし本当にメイド服で外出るのか」
どうみたって暑苦しいだろうと言わんばかりの長袖、ロングスカートのメイド服を来て平然と歩く七年坂さんの姿をビデオカメラの液晶モニターに捉えながら俺は電信柱から身を乗り出し後を追う。
あんな格好していればさすがに嫌でも目立つ。・・・・・・ということはあれか、逆にこれで見失ったらとんでもなく間抜けということになるんだろうな。
七年坂さんは女性にしてはかなりの早歩きで表通りへ出るとその姿に驚き振り返る人達に構うことなく歩いていく。
俺はそれを見失わないように、近づきすぎないように距離を取り肩掛けのバックからレンズだけ覗かせたビデオカメラでその後ろ姿を撮り続ける。
一体七年坂さんはどこへ向かっているんだろう?先程からどこかを目指して一直線に歩いていると思うのだが・・・・・・
と、思った矢先だ。液晶モニターの中の七年坂さんが建物と建物の間の小道に左折していくのが見えて慌てて後を追いかける。
なんていうかこれ一瞬でも目を離してたら完全に見失うところだったぞ。
七年坂さんの入っていった小道はかなり人通りが少ない、俺は一旦その小道の前を通りすぎてからさも「おや?こんなところに近道があるじゃないか、通っちゃおう」といった様子を醸し出し小道へと入っていく。
人通りの少ないところでの尾行は距離を離さないといけない、それくらいは俺にだってわかってる。
先程までの大通りなら五メートルくらいでも大丈夫だと思うがこの小道ならその倍くらいは必要だろう。
・・・・・・と思ったのだが、俺が小道に入ったころには七年坂さんの姿が見えず、七年坂さんのであろう長い黒髪の影だけがスッと左に曲がっていくのが見えて慌てて走り出す。
「まったくなんてところ通るんだよ・・・・・・って」
角を曲がった先に七年坂さんの姿は見えなかった。
思わず背筋を寒気が走る。おいおいまさか始まって十分もしないうちに見失ったってのか、あの目立ちまくりな美人メイドを。
「いやいや、諦めるな。まだ近くにいるはずだ」
この小道からどこか店に入れそうなところはない、とすればまだ近くを歩いているはずだ。
左折、左折、ときたから次もとりあえず左折かと安易な考えで角を曲がる。
・・・・・・曲がってから気づいた。左折を三回も繰り返すともとの場所に戻るってこと、目の前に広がる大通りとそこを流れていく沢山の人の波に俺は絶望した。
「くっそ、してやられたというわけか」
「なにがしてやられたんですか?」
「うわぉぅ!」
突然した背後からの声に慌てて振り返るとそこには俺の探し求めた美人メイドが汗ひとつかかず立っていた。
「し、七年坂さんがなんで後ろから現れるんですか!?」
「言い忘れたことがありましたのでそれをお伝えしにきました」
汗だくで少し息も切れそうになっている俺とは正反対に涼しそうな顔で自分の携帯電話を取り出す。
「もし・・・・・・ありえないと思いますが私を見失った場合、私の携帯電話に連絡をください。今いる場所を教えますので」
「あっ、はい」
七年坂さんはありえないと言ったが今まさに先程俺は彼女を見失ってたんだよなぁ。まぁ向こうが気づいてないのなら今のはノーカウントってことにしてやろう。
「それと・・・・・・」
俺の横をスッと通り前に出た七年坂さんが振り返る。
「あまりないことですが尾行対象者が三回左折したときは怪しんでいると思って警戒してください、というより失敗ですね」
「そ、それ一応聞いたことあったんですけどね」
少し強がって言ってみる。
いや実際尾行されていると思ったら建物を三回左折したらもとの場所に戻るので、尾行されてるかわかるってのはおじさんから聞いたことはあったんだ。
「普段から尾行されていると思って歩く人はそういませんが、女性の場合たまにあることなのでお気をつけてください。それともう二点ほど伝えないといけないことがあります」
「まだなにかあるんですか?」
俺のささやかな強がりも意に返さずに七年坂さんは話を続ける。しかし三回左折のミス以外にまだ二つもやらかしているのか俺は?
「秋口さんがの尾行の仕方は尾行対象者にはわからないかもしれませんがそれ以外の人には自分は尾行している人間だとふれてまわっているようなものです」
「え?」
七年坂さんの言葉はなにかのクイズか言葉遊びなのかと思うくらい一瞬よくわからなかった。
「最初、電信柱の影で張り込んでいましたよね」
「まぁそうですね。これといった張り込み場所がなかったんで」
「ではそれを客観的に見たらどうですか?」
「客観的に・・・・・・?」
言われるがまま想像してみる。俺は文系だ、そういう会ったこともない書き手の『この時の作者の気持ちを書け』的なのは得意なんだ。

まず、俺が電信柱の影に隠れている。そこを想像し、そこから少し離れた赤茶けた煉瓦っぽいタイルの外壁をした築二年のマンション。
そこの501号室に住んでいる新婚の桐山桂奈さんが見ているとしよう。
今日は布団を干すのにはもってこいだろうし布団叩きを銅鑼のようにして勢いよく叩いているところでふと下を見ると電信柱の影に隠れている俺がいる・・・・・・。
『なにあの人、さっきからあそこで隠れてて・・・・・・佳奈こわーい!』
うん、前半丸々いらなかったが明らかに怪しいなあのときの俺。佳奈ちゃんが旦那に電話して『ダーリン!マンションの前の変な人がいて怖いから早く帰ってきてぇ~』と猫撫で声を出しているところまで容易に想像できた。
もちろん全部作り話だけど。
「怪しいですね、あの時の俺」
俺の言葉に七年坂さんは黙って頷く。
「更に私が事務所から出てきた途端に秋口さんが動き出したとしたら『ストーカー』と思われ最悪警察に通報される可能性もあります」
「うっ・・・・・・」
これも簡単に想像できた。佳奈ちゃんが警察に猫撫で声で連絡しているところ。
警察は最悪だ、なにも問題ないといってもお世話にはなりたくない。
「それに秋口さんは尾行中、ずっと私のことを見てましたよね」
「そりゃあれですよ~七年坂さんが美しいからで・・・・・・いや、なんでもないです、はい」
俺はちょっとお世辞を言って場を和ませようと軽口を途中まで言って、止めた。
なんていうか言ったところで七年坂さんは無表情で「そうですか」と言うのがもうはっきりとわかっていたからだ。
「尾行対象者をじっと見ていると他の人からは尾行しているのがバレてしまいます。お優しい方ですと尾行対象者に『あの人が貴方を尾行していますよ』と教えてしまうことがあるからです」
七年坂さんの言うように確かにそれは最悪の展開だな。
「なるほど。でもじゃどうすればいいんですか?見てないと見失いそうで」
「自然にしていればいいんですよ、張り込みも尾行も。とくに視線はわかりやすいので顔を向けるのではく眼球だけ動かしてください。それでは時間もありませんので尾行実習、再開します」
汗ひとつかくことなく涼しい顔でなにやら無理難題を言うと踵を返し立ち去っていく七年坂さん。
「よ、よし!気を取り直してやるか。今度こそは見失わないようにしないと」
小さく息を吐き、俺も歩き出す。
そして歩き出してすぐ気がついた周りの視線。俺に向けられたその一つ一つがさっきの七年坂さんの言葉から全て疑っているように見えてきて言われもない恐怖が襲ってきたのだ。
本番じゃないのにこんなに胃がキリキリしてくるなんて本当探偵なんて自分には向いてないだろう、そう思う。
とはいえ自然にしてれば他人の動向を一々気にしたりはしないってのも頭の中ではわかっている。
俺は勇気を振り絞り、肩掛け鞄からビデオカメラのレンズだけを出そうとしたその時
「あ・・・・・・あの~すいません!」
急に俺の肩が叩かれ話しかけられた。
俺は慌てて出しかけていたビデオカメラを鞄に押し込み、振り返る。するとそこには真っ赤なチェックのシャツに黒縁の眼鏡を掛けた小太りの男が立っていた。
見たことない男だ。というかなんというかテンプレなオタクといった感じだがもしかして俺が尾行しているのに気づいたのか?
いやそれ以外でいきなり他人に話しかけてくることがあるだろうか、いやない。
「えっとなにか俺に用ですか?」
緊張したままそう答える。場繋ぎというかなんというか次にどんな言葉が飛んできて、どう切り返すか頭の中の歯車をフル回転させてみるものの、そんな都合の言い言葉なんて早々出やしなかった。
「あのさっきのメイドさん、物凄く可愛かったけどどこのメイド喫茶の子?」
予想してない質問が飛んできた。いや、それなら本人に聞けばいいだろうに・・・・・・と、思ったがあれかこのオタクっぽい男がいきなり女性に話しかけるってのは難易度高いからさっきまで話していた俺に話しかけたってとこか。
「ああ、えっと説明しても信じてくれないかもしれないが」
俺は大きく息を吐き彼女の背中を指差すとこう言っておいた。
「あの人はスーパードライなメイド探偵さん、だ」



そんなスーパードライなメイド探偵、七年坂深雪さんを追いかけ・・・・・・尾行すること三十分。
うだるような暑さと尾行をしながら自然を装うという緊張感がジリジリと俺の体力を奪っていく。
「くそ、あっついな・・・・・・」
自然とそんな言葉が口から溢れる。
そろそろ喉の乾きを潤したい、そんな俺の気持ちを察して───いや多分察してないだろうが、しばらくして七年坂さんは一件の小さな喫茶店の中へと入っていった。
俺は七年坂さんが喫茶店の中に入っていく所をまず撮影し、次に喫茶店の看板をビデオカメラにおさめる。
「さて、どうするか」
俺はない頭を使って考える。
考え事は俺もこの喫茶店の中に入るべきなのか、どうかってところだ。
喫茶店はほとんど客がいないのが壁面がガラス張りになっていて外からでもはっきりとわかる。あまり人がいないところで尾行対象者に近づくのはリスクがあるような気がするんだよな。
「ああ、わかんねぇ・・・・・・行くべきか行かざるべきか」
そんなことを考えている間にも店内の七年坂さんはこれ見よがしにこちらから見やすい手前の席につき、ウェイトレスになにかを注文している。
メイドがウェイトレスに喫茶店で注文ってのも変な光景だな。
俺はとりあえずポケットの小銭を確認するとすぐ近くに見えた自動販売機まで歩く。
少なくとも喫茶店に入ったからにはしばらくはいるはずだ。流石に飲み物を買っている間に七年坂さんがいなくなる、なんてことはないだろう。
「しかしなんつぅ、ラインナップ」
自販機の前まできてそのラインナップの酷さに思わず閉口した。あるのは大手メーカーの自動販売機とは違う、聞いたことも見たこともないようなメーカーの自動販売機。
至るところに錆が入り商品が並ぶショーケースのガラスは太陽の光で焼けついていて黄色に曇っている。
並んでいる商品もこのくっそ暑い夏の日に、おしるこ、コーンポタージュに本当に飲めるのか本当に売る気があるのか怪しいトムヤンクン等、ほとんどがホットで独創的だ。
そもそも百円玉を入れたら最後そのまま商品も出さず沈黙を保ちそうな感じだが、一応は動いているのか硬貨投入口の横には真っ赤なランプで販売中と出ていた。
俺は少し悩んだが他に自動販売機も見えないので仕方なく硬貨を入れ唯一クールと表示された缶コーヒーのボタンを押す。
ガシャンという音と共に意外にも商品はすんなりでてきた。いや、これが普通なのだが自動販売機が自動販売機だったもので思わず警戒してしまったのだ。
「おっ、結構冷えてるな」
取り出し口から手に取った缶はこれでもかってくらいにキンキンに冷えている。
恐らく誰も買っていないからこれだけ冷えていたのだろう、何事もチャレンジ精神というのが大事だな、うんうん。
俺は上機嫌で缶コーヒー片手に七年坂さんがいる喫茶店の前まで戻ると───状況は大きく変わっていた。
「だ、誰だ?あいつ・・・・・・」
七年坂さんの前には巨大なチョコパフェが陣取っている。いや違う、チョコパフェはどうでもいいんだ、物凄く美味そうだけど本当にどうでもいい。
大事なのは七年坂さんの前にいる男だ。
グレーのスーツ姿に短く刈り上げられた髪の毛を逆立てた眼鏡の男。できるビジネスマンといった感じの男が七年坂さんになにやら楽しげに話しかけている。
席は別に空いているし相席、というわけではないだろう。七年坂さんはあいも変わらずと言った様子で無表情のままパフェを小さな口に運びながら男と会話をしている。
「・・・・・・って、見ている場合じゃないか」
とりあえず俺は鞄の中のビデオカメラを楽しそうに談笑している二人に向けピントを合わせる。
言うなれば決定的瞬間という奴だろうか、本当俺がちょっと目を離した隙にこんなことになっているとは予想外だ。
しかしこの急に始まった尾行実習でいつのまにか浮気相手役を用意しているとは七年坂さんの手際の良さに感心させられる。
「んじゃあれか、この後お城っぽいホテルに入っていくのか?」
実習というのも忘れてなんとなくでスーツの男と七年坂さんが仲良くお城っぽいホテルに入っていくのを想像し思わず首を振った。
いかんいかん、もう完全に俺の脳内でクルクル回るピンクベッドで一糸纏わぬ姿の七年坂さんを想像してしまっていた。エロスは文明を加速させると言うが俺の妄想は文明なんて加速させず、ただただ集中力を欠くだけだ。
俺は冷静にスマートフォン片手に先程買った缶コーヒーのっプルタブを開ける。
どうせ妄想するなら七年坂さんが言っていた自然さってのを演出するべきだろう。

