Mistery Circle

2017-09

《 探偵に推理はいらない2 》 - 2012.07.14 Sat

《 探偵に推理はいらない2 》

 著者:氷桜夕雅







ルルルルル、と受話器が鳴った。
俺はその音に反応し手に持ったスポンジを放り投げると一目散に電話機へと駆け寄る。目指すは木製の白いテーブル・カウンターにあるアンティーク調のレトロな電話機、彼女との距離はほぼ互角……いける!
「よし、もらったぁ!」
彼女はまだ電話に気づいただけ、流石にこれでは俺より先に受話器を取るなんてことはできないだろう、俺は勝利を確信して声を上げ電話機へと手を伸ばす。
思えば俺が電話を取れるのはこれで二回目か、一回目は彼女が事務所にいなかったから簡単にでれたんだけどなんだか間違い電話で「源頼朝を探して!探してったら探して!」とわけのわからんことを言われたからな。
とにかく、この電話をとって俺の記念すべき初めての依頼ってのを受けようじゃない……
「にゃあ!」
「うわぉう!」
受話器にあと数センチといったところで俺の愛猫であるクロがどこからともなく現れ俺の顔にダイビング。
「うおぉい!ちょっとクロなにしてんだ……よ!」
じゃれているのかなんのかわからないけどなんで、今こう飛びついてくるんだ!
こんなことしていたら彼女に電話を取られ……
「はい、こちら鈴鳴探偵事務所です」
「あっ……」
クロの首根っこを掴んで顔から引き離したときには時すでに遅かった。ちょうど受話器を握り電話に出る美女の姿が目の前に映ったのだ。
「・・・・・・なるほど。ええ、そういう依頼は得意としております」
淡々と喋る彼女をまじまじと見つめる。彼女も電話で話しながらこちらを感情のない瞳で見つめてくる。
別に心が通じたとかそういうんじゃない、長年の付き合いでわかる。これは「あなたは仕事をしてください」っていう眼だ。
具体的にはペットショップから請け負った水槽の掃除をやれって眼。
……まぁ長年とか言ったけど俺、秋口幸成はここ鈴鳴探偵事務所に来てまだ一週間だけどな。
「なら時間は早い方がいいでしょう、すぐにでもこちらにこれますか?」
そんなことを電話口で話している彼女は俺の上司である七年坂深雪さん、長い黒髪に意外とパッチリとした瞳……細身の身体に出るところは出てるスレンダーなナイスボディ、そしてなによりも特徴的なのがその身体を包み込むメイド服。
ああ、なんでメイド服って説明いるかな?ここ別にメイド喫茶ってわけじゃないんだけどどういうわけか七年坂さんはメイド服を着ている探偵だ。
メイド喫茶だったら俺までメイド服着ないといけないだろ?え、男のメイド服姿とかいらないって?そこはかなり同意だ。
とにかくだ、七年坂さんは探偵であり俺の上司であるが上質のベルベット生地のメイド服を着込んでいる。
俺もよくわからないが七年坂さんがメイド服を着ているのはオーナーの指示らしい……といっても俺は未だにそのオーナーっていうのに一度も会ったことはないけどね。
「ではお待ちしております、はい……失礼します」
そう言って電話を切る七年坂さんの姿を見計らって俺は元やっていた水槽の掃除を辺に転がっていたスポンジを拾い上げそれとなく再開する。
「秋口さん、これから依頼人が来るのですみやかにその作業を終わらせてください」
「え、ああ……はい」
電話を切って七年坂さんが俺に言った言葉はなんていうのだろう、気のせいかもしれないが七年坂さんには珍しいかなり怒気の入った言葉に聞こえた。
あれ、これって俺が電話を取ろうとしたとしたの怒っている?とも思えたのだけどどうやらそんなちんけなことよりももっと、七年坂さんの様子を見るに違うらしい。
「ど、どうかしたんですか七年坂さん?なにか難しい依頼とか?」
俺は適当にスポンジで水槽のガラスについた緑色の苔を擦りながらそれとなく伺ってみる。
「今回の依頼はストーカー事件に関してです」
「ストーカー・・・・・・」
その言葉はあまり俺としては聞きたくない言葉だった。
なんていうのだろうか、それは俺が以前に警察に面と向かって言われた言葉だからだろうな。
ただ自分の名誉のために言うと自分で理解していてそう言われたわけではない、俺としてはごく自然と思っていた行動をストーカーと言われてしまった・・・・・・そこまで言うのは少し卑怯かもしれないがともかくそういうことなんだ。
「秋口さんは『桶川ストーカー殺人事件』というのをご存じですか?」
七年坂さんは淡々とした口調でそう言いながら今からここに来るであろう依頼人のためにお茶の準備をしている。
「聞いたことない、ですね」
正直な言葉を七年坂さんに返す。俺が馬鹿なのか知らないけど生まれてこのかた世間で言う、なんちゃら事件というものを一つたりとも記憶にないのだ。
「『桶川ストーカー殺人事件』というのはストーカー規制法ができるきっかけにもなった事件です」
七年坂さんの口ぶりには感情は込められていない。ただ淡々と冷静に事実だけを告げている。
「とある女性がしつこく男性に付きまとわれ最後には殺されてしまった事件です。事が起きる前から彼女や彼女の両親は幾度となくそのことを警察へ相談をしたのですが取り合ってもらえず・・・・・・結局彼女は殺されてしまった」
「な、なんで警察は取り合ってくれなかったんです?」
警察は被害が起こらないと動いてくれないなんて話はドラマとかではよく聞くが実際の警察でもこんなことがあるなんて思っても見なかった。
「怠慢、としか言えないでしょう。この事件によって取り合わなかった警察官は懲戒免職され、また殺された被害者の家付近に言われもない誹謗中傷のビラを撒いていた数名は名誉毀損で訴えられました。そして殺人を犯した犯人は逃亡先で自殺、遺書は見つかりましたがそこには彼女への詫びの言葉などなくただ自分の生命保険の送り先は自分の両親だということだけ」
「そんな・・・・・・」
いくら後になって懲戒免職だの、名誉毀損だのしたところで殺されたその女性が生き返るわけでもない。まして犯人は罪を償うわけでもなく謝罪や反省もなく逃亡、そして自殺。遺族でなくたってこんな不条理理解できるわけがなかった。
「このような事件、もしくは事件になっていない不条理なことが横行しているのが現在の世の中です。もしその彼女が警察ではなく、私達探偵のところに相談しに来ていればあんな結末にはならなかったかもしれません」
ティーポットへお湯を注ぎながら静かに七年坂さんは言う。確かにもし警察へではなく探偵に依頼をしていればなんとかなったのかもしれない。
なんだかまだ探偵らしいことをしていないせいか実感なんてそう湧かないけれど、自分がやる仕事には大きな責任が伴う・・・・・・当たり前のことだけどなにかこの話を聞いてより心に深く刻み込まれた気がした。



「え、えっと・・・・・・ここ探偵事務所でよかったんですよ、ね?」
今回の依頼人、重松香織の第一声はそうだった。
いやまぁ誰だってそう思うだろう、俺だって初めて来たときはそう思ったものだ。
ピンク色の壁紙にアニメや声優のポスターがいたるところに貼られ、棚にはフィギュアがズラリと勢揃い、そしてなにより七年坂さんがメイド服で出迎えるんだからな。
「間違いありませんここは鈴鳴探偵事務所です。お待ちしておりました、こちらへどうぞ」
「は、はい・・・・・・」
七年坂さんの声に少し緊張した様子で重松香織は頷くと黒皮のソファに座る。
俺は奥のカウンターから依頼人である重松香織の姿を掃除をしている振りをしながらチラリと横目に見る。
ベージュのニットに青のタータンチェックスカート、髪はあれだよく言う茶髪のゆるふわカール。よくいる大学生のテンプレといった感じではあるが個人的にはそれが似合っていてとても可愛らしい。
ただまぁ今、重松の表情は暗い。かなり精神的にまいっているといった感じが俺が見てもはっきりとわかった。
「私探偵の七年坂深雪と言います。それではさっそくですがいつからストーカーの被害に・・・・・・」
「あの!だ、大丈夫ですよね?なにかあの失礼ですけど私の想像してた探偵さんとは違うのでちょっと不安で」
七年坂さんの声を遮って重松香織は震えた声で言う。
重松からすれば"いかにも”探偵っぽい探偵を出して欲しいところだったのだろう、出てきたのがどうみてもメイド喫茶の店員にしか見えない七年坂さんだったらそりゃ不安にもなる。
「ドラマや映画で見るような探偵と現実の探偵とは大きく違うものなのです。ですがご安心ください、必ず貴女のお力になれますので」
「はい・・・・・・」
だからってメイド服はないだろ、と二人のやり取りを見ながら心の中で呟く。
全くここのオーナーはなにをもって探偵にメイド服なんて着せているのかさっぱりわからない。もしかしてそのうち俺もメイド服着なきゃいけなくなるのか?いかん、想像してて鳥肌が立ってきた。
「それで詳しく状況をお聞きしたいのですがよろしいですか?」
「えっと、はい」
なんだか未だに納得がいっていない様子の重松香織だが、もはや「探偵はメイド服を着るのが当然」という感じで淡々としている七年坂さんに少々気負って答える。
「実際にストーカーされていると気がついたのはいつ頃ですか?」
「それは一週間ほど前です。バイトの帰りにずっとつけているのに気がついて、私怖くて・・・・・・」
「ではその一週間前辺りでなにかストーカーのきっかけになるのではないかと思うような出来事はありますか?例えば恋人と別れたとか告白されたのを断ったとか、些細なことでも構いません」
「えっと、そういうことはなかったんですが・・・・・・」
ただでさえ暗い表情で話す重松香織の表情が更に曇る。
「ただ私、一週間前に桜陵大学のミスコンで優勝したんです」
「ミスコンで優勝!?すごいですね!」
「えっ、あっ・・・・・・はい。ありがとうございます」
ついミスコンで優勝なんて言葉を聞いて俺は驚き、声をあげてしまっていた。そんな俺に七年坂さんはこっちを振り返りじっと眼で訴えかけてくる「仕事の邪魔をするな」って、わかってます、わかってますよ。
本来なら俺はこの場で依頼人には会えないのを勉強ということでこのカウンターの奥でいさせてもらっている。
と、いうのも探偵には二種類の分別がある。まぁこれは七年坂さんの受け売りなんだけど探偵には相談員と調査員というものがあってまぁ読んで字のごとくではあるが相談員というのは今七年坂さんがやっているような依頼人と直接会ってのヒヤリングから依頼による調査員、依頼人の行動、方向性を決める存在。
一方で俺みたいなのが調査員というのでいわば実働部隊。直接尾行をしたり映像を撮ったりするのがメインの仕事で基本調査員と依頼人ってのが直接会うことはあまりない、らしい。
言うなれば探偵ってのはこの相談員と調査員を両立できてこそ探偵と呼ばれるので俺がここにいれるのはその勉強のためなんだ。
「つまりミスコンで優勝した辺りからストーカーに狙われるようになったのではないと?」
「はい・・・・・・。ミスコンで優勝すると雑誌やテレビにでることになったりするので目立ちますし、もしかしたら優勝できなかったことを恨んで他の人が・・・・・・うううっ」
最後の方は声を震わせ目元にうっすらと涙を浮かべ話す重松香織の姿にこんな可愛い子を泣かすストーカー犯への怒りが募る。
「後ろをつけられている以外になにか被害をありましたか?部屋が荒らされてたり誹謗中傷の紙がばらまかれたりといったような」
「それは今のところないのですけど、いつかきっとそういうこともやってくるに違いないです!」
もはや涙腺が決壊寸前といった感じの重松香織に七年坂さんは静かに告げる。
「安心してください、私達が解決します。それで覚えている範囲でよろしいのですがこちらの方を記入いただいてもよろしいですか?」
そう言うと七年坂さんはクリップボードを重松香織の前に差し出す。それは俺がクロを探してもらうときにも書いたものだ、恐らくストーカーを見つける用に細かく情報書くようになっているのだろう。
「あの七年坂さんでしたっけ?一つお願いがあるのですけど」
「はい、なんでしょうか?」
クリップボードを前にボールペンを握りしめた重松香織が少し言いにくいように言葉を紡ぐ。
「こちらでボディガードってお願いできたりしませんか?正直こちらに一人で来るのもつけられてないかと怖くて」
「なるほど、こちらとしても気がつかずに申し訳ございません。ボディガードというには少し力不足かもしれませんが彼はどうでしょうか」
そう言うと七年坂さんはこちらを振り返る。しかもなんでこっちみているんだ・・・・・・って、あれかもしかして俺がボディーガードやるのか!?
「え、えっと・・・・・・」
七年坂さんに言われて重松香織の瞳がじっと俺を捉える。なんだろうこの品定めされている感じ、ちょっと緊張する。
まぁでも女性である七年坂さんには任せられないし、全く帰ってこないオーナーにも任せられない、となれば俺がやるしかないだろう!
こんなミスコンで優勝するような美女のボディーガードをやれるなんて光栄なことだ。こう襲いかかり来るストーカー犯をこうやって、ああやって痛い痛い!すいませんでしたぁ!っと華麗に捕まえる脳内シミュレーションは既にでき・・・・・・
「あの、できたら他の方がいいのですけど」
「わかりました。少し時間を頂ければ適任の者を呼べますのでボディーガードの件はご安心ください」
「・・・・・・。」
ミスコン優勝者のボディガード役、まさかの落選。いやまぁ確かに俺はそこまで体は鍛えてないけど・・・・・・うん、なんていうか頼りないのかな?
なんかこれだけで三日は寝る前に悩みそうだ。
「では私はボディーガードの方に連絡を取りますのでそちらの記入お願いします」
「わかりました」
重松香織はクリップボードの質問要項を記入しだし、七年坂さんは席を立ちそのボディガードをする人に携帯電話で連絡を取り始めている。
なんていうか俺だけこの放っておかれる感じ、ちょっと辛いね。
とはいえ俺としては七年坂さんの呼ぶボディガードというのが気になる。やっぱり適任というからにはやはり体格はしっかりしていて「ああ、この人に守られたい!」って思うような人なんだろうなぁ。
一体七年坂さんとどういう関係なんだろう?もしや恋人同士とか、それともここにきてついにこの鈴鳴探偵事務所のオーナーがでてくるのだろうか?
俺はそんなこと童貞中学生のくだらない妄想のようなことを思いながら特にやることなく足元に寄って来ているクロを抱き上げるのだった。



