Mistery Circle

2017-05

《 不揃いの木彫り人形 》 - 2012.07.16 Mon

《 不揃いの木彫り人形 》(一本目)

 著者:氷桜夕雅








『石には既に掘られるべき形が眠っている』
そんな言葉をどこかの本で読んだことがある。
それは木にも当てはまるのか?
時折私、ベレンスはそんなことを思いながら小刀で握り木彫り人形を作ってた。
この疑問は長年木彫りをしてきたが一生、答えにはたどり着かないだろう。
私はこの街で生まれ、この街で育ち、物心ついたときには既に小刀を握り、一日たりとも木彫り人形を作らなかった日はない。
父が死んだ日も、母が死んだ日も、晴れの日も、雨の日も彫ることをやめなかった。
一人になって町外れに店とは名ばかりの場所を借りた頃には私の目には木彫り人形しか映っておらず、ますます私は木彫り人形に魅入られていた。
私の青春時代は全て木彫り人形に費やし、気がつけば木を握る小さかった手も皺だらけになり、小刀を握る小さな手も皺だらけ五十年と言う月日はあっという間だった。
生活のためにたまに人に依頼された作品を彫り、売ることもあるのだけども基本は私の好きなように木を彫るのがとてもたまらなく好きでした。
私は木彫り人形を作ること、それだけしかできない。
だがそれで良いと思っていた。
私があとどれくらい生きていられるのかはわからないが、それで一生を終えても構わないと思っていた。
あの子、フューシャに出会うまでは……。


小刀を木に押し当て力を入れ木を削る。最初は力強く、大きく削り、おおまかな形を作り出してから今度はそっと撫でるようにして小刀を滑らす。
シュッシュッと乾いた音が部屋に響き削り屑が辺りに散らばる。
「……後で片付けないと」
足元に落ちた木屑を見ながら思わず呟く。綺麗に磨かれた木の床は先程削った木屑だけが転がっている。
以前は違った。そこら中に木屑がまるで大雪の後のように積もり私の黒皮のブーツは見えなくなるのが当たり前、木屑がブーツの中に入り込み、ベッドに向かおうと歩き出した時にそれを踏んで怪我をするなんてのは日常茶飯事だった。
───フューシャと会うまでは
「もう少しか・・・・・・?」
つい手を止めて時計を見てしまう。フューシャと出会うまでは時計など見たこともなかった。
「これが恋と言うものなのだろうか?」
誰もいない部屋でポツリと呟く。だが自分でもその言葉は実に滑稽で馬鹿馬鹿しく聞こえてしまう。
それが若い子供の頃であったのならどんなによかっただろう、もはやいい年をした私がするようなものではないことがくらい自分でもよくわかっていた。
だが生まれてこの方結婚はおろか恋人だっていたことがない私だ、その感情をどうやって処理すればいいのかわからない。
そんなことを思っていると扉をノックする音が鳴り、私が声を出すよりも前に一人の女性が店の中へと入ってくる。
「おはようございます」
「ああ、おはようフューシャ」
私は顔をあげてフューシャの姿を捉えるとすぐに目線を戻し小さく呟く。
いつだってフューシャは美しい。長いブロンドの髪に質素なワンピース……まだ十五、六歳だというのにどこか大人びていている彼女に私は目を合わせることもできない。
彼女が私の所に木彫りを学びに来たのは今より半年ほど前の事だっただろうか?
別に私の店は看板を出しているわけでもないのだが窓際に置いていた木彫り人形、それに興味を持って店に来たのが初めてだった。
それは私が物覚えついた頃に作った両親のイメージした人形。まだ上手く作れなかった頃の木彫り人形で大きさもバラバラ、形も歪で辛うじて手を握りあっている夫婦とわかるくらいの、とても売り物呼べるものではない。
だがフューシャは人形が売り物でないとわかると今度は私から木彫りを学びたいと言い出した・・・・・・それがきっかけ。
そんなことを言われたのは初めてで正直どうしていいかわからなかったが彼女が熱心に私の作品について語るのでほぼ押し切られるようにして木彫りを教えることになった。
「今日も宜しくお願いします、ベレンス先生」
フューシャは慣れた感じで私の前に椅子を置くと木片と小刀を手に微笑む。
その指には幾つもの包帯が巻かれている。
言ってしまえば彼女は不器用なのだ。彼女はここに来るまで小刀を持ったこともなかった、だからフューシャがどこかのお嬢様なのだとしたら私のせいで傷物にしてしまったようなものだと邪推してしまう。
「……っ!?」
そんなことを思っていると人差し指を小刀が掠めじわりと指に血が滲み痛みが走る。
「ベレンス先生!?だ、大丈夫ですか!?」
「あ、ああ……なに大丈夫だよ、ちょっと呆けていた」
フューシャのことを考えいたなんて口が裂けても言うことなんてできない。
「ちょっと薬箱を取ってくるよ」
「あっ、ベレンス先生ちょっと待ってください」
立ち上がろうとしたところに不意にフューシャが私の手を掴む。
「えっ……!?」
思わず声が漏れた。何を思ったのか次の瞬間、フューシャは私の指を口に咥えたのだ。
指先に感じる口内の暖かさと舌先で傷口を舐められる感覚に私は自分の心臓が張り裂けてしまうのではないかというほど血の滾りを感じぬにはいられなかった。
それは永遠に続くのではないかという時間。
「ベレンス先生でも怪我することあるんですね。すこし吃驚しました、すぐに包帯巻きますね」
「えっ、ああ……」
指から口を離したフューシャはなんてことないようにそう言うと自分の鞄から包帯を取り出し器用な手つきで巻いていく。
彼女の事を想う気持ちは日に日に強くなる、だがいい年をした私にはこれは叶うことのない真綿でゆっくりと首を絞めるような呪いだ。
「はい、これで大丈夫ですよ。私とお揃いですね」
包帯を巻いた私の指に自分の指を合わせて微笑みかける彼女を見て私は一つの決心をした。
この気持ち、この心が恋という呪いでおかしくなってしまう前に……