イケメンの俺は今、超絶美少女の彼女とデートの待ち合わせの最中だ。
毎週日曜日は安息日であると共に愛しの彼女とのデートの日でもある。俺の彼女はとにかく超絶美少女で真っ赤なツインテールにゴスロリパンクを完璧に着こなし「えへへ、傀儡政権のはじまりだよっ」と謎台詞と共におでこをデコピンしてくるような女の子だ。
そんな彼女と目の前の喫茶店「リチェルカーレ」でこうなんだストローがハートしている活かしたドリンクを二人で頂こうとこうして店の前でクールに缶コーヒーを飲みながら待っているのだが・・・・・・
「まっず!!なんだよ、これ!」
あまりの缶コーヒーの不味さに一気に現実世界に戻された。
なんというんだろう、同じコーヒー豆を十数回使ったあとのようなコーヒーの薄さに、なにを思ってかは知らないが炭酸が入ってやがる。
普通、入れるかコーヒーに炭酸って!!
とんでもない不味さに喉が乾いているというのにそれ以上喉を通らなかった、さてこの缶コーヒーの処理をどうしようか。
そんなことを考えていると七年坂さんとスーツの男が立ち上がる。
こちらから伺う限り、どうやら会計をしているようだ。ということはこれからお城っぽいホテルへと洒落込むつもりか?
「やっぱり喫茶店の中に入るべきだったかな」
今更ながらにそんなことを思う。
そうすれば二人がどんな会話をしていたかわかっただろうし、俺がこんなクソ不味いコーヒーを飲まなくても済んだのだからな。
俺は不味い缶コーヒーをイッキ飲みして消費すると二人が出るところをじっと待つ。
ほどなくして二人は店から出てきたのだが・・・・・・
「あれ、別れるのか?」
二人は腕を組みイチャイチャしながら歩き出す、なんてことはなく店の前で早々に別れて歩き出したのだ。
「ん、これはどうしたものかな」
スーツ姿の男が路地へと消えていくのをビデオカメラでおさめはした、だがこの男と七年坂さんのどちらを尾行すべきなのか俺には咄嗟に判断できなかった。
「いやとりあえずは七年坂さんの方か」
あの男が浮気相手、という確証がない以上スーツの男を尾行するのは違うだろうと少ない知恵で俺は考える。
もしかしたら喫茶店の中で核心的な浮気発言があったのかもしれないが今更過ぎたことを言ってもしょうがない。
あの男が浮気相手、ではなくただの世間話が好きな営業マンということにして俺は七年坂さんの後を追うことにした。



七年坂さんが次に訪れたのは近くの大型スーパーだった。
どこかのドームがいくつか入るだろう敷地に、地域活性化を目的に作られた全国店舗によくある有名なスーパーであるが正直逆効果だといつも思う。
ここに来る前に通ったアーケードのある商店街、それがまさに良い例だ。
ほとんどの店のシャッターは落ち活気というものがほとんどなかった、人通りもなかったもんだから一瞬ゴーストタウンかなにかかと空見するほど。
どこかで聞いたことがあるがそもそもこういう大型スーパーは商店街を潰すためにわざわざ近くに建てるらしい。
そして価格を思いっきり下げて商店街の客を奪うのだ。
個人商店では赤字で潰れるだろうってくらいに価格を下げる、それは当然スーパーにも厳しいのだが元々持っている資金力というのが違う。大型スーパーは毎年平気で赤字を何億と出すがそれでも平然と経営を続けていける、一方個人商店はそうはいかない。
そんな個人商店の末路はシャッターを降ろすか、大型スーパーにテナントとして高い賃料を払って飼い殺しにさせられるか。
大型スーパーの登場で人は増えるが活性化はしないだろう、確かに店は大きく小綺麗で商品もたくさんある。が、そこには人情ってものがないのではないか?
「・・・・・・と、尾行中の俺は思うのです」
下らない持論を呟きながらショッピングカートを押している七年坂さんの後ろ姿を捉える。
しかし何度も思うがメイド服姿で歩いているのを見ると不思議な感じだな。
ただそこら辺を歩いている可愛くないゴスロリの人とは違い、七年坂さんのメイド服姿は完全に板についているし本人がまぁ平然としているので周りからはそこまで浮いていない。
コスプレとは違う『近所の大富豪の家に使えている美人のメイドさん』、それでなんか納得してしまうのだ。
実際はスーパードライなメイド探偵なんだけど。
俺も真っ赤なカゴを手に取り、体とカゴでビデオカメラの入った鞄を挟むようにする。こうしてればレンズの飛び出てる部分もカゴで隠せるし商品をカゴに入れたりしてればただ買い物をしている風に見えるだろう。
そんな間にも七年坂さんはショッピングカートに次々と商品を入れていっている。
その様子はもう値段を気にして悩む主婦とは違い、好きなものを好きなだけ買う、値段とか気にしないという感じだ。
「ひぇぇ、七年坂さんこれ買ったのか?」
七年坂さんがショッピングカートに入れた商品を後から確認するとやたら高いものばかりだ。精肉コーナーでは国産黒毛和牛のステーキ用の肉に青果コーナーでは出来合いのサラダの大皿を、酒コーナーではこれまた高そうなワインを二本買っている。
どれも俺には手を伸ばすどころか視界に入れることもしないだろう、値段を見たら一つでもう財布とご相談な物ばかり。
それを平然とポイポイとショッピングカートに入れていく七年坂さんを見ると探偵って儲かるのかなと勘ぐってしまう。
「とりあえず俺もなにか入れとかないとな」
生憎と俺の財布は毎年金欠状態だ、七年坂さんのようなお高い商品は買えないので七年坂さんがお菓子コーナーを通りレジに向かうのを見計らってその辺にあった百円の子供が好きそうな玩具つきキャラメルをカゴに放り込んでおいた。
もはやカゴなんていらないんじゃないかと言う感じだが致し方ない。
ちょうど七年坂さんがレジに入り、間に二人ほど別の客が後ろに並んだのを見計らい俺もそれに続く。
「ええっと、こちらが二点に。あらこれ美味しそうねぇ」
レジでは長年のベテランといった感じのおば・・・・・・お姉さんが色々くっちゃべりながら七年坂さんの商品をスキャンしていく。
「まぁステーキまで今日は豪勢なのね、誰かのお誕生日かしら?」
「そんな感じです」
「あらあらそれはいいわねぇ~」
七年坂さんとくっちゃべりながらもおばちゃ・・・・・・お姉さんは素早い手際であっという間に商品をスキャンしていき、レジに表示される金額もゲームのスコアのように増えていく。
「はい、それじゃ15864円になります」
一回の買い物にしては破格の金額とだろう、俺の一ヶ月分の食費と同じくらいじゃないか。
「えっとちょうどですね~。こちらレシートのお返しになります」
「ありがとうございます」
レシートを受け取った七年坂さんは山のようになったカゴをカートに乗せるとゆっくりとした足取りで歩き出す。
「あらら~これね、美味しいんで帰りに買ってこう買ってこうと思うんだけどそのころになるとなくなってるのよねぇ~」
レジのお姉さんは相変わらず口が達者なようで一々商品にたいして自分の意見を言っている。
「これね~ニュースでやってたでしょ、痩せるって言ってて私も買ってるのよぉ」
状況が状況なだけにええい、さっさとレジを打てレジを!と思ったりもするが手際だけはやたらと早いので言うに言えない。
しかしなんだ大型スーパーなんて気力のない学生バイトがレジしているそんなイメージだったが人情的なものもあるじゃないか、あれを人情と言って良いのかまでは知らないが。
「あらら、これ孫が好きなのよねぇ。はいじゃ108円になります」
俺の買った玩具つきキャラメルにそんな言葉をかけるレジの・・・・・・孫いるならおばちゃんでいいな。
俺はポケットの小銭を取りだしちょうどの金額を支払うと目線で七年坂さんを追う。ちょうど七年坂さんは店の隅っこで商品をレジ袋に入れているところだった。
「はいじゃシール張って・・・・・・あら、お兄さん良かったわねぇ、これ当たりよ当たり!」
「当たり?」
驚いた様子で騒ぐおばさんに俺は思わず振り返る。
「これね、ここのところの数字がゾロ目だと当たりなのよ。よく私も孫のために買ってたからわかるのよ!」
「は、はぁ・・・・・・」
お菓子の裏側の製造番号的なのを見せ熱弁を振るうおばちゃん。
「とりあえず俺、今急いでるんで」
悪いがお菓子の当たりに興味はない。俺は半ば強引におばちゃんからお菓子を奪い取ると七年坂さんの方を振り返る。
そして状況を把握して大きく息を吐いた。
「・・・・・・ああ、おばちゃん大当たりだったよ」
「そうでしょ!やっぱり昔から変わらないのよ~ゾロ目が大事って!それでなにが当たったの?」
「悪い予感だよ」
七年坂さんのいなくなったフロアを見つめ俺は言葉を吐き捨てた。