七年坂さんがボディーガードを呼んでからおよそ一時間、現れた男を見て俺は安堵すると共に別の不安が膨らむことになった。
七年坂さんの恋人でもオーナーでもない、このミスコン優勝美女のボディガード役として現れたのは俺のよぉく知っている人物。
「おぅ幸成、元気してたかぁ?」
そんな軽い感じで話しかけてきた人物に俺はわざと怪訝な表情を見せ答える。
「もしかして英俊おじさんがボディーガードやるの?」
「おう、なんでも幸成じゃ頼りないって話らしいからな」
俺の言葉におじさんはガハハと豪快に笑う。英俊おじさん───響英俊は小さい頃に両親を亡くした俺にとって親代わりのような人だ。
英俊おじさんも別の事務所ではあるが俺や七年坂さんと同じ探偵である。
そして俺がこのメイド喫茶っぽい鈴鳴探偵事務所で働くことになった要因というか元凶だ。
確かに、英俊おじさんは体格は大きい方だし腕っぷしもそれなりにあるから俺よりかはボディーガードとしては適任・・・・・・のように見えるがどうにも我が家、響探偵事務所の書類の乱雑しっぷりとマッサージチェアにどっしり座ってビールばっかり飲んでるイメージしかないので少し、いやかなり不安だ。
「重松さん、こちら響さんは熟練の探偵であり腕も確かです。ボディガードとしては適任だと思うのですが」
「どうも初めまして。いやぁ貴女のような美人さんのボディガードを任されるなんて光栄ですよ」
今日はしっかりとアイロン掛けされたスーツに無精髭もきっちり剃っている英俊おじさんが重松さんの前で笑顔を頭を下げる。
まるで普段のおじさんとは思えないほど真摯な振る舞いだ、まぁビール腹だけは全くといって隠せてはいなかったがな。
「ええっと、あの・・・・・・」
俺のときと同じように重松香織はそんな真摯な英俊おじさんをまじまじと見つめる。
大丈夫かなぁ、どっからどうみても重松香織さんと英俊おじさんの組み合わせだとストーカーの前に警察に援助交際かと疑われそうな組み合わせなんだけど・・・・・・
「はい!是非響さんにボディガードお願いします!!」
さっきまでの暗い顔もどこへやら、重松香織は英俊おじさんの手をぎゅっと握り目を輝かせている。
へぇ~ミスコン優勝する人になるとお目が高いんだな、うん。
そういうことにしておかないとなんというか物凄い敗北感に打ちひしがれそうだった。



実に今日はいい天気だった。秋に入って気温も下がり、かと言って寒すぎないちょうどいい塩梅な気候だ。
天高く、馬肥ゆる秋。こんな日に公園のベンチで美人な女性と愛を語り合っているわけですよ、俺みたいなイケメンは。
「・・・・・・なんてな」
あまりの呆けた気持ちを適当な妄想で消化し、脳の外へと放り出す。
俺たちが今いるのは依頼人重松香織の家から一番近い七枷公園と呼ばれるそこそこ大きな公園だ。
公園のベンチ、その隣には美人のメイド探偵七年坂深雪さんがいるが別に愛なんて語り合ってない。
七年坂さんは相変わらずのメイド服でこの公園につくなり膝の上に小さなバスケットを乗せるとそこからお手製のサンドウィッチを取りだし黙々と食していらっしゃる。
ここで「秋口さん、はい。あ~ん」とかやってくれないから困るよな、まぁそういう関係じゃないんだけど。
その一方で俺たちの見つめる先ではバカップルとしか呼称できない重松香織と英俊おじさんが噴水の縁に座ってイチャついてやがる。
なぁんていうか依頼に来たときとは打ってかわって重松香織は実に楽しそうだ。痩せ我慢とかではなく、完全に楽しんでいる雰囲気がこちらにまでウザいくらいに伝わってくる。
そんなに英俊おじさんがお気に入りですか、そうですか。
なんにしても公園は平和、そのものだった。
今日が土曜日ということもあって家族連れやらカップルやらが結構いてここにストーカーみたいな陰湿なことをする輩がいるようには思えなかった。
「それでストーカーなんてどうやって探すんですか?」
俺のなんとなく呟いた言葉に七年坂さんは動きを止めてチラリと横目でこちらを見る。
「もしかして秋口さん、目星がついていないのですか?」
「えっ、目星・・・・・・ですか?」
あれ?七年坂さんの口ぶりからするともしかして既にストーカーの奴来ているってことか?
「ど、どこにいるんですか七年坂さん!?」
俺は立ち上がりキョロキョロと辺りを見渡すがそれらしき怪しい人物がいるようには・・・・・・
「秋口さん、ちょっと」
「なんですか七年坂さん、というかストーカー犯はどこ・・・・・・むぐっ!!!」
力強く俺の腕を引っ張り、座らせると七年坂さんがサンドウィッチを俺の口に押し込む。
「むぐぐぐう、はぁ!な、なにするんですか七年坂さん!」
無理矢理突っ込まれたレタスとトマトのサンドウィッチを咀嚼しながら俺は抗議する。味についてはかなり美味かったし、「はい、あ~ん」はちょっと期待してたけどそのやり方はないでしょうに。
「少し落ち着いてください。そんなに挙動不審だと私達がストーカーを探しているとわかってしまうでしょう」
「あっ・・・・・・」
そこまで言われて冷静になる。確かにちょっとストーカーがいることに舞い上がってしまっていたな、あれじゃストーカーがこちらに気づいて決定的な瞬間を取り逃がすところだ。
「す、すいません・・・・・・七年坂さん」
「秋口さんはストーカーがどういうものかわかりますか?」
七年坂さんは俺の謝罪になにも言うことはなく、疑問を投げ掛けてくる。これは謝ってる暇があったら集中しろってことか。
しかしストーカーがどういうものか?って謎かけかなにか、なのか?
「そりゃストーカーって言えば人の後をつけたりして嫌な思いをさせる奴のことじゃないんですか」
「人の後をつけるのは探偵も同じですよね」
「まぁ、そうですけど・・・・・・」
確かにそうだけど探偵とストーカーを一緒にされるのはいささか不快な気持ちだ。
「ストーカーというのは総じて尾行や張り込みが下手です。正確には下手でないと意味がない」
「へ?下手でないと意味がないって・・・・・・」
「単純な話です。ストーカーは対象者に自分の存在を気づかせ恐怖を与えたいわけですから、探すのは張り込みや尾行の仕方が下手な人物を探せばいいんです」
「あ~なるほど、そういうことですね」
それは全くの盲点だった。思えば依頼人である重松香織さんがストーカーされていることに気づいてるってことは、今もストーカーは重松香織さんに気づかせるような張り込みをしているはずだ。
張り込みが下手な奴、それがどんな奴かはこの前の尾行実習で把握済みだ。なんてったってあの時の俺がやってたようにしている奴を探し出せばいいわけだ。
「あ、あいつか?」
それを踏まえて公園の中にいる人をざっと見渡すと確かに一人、怪しい奴がいた。
噴水の前にいる重松香織からずっと目を離さずにしている人物。紺のジャージに緑色のパーカー、黒のキャップを深く被っている表情こそはっきりわからないが明らかにそいつは噴水前の重松香織さんをずっと見ている様子だ。
それは尾行実習でやったダメな張り込み例そのまんまだ。
だがストーカーはそれを意図的にやっているんだ、「お前を見ているぞ」と恐怖心を煽るために。
「七年坂さん、あそこのキャップ被っている奴ですよね!早く捕まえましょう!」
俺は息巻くが七年坂さんは黙々とサンドウィッチを頬張るだけで全く動く様子がない。
「し、七年坂さん!?」
「秋口さん、犯人を捕まえたいのであれば探偵を辞めて警察官になった方がいいです。依頼人に直接被害がでないかぎり私は犯人を捕まえるということをしません」
七年坂さんがキッパリ言いはなった言葉に俺はなんともやりきれない気持ちになる。
目の前にストーカー犯がいる、それは人に恐怖を与え不快にする危険な存在。それがわかっているのにみすみす見逃すというのか?
「・・・・・・そもそも今あのストーカーを捕まえたとしても証拠があるわけではありません。警察に引き渡したとしてもすぐ釈放されるでしょう、そうなればストーカーの怒りは更に膨れ上がりより依頼人が危険に晒される可能性が出てきます」
「それは確かに・・・・・・」
「私達は何年にも渡って彼女を守れるわけではありません。きっちり証拠をあげ警察が動かざるを得ない状態を作り出さなければなりません」
「そう、ですね・・・・・・」
ぐうの音もでない正論になにも言い返す言葉がなかった。
七年坂さんは常に冷静で正しい判断をする。なんていうか目先のことにとらわれている俺とは全然違う。
「秋口さんの気持ちもわからなくはないですが、今回は響さんがいるので安心してもいいと思いますよ」
「おじさんがいるから?」
「響さんの腕はかなりのものです。私も探偵として尊敬してます」
そう言う七年坂さんの表情はどこか嬉しそうだ。
七年坂さんが英俊おじさんを尊敬してるって・・・・・・むむむ、なんだか気になる話だ。
「響さんとは何度か一緒に仕事していますが頼りになるのは間違いないです。」
あの事務所でビールばっかり飲んでる英俊おじさんが?
・・・・・・と、思うが実際に俺が英俊おじさんの仕事しているところをみたことはない。
ただ探偵と言う不安定な仕事で俺をなに不自由なく育ててくれた、小遣いも貰ってたし誕生日とクリスマスには欲しいものを買ってくれた。
つまり、探偵として安定した収入を稼げている。それも十年以上も・・・・・・そう考えると英俊おじさんが凄腕の探偵に見えてくるではないか。
正直、俺はこの仕事が向いているかどうかまだわからない。さっきみたいな状況、七年坂さんがいてくれて諭してくれたから冷静になれたが実際一人だったらどうしてたかわかったもんじゃない。
そういう意味では探偵として大先輩に当たるんだし俺も少し英俊おじさんを尊敬の眼差しで見てもいいのかな?
「それでこれからどうするんですか七年坂さん?」
「それなんですが、響さんの方からの連絡を待っている状態です」
「えっ!?」
「ここに来てすぐにストーカーに気付き、連絡したのですがそれからさっぱり返答がない状態です。」
そう言う七年坂さんに俺は噴水前でイチャついてる重松香織と英俊おじさんをもう一度見る。これって・・・・・・完全に仕事忘れて楽しんでいるってことじゃないのだろうか?うん、間違いない。
「困りましたね。こちらとしてはとりあえずストーカーの映像も撮れましたし動いてもいいと思うのですが」
「なるほど・・・・・・って、あれ?七年坂さんいつ映像を?」
俺が知っている限り七年坂さんがビデオカメラを撮っている、そんな様子一切なかった気がするのだけど。
「先程からずっと撮ってますよ、このように」
そんな俺の疑問に答えるように七年坂さんがバスケットに敷かれたハンカチを捲る。するとまるでシルクハットから鳩が飛び出す手品のようにバスケットの底からビデオカメラが姿を現す。
「そ、そんなところにビデオカメラ入れてたんですか。と、いうかそれで良く撮れますね」
「バスケットの横側にビデオカメラで撮れるように小さく穴を開けてあります。ビデオカメラの扱いになれてくるとフェンダーや液晶モニターを見ることなく相手の顔を撮ることができるようになりますよ」
「は、はぁ・・・・・・凄いですね」
なぁんか、あっさりとした様子で七年坂さんは言っているがモニターを見ないで相手の顔を撮るなんて芸当、早々真似できそうにない。
「とりあえず響さんが動き出すまで待機です、はい」
そんなことを言いながら七年坂さんは再びサンドウィッチを食しだす。この普通にお昼を公園で楽しむメイドさんな状態でちゃっかり撮影しているわけだろ?言われた後でも全くそんな風に感じさせないのは本当に凄いと思う。
それに比べて英俊おじさんは完全に仕事を忘れて重松香織とお喋りしている、これで酒があったらただのキャバクラ通いのおじさんじゃないか!
うーむ、七年坂さんは英俊おじさんを尊敬しているとは言っていたが少々不安になって来ましたよ、俺は。