「それでね、それでね!その御主人様は言うの、『ずっと、ずっと一緒にいようアニス』って!もう私そこでハンカチが湿るくらい泣いちゃって……というか聞いてるのセルリアンちゃん?」
「聞いてないわよ、そんな話」
私は淡々とそう告げると分厚い本と睨めっこしながら試験管に萎びた草を放り込む。じわりと液体に草が溶け試験管の透明な液体が紫色に変色していく。
「えぇ~!!なんでなんで!?どっから聞いてないの?」
「最初っからよシャトルーズ」
私が振り向いて答えると目の前の金髪のエルフは疲れたように机に突っ伏す。
シャトルーズは美しい金色の髪に整った顔立ち、少し尖った耳が特徴的な典型的なエルフだ、そして私の小屋に時々来る行商人でもある。
見た目こそ恋多き十代の美しい少女と言った感じだが実際のところは私よりも十倍は長生きしている。
「あんたとは商売相手であってそのくだらない恋愛話を聞くお友達じゃないの、やることやったら帰ってよ」
「えぇー!いいじゃないちょっとくらい」
シャトルーズは不満顔を浮かべこちらを睨む。ちょっとくらいでかれこれ三時間も話すのだからエルフというのはやはり人間とは時間の感覚が違うのだなと改めて思った。
シャトルーズとは物々交換で商品のやり取りをしている。彼女の持ってくるエルフの道具というものはやはり手先が器用なせいか人間には作ることのできない物ばかり、とはいえ人間の通貨を渡したところでなんの意味もないので私は代わりに彼女の望む薬を作ることで交渉が成立してる。
このエルフの行商人にはとても助かってはいるのだが恋愛話が好きなのが玉に瑕だ。いつだったかシャトルーズ自身が人間と恋をしたときにお灸を据えてやったことがあるがそれからも全然反省の色なんてなかった。
あの時こそ『寿命の違う人間とエルフに考えの違いがある』と思い知らされたことはない。
「ん~それじゃセルリアンちゃんが思わず『私、実験なんかやめて恋に生きるわ!』ってなる話しようかなぁ?」
「そんなものないわよ、さっさと帰って」
まだ話し足りないといった感じのシャトルーズに私は思わず嘆息する。
全く、面倒くさいったらありゃしない。いつもならスレートかヴァンダイクに話し相手を押し付けているところだが今日に限ってあの犬猫コンビは外出してしまっているしさっさと切り上げたい所なんだけど。
「やっぱり異種間恋愛ってのかな、人間以外になりたいセルリアンちゃんならそういうの興味湧かない?」
「湧かないわよ」
私は人間が嫌いで人間以外になりたいとは思っているがその先の恋愛なんて考えたこともないのだから。
「そうだなぁ、エルフと人間の子供が雪男に恋する話とか、いいと思うなぁ」
「……なによ、それ。というか聞きたくない」
だが即答したにも関わらずシャトルーズの口撃は止まらない、本当にいい加減にしてほしい。
「えぇ?ハーフエルフの恋の話なんて貴重だよ?そもそもハーフエルフなんて存在自体が貴重なのに更に雪男なんて野蛮な生物と恋をするのよん?」
「…………。」
エルフの恋の話、これまた厄介な話が来たと思った。
シャトルーズの恋愛観は人間の私からするとどこかおかしい。長い寿命のせいなのか老いる人間や醜い生物をどこか見下しているのだ、本人は自覚がないのだけれども。
そしてまたどこかでエルフという高尚な存在が異種と恋をすることに憧れと軽蔑が入り交じっている、だから面倒くさい。
「ではまず第一章、エルフと人間の出会……」
「ところでハーフエルフの耳ってどうなってるの?」
だから早々に話の腰を折るために私は別の質問をした。まぁ付け焼き刃くらいにしかならないでしょうけど。
ハーフエルフなんて人間にもエルフにも迫害される存在、なまじ人間とエルフが似た身体構造だからできてしまう言ってしまえば可哀想な存在だ。
それの不幸話からの恋愛話なんて興味ないので聞きたくもない。
「きゃぁ~セルリアンちゃんが話に乗ってきてくれた!そうねぇハーフエルフっての自体あまり私でも見ることないけどぉ~大体人間よりちょっと耳が長いかなってくらいかな、ハーフエルフって言われないと気づかないのよねぇ」
「そう、なにかまた必要のない知識がまた一つ増えたわ」
「ええ~!聞いたのセルリアンちゃんじゃない~!」
シャトルーズが不満そうに頬を膨らませた、その時だった。
「すいません、魔術師様いらっしゃいますか」
小屋の戸を叩くと共に男性の声がした。
ああ、また私を魔術師と呼ぶ迷惑な人間が来たのか。ここは当然居留守と洒落込みたいのだが。
「はいはい~お客さんね!」
話が逸れたのはいいのだがちゃっかりこのエルフのシャトルーズはしゃしゃり出て小屋の戸を開ける。それと同時だっただろうか
「やぁん!なになにセルリアンちゃん、こんな格好良い紳士と知り合いなの!?」
「えっ!?あ……その」
まるで新しい玩具を貰った子供のように燥ぐシャトルーズ。流石にこれには来客も困惑したように一歩後ずさる。
「……別に知り合いでもなんでもないわよシャトルーズ。というか私は魔術師でもなんでもないの、私にはセルリアン=ディースバッハって名前があるんだから」
もはやお決まりの台詞といった感じに私は吐き捨てる。
私は人間が嫌いで、人間以外のなにかになりたくてこうやって街外れ、森の奥で実験しているだけだっていうのに街の人間は私をなにか『困ったことを解決してくれる便利な魔術師』みたいに思って迷惑なことにしばしば小屋にやってくるのだ。
「あ、あのぉ……私は少し相談にのってもらいたいことが」
「どうぞどうぞ!恋の悩みなら私も相談にのっちゃうよ!」
初老の男性を中へ誘いながらシャトルーズは椅子を引き実に楽しそうだ。
私としては迷惑でしかたない話なんだけどここまで御膳立てしておいて帰れとは言いにくい。
「恋の悩み、そうですね・・・・・・この年老いた私が恋をしてしまったのです」
「きゃぁ~恋の悩みなのね!聴く聴く~!」
隣で騒ぐシャトルーズを私は一瞥してから次に無言で男を見やる。
まぁ確かに年老いたという表現が似合う男性だが私にはどうも年寄りというイメージはわかなかった。
「えっと、その・・・・・・」
普段着なれていないのだろう革のコートに身を縮こませた男性は緊張した面持ちでこちらを見ながらゆっくりと口を開く。
「私、街で木彫り人形を作っているベレンスと申します」
「ふぅん・・・・・・」
私はさも話に興味ないように相槌を打つと試験管を手に取り火で炙りだす。
「私は生まれてからずっと木彫り人形だけを作って生活していました、それさえ作っていれば満足だった。・・・・・・ですが半年前に私は出会ってしまったのです、あの子に」
「へぇ~ねぇねぇ、どんな子なの!?歳は!?」
「直接聞いたことはないのですが十五、六かと・・・・・」
シャトルーズの質問にベレンスはしどろもどろになりながらも答える。ああ、なるほど・・・・・・なんとなくだけど大体話がわかった気がする。
「それじゃその子に告白はしたの!?」
「そ、そんなことでできません!こんな老いぼれに惚れられたら迷惑でしょう・・・・・・」
ベレンスは自信なさそうに呟く。もはや後半はしゃべっているかもわからない小さな声でだ。
「別にいいんじゃないの、恋愛に年齢は関係ないでしょう?」
「あっ!セルリアンちゃん良いこと言う!!そうだよぉ、おじさん格好いい
し告白してみたらぁ?」
私の言葉にシャトルーズが乗っかかり言葉を紡ぐ。本当帰ってくれないかしらこのエルフ。
「いえ、今の私なんかでは彼女を愛する資格なんてないんです。・・・・・・せめて若い頃だったのなら」
このベレンスと言う男、本当に木彫り人形しか作らずに年老いたのだろう。
恋愛というものがどういうものか自分でもよくわかってない、年齢だとか資格だとかを引き合いに出して逃げているだけ。
「それは私に若返りの薬を作れってことなのかしら?」
そう言いながらチラリと横目でベレンスを見ると彼は小さく首を縦に振った。
結局はそうなのだ、ここに来る時点でわかっていたのだけど人間はどこまでも欲深い。どんなに善人ぶっていてもここに来る人間は薬を使い欲望を叶えようとしているのだから。
「ただまぁ・・・・・・」
私は椅子から腰をあげ薬棚まで歩くとその中からドロリとした液体の入った一つの瓶を取り出す。
「惚れ薬を作れとかそういうんじゃないから協力してあげる」
そしてそう言うとテーブルの上にその小瓶を置いた。
「これが若返りの薬、ですか?」
あっさりとそんなものがでてきたので驚いているのだろうベレンスは震えた手で恐る恐る瓶に触れる。
「ま、そんなところ。まぁ実験の副産物でできたものだからお代はいいわよ」
「えっ!いいんですか・・・・・・こんな凄いものを」
「いいわよいいわよ、だから貰うもの貰ったならさっさと帰ってちょうだい。私は実験で忙しいの」
早く帰れと邪険にするように私は手を振る。元よりこの木彫り人形師が金を持っているなんて思ってはいない。
金を持っているのならこのベレンスと言う年老いた男は淡い恋心のような童心を持ってなどいないだろう。
ベレンスの作品を見たわけじゃないが恐らく彼の作品は世間的に評価されていないのは間違いない。
それは作品が駄目と言うよりかはベレンスが本当に木彫り人形を作ることだけに固執しているから、木彫り人形をもっと売ろうだとかどうやったら売れる物が作れるかみたいなことを考えてはいないのだろう。
だから世間に疎く、そして自分の魅力に気づいていないのだ。
「ありがとうございます魔術師様」
「魔術師じゃなくてセルリアンよ、次魔術師って呼んだら金取るわよ」
「す、すいませんセルリアンさん。あのもし良ければ今度私の店に来てください、お礼と言ってはなんですが私の木彫り人形を差し上げますので」
木彫り人形ねぇ、全くもって興味なんてわかないのだけどまぁ断って話を拗らせるよりかはいいか。
ベレンスの方を見ることなく私は試験管に適当な草を放り込みながら
「そうね、考えとくわ」
とだけ答えた。