「お疲れさまです秋口さん。麦茶しかありませんけどよかったらどうぞ」
「ありがとうございます」
七年坂さんに差し出されたグラスに入った麦茶を俺は受けとると一気に飲み干す。
スーパーで七年坂さんを見失った後、俺はしばらく街を駆け回り七年坂さんを探したが結局見つからなかった。
本当は絶対に電話しないつもりだったのだがな。
クーラーの効いた部屋に冷たい麦茶が火照った体に染み渡り、体の熱を奪っていく。
「はぁ・・・・・・生き返る」
「まだありますので、好きなだけ飲んでください」
「あっ、はい。いただきます」
空になった俺のグラスにアクリルポットから麦茶を注ぎながら七年坂さんがそう言う。
しぶしぶ七年坂さんに電話をしたとき、彼女はやっぱりドライだった。
『そうですか、もう私はタクシーで事務所に戻っているので秋口さんも事務所に戻ってきてください』
怒るわけでも落胆するわけでもなく言われたその言葉になにか救われたような気もしたが同時に俺って期待されてないんだなぁ、なんて少し落胆もした。
いや元々探偵なんてやるつもりはなかったので期待されても困るんだが、それでもなんだろうな・・・・・・なにか一言俺自身は欲しかったのかもしれない。
「それではテープが巻き戻り終わりましたら本日の尾行実習についておさらいします」
「わかりました」
七年坂さんが俺の隣に座るとビデオカメラのパネルを操作し巻き戻し始める。どうやらこのビデオカメラについている小さなモニターで解説をするつもりのようだ、七年坂さんの体はかなり俺の近くにまで寄ってきている。
麦茶の入ったグラスを口に運びながらチラリと横目で見る。
七年坂さんはやっぱり美人だ。こんな美人な人がメイド服を着て探偵をやっていると言う事実に改めて驚かされると共に、こんなドライな七年坂さんにメイド服を着せて仕事させると言うわけのわからんことをするこの鈴鳴探偵事務所のオーナーさんってのは一体どういう人間なんだろうと気になってしょうがない。
やっぱりオーナーさんってのは超絶イケメンなんだろうか?
そしてそのオーナーさんの前だと七年坂さんは普通に笑ったりするのだろうか?
そんなことを考えている間に結構長く撮ったつもりのテープも圧倒言う間に巻き戻っていた。
「はい、では再生しますよ」
無表情のまま七年坂さんが再生ボタンを押すとモニターに俺が撮った七年坂さんの後ろ姿が見える。
「ちゃんと見てください秋口さん。要点があるときは止めますので」
「わ、わかってます」
二人だけしかいない事務所でお互いの肩が当たるほど近づきひとつのモニターをじっと見つめるのは真面目に見なきゃいけないのはわかるが少々理性を抑えるのが大変だ。
「これ撮り方とか大丈夫ですか?」
俺は静寂に耐えかね、七年坂さんに声をかける。なんていうか向こうは全く思ってないのだろうが俺としてはこの沈黙が真綿で首を絞められるかの如く辛くてしょうがないのだ、なにかの気の迷いで七年坂さんに手をだしてしまいそうで。
「そうですね、私の後ろ姿ばかり撮ってますね」
「いやそれはそうなんじゃないんですか?尾行なんですから」
「後ろばかり撮るのは誰にでもできることです、依頼人の望む映像を撮影するのが探偵の仕事です」
そう言うと七年坂さんは尾行実習をする前に書いていたホワイトボードを指差す。
「今回の依頼人は妻が浮気しているのではないかと疑ってる夫です。例えば普段自分の前では愛想悪そうにしている妻が、嬉々として出掛けている表情などが撮れれば決定的ではないにしろ疑惑を確信に変える要素の一つにはなりえるでしょう?」
そう言われると確かにそうだろう。
自分の知らないところで自分のパートナーが普段どうしているか、その時どんな表情をしているのか依頼した本人としては気になるところだ。
「それに正面の顔を撮るということには、『こんなところから、こんなところまでも探偵は撮っているのか』という撮影スキルの高さを見せることができ、探偵への信頼も上がります」
「つまり次の依頼も受けやすいってことですか」
俺の言葉に七年坂さんは「継続して調査を続けるためにもです」と付け加える。
「とはいえホワイトボードにも書いた通り、本来の目的は浮気相手の有無の確認、その人間がどういう人物かの調査なので尾行者の表情はそこまで重視していません。なのでこういう映像があったらより良かった、程度に認識していてください」
「なるほど、よくわかりました」
話を聞いて俺は自分の甘さに心の中で自らを叱責した。なんというか尾行なんてコソコソと後ろを付いていっているだけの簡単な仕事、なんて思っていたのだがここまで考えられていたなんて。
きっと七年坂さんの言うそこまで考えて映像を撮るというのは相当な技術がいることなんだろう、そしてそれを完璧にこなすのがプロの仕事ってことか・・・・・・。


「では、ここで一旦映像を止めます」
それからしばらくして七年坂さんはビデオカメラの映像を止める。それはちょうど七年坂さんが喫茶店「リチェルカーレ」へ入ったところだった。
「私はここで一人の男性と会いましたが秋口さんはこの男性が浮気相手だと思いますか?」
「そうですね・・・・・・」
恐らく今回の尾行で一番の肝の部分だ。俺の中で答えは出ているのだが少し考える振りをしたから答えた。
「あの人は浮気相手ではないと思います」
「そうですか、ではその根拠はなんですか?」
根拠、ああ根拠ね。やっぱり言わないといけないよね。
正直俺があのスーツの男性を浮気相手じゃないと思うのは薄氷のように薄っぺらい根拠からだから、なんというか言いにくい。
「喫茶店を出た後、二人は別れたから・・・・・・ですかね」
手に持ったグラスの氷がカランと音を鳴る。
なんていうか言ってて自分でも「そりゃないわな」と恥ずかしくなる。
七年坂さんはじっとこちらを見つめたまま、いやもういっそそこは「はぁー?そんなのが根拠かよ!!」とか罵声を浴びせてくれた方がこちらとして助かる。
あ、いや・・・・・・別に美人のメイドさんからの罵声を浴びたいという性癖の事言っているんじゃないぞ。
「そうですか。では次、秋口さんは何故喫茶店に入らなかったのですか?」
次に飛んできた七年坂さんの言葉に俺は心の中で再び頭を抱えた。
こう理詰めで来られるとなんだか凄く責められている感じがする。逃げ道はないし、言い訳はできない・・・・・・正直に言うしかないか。
「なんていうかですね、あの喫茶店人があまりいなかったので中に入ったら尾行対象者に姿を見られそうで」
「そうですか、それが秋口さんの取らなかったリスクというわけですね」
「リスクって言われるとまぁ、そうなりますか」
後ろ首を掻きながらそう答える。まぁそういう言い方をすればそうなんだろうがただ単に俺がヘタレで一歩踏み込めなかっただけなんだからな。
「やっぱり中に入った方が良かったですかね?」
「・・・・・・入った方が良かったのか入らなかった方が良かったのか、正しいのか正しくないのかそれに関しては結果論でしかありませんが、一つ店の中にいたらわかるリスクに見合ったリターンがあります」
細く美しい人差し指を突き立て七年坂さんが言う。まるでそれは小説に出てくる探偵が謎を一つ一つ解き明かす時のようにスタイリッシュに決まっていた。
「リターン・・・・・・?」
「簡単な事です、あの店にいればあの男性が浮気相手ではなくただの保健所の人だとわかりますから」
「保健所って・・・・・・」
保健所と聞いて俺の頭の中に出てくるのはただ一つ、いなくなったクロのことだ。
俺の考えを見通しているように七年坂さんは小さく頷く。
「あそこで私は秋口さんの依頼である猫の件について話を聞いていました。とりあえず保健所の方には来ていないようでしたが」
「そうですか・・・・・・」
さすがにあのスーツの男が保健所の人間だなんてのは想像もしていなかった。そしてクロの奴が保健所に行っていないという事実に少しだけ安堵する。それと同時に七年坂さんがクロの捜索を忘れてないことに少し驚いた。
いやてっきり尾行実習なんてやってて俺の本来の依頼であるクロの捜索に手がついてないのではないのかと勘ぐってしまっていたのだがそこはこのスーパードライなメイド探偵さんに隙はないらしい。
「あの人が保健所の方であることはあの店の中にいるか、私と別れた後、彼を尾行しなければわからなかったことです。当初の尾行依頼には尾行対象者に接触する男性について調べることですが外にいただけでは彼を尾行するべきかわからないでしょう」
「確かに・・・・・・」
外で別れた、という怪しい推測だけで浮気相手ではないと決めて七年坂さんを追ったが店の中に入っていれば悩むこともなかったということか。
「ですが秋口さんの言うようにリスクを回避するのも手としてないわけではありません。二人以上で尾行していれば別々に私と保健所の方を追えば良いですし・・・・・・必ずしも店の中にはいるのだけが正しいわけではありませんよ」
その言葉になんだか少しだけ救われたような気がした。なんていうかあそこは自分でも物凄く悩んだところではあったからな。
「では、次に私は大型スーパーへ行きましたがそこではなにか気づきましたか?今、この映像を見て気づいたことでもいいです」
そう言いながら七年坂さんは再びビデオカメラを再生し出す。
あの大型スーパーで気づいたことなんてそう多くはない。
大型スーパーにはないと思っていた人情的なレジのおばちゃんがいた・・・・・・というのはどうでもいいことで気になることと言えば一つだけある。
「なにか物凄く高い物ばっかり買っていた気がします」
モニターには数千円するステーキ肉をカゴに平然とした様子で放り込んでいる七年坂さんの姿が映っている。
「それだけですか?」
「それだけと言われると・・・・・・ん~?」
そう言われて今一度モニターを注視するもそうパッとなにかが閃くわけでもない。高そうな商品をポンポン放り込んでいる七年坂さんの姿が映っているだけだ。
しかし七年坂さんが『それだけ』と言う以上、なにかがあるのは間違いない。恐らくすでに見えているはずなのに俺がスルーしてしまっている事が。
「もう一度巻き戻して見ていいですか?」
「ええ、構いませんよ」
七年坂さんに許可をもらって俺はテープを巻き戻し再度スーパーに入るところから再生する。
とはいえ何度見ても変わらない、七年坂さんはやたら高そうなステーキやワインを値段も見ずにカゴの中に入れているだけでそれ以上はなにもない。誰とも話してたりはしていないし、怪しい行動なんてとっているようには見えない。
「むぅ、なんにもわかりません」
結局テープを七年坂さんを見失うところまで何度か見たが新しい発見らしい発見はなにも見つからず降参の白旗をあげるしかなかった。
「そうですか。では秋口さんは私が買うものに対してどう思いましたか?」
七年坂さんは相変わらず無表情で淡々と話す。
しかしなんだ七年坂さんが買うものに対して思うこと?そんなのは一つ、わかりきっていて言う必要がないとおもっていることが一つだけある。
「なにか高い物ばかり買ってるなぁ、とは思いましたけど」
「つまり金遣いが荒いと」
「いやいやいや!別にそこまでは言ってませんよ!お金持ちなんだなぁ~って思っただけで、はい」
俺は自分の発言を慌てて訂正するが七年坂さんはそんな俺に向かって小さく首を横に振る。
「金遣いが荒いと言うことには重要なことですよ。浮気をする人間は本人は気にしていなくても普段とは違ったことをしだす可能性はあります。それは急に服装の趣味が変わったり、化粧や香水の変化、お金の使い方だったりとするわけです」
「は、はぁなるほど・・・・・・」
「それにこれは気づきにくいと思いますが夕飯の買い物をするにしては妙に遠いところのスーパーで買い物をしたと思いませんか?」
「確かに・・・・・・」
そう言われれば七年坂さんを見失って電話を掛けたとき『もうタクシーで帰ってきた』と言ってたのを思い出した。
買い物をするならタクシーで帰らないといけないようなところでなくてもあの大型スーパーはこの事務所の近くにもある。わざわざあそこで買い物をすること自体が違和感だったのだ。
「では何故遠くのスーパーで買うのでしょうか?」
「それは・・・・・・」
ここで特売品の日だから!と答えるのは間違いだ、流石にそれは俺でも理解することができた。
わざわざ遠くのスーパーで買い物した理由、それは・・・・・・
「見知った人に会いたくなかったから?」
恐る恐る言った言葉に七年坂さんは小さく頷く。
「そうとらえて・・・・・・とらえられてもおかしくないでしょうね」
そう答える七年坂さんに思わず心の中でガッツポーズを決めてしまう。色々とヒント的なのは出してもらったがここにきて初めて俺の推理が当たった、それが単純に嬉かった。
まぁこれにすぐに気付けたのは怪我の功名とも言うべきか、あのやたらと話すレジのおばちゃんのおかげと言ってもいいだろう。
言えば人情、みたいなものか・・・・・・いつも行くスーパーなら図らずもそれなりに同じ人間と接触することは多い、尾行対象者はそれを避けるためにわざわざ遠いスーパーで買い物をしたということだ。
近くのスーパーというのにあのレジのおばちゃんのような人がいるかは定かではないがそれでも普段から通っていれば親しい人、見慣れた人はでてくるもの・・・・・・そんなちょっとした指のささむけのようなものでも浮気をしている尾行対象者なら避けるはずだ。
『あそこの奥さん!この前物凄く高い物を買っていったのよねぇ~!パーティかなにかしら?えっ!?その日は旦那さん出張だったの!?あらら、あららららぁ~!?』
なんてレジのおばちゃんが言って回っているのが安易に想像できる。
「かなり正解に近づいて来たようですね。それでは最後にもう一つ秋口さんに見せましょうか」
俺の勘違いかどうかわからないが表情こそ変わらないものの七年坂さんはどこか

