Mistery Circle

2017-07

《 ツンデレ武将がやってきてラブコメになるとおもいきや俺が征夷大将軍になっていた 》 - 2012.07.16 Mon

《 ツンデレ武将がやってきてラブコメになるとおもいきや俺が征夷大将軍になっていた 》(二本目)

 著者:氷桜夕雅







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ツンデレ武将がやってきてラブコメになるとおもいきや俺が征夷大将軍になっていた-2013.XX.XX 00:00 編集


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最終回 イケメン武将がやってきて、てんやわんやの大団円



『朝だって言ってんでしょ~!起きないと置いていくんだからねっ!』
暗闇に包まれた部屋に美少女の声が響く。
いつだって美少女の声というのは良い、少し前にスマートフォンに入れた『美少女お目覚めアラーム』のアプリの中でもこのボイス、このセリフを囁いてくれる声優の茜依智佳(あかねよりともか)さんにはお世話になりっぱなしだ。
茜依智佳さんは新人声優でまだ知名度は低くメディアにも一切出てこない。
だけどこの人を惹きつける甘美な声は他の誰にも真似できない彼女特有の素敵な声だ。
『朝だって言ってんでしょ~!起きな……』
「んっ、んんんんぅ~!」
……だけど二回目は聞きたくない声だ、特に気怠い早朝にこんな幸せそうな声を二回も聞いたら逆に苛立ってしまう。
「……ふぅ」
僕───平野頼友はむくりと身体を起こすと近くに転がっているスマートフォンの手に取り『美少女お目覚めアラーム』のスヌーズ機能を切る。
「…………。」
とりあえず無言スマートフォンで時間を確認、まだ朝の七時半だが起きるには頃合いの時間だろう。
僕は静かに毛布から這い出るとそれを綺麗に畳み、部屋の隅っこに追いやる。
そんなことをやりながらもはや自分の部屋で自分のベッドに寝ない生活にも慣れてしまったものだと我ながら少し悲しく思う。
冷たくて硬いフローリングに対して一枚の毛布で毛布、自分、毛布と包み込む手段を考えだした時には思わず一人でガッツポーズをしたくらいだ。
「・・・・・・っと、そんなことはどうでもいいとして」
僕は大きく背伸びをすると起き上がり僕の部屋で僕のベッドに寝ている自称超絶美少女の元へと歩み寄る。
「全く、相も変わらず人のベッド乱雑にしおって」
ベッドに寝転がる美少女の周りには携帯ゲーム機から雑誌に漫画とまるで崩れた女体盛りかなにかかと思うような有り様だ。
僕はそれらを溜め息混じりに綺麗に片付けるとベッド主をの肩を揺らす。
「おい、政子そろそろ起きろよ」
「ん~・・・・・・」
真っ赤なツインテールに黒と赤のゴスロリパンクを着たこの美少女、北条政子は肩を揺らす僕の手を払い除けると背を向けるようにして寝返りをうつ。
「おいってば、遅刻するぞ」
「・・・・・・うるさいなぁ、今日は日曜日なんだから昼まで寝るの~」
「日曜日じゃなくて、今日は水曜日だよ!!曜日感覚ズレすぎだろ!」
僕は寝言を言いながら布団に潜り込もうとする政子の掛け布団をひっぺがす。
「やーだー寒い~!頼友のバカ~甲斐性なし~童貞~!」
「童貞は関係ねぇ!」
全く、普通ラブコメだったら立場が逆だろ?主人公を隣の家の幼馴染みが起こしに来るってパターンだろ?
まぁこの北条政子は幼馴染みでもなんでもないから期待なんて端からしてないんだけどさ。
「とりあえず起こしたからな、僕は先に着替えて下降りてるからさっさと起きろよ」
「・・・・・・。」
僕の言葉に政子は無反応だった。
まぁいい、これ以上煩く言ってもしょうがないからな。僕は引剥がした布団を政子の頭の上に放り投げ、椅子に掛けられた制服を手に取るとさっさと着替えてしまうことにした。
この僕の部屋で僕のベッドを使い好き放題してくれちゃってる超絶美少女、北条政子はなんていうんだろう・・・・・・どこから説明したらよいか悩むところだが一言で言うと僕のやっているインターネットゲーム『イクサカーニバル』から来たキャラクターだ。
ゲームの世界からキャラクターが現実世界にやってくるなんてにわかにも信じがたい話だと思うだろうが実際政子以外にも今まで織田信長、徳川家康、豊臣秀吉、武田信玄に前田利家と僕はこの目で見てきてしまっているので疑いようがない。
政子はこの現実世界に「娯楽を楽しむ」ためと「源頼朝を探す」ために来ているんだが専ら前者しかやっていないような気がする。
いや、そもそもゲームの世界にすら存在しない源頼朝なんていくらこちらの世界に来たところで出会えるわけないんだがな。
「おはよう早苗」
僕は制服に着替えると一階に降り、先に朝食を食べている妹の早苗に声をかける。
「おはよぉ、おにぃ」
「あれ?お母さん達は?」
いつもならいるはずの両親の姿が見えないのに疑問を覚えると早苗は少し焦げたトーストを手に取り
「お母さん達なら町内会のボーリング大会。というか私ラクロス部の朝練あるから先に出るね」
そう言ってトーストを口にくわえ飛び出していく。その慌てた様子はまるで少女漫画にありがちな冒頭シーンのようだ。
『僕たち、なんで別れたんだと思う?』
『貴方が奥さんと別れてくれないから……』
テレビではそんな少女漫画チックとは打って変わってドッロドロな展開の昼ドラが再放送で流れている。
こんな朝早くからそんなの誰が見るんだと思うが、そのドラマを見るのを日課にしている超絶美少女が僕の部屋にはいるんだよな。
「ふあぁぁ、おはろぉ。いっけないドラマ始まってる始まってる」
そんな早苗の後ろ姿を見送っているとそれとほぼ入れ違いに城川高校の制服を着た政子が眠そうに眼を擦りながらやってくる。
「ふぅ間に合った、そいや早苗っちなんであんなに慌てて出ていったの?」
「ああ、ラクロス部の朝練だとさ」
「ふぅん・・・・・・」
政子は自分が聞いてきたくせにつまらなそうに言うと椅子に腰掛けテレビを食い入りながらトーストにかじりつく。
「てっきり私が今度やろうとしてた実験を先にやろうとしてるのかと思ったわよ」
「はぁ?実験ってなんだよ」
わけのわからないことを言い出す政子に僕はベーコンエッグを口に運びながら問いかける。政子の突拍子もない行動は今に始まったことじゃないがそこらへんを未然に対処するのが僕の仕事のようなものだ。
「ふふ~ん、まぁ教えてあげてもいいわよ。トーストをかじりながら『いっけなぁい、遅刻遅刻~♪』ってやったらこう、出会い頭で源頼朝様とバーンとぶつかって・・・・・・」
「そんな事あるわけないだろ」
僕はあまりのくだらなさに政子の話の途中で口を挟む。
なにを言い出すかと思えば突拍子無さすぎるんだよ。そりゃまぁ僕もトーストくわえて出ていく早苗を見て思ったことは思ったけどさぁ。
「大体出会い頭に人とぶつかることもなければ、それがよりにもよって源頼朝なわけないだろうが」
「やってもないのにわかるわけないじゃない。ないじゃないったらないじゃない!少女漫画の王道パターンでしょ、これって」
「王道って、でも実際は漫画でもそんなシーン見たことないぞ僕は」
確かに「トーストくわえて遅刻遅刻でイケメンとどかーん」な展開は少女漫画の王道みたいに言われてるけど実際にそれが描かれた漫画なんて見たことがない。
あまりにもベタすぎてネタとかでたまに冗談っぽく描かれているのを見るってくらいが関の山だ。
「そういわれると確かに見たことないかも。それじゃその後のぶつかったイケメンが転校生で主人公の隣の席ってのもあまりみたことない!これは大発見じゃないの!?」
「いや別に大発見でもないだろ」
「これを学会に提出したらなにか賞もらえるかも!!」
「ないない、大体なんの賞だよ、どこの学会だよ!」
話が別方向にそれてはしゃぐ政子にこれ以上付き合ってられないと嘆息すると僕はテーブルに置いておいたスマートフォンを手に取る。
スマートフォンの画面をタップしブラウザを起動、お気に入りから僕の個人ブログ「ヤキトリはいらない」を開く。
このブログは僕が「イクサカーニバル」のトップランカーとなったあかつきに作ったブログ、ただまぁ作った次の日に僕のキャラクターデータはとある事情で消えてしまいトップランカーでもなんでもなくなってしまったのだけどね。
それでも少しは見てくれる人がいる以上隙あれば僕はブログを更新するのだ。


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今日のおすすめスキル!-2013.11.22 07:26 編集

はいはいはいはい!「ヤキトリはいらない」の管理人平野頼友です!

今日オススメするスキルはこれ、〈インビジブル〉
キャラクターが一定時間透明化するスキルですね~まぁご存じの方も多いと思いますがスキルレベルを上げると効果時間と対象を自分以外に設定することができます。

僕はこのスキルには思い入れがありましてねー、β時代に最初にとったスキルなんですよねぇ

取った当初は失敗したかなぁ~なんて思ってみたりもしたんですがこれが対人戦とかだとトラップを透明化したり背後から敵に近づいたりと便利なんですよねぇ

ただ〈インサイト〉のスキルを持っ

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「こらー!私がこんなに一生懸命話しているのに無視するなぁ!」
文字打ち込んでいる途中のスマートフォンを政子がひょいと取りあげる。
「ああもう、こらスマフォ返せ!」
「ふふ~ん、実験に手伝ったら返してあげる」
「実験って・・・・・・まさか本当にやるつもりか?」
パンをくわえて、遅刻遅刻~ってやるの?まじで?高校三年生ですよ、僕達は。
「当たり前ったら当たり前じゃない、さぁ行くわよ頼友」
そう言うと政子はちょっと焦げた食パンをくわえ、飛び出していく。
「はぁ、拒否権なしですか」
なんていうか今日もまた政子に振り回されるのか、僕は深い深い溜め息を吐いて政子の後を追うのだった。



「はい、じゃ実験終了ってことでスマートフォンは返してもらうぜ」
「むぅ~」
三年A組の教室の前、トーストを口にくわえて不満そうに頬を膨らませている政子からとりあえず僕はスマートフォンを取り上げる。
画面は僕のブログの記事作成画面のまま、ふぅ……壁紙が壁紙なんでそれを見られないですんで何よりだ。
いきなりやりだした「トーストを口にくわえて『遅刻遅刻~』と言いながら走ってると運命の人に出会えるか」というくだらない実験、その結果は・・・・・・まぁ語るまでもないと思う。
「納得いかないー!もぉ~帰りも実験よ!」
「家帰るのに遅刻はしないだろ、なんにせよ後は一人でやれよな」
不貞腐れる政子を放っておいて教室に入る。一限目にはまだかなり早いがもう教室にはかなりの生徒がいて机に向かって勉強をしている。
それもそうだ、そろそろ受験の追い込みといったこの状況、少しでも早く学校に来て勉強をしている人が多いのだ。
僕もその一人、全くもって政子のくだらない実験に付き合ってなんてられないんだよ。
僕は自分の席につくと鞄から参考書とノート、筆記用具を取り出す。
正直希望している桜陵大学に入れるかどうかは半々ってところ、少しでも勉強して差を埋めないといけないんだけど……
「よう、頼友今日は早いんだな!」
僕の前の席にドッシリと後ろ向きに腰掛けそう声をかけてきた人物を見て、思わずため息が漏れた。
「なんだなんだ会うなり溜め息って」
「いや、なんでもないよ。おはよう三奈本」
三奈本健、前世で僕となんの因果関係にあったかは知らないが小学校からずっと一緒のクラスになるという呪いをかけられた腐れ縁で悪友で超絶変態だ。
「と、いうか三奈本こそなんでこんな早く学校来てるの?」
整ってるのか整っていないのかわからないボサボサの茶髪にベビーフェイス、如何にもチャラ男って感じの三奈本だが僕より成績が遥かに良く、早々に桜陵大学への推薦を貰ってるのでこんな早くに学校に来なくてもいいはずなんだけど?
「よくぞ聞いてくれた頼友、俺は親友であるお前を喜ばせるために机の中にこれを忍ばせようと思ってな」
「あのさぁ……いつも言ってるけど、そういうのやめてくれよ」
「まぁまぁ、絶対頼友も気に入ると思うぜ!」
そう言って三奈本が鞄から取り出したのは、はいいつも恒例のエロDVDだ。
「しずくちゃんのコスプレ新作だぜ!」
参考書『大学受験はこれでキマリ!』の上に載せられる『しずくちゃんのコスプレだけが見たいんじゃ!8時間SP』。
終わった、僕の勉強時間……だから三奈本の姿を観た瞬間自然と溜め息が出ちゃったんだよな。
「いや、いいよ。前にも言ったけど今は見る暇がないっていうか」
「今日は引き下がらないぜ、ここを見てくれ」
そこは引き下がれよ、と思いつつもついDVDの方に目がいってしまう僕も我ながらどうかと思う。
三奈本が指差したとこにはどこかで見たような黒と赤のゴスロリパンクでキメポーズをしてるしずくちゃんの姿がいた。
「この格好、北条さんに似てるだろぉ?」
三奈本の視線の方をチラリと横目で見ると口にトーストを咥え神妙な表情で着席している政子の姿が見える。
というかあいつ、いつまでトースト口に咥えてんだよ。
「どうよ頼友、今夜あたりこれで一発」
「いや家でも勉強するから」
サラリーマンが「帰りに麻雀していきますか?」みたいな仕草で言う三奈本に僕はDVDを押し返す。
確かに政子の普段着に似てるし、気になりはするけど流石にここで現を抜かしていたら受験生の名折れだ。
「頼友、本当見たほうがいいぞ、人生変わるぞ!」
「これ見たら悪い方に人生変わるよ!」
なかなか引き下がらずDVDを押し付け合いをしながら三奈本に思わずツッコミを入れている僕、一体全体なにを学校に来てやってるんだが。
「あのぉ、平野君?ちょっといいですか?」
「ふぁい!?」
三奈本とそんな阿呆なことをしていると不意に背後から声がかけられる。
スッと胸まで染みわたる透き通った声に後ろを振り返るとそこにはクラスの学級委員で更には生徒会長もやっている東條綾音さんが立っていた。
「あのですね……って、えっとその、そういう物はあまり学校には持ってこないほうがいいかと思うのです」
話しだした矢先、なにかに気づいたように東條さんは急に赤面し顔を逸らす。
いかん、なにも考えずに振り返ったものだから僕の手には押し付けられたエロDVD『しずくちゃんのコスプレだけが見たいんじゃ!8時間SP』が……最悪だ。
「えっ、あっこれは僕のじゃなくて三奈本ので!!」
「いや、これは俺が頼友にあげたものですよ委員長。受験を応援するために、ね」
慌てて訂正しているところに三奈本が余計な茶々を入れる。やめてくれ、話がややこしくなる。というか受かるものも受からなくなるわ!
「そ、それで東條さん僕に話って?」
半ばなんの誤解も解けてないが僕は強引に話を軌道修正する。
「そのですね、平野君を呼んで欲しいって廊下に一年生が来てるの」
「一年生?」
目を逸らしながら耳まで真っ赤にしながら話す東條さんを少し可愛いと思いながらも廊下の方へ目をやる、すると……
「ひぃっ!」
廊下からこちらを睨みつけているその眼光にビクついて思わず腰が引けてしまった。
「あれ、巨乳眼鏡の東雲さんじゃん。おーい、こっち来なよ~」
肩ほどまで伸びた黒髪に小さな丸眼鏡、それと正反対の胸の膨らみをもった一年生、東雲千影は三奈本の声を無視しこちらを睨みつけている。
そりゃ教室中に響く声で巨乳眼鏡なんてセクハラな呼び方したらくるわけないだろう。
しかし普段から彼女はなにかと仏頂面だがなんでまた、こうも僕が睨まれないといけないのか。
「ちょっと僕、行ってくるよ」
こちらに来る様子のない東雲さんに僕は席を立つ。なんで廊下にいる後輩のところに行くだけだってのになんか魔王を前に対峙する勇者のような緊張が走ってるんだろう。
「やぁ東雲さん、どうしたの?いつもなら普通に教室に入ってくるのに」
とりあえず当たり障りの会話をしたはずだったのだが東雲さんは不満ありげなご様子で腕をその二つのメロンの前で組むと
「仮にも受験生である貴方が教室で卑猥なDVDではしゃいでいるのを見たら近づくのすら嫌悪感を覚えましたので」
と溜め息混じりに言葉を吐いた。
いやぁ実に辛辣なお言葉・・・・・・なんていうかもう言い訳する言葉も見つからないよ。
「ま、まぁこれには深い事情があってね。それでとにかく僕に用ってなに?」
「少しお聞きしたいことがあるので放課後、コンピューター室に来ていただけますか?」
「放課後?別に話なら今でもいいんじゃない?まだ授業開始まで時間あるし」
「いえ、大事な話なのでここで話すわけにはいきませんので」
僕の言葉に東雲さんは首を横に振りそう告げる。なんだろう、大事な話って?
「そう言うのならわかったよ、放課後コンピュータ室ね」
「はい、お願いします。あと必ず一人で来てください、では私はこれで」
それだけ言い残し去っていく東雲さんの後ろ姿を見ながら僕は首を捻った。
彼女、東雲千影さんは現役高校生でありながら『イクサカーニバル』のGM、ゲームマスターでもある。
東雲さんは最初は織田信長、徳川家康、豊臣秀吉の御三家を使い、こちらの世界に『扉形成プログラム』で勝手にやってきた北条政子を捕まえようとしていたのだが今は色々あってそれを見逃してもらっている。
東雲さんが話があると言ったときは大体『イクサカーニバル』の事と相場が決まっている、いやむしろそれ以外では話しかけられることもない。
だから今回も『イクサカーニバル』絡みの話だとは思うんだけど必ず一人で来るようになんてことを言うのは初めてだ。
『イクサカーニバル』での問題なら正直僕なんかよりも政子の力が必要なはず、なんたって北条政子は『イクサカーニバル』のテスト用キャラクターで通常のプレイじゃ鍛えられないくらいの高いステータスとどんなスキルでも使うことができるまさに便利キャラなんだからな。かくいう僕にあるのは元トップランカーって中途半端な肩書きだけで、それくらいの実力は東雲さんにもあるから後、僕にあるとしたら『何故か僕だけ普通の人間じゃ入ることできないイクサカーニバルの世界に入れること』くらい。
最初こそ憧れの美少女が待っている二次元世界に行けると喜んだものだが行く度に命の危険に晒されるのでなんていうかもうあまり行きたくもない。
「まぁあんまり深く考えなくてもしょうがないか」
どのみちまた厄介事が僕を待っているんだろう。半ば諦めにも似た感覚で僕は踵を返し教室へ戻るのだった。



「え~ほとんどの皆さんが受験生です、帰り道にはくれぐれも気を付けてくださいね」
担任の三樹先生の少し間延びした声とほぼ同時にクラスメイト達が次々と教室を出ていく。
時間はあっという間に放課後だ、僕は勉強で凝り固まった肩を伸ばすように背伸びをすると外をぼんやり眺める。
最近はもう日が落ちるのが早い、外はまだ三時過ぎだというのに教室はもう夕陽で緋色に染まっていた。
「じゃ頼友、例のアレ絶対に観ろよ!」
「ま、まぁ気が向いたらね」
鞄を背中に背負った三奈本はそう言うとそのまま教室を出ていく。結局あのエロDVDは僕の鞄の中だ、いつもはすぐに諦める三奈本が昼休みまで教室中に聞こえる大声でその、なんだ熱く語るので仕方なく借りた。
だが自分の名誉のために言っておくが決して観ない、観るつもりはない。未開封のまま持って帰り未開封のまま三奈本に返すつもりだ。
受験生だからな、うん・・・・・・それどころじゃないもんな、うん。
まぁ万が一、なにかの拍子で観ることがあったとしてもさわりだけ・・・・・・いやさわりって言うのは本来は最初の方という意味ではなく、話の核心部分を指すから、つまりはオープニングのインタビューじゃなくて完全にやっちゃってる所を見る可能性があったりなかったり?
「いかん、勉強しすぎて意味わからないこと考えてる」
邪念を払うように頭を振ると鞄を手に持ち席を立つ。
「そういや政子のやつに放課後、東雲さんのところに行くこと言ってなかったな」
僕は今更になってそんなことを思い出した。なんていうか家で散々相手してるから学校ではそれほど政子とは話さないんだよな、というか政子が人気すぎて近づけないってだけなんだけど。
「あれ、あいついないな」
教室を見渡すとそこには政子の姿はなかった。大体いつもこの後はコンビニでコーラとポテチを買わされるんだから教室に残ってると思ったんだが。
「ま、いっか。先に帰ってるなら帰ってるで大いに結構だ」
毎日毎日奢ってる方の身にもなってもらいたいもんだ、僕は上機嫌でコンピューター室に向かうことにした。