「ねぇねぇセルリアンちゃん!そんな若返りの薬があるなんてなんで私に教えてくれないのよ」
ベレンスが帰ってからシャトルーズはそればっかり尋ねてくる。
「別にあんたに教える義理はないわよ」
「えぇ~!セルリアンちゃんと私の仲でしょ~」
机に突っ伏しシャトルーズはバンバンと机を叩いている。全くもって迷惑極まりないわ、このエルフ。
「あんたエルフなんだから若返る必要なんてないでしょうに」
「エルフだって長生きしたいの、そうしたらまた甘い恋愛できるでしょ?と、いうことでもう一回作ってよぉ、言い値で買うからぁ」
「はぁ、無理よ。言ったでしょう、あれは実験の副産物でたまたま出来たってだけで・・・・・・」
そう、あれは副産物・・・・・・言ってしまえば不完全なものだ。まぁベレンスにとってはあれでも全然問題ないだろうから渡したんだけど。
「とにかく無理なものは無理。というかいい加減に帰りなさいよ」
嫌悪感剥き出しにして私は言う。ちょうどその時だった、今日二回目の小屋の戸が叩かれたのは。
「はいはいはい~今行きます~!」
はしゃぎながら来客を出迎えに行くシャトルーズの後ろ姿に私は溜め息をついた。
「今日は厄日だわ」





