Mistery Circle

2017-08

《 星々が尽きても僕らは 》 - 2012.07.14 Sat

《 星々が尽きても僕らは 》

 著者:幸坂かゆり







昨夜、同級生の佐藤雪乃から電話があった。転校すると言う。
「明日、みんなの前で話すけど、友也には先に言っておくね」
突然の告白に僕は戸惑った。雪乃と僕、友也は中学2年生になったばかりだったが1年の時から僕と雪乃は打ち明けていないだけで恋人同士のような距離でいた。それはクラスで知らない者がいないほど自然な接近だったので、もはやからかわれることもなかった。なので、今日雪乃の転校を知らされた級友はみんな僕の方を見ては心配して気遣ってくれた。肝心の雪乃は、と言うと、下を向いていて髪が顔を覆い、表情が見えなかった。

放課後、僕らは学校を出てふたりきりで並んで歩いた。
「突然だったの」
「なんで?事前に話してくれなかったの?」
「うん。まるっきりなし。びっくりよ。置き去りにされたみたいよ、気持ちが」
雪乃は空洞のような目をして、遠くの空を眺めながら言った。
「酷いな。少しくらい子供の生活も考慮して欲しいよな」
子供、という言葉にちらりとこちらを向き、反応した後、雪乃は言った。
「ねえ、友也。あたし達付き合ってるって言っていいのかな」
「えっ」
突然の雪乃の言葉に僕は動揺した。
けれど雪乃が問いかける気持ちも尤もだ。雪乃の存在は単なる知り合いがいなくなるだけの気持ちでは済まない。なのになぜ何も言葉にせず時間をやり過ごしていたのだろう。
「うん。ずっと言葉にしないままになってたよな。僕は雪乃がずっと好きだった」
「嬉しい、あたしも。残念だな、こんなことがあってやっと打ち明け合うなんてね」
僕は雪乃の手をとって握った。雪乃も強く握り返してきた。
ずっと隣にいたことに慣れていて、いなくなるなんて考えたこともなかった。そんな気持ちは卒業の時にやってくるものだろうと呑気に考えていた。
「友也、今日一日一緒にいてくれるかなあ」
「えっ」
雪乃は吹き出した。
「さっきから、驚いてばっかりだよ」
「そりゃそうだけど、でもそんな重要な言葉に即座に返事なんてできないからさ」
「…そういう意味にとってくれた?」
「も、もちろん」
しまった。顔が赤くなっていく。ちくしょう。仕方ないんだ。経験がないんだから。
「ね。今日ホテル行こうよ」
「いいのか?」
「うん。何もしない方が後悔する」
そう言うと雪乃は僕の肩に頭をくっつけてきた。
「よし、アリバイ作るか」
「うん」
さっそく僕らは携帯電話を取り出し、友人に電話をかけた。そういう訳で、夜に家を出る計画のために僕らの愛すべく友人はアリバイ役を快く引き受けてくれた。

僕らは一端家に戻り、私服に着替えて会うことにした。
待ち合わせ場所の書店に入ると、既に雪乃がいて文庫本を手にしていた。髪を下ろし、白いシャツの上にエンジ色のカーディガンを羽織り、制服より丈の長いスカートを纏っていた。何よりも僕の目に眩く映ったのは艶を抑えた赤い口紅の色だった。濃く描かれた輪郭は雪乃の横顔を大人の女に見せていて、どきどきした。ある程度、フォーマルに装えば僕達は簡単に成人して見せることができる。特に女の子は化粧をすれば、簡単に僕よりも年上に見えてしまう。僕も白いシャツを着て、上にジャケットを羽織っていたが、何となく照れて伊達眼鏡もかけてきた。そして靴もスニーカーではなく少しでも大人に見えるような、落ち着いた色のものを履いてきた。
「早かったんだな」
僕は雪乃の横に並んだ。
「あ、何だか違うね」
「お互い様」
僕らは微笑み合う。
「飯、食った?」
「うん」
「何か飲む?」
「ううん。今日は泊まってもいいんだよね」
「もちろん」
「じゃあ、ホテルにも飲み物とかあるみたいだし、そこで飲もうよ。実は踵の高い靴、慣れなくて今すごく足が痛いの」
そう言って顔をしかめる雪乃を僕はとても可愛く思った。