「今日は随分早かったんですね」
校舎の三階、コンピューター室の戸を開けた僕を東雲千影はそう言って出迎えた。東雲さんはいつもコンピューター室の一番奥、普段なら教師が使うパソコンの前に座り目線もこちらを向いていない、先輩に対する態度としては失礼極まりないが、まぁいつものことなので僕は気にせず近くにある椅子にどっしりと腰掛けた。
「それで話って?一応、僕も受験生なんで話は手短にお願いしたいんだけど」
「そうですね、帰って卑猥なDVDを見ないといけませんしね」
「いやいやいや!!見ないよ!!なんってったって受験生だから!!」
明らかな動揺隠しで早口で捲し立てる僕を東雲さんは冷ややかな目で見やると席から立ち上がりこちらに近づいてくる。
「どちらでも私には関係ないことですので構いません、私は質問に答えて欲しいだけですので」
「いや、うん……まぁ答えれる範囲の事なら」
しかし東雲さんが僕に質問ってなんだろう、だいたいの事なら僕よりも知っていると思うんだけど。
「では単刀直入にお聞きします、貴方平野頼友は北条政子のことをどう思っているのですか?」
「は、はい!?」
思わず想像してた質問との違いに聞き返してしまったのが間違いだった。
「もっとはっきり言えば北条政子の事を愛しているか、と聞いているのです」
「わわ、ちょっと東雲さんタンマ!!」
真顔でそんなことを言う東雲さんにこっちの方が恥ずかしくなる。そもそもそんなことを聞いて東雲さんになにかあるのだろうか?
まさか、全然フラグもなにもなかったが東雲さん、僕のことを好きとかそんな奇跡的な話があったりなかったりするのだろうか?
「こういう事を東雲さんが聞くなんて珍しいよね、もしかして・・・・・・」
「安心してください、別に私は貴方のことをどうとも思ってませんので」
キッパリと言い放つ東雲さんにちょっとショック、いやまぁ期待なんてしてないんだけどさ。
「それでどうなんですか?」
じゃなんでこんなにも僕と政子の関係に拘るんだろう?
「どうって言われても別にどうも思ってないよ」
「好意を抱いてない、と?」
東雲さんの問いに僕は静かに頷く。そんなにがっついて聞かれたところでそうとしか答えることができない。
北条政子に対して好意なんてのは抱いていない、そりゃまぁゲームのキャラクターってだけあって可愛いとは思う、思うけどあの自由奔放、悪く言えば傍若無人なあの性格に時折ついていけなくなるんだよねぇ。
「そうなんですか、それは少し意外ですね」
「意外もなにも僕としては毎日ポテチとコーラ買わされるわ、家で勉強しようにもゲームの相手させられてどっちかといえば迷惑なんだよ」
まぁ受験前というのもあるし政子に対しての愚痴は東雲さんにくらいしか言えないのもあって思わず口が滑っていた。
なにか自分でも思ってた以上に鬱憤が溜まっているみたいようだ。
「貴方がどう思っているのかはよくわかりました。私からの話は以上ですのでどうぞお帰りになってもらって構いません」
「えっ、あ~そうなの?」
よくわからないが話は終わりらしい。東雲さんは踵を返し元いたパソコンの前に戻っていく。
なんで僕と政子の関係を東雲さんが気にしているのかまではわからないが、きっと聞いたところで教えてくれないだろうし気にせずさっさと帰ろうじゃないか。
「んじゃ僕は帰るよ、じゃあね東雲さん」
そう言葉を告げ立ち上がると僕はコンピューター室を出る。
僕としてはまたなにか面倒な『イクサカーニバル』絡みの厄介事かと思ってただけに拍子抜けだ。
まぁそういうのはあったとしても受験が終わってからして欲しかったからこっちとしては願ったりかなったりだけど。
「さてと、帰って受験生は勉強をしますか・・・・・・って、ん?」
なんとなしに窓の外を見ると中庭にやたらと目立つ見覚えのある人物が立っているのが見える。
「政子のやつ、あんなところでなにやってんだ?」
あんな完全校則違反で目立つ真っ赤なツインテールをしているんだ、見間違えるはずがない。
けど政子のやつ教室にいないと思ったらなんで中庭なんかに突っ立っているんだろう?
てっきりさっさと一人で帰ったものだと思ってたんだけど。
「一応、声掛けとくか。なんか先に帰ったら後でなに言われるかわかったもんじゃないし」
さっさと帰りたいところだけど政子を無視して帰ると後でまぁた罰としてポテチだコーラだと五月蝿く言いかねないからな。
僕は少し駆け足で階段を一階まで降りる。下校時間というのもあって校舎内はさほど生徒も先生もいない、階段を一段飛ばしで軽快に降りる音だけが辺りに響く。
「やばいな、ちょっとは運動した方がいいかも」
一階に降りた頃には僕の息は少し上がっていた。いやなにもそんなに駆け足で降りなくても良かったんだけど政子を見失うとまた厄介だと思ってつい走ってしまった。
「あれ、誰かいる・・・・・・?」
上にいたときは気がつかなかったが政子の前には一人の男子学生がいた。制服の襟に入ったラインの色からその生徒が一年生だとわかる。
「ま、いっか。おーい、まさ・・・・・・」
僕は手を挙げ近づき、政子に声をかけようとしたまさにその時だった。
「むぐっ!!むぐぐぐぐぐっ!!」
僕の背後から誰かの手が伸び口を押さえられた。次に挙げてた手を掴まれ背中に回すように捻られる。
その手際の良さはまるでボディーガードかなにかのように精練されて鮮やかな動き・・・・・・と、いうかちょっと待て!なんで僕がこんな目にあってんだ!
「全く平野君、空気読めなさすぎ!ちょっとこっちに来て」
「むぐぐ!」
耳元で女性の声がするとそのまま僕の体はずるずると政子のいるほうから後退し元来た階段の前まで引きずられる。
「もう、一世一代の大事なシーンなんだからね」
僕から手を離し背中越しに女性はそう告げる。ん、というか今耳にした女性の声、スゴく聞き覚えがあるんだけど・・・・・・。
「って、日向さんじゃないか。いきなりなにするんだよ」
振り返るとそこにいたのは同じクラスの日向みなみさんだった。日向さんはポニーテールが特徴的なクラスのムードメーカー的存在だ、明るく活発でいかにも運動部っぽいけど科学部の彼女にあんな暗殺者紛いの芸当ができるとは初耳だ。
「なにするんだよ、じゃないよ平野君。見てわからないの?」
「見てわからないって、なにが?」
ここからじゃ政子と男子生徒が話をしているだけにしか見えないのでなんとも答えることができない。
「なにがって告白されてるの、北条さん」
「告白ぅ!?」
日向さんの言葉にちょっと驚きを隠せなかった。
いやまぁ政子が学校でも人気者でよく告白の手紙とか貰っているとか言うのは本人から聞いたことあったけど実際告白しているところに遭遇するのは初めてだったからな。
「で、日向さんはなんでここに?」
「それは勿論、告白が上手くいくかどうか見守ってるの。なにせ恋のキューピッドとしてあの子には色々手助けしてあげたしね」
そう言いながら少し誇らしげに日向さんは政子と男子生徒のやり取りを見つめている。
なるほど、日向さんが生徒会長である東條綾音さんの恋を実らせたって話はよく聞くが他にもこうやって恋のキューピッドやってたんだなぁ。
日向さんがそういう恋の話に敏感なのは前から知ってたけど実は日向さん自身が結構学校の中でも人気者だ。
でも日向さん自身は自分への恋には冗談じゃないかってくらいに無反応、この前も告白されているのを見たけど
『うんうん、いい感じの告白だね!それで本番は誰に告白するの!?』
なんて恋する男子の心をへし折ってきてるんだよね。
「ん~どう思う平野君?北条さんあれで結構ガード固いんだよねぇ、告白上手くいくかな」
「まぁ無理なんじゃないかな」
少し緊張した様子で語る日向さんとは裏腹に僕はあきれたように言葉を吐く。
ここからじゃ政子と男子生徒がなにを話しているのかも、その表情も読み取ることはできないが・・・・・・心配することはない。
いや、心配ってなんで僕が心配しなくちゃいけないんだ?まぁとにかく大丈夫だろう。
「あれ、平野君余裕って感じだねぇ~焦ったりしないの?」
「なんでそこで僕名前が出るのさ。でも無理だと思うよ」
改めてそう言う。その日向さんが応援している男子生徒がどんなにイケメンだろうがどんなに良い奴だろうがきっと政子は靡かないだろうと思う。
なにせ北条政子はこちらの世界に一応『源頼朝』を探しに来ているんだ、それ以外の男に目はいかないはず。
「あっ、ダメかぁ~」
日向さんの落胆した声に顔をあげるとちょうど政子が男子生徒の前で深々と頭を下げている姿が見えた。
普段滅多にしない礼儀正しさ、だけどそれを見て告白が上手くいったと思う人はいないだろう。
案の定、男子生徒は意気消沈した様子で頭を下げると踵を返し帰っていく。
「ん~なかなか上手くいかないなぁ、北条さん誰か好きなの人いるのかな」
腕を組み首をかしげる日向さんに「政子が好きなのは源頼朝だよ」と言いたくなるが今そんなことを言ったところで話がややこしくなるだけなので黙っておこう。
「よし、恋愛は切り替えが大事よね!ちょっとあの子慰めてくるから、じゃあね平野君」
「あ、うん・・・・・・日向さん、またね」
僕が返事するよりも先に日向さんはフラれた男子生徒の方へ駆けていく。失恋してるところに日向さんみたいな子が来て親身に話を聞いてくれたら・・・・・・なんか惚れちゃうんじゃないのか?なんて思いながら僕は僕でまだ中庭で佇んでいる政子の元へと近づく。
しかしなんだ、告白された後ってどんな気持ちなんだろうな。
断ったとはいえちょっと嬉しいんだろうか、それとも迷惑に思っているんだろうか?何分告白したこともされたことないからな、どうやって声をかければいいか正直悩む。
「あらら、これはこれは!どこの誰かと思ったら北条政子さんではありませんか!」
んで、どう声をかけるか迷ったあげく僕の口からでたのはなんていうか物凄く素っ頓狂な台詞。
「なんだ、頼友かぁ。全くどこいってたのよ、探したじゃない!」
間抜けな言葉を吐いた僕に政子は振り返るといつもと変わらない様子を見せる。
どうやったってこのタイミングで出てきたんだ「告白見てたでしょ!」とか言われかねないと思ったんだが意外にもそこはスルー。
「いや、ごめん。東雲さんにちょっと呼ばれてさ」
「ふぅん。まぁいいや、今日は新作のポテチがでる日なんだからね!すぐにコンビニまでいくわよぉ!」
「はいはい・・・・・・」
相変わらず楽しそうに先を行く政子に僕は溜め息をついて後を追う。本当、このポジションはさっきフラれた男子生徒に代わってもらいたいよ。



「えっと~これでしょ!これも新作~」
「おいおい、いくら買うんだよ・・・・・・」
学校からすぐ近くにあるコンビニ、そして僕の持つプラスチック製のカゴの中には新しく発売されたばかりのポテチが山のように積まれている。
「勿論全部よ、全部!今日発売の新作味が四つもでてるの」
「まじかよ・・・・・・」
こいつ人の金だと思って本当好き勝手に買ってくれるなぁ。
「ええっと、かき氷味にスルメイカ味・・・・・・あんかけスパゲティ味?もうなんでもありだな」
カゴの中ポテチを眺めながらボヤく。メーカーさんも新作味を作るのに相当苦労しているんだなぁ・・・・・・なんて思うか?
本当このポテチメーカーがじゃんじゃん新作出してくれるから政子が調子にのって買い占めるんだ、止めてほしいワリとマジで。
「んでこれはチキンカレー味か、これはまぁ普通か。というか政子、同じの三つも買うなよ一個で良いだろ」
「それは保存用と布教用ね」
「あ~なるほど・・・・・・って、なるか!!!」
なにが保存用と布教用だ!CDや雑誌じゃないんだぞ、そもそも保存する気も布教する気もないだろうが、いつも一人で全部食べてしまうくせに。
「一種類、一個まで!それ以上は買わないからな」
僕はダブってるポテチの袋を戻し厳重注意、こんなのほっといたらただでさえ少ないおこづかいが今日だけでなくなるわ。
「え~頼友のケチ!甲斐性なし!ついでに・・・・・・」
「童貞と言われようが買わないものは買いません!」
「あ、童貞って自覚あったんだ」
「自覚はねぇよ!!とにかくもうレジ行くぞ、僕はさっさと帰って勉強したいんだからな」
相変わらずのやり取りをして僕はレジに向かう。そしてレジカウンターにカゴを置き、ポケットから財布を取り出したまさにその時だった。
「ねぇねぇ頼友!これも買って!」
「もう買わないって言った先からなんだよ」
政子が指差したのはレジの横に設置してあるソフトクリームの機械だ。
「ノリ塩ポテチ味のソフトクリームがあるの!これ買わずして帰れないわよ!」
「いやだから、もう買わないって言ったろ?諦めろよ」
「ぶぅ~わかったわよ。それじゃ頼友!」
「まだなにかあるのか、まさ・・・・・・あっ!」
珍しくすんなり諦めたなと油断して政子の方を向いたのが間違いだった。僕の目の前に政子の指がある、ばっちりデコピンする形になっているソレが意味することはただ一つ。
「『傀儡政権』の始まりよ~!」
「くそっ、やりやがったな!」
傀儡政権の言葉と共に政子が僕の額を指で弾く。第三者から見たらただのデコピンにしか見えないだろうがこれを食らうととんでもないことになるのだ。
「っ~!油断したっ・・・・・・!」
僕は咄嗟に目を抑えるが時すでに遅し、政子の背後から眩しい光が発せられ僕の目に焼き付いてくる。
目を閉じてようがお構いなしに飛び込んでくる光、久しぶりだけど、やっぱりこれ全然慣れねぇ!
「ふふ~ん、それじゃ頼友~このソフトクリームも買ってね」
「は、はぁい。あのこのソフトクリームも一つください」
政子の言葉通りに勝手に僕の口が動き声を発する。
政子には『傀儡政権の始まりよ!』と言いながら額を指で弾くと少しの間だけ政子の言う通りに動いてしまうというとんでもない能力を持っている。
政子がゲームのキャラクターなのに、平然と僕の家や学校で生活できるのはこの能力のおかげであるのだが・・・・・・僕がこれをくらうときは本当ろくなことがない。
「全部で864円になります」
「あ、じゃ千円で」
目の眩しさから解放されるともう既に政子は緑色のソフトクリームを満足げに手に持っている。
流石にこれじゃもう返品ってわけにもいかず、僕は渋々とレジに野口先生を出した。
「うんうん、なかなか美味しいじゃない。よ~し、あとは帰ってゲームやるわよぉ~!」
「はいはい一人で頑張ってくれ、全く余計な出費が増えたじゃないか」
ご機嫌な様子でコンビニを出る政子の後を僕はレジ袋を両手に抱え追う。本当、やりたい放題なんだからな・・・・・・本当学校で政子の事が好きっていう奴等はこういうところも好きなのかと問いただしたくなるね。
「あっ、そうだ!」
「今度はなんだよ」
なにかを思い付いたように急に足を止める政子に僕の背筋には悪寒が走る。
嫌な予感、こいつまたとんでもないことを言い出すに違いないぞ。
「朝の実験の続きをしなきゃ!トーストじゃないけどソフトクリームでも大丈夫でしょ」
朝の実験、『トーストくわえて曲がり角でイケメンとぶつかる』ってあれ、こいつまだ諦めてないのか。
「なにが大丈夫なんだよ、というか帰り道で遅刻もなにもないだろ」
「そこは私の超絶美少女補正でなんとかなるわよ~!ということでダーッシュ!」
「おいおい、あんまり走るなよ」
僕の言葉なんてお構いなしにソフトクリーム片手に走り出す政子。なんていうかもう小学生かなにかかと間違うくらいの元気の良さだ。
「いっけなぁい、遅刻~遅刻~!」
暢気にそんなことを口走りながら曲がり角へ向かっていく政子、その瞬間だった。
「あっ、おい!政子!!」
僕が気づき、叫んだのとほぼ同時だっただろうか?政子は曲がり角から出てきた男性に思いっきりぶつかり尻餅をついた。
「いったぁーい!急に飛び出してくるなんて危ないじゃない!・・・・・・って、あっ!これってもしかして実験成功なんじゃ!」
「ま、まずい・・・・・・!」
はしゃぐ政子とは裏腹に僕の首筋に冷や汗が伝った。政子とぶつかった男性、スキンヘッドにグラサン、僕なんかよりも肩幅二倍はありそうな体に黒スーツといかにもなヤバイお仕事してそうな人で物凄く怖そうなんですけど!!
「・・・・・・実験成功って、なにがだよ」
威圧するように発せられた低い声。男性のスーツ、そのお腹の部分にはこれまた酷いことに政子の緑色したソフトクリームがベッタリついていて、銃で撃ち抜かれたエイリアンの体液のよう・・・・・・って、そんなこと言ってる場合じゃない!
「ん、ん~ぶつかったのイケメンじゃなかったのはあれかな?やっぱりトーストじゃないからかな」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!す、すいません!」
僕は慌てて駆け寄り頭を下げる。
「あーん?お前、この女の彼氏か?どうしてくれるのスーツ汚してくれちゃってよ」
「彼氏ではないんですが、えっとすいません、クリーニング代なら払いますんで」
「クリーニングゥ!?」
男が大声をあげ僕の顔を覗き込む。今まで生きてきてこんな風に絡まれるなんて経験なかったものだから物凄く怖い、足がガタガタと震え頭が真っ白になる。
「兄ちゃん、そう言うときはクリーニング代じゃなくて弁償やろ?」
「べ、弁償ですか」
言葉こそ落ち着いているが男の威圧感は相当なものだ、一言でも気にくわない返事をしたら握られた拳が飛んでくるのは目に見えている、
「そう、弁償してくれりゃ俺も大事にしないんだよ兄ちゃん。まぁこれブランド物だからざっと三百万ってところだな」
「さ、さんびゃく!?」
三百ってあれだろ、諭吉先生が三百人ってことだろ!?そんなの野口先生一人ですらいなくなってしまったことを悲しんでる僕には到底払える金額じゃない。
「いや払いたい気持ちは山々なんですが、さすがに三百万なんて金額学生の僕には・・・・・・」
「ああ、うん。そうだろうなぁ、俺も学生の兄ちゃんからとれるとは思ってないさ」
顔を離し、柔和な笑みでそう言う男に僕は一瞬安堵した。ああ、三百万なんて金額払わなくて良いんだ、これは冗談で実はこの男性見た目だけ怖そうだけど実は良い人なんだって、勝手に思ってしまっていた。
「兄ちゃんが無理ならこいつに払ってもらうしかないな、体でよ」
男はしゃがみこんだままの政子の腕を強引に掴み引き起こす。
「ちょ、ちょっと!痛いってば!」
「はぁん、よく見りゃなかなかの上玉じゃねぇか。これなら三百万くらいあっという間だ」
「上玉って、美人ってこと?当然じゃない、私は超絶美少女なんだから!そりゃよくわからないけど私なら三百万くらい余裕で稼げるわよ!」
「いやいや!意味わかってんのかよ政子!」
なにかこのまま放っておいたら意気投合してしまいそうなのでツッコミを入れる。いや本当はそんなことしている場合でもないのだが。
「意味ってなによ、私に三百万の価値があるってのがそんなに不満なわけ?」
「違うっての!その人の言っているのは・・・・・・」
そこまで言いかけてふと脳裏に三奈本が押し付けてきたDVDが思い浮かぶ。いかん、そんなのダメだ!
「体を売れってことだよ、姉ちゃんにやる気があるなら当然もっと稼げるがな」
「えっ、はぁ!?そんなのやるわけないじゃない、ないじゃないったらないじゃないっ!!」
男の言葉にようやく意味がわかったのか政子は掴まれている腕を振り払おうとする。
「おいおい、逃げんなよ。三百万、耳揃えて返してくれるまで帰さねぇからな」
「ちょ、ちょっと頼友!さっさと三百万払って助けてよ!」
・・・・・・簡単に言ってくれる。そりゃ三百万払えるなら払ってるよ、それができないから困ってるんだよ。
というかそこでこそ政子は『傀儡政権』を使ってくれればなんとかなると思うのに腕を掴まれているせいかその選択肢がでていないように思える。
これが『イクサカーニバル』ならこの武器でスキルを使ってってなんとかできそうなんだけど、現実世界の僕にはなんの力もない。
「・・・・・・っ!」
だからって黙って政子が連れ去られるのを見てなんていられない。あの男に殴りかかって・・・・・・いや元はといえばこっちが悪いんだし、ああ、一体どうすりゃいいんだ。
「彼女嫌がっているだろう、止めないか」
そんな時だった。スキンヘッドの男とは違う、スーツ姿の男がどこからともなく現れ政子をスキンヘッドの男から引き離した。
「なんだてめぇ、関係ないだろ」
「確かに関係はないです、ですがこの平和な街で人を傷つけるようなことをする輩を見逃すわけにもいきません」
スーツ姿の男はハッキリと言い放った。なんていうか言葉も格好いいし・・・・・・よく見たら男の僕でも思わず息を飲むような物凄くイケメンだ。
モデルかなにかかって長身に短く切り揃えられた黒髪。目隠しなしで福笑いやっただろって言いたくなる完璧なフェイスからはスポーツマン特有の爽やかさを醸し出している。
「はぁ、これを見ろよ、こっちはこいつにソフトクリームぶつけられた被害者だぞ。弁償してもらおうとしただけですんなり金払ってくれれば別にこんなことしねぇよ」
「それでもやり方というものがあるでしょう?それでいくらなんですかその服は」
「これブランド物で三百万なんだよ、三百万!」
「なるほど」
三百万という言葉にもイケメンは全く動じることなく、スーツの内ポケットから紙切れとペンを取りだしなにかを書き込んでいく。
「では、これでいいですか?」
「な、なんだよこれ」
イケメンがなにかを書き込んだ紙をスキンヘッドの男の前に差し出す。
「見たことありませんか、小切手ですよ。私が見るにその服にブランド物ではなさそうですし、三百万の価値もあるとは思えませんがこれで納得していただけるなら差し上げますよ」
いきなり出てきた三百万の小切手にスキンヘッドの男だけじゃなくて僕も唖然した。
「お、おう・・・・・・。最初からそうやって払ってくれればいいんだよ。で、後からやっぱりダメですとかいうのなしだからな!」
「ええ、大丈夫ですよ。ではもういいでしょう、私たちの前から消えてもらってもよろしいですかね。貴方がいると彼女が怯えてしまう」
「わ、わかったよ・・・・・・悪かったな姉ちゃん」
少し威圧かかったイケメンの言葉にスキンヘッドの男はそう言うとすごすごと立ち去っていく。
あのどうしようもない状況を颯爽と現れ最終的には相手に謝罪させるまでもっていくなんてまるでテレビの中のヒーローだ。
そして怯えているといわれ、さっきからなにも喋らない政子はというと・・・・・・
「イケメンだぁ・・・・・・」
怯えているというよりかは完全にイケメンに目を奪われているようだった。
「あの、助けてくださりありがとうございます!」
だが政子が目を奪われるのも致し方ない、男の僕でも惚れてしまうぐらいにさっきのやり取りは格好良かったからな。
「君は彼氏君かな?ダメだよ、ちゃんと彼女を守ってあげないと」
頭を下げる僕の肩をイケメンそう言いながらポンと叩く。
「えっ、いや政子とはそうい・・・・・・」
「頼友は彼氏とかじゃなくてただの小間使いで、下僕で奴隷なんです!」
僕の訂正よりも先に政子が口走る。というか小間使いから奴隷って僕のポジションどんどん下がっている気がするんですけど。
「そんなことより、すぐは無理でもお金は必ずお返ししますのでお名前と連絡先教えてもらって良いですか?」
「別に返してもらわなくてもいいさ、僕が勝手にやったことだからね。でもまぁ名前くらいは名乗っておいた方がいいかな」
僕の言葉にイケメンは胸ポケットから名刺を取りだし僕達の目の前に出す。
「ええっと……えっ!?」
彼の名刺、そこに書かれていた名前を見て思わず声が出てしまう。
「なになに、どうしたの頼友……えええええっ!?」
僕の反応に政子が僕の手元を覗きこみ驚きの声を上げる。それもそのはずだ、名刺には思いがけない名前が書かれていたのだから。
「みなもとの、よりとも……源頼朝」
まるで呪文のように呟いたその名前、いやまさか本当にそんなことってあるのか?
「頼朝様っ!お逢いしたかったですっ!」
「わっ、えっ?どうしたんですか?」
名刺を見た政子が突如としてスーツのイケメン、源頼朝の腕に抱きつく。
「いやいや待てよ、政子!まだこの人が『イクサカーニバル』から来たってわけじゃ……」
そう、そりゃ名前で言えば間違いなく源頼朝だけど……ほらあるだろ、ただの同姓同名とかそういうの!
だってあれだぞ『イクサカーニバル』は戦国時代がモチーフのネットワークゲームであって源頼朝はどうやったって鎌倉時代なわけで、絶対にいないって体だったじゃないか。
「『イクサカーニバル』……もしかして貴方達はあの世界から来た人なんですか?」
目を見開き驚く源頼朝、えっ、なんなんだその反応?もしかして本当に本当にそうなのか?
「私は北条政子、貴方の妻です!」
「北条……ああっ!まさか本当に君は北条政子なのかい!?」
源頼朝と政子がお互いを見つめ合う。そして完全に放って置かれている僕、源でも頼朝でもない平野頼友。
「あ、あの!その本当に『イクサカーニバル』から来た源頼朝さんというならちょっとあそこの喫茶店でお話しませんか!?」
気がついたら僕はなにか怒気の篭った声でそう言葉にしていた。自分でもなんでこんなにもわけわからないくらい苛立っていたのか、さっぱりわからない。
源頼朝は僕の言葉に驚いたようにしてこちらを見ると小さく頷く。
「ああ、そうだね。私も聞きたいことが沢山あるんだ、ずっと独りだったからね」
源頼朝は政子の肩を抱きながらそう言う。その様子に僕は思わず目を逸らす。
胸の奥でなにかが燻っていた、それは言葉にしてしまえばなにかが壊れてしまうんじゃないかって思うような想い。僕はそれを無理やり押し込むようにして飲み込み、頷いた。