嬉しそうな様子で立ち上がると木製の白いバーカウンターの裏へ回る。
「探偵に必要なのは推理力ではなく洞察力、観察力です」
七年坂さんはそう言うと先程スーパーで買ったレジ袋をカウンターの上に乗せる。
「この買った商品からなにを観察できるか、最後にそれを見たいと思います。こちらに来ていただけますか?」
「あっ、はい」
言われるがままに俺は返事をし立ち上がるとカウンターへと近づく。その間にも
七年坂さんはレジの袋から商品を取りだしカウンターへと並べていく。
「高級黒毛和牛のステーキ二枚、サラダ大皿二人分、ワイン二本・・・・・・ってこれ、もしかして」
もはや口にするまでもなくわかりきったことだった。わざとらしく全てが二人分買われていたのだ。
「夫は三日間出張で、子供はいないのに二人分ってこれ浮気相手と食べるって考えていいんですか?」
「この段階で二人で食事をするものとはわかりますがまだ浮気相手とは限らないす。女友達や親戚と食事だと言い訳もできましょう、ただし他にもこういった物を買っていたらどうでしょうか?」
そう言ってレジの袋から次に七年坂さんが取り出した物、それは・・・・・・
「ふえっ、男性用下着?」
思わずうわづった変な声が出た。男性用下着、そんなものが出てきたことというよりも、いつの間にそんなものを買ってたんだと言う驚きの方が強い。
俺はスーパー内でずっと七年坂さんを尾行して見落としなんてないと思っていたからだ。
「他にもありますよ」
男性用の靴下、歯ブラシ、しまいにゃコンドームまで。次から次へと見覚えのない商品が出てきてその度に唖然とするしかない。
「こう言った商品が夫のために買われていないとしたらどうでしょうか?」
「と、いうよりもこの商品いつ買ったんですか?俺ずっと見てましたけど全くそんな様子なかったですけど」
「これらは秋口さんに見つからないよう警戒しながら買いましたので。しかしレジでの会計を注意深く見ていればわかったことでもあります」
レジでの会計、思えばずっと見てたけどあの時はゲームのスコアのように増えるレジの金額とあのやたらと人情味のあるおばちゃんに完全に気をとられていた。
「はは、これだけの証拠があれば浮気しているのなんて確実じゃないですか」
もはや自分の間抜けっぷりに乾いた笑いが漏れ、どっと疲れが肩の上にのし掛かる。
ただそんな状態でも七年坂さんの表情は一切変わらない。
「実際浮気相手と一緒にいるところが見つかったわけではないので確定とは言えませんがそれを疑うに十分な材料は揃っていると言ってもいいでしょう。ほぼ間違いなく夫の出張期間である三日以内に浮気相手と会う可能性が高いので追加で調査をするのが良い、今回の尾行実習で答えを出すと言うならこうなります」
「そう、なりますね・・・・・・」
そう答えつつ俺はなんとも言えない気持ちだった。なんだろう、もっとこう浮気相手が現れて決定的な瞬間をビデオにおさめる!というのができるかと思ったらなんともやりきれないというか・・・・・・「この後もまだまだ続くよ!」って言ったテレビのCM後にすぐ番組終了するようなそんな感じだ。
まぁいきなりの尾行実習で準備もできないだろうし、そもそも用意されたとしても俺のあの無様な尾行じゃそんな決定的瞬間なんて撮れやしなかっただろう。
「それでは長い間お付き合いいただき、ありがとうございました。採否については後日ご連絡しますので今日はお気をつけてお帰りください」
「あ・・・・・・はい」
事務的に頭を下げる七年坂さんに小さく会釈すると俺はスマートフォンの電源を入れ時間を見る。ここに来たのは三時くらいだっただろうか、今はもう既に画面のデジタルな時計は七時を回っている。
「では失礼します」
黒皮のソファに置いたバッグを肩に掛けると今一度七年坂さんに一礼して事務所を出る。
「ふぅ・・・・・・」
事務所の扉にしては荘厳な分厚い木製の扉を閉めると深く息を吐く。
辺りはすっかり日が落ちて暗くなっていた。なんだか想像よりもずっと長い時間ここにいたような錯覚を覚えたくらいだ。
「採否は後日、か」
そもそも俺にとって採否なんてどうでもいい話だ。おじさんの紹介状に変なことが書いてあったから今日一日尾行なんてやったが俺の本来の目的は飼い猫のクロを探してもらいたいだけ。俺自身、職は探しているが探偵って選択自体は全くないのだからな、なにせ・・・・・・
「あの人見ていると、どうしても探偵はな」
思わずボヤくと俺はその尊敬してない探偵のいる我が家へと帰ることにした。



「ただいま~」
錆びて軋む鉄製の扉を俺は両手で力一杯に開けながら帰宅の声をあげる。
俺の家、そしておじさんの仕事場である響探偵事務所は七年坂さんの勤める鈴鳴探偵事務所からは歩いて小一時間ほどの所にある見た感じは似たような事務所だ。
「外から見た感じだけ、だけど」
ぼやきながら玄関に無数にある靴を避けつつ自分の靴を脱ぐ。
乱雑に並ぶ靴のほとんどがおじさんの物だ、なんていうんだろう依頼人が来たらまずここで「大丈夫なのかこの探偵事務所」と思う所だろう。
とはいえ、俺がいくら片付けても三日もすると元に戻るのでもうほったらかしだ。
無数の書類と雑誌の山を避けながら廊下を進むとおじさんが普段仕事場にしている事務所になる。と、言ってもここの荒れようは玄関や廊下よりも酷いので依頼の面談なんかは近くの喫茶店でやっているのがもっぱらだ。
「お~幸成、帰ってきたか」
そんな塵山の真ん中で無精髭を擦りながらマッサージチェアに座るおじさんがビールを持った手をあげる。
この塵山でやたら高級なマッサージチェアに座わって王様気分なのがここの主であり、響探偵事務所の唯一人の探偵であり、また俺の保護者でもある響英俊おじさんだ。
「今日はずいぶんと遅かったな」
「まぁ誰かさんのお陰でね。晩酌してるってことは晩御飯ってもう食べたの?」
少し嫌みを言いつつ俺は肩掛け鞄をソファに投げ腰を下ろす。
「ああ、腹が減って仕方なかったからな。今日は久しぶりに俺が腕を振るったぞ、響流野菜炒めだ!」
おじさんはご機嫌な様子で言うとビールを勢い良く飲む。この感じ大分前から飲んでるな。
「幸成の分もあるから自分で温めなおせよ~」
「それはどうも」
一応の感謝の言葉を口にして立ち上がるとキッチンへ向かう。
響流野菜炒めなんて大層な名前をつけているが実際はただの肉抜き野菜炒めだ。
カット野菜を中華調味料で味付けしただけ、おじさんは俺を預かることになった五年前からこれしか料理は作れない。
相変わらずだな、と俺は小さく息を吐きコンロに火をつけると野菜炒めを温め直す。
思えばこのぐうたらで掃除もせず料理もまともに作れない英俊おじさんが何故両親を亡くした俺を引き取ろうとしたのかそれは未だに聞いたことがない、そんなことをふと思った。


英俊おじさんと俺には血の繋がりは全くない。おじさんは俺の父親の妹の旦那、ようは叔父である。
俺が英俊おじさんに引き取られたのはちょうど五歳の時、といってもその頃の記憶も、それより前の記憶もほぼないしおじさんもその頃の話はあまりしたがらないのでよくわからない。
ただ、俺が高校に上がったときだろうか今日みたいに酒をあおるように呑んでいたおじさんが急に真面目に話し出した時、俺は自分の両親がどうやって死んだかを初めて知った。
別段両親の事は顔も覚えてないし、英俊おじさんのおかげで親がいなかったことを辛いと思ったことはなかったがその話は俺にとってあまりにも衝撃的な話だった。
まず俺の母親は交通事故で死んだ。
高速道路で運転をミスってスリップ、横転しそこを大型トラックの追突にあい事故死。
母親が運転していた訳じゃない、問題は運転していた若い男だ。その若い男ってのは名前は忘れたがテレビで活躍する一世を風靡したアイドルだったそうだ。
そして死人に口なしと言うのだろうな、死んだ母親とその若い男ってのが遺留品から不倫関係だったのがわかりワイドショーや週刊誌に大きく取り上げられ、連日マスコミがその時俺が住んでいた家にはわんさか来たらしい。
そしてその数日後、俺の父親は近くのビルのマンションから飛び降り自殺した。
遺書はなかった。
だからマスコミに追われたのが原因なのか、妻が浮気し死んだのが原因なのかはわからなかったがただ一つ、わかることがあった
「両親にとって俺は必要のない子供だった」
俺の事を放っておいて母は若い男と浮気して交通事故にあい
俺の事を放っておいて父は全てから逃げるようにして自殺した
子供が抑止力になんてなろうはずもなく、ただただ邪魔な存在だったのかもしれ
ないと思うと正直辛くなるがそれがおじさんが話してくれた真実だった。
ただそれを思うと同時にそんな身寄りのない俺を親戚とはいえ血も繋がってない英俊おじさんが引き取り、何不自由なく育ててくれたこと、それに物凄く感謝しなくちゃならないということに気づかされたものだ。


「おぉ~い幸成、ビール一本とってくれぇ」
温め直した野菜炒めを皿に移していると背後からおじさんの声がする。なんていうか感謝はしているんだがこう仕事せずに家でビールばっかり呑んでるときは尊敬できやしないから困る。
「ビールビール!幸成くーん、はーやーく!」
「はいはい、わかったよ。ったく、今日はご機嫌なんだな」
俺はボヤきながら冷蔵庫を開けるとそこからビールを取りだしおじさんに差し出す。
「いやぁ~今日は一件も仕事の依頼がなかったので一日中ゴロゴロしてたからな。カァーッ!ビールが美味い!」
俺から受け取ったビールを早々にイッキ飲みすると英俊おじさんは気持ち良さそうに声をあげる。
流石にここで「ちったあ仕事しろよ」とは俺には言えない。なんせ俺だって働いてないんだからな。
俺は乱雑に積まれた催促状やら電気料金の支払い用紙を腕で押し退けるとそこに皿を置き、椅子に腰かける。
なんていうか相変わらず汚い部屋だ、俺がちまちまと掃除をしているんだが気がつくといつのまにか元に戻っている。
大事な書類もあるだろうに部屋を片付けろって言ってもおじさんの返ってくる言葉は「これはあえてこうしているんだ、勝手に掃除するんじゃない」という思春期の中学生みたいなことを言うから困る。
「それでどうだったんだ面接?」
「というかおじさん、俺紹介文書いてくれとは言ったけどなんで面接まで申し込んでるのさ」
「そりゃ幸成、お前が働いてないからだよ。そろそろおじさんに楽させてくれてもいいんじゃないかなぁ?」
「ぐっ、いやまぁそうだけどさ・・・・・・」
そこを言われるとぐうの音もでない。
「いいじゃないか深雪ちゃんみたいな可愛い子と探偵の仕事できるなんて最高だと思うぞ」
「まぁ、美人だったけどさ」
確かにあんな美人と仕事できたら最高だとは思う。ただなんていうか七年坂さん美人なんだけど探偵なのにメイド服だし、やたらドライだしなんかミステリアス女子なんだよな。
というかおじさん、七年坂さんのこと深雪ちゃんなんて呼ぶのかよ。おじさんが言うと急にキャバクラのお姉さんみたいに聞こえてきてなんか嫌だ。
「そもそも探偵とか向いてないよ俺、尾行も途中で失敗したし」
「なんだ誰かにでも捕まったのか?」
「いや、そうじゃないけど。行くところで戸惑って行かなかったり、肝心なところ見逃してたり」
最終的にはレジのおばちゃんに捕まっている間に尾行対象を見失ったんだからな酷いというレベルではない。
心の中でどこか尾行というのをなめていたのかもしれない。なにせあの普段ぐうたらなおじさんがそつなくこなしている仕事、自分なら余裕じゃないのか?なんて驕りがあったんだと思う。
「なんだ、それくらいのミスはやってたらいくらでもでてくるさ。毎回同じ状況で尾行するわけでもないんだしな」
もうほとんど空になったビールの缶を覗き込みながらおじさんはそんなことを言う。
「尾行で一番やっちゃいけないのは自分の力を過信して突っ込みすぎ、尾行対象者に見つかってしまうのが一番駄目だ。探偵だってのがバレてしまうともうそれ以上調査はできなくなるからな。探偵ってのは少し臆病なくらいがちょうどいいのさ・・・・・・ってことでビールもう一本」
俺に向かって空になったビール缶を振るおじさんに「自分で取れよ」と心の中で愚痴りながらも渋々と席を立つ。
探偵ってのは少し臆病なくらいがちょうどいい、か・・・・・・
おじさんは事実しか言わない、だからそれは慰めでもなんでもなく事実なんだろう。
「まぁ別に探偵じゃなくてもいいさ、やりたい仕事を幸成も見つけるんだな」
やりたい仕事か、本当に俺にそんな仕事見つかるんだろうか?そんなことを思いつつ冷蔵庫を開けるとビールを一本とりだす。
「そういえば・・・・・・」
「ん?なんだぁ?」
やりたい仕事と言えばおじさんはなんで探偵なんて仕事をやっているんだろう?
普通就職しようってなって探偵を選ぶなんて人はそういないだろう。きっとなにかターニングポイントがあったに違いない、例えばほら学生の頃に読んだ探偵の出てくる推理小説に憧れたとかそういうの。
「いや、おじさんはなんで探偵になろうと思ったの?」
ビール缶を私ながら軽い気持ちで聞いてみる。
「ん?俺がなんで探偵やっているっかって?それはだな・・・・・・」
おじさんはビールを受けとると膝の上に置きスッと顎を擦る。
「あれだな、風俗にロハでいけるからだな!」
「は?」
あまりに唐突で良そうだにしない回答に思わず聞き返してしまった。
「だからぁ、依頼人の金でな調査と言う名目でた、風俗行けるから俺は探偵になったんだよ!」
「うん、オッケー!今の聞かなかったことにするわ」
あまりの理由に俺はそう答えると早々に踵を返しデスクに戻る。
酔っぱらいの戯れ言にしてはあまりにも酷すぎた。
「んでなーゆきみちゃんってのがいてだな、これがまった良い子なんだよ」
背中越しに聞こえるおじさんの戯れ言に耳も貸さず俺は一気に野菜炒めを口へとかきこんだ。
そりゃ、嫁にも逃げられるわ。