「・・・・・・意外といい人だったな」
私、ベレンスは家に帰ってあの魔術師から渡された小瓶を覗き込み、そう言葉を吐いた。森の奥に住む魔術師と言えば街での噂を聞けばあまり良い印象を持ってはいなかった。
なんでも気に入らなかった人間をネズミに変えたり殺したりするって聞いたことあったので緊張したが普通の女性であったことの方が驚きだ。
「しかしあっさり貰えたが大丈夫だろうか」
魔術師、いやセルリアンから貰った緑色の液体が入った小瓶を窓の外、太陽の光にかざしてみる。
今考えてみるとただで若返りの薬を貰えたというのは些か話がうまく出来過ぎている気がする。もしかしたらこれは若返りの薬でもなんでもなくて実は猛毒の入った小瓶かなんかじゃないかと少し不安になる、だけども……
『別にいいんじゃないの、恋愛に年齢は関係ないでしょう?』
彼女はそう言っていた。こんなことを言ってくれる人が私を意味なく殺したりするだろうか?
そしてその言葉は私自身、少しは考えていたことだ。本来ならこんな薬に頼らずにフューシャに素直な気持ちを打ち明けるのが一番いい、けど私はそれをする勇気がない。
だから一つでも憂いを取っ払っておきたかった。
これを飲めば若返ることができる。
「・・・・・・飲もう」
決意の言葉を吐くと私は瓶にはめられたコルクを外す。
形容しがたい草の入り交じった臭いが鼻をつく。
どう考えても人間が飲むものじゃないという臭いだ、だがもう後に引くことはできない。私はぐっと目を閉じ一気に小瓶の液体を口に流し込む。
「ぐあっ・・・・・・苦いっ!」
口の中にまるで腐った生ゴミのような味が広がり思わず嗚咽と共に吐き出しそうになるのを私は必死に口を押さえ耐える。
ここで吐き出したらなんの意味もない、私は苦悶の表情を浮かべながら一気にそれを喉の奥へとおいやった。
「はぁはぁ、飲んだ・・・・・・ぞ」
喉元過ぎればなんとやら、苦味はすぐに口に残ることなくなくなったが今度は急に全身に力が入らなくなる。
「効いてきてる、のか?」
なんという早さで効果が出るんだ。私は内心驚きながら痺れる足を引き摺りベッドに倒れ込む。
「これで・・・・・・目が覚めたときには・・・・・・」
ベッドに顔を埋めながら言葉を吐く。自分の意思に反して落ちてくる目蓋に私は抵抗することなく深い眠りへと落ちていった。