「響さんの方と連絡がつきました。これから重松香織さんの家の方へ移動するようです」
七年坂さんがそう切り出したとき、公園の柱時計は夕方の五時を指し示していた。
「ようやくですか・・・・・・」
やっとこさ動き出した状況に俺は思わず息を吐く。
結局公園についてから二時間も無駄に張り込みをすることになったわけだがその間ストーカーとおぼしき人物もずっと木の影で重松香織を監視していた。
はっきり言って相当あの重松香織にご執心していると見える。
「マルタイが動き出しましたね、私達も行きましょう」
重松香織と英俊おじさんが噴水の縁から立ち上がりなんでか腕を組んで歩き出したのとほぼ同時だ、今回のマルタイ・・・・・・ストーカーの奴がゆっくりと木の影から出て歩きだす。
むこうとしては尾行をしているつもりなんだろうがこれから尾行される側になるとは思っても見ないだろう。
俺は肩掛け鞄にずっと眠ってたビデオカメラのレンズを向けながら「今からばっちり尾行してやるからな」、そんなことを思いマルタイの後ろ姿を撮影する。
日も落ちかけ朱に染まる大通り、重松香織と英俊おじさんの斜め後ろおよそ十メートルにマルタイがいてそこから更に数メートル離れて俺と七年坂さんがいる。
ここから見るにマルタイの尾行の仕方はやはり下手だ、携帯電話をチラチラ見てはいるが基本的に首は重松香織の方を向いている。
今、このストーカーは一体どんなことを思って尾行しているのだろう?
ふと、尾行しながらそんな気持ちが噴き起こってくる。
重松香織は自分がミスコンで優勝したからそれを妬んだ人物の犯行じゃないかと思っている。
んまぁ、ありえない話ではないと思う。俺も大学時代に学園祭なんかでミスコンを見たことがあるがそこで選ばれると言うことはこの大学内だけじゃなくて大学の外、所謂世間にもその存在を知らしめることになる。
○○大学のミスコン優勝と、もはや大学の看板と言った感じで雑誌やテレビに引っ張りだこになると言うのは全く関係ない蚊帳の外であった俺でもわかるほどに顕著だ。
しかし俺はそこで考える。そのミスコンに選ばれなかったことを妬んで相手を尾行し嫌がらせをする・・・・・・それはわかる、けどなんでそこまでしかしないのだろう?
先に断っておくが俺はやらないぞ、これは例えの話だ。俺にはストーカー呼ばわりされた前科っぽいのがあるから「実はこういうことしてたんじゃないの?」なんて思われそうだから先に言っておく、あくまで例えだ。
妬んでそういうことをするのなら誹謗中傷の紙を大学内でばら蒔いた方が効果があると思う。
そんなことまではしない・・・・・・のかもしれないがこの土曜日、休みの日に二時間以上も女性に付きまとうなんてそっちのほうが執念深く感じられるのではないか?嫌がらせをしたいのであれば誹謗中傷の紙をばらまく方が効果も大きいだろう。
あ、勿論これは俺の推理であって誹謗中傷の紙をばら蒔けって言ってるわけじゃないぞ。
「わざわざ付きまとうってことは他に目的が・・・・・・」
そんな言葉が自然と口にでる。まるで二時間推理ドラマの事件に首突っ込みたがる主婦のような感覚だ。
重松香織の話では今現在付きまとわれている以外にストーカーからの被害はないってのは最初に依頼したときに聴いている。
「あっ・・・・・・もしかして」
ふと頭の中の歯車が噛み合いゆっくりと回りだす。速度は遅いがそれは段々と回転数をあげて俺の中で物語を産み出していく。
もしかしたらこのストーカーはミスコン優勝者である重松香織のスクープを狙うマスコミなんじゃないのか?
この前も恋愛禁止を掲げている人気アイドルグループの一人の路上キス画像なんてのが世間を賑わしたりしたし、有り得ない話でもないだろう。
後をつけるだけなのはスクープを撮りたいだけで嫌がらせをするつもりではないから・・・・・・いやまぁ重松香織からすれば充分に嫌がらせになっているがそういうことなのではないか?
「と、なるとまずいな」
と、そこまで考えて今の状況が非常にまずいことに気がつく。
このまま重松香織が英俊おじさんと家に入っていけばそれこそ
『○○大学ミスコン優勝者、年上男性との密会!』なんて記事が書くのにぴったりじゃないか。
英俊おじさん、見た目でいえばなんかどこかの金持ちプロデューサーみたいな風体だし適当に「この男は某有名プロデューサーD氏に極似している、これは枕営業ではないかと筆者は邪推してしまうのだ、まる」なんてでっちあげられた記事を書かれてもおかしくない!
「し、七年坂さん・・・・・・大変ですよ、これは!」
内心冷ややかな面持ちで隣を歩く七年坂さんに声をかける。このまま二人を家に帰すのは相手の思う壺だ、なんとかしないと。
「どうかしましたか秋口さん?」
「俺、凄いことに気がついてしまったんですよ・・・・・・いいですか、落ち着いて聞いてください」
そう言いながら大きく息を吐く。ここで慌ててはいけない、冷静になって事に当たらないと事態は余計悪い方にいってしまうからな。
「私は落ち着いてますよ、それで一体何に気づいたんですか?」
「あのストーカーですね、実は重松香織さんのスクープを狙うパパラッチなんですよ」
「はぁ・・・・・・そうなんですか」
俺の完璧な推理に七年坂さんはさもどうでもいいと言った感じで返事をする。いやまて、落ち着け・・・・・・ちょっと心折れそうになったけどまだ諦めるな俺。
「このまま重松香織さんと英俊おじさんが家に入るところを撮られたらパパラッチの思う壺ですよ」
「はいはい・・・・・・」
俺の迫真した説明もあっさりとかわされる。というかあのスーパードライなメイド探偵である七年坂さんがかなり面倒くさそうに返事したことがかなりショックだった。
「ひとつ、いいですか秋口さん」
どうやったら信じてくれるんだろうと頭を悩ませていると七年坂さんが人差し指をピンと立てる。
「秋口さんがなぜマルタイをパパラッチだと思うのか、それは全く検討もつきませんがスクープを撮ろうとする人間なら重松香織さんに気がつかれないようにしていたほうがメリットがあると思いますけど」
「あっ・・・・・・」
俺の完璧な推理によって建てられた城は七年坂さんの一言であっさりと崩れ落ちた、うん。
そう言われればそうじゃないか、誰が好き好んでパパラッチに見られているって気がついてる状況でスクープになるようなことをするだろうか。
「それに万が一、マルタイが秋口さんの言うようなとても尾行の下手なパパラッチだとしても私たちのやることは変わりません。完璧な報告書を作り、提出する・・・・・・それさえあればパパラッチだろうがストーカーだろうが訴える先が変わるだけです」
「な、なるほど・・・・・・」
「秋口さん、以前にも似たようなことを言いましたが探偵に推理はいらないです。それに過度な先入観も」
「あっ、はい・・・・・・すいません」
そう言う七年坂さんは声色こそ変わらず淡々としているが俺は申し訳なくなり頭を下げ謝罪した。
ううむ、なんていうか久しぶりの探偵の仕事だってのに今日の俺謝ってばっかりで全然いいところがない。
本当にちゃんとした探偵になれるのかなぁ、俺。



そんな漠然とした気持ちで頭の中がぐちゃぐちゃになっていても当然のことながら尾行は続く。
重松香織と英俊おじさんは陽のあたる大通りから少し人通りの少ない住宅地の方へと歩いていく。
そして相変わらずその後ろをマルタイは携帯電話を弄りながら少し離れついていっている。
距離でいえば離れているといった感じだが確かに一度気がつくと気になってしょうがない、そんな位置だ。
今日は英俊おじさんがいるからまだ大丈夫だがあまり人通りのないこの辺りだといつ襲われるかもという不安が出るのも間違いないな。
しかしこの辺に並んでいるビルといえばそれこそ地域には不釣り合いな高級マンションだ、もしかして重松香織って相当な金持ちなんだろうか?
思えば依頼人重松香織がどういった人間なのか俺はよく知らない。
そりゃ言ってた大学のミスコンで優勝したとかそういうのは知っているが、それ以外はさっぱりだ。
七年坂さんに言われて重松香織が書いていた質問用紙も俺は確認していない、まぁ今の俺が見たところでまた先入観で変なことを考えてしまいそうだからそこは七年坂さんなりの配慮、なのかもしれないが恐らくこの辺りを知らないことが俺のこのモチベーションというのだろうか、そう言うのが変なところにいってしまう原因のような気がする。
「秋口さん、この辺りで止まりましょう」
そんなことを考えているとちょうど七年坂さんが自動販売機の前で立ち止まる。
「あ、はい・・・・・・もしかして、尾行がばれましたか?」
なんで七年坂さんが急に立ち止まったのか疑問だったが、すぐにマルタイの足も止まっていることに気づき、恐る恐る七年坂さんに問いかける。
「いえ、そうではないです。あそこに見えるマンションが重松香織さんのマンションなのでマルタイがどう動くのか警戒しているだけです、秋口さんそこからどう動くのか確認してください」
「なるほど、わかりました」
自動販売機に硬貨を入れながら言う七年坂さんに俺は小さく頷く。七年坂さんが自動販売機の方を向き壁になっているので俺にそこからマルタイの様子を伺えと、そういうことだ。
とりあえず今現在、重松香織と英俊おじさんがマンション内に入ってからマルタイはマンションの前を携帯電話を見ながらなにかを探すようにウロウロとしている。
「どうぞ、秋口さん」
「あ、どうもです」
マルタイから目を反らさずに七年坂さんに差し出されたペットボトルを受け取るとゆっくりとキャップを緩め口に運ぶ。
「んっ・・・・・・!?」
・・・・・・どろり、喉元を通った液体の感想を一言で表すならそうだ。味はなんていうのだろう、すっぱい離乳食を近々に冷やしてなんでか微炭酸を加えた味。
そんな例え話を聞いて「え、美味しそう!」なんて思う奴はいないだろう、いやもしかしたらこれを開発した奴は美味そうと思っているのかもしれないがとにかく、くっそ不味かった。
「な、なんなんですか、これ」
思わず手に持ったペットボトルを見やる。そこには生まれてこの方見たことない「大潮カニジローのカニ汁」という聞いたこともないような文面と目の焦点があってないカニっぽいゆるキャライラストが描かれている。
「ゆるキャラって、もしかして七年坂さん!?」
本当はマルタイの動向に集中しなければいけないんだが七年坂さんの方に目線をやると
「おまけの缶バッチが欲しかったのですが、異様に美味しくないとの噂でしたので秋口さんに飲んでもらいました」
俺の目線に気づいたのかあっさりとそんなことを言ってのける七年坂さん。しかも七年坂さんが飲んでるのは普通の紅茶のペットボトルじゃないか。
七年坂さんの胸元をよく見ればちゃっかりこの不味いジュース?のおまけであろう大潮カニジローの缶バッチがつけられている。つまりおまけが欲しいけど飲みたくはないから俺に押し付けたと・・・・・・。
「いくらなんでも素直に白状しすぎでしょ七年坂さん・・・・・・」
「素直なのが取り柄ですから。けれど少しは元気は出たでしょう?」
そう言って微笑む七年坂さんに思わずドキッとした。いや普段全く笑ったりしないからたまに笑うと驚いちゃうんだよね、可愛さに。
しかし、元気が出たかって・・・・・・もしかして俺が落ち込んでたの気にしてくれたのか七年坂さん。
「・・・・・・そんな風に見えました?」
「ええ、気持ちの切り替えができていなさそうでした」
気持ちの切り替えができてない。そう言われるとそうだ、なんか一人で先走ってミスばっかりしてて気持ちを切り替えよう、切り替えようとしていたはずなのに結局失敗したことを引き摺って仕事に集中しきれていなかった。
「いや、はい・・・・・・すいません」
「ミスは誰でもあります。別に尾行が失敗したわけではないのですから」
「はい・・・・・・」
「そのジュースを飲んで元気出してくださいね」
「えっ、ええっ・・・・・・」
カニ汁なんてジュースで当然元気は出るはずもないが七年坂さんがこうして心配してくれてたことは正直嬉しい。
「先輩が奢ったんですから当然残すとか捨てるとかありえませんからね」
「ううっ、は、はい・・・・・・」
嬉しい、嬉しいんだがなんか七年坂さんの目が据わってるのがちょっと怖いんですけど・・・・・・。
とはいえ今度こそ気持ちを切り替えて肩掛け鞄からビデオカメラのレンズを出しマルタイを捉える。
カニ汁のジュースをちびちびと喉に流し込み、そしてこんなジュースを作ってくれやがったメーカーを心の中で呪いながら・・・・・・。