「ふぅ・・・・・・しっかし今日は疲れたな」
自分のベッドに寝転がりながら思わずそんなことを口走る。
あの後おじさんは永遠と風俗で出会った当たり嬢のことを一人で語っていたが無視しているうちにそのまま寝てしまった。
後片付けやおじさんを部屋につれていったりなんだりしたら気がつけばもう零時を回るそんな時間だ。
ああ、ちなみにどうでもいいが自分の部屋だけはキチンと綺麗にしてある。
ベッドがほぼ部屋の半分を占める狭い部屋だがそれでもやはり自分の部屋というものは良い。
「クロのやつ、今頃なにしてんだろうな」
ベッドから見えるフローリングに置かれた座布団を見つめながら言葉が漏れる。
紫色のどっかの落語家が座ってそうな座布団、そこがいつもクロの奴の定位置だったのでふと思い出してしまった。
誰かに拾われたのか、はたまたまだ一匹でこの町をさまよっているのかはわからないが七年坂さんの言うには保健所にはいないということだ。殺処分されていない、それは今日わかった少し安心できる事実だ。
「ふぁぁっ」
思わず大きな欠伸が出る。
ここ最近は晩飯後に近くの公園とかを探しに行っていたがさすがに今日は慣れない尾行なんかをしたせいでどっと疲れている。さすがに今日はこれ以上体を動かそうなんて気にはならなかった。
瞼が落ち、ベッドの気持ち良さにスッと眠りに落ち・・・・・・ようとした、その時だった。
側に置いておいたスマートフォンが鈍い音と共に振動しだしたのだ。
「なんだ、もしかして変な時間にアラームでも登録されたか?」
ポケットに入れておいたらいつのまにかロックが外れ勝手にアラーム登録される

ことなんてちょくちょくあるのできっとまたそんなところだろう、そう思ったのだが
「七年坂・・・・・・んんっ!七年坂さん!?」
画面には今日登録したばかりの七年坂深雪さんの名前が表示され下の方には通話の文字と保留の文字が出ている、あれだこれは着信・・・・・・電話がかかってきているやつで、よしとりあえず俺は落ち着け。
「も、もしもし?」
俺は大きく深呼吸してから通話のボタンをタップし、かなりうわづった声で電話にでた。
「夜分遅くに申し訳ございません。私、鈴鳴探偵事務所の七年坂と言います。秋口幸成さんのお電話でよろしいでしょうか?」
「あ、はい!秋口です」
電話口でもわかる澄んだ声、間違いなく七年坂さんだ。
しかしこんな時間になんの電話だろう?あれか、クロが見つかったとか・・・・・・いや、それなら別にこの時間じゃなくてもいいだろう、ということはまさか夜のお誘・・・・・・
「秋口さん、今お暇ですか?」
「はい全然!暇です!!!」
「では仕事です」
「え、仕事?」
俺の良からぬ考えを見抜いてかき消すように出てきた七年坂さんの言葉は想像とは全く違うものだった。
「というかちょっと待ってください、仕事ってあの採否は後日って」
「ええ、ですから日付が変わってからご連絡しました。採用です、おめでとうございます」
淡々と言う七年坂さんの声を聞きながら部屋の掛け時計を見ると時刻は零時五分を指している。まぁ確かに後日、ってことになるのかこれ?
「では後でメールで調査内容お送りしますので確認して現場に来てください」
「え、あの・・・・・・ちょっと」
有無を言わさない感じの七年坂さんに俺はなんていうか色々と言いたいことが多すぎて混乱していたら、いつのまにか俺の耳には等間隔の電子音だけが響いていた。
「電話切られた・・・・・・」
俺は終話のボタンをタップし大きく息を吐く。
スーハースーハー
よし、落ち着いたところでとりあえず情報を整理しよう。
まず、何故か知らないが探偵事務所への就職が採用されてしまった。
おかしい、どうみたってあの内容の尾行では採用なんてないと思ったんだが・・・・・・。
そしてなにか採用したから今すぐ仕事だそうだ、うん。
時間は既に零時を越えている、真夜中だ、すごく物凄く眠い。
「とはいえ、行かないといけないよな」
俺は心を決めてベッドから起き上がる。頼んでないとはいえ紹介状を書いてくれたおじさんにも尾行実習までしてくれて更には採用までしてくれた七年坂さんに「眠いんで無理です」なんて甘えたことを言うのは失礼だろう。
俺はなんとか強く心を持ち、必死に言い聞かせながら部屋を出た。



俺は七年坂さんから届いたメールを見ながら歩く。
暗い夜空に様々なネオンが煌めく、K町はバーやキャバクラ、風俗などが集中している言わば夜の繁華街。
メールに書いてあった情報によると依頼と言うのもキャバクラ嬢の素行調査、とある。
七年坂さんのメールによると

・依頼はキャバクラ「エリュシオン」の嬢である雛家茜の素行調査
・依頼人は雛家茜の自称彼氏
・依頼人は雛家茜にマンションを買ったのだが最近なにかと理由をつけて入れてくれない上に仕事終わりにもどこかに行ってしまい会ってくれない、浮気をしているのではないか?

「なんだ自称彼氏って、彼氏じゃないのか?」
思わずそんな疑問が口からでる。しかしマンションまで買い与えるとかどんだけこのキャバクラ嬢に入れ込んでいるんだか。
金ってあるところにはあるんだな、と思ってしまう。
「ん、添付ファイルがある」
メールをあらかた読んで初めてメールに画像が添付されていることに気がついた。
なにも考えずに画面のクリップのマークをタップする。
「もしかして嬢の写真か・・・・・・って、え?」
ちょっとした読み込みのラグの後、画像が表示される。
そこに写っていた女性を見てつい変な声が出た。
画像の女性は真っ赤なスパンコールのドレスにウェーブかかった金髪のいかにもなテンプレキャバクラ嬢なのだが、その顔にどこか見覚えがある気がしたのだ。
「いや、まさか名前も違うし・・・・・・別人か?」
そう考えるも情報の出先が自称彼氏だし、この『雛家茜』というのが源氏名とか偽名である可能性だってある。
それくらいこの画像の女性は似ていたのだ、大学時代まで付き合ってそして浮気されたあの俺の彼女に。
正直彼女が俺と別れた後どうしているのか俺は全然知らない、知ろうとも思わなかったし忘れようと必死だった。
「まさか、な」
もしこれが本当に彼女であるのならどんな因果だよと乾いた笑いがでる。
他人のそら似であってくれればいいのだが・・・・・・。


客引きに「お兄さん、良い子いるよ」と三度ほど話しかけられたのを断腸の思いで断り繁華街の奥へ進んでようやく俺は七年坂さんの張り込んでいる場所へとたどり着いた。
「って、ここでもその格好なのか」
ビルとビルの間の小さな駐車場。黒色のレガシィの運転席に座っている七年坂さんは昼間と同じメイド服を着ていた。
というか大丈夫なのか、あの姿で・・・・・・
そんなことを思っていると俺の姿に気づいたのかフロントガラスの奥で七年坂さんが小さく手招きしている。
まぁ七年坂さんくらいになるとメイド服着てても余裕で調査できてしまうんだろう、もう俺はそう納得することにして車の助手席側に回り込むとドアを開け車に乗り込む。
「えっと、おはようございます」
とりあえず挨拶。仕事初めは朝でも夜でも「おはようございます」でいいんだ、よな?
「おはようございます。メールの方は確認しましたか?」
七年坂さんはこちらを見ることなく淡々と喋る。いやまぁ、そんな反応だろうと思ったから気にはしないけど。
「ええ、一応は」
自称彼氏がキャバ嬢に金をつぎ込んだはいいけど相手にして貰えなくなったから浮気していると疑っている、なんとも言葉にしてみると不毛な感じだ。
「正面左に見える建物、あれがキャバクラ『エリュシオン』です」
言われるままにその方向を見やると道路を挟んで向かい側、派手な店が多いこのK町の繁華街でも一段と目立つ豪華な店が建っていた。
入り口の少し突き出した屋根にはやたら大きいシャンデリアがぶら下がり、水晶のようなきらびやかな装飾が散りばめられた真っ白な扉の前にはどこぞのアイドルかなにか?と思うような美形のボーイはタキシードを来て直立不動で立っている。
「とりあえずマルタイの面取りをお願いします、恐らく何度かマルタイが出てくると思いますので」
「ま、マルタイ?面取り?」
マルタイってなんだ?面取りってあれか、カボチャの角を丸く切るあれ・・・・・・じゃないよな?
「・・・・・・すいません、秋口さんは仕事初めてでしたね」
いきなり出てきた専門用語に不思議そうな顔をしているとようやく話が伝わってないことに七年坂さんは気づき、こちらを向いてくれた。
「マルタイというのは尾行対象者のことです、今回は雛家茜もことですね。また似た言葉でニタイというのは第二対象者、いわば浮気相手のことを指します」
「へぇ、なるほど」
「面取りというのはマルタイの顔を確認する作業です。この時間なら客を見送りするときに何度か顔を見れると思いますので送った画像と合わせてマルタイの顔を覚えてください」
「わ、わかりました。やってみます」
つまりは尾行対象者の顔を覚える作業ってことか。やること自体は簡単そうだけどこの面取りってのをミスるとワケわからない人を尾行してしまったりするわけで、失敗はできない。
「大丈夫ですよ秋口さん、時間は充分にあります。落ち着いてやってみてください」
「は、はい」
初めての仕事に緊張しているのが伝わったか七年坂さんがそんな風に言う。
時間はある、というのは少し救いだ。これを一回だけでやれとかだったら絶対失敗する自信がある。
「彼女は今日三時までは仕事なのでそれまでに覚えてもらえば大丈夫です」
「ほむほむ、三時・・・・・・え、三時!?」
「私は三十分ほど仮眠しますので、ではよろしくお願いします」
俺の驚きも完全スルーで七年坂さんはリクライニングを倒し目を閉じる。
「三時って、今・・・・・・」
恐る恐る俺はスマートフォンで時間を確認する。時間はまだ一時にすらなっていない、もう一度目を指で擦り確認する。
うん、時間が変わるわけもない。つまりあと二時間以上はここにいるってことだ。
秋口幸成、俺の戦いはまだ始まってすらいなかった。