「つまり、源さんはどうやってこの世界に来たか憶えてないってことですか?」
「ああ、残念ながら私の意思とかそういうのではなかったと思う」
喫茶店の一席、ガラス張りの壁から外を歩く人達を見つめ源頼朝は静かに言葉を吐いた。
源頼朝の隣には寄り添うようにして座る政子、僕の隣にはその政子が散々買え買えってうるさく言っていたポテチの一杯入ったコンビニ袋がある。
だがもう政子の奴はポテチなんかには目もくれていないようだった。
「ただ平野君の言っている『扉形成プログラム』という物でこちら来たのは間違いないと思う。覚えていたのは『イクサカーニバル』という世界のことと私の名前が源頼朝ということだけだったからね」
柔和な笑みを浮かべコーヒーカップを口にする源頼朝、僕もそれに合わせるようにしてコーヒーカップを口にした。
口に広がっていくえぐ味に思わず顔をしかめる。普段、コーヒー……しかもブラックなんて飲まないのについ源頼朝に対抗して注文してしまったことを少し後悔。
「いきなりこちらの世界に来た時は本当に参ったよ、自分が何者かもわからないしどうやって帰るかもわからないしね。この世界で生きていくために働こうとするにも過去のない私には大変だったよ」
そりゃそうだろう、なにもわからない状況……記憶喪失みたいな状態で誰にも頼ることができず外に放り出されたら自分だったら生きていける自信なんてない。
「でもでも!今は企業の社長さんなんですよね!つまり、私は社長夫人ってことなのね」
「はは、気が早いですよ北条さん。でもこの八ヶ月間は色々ありましたけどこちらの世界で北条政子さんに出会えたことが一番驚きましたよ」
「それは私もです、頼朝様」
お互いを見つめ合って微笑み合う源頼朝と北条政子。いやまぁ史実上じゃ夫婦だもんな、なんていうかお似合いっていうかなんていうか……。
しかし源頼朝の話だと八ヶ月前にはこっちの世界にいたってことだよな。八ヶ月前といえばちょうど僕の家に政子がやってきたのと同じ頃だ、これにはやはり意味があるのだろうか?
もしかしたら東雲さんならなにかを知っているのかもしれない。なんてったって政子がこちらの世界に来たこともお見通しだったんだから同じように源頼朝がこちらの世界に来ていることを知らないわけがないはずだ。
「私は源頼朝様のことをずっと想ってました。本当にこちらの世界にいらっしゃるのか、一生会えないんじゃないか・・・・・・それを考えただけで食事が喉を通らない日も多々ありました」
ねぇだろ、そんな日・・・・・・政子、お前僕のところに来たときからずっとポテチにコーラガバガバ食してたじゃねぇか。
・・・・・・っと言いたくなったがこんなイケメンのしかも想い人の源頼朝の前だ、猫も被りたくなるだろうしあえてつっこまない。
「ありがとう北條さん、私も君のような美しい人が北条政子であったことを嬉しく思うよ」
「もぉ~そろそろその北條さんってのはやめてくださいよ。政子って呼んでください」
もはや僕がいなかったらこの二人キスでもしだすんじゃないかってくらいの勢いだ。
しっかし、なんていうか完全に猫撫で声で話す政子は僕からすると凄く違和感があるな。
そして源頼朝に教えてやりたい気分だ、こいつ超絶美少女とか言ってますけどハゲですよ、ハゲって・・・・・・まぁ言わないんだけどさ。
「おや、もうこんな時間か。平野君、話の途中ですまないのだけどこれから先方と約束があってね、少し早いけどおいとまさせてもらってもいいかな?」
「あっ、すいません。助けてもらった上に色々聞いてしまって・・・・・・あのお金は時間をかけてでも必ずお返ししますので」
「ああ、あれなら本当にいいんだよ。それよりも大事なモノを今日見つけることができたんだから」
大事なモノ、それは政子のことを指しているんだろうか?
なにかそう考えた途端、自分の胸にポッカリと穴が開きそこからなにかが流れ落ちていくような錯覚を覚えた。
もしかして嫉妬、しているのか?
「それでは私はこれで。なにかあったらその名刺に書いてある電話番号に電話ください平野君」
そう言って席を立つ源頼朝、そしてそれに追従するように一緒に立ち上がる政子。
「お、おい政子。まさか源さんについて行く気か?さすがにそれは仕事の邪魔になるだろ」
「なに言ってるのよ、私は頼朝様の妻なんだから側にいてサポートするのが当然じゃない、ないじゃないったらないじゃない!」
源頼朝の腕に自分の腕を絡ませ政子は言う。わかってた答えだ、そりゃ政子は源頼朝を探すためにこちらの世界にやってきたんだし、それが見つかったと言
うのなら一緒にいるのが普通で、自然な流れだ。
「それじゃ平野君、支払いは先にしておくからごゆっくり」
「じゃあね、頼友~ばいばぁい。それで頼朝様、私ですね・・・・・・」
僕は仲睦まじい様子で話しながら去っていく源頼朝と政子の後ろ姿を見送る。
どんどん遠くなり、次第に見えなくなった二人の姿を確認すると僕は小さく溜め息をついた。
「はは、やっとこれで受験に集中できる」
掠れた声と共に僕はコーヒーの残りを一気に喉に流し込む。
なんていうか唐突だけど本当良かったよ、政子のやつを引き取ってくれる人がいて。
全くあいつは僕が受験生で勉強しているっていうのにことあるごとにゲームの相手をしろとかポテチ買ってこいとか散々やってくれたからな。
「……帰って勉強しよ」
僕は隣の置いたコンビニ袋、それをそのままにしてその場を後にした。



『朝だよ~起きないとおこだからね!朝だよ~起きないとお・・・・・・』
毛布に包まれたまま手を伸ばし僕はアラームを止める。
気だるい朝だ、僕はゆっくりと体を起こすと天井から伸びる蛍光灯の紐を引っ張った。
暗い部屋に蛍光灯の明かりがチカチカと瞬いたのちパッと部屋が明るくなる。
僕は毛布から這いずるようにして抜け出すと背伸びをすると共に大きなあくびし、そして誰もいない自分のベッドを見やる。
「帰ってきてるわけもないか。だったらベッドで寝ても良かったかな」
独り言をこぼしながらパジャマを脱ぎ捨て椅子に掛けた制服を手に取る。
『ここは超絶美少女な私の聖域なの!童貞の頼友は近づいちゃダメなんだからね!』
人のベッドを占拠しておいて、そう言う政子の姿が幻視する。
昨日はなんとなく政子の奴が帰ってくるかもと思って床で寝たが、これからはもうその必要もなさそうだ。
「ま、おかげで勉強捗ったけどな」
制服の袖に腕を通しながら誰に言うことなく呟く。
勉強はいつもよりかは捗ったと思う、というかこんなに勉強に集中できたのは久しぶりだった。
「ようやく受験生らしくなってきたかな、僕も」
着替えを終え、スマートフォンを手に取ると僕は部屋から出る。
一階からはトーストの焼けた良い匂いとフライパンの上でベーコンエッグが踊っている心地よい音が聞こえてくる。
もしかしたら政子はもう一階で朝食食べてるんじゃないかな?
「いやいやいや、さすがに僕より先に起きてるなんてことはないだろ」
一瞬頭を過った考えを首を振って否定する。というかなんだよ、なんでこうも政子のことを考えてるんだよ僕は。
気を取り直して僕は一階への階段をいつもよりゆっくりとしたペースで降りていく。
口ではどうこう言っていても少し期待してた、一階に降りたら政子がトーストにベーコンエッグを乗せてぼけーっと朝からやってる昼ドラにくぎったけになっている光景。そしてトーストの上からベーコンエッグ滑り落ちそうになってるのを僕が箸で必死に押さえるとか言うそんな間抜けな展開。
「あっ、おにぃ~おはよ~」
「おはよう早苗」
一階にいたのは妹の早苗だけだった。
勿論政子なんていなかった・・・・・・が政子だけじゃなくて母さんと父さんもいないってどういうことだ?
「あれ、母さん達は?」
席に着きながら僕が言うと制服の上から真っ赤なエプロンをつけた早苗はフライパンを片手にキッチンからこちらに近づいてくる。
「んもぉ、やっぱりおにぃ覚えてない」
少し膨れっ面をしながらも早苗は器用にフライ返しで僕の皿の上にベーコンエッグを乗せる。
「覚えてない?なんか言ってたっけ?」
「ボーリング大会の筋肉痛が酷いからそのまま泊まりで温泉行くって言ったじゃん。なんか昨日のおにぃ、ぼぉ~っとしてたから聞いてないんだろうなぁって思ってたけど本当に覚えてないんだね」
「そ、そうだっけ?それより早苗、今日朝練いいのか?時間的にだいぶ遅くまで家にいるけ・・・・・・」
そこまで言いかけて早苗が目を細くしてでこちらを見ているのに気づき言葉を飲み込んだ。
僕が察し言葉を止めたのを確認すると早苗は大きく息を吐く。
「それも昨日言ったよおにぃ、今日は朝練ないからって。まぁ折角この可愛い妹が制服にエプロンっていう全国高校生夢のしシチュエーションランキング三位に入ることをしてあげたうえに晩御飯まで作ってあげたのに感想が『はぁ』とか『まぁ』とか適当だったからそんなのばっかりだから薄々は気づいてたけど」
「ご、ごめん・・・・・・。あっ、あれだよ勉強疲れってやつ!昨日はもうかなり集中して勉強してたから」
「ふぅん」
早苗は自分の皿にベーコンエッグを乗せながら気のない返事をする。
まぁだが早苗の話をうわの空で聞いてたのは間違いない。言われたら、親が温泉に泊まりに行くって話も今日早苗のラクロス部の練習がないって話も・・・・・・
ああ確かにそんな話聞いたなって感じで思い出せるんだけどそんなんで大丈夫か僕の記憶力。
「まぁいいや、それよりもおにぃ一つ聞きたいことがあるんだけど?」
「ん、なに?」
「昨日の夜おにぃに借りたCDを返そうと思って部屋覗いたんだけどなんでおにぃ床で寝てたの?」
キッチンの流しにフライパンを置き、エプロンを外しながら早苗はさらっとそんなことを言う。
「えっ?」
思わずその質問に僕は固まってしまった。いや、先に言うと別に妹に部屋を覗かれたことに固まった訳じゃない。
政子が僕のベッドを占領しているのは早苗も知っている、いや早苗だけじゃなくて平野家家族全員、周知の事実のはずだ。
そして若い男女を一つの部屋にいさせても誰もなんにも言ってこない能天気家族だったじゃないか。
「ほら、いつも政子が使ってるからさ。昨日は帰ってこなかったけど使ってると急に帰ってきたときに文句言うかと思って」
確かに政子が帰ってないのならベッドを使うべきだったよな、床で寝る必要はないという早苗の指摘は至極真っ当だと思ったのだが
「おにぃ、政子って誰?」
「えっ?」
思いがけない早苗の言葉につい変な声が出てしまった。
「なに言ってるんだよ、ほらうちにホームステイしているドイツと日本のハーフだっけか、確か設定?真っ赤なツインテールしてるのいただろ?」
「誰、それ?」
僕の説明にも早苗はよくわからないのか首をかしげる。その様子は冗談でもなんでもなく本当に北条政子の知らないといった感じだった。
「誰って……」
「おにぃ、本当に大丈夫?勉強し過ぎじゃない?」
「いや、だってほら……」
おかしいだろ、昨日まで一緒の家にいた政子のことを早苗が憶えてないなんてことあるわけがない。
「受験があるのはわかるけどたまには休んだほうがいいよ、おにぃ。それじゃ私そろそろ学校に行くね」
「ああ、うん」
どうやって説明すればいいかわからないまま僕は気のない返事をして早苗を見送るとベーコンエッグに箸をつけながら考えを巡らせる。
さっきも思ったけど早苗の様子におかしいことない、嘘をついてるとか僕を騙そうとしているわけでもなさそうだ。
じゃあなんで早苗は政子のことを憶えてないんだろう?
「くっそ、考えてもわかんねぇ」
わかっていたことだが僕がなにかを考えたところでなにか思いつくわけもなかった。
「こういうことはやっぱり東雲さんか」
困ったときの東雲さん、なんとも情けない話だがこれが一番確実だと思う。
「もしかしたら……あの人が関わってるのか?」
僕の頭の中に浮かんだのは昨日、政子の隣で微笑んでいたあのイケメン源頼朝。
別に確証があるわけじゃない、それに源頼朝は僕と政子を助けてくれた恩もあるから疑いたくはないんだけどどうにもタイミングが合いすぎているような気がしてならない。
なにはともあれ政子のことも源頼朝のことも東雲さんに聞く以外方法はなさそうだ。僕は残りのベーコンエッグを頬張り、急いで学校へと向かうことにした。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



受験☆大戦争-2013.11.22 08:10 編集

やぁやぁ「ヤキトリはいらない」の管理人、平野頼友です。

いやはや最近は受験生なので大好きなイクサカーニバルがやれず、ここでもスキル解説くらいしかしてなくてスイマセン!

本日のオススメスキルは<パリング>、これを持っていると装備している武器で相手の攻撃をタイミング次第で無効化できるってスキルですね。
なんていうか初心者だとスキル取りするときに攻撃スキルを取りがちですけどー実はこういう防御スキルを取ってた方が生存率が高くなっていいんですよー。

まぁこのスキルはタイミングが大事なんでラグるとどうしようもないけどね(泣)
あと遠距離攻撃されたらどうしようもないのが欠点です

でも僕は昔あれなんですよ、このスキルが遠距離攻撃や敵の攻撃スキルにも対応するようになるマサムネブレード持ってたんですよ

……まぁ伊達政宗のキャラクターが消えた時に一緒に消えちゃったんですけどね

ああ、今すぐに取りに行きたいですねぇ……まぁ行けないわけですが


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「ふぅ、こんなことしている場合じゃないか」
ブログを更新したスマートフォンをポケットにしまい僕は自分の教室へと入る。
相変わらず学校で勉強している生徒は多い、本当は僕も勉強をしたいところだがやはり政子のことが気になる。すぐに荷物を置いて東雲さんのところにいかなくては・・・・・・
「おう、頼友おはよ!」
「おはよう平野君」
自分の机まで来たところで三奈本と日向さんに声をかけられた。二人とも受験は推薦なので他の生徒のように勉強はしておらず楽しそうに談笑している最中といった感じだ。
「おはよう三奈本、日向さん。僕ちょっと用事があるので・・・・・・」
そう言って僕は鞄を机に置き、東雲さんのところへ行こうと思ったのだがすぐに足を止めた。
まさかとは思うが早苗だけじゃなくて三奈本や日向さんまで政子のことを忘れてしまっているなんてことないよな?
「あのさ三奈本、昨日貸してくれたというかDVD覚えてるよな?」
東雲さんのところに行く前に確認しておいた方がいいだろう。僕は自分の鞄から昨日貸してくれた・・・・・・いや、無理矢理押し付けられたDVDを取り出し机の上に置く。
「なになに?もしかしてハートウォーミング系の映画・・・・・・って、もう!平野君、ここに女子がいるんですけど」
興味津々と言った感じで覗き込んできた日向さんだけどすぐに僕に冷たい視線と言葉を向ける。
いかん、考えが先走りついなんにも気にせず日向さんがいる前で卑猥なDVDを出してしまってるじゃないか。
「えっ、あーごめん!いやでもこれには深い事情があって!」
「深い事情ってなに?」
「いやぁ、それはその・・・・・・あれですよ!」
思わず言いかけた言葉が止まる。日向さんがいるこの状況であんなことを聴くのはちょっと躊躇われるというか相当軽蔑されかねないのんじゃないか・・・・・・と一瞬思ったのだが出してしまった以上あとには引けない、もういいや聞いてしまえ!
「なぁ三奈本、ここの衣装あの子に似てるって言ってたよな?」
僕はあえて政子の名前を伏せ、パッケージの裏にある黒と赤のゴスロリパンクを指差して三奈本に見せる。これならクラスメイトをおかずにしようとしてるという変態行為の濡れ衣はかからないと思うんだけど・・・・・・。
「さぁそんなこと言ったっけ?というかしずくちゃんが誰に似てるんだ、まさか頼友知り合いにしずくちゃん似の可愛い子がいるのか!?ならなぜそれを俺に教えん!」
「いや、似てるのは服だけって話で。三奈本、とりあえず落ち着け、話が飛躍しすぎだ」
「ん~でも服ってこの黒っぽいヒラヒラな感じのやつのことだろ?知らないなぁ、というかこのシーンすぐ服脱がしたんであんまり好きじゃないんだよなぁ」
聞いてない、そんなことは聞いてない。
だが前半のその答えは三奈本も政子のことを忘れてしまっているということを証明していることになる。
だって昨日三奈本が言ったんだからな、「この格好、北条さんに似てるだろぉ?」って。
「なになに、誰に似てるの?」
「えっ、あっちょっと日向さん」
日向さんが僕の手からひょいとDVDを掴み取るとまじまじとパッケージを見つめる。
「へぇ~平野君こういう子が好きなんだ、ふぅん」
「いやいやいや!それ三奈本が勧めてきた奴で僕は別にそういうのは見ないわけで!」
流石に女子の日向さんに三奈本と同じようなことを聞くのは色々不味い気がする。
「というよりかそうだ日向さん、聞きたいことがあるんだけど」
色々誤魔化ししきれないままだけど僕は話を変える。
日向さんには三奈本とは違う、代わりに聴けることがある。昨日の放課後、政子が告白されていた・・・・・・それを僕と日向さんの二人で見守っていた、その記憶。
「ん、なになに?平野君もついに二次元から脱出して恋の悩みを抱えたの?」
「いや、僕の恋の悩みってわけじゃないんだけど」
というか日向さんから見て僕って二次元にどっぷり漬かったオタクに見えているのか?それはそれでかなりショックなんだけど、今はそれについて語っているところじゃない。
「昨日の放課後さ、日向さんと中庭で会ったの覚えてる?」
「それは覚えてるよ、だって昨日のことだもん」
「それじゃそこで告白してた男子生徒いたよね?」
「西陣君でしょ、残念だったね。あの後フォローはしたし次があるよ次が」
あっさりと男子生徒の名前は出た。それならもしかしたらその告白の相手である政子の事も当然覚えているはず。
「じゃ日向さん、その相手は覚えてるよね?」
「ん~クイズかなにか?勿論覚えてるに決まってるでしょ・・・・・・えっとぉ」
そこまで言って不思議そうに日向さんは首をかしげる。
「あっれぇ、喉のここまででてるのにえっと誰だっけ」
ダメか、日向さんも早苗や三奈本と同じように政子のことを忘れてしまってる。
しかも告白した男子生徒のこととかは覚えているのにピンポイントに政子の事だけを、だ。
「ん~私、西陣君の相談に結構乗ってたんだよね。ほら、あの子の好みとかどういうシチュエーションで告白するかとか・・・・・・なのになんででてこないんだろう?平野君は覚えてる?」
「北条政子だよ、二人とも忘れちゃったんだな」
「北条政子?それって鎌倉時代の人だよね?」
三奈本と日向さんはお互い顔を合わせてそう言う。もはやその反応に驚くこともない、やはりみんなの頭の中から北条政子の記憶はなくなっている。
「ちょっと僕、行ってくるよ」
僕は三奈本達の質問に答えること無く、踵を返し急いで教室を出る。
「全く、今度はなにが起ころうとしてるんだ」
ゆっくりとした足取りは次第に早くなり、最後には思いっきり廊下を走りだしていた。
色んな人から北条政子の記憶が無くなっていっている、それはまだ起きていないだけど僕もそうなってしまうんじゃないかと不安を煽る。
あいつと初めて会った時の記憶───
文化祭で学校を巻き込んで大暴れした記憶、夏の海で泳ぎの練習をした記憶。
ずっと心の中にあるはずの記憶、それがふとした瞬間になくなってしまいそうで───
遠くで先生の「廊下を走るな!」という叫び声がする。だがそんなものにかまっている暇なんてなかった。階段を一段飛ばしで駆け上がり息を切らしながらコンピューター室の扉を開ける。
「東雲さん!」
「なんじゃ朝から騒々しい」
僕の声に一番奥の席にいた少女が怪訝そうな声を上げる。
東雲千影とは違う。そこに座っていたのは織田信長、政子と同じように『イクサカーニバル』からやってきた美少女武将の一人だ。
本来ゲーム中じゃかなりのナイスボディなんだけどこちらに来た時のエネルギー不足とかなんとかいう話でその姿は小学低学年クラスと変わらないくらいに小さくなってしまっている。
真っ赤な着物に金髪の長髪、まるで日本人形のような姿をした信長は手に持った焼き鳥の串をクルクルと回し僕の方を指し示す。
「おや、童貞の頼友なのだ!どうしたのだ、そんなに慌てて」
「童貞は余計だよ……。信長様、東雲さんは?」
この織田信長は元々東雲さんが『イクサカーニバル』で使っていたキャラクターだ、東雲さんとは大体いつも一緒にいるからどこにいるのかは知っているはず。
「しののめーなら、ついさっき教室へ戻っていたのだ」
「そう、ありがとう。それじゃ僕は……」
急いで東雲さんのいる教室へ行かなければ、そう振り返った最中だ。
「待つのだ頼友」
「うおっ!」
信長の声とほぼ同時だっただろうかドスッと言う音がし、僕が手にかけていた扉に焼き鳥の串が突き刺さった。扉に突き刺さった串からまるで血のようにタレが垂れる。これあと数センチずれていたら僕の手に突き刺さってたぞ。
「な、なんだよ僕は忙しいんだよ」
「頼友、お主からしののめーに会いに来るなんてことは滅多にないではないか。だからなにをそんなに慌てておるのか、妾は気になってな」
僕が向き直すと信長は新しい焼き鳥を手にしそう語る。
確かに僕から東雲さんに会いに行くなんてそんなに今までなかった。なにせ何かで呼ばれるたびに厄介事に巻き込まれてるからな、こちらから会うことは滅多にない。
「多分これ言っても通じないと思うんだけど、皆の記憶の中から北条政子がいなくなっているんだ」
「ほう、それはそれは……。確かに妾にその北条政子とやらの記憶はないな」
串をくわえながら考えこむように言う信長に僕の口からは今日何度目かという溜め息がでた。
信長様はあれだろ、北条政子を『イクサカーニバル』に連れ戻すために来たっていうのにこれだからな。
「ほらね、皆政子のことを忘れてしまってるんだ」
もしかしたら東雲さんも政子のことを忘れてしまっているのかもしれない、だがそれでも僕にはあの子しか頼れる人がいないのだ。
「ふむ……確かに北条政子という者の事を忘れてしまっているが妾にもわかることはあるのだ!」
「わかること?」
僕の問いかけに信長様は子供らしくニッコリ微笑む。
「頼友にとってその北条政子というのはとても大事な人ということなのだ」
「大事な人……」
「そうじゃろう?頼友がこんなにも息を切らしてしののめを探しまわっているのだ」
信長の言葉に僕は言い返すことができなかった。
いつもだったら「だれが政子のこと大事な人だなんて思ってるんだよ」って笑い飛ばすところなんだけどこの状況では流石にそんなことも言ってられない。
「確かにそうだよ、政子は大事なやつだ」
僕は素直な気持ちを吐露する、きっと今の信長が北条政子のことを覚えていないから言えたんだと思う。
いたらいたでくっそ迷惑な事しかしない癖に今、あいつが側にいないことに僕はかなり焦りを感じ始めてるんだからな。
「もしかしたら信長様の力を借りるかもしれない、その時は助けてくれ」
政子がいない今、万が一『イクサカーニバル』で戦うことになったら戦闘面の方で頼れるのはこの織田信長しかいない。
それは、あまり考えたくない話でもある。
「ほう、妾に頼み事とは高く付くぞえ。なんてったって鳴かぬなら~殺して食べちゃうぞほととぎす~な妾だからな」
着物の裾から小さなホトトギス手の上に取りだしにんまりと信長様は笑う。一方殺して食べるなんて宣言されたホトトギスは恐怖にガクブルと身を震わせていた。
「かもな。でも、他に頼む人がいないんだ焼き鳥の数本くらいなら……」
「焼き鳥三百本は用意するのだ、頼友」
「は、はぁ!?」
信長の口からでた数字に僕は驚きの声を上げる。あまりに度が過ぎている、なんだ三百本って!
というか昨日は三百万円で今日は三百本の焼き鳥って三百という数字に変な所で縁があるな。
「というか流石にそれは多すぎだろ」
「こうしょーと言うのは相手を見てするものなのだ!優位に立っているなら多少吹っ掛けても相手は飲まざるを得ないのだ~!」
まさに悪戯っぽく笑う信長に思わず頭を抱えてしまう。
だからっていくらなんでも吹っ掛けすぎだろ……って言いたくなるが確かに今の僕はこの幼女に頼らざるをえない部分があるのも事実だ。
「わかったよ、焼き鳥三百本……一度には食えないだろうから分割な」
「全部タレで頼むのだ~。あっ、別に塩が食べれないわけじゃないのだ、塩を頼んで通ぶってる輩が妾は嫌いなだけなのだ~」
「はいはい、どっちでもいいよ。それじゃ今度こそ僕は行くから」
「どっちでもじゃないのだ~!タレじゃなきゃ嫌なのだ~!」
背中に聞こえる信長の声を聞きながら僕は再び走りだした。ったく、どうしてこうも『イクサカーニバル』から来た武将共は食い意地が張っているのかね。
「政子、大丈夫だよな」
廊下を抜け階段を二段飛ばしで下りながら口から不安が溢れる。
全くいたらいたで厄介事しか起こさないけどいなくなってもこうやって迷惑かけてくれる。
けどあいつがいないだけでこんなにも不安でどうにかなってしまいそうになってるんだからな。
「はぁはぁ……えっと1-Aだったよな」
一年生のクラスがある一階に辿り着くと僕は東雲さんのいる1-Aに向かう。
受験生なのに僕もこんなに息を切らしてなにやってんだ、政子に会ったらたっぷりと文句言ってやらないと気が済まないぞ。
「ここか……ごめん、君。東雲千影さんを呼んでもらえる?」
僕は扉付近にいた茶髪にショートカットの可愛らしい女子生徒に声をかける。なんとなく近くにいたからなにも考えずに声をかけたけど恐らく普段の僕だったら声も掛けれないくらいの子だ。
まぁそれはあまり今の状況には関係はないんだけど。
「えっ、あ~はい。千影ちゃんですね」
そう言って彼女が教室を見渡すのに合わせて僕も教室を覗きこむ。東雲さん、クラスで千影ちゃんなんて呼ばれてるんだ……あんな常日頃仏頂面な割には結構クラスにとけこんでいるんだなぁなんてお節介な話だが思ってしまう。
「ん~千影ちゃんいないですねぇ、もうすぐ授業始まるのに先輩すいません」
しばらく辺りを見渡した彼女は申し訳無さそうに言う。
確かに僕が見る限りでも東雲さんの姿は教室にはない、あんな巨乳眼鏡……いや特徴のある女性ならすぐにわかるはずなんだけど……。
もしかして避けられている?まぁ昨日なんてなんだかんだで受験生なのにエロDVD片手に騒いでたから避けられててもしょうがないといえばしょうがないんだけど。
東雲さんも会いたくないと思った時にはすぐ現れる癖に会いたいと思ったときには会えないんだから困る。
たがもうそろそろ始業のチャイムが鳴る頃だ、気になって授業に集中はできないだろうが僕も教室に戻らないといけない。
「ああ、それならそれで東雲さんが戻ってきたら伝言を……」
そこまで言いかけた僕の目に一人の男子生徒の姿が映る。教室の一番後ろの席、楽しそうに談笑している周りから孤立しているような感じで一人本を呼んでいるその生徒、僕はその彼に見覚えがあった。
少し幼い顔立ちに僕が言うのもなんだけど少し気の弱そうな感じ、昨日政子に告白していた男子生徒だ。
「あっ、ごめん。あの子って西陣君だっけ?ちょっと呼んでもらえるかな?」
「あ~いいですよ。お~い西陣、この先輩があんたに話があるって!」
女子生徒の声に教室にいる一年生の視線が全員こちらに向く。僕だけかもしれないがなかなか他のクラスを訪ねるというのはいささか抵抗がある、同じ学年の隣のクラスでさえそこには普段見ない教室が広がっているわけであってましてそれが別の学年ともなれば訪ねる方も訪ねられた方も緊張が走るってものだ。
「えっ……!あっ、はい!」
僕と同じ感じだろうか、西陣君は女子生徒の声に体をビクつかせて反応する、そして更に扉の前に立っている僕の顔を見て更に驚いた表情を見せる。
僕からすれば今日の今日、日向さんに名前を聞くまで知らなかった生徒だけども恐らく彼は僕のことを知っているんだろう、緊張しきっているといった感じで僕の方へ近づいてくる。
「あの、僕に用です、か?」
「ちょっと話があるんだけどいいかな?」
「あっ……はい」
不安そうな表情で西陣君は頷く。
そりゃそうだろう仮にも僕は先輩だし、いきなり呼びつけられて不安に感じない人はいない。ましてそれが昨日自分が告白した相手とよく一緒にいる人物だとしたら尚更だ。
「ここじゃなんだし、場所変えようかすぐ終わるから」
「はい……」
歩きながらそう言うと西陣君は再度頷く。こりゃあれだ、完全に僕のことを怖がっている感じだぞ……「僕が昨日北条さんに告白したから」ってそんな雰囲気が漂っている。
「って、あれ?これってもしかして」
自分で言っていておかしなことに気がついた。
ただ僕としては東雲さんと会えないままなにも手がかりなしに帰るのもあれだからと思ってダメ元で昨日政子に告白してた彼に話を聞こうと思ってたのだけどこの反応もしかして……?
「それで、ええっと話ってなんでしょうか、平野先輩」
中庭に出たら話しかけようと思っていたのだが緊張に耐え切れなかったのか西陣君が声をかけてくる。
「僕の名前知ってるんだな」
「あ、はい……平野先輩は結構有名ですから」
「へ……へぇ、それじゃ僕の聞きたいこともわかると思うけど」
「……っ!」
緊張からなのか恐怖からなのか西陣君は僕から顔を逸らす。いかん、僕も僕でなんでそんな西陣君を怖がらせるような返事をしてしまったんだろう。
「すいません、平野先輩は北条先輩の彼氏ですもんね……昨日僕が告白したことを聞いてこうして」
「いやいや僕は別に政子の彼氏とかじゃな……ちょっと待て!!」
思わずはりあげた声に西陣君は更に顔を強張らせる。今でも言ったよな?確かに言った。
「今間違いなく政子、いや北条さんって言ったよね」
「い、言いましたけど……えっとそれがなにか」
「みんな忘れてしまってるんだ、政子のことを」
「えっ……じゃあ、やっぱり」
西陣君は急に驚いた声を上げる。なにか思い当たる節があるようだ。
「やっぱりって?」
「えっと僕、平野先輩にこれを言うのはあれなんですけど見てください」
そう言って西陣君は一枚のカードのようなものを僕に見せる。ラミネート加工された名刺のようなそれには手書きで『超絶美少女北条政子ちゃんふぁんくらぶ』と書かれていた。
「あいつにファンクラブなんてものがあったのか」
「す、すいません僕達が勝手に作ったものであの北条先輩の彼氏である平野先輩になにも聞かず」
「いやだから彼氏じゃないって」
何度目かという彼氏じゃないアピールをしながら僕はその会員証に目を通す。まぁ話には聞いてたけど実際に見たのは初めてだ。しかも会員ナンバーは三桁もあるじゃないか、どんだけいるんだよあいつのファン。
そしてそりゃ、そんな人気者の政子とよく一緒にいる僕が有名と言われたり彼氏だと思われたりするのものなんとなく頷ける。
「それでこのファンクラブの会員証がどうしたんだ?」
「僕だけなんです、ファンクラブまであったのに北条先輩のことを覚えているの。昨日まではこのブロマイドも皆大切にしていたのに今日になって急に皆『誰だっけこの子』ってなって」
「ブロマイドって、もしかして握手会のか」
僕の問いに西陣君は頷くと自分の手帳を開き、ブロマイド写真を見せる。
握手会、以前に政子が急にアイドルをやりたいとかいいだして学校で握手会を開いたことがあったのだがその時にブロマイドを買うと握手券が貰えるとかやったあれのことか。
確かに西陣君の手帳には政子が保健室で白衣を着てベッドに寝そべっているブロマイドが挟まっている。
「はい!今まで遠くで見てるだけしかできなかった僕が北条先輩と話すことができてそれでますます好きになって……」
そうやって政子のことを語る西陣君はどこか嬉しそうだがすぐに我に返り頭を下げる。
「す、すいません変なところで盛り上がってしまって」
「いや、いいよ。でもなんでなんでなんだろうな、政子のことを覚えているのが僕達二人だけってのは」
僕は会員証を西陣君に返しながらそう言う。
「それは僕にもわかりません。もしかして今北条先輩は平野先輩のところには」
「ああ、昨日から色々あって帰ってきていない……」
そうあの源頼朝のところに政子が行ってから、急にこんなことになってしまった。助けてもらったあの人のことを悪く言いたくないが正直今回のことに僕は源頼朝が絡んでいるのは間違いないと思う。
「あ、あの!僕はその勉強も運動もできませんけどなにか助けになることがあれば言ってください!」
「それじゃ教室に帰ったら東雲さんを捕まえておいてくれないかなもうすぐ授業始まっちゃうし、とりあえず放課後コンピューター室に連れてきておいてくれればいいから」
本当はもっと早く東雲さんと会って今回のことを話したいのだけど授業と授業の間の休憩時間じゃまともな話もできないだろうし致し方ない。
「えっと僕が放課後、東雲さんをコンピュータ室に連れて行けばいいんですね」
恐らく西陣君は東雲さんの正体を知らないのだろう、よくわからないと言った感じだがそれでも彼は頷き答えてくれる。
「ああ、頼むよ西陣君。それはそうと、この話とは関係ないんだけど一つ聞いてもいいかな?」
「はい、なんですか平野先輩」
今から聞くことは本当に関係ないことだ、ただの興味本位というかそんな感じなんだけど。
「西陣君、政子のファンクラブに入ってるけど告白なんてしてよかったのかい?」
「それは・・・・・・」
よくわからないがこういうファンクラブの人間が告白するなんてのはなんか抜け駆けと言うか万が一告白が成功してたら相当周りから恨まれそうな気がするんだけど。
「やっぱり僕、北条先輩のことが好きなんです」
今までのおどおどしていた様子からは考えられないくらいはっきりとまっすぐした目で西陣君は言う。
「確かにファンクラブの掟みたいなものに抜け駆けしないみたいなものありましたけど、そんなの関係ないんです。僕は北条先輩に想いを伝えたくてずっとしかたなかったんです」
「そうか・・・・・・」
「僕なんて眼中にないことも北条先輩に好きな人がいるのも知ってました。でも知ってほしかったんです、僕のことを」
やれやれ、本当罪作りな女だなあいつはと思わず口角が上がる。
「西陣君は今でも政子のこと、好きかい?」
「はい!フラれちゃいましたけど、今でも好きです」
西陣君ははっきりした口調で答える。
なんていうかこう目の前で政子の事を好きだと言い切られると西陣君の素直さには怒る気どころか関心してしまうな。
「あっ、すいません。やっぱり平野先輩からすれば怒りますよね」
「いや、怒るとかないよ。なんていうか政子を好きでいてくれて、ありがとう」
自分でもこんなことを言えるんだなとなんか言ってて恥ずかしかった。でももしかしたら西陣君が政子のことを覚えてたのは強く強く想っていてくれたからなんじゃないかと思う。
「じゃ、もうすぐ授業始まるから東雲さんの事頼んだよ」
「はい!任せてください平野先輩。それでは失礼します」
西陣君は深く頭を下げると踵を返し教室へ帰っていく。
西陣君は政子の事を覚えているのがこの世に僕だけなのかと不安になってたところに現れた小さな希望だ。
「待ってろよ政子」
始業五分前を知らせるチャイムがキンコンと鳴る、僕は一人呟きながら教室へと走った。