状況は変わったのは「大潮カニジローのカニ汁」500mlを半分ほど飲み切ったそんな時だ。
ずっとマンションの前でウロウロしていたマルタイが踵を返し来た道を戻りだしたのだ。
「七年坂さん、動きました」
俺たちの前を通りマンションから離れていくマルタイを確認すると小声で七年坂さんに話しかける。
「正面からの映像は撮れましたか?」
「一応撮れましたがはっきり言ってキャップを深く被りすぎてて表情までは」
「そうですか。ではここから先は秋口さん一人でマルタイを尾行してください」
「えっ!?」
あまりに突然な言葉に素っ頓狂な声を出してしまった。いや、もしかしてあれですか?マルタイの顔を撮れなかったから一人で行って撮ってこいってそういうことですか!?
「あいにくと私は別の用事があるのです。なのでメールで逐一状況を教えてください、用事が終わりましたら私の方も秋口さんのところへ向かいますから」
「は、はい・・・・・・」
言われるがままに返事をしてみたけど、俺が一人で尾行・・・・・・するんだよな。
「秋口さんならできると思ってお願いします。あとこちらの資料もお渡ししておきますね」
思いっきりプレッシャーのかかる一言と共に七年坂さんは数枚のプリントが入ったクリアファイルを手渡してくる。
「これは・・・・・・?」
「重松香織さんに書いていただいた質問用紙のコピーです。もしかしたらなにかの役に立つかもしれませんので」
「・・・・・・わかりました。それでは行ってきます」
俺はクリアファイルを肩掛け鞄に放り込みマルタイの後を追う。
一人で尾行をするということに決心がついたわけじゃない。まだどこかで七年坂さんに助けてもらいたい、そんな気持ちが渦巻いている。
練習で一人で尾行をしたことはあるが本番はあの雛家茜の浮気調査の時だけ、しかもその時は七年坂さんが隣に居てくれたから上手くいったようなもんだ。
七年坂さんに何の用事があるかはわからない。正直言うならあそこで「俺一人でだなんて無理です、ついてきてください」と言いたかった・・・・・・が、そんなことを話し合う暇なんてなかったんだ。
・・・・・・できるできないでごたごたしてマルタイを見失いそうになるのがダメなことくらい俺にだってわかっていたからな。
結果俺はマルタイの姿を見失う前に動き出したわけだが心臓は飛び出すんじゃないかってくらいに脈打ってるし、足や手は震え、頭の中なんて真っ白だ。
「上手くやろうなんて考えるな、俺」
気持ちを落ち着かせるためにそう自分に言い聞かせる。
俺だって練習してこなかったわけじゃない。ペットショップのチラシ配りや水槽掃除の合間を縫って英俊おじさんを相手に尾行の練習をしてきたんだ。
七年坂さんに言われたことなんだが尾行を練習する場合は自分の知り合いを相手にするのがいいそうだ。
万が一バレたとしてもなんとでも言えるからな、まぁ英俊おじさんには一度も気づかれてないけど。
だがその練習でさえ正面からのアップ画像を撮るのは初心者な俺には至難の技だ。
アップを撮るためにはマルタイの行動を把握して、先読みし、当然前に出なければならない、しかもずっと前にいるわけにもいかない・・・・・・チャンスの時間は短いのだ。
本番で練習以上のことはできない、報告書には当然俺が今撮っている画像も使われるわけだがここだけ後ろ姿ばっかりになっても今は仕方ない、見失ったりバレてしまうよりかはましだ。
「できたら店かどっかに入ってくれればチャンスもあるんだが」
勿論このままの映像ばっかの報告書が価値があるかといえば恐らくない。依頼人重松香織が欲しいのはストーカーの正面からの顔、やってきた行動からどこに住んでいるのかまで・・・・・・これをきっちり押さえれば訴えることができるんであって後ろ姿ばかりの画像に価値なんてないんだからな。
店に入ってくれれば出るときに外に張り込んでいれば比較的
簡単に正面映像が撮れる、一番良いのは一緒に店に入ってマルタイの行動を撮影、マルタイが店を出るよりも先に外に出てマルタイが出てくるところを撮るんだけど・・・・・・ちょっと今の俺には荷が重いか。
だがそんな俺の願いとは裏腹にマルタイは特に店に入るわけでもなく大通りに出ると携帯電話を操作しながら歩いていき、私鉄のあるアーチ上の屋根の地下へと降りていく。
「えっと、マルタイはS市役所前駅9番出入り口より地下へっと」
立ち止まり地下へと降りていくマルタイの後ろ姿を撮る。次に一旦カメラを引いて「S市役所前駅9番口」と書かれた看板をズームし直し撮す。
「電車移動か・・・・・・」
誰に聞こえないように小さく呟く。俺は練習で英俊おじさんを尾行したときの一度失敗した記憶を思い出した。
あの時は英俊おじさんが急に思い立ったようにして地下鉄に乗り出したんだけどその時の俺は何円の切符を買えばいいのかわからずに適当に買ったらちょうど英俊おじさんが降りた先で乗り越しててそのまま英俊おじさんを見失ったんだよな。
「だけど今回はそんなことないぜ」
俺は尻ポケットに入った財布をポンと叩くとマルタイを追いかけ地下へと降りる。
単純な話だ、あの時のミスからICカードを作った。これなら乗り越しなんてミスはなくなるんだからな。
俺が地下の開けたフロアに出るとマルタイはちょうど切符売り場で切符を買おうとしているところだった。
俺は頭上にある行き先運賃の看板を見上げる振りをしながらゆっくりとマルタイに近づく。
マルタイが硬貨を入れボタンを押す。押した場所からして一番近距離、二駅分料金といったところか。本当ならこの映像も撮っておきたかったがそんな時間はなさそうだ。
踵を返し改札へ向かうマルタイの後を尾行しながら俺はスマートフォンのメール画面を開き七年坂さん宛にマルタイが電車で移動する旨を打ち込む。
ホールへの階段を降りるとそこには結構な数の人がいた。時間で言えば学校や会社帰りの人が一気に家路へと向かう、帰宅ラッシュの時間・・・・・・満員電車とまではいかないだろうがこの状況かなり撮影にはきつそうだ。
俺はすぐさまマルタイを見つけるとその斜め後ろに陣取り電車を待っている状態を撮影する。
正直これくらいが限界だ、俺はマルタイの後ろ姿と壁面にある駅名を写った看板を撮り終えるとビデオカメラを鞄にしまい代わりにスマートフォンで電車が来る前に七年坂さんへのメールを作成することにする。
「しかしこういう仕事ならガラケーの方が良かったかもな」
我ながら器用なフリック入力で文章を打ち込みながら思う。朝からたいして使っていないというのに電池の残量がかなり減っている。とりあえず今日一日なら耐えれそうだけどなにか不安になる電池量って奴だ。
『18:42 マルタイS市役所前駅、K町方面行きの電車で一区間移動する模様』
そう打ち込み送信する間にホームには電車到着のベルが鳴り大きな音を立て真っ赤な電車が入ってくる。
来た電車にはかなりの人数が乗っている。S市役所前駅ではそう降りる人はいないだろう、どっと人数が減るのはここから五駅行ったM町だから・・・・・・これは今ホームにいる人間が乗り込むと電車内で身動きはとりにくそうだ。
そう考えて俺はマルタイの後ろに人が並んだのを見てその後ろに並ぶことにした。かなりマルタイに近づいているが人一人を挟んでいるのでそれほど気にしなくても大丈夫だろう。なにせあんまり離れていると見失いかねないからな。
電車の扉が開きぞろぞろと人が出ていき、次にホームにいる人が電車に乗り込む。やはりここで降りる人は少なく、かなりの混雑だ。
電車内に入った瞬間にむわっとした嬉しくない人の熱気が俺の頬を撫でたが気にせず入ってきた扉の横のスペースに陣取る。
マルタイはその斜向かいで帽子を深く被り手に持った携帯電話を触っている。絶好の正面画を撮るチャンスなんだがビデオカメラを取り出す暇もなく他の乗客で俺とマルタイの間は埋まってしまう。
「駆け込み乗車は危険ですのでお止めください。ドア閉まります」
車内のアナウンスとほぼ同時に背後の扉が空気の抜けるような音をあげ閉まる。
ガクンと車内が軽く揺れゆっくりと電車が進みだす。この状況じゃビデオカメラも取り出せないしマルタイの動きを見つつ一旦休憩といったところか、まぁ一区間だからすぐにまた尾行を再開することになるんだろうけど少しだけ落ち着けるのは助かる。
最初は一人で尾行するってことでかなり緊張したがいざやってみるとだいぶ冷静にやれていると思う。あとはきちんとしたマルタイの正面からの映像を撮れれば万事上手くできるはずだ。
そう自分に言い聞かせながらスマートフォンを見るといつのまにか新着メールを知らせるアイコンが煌々と点滅していた。
まぁ悲しいかな俺にメールをくれる人はそう多くない、英俊おじさんか七年坂さんといったところだ。
メールの受信画面を開くと送り主が七年坂さんだということを示している。どうやら電車に乗る前、俺が送ってすぐに返信してくれたようだ。
『おつかれさまです。電車内では無理に撮影をしなくても構いません。ドアの開く方向に気を付けて降りる際先回りできれば一番いいと思います。着いたら連絡ください』
七年坂さんのメールには簡単にそう書かれていた。ん?ドアの開く方向に気を付けて・・・・・・?
「次はN公園、N公園。御出口は左側です」
「あっ・・・・・・」
一瞬何のことを言っているのかわからなかったが車内に響いたアナウンスでどういうことか、すぐにわかることになった。
今俺がいるのは右側の扉前でマルタイがいるのは左側の扉だ。次開くのが左側で、ここでもしマルタイが降りたらこの乗客の量じゃ先に降りるなんて難しい。
そう考えている間に電車はN公園駅に停まり、扉が開くとぞろぞろと乗客が乗り込んでくる。
どうやらマルタイはここで降りなかったがまずいぞ、乗客が増えてさらに身動きとれない感じになってきた。
俺は無い頭をフル回転させて考える。考えるのは勿論、この一区間でどちらの扉が開くかどうかってことだ。
マルタイが買った切符は一区間分、駅で言えば三駅。N公園駅じゃないとB町駅、その次のY町駅のどちらかで降りるはずなんだけど・・・・・・。
いくら考えてもどちらの扉が開くなんて覚えてなかった。この電車は普段から乗っているがそんなことがここで重要になってくるなんて思いもしてなかったからだ。
「次はB町、B町。御出口は左側です」
車内アナウンスが無惨にも次の駅で開く扉が左だと告げている。くそ、こんなにも電車の開く扉どっちかなんてこと気にしているのここで俺だけだろうな。
そんなことを思っているうちに気がつけば電車は速度を落としB町駅のホームへ入っていく。
B町駅のホームはさほど人はいない、恐らくここでは降りる人の方が多いだろう・・・・・・後、問題はマルタイの動きなんだけど。
俺がマルタイの方を見やるとマルタイは最初と変わらず携帯を操作しているだけで「お、この駅で降りるんだった!」みたいな様子は見られない。
とは言え、そもそもマルタイが左側の扉近くにいるということ自体、いつも降りる駅が左側の扉が開くからなんじゃないかと今更ながらに思うわけでぼぅっと吊り広告を見る振りをしながら視界の端にマルタイを入れ様子をうかがう。
「降りる方を御優先ください、ドア開きます」
アナウンスと共に扉が開き、乗客が数人降りていく。
そして肝心のマルタイはというと・・・・・・全くもって微動だにしていなかった。
つまりはマルタイが降りるのは次のY町駅ってことか、こうなりゃ車内アナウンスを聞いていち早く移動しマルタイの正面画を撮るしかない。降りて階段がどっちにあるかはわからないが出口に向かうのは間違いないから降りた瞬間は無理でも先回りは可能だろう。
「この電車はG町方面行きです。次はY町~Y町」
車内アナウンスと共に扉が閉まり再び電車は動き出す。乗客はそれなりに減ったのでこれなら少しは身動きがとれる。
絶対に正面画を撮るという俺は決意は同時にプレッシャーとなってのし掛かってくる。
首筋に冷たい汗が伝い、喉がカラカラに乾いている。なにか飲み物が欲しいが正直七年坂さんにもらったあのカニ汁とかいうもはやジュースでもなんでもないものは飲みたくはない。
「次はY町、御出口は右側になります」
この区間は駅同士の距離がそこまで離れておらず大体二、三分で次の駅に着いてしまう、落ち着こうにもそんな時間はない。
だがマルタイが降りる駅が俺のいる右側の扉が開くってのは幸運だ、逸る気持ちを抑えて俺は肩掛け鞄の中のビデオカメラを電源を入れる。
いつもならこんなにも駅に電車が停まることに緊張することはないだろう。だがその感覚が少しだけ楽しいと感じている自分もいる。これが探偵の仕事をしているという実感なのかもしれない。
「御出口は右側です。お出になる方を優先してください」
電車がY駅に停まり、扉が開くと俺はいち早く電車から跳びだし目の前にあるベンチに座り込みカメラを構える。
完璧だ、鞄の中のビデオカメラのモニターにはきっちり電車から出てくる乗客の顔が映っている。
「後はマルタイが出てくるところを・・・・・・って、あれ?」
モニターには電車の中で相も変わらず携帯電話を操作しているマルタイがいる。
なにしてんだ?早く出てこいよ、そしてストーカー犯の正面画を撮らせてくれ。
そう心の中で願うもそんなことマルタイは気にせず、ずっと電車の中から出てこない。
おかしい、どうなってんだ?
切符は間違いなく一区間だ、これ以上乗ってたら乗り越しだぞ?
切符を間違えて買ったのか?それともわざと乗り越ししているのか?
じゃあなんで?そんなことをする意味がある?
様々な考えが頭を過るがそれも次に聞こえた車内アナウンスですべてかき消された。
「駆け込み乗車はご遠慮ください。ドア閉まります」