それから私は一日眠りこけ、目を覚ましたのは次の日の昼だった。
長い時間眠っていたというのに私の意識はネジの巻かれ直した人形のようにスッと覚醒し目を開く。思っていた以上に目覚めはよく、体を起こし目を手で擦る。
「・・・・・・ん?」
なんとなく目を擦っていた手に違和感を覚え、離して見てみる。その手は見覚えのある浅黒で皺だらけの手ではなく血色の良い肌色、当然皺なんてのもなくどこからどうみても若者の手だった。
「まさか、本当に!?」
私はベッドから飛び降り別の部屋にある姿見まで走る。
私は驚いた。身体が異様に軽いのだ、まるで身体にまとわりついていた錘のようなものが一気にどこかへ消し飛んでいったかのよう。
「これが・・・・・・私の姿」
姿見がある部屋に入り、そこに写し出されていた自分の姿を見て、私は思わず息を飲んだ。
そこにいたのは間違いなく若い頃の私の姿だった。
セルリアンの薬は本物だった。その喜びと同時に様々なやらなかえればならないことが浮かんでくる。
「まずは服か・・・・・・さすがにこれじゃ似合わないな」
鏡の中の私は適当に端切れを継ぎ合わせた野暮ったい服を着ている。木彫りをするだけでなら別にこのままでも問題ないがフューシャに、好きな女性に会うのには不釣り合いだ。
「今から服を買いに行くか?いや、それよりも・・・・・・」
私は今着ている服を脱ぎ捨てるとクローゼットを開ける。セルリアンに会いに行ったときに普段着ないコートをここから出した、その時に他にも服があったのを思い出したのだ。
「そうだ、これだ・・・・・・」
クローゼットから一着の服を取り出す。私が若い頃着ていた革製のジャケット、ずっと愛用してたものだが年老いてきて流石に着れないとしまっていたものだ。
「後はベレー帽を被って・・・・・・よし」
服を着直して改めて鏡の前に立つ。その姿はまるで昔の私を今ここに引っ張ってきたかのように完璧だった。
あの頃の私は恋を知らず、木彫り人形を作ることだけで世間を見ていなかった。いや見ていたとしてもフューシャ、君に逢ったときのような心のときめきはなかっただろう。
そんなことを思いながら鏡を見つめ少し呆けていた、その時だった。
「こんにちわ、ベレンス先生」
表からノックと共に聞こえてきたフューシャの声がした。
思わず心臓が跳ね上がる。
もはや年齢という憂いはない、だがフューシャは今の私のことを受け入れてくれるだろうか?
正直言うのならもう少し心の準備が欲しかった、がもはやそうも言ってられないだろう。
「あ、ああ……すぐ行くよ」
君のことを想い、若返りの薬を使ってまで若返った私のことを許してくれるだろうか?
息を飲みゆっくりとした足取りでフューシャのいる部屋へ向かう。
「や、やぁフューシャ。今日は早かったんだね」
「あっ、こんにちわベレンス……先生?」
フューシャは私を見ると驚いた顔でこちらを見つめる。当然だろう、今の私は老いた私ではなく若返っているのだから。
「えっとその、フューシャ。どこから説明したらいいかわからないがちょっと森の魔術師に貰った薬でね、嘘だと笑ってしまうかもしれないがご覧のとおり・・・・・・若返ってしまったのだよ」
自分で言っていてもおかしな話だと思うがそうとしか言えないのだ。
「そうだったんですか、私ちょっと吃驚しましたよ」
「えっ、ああ……突然こうなってしまって私も驚いているよ」
そう言いながら私は乾いた笑いを返す。なんだろう思っていた以上にフューシャは私が若返ったことに対してそこまで驚いていないように見える。
そしてこうなってしまった私に対して疑問も興味も抱いていないような気も。
「それじゃお若くなったベレンス先生、今日もご教授お願いします」
「ああ、うん……」
丁寧に頭を垂れるフューシャに私は頷くとお互いいつもの定位置、向い合って椅子に腰掛け木片と小刀を手に取る。
「ふふっ、今日は何を彫ろうかなぁ」
楽しそうに木片を削っていくフューシャとは裏腹にどこか私の心は空虚だった。
いや別に若くなった私に驚いてほしいとかそういうのではないのだが反応が薄いとどうにも私に興味が無いのではないかと、私の事なんて眼中にないのではないかと思ってしまうのだ。
「ベレンス先生はなにを彫るんですか?」
「えっ、ああ……そうだなぁ」
いやでもこんなことで落ち込んでいてもしょうがない、驚いてもらうために若返ったわけじゃないのだ。
「今日は、フューシャをモデルに彫ろうかな」
今まで言えなかった言葉を、言えなかった想いを伝える。
「えっ!?私ですか?あわわ、ちょっと恥ずかしいな」
頬を淡桃に染め照れ隠しなのか前髪を指先で弄るフューシャはやはり愛おしい。
「本当に私をモデルにするんですかぁ?」
「ああ、駄目かなフューシャ」
まっすぐとした目でフューシャの目をみつめ答える。老いてた私にはそれができなかった。
「わかりました。いいですよ、じゃ今日は私もベレンス先生を彫りますよ」
「そうか、私を彫ってくれるのか。それは嬉しいな」
微笑むフューシャに私も微笑み返す。とてもか細い小さな幸せだ、だけど今まで望んでもずっと手にはいらなかった、かけがいのない幸せ。
誰にも邪魔をされない二人だけの空間に木片を削る音だけが響く。そんな中、時折私がフューシャを見ると彼女もこちらを見つめていて菜の花のような明るい笑顔を見せてくれる。
もう心の苦しさはなくなった、代わりに滾るのはどこまでもどこまでも落ちていきそうな深い愛情だけ。
「んんぅ、ここどうやって彫ったらいいですかベレンス先生?」
「ん、どうした?」
私は自分の木片と小刀を置くとフューシャの後ろに回りこむ。
「えっとここの首の付根のところ、彫ろうと思うんですけど他のところを削ってしまいそうでちょっと自信がなくて」
フューシャは手に持った木片を見せながらそう言う。なるほどフューシャには難しいところだ、私はフューシャの小刀を持つ手にそっと触れる。
「ここはねフューシャ、ここからなぞるようにして削れば……」
初めて触れるフューシャの肌、白くて柔らかいきめ細やかなその肌に私はずっと触れたかった。
私はフューシャの手をそっと握りながらゆっくりと小刀を木片になぞらせ彼女の望むように削り落とす。
「これでどうかな、フューシャ?」
「わぁ、やっぱりベレンス先生は凄いです。でも───」
フューシャは嬉しそうな声をあげるがすぐに私の方を振り向き口を尖らせる。
「なにかベレンス先生にちゃんと教えてもらったの初めてな気がします!」
「ええ?そうだっけ?」
「そうですよぉ、私もっと上手くなりたいんです。ずうっと私、技術は盗む物!って感じでやってきたんですけどこうやって手をとって教えて教えてくれるなんて……思っても見なかったですから」
そう言うフューシャは不満を口にしながらもどこか嬉しそうだった。
「ごめん、フューシャ。でもこれからはちゃんと教えるよ」
「それじゃここと、あとここも彫り方も教えてくださいベレンス先生」
「はは、それじゃもう全部私が彫っているようなものじゃないか」
お互いの顔を見合わせ微笑み合う。私が望んでいた世界は確かにここにあった。