「え~それでは、みなさん今日は風も強いので気を付け・・・・・・」
「先生、さようならです!」
三樹先生がまだるっこい終礼の言葉を言いきる前に僕は席を立ち教室を飛び出す。
今日ほど放課後になるのが待ち遠しかった日はない。
授業中はずっと上の空、クラスのみんなも先生達も政子がいないことに誰も気がつかず、誰も覚えていないまま平静としていることにもはや動揺もすることも問い詰めることも諦めた。
一刻も早く授業が終わり放課後になることだけ望んでいた。
「一年生はもう授業終わってるはず」
授業が終わりぞろぞろと廊下に出てきている生徒達の間を抜け走り抜ける。
階段を駆け上がり息が切れるのも構わず突き当たりのコンピューター室の戸を一気に開け放つ。
「あっ、平野先輩」
「朝といい騒がしいぞ頼友」
僕の姿を見た西陣君と信長様がほぼ同時に声をかけてくるが僕はその言葉を無視し、そのまま一番奥に座っている東雲さんの前まで近づく。
「はぁはぁ、東雲さん!」
僕の叫び声にも東雲さんは動じることなくこちらを一瞥するとすぐに目の前のノートパソコンの方に注視している。
「わざわざ西陣さんに私を引き止めさせてまでなにか御用でしたか、平野頼友」
「政子をどうしたんだよ、皆政子の記憶がなくなってるし」
「どうした、と言われても私はなにもしていませんよ」
こちらを見ること無く東雲さんは言う。この感じ、東雲さんは政子のことを覚えているらしいけどなにもしてないなんてことはどうしても考えられない。政子の記憶だけがなくなるなんてこと、そんなことができるのは『イクサカーニバル』に関係している人間しかいないんだからな。
いやでも、今東雲さん『私は』って言ったよな?
「じゃあ、どうしてこんなことになってるんだよ!誰がこんなこと……」
「恐らくそれは私の父がやっていることですよ」
「えっ……」
あっさりと東雲さんが解答を持ちだしてきたことに思わず面をくらってしまった。てっきりなんだかんだと言って教えてくれなさそうと思っていたからな。
「なにを驚いているのですか?まさか私がなにか貴方に秘密にしなければならないことがあるとでも?」
さも当然といった感じで東雲さんはキーボードでなにかを打ち込みながらそう言うけど、以前からちょくちょく質問しても「貴方は知らなくてもいいことです」とか「好感度が足りません」とか返してきてたじゃないか。
「いやでもなんか朝から避けられてるような気がしたし」
「卑猥なDVDを片手に燥いでいる受験生がいたら当然近づきたくはないでしょう」
「ぐっ……!それ引っ張るのかよ!」
そもそもあれは三奈本の奴が渡してきたものであって・・・・・・って、今はそんなことを言っている場合じゃないか。
「と、とりあえず!そこまで言うのなら僕の質問に答えてくれるってことでいいの?」
「私はあくまでGM、イクサカーニバルのゲームマスターであってどちらかの誰かの味方とかそういうものではありません。答えられるところは答えますし、答えられないところは答えない・・・・・・ただそれだけです」
その答えられる部分と答えられない部分が正直曖昧なんだがこうなったら数打ちゃ当たるで質問していくしかなさそうだ。
まぁでも全く教えてくれないよりか全然ましだもんな。
「それじゃ聞くけど」
そう前置きして僕は東雲さんの机の前に椅子を置き座り込む。今回の事件、東雲さんの父親がやっているってことだけど色々と整理しなければいけないことが多すぎる。
「昨日僕はイクサカーニバルから来たって言う源頼朝と会ったんだ。源頼朝の話じゃ政子と同じ時期にこちら来てたらしいんだけど、東雲さんは知ってたの?」
まずはこれだ、東雲さんは政子が「扉形成プログラム」でこちらの世界に勝手に来たことを察知して連れ戻しに来たんだ。同じ時期に源頼朝が現れたのなら知っているはず。
「源頼朝?知っていると思いますがイクサカーニバルは戦国時代をモチーフにしたネットワークゲームです、データとしても存在しているわけがないでしょう」
「いやでも政子がテスト用キャラクターとしていたんだから源頼朝がいても」
「いません、万が一いたとしてもあの時の私ならすぐに見つけ放置しておくことなんてありえないでしょう。北条政子の件ですら特例でこちらの世界にいることを認めたくらいですし」
東雲さんははっきりとそう言うと小さく息を吐く。
そうだ、そうなんだよ・・・・・・この完璧主義の東雲さんが見逃すわけがない。じゃああの源頼朝が言ってたことは嘘ってことになるわけだ。
「あ、あの平野先輩!」
考えを巡らせていると西陣君が話に割り込んでくる。
「ん、どうした?」
「あの二人の話を聞いててちょっと気になったんですけど北条先輩ってゲームの世界からやって来たんですか?」
「あっ・・・・・・」
西陣君の言葉に今更ながらに僕たちはとんでもない重大なことを話していることに気がついた。
そりゃそうだよな、僕は何度もイクサカーニバルから来た人を見てきたからなんとも思わないけど西陣君から、いや普通の人間からすればゲームから人が飛び出てくるなんて創作内の話だけでしかありえないことだ、驚くのも無理はない。
「ん~まぁ、実はそうなんだ。いきなり言われても信じられないとは思うけど」
「妾はイクサカーニバルからきた織田信長なのだ、だいろくてんまおーだぞ、てんまおー!」
「ええっ、そうなんですか!?」
小さな胸をつきだし、そう言う信長に西陣君は驚きを隠せないようだった。
「ふふのふー!少年よ、世の中には常軌を逸した現象がいくらでもあるのだ~。それで話は戻るが頼友、お主は本当にその源頼朝とやらを見たのか?」
「勿論見たよ、物凄くイケメンで金持ちで・・・・・・あの人にトラブルを解決してもらわなかったら今頃どうなってるかわからなかったんだから」
今思い出してもあれは確かに源頼朝だ、だってそう名乗ってたし名刺ももら・・・・・・
「あっ!!!」
なんで僕はこんな大事なことを忘れてたんだろう。昨日源頼朝から僕は名刺を貰ってたじゃないか、しかもなにかあったら連絡してくれって言われたのになんでいままで忘れてたんだ。
政子の近くにあの人はいるだろうし、初めからこうすればよかったんじゃないのか?
そうすれば政子が今どうしてるとかそういうのだってはっきりわかるはず、もしかしたら案外普通にポテチとコーラを食しながら平然としているってことも……。
「どうしたんですか平野先輩」
「源頼朝から名刺を貰ってたんだ、もしかしたら直接連絡がとれるかもしれない」
僕はポケットから昨日源頼朝から渡された名刺を取り出す。
「平野頼友、その名刺少し見せてもらえますか」
「えっ、ああいいけど・・・・・・どうするの?」
そのままスマートフォンで連絡取ってみようと思ったのだがそれよりも先に東雲さんが僕の目の前に手を差し出すのでしぶしぶその名刺を手渡す。
「勿論調べるんですよ、すぐに終わるので待ってください」
そう言うが早い、東雲さんは素早い手つきでキーボードでなにかを打ち込みものの数秒で答えを弾き出した。
「なるほど、わかりました」
「はやっ!それでなにかわかったの?」
「この住所もこの電話番号、どこにも存在しませんし繋がることはないようですね。そして先程言ったように私の知る限りイクサカーニバルに源頼朝という存在しません、つまり……」
そこまで言いかけて東雲さんは一瞬口をつむんだ。僕にはよくわからないが東雲さんには東雲さんでやはりなにか知っていることがあるようだった。
「おそらくその源頼朝は別のキャラクターの上にテクスチャーを貼り付けた偽者、そして北条政子をおびき寄せるための餌なのでしょう」
「テクスチャーを貼り付けた偽者……」
急に飛び出してきた言葉に思わずオウム返しに答える。テクスチャーってあれだよな、3Dモデルとかの表面とかになにか画像を貼り付けるその画像のことだ。ただの四角い箱でも木目のテクスチャーを貼れば木の箱に、金属っぽい質感のテクスチャーを貼れば鉄の箱になる、つまりあの源頼朝は他の誰かのキャラクターに源頼朝というテクスチャーを貼り付けた偽者ってことか。
「夏のときもそうだったけどなんでそんなに東雲さんのお父さんは政子のやつを狙ってくるんだ!?」
夏休みに海の家でバイトしたときもアミューズメントパークの建設を強行されたくなければ政子を差し出せとか言ってきたんだよな。あの時は結局色々あったけど最後は東雲さんがなにか話し合ってくれてなんとか事なきを得たんだけど。
「そろそろ教えてくれてもいいんじゃないのかな、東雲さんのお父さんのこと」
「……。」
僕の言葉に東雲さんの表情が曇った。言葉にはしなかったが明らかに自分の父親の事を語るのが嫌というのがこちらに伝わってくる。
「・・・・・・わかりました、夏の時に確かに『もう北条政子に手はださない』と言う約束をしておいてこれですから」
しばらく考え込んだ後、東雲さんはゆっくりと口を開いた。
「私の父、東雲景造は薄々と気づいているでしょうが『イクサカーニバル』の基礎的な部分を作ったプログラマーです。父は自分の組むプログラムが独学であり更に難解すぎて他の人には解析できないことをいいことにそこで理想的な女性を造り出そうとした、それが・・・・・・」
「それが政子なのか」
言葉を繋いだ僕に東雲さんが頷く。
「ご存じの通り『イクサカーニバル』はネットワークゲームです。そのゲーム内でプレイヤー同士が行う会話から知識や情報、感情などをサーバーに蓄積させ人格として昇華させたわけです」
淡々と東雲さんは語るがどこをとっても本当にできるの?って聞きたくなるような難しいことばかりだ。
でも東雲さんのお父さん、東雲景造は実際にそれをやってみせたからこそ政子や織田信長が生まれているのだろう。
「そのままテスト用のキャラクターである北条政子の人格だけが固定されれば良かったのですが困ったことに人格形成はゲーム内の他のキャラクターにまで影響を及ぼしたのです。それだけならまだ良かったのですが人格形成がなされたキャラクターの中には野心を抱くものもいた、平野頼友・・・・・・貴方にも心当たりあるでしょう?」
「伊達政宗か」
伊達政宗は僕が『イクサカーニバル』でトップランカーをしていたときに使っていたキャラクターだ。苦楽を共にし、一緒に戦い育って相思相愛だと思ってた僕と伊達政宗だったけど伊達政宗は人間に使われるのを嫌い現実世界に侵攻をしようとしていたんだ。
「そうです、現実世界への侵攻を目論んだ伊達政宗はその時まだ未完成であった『扉形成プログラム』を見つけだし使おうとした」
「でも伊達政宗が現実世界に出てくるよりも先に出てきたのは北条政子だったんだよな」
「ええ、それは完全に東雲景造としては計算外のこと。しかも不完全な人格形成のままで北条政子は現実世界へ現れてしまった、最初貴方が会った北条政子と今の北条政子は少し人格に違いがあったでしょう?」
「そう言われると・・・・・・そんな気もする」
言われるまで気がつかなかったが最初に会ったときの政子は喋り方がおかしかったような、どこか古い人間の喋り方をしていたような気がする。なんとなくキャラクターが固まっていない、みたいなことだと思ってたけどあれ人格形成が出来ていなかったのか。
「でもそれなら今の北条政子は東雲さんのお父さん理想から外れているんだろ、それならもう政子に固執しないで別のキャラクターを作ったほうが早いんじゃないの」
そもそもなんで北条政子が理想の女性なのかがよくわからないな。歴史的なことはあまり知らないが美人なら三大美女に入ってたり入ってなかったりする小野小町でもいいじゃないかなんて思う。
「そこまでは私はわかりません。ただ父は北条政子に固執し、自分の理想の女性を作ろうとしているのは変わりません。そしてそのためには北条政子の人格をリセットし新しくすることも躊躇わないでしょう」
「人格をリセット!?そんなのダメだ!!!」
興奮した僕は声を張り上げ机を思いっきり叩く。なにがどうしたら東雲さんのお父さんの理想の女性になるのかはわからないけど、僕が知っているのはあの北条政子だけだ!
だが東雲さんは微動だにせずじっとこちらを見つめると
「なにがいけないのですか?ここまで言っておいてなんですが、貴方には関係ないことでしょう」
そう辛辣な言葉を僕に浴びせてきた。
「いや、関係ないってことはないだろ!?」
「そうですか?平野頼友、貴方は北条政子のことを迷惑だと昨日言っていましたよね。迷惑だと思っていた北条政子がいなくなったことは貴方にとっては吉報であり、その北条政子の人格がリセットされようが関係ないでしょう」
「ぐっ・・・・・・!」
東雲さんの言葉に僕は言い返す言葉を失っていた。確かに最近受験勉強で苛立ってたし邪魔してくる政子の事を疎ましく思ったこともあった。
東雲さんどう思ってるか聞かれて迷惑だとも答えた、だけどそれはいなくなっていいなんてことなんかじゃなくて!
「で、でもだ!あの源頼朝が偽者だって言うんならそいつの言いなりになって人格をリセットするなんておかしいだろ、あいつを・・・・・・政子を助けないと!」
みんなの視線が僕の方を向く、そしてなぜか各々がやれやれと言った感じでため息をついた。
「え、なんだよ!なにか僕おかしいこと言ったか?」
「まったく、素直じゃないのぉ頼友は」
「そうですね、平野先輩もっと素直にならないと」
信長様に肘で小突き、西陣君が軽く笑みを浮かべる。なんだなんだよぉ、こいつらは俺に何を言わせたいんだ。
「なんの心変わりがあったのかは存じませんが、助けたいと言うのであればご案内しますがどうします?」
そんな中、変わらずの仏頂面で東雲さんはキーボードを弾きながら言う。
「ご案内って、政子のいる場所がわかるのか!?」
「ええ、源頼朝はわかりませんが今検索した限り北条政子は『イクサカーニバル』内にいるのは間違いないようですし」
「ならすぐに僕を連れていってくれ!」
叫ぶ僕の瞳を東雲さんはしばらく黙って見つめていたが最後には呆れたように息を吐き視線をそらした。
「わかりました、そこまで仰るのであれば『扉形成プログラム』で『イクサカーニバル』の世界へとお送りします。ですが、相手は東雲景造ということをお忘れなく」
「わかってる・・・・・・でも政子と一度話がしたいんだ」
東雲さんは答えなかった。しばらくキーボードでプログラムを打ち込み走らせる。
「扉形成プログラム」起動します」
東雲さんの言葉と共に指先が数字とアルファベットに変わっていき次第に宙に霧散していく。
腕の感覚はある、あるがもう僕の目には見えなくなっているという不思議な感覚。
政子の「傀儡政権」もそうだがこの「扉形成プログラム」も毎度のことながら慣れる気がしない。
そんなことを思いながら僕の意識はプツリと途絶えた。