揺れる揺れる、電車は揺れる。線路は続くよ、どこまでも。
地下を走っていたときの真っ黒な窓の外とは違う地上の景色、とはいっても外は真っ暗の夜でまばらに家の明かりが流星のように流れて・・・・・・いや、そんなポエムなどうだっていい。
『マルタイ、一区間の切符を買ったのですがなぜか今現在五区間のA町駅まで来ています』
七年坂さんへのメールを打ち終わり送信すると俺は小さく息を吐く。
正直どうしてこうなっているのか自分でもまだ理解ができなかった。
本来一区間最後の駅になるY町駅でマルタイが降りると踏んだのだが何故かマルタイは降りなかった。
理由はわからない。寝過ごしとか携帯電話のゲームに夢中で一駅、二駅乗り過ごすなんてことは俺もよくあるがもう既に降りるべき駅から十駅は離れているのはおかしすぎる。
さっきまでは満員状態だった車内ももう四、五人ほどしかいない。とりあえず席が空いたのでマルタイとはかなり離れたところに座りスマートフォンを見る振りをしながら状況を見守る。
しかしこうなるとマルタイがどこの駅で降りるかわからないので先回りして出てくるところを撮るってのが難しくなった。
そもそも今の俺はY町駅で勢い良く降りたくせにドアが閉まるギリギリで再び乗り込んだ、端から見ればおかしな奴だ。
まぁそんな風に他の乗客に思われるだけなら別にいい。彼等はいずれこの電車から降りてしまいいなくなるんだからな。
ただマルタイに怪しい奴と思われるのだけは危険だ、尾行に支障が出る。
駅につく度に降りてビデオカメラを構えるなんてことは当然できない、くっそY町駅で出てこれば完璧だったのに。
そうこうしていると手に持ったスマートフォンが震えメールの着信を知らせる。七年坂さんからの返信が来たようだ。
『こちらも用事が終わったのでそちらに向かっています。マルタイが降りたら駅名を教えてください』
その文面に少し気持ちは落ち着いた。七年坂さんが来てくれれば鬼に金棒、本当に助かるんだからな。
俺は短く「わかりました、よろしくお願いします」とだけ打ち込んでメールを送信する。
「ん、かなり残量が減ってる」
よくよく見ればスマートフォンの電池残量が半分以下になっているのに気づいた。電車に乗る前はもう少しあったはずなのにこの減りようにはまいってしまうな。
携帯充電器は一応持ってはいるがこれからどれくらい尾行するかわからない、七年坂さんとも連絡を取らないといけないしあまり見てもいられないだろう。
とりあえずスマートフォンの画面を消して鞄の中の電池式の携帯充電器に繋げておくのが一番か。
そう思い鞄の中にスマートフォンを入れようとして・・・・・・ちょうど七年坂さんにもらったプリントが目に入った。
正直見る暇なんて無いだろうと思っていたがなにもしてないのもなんか不自然っぽいので一応目を通してみることにする。
重松香織が七年坂さんに言われて書いた質問要項のプリントには俺がクロを探して貰ったときと同じくやたらとたくさんの質問が並んでいる。
よく行く場所から日頃の登校時間に帰宅時間、友人関係のことから恋愛歴まで、俺にはどれがどう活かしてくるのかわからないがこれも七年坂さんが見れば調査に必要な事項なんだろう。
「ん・・・・・・これは」
その中のでも一つの質問要項が目を引いた。ずばり「あなたはSNSをやっていますか?やっているのならそのサイトを全て記入してください」という質問だ。
それだけは大した質問じゃない、SNSなんて昨今の若い人なら誰しも使っていると言っていいし、こういうところのプロフィールなんかにはどこの学校を卒業してどこに住んでいるなんて個人情報の塊みたいなのが山盛りになっている。ストーカーがそういう情報から重松香織に近づき嫌がらせをしているのではないかという七年坂さんの質問もわかるんだが・・・・・・
それに対しての重松香織の回答した量が半端じゃなく多かった。俺でも聞いたことあるようなサイトから、本当にこんなSNSあるの?ってのまでざっと見ただけでも二十はあるだろうか、ご丁寧にアカウント名まで記載してある。
しかし異常な量を利用しているな、もしかして芸能界になったときのためとかそういうものなんだろうか?
一瞬「どんなこと書いているんだろう」と興味本意でスマートフォンに手が伸びそうになったがすぐに思い止まる。
いかんいかん、遊びでやってるんじゃないんだ・・・・・・集中しないと。