それからのフューシャとの日々は私にとって幸せそのものだった。
私は若い頃なし得なかったものを取り戻すように恋に溺れていく。木彫りだけではない、フューシャを誘い外へ行くことにも躊躇うことはなくなった。
「ベレンス先生、今度はあの露店に行きましょう」
「ああ、構わないよ・・・・・・っと、そんなに走らなくても大丈夫露店は逃げないよ」
「ふふっ、ベレンス先生!早く早く!」
私達は手を握り街を走っていく。
石畳を軽快に駆け、フューシャの髪が揺れる。最近のフューシャは以前に増して明るく楽しそうに見える。
こんなにはしゃぐフューシャは私が老いていたときには見たことがなく、初めて見るフューシャの一面に私の想いはどんどん強くなりいとおしくなる。
「これ見てくださいベレンス先生。とっても綺麗ですよね」
装飾品の並ぶ露店の前で硝子の髪飾りに目を輝かせるフューシャ。ずっと大人びていると思っていたがこんなにも笑い、こんなにも笑顔が素敵な女性だったとは、少し意外でそれでいて心惹かれる。
「よし、じゃそれ買ってあげよう」
「えっ!?すいませんベレンス先生、私そう言うつもりで言ったわけじゃ」
「構わないさ、フューシャにとても似合うと思うから・・・・・・すまない、これをくれ」
店主に金を払い、硝子の髪飾りを手に取る。これはエルフの作ったものだろうか、薔薇の形をかたどった綺麗な硝子細工の髪飾りだ。
「ありがとうございますベレンス先生」
「よし、あそこでつけてあげよう」
私はとある場所を指差しそう言う。
今日、私は一つの決心をしてきた・・・・・・フューシャを想い、ずっと胸に秘めていた言葉、それを伝える場所だ。