「ねみぃ・・・・・・」
俺の初仕事、キャバクラ嬢の面取り作業は開始十分で既に心が折れそうだった。
まずとにかく車の中が暑かった。エアコンの入っていない車内に人間二人が発する体温というのがここまでのものになるなんて思いもよらない。これがまだ夜だからましなのだろうけど夏に昼間だと思うとそれだけで精神が削られていく気がする。
次にとにかく眠い、じっとキャバクラ「エリュシオン」を見ているのだが代わり映えしない景色にだんだん瞼が落ちてくるのだ。
「いかんいかん、頑張れ俺」
自らの頬を両手で叩き、なんとか気合いを入れる。こうでもしていないと一気に寝てしまいそうだった。
隣を見れば七年坂さんが胸の前で手を組みまるで白雪姫のように静かに眠っている。仮眠を取ると言ったときは「これで寝相悪かったら面白いな」なんて邪な考えが脳裏をよぎったが、ことこの人に至っては寝てるときでも完璧で面白味はない。
しかしその完璧な七年坂さんに任されたんだ、初仕事でもあるんだし失敗だけはしたくない。
「ん、出てきたか?」
そんなことを思っているとここに来て初めて『エリュシオン』の扉が開き客とキャバ嬢数名がぞろぞろと出てくる。
車の中なので声は聞こえないが「また指名するね~」だとか「楽しかったですぅ~またいらしてくださいね~」とでも会話しているのだろう。
「えっとそれでマルタイは出てきてるのか?」
俺はスマートフォンを取りだし保存した尾行対象者、雛家茜の画像を開き見比べる。・・・・・・見比べるのだが
「なんていうかよくわかんねぇ」
距離として見れば顔までそこそこわかる位置なのだが正直キャバクラ嬢なんてどれも同じに見えてしまう。
いやそれだけではない、正面から撮った画像しか持ってない俺からすると動いている人物、さまざまな角度から見るとすべて別物のように見えてしまう。
店の外に出てる嬢は五人、赤、黒、青、緑、ピンクとまるで戦隊ヒーローのように全員ドレスの色が違う。六人目追加されるならやはり銀色か・・・・・・などと考えてしまったが今はそんな場合ではない。
「赤、じゃないんだよな」
画像の写真では赤のスパンコールドレスだったので真っ先に目が行ったのだがこれが明らかに顔の輪郭が違うので除外する。
そうなると他の四人かとも思うがどれもこいつだ!という決定力に欠ける。
黒と青は髪型こそウェーブかかっているが髪色が黒だ、緑とピンクは金髪だが髪型がなにか頭頂部で持っているペガサスなんちゃらとかいう髪型。顔に関していえば似たりよたったりでどれも同じように見えるし違うようにも見える。
どうやら店の外で客と談笑が盛り上がっているおかげか、長いこと戦隊キャバ嬢達は外にいるがさっぱりわからない。
「もしかして出てきてない、とか?」
「いえ、もう出てきています。青のドレスを着たのがマルタイですね」
「ほうほう青の人が対象者・・・・・・って、七年坂さん!?」
さっきまで寝てたはずの七年坂さんがいつの間にかリクライニングが元に戻し平然とした様子で俺の疑問に答える。
「い、いつのまに起きたんですか・・・・・・」
「三十分経ったので起きただけです。それで今のわかりましたか?」
あっさりと的違いの返答をする七年坂さん。ただまぁ今はそっちよりも尾行対象者の面取りの方が大事だ。
「いや、正直どれも同じように見えてよくわからなかったです。すぐわかるなんてすごいですね」
「女性はその時々で化粧をしたり髪型を変えるので一番注視してみるべきところは耳ですね」
「耳、ですか・・・・・・」
「耳の形を変えようとする人はそういませんからね」
確かに耳はいじり様のない部分だ。しっかしここから耳の形で判別するなんて相当な視力だな、俺も結構視力には自信があったつもりだがここからじゃ正直それで確認するのは自信がない。
ノーメイクで美人の七年坂さんの言うことを聞いている間にキャバ嬢戦隊は店の中に戻っていき車内は再び静寂に包まれる。
エアコンも入ってない車内で美人メイドと二人っきり、事務所で二人ビデオカメラの映像を見たときも思ったがこの空気、物凄く苦手だ。
先程までは七年坂さんは寝ていたし、キャバ嬢の面取りをしなくてはと気が張っていたがふとそんなことを一度思ってしまうともう気が気でなくなってしまう。
「あの、七年坂さん?」
「はい、なんでしょうか?」
背筋に針金でも入っているんじゃないかってくらいの姿勢の良さを見せる七年坂さんが目線だけこちらを向く。
「なんていうか、こんなことを言うのもあれなんですけど・・・・・・大事な仕事を俺みたいな素人がやってもいいんですかね?俺がやるよりもオーナーさんとやった方がよかったんじゃ」
緊張を払拭するためとはいえ、自分でもなんでこんなこと聞いているのかわからなかった。
役に立ちそうにないずぶの素人の俺がいきなり仕事にでるのもどうなのかと思ったし、七年坂さんのオーナーのことが気になったからというのもあるが今ここで聞くことだったのかと言ってから少し反省。
「いえ、オーナーは遠いところに行ってしまったので無理なのです」
七年坂さんは俺から目線を外し、しばらく考え込むようにして黙ったあと静かに告げる。その七年坂さんの表情はどこか悲しげであった。
俺は瞬時にその様子から全てを理解してしまう。

遠いところに行ってしまった・・・・・・それはそう、天国へということで七年坂さんのオーナーさんはもうこの世にいないのだ。
恐らくオーナーさんと七年坂さんは元々恋人同士で恐らくオーナーさんに「深雪のメイド服姿が見たいな」な的なことを言われて「もぉ~しょうがないなぁ」って言う感じに七年坂さんはメイド服を用意したんだけどその姿を見せる前にオーナーさんは不慮の交通事故で死んでしまった。
七年坂さんはそんなもう帰らないオーナーさんを忠犬ハチ公のようにメイド服を着て待ち続けているのだ。
そして夜な夜な七年坂さんはメイド姿で自分を慰めるのだ・・・・・・って、ここはいらないか。
とーもーかーく!そこに颯爽と現れたのがイケメンの俺、秋口幸成だ。これはもうラブロマンスの始まりと言っていいだろう、若くして恋人を亡くし、心まで無くしかけた美人メイドさんの心の氷を俺が融かすというラブロマンス!
「任せてください七年坂さん!オーナーさんの代わりにはならないかもしれませんが俺が貴女の心の氷を・・・・・・」
「心の氷がどうかしましたか?」
七年坂さんの言葉に、自分の妄想が口に出てしまっているのに気がつき一気に血の気が引いていく。
「あ、えっと……あははは」
実に冷ややかな目で俺を見てくる七年坂さん。適当に笑ってごまかすがどうやったってごまかしきれるわけがなかった。
「いや、なんていいますか、あはは。オーナーさんってもうこの世にはいないのではないかとええ、邪推してしまいまして……それであはは、七年坂さん寂しいのかなとあはは」
自分で妄想を説明するのがこれほどまでに恥ずかしいものだとは思わなかった。
眠たさにどうにかなってしまったのもあるだろう、気をつけなければ。
「話の意味がよくわかりませんがオーナーは今、東京でコスプレイヤーさんと合コンに行っています」
「え、は?合コン?」
東京で、コスプレイヤーと合コン?え、なにやってんですかオーナーさんって。
「今日は夏の陣とかいう同人誌の即売会があったそうで、そこにオーナーは出ているのです。なので別にオーナーは死んでませんよ、いてもいなくても同じですが」
珍しく七年坂さんはため息混じりにそう言う。あれ、なんだろうもしかしてオーナーと七年坂さんってそれほど仲良くないのか?
いてもいなくても同じってことはそこまで頼りにはしてないってことだろうし。
いやでも、じゃなんでオーナーの言いつけ守ってこの人はメイド服着てるんだって話だけど流石にこれ以上この話を広げる気にはならなかった。
「そ、そうなんですか。そうだ、お腹空きません?俺キャラメル持ってるんですよ」
俺は話を変えるために半ば強引にそう言い放つとズボンのポケットからキャラメルの箱を取り出す。
昼間、七年坂さんと尾行実習をして寄った大型スーパーで買ったお菓子だ。よりにもよってこれを選んだためにレジのおばちゃんに捕まり七年坂さんを見失ったがここでこいつに名誉挽回の機会を与えようじゃないか。
「ど、どうですか?キャラメル」
「いえ、キャラメルはいりません」
残念、キャラメルくんの名誉挽回の機会はあっさりとなくなった。と、思ったのだが七年坂さんは俺の持つキャラメルの上の部分、おまけの玩具を指さすと
「もしよければですけど、そのおまけの玩具見せてもらってもいいですか?」
と、思いもよらぬところで食いついてきた。
「ええ、いいですよ。これのおまけ、なんだったかな箱の裏の数字がゾロ目で当たりらしいんですよ」
レジのおばちゃんに散々言われたどうでもいい知識をひけらかす。転んでもただでは起きないをこうなったら地で行ってやろうじゃないか。
「当たり……!」
七年坂さんは当たりという言葉にもの凄いくいつきを見せると共に俺からキャラメルの箱を受け取るとキャラメルそっちのけで上の部分についている開けている。
わかる、わかるよ……俺も小さいころはキャラメル目当てというよりもおまけの玩具目当てだったな。
「あっ、たぬきっぴーだ……」
おまけの箱からでてきたのはなにやらタレ目でマヌケな面をしている狸の指人形、なんていうか世間でいうゆるキャラって奴なんだろう。
しかしその小さなたぬきの指人形を仰々しく見つめる七年坂さんは少しというかかなり意外だ。もはやキャバクラの扉なんかよりもこれ完全にたぬきっぴーに夢中なのだがこれはこれで大丈夫なのだろうか?
「ゆるキャラ好きなんですか?」
「はい、大好きです……とっても好きです」
表情こそ変えないが七年坂さんは嬉しそうにそう言う。なんていうかスーパードライなメイド探偵のイメージが大きく変わったそんな出来事だった。