「次はA村駅、A村駅・・・・・・御出口は左側です」
状況が変わったのはそれから更に十駅ほど過ぎた頃だった。
窓の外に見えるホームこそ煌々と灯りで照らされているがその奥は田んぼなのかなんなのか全くの闇夜で見えない・・・・・・ってか今、村とか言ったんだがどこまで来ちゃったんだ俺。
とにかくこの時点になってようやくマルタイが動きを見せた。
携帯電話をしまいこみ扉の方を向く、つまりここで降りるってことだ。
俺は素早く鞄からスマートフォンを取りだし七年坂さんへのメールを打ちながら席を立つ。
本当だったらY町駅のときのように先にホームに出て正面画を撮るってのをやりたいがはっきり言って一度失敗している上に乗客が少なすぎる。
「御出口は左側です。お出になる方を優先してください」
今日だけで何度と集中して聞いたアナウンスと共にドアが開きマルタイがついに電車を降りた。
俺もそれに続いて電車を降り、階段を降り、改札へと向かうマルタイの後ろ数メートルの距離を鞄からビデオカメラを覗かせながらついていく。カメラのモニターにはかなり小さくマルタイが映っている。仕方ない、この駅で降りたのは俺とマルタイだけだから近づきすぎるわけにはいかない・・・・・・
「あ、あれ?」
モニターの中のマルタイは平然とした様子で改札を抜けて外へ出ていくのが映る。マルタイは一区間の切符しか買ってなかったはず、乗り越し精算をしなければ外に出れないはずなんだが
「そういうことか・・・・・・」
自分で改札の前まで来てみて、ようやくなんでマルタイが一区間の切符しか買わないのかがわかった。
自動改札機はあるがマルタイが通っていったのはその脇、しかもここは駅員のいない無人駅、確かにこれなら一区間だけの切符でいいわけか。
とはいえ俺は普通に改札を通ることにする。一応あるICカード式の改札を財布でタッチし切符代数千を支払うとほとんど街灯のない中、A村駅を出た。
およそ数十メートル離れたマルタイは電車の中と同じで携帯を弄りながらフラフラと歩いている。
しかしなんだ、どんな恨みがあってこの人物は重松香織のストーカーをこんな遠くから、しかも帰り道じゃ切符代をケチってまでやる必要があるんだ?
重松香織は「自分がミスコンで優勝したのが原因」ではないかと言ってたがこの状況を見るにもっとこう複雑な事情があるんじゃないかと邪推してしまう。
普通ミスコンで優勝したのを妬んでストーカーすること自体も結構アレな気がするがそれをこんな遠くから、しかも切符代をケチってまでやることなんだろうか?
呑気に前を歩いているマルタイを見ながらそう思う。
しかもやることと言ったら重松香織に付きまとうだけ、なにがしたいかさっぱりわからない。
「・・・・・・まぁ俺も似たようなことしてたけど」
他人からしてみれば不毛に見えるこの行動もやっている本人からしたら突き動かすなにかがあるんだろう。さっぱりわからないとは言ったが俺だって、別れた彼女に会うために二駅もあるところを通ったくらいだしな。
「ん、あそこが家・・・・・・か?」
そんなことを考えている間にマルタイはかなり年代入ったマンションらしきところに入っていく。
俺の過去の話なんて今はどうだっていい、俺はビデオカメラをマンションへ入っていくマルタイの後ろ姿を撮影し、次に『コーポ元町』と書かれた看板を撮ると少しカメラを引いてかなり年代が経っているであろうベージュ色のマンション全体をビデオカメラに収めた。
「よし、あとは部屋の号室を見つければ完璧だな」
ビデオカメラを鞄に戻し、ゆっくりとマンションの中を覗き見る。
エントランスにずらりと並ぶ金属製のポスト、そして奥のエレベーター前にマルタイはいた。
「よし、あそこに階段があるな」
俺はエレベーターの横にあるのを確認し大きく息を吐く。
マルタイの部屋を探しだす方法、パッと思い付いたのは二つの案だ。
一つはマンションの住人の振りをして一緒にエレベーターに乗る方法、これなら絶対に見失うことはない。マルタイが押した降りる階の一つ上を俺が押しておけばそうそう怪しまれることもないだろう、マルタイが降りたあとエレベーターを止めて降りてしまえばいい。
最近は近所付き合いなんてしっかりしている人なんてそうはいないんだ、隣くらいならともかく他の階の人間のことまでそうそうわからないはずだ。最悪話しかけられたら「最近引っ越してきた」で納得するだろうし。
もう一つは今確認した階段を利用する方法、すごく単純な話マルタイがエレベーターに乗ったら一気に階段を駆け上がり、エレベーターが上がるよりも前に先回りする体力的にもしんどい方法だ。
「・・・・・・けどまぁ安全策をとるか」
方法としては前者の方が圧倒的に楽で有効だ。しかし駅でマルタイに俺は散々姿を見られている、万が一のことも考えて後者の方法を取ることにした。
エレベーターの扉が開きマルタイが乗り込んだのを見計らい、ゆっくりと階段に近づく。そしてエレベーターの扉が閉まる寸前に一気に階段を駆け上がる。
「うおっ、きっつ・・・・・・!」
コンクリートの階段は一段、一段がかなり高く駆け上がるのには不向きで膝に負担がかかる。だがここで見失ったらなんの意味もない、自分の体力のなさを呪いながら走る。
「二階・・・・・・じゃない!」
俺が二階に上がったときちょうどエレベーターの表示は二階から三階へ移ったところだった。ったく、誰だよこんな階段設計したのはもっと足腰弱い探偵に優しい造りしろっての。
愚痴りながら階段を駆け上がる。エレベーターの表示的に五階建てのマンションのようだ、よかったこれで十二階まであったりしたら途中でへばりそうだったからな。
「ん、ここか」
三階に上がるとちょうどエレベーターの扉は開いており、そこにマルタイの姿はなかった。俺は恐る恐る廊下を覗き込むとちょうど廊下の一番奥で鍵を手にし扉を開ける瞬間といったマルタイの姿があった。
「ついに家を突き止めたぞ、ストーカーさん」
部屋の中にマルタイが入ったのを確認してから俺は廊下にでると肩掛け鞄の中のビデオカメラを起動させる。
そして横を素通りする振りをしながら、マルタイの部屋の扉と表札を撮影する。
「305号室・・・・・・名前は書いてない、か」
これで名前が書いてあればもっと良かったんだろうが、まぁそれでも俺は一人で尾行を終わらせたという達成感で胸が一杯だった。
「よし、とりあえず後は七年坂さんの指示をあおぐか」
ビデオカメラをしまい代わりにスマートフォンを取り出すとちょうど手に持った瞬間にスマートフォンが鳴り出す。
「うおっ、びっくりさせるなよ・・・・・・」
本当手に取った瞬間だったので思わず変な声が出そうだったじゃないか、画面に表示されているのはメールの着信じゃなくて電話着信、しかも七年坂さんからだ。
「もしもし、お疲れさまです」
俺はとりあえず階段の踊り場まで行くと通話ボタンを押した。
「お疲れさまです秋口さん。何度かメールをしたのですが返答がなかったのでお電話しましたが今どのような状況でしょうか?」
「えっと今、A村駅から東に五分ほど行った『コーポ元町』というところでマルタイが部屋に入ったところです」
「なるほど、ではマルタイの部屋番号はわかりましたか?」
「はい、305号室です。扉と表札は撮りましたが名前は書いてなかったです」
「そうですか。ちょうど私も今そちらについたところですので一旦外に出てください」
「わ、わかりました」
俺が返事をするとプツリと通話が切れる。
なんだろうなぁ、わかってたことだけど一人で尾行をやり遂げたんだからちょっとくらい褒めてくれてもいいような気もするんだけどー
「まぁいいか、ぶっちゃけまだマルタイのことがわかったわけじゃないからな」
俺は軽く息を吐くとスマートフォンをしまい七年坂さんのところへ向かうことにした。



七年坂さんの車は『コーポ元町』の真ん前に停まっていた。
七年坂さんは相変わらずのメイド服なのですぐにわかる。
「お疲れさまです」
「はい、お疲れさまです秋口さん。早速ですが映像の方を確認させてください」
ねぎらいの言葉も早々に手を差しのべる七年坂さんに俺はビデオカメラを手渡すとどっしり助手席に腰を下ろす。
「いやぁ、疲れました」
緊張からくる疲労感に思わずそんな言葉が漏れる。だが七年坂さんはその言葉に反応するわけでもなくじっと俺の映像を確認している。
「あ、あの・・・・・・ちゃんと撮れてますよね?」
あまりの反応のなさにまさか「実は録画ボタン押されてませんでした、てへぺろ」なんてことになってなってるんじゃないかと不安になるんだけど。
「初めて一人で尾行した割りには良く撮れてます。ただ・・・・・・」
「ただ?」
褒められたと思った瞬間の「ただ」ほど怖いものはない。
「正面からの映像が撮れてないのでこのままでは使えませんね」
「や、やっぱりそうですよね」
正面画が撮れていない、そのことは俺も懸念していたところだ。何度かあったチャンスを尽く外してきたからな俺ってば。
「と、いうことなので秋口さん、これを着てください」
そう言って七年坂さんが後部座席から紙袋を出すと俺に手渡す。
「へ?これって」
渡された紙袋の中を覗き込むとそこには俺も見覚えのある某運送会社、白猫宅配便の制服が入っていた。
「私は少し外に出ていますのでそれに着替えてください」
「あの、これってどういう・・・・・・」
「では、御願いします」
俺の言葉に答えることなく七年坂さんは車を降りてしまう。
「いきなり着替えろってなにをするつもりなんだ?」
説明もなく車から降りた七年坂さんは『コーポ元町』の方へと歩いている。
さっぱり七年坂さんの思惑が掴めないがとりあえず着替えるしかなさそうだった。渋々俺は上着を脱ぐとこの白猫宅配便の制服に着替えることにするが袖を通してみて思わず唸ってしまった。
「うわ、サイズぴったりだし・・・・・・どういうことだよ」
クリーニングに出したばかりであろう制服はまるで測ったかのように俺の背丈にピッタリだった。
七年坂さんに服のサイズを教えたことも、そもそも聞かれたこともない。ちょっとしたホラーだ。
「ズボンもピッタリだし・・・・・・なんだ、もしかしてオーナーと俺って背丈が似てるのか?」
どうして白猫宅配便の制服を七年坂さんが持っているのかはわからないが着るとしたら俺が一度も会ったことのないオーナーの物、としか考えられない。
まさかとは思うけど・・・・・・そういうプレイをしているとかじゃないだろうな。
安穏とした昼下がり、宅配人がメイド服姿の七年坂さんに惚れて襲ってしまうみたいな。そんなマンネリカップルの趣向を凝らした興奮の仕方みたいなやつ!
「って、いかんいかんまた妄言を撒き散らすところだった」
「なにを撒き散らすのですか?」
「うわぁ!し、七年坂さんいつのまに」
いつのまにか隣にいる七年坂さんに思わず変な声が出た。あぶねぇ、また七年坂さんの前で妄想を口走るところだった。
「どうやら着替え終わったようですね」
俺の驚きにも一切気を止めず後部座席からお弁当箱サイズの段ボールせいの箱を取り出す。
「もう少しだけ待ってください。すぐに終わらせますから」
そう言いながら七年坂さんは段ボールの箱の上に送り状を乗せると手に持った郵便物を見ながらボールペンでなにかをそこに書き始める。あれ?さっきは郵便物なんて持ってなかったよな?
「その郵便物どうしたんですか?」
「これはマンションから拾ってきました。マルタイの郵便物ですね」
「え、いいんですかそんなことして」
「良いか悪いかで言えば悪いですね」
言葉とは違い淡々と悪びれた様子もなく七年坂さんはペンを走らせている。
「他人の手紙を勝手に開けるのは器物損懐罪ですが、中身を開けているわけではありませんし住所だけ書いたら元に戻しますので問題はないでしょう」
「そ、そういうものなんですかね」
少々煮えきらない言葉を吐いた俺に七年坂さんがこちらを振り向く。
「こう言ってしまうのはあれですが探偵をやると少なからずこうした軽犯罪を犯します。マンションに入れば不法侵入ですし、建物を監視してれば窃視の罪になるなど言い出したら切りがありませんし、気にしないでください」
最後に「無論しない方がいいのは間違いありませんが」と締めて七年坂さんは俺に持っていたダンボールの箱を差し出す。
「それに今からもっと凄いことを秋口さんにはしてもらいますので」
七年坂さんは不適な笑みを浮かべながら「くっくっくっ」と棒読みで呟く。
やばい、なにか知らんが物凄く怖いんですけど。



「本当にやるのか・・・・・・」
俺は今、『コーポ元町』のエレベーターの中にいる。もうすぐ三階だがこれから七年坂さんに言われたことをやると思うと不安で仕方ない。
『宅配便を装ってマルタイの部屋を訪ねてください』
ううっ、宅配便の制服を着させたのはこういうことだったのだ。
しかしこんなことをしてなんになるんだろう、というか七年坂さんはこの作戦について一切なにも教えてもらってないのでどう立ち回ればいいかもよくわからない。
「もしかしてこの荷物の中にカメラがあるとか?」
そう思ってダンボールの箱を揺すってみるも、なんの音もしないしそもそも箱自体が軽い、これ明らかになにも入ってないんだよなぁ。
こんな空箱をマルタイに届けてなんになるんだろう?
「って、もう着いたか」
エレベーターが三階につき、目の前の鉄の扉が開く。
もはや心の準備をしている暇もない、俺はエレベーターを降りるとマルタイの部屋である305号室まで歩を進める。
「ええい、こうなりゃ腹をくくるか」
考えたって仕方ない。俺は息を大きく吐くと305号室のインターフォンを押す。
「はぁい」
呼び出し音が鳴ると共に扉の奥から若い女性の声がしこちらに向かってくる足音が聞こえる。もうどうにでもなれ、多分スーパードライなメイド探偵である七年坂さんにはなにか俺の知りえない考えがあるに違いないんだ。
「すいませぇん、白猫宅配便です」
「あ、はーい。今開けます」
外観もかなり古かったが目の前の鉄製の扉もいたるところに錆が入っており相当年期が入っている。それが錆び付いた音を奏でながら開くとそこから、俺の予想もしてないような人物が姿を表した。
「荷物誰からだろう?」
そんな言葉を呟きながら出てきた女性、これがまたとんでもなく美人さんだった。
黒髪の美しいショートカットに色白できめ細かそうな肌、ぱっちりとした瞳は吸い込まれそうになるくらい美しい。
しかも彼女が着ているのはパーカーにジーンズ姿と、今はキャップこそ被ってないが間違いない、俺がずっと追いかけてきたマルタイ本人だから二重で驚きを隠せなかった。
つまり、この子がミスコンで優勝した重松香織をストーカーしていた本人ってことだろ?
個人的なことを言わせて貰えば重松香織も充分可愛い子だけどこの子の方がなんていうのだろうか持っているオーラが全然違うように感じられる。
「判子ないんでサインでいいですか?」
「あ、はい!御願いします」
マルタイの言葉に一瞬見とれてしまってた自分を戒め、俺は慌てて胸ポケットのボールペンを取ろうと手を伸ばす。
・・・・・・が、ここで俺はもう一つ言われてた、よくわからない七年坂さんの言葉を思い出した。
『絶対に胸ポケットのボールペンは使わないでください』
よくわからないがそんな言葉だ、こっちの理由も教えてもらってないんだが・・・・・・じゃどうすればいいんだボールペンなんて持ってきてないぞ、使うしかないじゃないかこれ。
「あれ?でもこれってうちの荷物じゃなくてお隣さんですよ」
「えっ?」
ボールペンを使うか迷っているとマルタイがそんなことを言い出した。え、どういうことだ?ここの荷物じゃないだって?
「え~あれ、間違っちゃったかな~?」
もしかして七年坂さん間違えた宛先を書いたのか?俺は急な出来事で緊張のあまり少し上ずった声をあげながら送り状を見る。
『山田太郎様宛』
送り状には七年坂さんの達筆でそう書かれている。なんだこの今日日記入例でもみないような適当に作りました感の溢れる名前は!
適当な名前を書くにしてももうちょっとひねろうよ・・・・・・って、そういやさっきマルタイがお隣さんと言ったような?
「と、隣?」
「だから山田太郎さんは隣ですよ、304号室。うちは305号室です」
「あっ、実在するんだ・・・・・・じゃなかった、すいません間違えました!」
「いえいえ、大丈夫ですよ。それでは」
俺が頭を下げると305号室の扉は開けたときと同じように錆び付いた軋み音と共に閉められる。
残ったのは「これどうするんだよ、大失敗じゃないか!」という空虚感だけ。
まさか七年坂さんが宛名を間違えるなんて思っても見なかった。この手はもう使えない、実際隣の山田太郎さんにこの空の荷物を届けたってなんの意味もありゃしないだろう。
これからどうすればいい?むなしさにうちひしがれているとそれを察したかのようにポケットに入れておいたスマートフォンが振動する。
「七年坂さんか、とりあえずどうするか指示をあおぐしかないよな」
こっからどうやって挽回するのか、そもそも挽回できるのかわからないけどな。
「もしもし、七年坂さん?あの、なにか宛名が違うみたいなんですけどこの荷物」
「宛名が違うのはわざとですよ。とりあえず秋口さんはマルタイの顔は確認できましたか?」
宛名はわざと間違えた?どういうことかさっぱりわからない。
「ええ、顔は見ましたが・・・・・・でもほんの少しですよ」
「それで構いませんよ、では戻ってきてください。くれぐれもお隣に荷物を届けないように」
「わかりました」
俺が顔を見ただけなんだが本当にそれでいいんだろうか、釈然としないがこれも七年坂さんの計算済みというのなら俺はもう信じるしかなかった。