町外れの小さな丘、そこから眺める景色は街を一望できる。
まるで街にある建物や人が小さなミニチュアのような姿を見せるそこに私とフューシャは腰をおろした。
「はいフューシャ、よく似合っているよ」
先程買った硝子細工の髪飾りをフューシャの金色の髪につけてやる。
「ありがとうございますベレンス先生、私とても嬉しいです」
頬を染め、髪飾りを気にするように指で触れながらフューシャは言う。
ざぁっと風が吹き、周りの草木がざわめき立つ。
その音はそれは私達を妖精達が騒ぎ立てるようにさえ思えてくる。
「フューシャ、私は・・・・・・」
不意に出た言葉に辺りからは一気に音が消え去る。
私がフューシャを見つめ、フューシャも私を見つめている。
心臓は壊れてしまうのではないかというくらい激しく鼓動を刻んでいるのに二人を時間だけはどんどんゆっくりと流れていく。
「私は、君のことが好きだ」
ずっと、ずっと言いたかった言葉を伝える。
フューシャは言葉こそ発しなかったが少し驚いたような顔を見せたあと恥ずかしそうに小さく頷いた。
「フューシャ・・・・・・」
「ベレンス、先生・・・・・・私も愛してます」
彼女の少し冷たくなった手を強く握り、指を絡ませる。
自然と顔が近づく、お互いの息がかかるほどに近く。
ゆっくりとフューシャが目を閉じ、私も目を閉じる。
すっと唇が触れ合う・・・・・・ずっとずっとこの時が止まっていてくれと私は強く強く、そう願った。