「ぐっ、んんんんっ・・・・・・」
呻き声をあげながら僕はその場から起き上がる。立ち上がったときに触れた土の感触、そして鼻をくすぐる草の香り、天から降り注ぐ太陽の光・・・・・・どれもが現実の感覚とほぼ同じで感じられるがそこは間違いなくさっきまでいたコンピューター室ではなく「イクサカーニバル」の世界だった。
「よし、とりあえず政子を探そう」
ズボンについた土埃を払うと辺りを見渡しながら歩き出す。
周りの情景は僕の心情とは真逆で穏やか、小川のせせらぎに小鳥の囀ずる音、全てからマイナスイオンだとかα波でも出てるんじゃないかってくらいにこの場所は平和そのものだ。
「あそこ・・・・・・か?」
僕は石畳の続く先、丘の上を見上げる。上がどうなっているのかはここからではわからないが天に向かって四本の柱が伸びていているのが見える。
「・・・・・・。」
頭の中で様々な考えが巡りながらもゆっくりと歩を進める。
果たして僕に源頼朝、そしてそれを裏で操る東雲景造から政子を助け出すことができるんだろうか。
いや、できるんじゃなくてやるんだ!そのために僕はここにきたんだ。
「政子・・・・・・っ!」
丘の上まで登る。四方を柱が聳え立つその中心に政子の姿が見え僕は叫ぶが
「・・・・・・なんだ、頼友か」
と政子は玉座のような豪華な椅子に座り退屈そうに呟いた。
先程まで辺りに見えていた自然溢れる情景とはうってかわり丘の上はなんの機械かわからないが至るところからケーブルのようなものが伸びそれらが全て政子の座る玉座に繋がっている。
「こんなところまで来てなにか用?」
「なにか用、じゃないよ!家に帰ってこないと思ったらこんなところでなにしてんだよ、心配するだろ!」
「ふぅん、頼友は私を心配してくれてるんだ。てっきり邪魔者がいなくなって清々しているんだと思ってた、一応ありがとね」
玉座に肘をつき政子は感謝の言葉を述べるがそんな態度で言われたってなんにも響いてきやしない。
「でももう頼友に心配してくれなくても大丈夫、私にはもう運命の人である源頼朝様がいるんだからね。だから帰ってもら・・・・・・」
「帰らねぇよ!僕は政子、お前を連れ戻しにきたんだ!」
僕は政子の言葉をかき消すように力一杯叫ぶ。だが政子はなにがなんだかわからないような表情で小首をかしげるだけだ。
「連れ戻すってなにを言ってるの頼友?帰るわけなじゃない、ないじゃないったらないじゃない!私は頼朝様さえいればそれでいいんだから」
政子はそう言うと玉座の後ろからケーブルの繋がったスイッチのようなものを取り出す。
「私がどれだけ本気で源頼朝様のことを想っているかのかわからないんでしょ?頼友このスイッチを押すとね、私の人格が消えて新しい私が生まれるの、それで私は源頼朝様の理想の女性、理想の北条政子になるの!」
「そんなのいいわけないだろ!!!ダメに決まってる!」
政子の叫びに被せるようにして僕も叫ぶ。やはり東雲さんの予測通り東雲景造は政子の人格をリセットしようとしている、源頼朝を使って政子を騙し、自分の理想の女性を作るためにだ。
「なんで頼友にそんなこと決められなきゃいけないのよ!関係ないじゃん!」
「お前、自分がやろうとしていることわかってるのか!?人格が消えたらもうそれはいくら源頼朝の理想の女性だろうがなんだろうがお前じゃなくなるんだ!」
「いいもん、それでも!源頼朝様に愛されない北条政子なんていらない!」
「違う北条政子になったらもうポテチやコーラも食べれないんかもしれないし、漫画読んだり僕にゲームの相手をさせることもできないかもな・・・・・・あんなの理想の女性のすることじゃないからな!」
自然と僕の頬を冷たいものが伝う。もう自分でも何を言っているのかわからない、感情のまま言葉を吐き出す。
「でもそれがお前の良いところだろ、理想の北条政子なんかなる必要ないだろ!!」
「うるさい、うるさい!自分がモテない童貞のくせに人の恋路まで邪魔するなんて最低よ、最低!鹿に蹴られて死んじゃいなさいよ!」
「・・・・・・っ!童貞は関係ないだろ!それにそれを言うなら鹿じゃなくて馬だろ!お前馬鹿じゃないの!?」
叫びながも僕は首を横に振る。
違う、僕は政子と言い合いをするために来たんじゃない、そんなことよりも大事なことを伝えないと。
「いいかよく聞けよ政子、お前が源頼朝だと思っている奴は偽者なんだよ」
「にせもの?」
意味がわかってない様子の政子に僕は言葉を続ける。
「そもそもやっぱり源頼朝なんて『イクサカーニバル』には存在しないんだ、これは東雲さんのお父さんによる罠なんだよ!」
「罠?ハァ……どこまで私の恋を邪魔したいのよ。そんな適当なことを言って」
「適当なことじゃない!」
「じゃ、証拠見せてよ証拠!」
頬を膨らませ言う政子に思わず言葉を失う。確かに疑わしい部分は沢山あるんだけどこれだというものは一つもないのも事実だ。
言葉をつまらせている僕に政子は不満を露わにする。
「ほら~!なにも証拠がないんじゃない、ないんじゃないったらないんじゃない!」
「いや、確かに証拠はないけど……」
「やれやれ、困った人ですね平野頼友」
僕の言葉を遮りどこからともなく声がする。その声の主の正体に気づいたのとほぼ同時に僕と政子の間の空間が歪み、
ゆっくりとスーツ姿の男───源頼朝が現れる。
「源頼朝!」
「〈インビジブル〉のスキルでずっと隠れて話を聞いていましたが、平野君の言い分は無茶苦茶だ。あまりそういう事を言って北条さんを惑わせないでもらいたいですね」
源頼朝は表情こそ昨日と同じ柔和で優しい感じだが言葉だけは明らかに僕に対して敵意が向けられている。
このまま証拠がどうとか言い合いした所で僕がジリ貧だ、なにか決定的な何かを突きつけない限り、
「じゃあ聞くけど源頼朝、あんたは本当に政子のことを想っているのか?」
「勿論ですよ。平野君は突然現れた私に北条さんを取られて混乱しているのでしょうが醜い言いがかりは止めていただきたい」
「それじゃ別に政子の人格をリセットする必要なんてないだろ、それともなにか?人格をリセットしないと愛せませんとか言うつもりかよ!」
証拠がない以上、針の穴ほどの小さな隙をついて源頼朝から決定的な証拠を引き釣り出す、それしか今の僕に手はない。
「なるほど、平野君からすれば人格をリセットすることが気がかりというのですね。確かに今の北条さんをよく知っているのは平野君ですから気持ちもわからないわけではありません。それならば構いませんよ、人格をリセットしなくても」
「えっ……!?」
予期せぬ言葉に頭が混乱する。源頼朝、いや東雲景造の目的は政子の人格をリセットして新たに理想の女性として作り変えることが目的のはず、それなのにリセットしなくていいってのはどういうことだ?
「なにを驚いているのですか平野君。私としてはどの北条政子であろうとも愛せると言うだけですよ」
「源頼朝様、私は人格リセットすることになんの躊躇いもないです!だってそれが運命であり、一番いいんだから」
「と、言うことです平野君。これは北条さんの意思であり私の意思ではないのですよ」
「……っ!」
言い負かすつもりが逆に外堀を埋めて理詰めで追い込まれている感じだ。
選択権を政子に預けて自分はどちらでもいいというスタンスを貫くことでこちらの言い分を回避してやがる。
しかもこれじゃ源頼朝に陶酔している政子は人格をリセットするという選択をするのも間違いない。
「やれやれまどろっこしいのぉ、頼友」
「えっ!?」
どうしたらいいか迷っていると背後から声がし思わず振り返る。
「信長様、どうしてここに」
そこにいたのは織田信長だった。現実世界にいたときの幼女の姿とは違う、体は僕よりも少しだけ大きく、着物だけは小さい時のままなので白い肩とか太腿とかが思いっきり露出している本来の姿の織田信長。
「朝約束したじゃろう?しかし、なにか策があるのかと思っていたのだが全くの無策で飛び出していくとはのぉ、頼友は惚けておるわ」
そう信長様は笑いながら言うと着物を翻し僕の前に出る。
「だがその蛮勇、妾は嫌いではないぞ」
信長様は腰のホルスターから黒塗り銃身に血のように赤いライン施した火縄銃型の銃『鬼殺し』を取り出し源頼朝に向ける。
「その源頼朝が本物だろうと偽者だろうと関係ない、妾は頼友の大事な者を取り返すだけ……邪魔をするのであれば戦場に転がる骸と化すぞ源頼朝」
「おやおや、随分と乱暴な人なんですね織田信長というのは」
銃をつきつけられているというのに源頼朝は余裕の表情を浮かべている。
「信長まで私と源頼朝様の恋を邪魔するの!?なんなのよったらなんなのよ!こうなったら私が相手に……」
「待ってください北条さん。貴女は私の妻となる人、こんな野蛮人と戦ってその綺麗な顔を傷つけさせるわけにはいきません、そこに座りゆっくりと見ていてください」
「つ、妻だなんて、きゃ~」
雰囲気ぶち壊しで顔を真っ赤にして喜んでいる政子。
それを横目に源頼朝は僕達の方へ一歩踏み出し天に向かって手を伸ばした。
すると何もない空間が歪み一振りの刀が姿を見せ源頼朝がそれを掴む。
「織田信長、第六天魔王だとかなんとか言いましたか。つまり魔王だ、魔王というものは常に勇者に滅ぼされるもの」
「この妾はそんじょそこいらの魔王とは違うぞえ、妾に刀を向けたことを後悔せてやろう!」
信長がそう叫ぶと徐ろに僕の首根っこを掴む。
「最初から全開で行くぞ頼友!」
「ふぁ!?えっ、ええ!?」
気がつけば信長の銃『鬼殺し』の銃口に巨大な白い光が集まっているのが見えた。
えっ、ちょっと待て!普通あれじゃないのか、玄人同士の読み合いだとかなんとかそういうのがあるんじゃないのかよ!
「最大出力!いっけぇぇぇぇっ!」
「いきなりぶっ放すのかよ!!」
僕のツッコミをかき消し信長の銃が巨大なエネルギービームを吐き出す。強烈な風が吹き荒れ地面が削り上がり土埃と共に自然と僕の体が浮き上がる、信長様に首根っこを掴まれてなければそのまま吹き飛ばされていただろう。
目の前は白い光で一杯で源頼朝どころか政子の姿も見えない。
「戦は先手必勝よ、後は野となれ山となれじゃ」
「だ、大丈夫なのかよ」
思わずそんな言葉が漏れる。いくら敵とはいえここまでいきなりやられるとちょっと心配になるじゃないか。
「さて、どうかな……?」
銃口からの光が止みゆっくりと煙が晴れていくのを信長はじっと見つめ呟く。
「全く戦国の武将というのは荒っぽくていけませんね」
煙の晴れた先は僕の予想とは大きく違っていた。四方の柱こそ信長様の銃の威力を物語るように跡形もなく崩れ落ち形を保っていないというのに源頼朝、そしてその後ろにいる政子には一切ダメージのようなものは見られない。
肩慣らしと言わんばかりに刀を振るい空を斬る源頼朝がため息混じりにそう言うだけ。
「無傷、とは少々予想外だな」
流石の信長様もその様子に渋い顔を浮かべる。今の一撃は恐らく信長様の攻撃の中でも一番威力の大きい攻撃だったはずだ、それが通じていないって一体どういうことだ?
少なくとも攻撃力って面で言えば信長様は全キャラ中一番強いはずなのに。
「あっ……!あれ、もしかしてマサムネブレード!」
僕の無駄に豊富な『イクサカーニバル』知識が一つの結論を導き出す。
間違いない、源頼朝が手に持つあの紫に包まれた刀身に見覚えがあると思ったけどSレア装備である『マサムネブレード』じゃないか!
「なんじゃそのマサムネブレードとかいうのは」
「いきなり言われてもわかんないだろうけどとにかくレアな武器だよ、一言で言うとあれを装備していると近距離攻撃だけじゃなくて遠距離攻撃やスキルをパリングできるようになるんだ」
「そんなチートな武器が存在してもいいのかえ!?」
信長様が思わず愚痴る。
そりゃそうだ、マサムネブレードなんてゲーム中でも持っている人がそうはいないレア装備だから性能もダンチだ。
まぁ僕もトップランカーの時には持ってたけどあの強さはレア装備の中でも群の抜いているって思ったくらいだもの。
「きゃぁ~頼朝様格好いいです~!」
「さて今度はこちらから行かせてもらいましょうか」
政子の声援を背に源頼朝がマサムネブレードを平に構える。
接近戦じゃ銃が武器な信長様には圧倒的に不利だ、かといって遠距離で戦うにも向こうにはパリングがある。
しかもあの一瞬でもタイミングを外したらもろにダメージを受けるって信長様の一撃を余裕で返してきたんだ、そうそうダメージを与えることなんてできないだろう。
「そう心配するでない頼友、こちらにまだ策はある」
心配する僕を察したのか信長様は僕の首根っこから手を離すと指をパチンと鳴らす。
「東雲、こやつは妾でも骨が折れそうじゃ!ちょっと早いがアレを頼む」
天に向かい信長様が声を張り上げる。
アレってなんだ?そもそも東雲さんはあくまで中立、僕を助けてくれるとは思えないんだけど。
「みなさんこんにちわ、『イクサカーニバル』運営チームです」
だがすぐに天の声とも揶揄される東雲さんの声が辺りに響き渡る。
「ただ今より、ゲリライベントを開催致したいと思います」
「ゲリライベントだって・・・・・・?」
イベントって、一体東雲さんはなにをやろうとしているんだ?
その場にいた全員がじっと東雲さんの声に耳を傾ける。
「イベント名は『鎌倉幕府よりの使者』、イベントワールドにてレイドボスである源頼朝を倒すミッションがプレイヤーには与えられました。なおより多くのダメージを与えたMVPには・・・・・・」
「クククッ・・・・・・なるほどさすが魔王と呼ばれているだけはありますね」
東雲さんの説明が続くなか、源頼朝は笑いを堪えるように口元を押さえながらこちらを、いや織田信長を睨み付ける。
「信長様、これって他のプレイヤーがここに来るってこと!?」
「そういうことじゃ。実はというとあの源頼朝の戦力というのがわからなくてな、それを見てからこの作戦を展開しようと初めから決めておったのだ」
信長がそう言うとほぼ同時だっただろうか、辺りの至るところの空間が歪み他のプレイヤーが操るキャラクター達が次々と飛び出してくる。
『あれがボスか!』
『やべ、武器間違ったかこれ』
『悪いけどMVPはうちのギルドがいただくぜ』
キャラクターの上にそんなメッセージウィンドウを表示させ多くの戦国武将が源頼朝に向かっていく。
現実の世界じゃまだ夕方、ログインしている人数でいえば深夜ほど多くはないがそれでもかなりの数だ。
「すごい、これなら勝てるかも」
「いや・・・・・・さすがにそうは上手くいかないだろう」
圧倒的だと僕は思ったがそれでも信長様の表情は固いままだった。てっきりこの物量に勝利を確信し高笑いでもするのかとおもっていたのだけど。
「上手くいかないってどういうこと?」
「あの源頼朝、この状況でなお余裕を見せている。恐らく雑兵がいくら来たところで傷ひとつ、つけることもできない」
先程撃ち放ち煙を上げている銃を構え信長様は言う。
「あやつらには悪いがこの銃が次撃てるようになるまでの時間稼ぎにしかならんよ」
時間稼ぎにしかならない?こんなにも人数がいて時間稼ぎが精一杯ってどんな強さだよ。
そんなことを思っている間にも他プレイヤーのキャラクターが源頼朝のところに辿り着く。
『よし、俺が一番乗りだ』
「わ、わ、わっ!なんなのよ、なんなのよったらなんなのよ~!いっぱい来てますよ頼朝様!」
「落ち着いてください北条さん、有象無象がいくら来たところで一騎当千、私は負けませんよ!」
源頼朝が刀を振るう。一見ここからだと単なる素振り、刀は空を斬っただけだったのだが。
ドンッという地響きのようなものがすると源頼朝を中心に強烈な風が巻き起こり辺りにいた武将を吹き飛ばす。
『なんだこいつ強い!』
『これ勝てるのかよ』
吹き飛ばされた武将達が血飛沫をあげながら口々にメッセージウィンドウを出しながら消えていく。
「なんだよこれ、物凄く強いじゃないか」
僕は次々と倒されていく武将を見つめながら思わず言葉が漏れる。
僕が見る限り倒されていく武将達はランカーではないにしろ装備している武器からしてそれなりに上級プレイヤーばかりだ。
それを源頼朝はほぼ刀を一振りしただけで簡単になぎ倒していく、まるでレベルがカンストした勇者が最初の町でスライムを相手にしているようなそんな感じ・・・・・・とにかく圧倒的な強さだ。
「やれやれ、戦力を分析して対決を組むのが東雲の仕事だがこれでは妾の出番もすぐかもな」
戦況を見ながら信長様も眉をひそめる。
僕がここに来た頃は自然豊かで穏やか、平和そのものだったこの場所も今や阿鼻叫喚の戦場とかしている。
血飛沫と悲鳴がこだまする戦場、ゲームの演出だってのはわかっているんだが苦悶の表情を浮かべながら消えていく武将を見ていると息が詰まりそうだ。
「おやおや、もう終わりですかね」
源頼朝が刀を振りながら息一つ切らさずに余裕を見せる。あまりに圧倒的な強さに最初こそ勢いがあった他プレイヤー達も源頼朝の周りで武器を構えているだけ。
『なんだよこれ、バグじゃないのか1ダメージも通らないぞ』
『これ以上デスペナもらうのは困るなぁ』
『もうやめだやめだ!』
中には諦めたのかログアウトしたり元いた場所へと帰っていく者も現れだし、こちらの戦力は確実に減ってきていた。
「ど、どうするんだよ信長様!」
「ふむ、プレイヤーが操っている状態の武将では勝ち目はないようだの。となればやはり妾が出るしかあるまい」
信長様はそう言うと大きく息を吐き一歩踏み出す。
「頼友、妾との約束・・・・・・ちゃんと覚えておるだろうな」
「約束・・・・・・ああ、それなら覚えてるけど」
信長様との約束、それって焼き鳥三百本のことだよな・・・・・・あれ、でもなんで今更そんなことを聞いてくるんだ?
「焼き鳥三百本、全部タレのことだろ」
「そうそう、ちゃんと忘れないでいるのだ」
背中を向けたままそう言う信長様の声がいやに遠くに聞こえる。
「あ、あれ・・・・・・?」
第六感とでも言うやつなんだろうか、僕の背筋に今まで感じたことのないような悪寒が走る。
なにか信長様が遠くへ行ってしまうような、もう一生会えないんじゃないかという予感に僕は叫ぶ。
「ま、待って信長様!」
だが僕の声は届かず、信長様はただまっすぐ源頼朝に向かっていく。
「魔王自ら来るとは、よもや策はつきましたか!」
「その減らず口、妾がチャックしてやるぞ!」
源頼朝が構える刀に信長様が銃を振り下ろす。銃で殴り付けるなんて信長様はなにをしようとしているんだ。
信長様の武器は銃、当然遠距離からバンバン撃つのが普通だ。
いくら遠距離攻撃が〈パリング〉されるとは言っても元々あれは近距離用のスキル、距離を詰めたところで封じたことにはならない。
それどころか織田信長は遠距離で戦うのが基本だから近距離で戦えるようなステータスの振りをしていないはず、一撃でも攻撃を受けたらまずい・・・・・・!
『あの織田信長すげぇ、ボスと互角に戦ってるぞ』
『うは、誰が操作してるんだ?』
他プレイヤーにはモニターを通して二人の戦いがどう写っているのかわからないが信長様と源頼朝の戦いは目で追うのもやっとという物凄い速さで展開していく。
「くっ、だけどあれじゃ・・・・・・」
一見すると信長様と源頼朝の戦いは互角のようだが、実のところは信長様は源頼朝の攻撃を防いでいるので精一杯と言った感じだ。
銃でそんなことをやっていること自体凄いんだけど攻撃に転じられなければ勝つこともできない。
「守っているだけは私に勝てるとお思いですか」
「なに、初めから妾は勝つつもりなどないのだ」
鍔迫り合いのように打ち合い、銃と刀が金属音を奏でる。
「よもやヤケクソですか、織田信長!」
源頼朝が刀で押し返し二人の距離が離れる。
土煙が巻き起こり、源頼朝が刀を平に返し突きの体勢を、信長様が銃を構えその銃口に光が集まる。
どこからともなく二人の間に一枚の木の葉が舞う。
一瞬の静寂、ゆらりゆらりと木の葉だけが舞い───
───地面に触れた。
「はぁぁぁっ!!!」
爆発する二人の怒号、ぶつかり合う気迫、次の瞬間ぴしゃりと僕の足元に血が飛んだ。
「織田信長、恐れるに足らず!」
「ぐっ・・・・・・!」
僕の目には考えたくない光景が写し出されている。
源頼朝の刀が信長様の胸を穿ち、背中から紫の刀身がその姿を見せていた。
真っ白な信長様の背中をじわりと血の赤が染めていく。
「やはり詰めが甘い、天下を取り損ねた者の末路ですね」
源頼朝は息を吐くと、刀を引き抜こうとした・・・・・・が!
「・・・・・・っ!残念ながら勝ち名乗りが早いのぉ、鎌倉幕府の者は」
信長様は抜こうとした源頼朝の腕を掴むと銃を顔面に突きつける。
「さすがの『ぱりんぐ』とやらも攻撃中は使えまい!」
「なっ・・・・・・くっ、初めからそのつもりで!」
「悪いが『てくすちゃー』という化けの皮、剥がさしてもらう!」
「くっ、貴様ぁぁぁぁっ!」
源頼朝の叫びを信長様が銃の引き金を引き、激しい轟音でかき消す。閃光と爆炎が巻き起こり二人の身体は反発しあう磁石のように弾き飛ばされた。
「信長様っ!」
弾き飛ばされ地面を転がる信長様の元へと僕は慌てて駆け寄りその身体を抱きかかえる。
「ったく、無茶しすぎだよ!相手に攻撃させて相討ちを狙うなんて!」
「ふふふっ、頼友・・・・・・妾の力、しかと見たか?」
「ああ、でもそんなことよりも回復しないと」
信長様の背中に回した僕の手は血でベットリ濡れ、胸元からも止めどなく血が流れ落ちている。
源頼朝の刀は確実に信長様の心臓を貫いている、人間だったら即死の一撃だ。
「妾の回復などいい、それよりもやつの源頼朝の化けの皮剥がしてやったのだ、しかと見るがいい頼友」
だが信長様は震える腕で倒れる源頼朝とその側で呆然と立ち尽くす政子の方を指差す。
「あの様子、北条政子も気づいただろう・・・・・・源頼朝の正体に」
「あれは・・・・・・でも、なんで!?」
ここから見える源頼朝の姿はさっきまでのスーツ姿とはうってかわり青いショートカットにハートの眼帯、頭に被った三日月を型どった兜と・・・・・・僕の見たことある、いやでもなんで!?
「伊達政宗・・・・・・それも頼友、お主の使っていたキャラクターが源頼朝の正体か、さすがトップランカーが使っていただけあって強敵だったな」
「いやでも伊達政宗はキャラクター消去してもういないはずじゃ・・・・・・」
確かにあの伊達政宗の格好はそうだ、僕がトップランカーになったときとそっくりそのまま、ハートの眼帯に使ってたマサムネブレードも同じだけどその伊達政宗は政子に『傀儡政権』をくらって自らキャラクターを消去したはず。
「さぁそこまでは妾もわからん。じゃがこれで邪魔者はいなくなったぞえ、妾に構ってなどおらず・・・・・・がはっ!行ってやらんか」
信長様が僕の身体を押し離そうとするがもうその手に力は籠っておらず動かない。それは信長様の死が近いことを痛烈に感じさせるには充分だった。
「信長様・・・・・・」
「なぁに泣きそうな顔をしておるんじゃ頼友は、妾はゲームのキャラクターなんだから死ぬことなんぞ何回も経験済みじゃ」
「それは、わかってるけど!」
ゲームのキャラクターだから死んだところでデスペナルティで経験値が減るだけ、それはわかってるんだ。
初心者の頃よくわからずに強い敵のところに行って死んだことも、自分の操作ミスで回復を怠り死んだことも、サーバーがラグって気がついたら死んでたことも何回もある。
普段はそんなこと気にもしたことなかった、せいぜい「あーあ、稼いだ経験値無駄になっちゃった」ってなるだけなのに
「信長様、ありがとう」
自然と言葉が出た。
今、自分の腕の中で消えかけていく命をみるとなんでこんなにも胸が苦しくて悲しくなるんだろう。
「全く世話のやけるのぉ頼友は・・・・・・だが妾が手伝えるのはここまで、あとは頼友お主が頑張る番・・・・・・わかるな?」
信長様の掠れる声に僕は黙って頷いた。
「ちゃんと伝えてくるのじゃ、全部終わったら焼き鳥パーティなのだ」
その言葉を最後に信長様の姿がスッと消えていく、僕の手についた血までもがだ。
「ああ、わかった。すぐに終わらせる」
僕は小さく呟くと立ちあがる。
『MVPはあの織田信長かぁ、凄かったなぁ』
『でもあの源頼朝、倒れた時のグラが伊達政宗だったよな?どういうことだろ』
他プレイヤーのメッセージウィンドウをくぐり抜けながら政子の方へと歩き出す。
「頼友……」
近づいた僕に政子が小さな声を上げる。足元で倒れている伊達政宗は近くで見るとやはり僕がトップランカーのときに使っていた伊達政宗なのは間違いないようだったがすぐに信長様の時と同じように姿が消えてしまう。
「全く、毎度毎度面倒事を起こしてくれるよな政子」
「うっ……」
僕の態度に政子はビクリと肩を震わせる。さすがの政子も今回のことには反省をしているのかさっきまでの気概がなく、いつもならピョンと跳ねているツインテールも元気がなさそうだ。
「源頼朝様じゃなかったんだ……」
「ああ、東雲さんのお父さんの仕業なんだってこれ」
「うん……」
政子は力なく頷く。政子はずっと源頼朝と出会うためにこちらの世界に来ててそれが見つかったと思ったら偽者だったんだからな、へこむのもわからないわけでもない。
なんていうか迷惑かけてくれたんだからこうやって反省してくれるのは大いに結構なことなんだけどどうにもこう元気のないのは政子は似合っていない。
「とりあえず色々言いたいことあるけど帰ろうぜ、気になることもあるし」
「気になること?」
「あの源頼朝のことだよ、あれの元の姿は僕の使ってた伊達政宗だったし……それだけじゃない他にも色々な」
なんで消えたはずの伊達政宗が源頼朝になっていたのか。それに東雲さんのお父さん、東雲景造との決着もつけないといけないだろう、今回はなんとかなったけどまた北条政子を狙ってなにかをしだすかわからない……だがこっちだってやられっぱなしというわけにはいかない。
「まぁなにはともあれ全部戻ってからだ」
ともあれ僕一人じゃ何も解決できないのは今回も、そしてこれからも同じだ。
「みなさんこんにちわ、『イクサカーニバル』運営チームです」
「……ん?」
そう思った矢先フィールド上に運営の天の声が響く、だがそれは東雲さんの声じゃない別の女性の声だったことに僕は違和感を覚えた。
「……えっとこれもう発信されてるんですかぁ?あらら、えっとそれじゃあ原稿原稿」
新人さん、なんだろうかいかにも不慣れで間延びした声が辺りに響く。
『なんだなんだ?』
『緊急メンテかな?なんかさっきのイベント無茶苦茶だったし』
この声がそのまま文章としてながれているのだろうか他プレイヤーもそのおかしさに次々とメッセージウィンドウを出して会話をしている。
「それじゃあ、えっとコホン!幾度もの戦場を切り抜けてきたぁイクサカーニバルプレイヤーの前に崩れ落ちた源頼朝!だが鎌倉幕府を操っていたのは北条政子だったのです!!つまり元凶は北条政子……ということで新たなイベントの始まりですぅ」
「新しいイベント?」
一体このGMはなにをしようとしているのだ?
今さっきのイベントは源頼朝を倒すために必要だっただけでもう必要はないはず、それに元凶は北条政子って……。
「さぁさ、皆さん北条政子を倒してください!勿論倒したプレイヤーには超レアな装備が手に入りますよぉ!」
「ちょっと待てよ!政子は関係ないだろ!」
僕は天に向かって叫ぶが反応は全くない、それどころか───
「えっ、なにこれ!?」
「どうした政子……って!」
声を上げた政子の方を見ると先ほどまではなかった政子の頭上に『イクサカーニバル』のボスキャラクターを示す星のマークが浮いていた。
『次のボスが本番か!』
『よっしゃ今度はMVPをとりにいくぞ!』
僕達を囲むように他プレイヤーの武将達が集まってくる。それだけではなく源頼朝のときと同じようにいたるところの空間が歪み次々と武将がその姿を見せる。
そいつら全員が北条政子を倒すために集まってきたってことだ。
「くっそ、なんだもう終わったんじゃないのかよ!!とりあえず政子、ログアウトするぞ」
このままじゃさっきの源頼朝に他プレイヤーの武将が襲いかかったように今度は政子が狙われることになる、一体これはなにをしようとしているんだ。
「……駄目、ログアウトできない」
「なっ、どういうことだよ政子!?」
緊張が走る中、政子が絶望の言葉を口にする。今までどうやってログアウトするのかよくわからなかったがログアウトできないなんて状況あるのか!?
「残念でしたぁ、ボスキャラクターとなった北条政子はもうプレイヤーキャラクターじゃないのでゲームからログアウトはできないのでぇす」
まさにこの状況を望んでいたかのように天の声が嘲笑う。しかもこれ僕と政子にだけ聞こえるようにしているのか他のプレイヤーには全く聞こえてないらしく、他の武将達はなにも気にせず僕達の周りに集まってくる。
「くそ、一体誰だよ!!」
この間延びした天の声、どこかで聞いたことあるんだが思い出せない。ただひとつ理解ることがあるとすればこのGMは僕達の敵ということだけだ。
「さぁ誰でしょう~?ああ、あと言っておきますけどぉ、ボスキャラクターが死んだらデータはバラバラになって復活はしないですからお気をつけてくださいねぇ」
「なんだって!?」
僕は驚きの声をあげるしかなかった。
ボスキャラクターはログアウトできない、そして死んだら復活はしない……このことが意味していることは僕にとっても最悪の展開を意味している。
「ははっ、これってあれかな迷惑かけた罰なのかな」
「政子……」
珍しく政子が弱音を吐く。違う、断じて違う……確かに物凄く迷惑をかけてくれたよ政子は、だけどもうさっきので終わりでいいだろ?
終わりでいいはずだ!!
「頼友、せっかく助けに来てくれたのにごめんね」
「なっ!?」
ポツリと政子が呟くと僕の体を押す。軽い力で押されただけだというのに僕の体は思いっきり吹き飛ばされ激しく地面を転がる。
「お、おい!なにするんだよ政子!お前まさか!!」
突き飛ばされ地面を転がった痛みよりも政子がやろうとしようとしているのか、そちらのことが気になって顔を上げ叫ぶ。
遠くに見えた政子は笑っていた、でもそれが心からの笑みじゃないことくらい僕にはすぐにわかった。
「このままじゃ頼友まで巻き込んじゃう……だから元の世界に戻って!!」
「なに言ってんだよ政子!!おい、待て!!!」
僕は体を起こそうと地面に手をつくが肝心の足に力が入らなかった。振り向けば足どころか腰のあたりまで霧散し、消えていた……現実世界から『イクサカーニバル』の世界に来た時と同じように。
「くそっ!勝手にログアウトしてんじゃねぇ!僕はまだやり残したことが!!」
必死に体を起こそうとするが僕の意思に反して体はどんどん消えていき全く何もできず地面に突っ伏すしかなかった。
なんだよ、なんなんだよ!なんでこんなことになってるんだ?源頼朝を倒し、元の世界に戻って終わりでいつも通りの生活に戻るはずじゃなかったのかよ!
政子の我が儘に付き合ってバカやって時々とんでもないことに巻き込まれるけど楽しい日々に戻るんじゃ……ないのかよ!
「バイバイ、頼友」
そう言って政子は僕に背を向ける。だけど僕は見逃さなかった、政子の瞳に薄っすらと涙が見えたのを。
「くっ、政子……っ!政子ぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
目の前で伸ばした手が消える。その瞬間、僕の意思とは関係なくブツリと全てが遮断された。