「ご苦労様です秋口さん」
「あっ、はい・・・・・・お疲れさまです」
車に戻ってきた俺を七年坂さんは相変わらずの涼しい表情で出迎える。
「あの七年坂さん、本当にあれで良かったんですか?俺はマルタイの顔は見ましたけど別にビデオカメラとかで撮れたわけでもないのに」
そもそも正面画が撮れてないからってことでなにか俺が宅配便の制服を着てマルタイのところを訪ねることになった、それはわかるが肝心の正面画が撮れていないじゃないか。
それこそマルタイの顔は見たよ、見たがそれだけじゃダメなんじゃないか?俺がサイボーグかなんかで眼球がそれこそビデオカメラとかになっているとかなら話はわかるけどさ!
「カメラならそこにありますよ」
そう言って七年坂さんは俺を胸を指差す。どういうことだ、まさか心に刻んだとかそう言うことを言ってるんじゃないよな?
「そのボールペンがビデオカメラになってるんですよ」
「は・・・・・・えええええええっ!?」
そう言われて胸ポケットに入っているボールペンを手に取ってみるがちょっと太いと感じるくらいでこれがビデオカメラと言われても気づかないほどだ。
「クリップの先に小さな穴が開いているでしょう?そこがカメラになっていています」
「うわ、本当だ」
確かにクリップの根本辺りにそれこそ凝視しないとわからない、1mmくらいのカメラレンズがついている。
そうか七年坂さんがボールペンに触るなといっていたのはこれでマルタイの顔を撮るためだったのか。
「これがカメラになってるなら最初から、そうと言ってくれればいいじゃないですか」
「いえ、お伝えすると気負いしてしまうと思いまして」
そう言って七年坂さんは俺からビデオカメラ型ボールペンをひょいと取り上げる。
「画素で言えば大体300万画素、またこの軸を緩めると中には記憶用のメモリーカードと充電用のコネクタがついてます・・・・・・とか言うと秋口さん盛り上がってしまいそうで」
「ま、まぁ確かに凄く興味深いですよ、それ」
まさに探偵の秘密道具って感じの物を見せられて興奮しないわけがない。
「なんというか不躾な質問なんですけどそれっていくらくらいするんですか?」
正直今のところ機材は全部七年坂さんに借りてる物ばかりだ。まず給料が出たら最初は自分のビデオカメラを買うと決めてたんだが、このペン型ビデオカメラはその次に欲しい機材になりそうだ。
「これですか?ネット通販で二千円で買いました」
「に、二千円!?」
このやたらと秘密道具っぽいこれ、たった二千円で買えるの!?それじゃ給料日まで待たなくても今の手持ちですら買えるじゃないか!
「そんなに欲しいのであれば私の家にあるのでこれから寄っていきますか?差し上げますよ、一本くらいでしたら」
「え、いいんで・・・・・・って七年坂さんの家!?」
思いがけない誘いにドキッとしていると七年坂さんが車のエンジンをかける。
「ええ、お話ししたいこともありますしなんでしたら泊まっていってもらってもいいですよ」
「ええええええっ!と、泊まる!?」
まさかの言葉に驚いている間に俺達を乗せた車はゆっくりと動き出す。
七年坂さんの家に泊まる。その言葉だけでさっきまでの尾行調査なんかよりも緊張し胸の鼓動が押さえられない。
七年坂さんの家ってどんな感じなんだろう、やっぱりゆるキャラが好きな七年坂さんだから可愛らしい人形とかが一杯なんだろうか?
それに七年坂さんの私服、更に言えばパジャマ姿とか拝めたりするんだろうか?いやいや、もしかしたら仕事では完璧な七年坂さんだけどプライベートだとだらけたジャージ姿の干物女って可能性も否定できない。
そして仕事終わりに二人でお酒をたしなんで良い雰囲気なんちゃたりして・・・・・・その可能性も否定できない!!
「他のご予定があれば響探偵事務所へお送りしますが?」
「いえ!是非行かせてください七年坂さんの家に!」
もはやペン型ビデオカメラとかどうでもいい、俺は七年坂さんの言葉に食い付くようにして否定する。
「そうですか、では私の家に向かいます」
「はい!御願いします!!」
そうして興奮覚めきらない俺を乗せて車は七年坂さんの家へと向かうのだった。



さて、俺が七年坂さんの家に入っての感想はこの一言だ。
「ここ、事務所じゃないですかぁ!!」
ピンク色の壁紙に至るところに張られたアニメのポスター、もう見慣れてきた鈴鳴探偵事務所。
てっきり俺としては七年坂さんの家でメイクラブな展開が待っていると思ったのに!
「事務所兼私の家です。早速ですが秋口さん、報告書の作成をしましょう」
呆然としている俺の横をスッと通り抜け黒革のソファに腰掛けると七年坂さんはあっさりとそう言う。
「明日の朝には重松香織さんに報告書を渡したいので少し駆け足になりますが報告書の作成の仕方をお教えします」
「あ、はい・・・・・・」
メイクラブなんてものは最初からなかった、あるのはメイク報告書だけってことだ。俺は気を取り直し七年坂さんの隣に座る。
ガラス張りのテーブルにはノートパソコンがあり、画面の中には七年坂さんが途中まで作ったのであろう報告書が表示されている。
「報告書を書くうえで大事なのは時間を正確に記すことと、そしてなにより先入観のない文章を書かなければなりません」
「なるほど……」
先入観のない文章。簡単に言うがどうも俺はつい先入観で物事を見がちだからな、なかなかに難しい話だ。
「と、いうか初歩的な質問なんですけど、これ映像を画像にどうやってしているんです?」
「ビデオカメラの機能にスクリーンショットというのがあります。それを押せばメモリーに画像ファイルが記憶されますのでそれをまとめてパソコンの方へ移動して使ってください。そうですね、一度やってみるのがいいでしょう」
「わかりました、やってみます」
言われるままにビデオカメラのテープを巻き戻し使えそうな映像をビデオカメラ上部に付いているスクリーンショットボタンでメモリーに保存していく。
意外にもこの作業は簡単だ、映像を一時停止してスクリーンショットボタンを押す、それだけの単純作業。
ちょうど報告書は俺が七年坂さんと別れたところまでで止まっている。そこから先は全て俺が撮った映像ってことになるんだけど……これがまた、報告書に使えそうな映像ってのがなかなか撮れていないってことに気付かされる。
映像がブレていたり、マルタイが遠くに映っていて画像にすると誰のことを映しているのかサッパリだったり、報告書前半部分の七年坂さんの撮った画像からすると俺のは相当お粗末なものにしかならない。
だがしかし経過を書いていくのにその時の映像を使わない訳にはいかないから困るな。
「そういえば七年坂さん、マルタイについての情報って少ないけどいいんですか?」
マルタイが地下鉄のホームで待っているシーンをスクリーンショットしながら、ふと俺は思ったことを口にする。
今回の調査でわかったのはマルタイの住んでいる場所とマルタイがやたらと美人だってことくらいだ。名前は……俺は知らないが七年坂さんが郵便物を
ポストから抜いていたからわかるとして他の素性ってのが全くわからない。
「確かに今回の調査でのマルタイの情報は少ないです。情報屋を使えばよりわかるでしょうが、まぁ今回そこまでする必要はないでしょう」
「へぇ情報屋って本当にいるんですね」
情報屋なんて存在が現実にいるなんて思ってなかったから少し驚きだ。情報屋って言うとやっぱりバーとかで飲んだくれているおっさんとかで秘密の言葉を言ったりすると「この情報は高いぜ」みたいな台詞を吐く・・・・・・みたいな、イメージだけど実際の情報屋ってどんな感じなんだろう?。
「情報屋さんならそちらにいますよ」
そう言って七年坂さんは事務所の隅に置かれた少し大きめのファックス機を指さす。
「へ?ファックスが情報屋ってことですか?」
「そうです、基本情報屋さんとはファックスを通じてしかやりとりをしません。と、言いますか探偵事務所を開くとどこからともなくあちら側から情報屋の宣伝が入ってくるのですよ」
「はぁ……つまり情報屋ってのはそこまで知っているってことなんですね」
「秋口さんは個人情報保護法というのはご存じですか?」
「ええ、名前くらいなら」
個人情報保護法、なんとなく名前は聞いたことはあるが正直それが大きな意味を持っているなんてことは思ってもない。
「個人情報保護の関係で」なんてなにかにつけて言われるなぁ、そんな程度だ。
「個人情報保護法が制定されてからというもの、雇用調査や結婚調査などの調査を探偵はやりにくくなったんです」
雇用調査や結婚調査、言うなれば会社が人を雇う時や結婚する相手がどういう人物かを調査する仕事だ。雇用調査なら学歴や今までの仕事はどういったことをしていたかとか、結婚調査ならその人の人柄や交友関係、思想なんかを調査する。
「以前なら他人の戸籍を取得したり車のナンバーだけで所有者の所在を確認したりできたのですがその個人情報保護法ができてからそう簡単にはそういうものが取得できなくなりました。情報屋さんというのはそういうものが必要な時に仕方なく使う、その程度でいいんです」
その口ぶりからしてあまり七年坂さんは情報屋を良く思ってないように思える。
「やっぱり物凄くお金がかかるから、ですか?」
「それもありますが情報屋さんの元の情報というのは言うなれば誰かが故意に流した個人情報です。例えば携帯会社の店員が顧客情報を横流ししたり、学生が卒業アルバム等を情報屋に売ったりしたもの」
「卒業アルバム……」
そう言えば昔、「卒業アルバムを売りませんか」なんて話をインターネットで見たことがある。でも今の卒業アルバムって昔みたいに生徒の住所とかは書いてないんだよな……あ、これももしかして個人情報保護法って奴の関係か。
「マルタイの郵便物の件もありますが、言うなれば情報屋さんの情報というのは殆ど犯罪行為です、なのでどうしてもという場合以外は使わないようにしています。それに今回の調査はそこまで素性を調べずとも最後の画像さえあれば依頼人は納得しますので」
「はぁ、そういうものなんですか」
よくわからないが最後の画像というのはやはりマルタイの正面画のことだろう。素性を調べなくてもいいってことはもしかしてマルタイは重松香織の知り合いなんだろうか?
「兎も角、一度秋口さんで報告書を完成させてみてください。映像は私が見る限り今回撮ったもので足りると思いますので」
「そうですか、まぁやってみますよ」
とにかく自分の出来る範囲でやってみるしかない、七年坂さんも流石に俺の作ったものをいきなり出したりはしないだろう。
どっかの犬っころも言っていた「持っている手札で勝負するしか無い」ってな。