だが時の流れは残酷だ。どんなに願っても時は刻みをやめることはない。
ずっと続くかと思ったフューシャとの幸せの時間、それがあっけなく崩れ落ちたのはそれから一週間経った頃だった。
「そんな・・・・・・なんで」
朝起きて姿見の前に立った私は震えていた。そこに見えていたのはセルリアンの薬を飲む前、年老いた姿の私に戻っていたのだ。
「まさか薬の効果が切れたのか?」
薬の効果が切れる、そんなことがあるなんて思いもよらなかった。
「どうすればいいんだ・・・・・・」
皺だらけの手で己が顔をなぞる。こんな姿、フューシャにはもう二度と見せたくなかったというのに・・・・・・これでは彼女に会わす顔がないではないか。
やっと掴んだ幸せが砂となって握った手からこぼれ落ちていく感覚、それは私を絶望の淵に落とすには充分な出来事。
「・・・・・・全く、客が来ているというのに接客もしないなんてあんまりじゃない?」
「・・・・・・っ!?」
鏡の前で震えていると不意に背後から声がし、私は慌てて振り返る。そこには魔女が被るような青い帽子に同じ青色のローブを身に纏ったあの森の魔術師、セルリアンが立っていた。
「せ、セルリアン・・・・・・さん!?」
「あら、ちゃんと名前を覚えているなんて殊勝な心掛けね」
「どうしてここに・・・・・・?」
私の言葉にセルリアンはやれやれと言った感じで両手をあげる。
「貴方が言ったのよ、『今度店に来てください、木彫り人形を差し上げます』ってね、だから来てあげたの」
それは確かに私が言った言葉だ。だが今はそんなことよりも大事なことがある。
「セルリアンさん、木彫り人形が欲しいのなら差し上げます。だから・・・・・・」
「『だからもう一度若返りの薬を作ってください』と言ったところかしら?」
私が口にするよりも早くセルリアンは言葉を吐く。そして面倒くさそうに足元まで伸びる黒髪を手で弄ると踵を返す。
「お断りよ。私、木彫り人形見に来ただけだもの」
そう言いながら店の方へ歩いていくセルリアンを私は追いかける。
「ま、待ってくれ!私にはあの薬がどうしても必要なんだ!」
一度味わった幸せ、それが手の届かないところに行ってしまえばきっと以前よりもずっと苦しい想いをしてしまう。
フューシャの心が永遠に離れてしまうこと、それは私にとって死ぬのと同義だ。
「嫌よ、面倒くさい。それに貴方にはもう必要ないでしょう?」
「くっ!!!」
焦燥感が全身を支配していた。セルリアンの言葉に反射的に私は彼女の肩を掴み、強引に振り向かせ壁に押し付ける。
「痛ったいわね、女性の扱いに慣れてなさすぎよ」
「ほ、本当はこんなことしたくないんだ・・・・・・頼む、薬を!!!」
私は肩を押さえているのとは反対の手で小刀を握り、セルリアンの首元に近づけ叫ぶ。
「はぁ・・・・・・貴方のそれは木彫り人形を作るためのものであって人を傷つけるものではないでしょう?」
首元に小刀を突きつけているというのにセルリアンは全く動じることなく真っ直ぐこちらを目を見てくる。
セルリアンの曇りのない瞳から私は思わず目を反らした。直視することなどできない、私のやっていることの愚かさは胸が締め付けられるほどわかっている。
「ベレンス、貴方は姿が若くないとフューシャを愛せないの?」
「それは違う!!」
私は首を振り項垂れるように頭を垂れ叫ぶ。
私のフューシャへの想いはずっと変わらない、だけれどもこんな老いた姿では彼女は私のことを・・・・・・きっと愛してはくれない。
「ならいいじゃない、元よりあれは若返りの薬でもなんでもないわよ」
「えっ!?」
思いがけないセルリアンの言葉に私は顔を上げる。
「貴方に渡したのは、ただの思い込みが強くなる薬よ。若返りの薬なんてそんな簡単にできるわけないじゃない」
「思い込みが・・・・・・強くなる薬。いや、でも・・・・・・!」
確かに私は感じたはずだ、身体が軽くなった感覚を・・・・・・この目で見たはずだ若返った自分の姿を。
「貴方が薬を飲んで感じたもの、それは全て思い込みが見せた幻覚よ。実際の貴方の姿は薬を飲む前も飲んだ後もなにも変わってはない」
あれが、あの感覚が幻・・・・・・ということは、私は・・・・・・
「老いている貴方をフューシャは拒絶したかしら?」
「あ、ああっ・・・・・・!!」
セルリアンの言葉に心の奥底から感情が溢れ頬を涙が伝う。拒絶なんてされていない、フューシャは年老いた私のことを受け入れ愛していると言ってくれていたのだ。
老いた私などでは愛されない、それこそが私の一番の思い込み。
私はセルリアンから手を離し後ずさる。
「全く、貴方もフューシャも見た目の老いだの若いだのに、拘りすぎなのよ」
服についた埃を払いながらセルリアンは嘆息する。
「私も・・・・・・フューシャも?」
私はともかく、なぜそこでフューシャの名前が出るのかわからなかった。
いや、そもそもずっと気がつかなかったがなんでセルリアンはフューシャの名前を知っている?
私はセルリアンの小屋に行ったときにはフューシャの名前を一言も喋っていないはずなのに。
「貴方が私の小屋に来た後にね、フューシャ・・・・・・彼女も小屋を訪ねてきたのよ」
「フューシャがセルリアンさんのところへ?」
「なんのために来たと思うかしら?」
セルリアンの問いに私は首を横に振る。何故フューシャがセルリアンのところへ行ったのかなんて、見当もつかない。
「『好きな人に見合うように歳を取る薬』を欲したの。誰のために・・・・・・それは勿論ベレンス、貴方のためによ」
「私のために・・・・・・」
「自分の見た目に拘って『若い姿では相手にされない』なんて思って・・・・・・お似合いね貴方達」
「・・・・・・。」
私はセルリアンの言葉を噛み締めるようにじっと黙って聞いていた。
そうかフューシャもずっと悩んでいたのか、私と同じように。
「フューシャの話を聞いて、彼女が愛しているのがベレンス貴方だということにはすぐ気づいたわ。だから彼女には薬の代わりに若返ったと思い込んでいる貴方の話につきあうように言っておいたの。そうよね、フューシャ?」
セルリアンがフューシャの名を呼ぶと、店の戸が開きフューシャが申し訳なさそうな表情で入ってくる。
「フューシャ!?」
「ごめんなさい、ベレンス先生」
フューシャは私の前まで来ると深々と頭を下げる。
「私、ベレンス先生を騙すようなことして・・・・・・」
「いや、顔をあげてくれフューシャ。私はフューシャに受け入れられた、それだけで満足だ」
そう私の願いは最初から叶っていたのだから。
「これで万事解決、言ったでしょう?恋に年齢は関係ないって」
「ああ、確かにそうだったよセルリアンさん。ありがとう・・・・・・」
セルリアンの言葉に私は自分の未熟さを反省しながら頭を下げる。
「それじゃ私は貰うもの貰って帰るわ、そうね・・・・・・これがいいかしら」
セルリアンは店の中を物色するように歩き、窓際に足を止めると一組の木彫り人形を手に取る。
それは私とフューシャを巡り会わせてくれたあの不揃いの木彫り人形だった。
「あっ、申し訳ないです、色々して貰ってなんでも差し上げるとは確かに言いましたがそれは出来の悪いもので、売り物ではないのです。そんなものよりももっと良いものだったらこちらに・・・・・・」
慌ててそう言う私にセルリアンは自分の口元に手をやりクスリと笑う。
「あら、でも私はこれがいいの。いいじゃない、ここには貴方達の新しい木彫り人形を並べたら」
セルリアンの言葉に私とフューシャはお互いの顔を見る。
「フューシャ・・・・・・」
「ベレンス先生・・・・・・」
小さく頷き合う。答えは二人とも同じだった。
不揃いの木彫り人形・・・・・・それはまるで私とフューシャのようだ。お互いがお互いの姿形を気にして迷走した、滑稽で不揃いな人形。
「わかりました、その人形差し上げます。ありがとうセルリアン」
でも今はそれが良い、私はセルリアンの持つ不揃いの木彫り人形のようにフューシャの手を握り、そう答えたのだった。





《 不揃いの木彫り人形 了 》





【 あとがき 】
新年早々スランプです。


【 その他私信 】
初めてやってみたがお題を無視するってのはなんか気分がよくないな。次はちゃんとお題入れます、すいませんでした。


べ、べつに好きで書いてるわけじゃないんだからね!  氷桜夕雅
http://maid3a.blog.shinobi.jp/

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