Mistery Circle

2017-05

《 花影潜む影踏みの鬼の 》 - 2012.07.15 Sun

《《 2014 オススメMC ☆☆☆☆☆☆☆ 星七つ作品 》》

Anniversary Mistery Circle Vol. 50掲載 

《 花影潜む影踏みの鬼の 》

 著者:田川未明




mimei1.jpg




――「ああ――」ふたりのくちからどうじにためいきがもれた。

霧散するためいきふたつ霞みの空を濁し濁して木の芽どき

――読み終えた本を閉じまぶた閉じた父は錆びたベンチに横たわり寝息をたてるそのからだに舞い落ち降り散る白い花びら積もる積もる花も積もれば山となる。やわやわとした土から芽吹く草はするすると触手を伸ばし素足をくすぐりあたしは思わず声をたて笑うけれど応える者は誰もいない。

起きて起きて父さんおきてやぶりな死んだふりにはもう飽き飽きよ

踏もうに踏めないひとり影踏み鬼さん募集手のなるほうへ

つぼみぷっくりなまじろくなまぬるくなまぐさくひとはみななまもの

本を抱いて眠る父の鼻孔をさくらさくら塞いでおしまい

西日浴む父さんの影踏むまでは帰らないからねあの家にはもう


――あの家。たしかにあの家にも良い思い出はありました。大切なひとたちと暮らしていました。

悪い子は金魚喰わすぞそれだけは堪忍してと姉は聖女に

姉さんの太ももに唇のかたちの痣があるのは内緒

特大の爪切りねだり有刺鉄線のとげ切り取る弟

有刺鉄線のとげとげにテッセンの花生ける祖母は師範代

塞いでしまえば楽になる目耳口鼻てのひら当てがい母は

母は回すくるくるんスワトウの日傘てっぺんに百舌を串刺しにして

豆腐のかどに頭うずめて息絶えてはや三十年の祖父

弟の小指ちいさな生爪からころ花咲く万華鏡


――ええ。万華鏡のような家でした。くるくるくるくる気分も変わり泣いて笑って怒って蹴って刺して剥がして転がる石に苔は生えない。苔のむすまで待てはしない。とばかりに新たな有刺鉄線を求めて旅立つ弟に付き添う祖母は今もまだどこかで存命。母は母で百舌を探しに祖父の墓まで嘘をつくなら墓場まで行ったきり戻らない。定職ももたず見放され残された父が始めたのが定食屋だなんてちゃんちゃらおかしいとはいうもののあたしは追いていきました愛しい父の影踏みながら。

椅子八つテーブルふたつ空っぽの鳥籠ひとつだあれもいない

うつくしい名前だったから買ってきた飼ってもいいでしょう閑古鳥

鳴きもせず唄うでもなく秘やかにまばたきするだけで閑古鳥

ひとり減り三人帰ってうすうすと気づいていましたお終いの日

鴨居から下がるひとがた縄揺れてもう起きちゃいかがとかっこうが


――時を遡り遡りしながら鉄棒でひとりきり逆のぼりするうちに辺りをぬくめていた春の陽も翳り風も冷ややかでこの薄情者。起きて起きて父さん掟破りの人さらいがやってくるから。

日暮れるとどこからともなく人さらいさわられてさらわれて今ここ

さらわれてサーカスに売られるはずがどこにいっても「まにあってます」

売れ残り返品されて置き去られ只今電車が遅れております

さっきまでそこにいました白線の内側にいました靴揃え

電車とホームのあいだが酷く泣いておりますのでお気をつけ下さい


――ただいま父さん只今戻りましたがあれからどれだけ経ったのでしょう。一年も二年も過ぎたようなのに何も変わらずまだ日暮れ前さくらさくら降り積もりあたしはいくつになったのか問うても応えるものは誰もいない。押し黙ったままいのちの精を撒き散らす草花みどり虫けら小鳥。