「…………っ!!」
意識が覚醒する。
周りは先程までの『イクサカーニバル』から元いたコンピューター室に戻り、伸ばした手は落ちていく夕日に向かい空を掴んでいた。
背中は汗でびっしょりになり、頭の中はごちゃごちゃになっている。
「平野先輩!大丈夫ですか!?」
西陣君が僕のもとに駆け寄るがその声に答えることもなく、立ち上がるとフラフラとした足取りで東雲さんに近づく。
「どういうことだよ東雲!!!」
次の瞬間、僕は自分でも驚くくらいの叫び声と共に東雲さんの胸ぐらを掴んでいた。
「……。」
東雲さんは普段の見せるような毅然とした態度ではなく僕から視線を逸し力なく俯くだけ。
「なんでこんなことになってるんだ!?答えろよ!!」
「……私のGM権限がなにものかに奪われました、それに復活地点に戻ったはずの織田信長の身柄も拘束されて」
いつになく震えた声で言う東雲さんに僕の苛立ちは募る。
「一体誰がこんなことを!」
「わかりません、ですが少なくとも私の父の仕業ではないというのは間違いないです」
「ちっ!!」
僕は掴んでいた手を突き放し舌打ちするしかなかった。僕達の敵は東雲景造だけじゃなかったっていうのか?
東雲さんを責めたところでどうにかなるわけじゃないのはわかってる、わかっているんだがこの憤りをどこかにぶつけなくてはやりきれなかったんだ。
「落ち着いてください平野先輩!」
慌てた様子で西陣君は僕たちの間に割り込む。
「僕にはなにがなんだか全然わかりませんけど対策を考えましょうよ!仲間割れしてたら相手の思う壺ですよ」
「・・・・・・確かにそのとおりだな」
西陣君の正論過ぎる正論に僕は大きく息を吐くと椅子を引っ張り出しどっしりと腰かける。
「それで東雲さん、なにか対策は!?」
「対策・・・・・・」
東雲さんが腕を組みじっと考え込む。だがこの瞬間にも政子は攻撃され、消滅の危機に瀕しているんだ悠長には構えてられない。
「『イクサカーニバル』のGM権限はそう簡単に奪ったりできるものじゃないです、それができるのは運営部の中でもトップの人間」
「で、そいつはどこにいるんだ?」
その運営部のトップとやらが政子を消そうとしているのなら、理由がなんであれ力づくでも止めてやる。
「・・・・・・運営部のトップなら本社にいます。ですが先程からそのトップとも連絡が取れていません」
「連絡が取れない・・・・・・!?」
「ええ、それに・・・・・・いえ、なんでもありません。とにかく本社に行きましょう、今私たちにできることはそれだけでしょうから」
なにかを頭を振って否定すると東雲さんはそう告げ立ち上がる。
その様子に僕は、もしかしたら僕達は思ってる以上にとんでもないことに巻き込まれているのかもしれないと思わざるを得なかった。
「そうだね、行こう本社へ」
僕は頷きコンピューター室を飛び出す。
本社でなにかとんでもないものが待ち構えている気がする。だがそれでも前に進むしかないんだ・・・・・・政子を助けるためには。



「その角を左折でお願いします」
「はいよ!!」
東雲さんの言葉にタクシードライバーが元気よく返事をしハンドルを回し車内が揺れる。
僕と東雲さんは学校を飛び出しタクシーで『イクサカーニバル』を運営する本社、株式会社イクサへと向かっていた。
「次、三百メートル先を右折です」
東雲さんはカーナビ並みの正確さでドライバーに指示を出しながらも膝の上に乗せたノートパソコンでなにやら作業をしている。
先程までの取り乱していた様子から立ち直り一心不乱にキーボードを指で弾いていく。
「・・・・・・」
その一方で隣に座る僕はなにもできず手持ち無沙汰を感じるしかなかった。
今コンピューター室で待っている西陣君、彼も多分僕と同じ気持ちだろう。だけどなにがあるかわからない本社に彼を連れていくわけにはいかなかった。
「けど、本当にこんなところに本社があるのか」
外を流れる景色を見ながら思わずそんな言葉が出る。
車は市街地を抜け先程から周りが田んぼだらけの細道を走っている。
僕は『イクサカーニバル』には詳しいがその『イクサカーニバル』を運営する株式会社イクサについてはさっぱり知識がない。
「ゲームのプレイヤーが本社に行くことなんてありませんので『イクサカーニバル』が売れるまで弱小企業だったというのもありますが立地などあまり気にしてないのですよ」
「ネットワークゲームの本社なんてのはもっと都会にあると思ったよ」
窓の外を見つめながらそう漏らす。本社が僕たちの住んでいる街から車で数十分のところにあると聞いたときには心底驚いたものだ。
少なくとも僕の住んでいる桜花町は駅の回りこそそれなりに発展はしているものの少し離れれば田舎丸出しの田園風景しかない、だからそんなところに株式会社イクサがあるなんて思っても見なかった。
「だけど今回ばかりは近くにあって良かったと思うよ」
これがもし新幹線で何時間だとかかかる位置にあったりしたらと思うと考えただけでゾッとする。
「政子の様子はどうなんだ?」
「なんとか逃げているようですが、あまり良い状況とは言えませんね」
東雲さんがキーボードを操作し画面を『イクサカーニバル』へと切り替え僕に見せる。
画面には沢山の武将で溢れかえり、その間を素早い動きで逃げ回っているデフォルメされた政子の姿が映し出されている。
「これここから皆に話しかけて攻撃を止めさせることはやっぱりできないのかな?」
今画面の真ん中にいるのは急遽東雲さんがアカウントをとったキャラクターで、状況を見るために棒立ちになっている。
「この作ったばかりのキャラクターでいくら攻撃をやめるように言っても無理でしょう。いやこのキャラクターじゃなくても余程の影響力のある人物、あるいはGMでもない限りは」
「そうだよな・・・・・・」
いくら声高に一般プレイヤーが叫んだところでイベントのボスをみすみす逃してくれる人はいないだろう。
僕だって同じ立場ならそんなプレイヤーの戯れ言になんて目もくれずにボスキャラである政子を攻撃してただろう。
「おうおう!着いたぜ株式会社イクサに!」
そんなことを考えているとタクシーは大きなビルの前で止まりドライバーのおじさんがこちらを振り向く。
「急いでいるのでお釣りは結構です、ありがとうございました」
東雲さんが差し出した諭吉さんを一度拝んでから受けとるとドライバーのおじさんは満面の笑みを浮かべる。
「あ、こりゃどうも!なにか大変そうですがカップルで力を合わせて・・・・・・」
「「カップルじゃないです」」
おじさんの言葉を僕と東雲さん、二人で声を合わせて否定すると車の外に出る。
「これが株式会社イクサか」
かなり大きなビルを見上げながら僕は言う。周りは田んぼだらけだというのにそこに建つ本社ビルは何十階とあろうかなりの大きなビルだ、これこんなところに建ってて日照権とか大丈夫なんだろうかなんてことをつい思ってしまう。
「行きましょう平野頼友」
「ああ」
先導する東雲さんの後を追い、二重になった自動ドアを抜け建物に入る。
「はぁ~」
ビルの中に入った僕は目の前に広がる光景に思わず溜め息を漏らした。
外からでも大きいとはわかっていたが改めて中に入るとその大きさに驚かされる。豪華なホテルを思わせるエントランスに天井まで続く吹き抜け、どこからともなく流れるクラシックと驚かされることばかり・・・・・・なんだけど。
「あれ、誰もいない?」
ビルの中には人らしい人はいなかった。エントランスも来客を案内する受け付けも、人っこ一人いやしない。
「やはりなにかが起こっているようですね、気を付けてください」
「これからどうするの東雲さん」
誰もいないビル内をずんずんと進んでいく東雲さんに後ろから声をかける。
「GMの権限を変えることができる運営リーダーを探したいところですが、恐らくこの様子だとどこかに隔離されていると思われます」
そう言いながら東雲さんは大きなエレベーターの前に立ち徐にそのボタンを押すとちょうどエレベーターは一階に止まっていたのかすぐにその鉄の扉が開かれる。
「電気系統は生きているようですね、行きましょう」
「ちょっと待って、隔離されてるってそんなことになっているなら警察に連絡した方がいいんじゃないの」
僕は慌ててエレベーターに乗り込みながらそう告げる。
ビルの人間が隔離されているなんて状態、これはもはや僕達でなんとかできる問題じゃないだろう。
さすがに僕もここまでこんなことになっているなんて想像はしてなかったぞ。
「相手が人間でしたらそうするでしょうが、警察に『ゲームの中からキャラクターが飛び出してきて会社を乗っ取っている』と言ったところで信じてもらえないでしょう」
「確かに・・・・・・。じゃ東雲さんはこの犯人は『イクサカーニバル』から来た武将の仕業だと?」
東雲さんがエレベーターの最上階のボタンを押しながら小さく頷く。次の瞬間、エレベーターは鈍い金属の響く音と一瞬の浮遊感を伴って上昇していく。
「おそらくそうでしょう、現実世界だけならず『イクサカーニバル』の世界でまで好き放題できるのは普通の人間ではあり得ません」
「そう、だよなぁ」
普通の強盗だとかそういうのが表向きたかがネットワークゲームの運営会社を乗っとるというのは考えにくい。ましてそこでゲーム内の政子を消そうとしているなんてことは金にもなんにもなりゃしない行動だ。
でも現実世界では普通の一般企業でも『イクサカーニバル』の世界にいるキャラクター達にすればこの株式会社イクサはいわゆる自分達を産み出した創造神みたいなものでその中でテストプレイヤーとして完全無敵を誇る北条政子を狙ってきたと言うことは・・・・・・?
「もしかして犯人は僕達のことを知っている人物なのか?」
そういう答えに行き着くしかない。
政子はテストプレイ用のキャラクターで普通のプレイヤーがゲーム内で会うことはできない。となれば実際、政子と会うことができるのは現実世界だけなわけでそこで政子の危険性を知っているとか恨みを買った人物が犯人ってことになるが・・・・・・。
「心当たりがありますか?」
「なにかとありすぎて誰かはわかんないね」
思わず僕は頭を抱える。なんてったって思い出すだけで頭が痛くなることばかりなんだからな。
「でもそんな奴等とどうやって戦うのさ・・・・・・あっ、『イクサカーニバル』のキャラクターならあの隔離プログラムを使えばいいか」
我ながらナイスな考え。あの以前に徳川家康や豊臣秀吉を隔離室に送ったあのプログラムを走らせれば・・・・・・
「あいにくと、あのプログラムはGMでなければ使うことができません。今の私は平野頼友、貴方と同じ一般プレイヤーと変わらない権限しかありませんので」
あっさりと東雲さんは言いながら手に持ったノートパソコンを操作を続けている。
隔離プログラムが使えないとなれば、じゃあどうするつもりなんだ東雲さんは?
「それじゃどうするのさ、どうやって・・・・・・」
その問いを投げ掛けたとほぼ同時だった、エレベーターが止まり扉が開いたのは。
「私にできることはそうありませんよ」
「ちょっと待ってよ東雲さん!」
エレベーターを出ながら東雲さんは小さく呟く。その目はなにかを決意したように力がこもっており思わず僕は駆け寄った。
「東雲さん、なにをするつもりなの?」
信長様が源頼朝と対峙したときのような嫌な予感が脳裏を過る。まさかとは思うけど東雲さんまで自分を犠牲になにかをやろうとしているんじゃ・・・・・・ないよな?
「わかりました、急に言われて狼狽えられても困りますのでここでお話ししておきましょう」
東雲さんは一際大きな木製の扉の前まで歩くと足を止めこちらを振り向いた。
「まず敵が誰なのか見極めます。そしてそれがわかったら平野頼友、貴方はこのノートパソコンを持って私の父、東雲景造のところへ行ってください」
「えっ、いや・・・・・・ちょっと待って!」
閉じたノートパソコンを差し出す東雲さんに思わずたじろぐ。
言っていることはわかるんだけど疑問点が多すぎる。
「どうしたんですか平野頼友」
「あの東雲さんのお父さんって言っちゃなんだけど敵、だよね?」
元はと言えばこの事件は東雲さんのお父さん、東雲景造さんが政子を捕らえるために起こしたこと。どう考えても僕からすれば敵なわけでその人と会ったところで協力してくれるんだろうか?
「確かに敵ですが、あの人にとっても北条政子が消えることは望んでいないこと、協力は得られるでしょうしおそらく近くにまで来ているはずです」
「でもそれなら東雲さんが行った方がいいんじゃないの?」
なにもできない僕が行くよりも東雲さんが行った方がいいだろう、それに東雲さんはここに残ってなにをするつもりなんだ。
「いえ、私が行くのは得策ではないです」
東雲さんは静かに首を横に振る。
「GMではない私にできることは貴方が逃げる間の時間を稼ぐことくらいです」
「そんなのダメだよ!」
僕は思わず声を張り上げる。東雲さんが残ってやろうとしていることは自分を犠牲にして僕を逃がすってことだ。
どんなにその作戦が上手くいくものだとしても別の犠牲を出してしまったらなんの意味がないじゃないか!
「いいですか?私の知っている限り『イクサカーニバル』の世界に入れるのは平野頼友、貴方だけです。必ずその力が役に立つときが来ます・・・・・・だからこれを貴方に託すのです」
だがこれ以上話すことはないと言わんばかりに、ノートパソコンを僕に押し付けると踵を返し扉に手をかける。
「待ってよ東雲さん!他になにか方法を探そうよ!」
「いえ、これが最良で最善の方法です。それに時間がかかればそれだけ北条政子の存在が消えてしまう・・・・・・覚悟を決めてください」
「東雲さん!」
僕の制止を無視し東雲さんが両開きの扉を一気に開け放つ。
中は電気がついておらず薄暗く、奥のガラス張りの窓から差し込む夕陽だけが空間を支配していた。
どうやらここは社長室のようで大型のテーブルの一番奥には人らしき姿が見えたが夕陽の影となりそれが誰だかまではすぐにはわからなかった。
「あらあら、さすが東雲千影さん。こんなにも早くここに着くとはさすがですねぇ」
少し間延びした女性の声が奥からする。この声、源頼朝を倒した後に聞いたGMの声と同じだ。
「貴女こそ、隔離室から抜け出しこの社長室に座るまでに増長しているとは思ってみませんでした」
嫌悪感を露にし、吐き捨てるように東雲さんは言う。
「あっ、もしかしてお前は!」
隔離室という単語、そしてあの間延びした声、僕の頭の中でそれが当てはまる人物が一人だけいる!
「ふふふっ、お久しぶりですねぇお二人とも」
そう言いってそいつが手元のなにかを操作するとガラス張りの窓にブラインドが落ち、部屋の照明が点灯。奴の姿がはっきりと僕の目に飛び込んできた。
以前より大分伸びた深い海のような暗い青色のロングヘアとぽっちゃりだった身体がやたらとスレンダーになっていたことにすこし驚かされたけど開いているか開いていないのかわからないくらい細い目は変わっていなかった。
「君は、徳川家康!なんでここに」
徳川家康は元々織田信長と同じ東雲さんの使っていたキャラクターだ、色々あって今は隔離室という違反キャラクターが送られる場所にいるはずなんだけど。
「なんでここに、ですかぁ?たまたま私のところにきたGMがヘボかったので騙して抜け出たんですよ、まぁ急だったので秀吉は連れてこれなくて私一人ですけどね。そして私は、私や秀吉をあんな暗くて狭いところに閉じ込めた貴女達人間に復讐するために来たのですぅ」
「復讐、だって?」
僕の問いに家康は両手を広げ、細い目を見開くと高らかに笑う。
「そう、そして『イクサカーニバル』という世界で神ぶっている人間を支配するために現実世界に来たのですぅ。そのために私はずっと好機を待っていたんですよぉ、鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギスの精神でね」
家康がパチリと指を鳴らすと空間が歪み、そこから縄でぐるぐる巻きにされたちっこいバージョンの織田信長が落ちてくる。
「信長様!」
「むぐぐぐぐ~!」
猿轡をされた信長様がジタバタしているのを家康は足蹴にしながら残忍な笑みを浮かべる。
「実に今回のことはだった好機ですぅ。誰だか知りませんが源頼朝いうのに負けて復活ポイントに出てきた信長様は体力も回復しきってないのであっさりと捕らえれましたしぃ、混乱に乗じてこの株式会社イクサというのも簡単に掌握し東雲千影、貴女からゲームマスターの権限を奪うこともできた、そして!」
家康が僕を指差す。
「一番厄介だと思っていた北条政子をイベントボスにしゲーム内に閉じ込めることに成功、よもや私の天下統一を阻む者は誰もいないというわけですぅ」
「くっ、てめぇ!!!」
ニヤリと上げた口角に僕は叫び、殴りかかろうとするがそれはすぐに東雲さんの手によって制される。
「なっ、東雲さん!?」
「落ち着いてください、安い挑発に乗ってはダメです」
「で、でも!」
落ち着けと言われて落ち着いていられるほど今の僕は冷静じゃない。普段から暴力を振るうようなことは嫌いだけど、今はその相手が女の子だとしても容赦なく殴れるだろう。
「隔離室で反省しているかと思えば全く面倒なことをしてくれますね徳川家康。ですが勝ち誇るのは些か早いんじゃないですか?」
僕の言葉を無視し東雲さんは言葉を徳川家康に投げかける。
「勝ち誇るには早い?私の策が完璧すぎて負け惜しみですかぁ?残念ですけど私の策はこれだけじゃないんですよぉ、これを見て絶望してくださいね」
家康が再度指を鳴らすと信長様が現れた時のような空間の歪みが再び現れる。けど今度は一つじゃない、数えれないほどの無数の歪みが部屋の至る所に現れていた。
「こ、これは……!」
「これでもまだ勝ち名乗るには早いですかねぇ?」
空間からは次から次へと『イクサカーニバル』から武将達がその姿を見せてくるのに家康は口元を抑え笑いをこらいきれないようだ。
徳川家康の前に揃う戦国武将達、それはそこにいる武将達全員が家康に賛同し僕達人間に敵対していることを意味している。
勝ち誇るには早い、東雲さんは家康にそう言ったがこの状況……僕達に本当に勝ち目はあるのかよ?
「ええ、早いですね。徳川家康、貴女はわからないでしょうがこの平野頼友、彼が私……いえ私達人間の勝利の鍵です」
「えっ、僕ぅ!?」
東雲さんの言葉に僕自身が一番驚いてしまった。いやちょっと待て、僕が勝利の鍵ってどういうことだよ!
「平野頼友、ああ……えっと童貞の方でしたっけ?」
「童貞って所で僕を覚えるな!」
呆れたように言う徳川家康に思わずツッコミを入れる。それどころじゃないんだけどそこだけはしっかりと否定しておきたい。
「はぁ、よくわかりませんがそんな童貞に頼らざるを得ない状況ということなんですねぇ」
「ええ、そういう事です。私としても童貞にこんな大事を任すことになるとは思ってみませんでしたけどね」
家康と東雲さんはお互いそう言いながらため息をつく。
なんで味方からも敵からも童貞と罵られているのかわからないけど、僕にできることがあるというのならもうそれを全力でやるだけだけだよ。
「さぁ平野頼友、ここは私に任せて貴方は貴方のやるべきことを」
「わ、わかった!東雲さんも無理しないで!」
僕は頷くと東雲さんから預かったノートパソコンを抱きしめ踵を返し走りだす。もう四の五の言ってはいられないのは僕もわかっていた。
ここで東雲さんをあの沢山の武将達の前に置いていくことをもう躊躇わない。
本当はまだ全然納得なんかしていない、東雲さんは僕よりも年下なのにしっかりしてるし『イクサカーニバル』にも詳しい、ここで残るべきは本当は僕なんじゃないか?その考えは今も僕の中で渦巻いている。
けれど東雲さんが僕を勝利の鍵と言ってくれるなら、それがどんなにか細い糸だとしてもなにもできない僕にはそれに頼るしかない。
「あらあら、逃げられるとか思っているのですかぁ?」
遠くに聞こえる家康の声と共に廊下を走る僕の目の前で次々と空間が歪み、そこから戦国武将達が僕を捕まえようと姿を現す。
『イクサカーニバル』のキャラクターってだけでてくる武将達は皆美少女だ、それが童貞の僕を捕まえようと追いかけてくる……人生でも二度とない経験だろう。
「これが好きで追いかけられているんならいいんだけどね!!」
叫びながら捕まえようと手を伸ばしてくる武将達の間をすり抜けエレベーターの前まで来る……が!
エレベーターの前に数人の武将達が刀や槍を持ち構えているのが見える。全く徳川家康が呼んだ戦国武将達は見た目こそ美少女だがなにも喋らず無表情だ、恐らく現実世界に来るのは初めてで人格形成ってのができていないんだろう。
恐らくそう考えると人を斬ることに何の躊躇いもないはずだ、ゾンビのようにふらふらとした足取りで距離を詰めてくる。
その中を僕が抜けてエレベーターに乗れるとは到底思えない。
「くっ、別の道を探すしかないか」
僕は吐き捨て周りを見渡すが正直初めて来た場所でどこになにがあるかなんてのはサッパリわからない。
「・・・・・・こっち、平野頼友、早く」
そんなときだった、近くの扉が開き誰かが腕だけを出して手招きをするのが見えたのは。
「えっ・・・・・・?」
なんだ?誰だ?そもそも僕の名前を知っているってことは知り合いか?なんて考えが頭を過ったがわからず全てを保留にして手招きされた部屋へ僕は駆け込む、それしかなかった。
もうこれが罠だったりしたら目も当てられないがそのままいたって徳川家康に呼び出された武将に殺されるだけだからな。
「・・・・・・その早い決断、えくせれんと」
僕が部屋に飛び込みカーペットを転がるのをみると手招きした人物は聞こえないような小さな声でそう言い扉を閉める。
そして扉の前に次々と部屋にあった椅子や机を並べ出す。
「えっ、あ・・・・・・君は」
カーペットにへたりこみながら僕は彼女の動きを唖然として目で追う。
青髪ショートボブにハート型の眼帯、金色の細い三日月の兜から覗かせる切れ目のクールビューティ。
間違いない、僕が使っていた……そして『イクサカーニバル』で源頼朝のテクスチャーを被っていた伊達政宗だ。
「伊達政宗、なんで君がここに!」
僕の声に部屋にあった最後の椅子を扉の前に置くと伊達政宗はこちらを振り向き頷く。
「……貴方を東雲景造の元へと連れて行くために来ただけ」
それは実にシンプルで明解な答えだった。
とはいえ僕としたらついさっきまで政子を誑かし信長様を相打ちとはいえ倒した人物だ、すんなりと信じることなんてできやしない。
そう思っている間にも政宗は、窓際まで歩いて行くと窓の一つを開け放つ。
「それは僕からしてもお願いしたいところだけどなんで君は東雲さんのお父さんに従ってるんだ?」
冷たい風が一気に部屋に入ってき思わず身を縮こませながらも僕はそう告げる。
東雲さんは言った。『東雲景造からしても北条政子を失うことは望んでいない』、だからこそ僕達に協力してくれるはずと。
だが本当に信じていいんだろうか、今ひとつ自信が持てない。
「北条政子に操られ自らデータを消し、無に還ろうとしている所を救ってくれたのが東雲景造だったから私はそれに従っているだけ。今の私には以前のような野望のようなものはどこかに落としてしまって一切ない……まぁ貴方からすれば到底信じられる話ではないと思う」
そう言う政宗の目はさっきまで廊下にいた武将達と同じようにただまっすぐでなにも考えてないようにさえ感じられる。ただ以前のような僕を『イクサカーニバル』の世界に引きずり込み、現実世界を支配してやろうという野心のようなものは見えない、本当にただ東雲景造の言うまま機械的に行動しているようだ。
「本当に信じていいんだな伊達政宗」
だけどそれは僕の感じたままを言ったまでで本当にそうなのかはわからず、つい言葉にして聞き返してしまう。
「……信じてとは言わない、私はただ東雲景造の言うようにしているだけ。貴方が拒否したところで無理矢理にでも連れて行く」
「はは、それがベストアンサーなのかも」
思わず乾いた笑みが溢れる。政宗は僕がどう対応しようとも東雲景造の所に連れて行くつもりだ、だけどそれは疑っている僕に対して下手な言い訳をしないだけ信じられるとも言える。
しかしその東雲景造に対する一途さをどうせなら初めて会った時の僕にも見せて欲しかったけどね。
「……時間がない、急ぐ」
政宗が近づき僕の腕を掴むと強引に引き起こす、それとほぼ同時だっただろうか椅子や机で封鎖された扉が外側から開けようと叩く音がしたのは。
その勢いは強く扉の前に並べられた椅子や机が扉を叩かれるたびに少しづつ後ろに下がる。武将達が雪崩れ込んでくるのは時間の問題だろう。
「いやちょっと待って、ここからどうやって脱出するのさ」
「窓から飛び降りる……窓を開けたのはそのため」
あっさりとそう言った政宗に思わず血の気が引く。えっ、今飛び降りるって言った?そりゃまぁなんか急に窓を開けた時点でなんとなくそうじゃないかなぁとは思ってみたりもしたけど本当にこの高層ビルのそれなりに高い階から飛び降りるの?
「ま、まじかよ」
「……まじ」
政宗が僕を引き寄せ抱きしめる。ええ、以前の僕だったら歓喜も歓喜、伊達政宗の事が大好きで抱き枕でないかなぁ~ってベッドで悶絶してた頃の僕ならね!
「いやでも他にもなんか脱出する方法ってのがあるんじゃないかな?」
「……それはない。でも大丈夫、必ず東雲景造の元に貴方を連れて行く」
美少女に抱きしめられている、凄くいい匂いがするし、なんていうの胸の二つのあれよ、膨らみみたいなのが頬に触れる感触?堪らないといえば堪らないんだけど!
でもそんな嬉しいハプニングもこれから起こるであろうとんでもないことを前にするとそれどころじゃない!
かなり焦っている僕を抱いたまま冷静な口調で政宗は言うとそのままずるずると引きずるようにして窓際に近づく。
「た、高い……!」
あと一歩でも足を前に出せば地上へまっ逆さまというところで冷たい風が僕の頬を撫でる。
もうその冷たさは首元に死神の鎌を突きつけられているかのようだ。
「あわわわわ、無理だって流石にこれは無理だって」
さっきから足はすくみ歯は勝手にガチガチと音を奏でていてる。『イクサカーニバル』の世界で政子にぶん投げられて宙を舞ったことはあるがあれはなんだかんだでゲームの中だったからまだましだ、これは現実・・・・・・失敗したらゲームオーバーという名の死が待っている。
「・・・・・・急ぐ」
「いやいやいや!こ、心の準備がまだ!」
「大丈夫、心の準備はできてる」
「僕の準備ができてないんだよ!」
そんな問答を繰り返していると後ろの扉がドンという大きな音とともに開かれ武将達が雪崩れ込んでくる。
「時間はない・・・・・・飛ぶ」
「うわぁぁぁぁっ!」
武将達が僕達に駆け寄ってくるやいなや問答無用で伊達政宗は僕を抱いたまま窓から飛び降りる。
一瞬の浮遊感、がそれは本当に一瞬ですぐさま僕達の身体は地球の引力に導かれ落ちていく。
景色が物凄い勢いで流れ小さかった人や車がどんどん大きく見えてくる。
「あっ・・・・・・まずい」
その言葉が僕の最後の言葉。血の気が引くのと同じようにしてスッと僕の意識は途切れた。