「そろそろ場所を移動しましょう。マルタイの仕事の終わりの時間です・・・・・・っぴ!」
俺が恥ずかしい妄想をぶちまけてから約二時間後、指先にたぬきっぴーの指人形をつけた七年坂さんがそう言う。
嘘でも冗談でもなく七年坂さんはあれからずっと指人形をつけていた。そしてこの張り込みの間ちょくちょく語尾に「~っぴ!」って言う恐らくこのたぬきっぴーとかいうのの口癖を真面目な顔して言うものだからなんとか眠りこけなく張り込みをやり遂げることができた。
おかげでこの人のキャラクターがよくわからなくなったがな。
「ビデオカメラは秋口さんに任せます、では行きましょう」
「わかりました」
七年坂さんから昼間使っていたのと同じビデオカメラを受けとると小さく頷く。
言ってしまえばここまでは前座みたいなものだ、マルタイ・・・・・・尾行対象者である雛家茜の素行調査が本番なんだから。
尾行対象者である雛家茜の面取りはあれから何度か出てきたので完璧に覚えたといってもいい、確かに最初こそわからなかったが七年坂さんの言っていた耳の形と言うのを注視してみれば意外と判別することができるようになっていた。
これならば仕事終わりで髪型や服装が変わったとしても見逃すことはない自信がある。
「ん~体がバッキバキだな」
車の外に出ると一度大きく背伸びをし息を吸う。
久々ってほどでもないが外の空気は美味かった。ただ三時間ほど社内にいただけなんだがそれでも開放的で気が引き締まる。
「よし!それでどこへ向かうんです?」
「店の裏に従業員用の出口があります、なのでそこへ向かうっぴ!」
気合いを入れたところに変な語尾で説明を入る七年坂さん。それだけならまだしも次に七年坂さんがとった行動は俺を激しく混乱させた。
「え、あの七年坂さん?」
七年坂さんはなにを思ったのか俺の横に立つと不意に腕を組んできたのだ。あまりに突然の出来事に狼狽えていると七年坂さんはぎゅっと掴む腕に力を入れてくる。
「これで行きます、こちらのほうが怪しまれませんので」
そう言いながら歩き出す七年坂さんに慌てて歩調を合わすも言いたいことが多すぎて気持ちが整理できない。
「怪しまれないって、これ本当ですか?というかむ・・・・・・」
「ええ、夜中に一人で歩いているのは怪しまれます。ならば恋人を装うって行った方がこういう場合いいんですよ」
「は、はぁ・・・・・・そういうものなんですか、ね?それよりもえっと、その胸が」
「ん、なにか言いましたか?」
「いえなんでもないです」
俺は言いかけた言葉を飲み込む。この恋人雰囲気で尾行作戦(勝手に命名)の利点は良くわかった、凄く良くわかったのだが一言言わせてほしい、これひとつ致命的な弱点がある。
それはさっきから俺の腕に七年坂さんの豊満なお胸がぐいぐい当たってると言うことだ。
服の上だから、そりゃそれくらいで大人な俺は動じませんよ!全然動じない、けどほらなんかの拍子に体の動揺は隠せなくなるかもだよ!前屈みで尾行とかとっても困ると思うんですがね!
だが言わない、あえて言わない。マシュマロなお胸の柔らかさを無料で感じれるのは彼氏の特権、設定恋人同士なら当たり前のことなんだからな。
そしてこの恋人装い尾行が切っ掛けで「本当の恋人同士になりませんか?」的な展開があるような、ないような・・・・・・
「って、いかんいかん。また変なことを考えてた」
「どうかしましたか?」
「いえ、なんでもないです」
すぐ近くにある七年坂さんの顔に思わず緊張しながら顔を背ける。本当眠いのもあってすぐによからぬ邪念が過ってしまう。
「とりあえずこの辺りで良いでしょう」
路地裏とも言えるような細い通りに入ると七年坂さんはそう言う。表の明るさからいえば相当辺りは暗い、こんな状態でビデオカメラで撮影することができるのか、かなり不安だったのだが・・・・・・
「これがナイトビジョンの力か」
ビデオカメラのモニターに出ている映像はこれが昼間なんじゃないかってくらいはっきり映っていたので驚かされた。
赤外線撮影なので映像はすこし緑がかかったような感じではあるがぶっちゃけ肉眼よりも遥かに遠くまで見通せる。
「そこ映像に出ている扉がエリュシオンの従業員入り口です。とりあえずそちらにビデオカメラを向けて、目線はこちらに」
目線はこちら?言っていることがよくわからないでいると急に七年坂さんが俺に体を寄せてくる。
「え、あの七年坂さん急になにを」
震える声でそんなことを言っている間にもぎゅっと胸を押し付け顔をぐぐいっと近づけてくる。そしてとどめに一言
「抱きしめてください、秋口さん」
なんですか、これ。ごほうびかなにかですか?
「わ、わかりました」
言われるままに俺は七年坂さんの背中に手を回し抱き寄せる。
服の上からでもわかる柔らかさに髪の毛から香る甘い匂いが鼻を擽る。
「こうやって自然なバカップルをやっていれば私達が探偵だとはわかりません」
「そ、そういうものですかね」
自然なバカップルって言われたってそもそも七年坂さん、メイド服じゃないか。
いくら恋人風って言ってもメイド服はごまかせないんじゃないですかね、と思うがあえて言わない。
こんな役得な仕事、そうそう回ってきそうにないから。
俺はじっと七年坂さんを見つめ、七年坂さんも俺の目をじっと見つめている。薄くひかれた朱の唇は艶やかでまるで口づけを待っているかのようだ、いや待っているに違いない。
「秋口さん・・・・・・」
そんなことを思っていると目の前の七年坂さんがスッと目を閉じる。
これはあれだよな、七年坂さんももう恋人を装うのではなく本物を恋人として接してほしいと言う合図に違いない、うん違いない。
「七年坂さん・・・・・・」
それを証拠に七年坂さんの顔はぐっと俺に近づく、お互いの息つかいが感じれるほどにまで近づいて俺も受け入れるべく目を閉じる。
「マルタイが動きました、行きましょう」
「は、はい?」
耳元で囁かれた言葉に一瞬なにがなんだかわからなかった。マルタイ?なんですか?今はそれどころではないでしょう、二人で甘い一時を楽しむ、そんな時間のはず
「なにをしているんですか、急ぎますよ」
呆然としていると七年坂さんに強引に腕を引っ張られ意識がはっきりしてくる。
「で、ですよねぇ~」
甘い一時を楽しむ、そんな時間ではなかった。けどあそこまでやられるともう普通の目では見ることができないじゃないか。
「それでどこにマルタイは・・・・・・?」
辺りを見渡しながらそんなことを言う。
あまりにも間抜けな質問だと自分でも思う。
いやだって七年坂さんがじっと見つめてくるんだからしょうがない。
七年坂さんには周りの状況を見ていたのかもしれないが俺はもう七年坂さんしか見てなかった。
それくらい夢中だった、これは恋なのかもしれない。
「あの桃色のキャミソール着ているのがマルタイです。大丈夫ですか、顔が赤いようですが熱があるのなら帰ってもらっても構いませんよ」
「だ、大丈夫ですよ!行きましょう」
俺は雑念を払うように首を横に振るとそう言う。ダメだダメだ、ちょっと好意を持たれてるかななんて思うとすぐ好きになるとか小学生じゃあるまいし・・・・・・そもそも今は尾行の途中なんだ気を引きしめなければ。
なんてこと、ここに来て何度思うんだろう俺。


「ところでマルタイはどこへ向かっているんでしょうね」
キャミソール姿のマルタイ、雛家茜を尾行して数分。彼女はどこかの店に入るわけでもなくフラフラとした足取りで繁華街を抜け人通りの少ない夜の街を歩いていく。
「とりあえず家に帰る、という感じではなさそうですね。家は逆方向ですし」
七年坂さんは相変わらず俺と腕を組み、淡々とした口調で言う。
「散歩ってわけでもなさそうですしね」
昼の三時ならともかく今は夜中の三時だ、普通こんな夜中に女性一人で散歩なんてことはないだろう、それがいくらお水の人間だとしても。
そうこうしている間にも雛家はどんどん先に進んでいく。俺と七年坂さんから雛家までの距離は約30メートルはあるのだがこれは相当遠く一瞬でも気を抜くとその姿は闇に消えかねない。
七年坂さんが言うには夜間に行う女性の尾行はこれでも近いくらいらしいが正直ナイトビジョンでも微かに見えるか見えないかの距離だ。
「今、左に行きましたっぴ」
「・・・・・・わかりました」
そんな中でも七年坂さんは肉眼でマルタイが見えているらしく冷静沈着に指示を出してくれる、変な語尾付きで。
しかし本当彼女はどこへ向かっているんだろうか?
辺りはもう住宅街といったところでなにか店があるわけではない、ということは彼女が向かっているのは自称彼氏の懸念通り浮気相手の家ということなのだろうか?
「ちょっと待ってください秋口さん」
マルタイが曲がった角を追って俺達が角を曲がるとすぐに七年坂さんが足を止める。
「ど、どうしました七年坂さん?」
「見えませんか?マルタイが足を止めて辺りを見渡しています」
「えっ!?」
距離はかなり離したはずだがまさかこちらの様子に気がついたってのか?
正直俺の肉眼じゃ目先の闇に遮られほとんどどうなっているのかはわからない。
「確かに・・・・・・妙に辺りを気にしてますね」
ビデオカメラのナイトビジョンモードで確認してようやく俺も状況が把握できた。
マルタイ、雛家茜が立ち止まっているのはどうやら廃工場というのだろうかそんな雰囲気の建物の前だった。
右見て、左見て、もう一回右見て・・・・・・と今日日小学生でも横断歩道でしない雛家の行動にはいくら鈍感な主人公でもその怪しさに気がついてしまうだろう。
「廃工場の中、入っていきますね」
ビデオカメラのモニターには中に入れないように立入禁止の看板を押し退け中に入っていく雛家の映像が見える。
ここで浮気相手と会う?それはないだろう、いくら浮気しているとはいえ、こんな廃工場で密会するなんてのは想像できない。
「私達も行きましょう」
七年坂さんに促され俺達は警戒しながら廃工場へと近づいていく。
こんなところで会うのが似合うのは浮気相手ではなく、それよりももっと危険な相手、なんじゃないかと俺は思う。
例えば覚醒剤や危険ドラッグ的なそういう物を扱う輩、あんまり詳しくはないがキャバ嬢なんて仕事していたらストレスは相当溜まっているだろう。しかも夜の仕事だ、そういう物に触れる機会も少なくはないはず。
「ここから先は特に気を付けてください、なにがあるかわかりませんから」
そう言いながら七年坂さんは立入禁止の看板をゆっくりと横へとずらす。立入禁止の場所に入っていくんだ、なにが待っているかわからないし、もし誰かに見つかったとしたら恋人装っていたとしても見逃してはくれないだろう。
「行きましょう七年坂さん」
俺は唾を飲み込み、頷く。もしこれが一人だったら中に入らず外で待っていただろう。だけど今は七年坂さんと二人、男としても探偵としても怖じけている場合じゃない。
立入禁止の看板の向こうに見えたのは、なにを作っていたのかは想像できないがかなり小さな工場だ。
放置されて相当な年月が経っているのだろう、辺りは雑草がかなりの高さまで育っている。
「マルタイは工場の中のようです、あそこから覗けそうです」
七年坂さんに言われるがまま動く、なにか情けない感じではあるが下手に自分の考えで動くとなにかやらかしてしまいそうでそれならいっそ言われるがままに動いた方が良いと判断したのだ。
恐る恐る七年坂さんの指差した場所へ足を進める。ちょうどそこは窓ガラスが割れており中の様子が容易に見えるそんな位置だ。
工場の中からは光が漏れている。ぶっちゃけ嫌な予感しかしないがゆっくりと中を覗き見る。
「ごめんね、寂しかったでしょう?」
雛家が誰かと話しているのが聞こえる。だが相手の姿が見えない、離れたところにいるのか?それとも死角で見えていないのか?
「秋口さん、足元です」
「足元?」
七年坂さんの耳打ちに俺は視線を下げる。足元になにがいるっていうんだ?まさかなにか揉めて人の死体が倒れているとかそんなんじゃ・・・・・・
「って、あれは・・・・・・んぐぐぐっ!」
雛家の足元に見えたそれに思わず大きな声をあげてしまいそうになり、七年坂さんが咄嗟に俺の口を手で塞ぐ。
「なにをやっているんですか秋口さん」
「いや、あのすいません。マルタイの足元にまさかいるなんて思っても見ませんでしたから」
俺は小さく息を吐き謝罪する。
しかしまさかこんなところで再会するなんて思っても見なかったんだ、いなくなっちまった白猫クロの奴に。
「あれ、猫ちゃんまたお腹怪我してる。ダメじゃないの」
雛家がそう言いしゃがみこむとクロの奴は早く治せと言わんばかりに寝転がり腹を見せる。
人の顔はさっぱり覚えれないがそれは間違いなくクロの行動だ。
「もしかしてあの猫、秋口さんが依頼した猫なんですか?」
「え、ええ・・・・・・でもなんでこんなところに」
七年坂さんの問いに俺は小さく頷く。けどなんでクロの奴がこんなところでなにをしているのかさっぱりわからなかった。
「はい、できあがり。もう痒いからって自分で引っ掻いちゃダメだよ」
雛家がそう言うとクロはにゃあにゃあと鳴き声をあげる。クロのお腹には綺麗に包帯が巻かれている、さっきの一瞬でやったにしてはかなりの手際だ。
「なんかこうして猫ちゃんに包帯巻いてると昔思い出しちゃうな」
雛家は少し寂しそうに言いながら手提げ鞄から猫缶を取り出すとプルタブを開けクロの前に差し出す。
「・・・・・・夢をもって上京してきたのになんでいつまでもキャバ嬢なんてやってんだろ私」
猫缶にがっつくクロの背中を撫でながら雛家は独白する。
「にゃあ?」
「ん、大丈夫だよ。もう死ぬようなまねしないから」
心配そうな鳴き声を出すクロに雛家は微笑みかける。
死ぬようなまねをしない?考えもいなかった言葉に俺の頭の中で歯車がガッチリと噛み合ったのを感じだ。
自殺、そしてクロとくればそれは自分自身同じことを体験したことだ。
彼女、雛家茜はこの廃工場で自殺しようとしていたところをクロに助けられたのでは?
俺の時も自殺しようとした俺の前に自ら腹を傷つけて現れたクロ・・・・・・もしかしたらクロが俺の前からいなくなったのはこうやって死のうとしていた人間を救うため、なんじゃないか?
「うん、もう私は大丈夫。」
雛家茜は屈託のない笑顔で微笑む。きっと初めてここに来たとき彼女はあんな風に笑えてはいなかっただろう。
きっとあの手際の良さから考えるに看護士かなにかを目指して上京したものの上手くいかず生活費を稼ぐためにキャバ嬢になったが客やあの自称彼氏なんかのせいでストレスや色々なものが積み重なってここで自殺しようとしたのだと俺は推理する。
クロの奴はそんな彼女を救った。
「よし・・・・・・」
クロと雛家の様子を見て俺は一つ決心をする。
俺としてはクロに戻ってきて欲しいと思う、俺にとってもクロは命の恩人で大事な奴だけど今彼女の元からクロを引き離す、そういうことはしたくなかった。
今の彼女にはクロが必要で、もう俺には必要ない。
少し寂しいがそう思ったのだ。
「七年坂さん、俺・・・・・・クロのことは彼女に任せます。探してくれって言っておきながらすいません」
「そうですか、わかりました」
小さく七年坂さんは言うと頷く。これでいい、もう俺はクロがいなくても大丈夫だ・・・・・・彼女と仲良く、な。
その日の尾行調査はそれ以上進展はなく終わりを告げた。