僕らは書店を出て歩いた。誰が見ても普通のカップルだ。だから少しだけ遅い時間にこうして歩いていても好奇の目でみられることもなかった。さすがにラブホテルが見えてきた時だけ、人目を避けるようにはしたが。慣れないまま部屋を選んで、恐々エレベーターに乗り込み、無言のまま部屋を探した。部屋を見つけると急いでドアを開け、体を滑り込ませ、すぐに鍵をかけた。鍵のかかる音が聞こえた瞬間、僕らは堪えきれず笑い出した。
「何だか、あたし達、どこか危ないところから逃げてきたみたい」
雪乃はそういってまた笑う。
「そうだよ。逃げてきたんだよ、きっと」
僕と雪乃は親しい笑顔で見つめ合い、狭い靴脱ぎの中で初めてキスをした。

とりあえず上着を脱ぎ、雪乃はベッドに、僕は向かいのソファーに、互いに座った。雪乃はベッドの上で踝の辺りを気にしていた。
「普段ぺたんこの靴しか履かないから、じんじんする」
「大丈夫か?」
「うん。靴擦れはしてないみたい」
僕らはティーバッグの紅茶とインスタントコーヒーにポットの湯を入れた。飲み物を飲みながら軽いお喋りを楽しんだ。

ふとベッドの脇においてある時計を見た。
あっという間に午前を回っている。
「雪乃」
「ん?」
「いつ、転校するの」
今まで絶やさなかった微笑が一瞬、雪乃の顔から消えた。
「一週間後…」
僕は思わず早口になる。
「そんなに早く?雪乃のうち、何かあったのか?」
「家が、なくなるの。借金がすごくあるんだって。家を担保にしたから、それで」
「じゃ、どこに住むの?」
「人里離れた場所だって。転校とは言ったけど、高校には行けないかもしれない」
僕は怒りで頭に血が上った。何て勝手な大人たちだろう。雪乃には無関係のことで悩ませて。僕らの物理的な距離まで引き裂いて。
「友也、怒ってくれてる。ありがと」
「だって全然、雪乃にはどうすることもできない理由なのに…」
「友也、来て」
僕が怒りの言葉を言い終わらない内に、雪乃は思いがけない力で僕の手を引っ張った。
僕は体勢を崩し、ベッドの上にうつ伏せに倒れこんだ。慌てて体を起こそうとすると雪乃に体を押された。さすがに柔らかなベッドの上では不可抗力のため、僕は簡単に押し倒されてしまった。そんな不甲斐ない僕の腰の上に雪乃はまたいで膝を立てたまま、僕を見下ろした。その顔は、息を呑むほど美しかった。同い年の僕が言うのもおかしいけれど、雪乃の肌は若さに溢れていた。けれど表情は誘うような類ではなく、ただ僕を静かに見つめていた。雪乃はカーディガンを脱ぎ、シャツのボタンを外し、胸を開いて、僕の手を掴み、そこに引き寄せた。丸いふたつのふくらみは柔らかくて暖かかった。雪乃は僕のシャツのボタンを外しにかかったけれど、手が震えていてどうにも外せなかった。すると焦れたのか、一気に引き剥がすように両側にシャツを引っ張ったのでシャツのボタンが飛んでしまった。当然、雪乃も僕も驚いたし、思いがけず自分の裸の胸元が露わになり、いくら男でも少々恥ずかしくなった。雪乃が目と鼻の先にいて、しかも見下ろされているのだから。
「ごめんね。野蛮で」
雪乃の言葉に僕は少し笑った。
「野蛮で、いいよ」
「続けていい?」
「うん」
おかしな会話だ。
「あ、ごめん」
雪乃はもう一度謝った。
どうやらシャツを強くはだけた際に彼女の爪が当たり、僕の皮膚を傷つけたらしい。見ると、猫が引っかいたような傷に血が滲んでいた。
「気にしなくていいよ」
「本当にごめんね」
そう言いながら雪乃はできたばかりの僕の胸の傷に唇を寄せ、その舌で舐めた。瞬時にうっすらと声が出た。くすぐったいのとぞくぞくするのが同時だったせいで。
「きっと後で痛くなっちゃうと思う。ごめんね」
そう言いながらしばらく僕の傷を消毒するように舐めた。
痛いの痛いの飛んでいけ。そんなおまじないのように。僕は雪乃の赤い唇の色だけを見ていた。