「ううっ・・・・・・」
頭を金槌でガンガンゴンゴン叩かれるような痛みで僕の意識は覚醒した。
「ここ、は?」
頭を抑えながら辺りを見渡す。周りはなにやら金属の部品やらケーブルなんか無機物が山のように積まれて僕が寝ていた黒革のソファ以外足の踏み場もない。
ここは地下室だろうか、窓らしきものも見えず天井からぶら下がっている裸の白熱灯がぼんやりと部屋を照らしているだけ。
ここはどこだ?というか僕は確か伊達政宗と一緒に株式会社イクサのビルから飛び降りて・・・・・・それから意識を失ったんだ僕は。
「うんうん、素直でよろしい。それじゃお願いするよ、じゃにー!」
それに気がついたのとほぼ同時だっただろうか、部屋の奥から携帯電話片手に白衣の男性が現れた。
「えっ・・・・・・」
僕は思わずその白衣の男性の顔を見て息を飲む。ボサボサな頭はともかくその顔はあの源頼朝に極似していたらだ。
「おや、目を覚ましたみたいだね平野頼友君」
「もしかして、あなたが東雲景造さん?」
「そのとおり~いやぁ、こんな対面するとは思ってみなかったけどね」
景造さんは歯を見せてケラケラと笑う。なんとなくあのイケメンで表向き紳士的だった源頼朝と見た目が一緒なだけあって凄い違和感を覚える。
「全く今回のことはワシもまいったよぉ~お互い大変だったねぇ」
「・・・・・・元はと言えば東雲景造さん、あなたのせいじゃないですか」
僕は吐き捨てるように言うと景造さんを睨み付ける。
なにもできない僕が今、景造さんと敵対することは好ましくないことくらいわかってた。けれども飄々として自分のやったことなんか気にしてない風にされると嫌みの一言も言いたくなる。
「あらら、結構怒ってるそんな感じ?」
「当然でしょう、あなたが政子を狙わなかったらこんなことにならなかったんですよ!一体なんのために政子を付け狙うんですか!」
「ふむ・・・・・・あまり時間はないのだがちゃんと説明しないとこれは協力してくれないって感じかな」
景造さんは腕を組みウンウンと頷くとソファの僕の隣にどっしりと腰かける。
「僕が北条政子を狙うのはただ一つ、彼女は僕の理想の女性だからだ」
「・・・・・・。」
「そして君もわかると思うが理想の女性で捨てたいじゃないか、自分の童貞を」
「はっ・・・・・・?」
思わず変な声が出た。今このイケメンの口はなにを言ったんだ?童貞、童貞って言ったの?この状況で?えっ?
「えっ、ちょっと待ってください!景造さんは東雲千影さんのお父さん、なんですよね?」
おかしいだろ、童貞だったら東雲さんはどうやって生まれてくるんだ?バイオ細胞か?クローンか?なんちゃら万能細胞ってやつか?
「ああ、うん確かに千影はワシの娘だ。だが安心してくれたまえ、千影は妻の連れ子だからワシはれっきとした君と同じ童貞なのさ!」
「・・・・・・いや別に安心はしませんし、れっきとしなくていいです」
なんていうか怒る気が一気に失せた気がする。この東雲景造さんは自分の童貞を理想の女性で捨てるためだ・け・に!今まで僕達の前に立ちふさがってきたなんてなんとも気の抜ける話だ。
そして東雲さんがお父さんの事をあまり喋りたがらなかったのはこのせいか。
「しかしワシは頼友君、君を高く評価しているんだ同じ志を持った童貞として」
「はぁ・・・・・・」
「昨今の若者はすぐに童貞を捨てたがる。その中で一人童貞を守り続けているというのは素晴らしいこと」
「いや、好きで守ってるわけじゃ・・・・・・」
「本来はね童貞というのは大事に守る物なんだよ、実際大正時代だと童貞は貴重な存在として・・・・・・」
「・・・・・・。」
「三十歳まで童貞を守ると魔法使いになれるというだろ?実際ワシが三十歳になるまで童貞を守っていたらだね、『扉形成プログラム』というものを産み出すアイディアを閃いて・・・・・・つまりなにが言いたいかと言うと童貞イズゴット、もっと若い者は童貞を守ろ・・・・・・」
「だぁぁぁぁぁぁっ!もう童貞の話はいいでしょ!!!」
長々と童貞話を繰り広げる景造さんの話を大声でかき消す。
どんだけ童貞を守る事に熱意を傾けてるんだこの人は、こっちまで恥ずかしくなる!
「協力しますから!政子を助けるように動き出しましょう!」
「ふむ、それじゃ動き出そうか。とはいっても北条政子をボスキャラクターから普通のプレイヤーキャラに戻せるかどうかは、正直徳川家康を捕まえてみないとわからないんだよね」
「そ、そうなんですか!?」
てっきり僕は『イクサカーニバル』をプログラミングした東雲景造さんなら政子を元に戻すくらいは造作もないことだと思ってただけにちょっと面食らった。
「さすがのワシでもなんでもできるわけじゃない、まして一般プレイヤーをボスキャラクターになんてするなんて考えても見なかったからね。しかしとにかく今は徳川家康を捕まえるよりも北条政子の身を守ることのほうが優先だ、そのためには頼友君、君に動いてもらうだけなんだがね」
景造さんは指で口をチャックする仕草を見せると立ち上がる。
「僕が動く?一体なにをすればいいんですか?」
「仲間を集めてほしい、それもこの北条政子を倒すというイベントなんて無視して彼女を守ってくれる仲間をだ」
そう言いながら景造さんはテーブルに置かれたノートパソコンを開く。それは僕が東雲さんから預かったノートパソコンだ。
「今はとりあえず伊達政宗を行かせているがあいつも織田信長にやられたダメージが回復しきっていない、時間を稼ぐためにもあと数人は北条政子を守れる人間が必要だ」
「その仲間を僕に呼べと?」
画面を見つめながら呟く。画面上の政子はタクシーの中で見たような素早い動きをしておらず伊達政宗の影に隠れ守られる形でいる。他プレイヤーの数は圧倒的に増えて伊達政宗が相手をしているが確かにこれじゃいつ伊達政宗の守りが決壊してもおかしくないだろう。
「そうだ、君はトップランカーだったこともあるのだから知り合いも多いだろう?」
景造さんが隣で頷くのを見て僕は徐に制服のポケットからスマートフォンを取り出す。
仲間を呼べだって?確かに僕はトップランカーだったことあるけどぶっちゃけリアルの知り合いなんてそういない。
普段全く開かない電話帳のアイコンを指でタップしスクロール。下から上に一回スライドさせただけで電話帳の最後までスクロールされたのを見て、登録件数の少なさにちょっと自分ってコミュ障なんじゃないかと不安になってきた。
「くっそ、とりあえず片っ端からかけるしかないか!」
けどここから仲間を見つけ出さないと政子を助けることができない・・・・・・全く、まさかここで僕の友達の少なさが影響してくるなんて思ってもみなかったよ!




───幕間




「よし、綺麗に取れたぁ」
桜陵大学の女子寮の一室、私は指でつまんだ蜜柑の長く白い筋に思わずガッツポーズをした。
やっぱり蜜柑の白い筋を取らせたら私ってば世界一かもしれない。
なんだろうこれは一種の才能だなと、炬燵に入ってこういう単純作業をやるのがこんなにも楽しいのは私だけだろう。
「あーあ、白い筋には栄養があるから食べた方がいいんだぞ」
私が入ってる炬燵の向こう側に座るチャラ男がティッシュに並べられた蜜柑の筋を見ながらボヤく。
えっと、ここはさっきも言ったけど女子寮、男子禁制の花園だ。
なんでそこのしかも私の部屋にこのチャラい男がいるかというと・・・・・・まぁ色々あったのです。
「ふぅん、なら筋だけあげるわ。好きなだけ食べなさいよ」
「えっ、マジ?やったぜ!!・・・・・・ってなるわけないだろ!」
ノリツッコミをするチャラ男を無視して私は蜜柑を口に放り込む。これがなぁ、イケメンだったら全然良かったんだけど。
思わずため息が出る。まぁイケメンだったらそれはそれでこんな女子寮にいられるわけもないか。
私の目の前に座るチャラ男、黒いパンクスーツに首やら腕にはジャラジャラと銀のアクセサリーが光り髪の毛は金髪、バッリバリに固めて逆立つそれはどこか伝説の戦闘民族かと思ってしまう。
それなりに顔立ちはいいけど正直な見た目から言うと出来の悪いホストかなんかだ、こいつは。
「まぁいいや・・・・・・よぉし、これで完成っと」
そんなエセホストチャラ男なんだけどその手にはなぜか不釣り合いな編み物で使う棒針が握られている。
「ほれほれ~どうよ熊ちゃん可愛いだろ~」
自信満々と言った感じにチャラ男は棒針を器用な手つきで動かすと炬燵の上にポンとちいさな熊のあみぐるみを置く。
「はぁ?ちょっと待ってよ、あんたもう完成させたの!?」
そう言ってみたものの炬燵の上にはちゃっかり出来上がった赤い毛糸で作られた熊のあみぐるみが座ってるんだからぐうの音もでない。
このあみぐるみ、私も一緒に作りだしたんだけど上手くできなくて放置してたらこの有り様。
そうなのだ、このチャラ男は見た目のいい加減さとは裏腹で滅茶苦茶女子力が高い。料理をやらせれば私よりも美味しいものを作れるし手芸も裁縫も私が苦手ってのもあるけどとんでもなく上手い。
「どうよ、どうよどうよ?これ上手くできたと思うぜ」
「悔しいけど確かに上手ね」
熊のあみぐるみを手に取りながら素直な感想を述べる。
でも心の中じゃ全く神様がいたらこんなチャラ男になんでそんな才能を与えたのか小一時間問い詰めたいと思ってる。
チャラ男の前にいる私にその才能を授けなさいよ、ゆるふわカールな女子大生スタイルを貫いている私に!
そんなことを思っていると炬燵の上に置いてあるピンク色の携帯電話が軽快なメロディを鳴らし出した。
「んもぅ、誰なの・・・・・・って、げげ!」
携帯電話を開いて発信者の名前を見て思わず私の口から女子力の低い声が出た。
そこには『東雲景造@最悪童貞野郎』と表示されている。
あんのぉ変態、また私のところに電話かけてきたの!?
「どしたー?でないのか智佳?」
「で、でるわよ・・・・・・というか出ざるを得ないの!」
チャラ男に促され渋々と通話ボタンを押し耳に当てる。
本当は無視したいけどなんていうか電話を無視したらしたで「なんでなんでなんで!?ワシと智佳ちゃんとの海より深い仲じゃん!」と五月蝿いのが目に見えてる。
というかそもそも海より深いなんて形容詞がでるほど東雲景造とはそこまで深い仲になった覚えないんだけど、私───茜依智佳は。
「もしもし、東雲さん?なにか用ですか」
『はろはろ~智佳っち、あんまり出てくれないからちょっと個人情報流失しかけたわぁ~』
「ちょっといきなり、やめてくださいよこの変態!」
実はというと五月蝿いだけ、というのなら全然良い。着信拒否にして放っておけば良いんだから。
でも私はこの東雲景造に個人情報を握られている。いや、それでも住所とか電話番号とかならまだいい、まだいいと思える。
私が握られているのは高校生の時の黒歴史、いや闇歴史、もっというなら深淵のブラックホール歴史と言うようなもの。
・・・・・・なんで自分でもあんなことやってたのか、わからない。
タイムマシーンがあるのなら今すぐにその頃に戻って「そんなことは止めなさい、未来で変態童貞野郎に個人情報握られるわよ!」と進言したいところだ。
でも当時の私があんなことをしていたのはきっとアイツに言われたあの言葉は思ってた以上に私の心に深い傷をつけてたんだと思う。
私の黒歴史、それは・・・・・・って、なんで言わないといけないのよ。いやでも茜依智佳を知ってもらうには一番の出来事、なのかもしれないな、うん。
これは多言無用でお願いします。絶対にSNSとかにあげないでください、私が社会的に死んでしまいますので。
はい、じゃそういうわけで白状します。
私、茜依智佳は女子力を高めるためという名目で高校時代、個人ブログでちょっとエッチなコスプレ写真を自撮りしてアップしてましたとさ、まる。
引かれた、これは結構引かれた気がする。
でもしょうがない、事実だし。
あの頃の私は誰かに可愛いと言われたくて必死でそして暴走してたんだと思う。
あっ、ちゃんと断っておくけどちょっとエッチっていっても下着までだから!そこだけは強く言っておきたい。
と、ともかく高校二年生のときにやってたそんな痛い個人サイト、三年生になったときに我に返って消したんだけど・・・・・・なんでか大学生になってこの東雲景造ってのに探しだされなにやらよくわからないことに協力させられているのだ。
本来なら警察に駆け込むべき案件なんだけど、この無視したらそれはそれで私の個人情報拡散されちゃうしで仕方なく協力している。
今や一度ネットに広がった個人情報を消すのは大変だって言うからね。
まぁ東雲景造は童貞を守ることに命を懸けている変態だから、私の若い身体目当てで要求してこない、そこは心配しなくて良いけど逆に言えば東雲景造の要求は本当によくわからないことばかりだから困る。
「いやいやすまんすまん、こっちがちょっと切羽詰まってる状況でね」
「切羽詰まってる状況?」
『ああ、それで緊急で仕事を頼みたいんだ。あっ・・・・・・勿論裏のね』
怪しい言葉を陽気な感じで言う東雲景造。というかこの人が仕事って言って表だったことなんて数回しかない。
その表の仕事ってのも、なにかやったこともない声優業の真似事みたいなのでちょっと喋るだけ、まぁ割りの良いバイトとは思っているけど私の声なんて聴いて喜ぶ人なんているんだろうか?
「裏って言うと『イクサカーニバル』絡み、ってことですか」
『せいかーい、智佳ちんは理解が早くて感謝感謝』
なにか本当にこの人切羽詰まってるんだろうか、ちょっと不安になってきた。
『イクサカーニバル』ってのはえっとその、ネットワークゲームってやつでこの東雲景造が作ったゲーム、らしい。
この変態が作るだけあって内容はオタクが好きそうな美少女揃いの戦国武将が沢山出るゲーム。まぁ私のパソコンにも色々あって親友の黒江紗希ちゃんがインストールしてくれたものの・・・・・・あんまりやったことはない。
ゲームが苦手というわけじゃないけど、機械全般が苦手なのでパソコン操作とか大学でレポート書くときくらいしか触らないの私。
でも、いくら私が機械音痴だからって・・・・・・
私は横目でチラリとチャラ男を見る。
ちょっとそのゲーム『イクサカーニバル』が動かなくなってよくわからないままゴチャゴチャ操作しただけで普通パソコンからゲームのキャラクターが飛び出てくるなんてことないでしょ?
『お~い、聞いてる?聞いてる智佳ちゃん?』
「はいはい、聞いてますよ」
私は面倒くさそうに答えると蜜柑を一つ、口に放り込む。
全くこの目の前で『夕飯にくわえたい素敵な一品、12月号』を熱心に読んでいるチャラ男が私のところに来てなければ今ごろゆるふわモテモテカールで女子力の高いキャンパスライフを送れてたのに、そしてこの電話口の変態プログラマーにも出会わずに済んだのに、ちょっとパソコンがおかしくなっただけでこんなことになるなんて本当機械って嫌いだわ。
「それで仕事ってなんですか、切羽詰まってるんですよね?」
『うん、詰まってる詰まってる。なんていうかトイレにあるあのゴムのポン!ってなるやつが必要なくら・・・・・・』
「早く言わないと電話切りますよ~!」
『わかったわかった!んもー冗談だってば』
「冗談言ってる場合じゃないでしょうが、それで仕事は?」
私は捲し立てるようにして聞き返す。
本当はやりたくないけどやらないと私の個人情報が危険で危ない大ピンチに陥るからさっさと片付けてしまおう、そう思ったのだが・・・・・・
『えっと、株式会社イクサに潜入してワシの娘千影を救出して欲しいんだ』
「は・・・・・・?」
思わず私は聞き返した。なんというかこのゆるふわカールの可愛い女子大生に潜入だとか救出だとかやらすってのもおかしいけれどそれよりも前におかしいことが一つある。
「童貞なのに娘さんなんているんですか?」
『千影は妻の連れ子であってワシは正真正銘の童貞だよ!』
電話の向こう側でなにやら高らかな笑い声が聞こえるが正真正銘の童貞とか本当どうでもいい。
「ああ、そうですか。てっきり誘拐でもしてきたのかと思いましたよ」
『そんなことするわけないでしょ~というかすぐに向かってくれるかな?くれないと個人情報がチョロロって漏れちゃうよ?』
「わ、わかりましたよ!行きますからそれだけは止めてください!」
『うんうん、素直でよろしい。それじゃお願いするよ、じゃにー!』
それを最後に東雲景造との通話は切れる。娘さんがいるってのもビックリしたけどなんであの人はそんな状況で飄々としているんだか。
「電話なんだったの~?」
「仕事よ、仕事。それもなんか物凄く厄介そうなね」
チャラ男の問いかけに私は溜め息混じりに吐き捨てる。
まぁ東雲景造が持ってくる裏の仕事が厄介じゃないことなんて一度もなかったんだけどね。
私はこの世の天国、炬燵から渋々抜け出ると立ち上がる。
そして壁にかけてあるカーキのモッズコートを手に取るとチャラ男の前に差し出した。
「ほら、あんたも準備して・・・・・・今回もあんたの力が必要よ源頼朝」