「だぁぁぁっ暑い。けど、ようやく終わったぞ」
俺は肩にかけたタオルで汗を拭う。八月ももう終わりだって言うのになんていうかまだまだクソ暑い。
あの一件から三日が過ぎ、あれから俺は鈴鳴探偵事務所で働くことになった・・・・・・が、あれから調査依頼なんてのはきていない。
代わりにやっていることと言ったらポスティングというチラシを片っ端からご家庭のポストやマンションのポストに放り込む単純極まりない作業をしている。
「あ~なんでこんなことしてんだろ」
肩掛け鞄に入れたぬるいペットボトルの水を口にし、思わず愚痴る。
と、いうのもこのチラシ・・・・・・別に鈴鳴探偵事務所のチラシでもなんでもないただのペットショップのチラシなのだ。
なんでも七年坂さんがどうせ暇でしょうしと最近近所にできたペットショップから請け負った新規開店セールのチラシなのだ。
つ・ま・り、俺がこれを必死に配ったとしても鈴鳴探偵事務所に依頼人が来るわけでもなくただただ近所のペットショップが盛況するってだけなのだ。
「とはいえ、やらないわけにはいかないもんな」
まぁ近所付き合いが大事なのは俺にもなんとなくわかる。特に探偵なんて色々な依頼が来る。このペットショップのチラシだって仲良くしてればいざペットのことで困ったときに手助けになるかもしれないものな。
「ん~給料入ったらなにかペットでも飼ってみようかな」
なんとなくそう思う。なんだかんだで正直クロと別れたことちょっと気にしてんだよな~そういう時にペットショップのチラシなんて配らすのはちょっと酷だとおもいやしませんかね。
「でも初任給はおじさんにお礼するから・・・・・・まぁ、その次だな」
俺の就職を一番喜んだのは俺自身じゃなくて英俊おじさんだ。「くひひ、これからは幸成に食わせてもらおう」とか物凄く喜んでたからなぁ。
ここまで育ててくれた恩もあるし真っ先にお礼をするべきだろう。
「ま、長続きすればいいけどな」
ちょうど鈴鳴探偵事務所の前までついて俺はボヤく。探偵なんて職業が俺に合っているかどうか、正直まだわからない。
ただまぁ折角進みだした一歩だ、できるだけ足掻いてやろうじゃないか。
「ただいま戻りました~」
「お疲れさまです」
扉を開けると相変わらず探偵事務所かメイド喫茶なのかよくわからない事務所内で、探偵なのかメイドなのかよくわからない、メイド服を着たゆるキャラ好きの七年坂さんが出迎えてくれる。
「・・・・・・って、あれ?」
そんなスーパードライなメイド探偵七年坂さんの腕の中、そこには物凄く、ものすごぉぉぉく見慣れた白猫がいた。
と、いうかどう見たってクロだった。
「なんでクロがここに?」
「彼女、当分あの廃工場には行けないので拾ってきました」
七年坂さんの言葉にクロが小さくにゃあと鳴く。
「廃工場に行けないってどういうことですか?」
「簡単な話です、マルタイ・・・・・・雛家茜は逮捕されましたから」
「たい、逮捕ぉ!?」
あまりにも予想していないかった「逮捕」という言葉に思わず変な声が出る。
「いやいやいや、なんで?どうして?」
「なんでと言われましても、自称彼氏さんから追加で調査依頼が入りまして。その結果・・・・・・彼女、雛家茜はあの廃工場で大麻を育てていたからですよ」
にわかには信じられない事実だった。だけど七年坂さんが調べたんだ間違いはないのだろうとも思えてくる。
「ちなみに自称彼氏さんの買い与えたマンションからも大麻や覚醒剤その他もろもろの危険なお薬が出てきました。彼女、かなり前から薬物中毒だったみたいです」
「そんな馬鹿な・・・・・・彼女は看護士になる夢を持って上京してきたけどなかなか夢が叶わずキャバクラで生活費を稼いでる、そんな子でしょう!?」
思わず俺は力説するが、七年坂さんは小首をかしげ「そんな事実はありません」
とキッパリと言いはなった。
「看護士とかいう話がどこからでているのかは存じませんが、彼女は高校中退であり看護師を目指しているなどという情報はありません」
「いやでも包帯巻くのとか上手かったですし、夢を持って上京してきたって……」
「包帯を巻くのが上手いのは恐らく自傷行為を隠すためでしょう。調べたところでは彼女は学生の頃からよく自傷行為、つまりはリストカットをしていたということなのでそのせいで包帯を巻くのが上手い、と。そして彼女の夢は『金持ちのおじさまを捕まえて楽な生活をする』とのことです、看護士を目指す柄ではないでしょう」
唖然とするしかない。まさかあの雛家茜が薬物中毒でリストカットの常習だったとは……というかなんですかその夢、つまりはあの時の「いつまでキャバ嬢やってんだろ」ってのは「なんでまだ金持ちのおじさん捕まえられてないんだろ」ってそういう意味?ふざけるんじゃねぇよ!!!
「なにやら秋口さんは彼女の境遇を美談にしたいようですが、『彼女が死ぬようなまねはしない』と言っていたの憶えてますか?」
「え、ええ……というかちょっと待って下さい、憶えてますけどそれにもまさか変な話がついてくるんじゃないでしょうね」
不安の入り混じった俺の言葉に何故か七年坂さんはニッコリと微笑む。なんで普段無表情のくせにこんな時だけ笑顔を見せるんだよ!怖いよ!!
「彼女は相当な薬物中毒で病院に運ばれる寸前のような危険な真似をしています
あの廃工場でも同じことをしていました。つまり……」
「いやもうわかったです、はい」
みな迄言わなくてもその先はわかってしまった。つまり雛家茜の「死ぬようなまねはしない」ってのはあれだ「死ぬような薬物の使い方は控えるね!!」ってことだ!!
なんだよ、なんなんだよあいつ!
よくもまぁ俺の純情な妄想を踏みにじりやがって……しかも別れた彼女に似てるとか余計最悪だわ!
「秋口さん、前にも言いましたけど探偵に必要なのは推理力じゃなくて観察力と洞察力っぴ!」
そう言う七年坂さんの指にはちゃっかりたぬきっぴーの指人形が付いている。なにこれ励ましてくれてるつもりなんですか?全然励まされませんよ、もう。
「そ、そ~っすね。よぉくわかりました」
もはや言い返す言葉もなかった俺は大きく息を吐くといつの間にか足元にすり寄ってきていたクロを抱き上げる。
本当なんだったんだあの時の俺の感情、返してくれよ利子つけて。
「クロ、あれだな・・・・・・七年坂さんは理系だな」
聞こえないようにクロに呟く。知らなければ良い話でしたね、で終わるというのにここまで喋られたらもうどうしようもない。
全く、知る必要のないことを頼んでもないのにウダウダと喋るのは理系人間の悪い癖だ。





《 探偵に推理はいらない 了 》





【 あとがき 】
大苦戦。
前回好きなカクテル三つも書いたことにより三本も書いたために数少ないネタがなくなり、結局ほとんど探偵の頃の実体験を書くはめになったっぴ!
というかまぁ書きたい話が多すぎて話が無駄に長くなったのが一番の原因ですけどね
あと序盤は某カボチャに薦められて読んだ小説が面白くて文章かなり影響されてそれが面白いように書けるから予定の話より長くなっちゃったんだよね、仕方ないね。
これでもエピソード二つも削っちゃったのよ・・・・・・タクシーに乗って「前の車追ってください!」というドラマみたいな実際にやった話と警察に職質されて七年坂さんが「実は私デリヘル嬢なんだにゃん♪」ってごまかすシーンね(次に使えばいいのにあえて書いちゃう
半分くらいは実体験!え、じゃ七年坂さんみたいなメイド服着た探偵がいる・・・・・・いるわけないだろ!!!いたら続けてるわ!!!
はい、深夜の妙なテンションでお送りしました小説というより「探偵ってこんな仕事ですよ、殺人事件とかありませんよ」な内容でお送りしました。

【 その他私信 】
※本来ここで七年坂深雪の「じっちゃんの名にかけてズバッと参上、ズバッと解決!真実はいつもひとつで全部まるっとお見通しだ!!」コーナーを予定していましたが時間の都合によりおじゃんになりました(´・ω・`)


答えだけ言うとクロを逃したのは英俊おじさんです。

【 お題当てクイズ回答 】
タクティカル・ジャッジメント7 思い込みのリベンジ!だよ!えへへ
(※反則です。イエローカード一枚!)


べ、べつに好きで書いてるわけじゃないんだからね!  氷桜夕雅
http://maid3a.blog.shinobi.jp/

● COMMENT ●


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック:

http://misterycirclenovels.blog.fc2.com/tb.php/311-71202c81
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

《 アイスクリ-ムの皇帝 》 «  | BLOG TOP |  » 《 月と踊る猫 》

プロフィール

MC運営委員会

Author:MC運営委員会
このブログの八割は、カボチャで構成されております。

カテゴリ

Mistery Circle(メインカテゴリ) (40)
寸評 (30)
MCルール説明 (1)
お知らせ (36)
参加受付 (24)
出題 (35)
メールフォーム (3)
内藤クンのおもちゃの部屋 (9)
天野さんの秘密の部屋 (8)
Ms.伍長の黙示録の部屋 (0)
伊闇かなでの開かずの部屋 (4)
未分類 (28)
亞季 (2)
いつき (1)
伊闇かなで (3)
空蝉八尋 (4)
黒猫ルドラ (13)
ココット固いの助 (22)
桜井 (1)
桜朔夜 (1)
鎖衝 (11)
知 (21)
しどー (13)
瞬 (3)
白乙 (12)
すぅ (13)
すずはらなずな (30)
田川ミメイ (2)
辻マリ (14)
夏海 (3)
七穂 (1)
氷桜夕雅 (32)
ひとみん (4)
松永夏馬 (12)
望月 (8)
幸坂かゆり (21)
李九龍 (13)
りん (3)
ろく (1)
Clown (12)
MOJO (1)
pink sand (9)
rudo (8)
×丸 (4)
MC参加者に聞け (7)
Mistery Circle ヒストリー (1)

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

検索フォーム