しばらくして僕は体勢を変え、雪乃を下にした。シーツの上に長い髪が広がる。頬は紅潮していた。
「ゆっくりしよう」
僕は言って、今までの距離を埋めるようにキスを何度も交わし、ゆっくりと互いの体を愛撫し合った。すべすべとした滑らかな皮膚。
「こんなに気持ちいい手触り、今まで知らなかったな」
「あたしも」
「僕の体はどんな感じ?」
「うーん。硬いとも違う。感触が違うっていうか」
互いの体のでこぼこを僕らは何度も撫でる。もしも触れた場所に色がつくのなら、彩色されない場所なんて1ミリも見つからないと思うほどに。
首筋へのキスはくすぐったかったけれど、段々と体が熱くなってきた。雪乃の唇からは口紅の匂いが香水のように漂い、心地良く体に溶けて行った。


「本なんかで読むほど痛くなかったな」
僕の隣で雪乃が呟く。
「良かった。僕は怖かったよ。雪乃が痛くて泣くんじゃないかと思って。まあ、それも本とかの知識でしかないんだけど。それと、僕はちょっとだけ痛かった」
「え、本当?」
「うん。何か興奮し過ぎたのかな…。あそこがひりひりする」
「うふふ」
もちろん、まったく痛みがなかった訳じゃないが、それでも痛みに慣れてくると同時に違う感触になった、と雪乃は言う。
「なんだろうな。痛いんだけど友也をぎゅっと抱き込んじゃってるような感じ。手を繋ぐとか抱きつくような感じでは表現できないくらい深いの」
「ありがとな。僕も雪乃の中に入れるか不安だったんだけど、ゆっくりでも入った時、ふっと包まれた感じだった」
雪乃は僕に抱きつく。
「良かった。相手が友也で本当に良かった」
いとおしい。心から思う。けれど、もう僕らは少しだけ先を見ていた。
どんなに大人から見れば僕らが子供でも、恋慕や刹那さという感情は成長しているのだ。
現在大人である親にもそんな時代があっただろうから決してバカにはできないだろう。異性と二人で連れ立ってどこかへ行くことをデートと定義するという話は他でもない両親から聞いた話なのだから。もしもそういうロマンティシズムが磨り減ってしまい、愚鈍になっていくのなら僕は大人になることをやめたい。軽蔑して勝手に隠遁生活でも送りたいと思うのだ。育っていく体とは裏腹に。

「さっきの傷、どんなふうになってる?」
思い出したように雪乃が言ったので僕は雪乃によく見えるように体を移動させ、胸元を見せた。
「ああ、赤く腫れてる。痛そう」
「雪乃が舐めてくれたから平気だよ」
「きっと、かさぶたになって、剥がれて終わりね」
「じゃあ、無理矢理剥がすからそのたびに舐めてくれよ」
「そうさせてくれる?」
「もちろん」
雪乃は笑おうとして、口元が歪んだ。そんな顔を見ると悲しくなる。嘘じゃないから。僕は、本当にこの傷を一生治さないでいようと思った。この体の一部分だけ、永遠に雪乃にあげようと思ったのだ。





《 星々が尽きても僕らは 了 》





【 あとがき 】
急遽、提出することにしました。
予定にはなかったので、締め切りは大いに破らせていただきました!
我ながら、甘酸っぱい恋物語を書いてしまったな、と赤面しつつ、
何となく中学2年生の気持ちがしっくり来たので、
こういうのもたまにはいいんじゃないかな、と思いました。
そして次へ進んで、今度はもう少し濃厚な感じの恋愛もまた書けたらいいな。
も少し経験が欲しいな、とか言って(笑)

今年は私比でかなり投稿率が高い一年だったと思います。
来年も今年より更に進んで行きたい。
自費出版なども考えております。口だけにはしたくないので、
これからもますますがんばって参ります。
今年もどうもありがとうございました。
来年、未年もどうぞよろしくお願いします。メヘヘヘー モフモフ

幸坂かゆり

【 その他私信 】
若干一名の管理人さま、
お好みのエロが出せず申し訳ございません。
こんな時もあるさ。


kayuri Yukisaka Website 幸坂かゆり
http://adrianalimabean.web.fc2.com/

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