翌日、日も昇りきった頃合いに重松香織は英俊おじさんと共に事務所に現れた。
俺の報告書製作はかなりの困難を極め、深夜遅くまでやっていたので正直眠たさでまだ寝ていたいそんな時間だ。
七年坂さんとのメイクラブ?そんなものは当然ない、というか報告書製作を終えた辺りであまりの睡魔に速攻で寝てしまったからな。
「いやぁ、深雪ちゃんの紅茶はいつ飲んでも美味い!ささ、香織ちゃんも飲んで飲んで」
「はい、本当美味しいですね」
重松香織と英俊おじさんはソファで楽しそうに談笑しながら七年坂さんの淹れた紅茶を飲んでいる。
というかこの二人、妙に仲良くなってるよな・・・・・・昨日のあれからずっと一緒にいたのだろうか?ボディガードってのはわかるが気がつきゃ英俊おじさん“香織ちゃん”とか呼んでるし。
俺はカウンターの奥に腰掛けそんな二人の様子を眺めながら小さなため息をつくとそれに合わせたかのようにどこからともなく白猫のクロがカウンターの上にひょいと飛び上がり「にゃあ」と鳴く。
そうかそうか、クロもそう思うか~英俊おじさんは可愛い子には滅法弱いからな。ボディガードをやるってわかった時点でこうなるのは目に見えていたんだがこう見せつけられると、ちょっと滅入る。
「こちらが報告書になります、ご確認を」
七年坂さんはいつも通り淡々とした口調で重松香織の前に報告書を差し出す。
「はい、それでは確認させてもらいます」
重松香織はそう言うとゆっくりと報告書に目を通していく。七年坂さんが言うにはマルタイの顔写真だけで重松香織は納得すると言っていたが、はてさてどういった反応を見せるのか?
よく見知った人物がストーカーだとしたらかなり心苦しくなるだろうがしょうがない、それが事実なんだから。
「えっ・・・・・・この人がストーカー犯、ですか」
しばらくして最後に貼付されたマルタイの写真を見たのだろう、重松香織はかなり震えた声で七年坂さんに尋ねる。
「はい、貴女もよくご存じの方です。なんでしたらストーカーに強い弁護士を知っているのでご紹介しましょうか?」
「い、いえ!!!!いいですっ!」
冷静な口調で言う七年坂さんの言葉を重松香織はここに来て一番の大声でかき消す。
なにか様子がおかしい。
少し離れたカウンターで見ている俺でもそれはわかった。明らかに重松香織の顔は青ざめ、わなわなと肩を震わせなにかに怯えているようだ。やはりマルタイと重松香織は知り合いなんだろうが、どうにも俺にはそれ以外のなにかがあるように見える。
「そうですか?折角これだけの証拠があるのです、訴えればそれなりにお金を取れる事案だと思いますよ」
七年坂さんは口調こそ、いつもと変わらないけどどこか重松香織を煽ってるようにも聞こえる。
おそらく七年坂さんは全てを知っているんだ。知っていてまるで名探偵が犯人を理詰めで追い詰めていく、そんな感じだ。
「け、結構です、ではもう帰りますので・・・・・・これ依頼料です!」
これから七年坂さんの名推理が見られると思ったら重松香織が捲し立てるような早口でガラス張りのテーブルに依頼料が入った封筒を置くと立ち上がる。
「し、失礼します」
「ちょっと待ってください、い・ら・い・に・んさん」
もうここには居たくないという雰囲気バリバリで踵を返し事務所から出ていこうとする重松香織を七年坂さんは変な呼び方で呼び止める。
「な、なんですか・・・・・・」
“依頼人”と呼ばれた重松香織が振り返るとそれはもう最初事務所に来たときとは同じ人間とは思えないくらいに老けてしまっているように見える。
「お一人で帰られるのは危険です。響さん、依頼人の家までお送りしてもらってよろしいですか?」
「お、おうそうだな!それでは家までお送りしますよ」
重松香織の変わりようになにがなんだかわからないといった感じの英俊おじさんがハッとなって重松香織の傍に寄る。
「・・・・・・っ!失礼します!」
さっきまでどこぞのバカップルかよと思うような接し方をしていた英俊おじさんさえも邪険に扱うような感じで重松香織は事務所を出ていってしまう。
「・・・・・・いったい、どういうことなんですか七年坂さん?」
重松香織と英俊おじさんが事務所から出ていき七年坂さんと二人っきりになったところで俺は思いきって疑問を投げ掛けた。
少なくともあの重松香織の状況はストーカーが誰かわかって安心、一件落着!な感じじゃない、七年坂さんはなにかを知っていてこうなることもわかっていたはずだ。
「もしかして秋口さん、気がついてませんか?」
「気がついて?いや全然わかってないですよ、どういうことなんです?」
俺の言葉に七年坂さんがスッと立ち上がるとカウンターに置いてあるテレビのリモコンを掴む。
「これを見ていただければわかりますよ。本当は依頼人に見せようと思って用意していたのですが」
そう言って七年坂さんは天井からぶら下がっているテレビの電源を入れる。
「テレビがどうしたんで・・・・・・ん?」
なんで急にテレビをつけたのかはわからない。だがそのやっている番組を見て思わず俺は目を疑った。
放送しているのはベテラン司会者のやるお昼のバラエティ番組。サイコロを転がして出たお題でトークを繰り広げるよく知っている番組だ。まだこの時間じゃやっていないからこれは録画か・・・・・・いや、問題はそこではない。
『はぁい、では今日のゲストは噂の新星!重松香織さんです』
司会者の紹介によって小さくお辞儀をする人物、その人物に見覚えがあった。
いや、でも違うんだ・・・・・・テレビに映っているのは俺の知っている重松香織じゃない。茶髪のゆるふわカールじゃなくて黒髪のショートカット、これは紛れもない俺が尾行していたマルタイじゃないか。
「これマルタイじゃないですか、あれ?でも重松香織って」
「そうですね、彼女がマルタイであり、本物の重松香織です」
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
突然の事に思わず変な声が出た。
本物の重松香織ってどういうことだ?やばい、なにがなんだかわからなくなってきてるぞ。
『それじゃ早速、サイコロころがしてみよぉーかぁー!』
『はい、じゃいきます!』
俺が混乱している間にも番組は続いていく。ちょうどマルタイであり、七年坂さんの言う本物の重松香織がトークテーマになるサイコロを振っているところだ。
『にゃにがでるかな~にゃにがでるかな!「最近ビックリした話」!略して、はい!』
『ビックリたまげた、門左衛門!!』
『略されてないがな!!』
ベテラン司会者の音頭で観客が一斉に叫び、番組が盛り上がっている。
『はい、じゃ~重松香織ちゃん。最近びっくりした話ってあるかな?』
『そうですね~、私はSNSとか全くやってないんですけど最近ファンの方に握手会とかでよく「フォローしました!」とか言われるんですよ』
「えっ・・・・・・?」
偽物の?重松香織、いや紛らわしいから依頼人と呼ぼう。彼女は七年坂さんの質問要項にこれでもかってくらいSNSをやっていることを書いていたはずだ。
『それで気になって調べてみたらどうやら私のなりすましがいるみたいで色んなサイトで私を演じてるみたいなんですよ』
『ええっ!?実は僕もフォローしてますけどあれ君じゃないの!?』
『違いますよ~私の家貧乏ですからパソコンもないですし、未だに携帯電話とか物凄く古いの使ってるんですからぁ』
楽しそうにテレビの中の重松香織は話している。と、いうことは今回の依頼人は偽物で本物の重松香織のなりすましをしていたってことか。
『それで実はそのなりすましをしている子の後をこの前つけてみたんですよ』
『ええっ!?それはまた危ないことするねぇ~』
そこまで司会者が喋っていたところでこれ以上は見る必要がないと判断したのか七年坂さんはテレビの電源を落とす。
「つまりこういうことだったというわけです、わかりましたか秋口さん」
「は、はぁ……」
七年坂さんは人差し指を立て軽く微笑み言う。
が、あまりに予想外の展開に俺はどう答えればいいか言葉を見失っていた。
あの依頼人の報告書を見ての慌てようはストーカーだと思っていた人物がまさかの重松香織本人だったからということか。
しかしなんであの依頼人はなりすましなんてしていたんだろう?
SNSで人気者になりたかったからか?
でもそんななりすましで人気を得たところでそれは彼女本人の人気ではないことくらい彼女自身もわかってるだろうに。
流石に重松香織本人にバレてしまったらこれ以上なりすましを続けるわけにはいかない、今彼女はなにを考えているのか……いや悲しくなってきたのでこれ以上考えるのはやめておこう。





《 探偵に推理はいらない2 了 》





【 あとがき 】
珍しく真面目な後書き

私が探偵になったのは毎回トルコ風呂に行く探偵物語に憧れたり、おっちゃんの首に麻酔針を撃って殺人犯を捕まえたい、みたいなそういう理由ではないのです。
あんまり言いたくはなかったけどこの作品を書くにあたってはっきりとさせておきたかたったこと、私は警察がとりあってくれないような小さな事件、それを探偵として解決したかったのです。
この作品の冒頭にあったような『桶川ストーカー殺人事件』のような理不尽な事件をこれ以上起こしたくなかった。
探偵は警察と違って高額な金額で仕事を請け負う、これは本当のことで要件が要件ならばそれ相応の金額を積むことになる。
ただしっかりした探偵ならその金額を受けた以上働く、ずぼらな警察とは違いいい加減な対応はしない。


・・・・・・だがね、現実はそうではなかった
自分は無力だったんだ
簡潔に言ってしまうと探偵ってのは裏でその闇稼業と密接だった。
利益のためには事実をねじ曲げる、闇稼業の不利になる事実はねじ曲げ隠蔽する便利屋そういう職業だったんだ
んまぁ、これは私のところだけ特別そうだった・・・・・・のかもしれないけどね。
そんな奴等に使われる、そーゆーのが嫌で、そんなわけで私は探偵を辞めた。
そんな歪んだ状況に「この業界を変えてやるぜ」なんて立ち向かえるほど自分は強くなかったのです。
どこかに正義がほしかった。なんていうか探偵というのに正義だけを見つめる孤高のヒーローを見ていたのかもしれない。
そんなわけで今、私はただの自称物書き界の屑である。
あ、たまにヘボ探偵とか言われる。
ん、まぁ理想の探偵になれなかったんだからヘボ探偵と言われてもしょうがないだろう。
今はただのメイド好き、はぁーメイドさんに耳元で囁かれたいわぁ、と思う次第ですよ

【 その他私信 】
※本来ここで七年坂深雪の「じっちゃんの名にかけてズバッと参上、ズバッと解決!真実はいつもひとつで全部まるっとお見通しだ!!」コーナーを予定していましたがなにか気がのらないので番組を変更してキュー◯ー◯分クッキングをお送りします

多分美味しくない、蟹汁ジュースのつくりかた


───今回作っていただくのは某所で超有名な超絶美少女、北条政子さんですっ!!

「はいはぁ~い、そろそろ罰ゲームに青汁を飲むのも飽きてきた時期ですね!」

─── どんな時期だよ

「ではでは早速作っていきたいと思います!今日作るのはテキストでいうと26ページだよ!」

───そんなテキストはない

「材料はカニカマ適当、蟹酢好きなだけ、ソーダ水は入れたいだけ用意してね!」

───おおざっぱすぎますね、というか蟹入ってない

「んでんで、ミキサーの中にこれらの食材を全部投入!そして混ぜ混ぜしまーす!」

───うわぁ・・・・・・

「ここでワンポイントアドバイスっ!あんまりカニカマの形をあまり崩しすぎないようにすること!食感を残すことが大事なのよ~なのよったらなのよぉ~」

─── いらんアドバイスですね~

「よぉく混ざったらグラスに移して、最後にミントの葉をちょこんと乗っければでっきあがりぃ!」

───ちょっと見た目良くしましたね

「さてはてぇ~私がここで心配なのは実際作ってみた人が『これ意外と美味いじゃん!政子ちゃんの嘘つき!』ってなることだね!」

───安心しろ、誰も作らねぇよ

【 お題当てクイズ回答 】
しらんよ、わしゃしらん。知ってるけど知らん


べ、べつに好きで書いてるわけじゃないんだからね!  氷桜夕雅
http://maid3a.blog.shinobi.jp/

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