昔の鳥とかいて鵲の巣に還るひなは過去からの使者 *

桜の葉さくら餅のにほいして鶯はうぐいす餅のにほい

かたばみの小さき花束こしらえて塞ぐ蟻の巣に幸あらん

つくしの如く砂場にのきのき生えゆく小指中指薬指  
――あ。あれは弟の……。


――ぱかりとまぶた開きやおら立ちあがり踏み出す父の足元に影はなく待って待って父さん待って待てどくらせど来ぬ人はいつまで待っても来やしない。すがるあたしの影も失せ花影潜む影踏みの鬼の目にも涙。散りてはつぼみふくらんで咲いては散りて降りしきる花びら絶えることなく影なきふたりに散りつもる。誰も来ないみんないないここから先はふたりきり。「冗談はよせ」「冗談じゃありません。だって――こっちの人じゃないでしょう」

あちらとこちらないまぜに桜さくらんとわに暮れぬ春ひと日





mimei2.jpg





《 花影潜む影踏みの鬼の 了 》





*鵲=かささぎ

【 作者コメント 】
短歌や俳句のような「短詩」に惹かれるようになったのは、写真を撮るようになってから、かもしれない。切り取った一場面に何かしらの物語が潜んでいる。カメラを構えたとき(ただのヘタの横好きだけど)、そんな写真が撮りたいと思う。この写真好きだな、と思うのも、そういう1枚であることが多い。それは短詩にもいえることで、五七五、あるいは三十一文字の中に物語が見えると、どきっとする。ひとつ読むごとに、わくわくする。
とはいえ、読むのと詠むのは大違い。短歌はじめました、なんて堂々と言えるほどの気概も勇気もなく、でも短詩のようなもの、なら書けるかも。短詩で物語を紡いだら面白いかも。という思いはずっとあって。この50回記念は小説でも詩でも写真でもなんでもOKということだったんで、まさに千載一遇、渡りに船、地獄に仏(違う)、一寸の虫にも五分の魂(ますます違う)、ということでこんな形態になりました。
が、こんなんでほんとによかったんかいな、という思いもあってひとりこっそりイジイジしていたというのに、まさかのオススメ賞。びっくりです。うれしいです。図に乗ってこれからもまたこつこつ書いてみようかと思ったりしています。本当にありがとうございました。


田川ミメイOfficiaWebsite mi:media  田川ミメイ
http://mimei-info.jimdo.com/

● COMMENT ●


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック:

http://misterycirclenovels.blog.fc2.com/tb.php/329-ac81fc25
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

《 一夜、廻る街 》 «  | BLOG TOP |  » 《 花咲く庭 鳥啼く森 》

プロフィール

MC運営委員会

Author:MC運営委員会
このブログの八割は、カボチャで構成されております。

カテゴリ

Mistery Circle(メインカテゴリ) (37)
寸評 (27)
MCルール説明 (1)
お知らせ (34)
参加受付 (21)
出題 (32)
メールフォーム (3)
内藤クンのおもちゃの部屋 (8)
天野さんの秘密の部屋 (8)
Ms.伍長の黙示録の部屋 (0)
伊闇かなでの開かずの部屋 (4)
未分類 (26)
亞季 (2)
いつき (1)
伊闇かなで (2)
空蝉八尋 (4)
黒猫ルドラ (10)
ココット固いの助 (20)
桜井 (1)
桜朔夜 (1)
鎖衝 (11)
知 (21)
しどー (10)
瞬 (3)
白乙 (12)
すぅ (13)
すずはらなずな (27)
田川ミメイ (2)
辻マリ (14)
夏海 (3)
七穂 (1)
氷桜夕雅 (28)
ひとみん (4)
松永夏馬 (12)
望月 (8)
幸坂かゆり (19)
李九龍 (12)
りん (3)
ろく (1)
Clown (12)
MOJO (1)
pink sand (9)
rudo (8)
×丸 (3)
MC参加者に聞け (7)
Mistery Circle ヒストリー (1)

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

検索フォーム