「ここが株式会社イクサかぁ、かぁ~っ!でかさがぱねぇ!」
モッズコートを着た源頼朝が株式会社イクサのビルを見上げながらまるで子供のようにはしゃぐ。
「そんなことはどうでもいいからさっさと行くわよ」
私はガラス張りの壁から中を覗きながらそう告げるとゆっくりと歩き出す。
確かに周りが田んぼだらけのところにこんな大きなビルがあることには私も最初は驚いたけど重要なのはそこじゃない。
「その大きなビルの中に人の姿が一切見えない方が問題よ」
ここに来る前に調べたけどこの株式会社イクサというのはあの『イクサカーニバル』を運営している会社なんだそうだ。
そこに東雲景造の娘さんが捕らえられているから救出しろって、ただのインターネットゲームの運営会社で何が起きてるのよ。
「ん~確かに人いないねぇ、でもとりま潜入ってことで手繋いどく?」
やる気なさそうに欠伸をしながら手を差し出してくるチャラ男に私は小さく頷くとその手を握った。
別にこれは怖いから手を繋ぐとかカップルを装うとかそういうわけじゃない、これがまぁこのチャラ男もとい源頼朝の能力なの。
源頼朝の能力、それは『存在感がない』ということ。
頼朝自身が言うには自分は「中身の空っぽのデータ、0バイトのテキストファイルと同じ」存在なんだそうだ。
本来『イクサカーニバル』は美少女だけしかいないのだけどその中に源頼朝は名前だけつけられてなにも作られず放置されていたから・・・・・・らしい。
それが私の操作ミスというかなんかエラーで現実世界に出てきたからそんな能力が使えるということみたい。
パンクスーツに銀のアクセサリージャラジャラつけた金髪エセホストが存在感ないってのもおかしな話だけど頼朝が能力を使っている間はその姿を認識することができないらしい。
その効果や絶大で視覚だけじゃなく音や匂いまで存在感消してしまえる、まぁその能力のおかげで男の癖に女子寮で平然と生活していられる・・・・・・いや全然いてもらわなくて結構なんだけど。
そしてその頼朝の能力は触れている相手にも効果を及ぼすことができる、つまり手を握っている間は私の存在も周りからは認識されなくなる、というわけ。
「それでどこにいるんだろうねぇ、その娘さんは」
「さぁ聞いてはいないけど・・・・・・」
下らない話はいつまでもする癖に肝心なことは教えてくれなかったのよねあの変態。
とはいえ受けた以上やるしかない、私は辺りを見渡すとビルの受付の横に案内掲示板を見つけ、とりあえずそれに近づく。
「開発本部、営業本部・・・・・・社長室、どこにいるんだろう?」
私は頭を捻らすが正直手がかりもなんにもない状況じゃなんにも思い浮かばない。
でもこれだけ大きいビルだとある程度目星をつけて動かないと相当時間がかかりそう、一応あの変態切羽詰まってるとは言っていたしそんなに時間はかけてられないんだけど・・・・・・。
「ねぇ頼朝、あんたもちょっとは考えてよ」
「ん~そうだなぁ、とりま~社長室行ってみない?」
「その根拠は?時間はあんまりないのよ」
「根拠はない!」
親指を立てながら自信満々に頼朝がそう言うのを見て思わず溜め息。全く、わかってはいたけど頼朝に聞いたのが間違いだったわ。
「でもさ、やっぱり囚われのお姫様ってのは魔王のところにいるってのが定石じゃん?んで魔王がいるとしたらやっぱりビルの一番上っしょ、なんか二階にいたら嫌じゃん?」
「まぁ言わんとしていることはわかるけど」
わかるけど本当にそれでいいのかは実に怪しい。
「ま、ここで考えてるよりかはましっしょ智佳?」
頼朝の考えに納得はしてないけど行動しないでここでぐだぐだしているよりかはましなのだけは同意。
「確かにそれは言えてるわね、それじゃ行きましょ」
考えが決まった私達はエントランスの奥、三基あるエレベーターの元へと歩くとボタンを押しエレベーターに乗り込む。
「おお~早い早い、やっぱぱないねデカイビルのベーターは」
ベーターってなによベーターって!今日日業界人でも言いそうにない言葉を使ってはしゃぐ頼朝に心の中でツッコミつつも、とりあえず無視して私は思考を巡らす。
私が考えていること、それはこの事件を起こした犯人のことだ。
犯人は恐らく複数人、こんな大きなビルをあっさりと乗っ取っていることからも相当な人数いると考えて間違いない。
そしてそんな大事件に警察じゃなくて私が行かないといけないってことは間違いなく犯人は『イクサカーニバル』から来た武将ってことだ。
「ま、でも犯人捕まえろとは言われてないからいっか」
東雲景造の娘さんを救出し、そそくさと脱出してしまおう。そう考えがまとまったところでタイミング良くエレベーターは最上階、社長室のあるフロアへと着いた。
「なにがあるかわからないから気を付けなさいよ頼朝」
「おけおけ、おっけ~」
物凄くいい加減な返事をすると頼朝は私の手を引きどんどん奥へと進んでいく。
社長室のあるフロアというだけあって廊下は綺麗なワインレッドの絨毯に高そうな絵画がずらりと並んでいて一見するとどこかの美術館か何かかと思わせる造りだ。
「やっぱりここにも誰もいないわね・・・・・・」
「むむう!この匂いは!」
辺りを見渡しながらボヤいていると頼朝がなにかに気づき急に歩く速度をあげる。
「ちょ、ちょっとなによ頼朝」
「こっちから巨乳ちゃんの匂いを感じるんだ」
「・・・・・・頼朝、あんたそんな能力ないでしょ」
あったとしても全然嬉しくない能力よね、それって。
「多分あれだ、普段貧乳と生活しているから嗅覚が巨乳に敏感になってんだなぁ、うん俺にはわかる」
「は、誰が貧乳だって!?」
走りながら繋いだ手を私は力一杯握ってやる。
「いたたたたたたっ!ちょ、ゴメン!サーセン!冗談です!」
「わかればいいのよ、わかれば」
全く、人が気にしていることをチクチクと言ってくるんだからこいつは・・・・・・。
「はぁ、でもここに巨乳・・・・・・じゃなかった東雲の娘さんはいると思う」
「本当なんでしょうね」
いまいち信じられないが扉の上のプレートには社長室と書かれている。魔王のところに囚われのお姫様がいるっていう頼朝の話からすれば間違いではなさそうだけど。
「それじゃ開けるわよ」
私は恐る恐る木製の両開きの扉を押す。頼朝と手を繋いでいる以上、中に誰かがいても私達に気づくことはないのだけど念のためだ。
「ん、あれは・・・・・・」
社長室の中には魔王なんていなかった。いたのは縄でぐるぐるに机ごと縛られていた二人の女の子。
一人は着物に金髪というアンバランスな組み合わせをした小学生くらいの小さな子で、もう一人は城川高校の学生服を着た黒髪に眼鏡の女の子・・・・・・予め東雲景造に送ってもらった写真からしてこの子が東雲千影さんだというのがあwかる。
そして私はその子の身体の一部を見て、小さく「なるほど」と頷いた。
「智佳!ほらみて俺の言った通りっしょ、あの子巨乳通り越して爆乳・・・・・・いや、はいすいません」
テンション高く話を振る頼朝だったが私の顔を見てビクリと肩を震わせ押し黙った。ん~別に私怒ってなんてないんだけどな、本当に怒ってないんだけどな。
「とりあえず頼朝、縄ほどいてあげて」
「おけおけ、おっけ~」
頼朝が私から手を離し二人の少女の元へと向かう。
けどまぁあっさり東雲千影さんが見つかって良かったわ、これなら私も力を使わなくて済みそうだし。
「・・・・・・侵入者、光秀ちゃんが、みつけたよ」
「えっ!?」
背後からした声に私は慌てて振り向く。しまった、あんまりすんなり行き過ぎて頼朝と手を離した瞬間から私の姿は見えちゃうの忘れてた。
でも・・・・・・
「お嬢ちゃんこそ、こんなところでなにしているのかな?勝手にこういうところ入っちゃダメよ」
私は咄嗟に頭を切り替えてとりあえず演技をしてみせた。
なぜなら私の目の前に立っていたのは捕まってた着物の子と同じくらいの背丈の女の子だったからだ。
これが犯人の仲間とかだったら厄介なことになってたわ、気を付けないと。
「どこのだれ、貴女達こそ、なにしてる、家康さまの、邪魔するものか・・・・・・字余り」
革製のレインコートに大きな大きな本を持った女の子はじっと見つめてくる。その目はじつに可愛くない、明らかにこちらを疑っているという目だ。
というかなんでこの子さっきから俳句や短歌調で話すんだろう、凄く気になる。
「家康様ってなにお母さんの名前?徳川家康みたいだね、それじゃお嬢ちゃんの名前は?」
とはいえ相手は子供だ、騒がれたら騒がれたで困るし穏便に済ませないと思ったのだけど
「わたしの名、明智光秀、よろしくね」
「あっ、自己紹介どうも。私は茜依智佳っていうの」
自然と交わした自己紹介だったが私はその女の子の名前を聞いて笑顔のままゆっくりと後ずさる。
明智光秀って戦国武将の名前よね、そんなの女の子に到底つけるような名前じゃない・・・・・・ということはもしかして
「お嬢ちゃん、『イクサカーニバル』の武将ね」
「それを知る、あなたはやはり、敵ですね」
「っ!」
さっきまでは私に殺気も感じさせないほど大人しかった女の子、明智光秀に今は禍々しくて鋭い殺気が渦巻いている。
「頼朝、縄はほどけた?逃げるわよ」
「あっ、めんご!ちょっと巨乳に見とれてた」
「はぁ!?」
後ろ振り向くと麺棒で伸ばしに伸ばしたような鼻の下をしたご満悦頼朝と変わらず机ごと縄で縛られたままの少女達がいる。
「あんたなにしてんのよ!」
「智佳、言い訳させてくれ・・・・・・天地神明に誓ってまだ触ってないっす!起きたらちゃんとお願いして触らせてもらおうと考えてはいるけどな!にしし」
「それどころじゃないわよ。敵に見つかってるの!」
「へ?」
私の言葉にようやく頼朝は明智光秀の姿に気がついたようで立ち上がると徐に私の前に立つ。
「頼朝・・・・・・?」
「なんだよ智佳、こんな弱そうな奴にびびってんの?こんな奴ワンパンでチョロいって」
そう言って頼朝はボクシングのシャドーをしだすが・・・・・・強そうな相手ならいざ知らずこんな小さな女の子にそう言っているんだから全然格好がついてない。
「ふふん、その小さな胸が大きくなってから来た方がいいんじゃなかなぁ~?幼女とはいえ貧乳には容赦ないからな俺」
「戦うの、ここではなくて、別の場所」
頼朝の個人的に腹の立つ挑発にも明智光秀は落ち着き払った口調でそう言い、手に持った大きな本を広げる。
「扉開き、こんてんぱんに、家康様に、仇なす者を、皆殺しです」
明智光秀が本から手を離し、本が床に触れるとそこから魔方陣のようなものが部屋中に広がる。
「な、なんかヤバイ感じなんですけど智佳!」
「私に言わないでよ!あんたが変なことを・・・・・・」
そこまで言いかけたところでガクンと床が抜けたようにして私達の身体と意識は文字通り落ちた。

「っ~~~!なにが起きたのよ」
私が気がついたときには周りの様子は一変していた。先程までいたのは株式会社イクサの社長室、けど今目の前に広がっているのはどこまでも続く砂漠だ。
照りつける太陽と熱せられた空気、川のように流れる砂はまるで本物のように感じられる。
「『イクサカーニバル』の世界に放り込まれたみたいね」
さっきの明智光秀のやったことは『扉形成プログラム』を使って私達を連れ込んだといったほうがいいだろう。
でも私も何度かこちらの世界に来たことはあるけどあんなやり方があるなんて聞いてなかったから油断したわ。
というか本来現実世界の人間は『イクサカーニバル』の入れないらしいんだけどどうやら私は特別らしい。
なにか名前が関係しているってあの変態童貞が言ってた気がするけど、まぁ今はそんなことどうでもいい。
「あれ、ところで頼朝は?」
「足元、足元!さっきから踏んでるんすけどぉ!」
「えっ、あっごめん」
慌てて私は足を退けると砂に埋まっていた頼朝が起き上がりまるで水浴びしたあとの犬のように身体を震わせ砂を撒き散らす。
「いやぁ~砂漠で岩盤浴すると死ねる、いいことを学んだ」
「あんたねぇ、なにやってんのよぉ・・・・・・それより明智光秀は?」
「ここよ、ここ」
その声に振り返るとそこには砂漠の真ん中に玉座を置いて座る明智光秀?・・・・・・がいた。
いや、返事したから明智光秀なんだろうけどなにかさっきとは姿からして様変わりしている。
社長室で見たときはなんか暗そうな文学少女?みたいな感じだったのに今は黒のボンテージ姿で背も私達と同じくらいに伸びている。体つきもなんていうかあれだ、うん・・・・・・豊満でエロスが滲み出してて、なにより……
「うぉぉぉぉっ!!小さい胸が大きくなっとる!」
「ふぅ~~~~。まぁあの身体じゃあ戦えないからねぇわたくし」
頼朝の言葉に光秀は玉座に肘をつきまるで低血圧女子の憂鬱のようにアンニュイさを醸し出している。
と、いうかあの変なしゃべり方は小さい時だけなのね。
「はぁ~~~~。そっちの女の子まで『イクサカーニバル』に来れるとは思ってなかったけどぉ、まぁどっちでもいいわぁ」
光秀が立ち上がると同時にその手にはどこからともなく大型の鞭が握られる。
なによ、あれ!サーカスのライオンをしつけるときに使うようなイメージの鞭なんだけど・・・・・・これもうボンテージ姿と合わせて完全にSMの女王様な感じじゃない!
「家康様に仇なす輩は調教してあげるわ、さぁいらっしゃい」
「ひぃぃ!智佳なんとかして!」
鞭をしならせ空気の破裂音を出す光秀に頼朝が情けない声と共に私の後ろに隠れる。
全く、さっきまでの勢いはどうしたのよ。
「頼朝・・・・・・普通、男子が女子を盾にする?」
「いやだって鞭とかヤバイじゃん?痛そうじゃん?」
「あんたねぇ・・・・・・」
私は溜め息をついて背中にまとわりついてる頼朝を力任せに引き離すとゆっくり明智光秀に近づいていく。
結局なんだかんだ言って毎回毎回、私が戦うことになるんだから嫌になる。
「ふぅ~~~~~。あら貴女から調教されたいの茜依智佳」
「私を調教するのは骨が折れるわよ」
「へぇ~~~?見たところ普通の女の子に見えるけどぉ?」
普通の女の子、か・・・・・・そう見えているのなら少しはましに見えてるのかな、女子力の高いゆるふわカールの女子大生に。
・・・・・・でも、それをいつも邪魔するのはあの変態東雲景造に源頼朝、そして『イクサカーニバル』のキャラクター達だ。
「ほらほらぁ~当たると肉が削ぎ落とされるわよぉ」
そう言いながら繰り出される光秀の鞭を私は右へ左へと身体を動かし避けていく。
「な、当たらない!?」
「そりゃま、この程度じゃね。もうちょっと力を入れて振らないと・・・・・・ほら」
まるで空中に舞う蛇のように動いている光秀の鞭を私はスッと手を伸ばし掴み取る。
「鞭は上手い人がやるとパンって音がするでしょ、あれ音速越えてるからなのよね。まぁ音速程度じゃ私には効かないけど」
「な、なんなのよ貴女・・・・・・ただものじゃない?」
驚いた様子で鞭を引き離そうと光秀が力を込めるが勿論そんなもの私の前じゃまさに蟷螂の鎌なのは言うまでもない。
本当私としてはこんな力全くいらないってのに───
「明智光秀さん、貴女は好きな人に『男みたいな手』だって言われたことあります?」
「えっ、は?なんの話ぃ?」


・・・・・・私は言われたことがある。
私の実家は古武術の道場で物心ついたときから、私は大人に混じって武芸をやっていたの。
強くなるのが楽しくて、試合で対戦相手に勝つと皆が誉めてくれるのが嬉しくて気がついたら私は家の古武術だけでなく色んな格闘技を学んで修行ばかりしてた。
中学に入った頃には空手、剣道、柔道からテコンドーや少林寺拳法・・・・・・とにかくありとあらゆる格闘技を吸収し強くなり色んなところで一目置かれる存在にまでになったのはよかったんだけどちょうどその頃、私は強さではどうにもならないものを知ってしまった。

───それは恋。

私の初恋の人は同じクラスの男子。
退屈な授業中をくだらないギャグを言って盛り上げたり休憩時間は教壇で漫才の真似事をするようないたって普通の、クラスのどこにでも一人はいるようなムードメーカー。
だけど優しいところもあって困ってる人がいるといち早くすっ飛んでいく素敵な人。
三年生のクラス替えまで全然彼の事なんて知らなくて「なんで一年生の頃から彼と一緒じゃなかったのよ!」と授業中楽しそうに話している彼の背中を見ながら思ったこともある。
そして一年間そんな想いをミルフィーユのように積み重ね、私は卒業式、彼に告白した。
結果は勿論惨敗、でもそれは最初からわかってた。だってほとんど話したことないんだもん。
でもその時はスッキリしてた、想いを伝えれて私はそれで満足してたんだ・・・・・・あの言葉を聞くまでは。
『俺、茜依に告白されたけど断ったんだよね~なんていうかあいつ女っていうか男じゃん?手とかゴツゴツで男みてーだし』
帰りのバスの中で彼が楽しそうに隣の彼女に話しているのを聞いてしまった。
一緒のバスで帰ってたなんてその時まで気がついてなかった。
可愛い彼女がいるなんて知らなかった。
でもそれよりも彼のその言葉が一番私の心を深いところまで抉っていた。


「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」
私は掴んだ光秀の鞭を強く握りしめ、大きく息を吐く。
だからあの日から私は格闘技なんてやめた。
大会で取ったトロフィーや賞状を捨て、化粧品とファッション雑誌を買い漁り可愛らしい女子を目指すことにしたんだ。
目の前の光秀の顔に初恋の彼の顔が重なる。
だってのにこいつらは私にこの力を振るわせようとするんだから!
「せいやああああああああ!」
「ちょ・・・・・・がっ!」
鞭を自分の元へと引き寄せ光秀がよろめいたところに私は渾身の拳を叩き込む。腰を落とし、砂を力一杯踏みしめてたことで生じたエネルギーを全身から腕の先、拳にまで伝わらせた一撃は正確に光秀の顔面を捉え、遥か地平線の彼方まで吹き飛ばす。
「で、でたぁ!男女平等顔面パンチ!ひゅー!かっこいー!」
「言ったでしょ、私を調教しようとすると骨が折れるって……ま、聞こえてないと思うけど」
私の後ろで小躍りしながら燥いでる頼朝は放っておいて私は小さく呟いた。
ゆっくりと景色がブレていき一面に広がる砂漠は元の社長室に戻っていく。
「さぁ頼朝、さっさと帰るわよ。今度こそちゃんと縄解いてよね!」
「うぃうぃ!任しておきなさい!」
頼朝は頷くと素直に二人の縄を解いていく。そのあっさり加減に「最初からさっさと縄を解いてれば私が力使わずに済んだのにな」なんて思うがそれは今更遅い話か。
「よし、これで縄は解けた!次は~とりあえず智佳、ほい!」
頼朝がにししと笑いながらこちらに手を出す。
「とりあえず手を繋いどこうぜ?また見つかっても厄介だしな」
「……ま、そうね」
私は静かに頷くと差し出された手を握り返す。
チャラ男で巨乳好きでそのくせなんでか私よりも料理やら裁縫やらなんでもできる女子力高い源頼朝、でも───
能力のためとはいえ、私のこんな男みたいな手を握ってくれるのは、あんただけ……かもね。




──────




『僕は本を買うとまず結末を読む。読み終わる前に死ぬと困るから……この意味がわかるかい平野頼友君?』
「いや、正直浅学の僕には全然わからないんだけど」
僕、平野頼友はスマートフォン片手に困窮しきっていた。東雲景造さんに言われた仲間集めは正直上手くいっていない、やっぱり僕ってコミュ障なのかも。
だがそんなこともお構いなしに電話口の向こうの人物はため息を漏らすと実に面倒くさそうに言葉を続ける。
『つまり、それくらい僕は忙しいってことだよ。タイムイズマネー、わかるかい?』
「そこを頼むよ南条院!」
僕は思わず営業のサラリーマンのようにスマートフォンを持ったまま頭を下げる。当然それは電話の相手、南条院には見えてないのはわかってるがでもやらずにはいられなかった。
南条院は僕の同級生の一人で彼の元には『イクサカーニバル』の人気投票で一位になった前田利家がいる。正直戦力で言えば全く頼りにはならないところなんだけどそれでも誰もいないよりかは全然ましなんだ。
『そう言われてもねぇ、僕は君……というか北条政子に“法人所得税”の件で痛い目にあってるんだからね』
「ぐっ、それを言われると」
“法人所得税”なんのこっちゃと思う人もいるだろうから説明すると南条院は高校生ながらアイドルプロデューサーもやっていて前田利家と政子はアイドルユニット“法人所得税”というのを組んでいたことがあるんだ、ほんの一時的だけど。
鳴り物入りでデビューしてそりゃまぁ一時はテレビで見ない日はないってくらいに人気だったんだけど、政子が飽きてしまってアイドルとしてはあってはならないキス画像をわざと流出。解散に追い込んで南条院にはかなりの迷惑をかけちゃったんだよね。
どうでもいいけどその政子のキスの相手ってのは他でもない僕で、その時撮った画像は政子も知らないと思うけど僕のスマートフォンの壁紙にしてあったり・・・・・・ってそれはいまはどうでもいいか。
『その北条政子がなにやらピンチなのはわかるけどさ、助けに行ったところで僕にメリットがないじゃないか。こっちはまだ前田利家の撮影とかが・・・・・・あっ、ちょっとおい!』
「どうしたの南条院?」
電話口がなにやら急に騒がしくなる。何事かと思ってると次にそこから聞こえてきた来たのは南条院ではない、女性の声だった。
『もしもし、政子姉様がピンチって本当ですか!?』
「えっとその声は前田利家?」
『会話パターン、肯定。そうです、利家です!それで政子姉様がピンチなのって・・・・・・』
「本当だよ、それで君の前田利家の力を貸して欲しいんだ!」
僕は必死に叫ぶ。確かに南条院や前田利家からすれば僕や政子は二人の仕事を無茶苦茶にした戦犯だ、ずうずうしいのはわかってる、百も承知だけど今は頼らざるを得ないんだ。
『政子姉様がピンチ、それを私が救えるのなら・・・・・・私、行きます!』
「本当かい!?」
『会話パターン、肯定。勿論です!!それで場所……あ、ちょっと待って下さい南条院様!』
『絶対に駄目だから!このCMの仕事でおよそ一億の金が動いているんだぞ!』
耳を劈くような南条院の声に思わず耳からスマートフォンを遠ざける。ううむ、利家の方は協力的だけど問題はやはり南条院の方。でも確かにこのままお願いだけを続けてたって何億と金が動いているのをキャンセルしてまで彼が動くとは思えない。
彼を動かすには情とかそう言うのじゃなくてやっぱり現実的な金がなければならないが、当然毎日のポテチ代ですら苦労している僕にそんな金があるわけがない。
『それとも北条政子を助けに行くことで僕になにかメリットでもあるって言うのかい?』
「う、うーん。いやそれは勿論あるんだけど……」
なんとなくで言葉を繋げるがメリットなんてそうそう思い浮かんでいるわけもない、だがなんとかしないとこれじゃ政子を助けることもできやしない。
『へぇ、じゃあ聞かせてくれたまえ。僕が北条政子を助けに行かせることで得られるメリットってのを』
「それは……政子をもう一度アイドルをやらせるため、だよ!」
『な、なんだって?』
南条院の驚く声に自分でもなんでそんなことを口走ったのかわからない。そもそもあの飽きっぽい政子がアイドルなんてやってくるとは思えないんだけど……。
『ふむ、確かに“法人所得税”が復活となればそれなりに世間に取り上げられ金が動くな』
だが思った以上に政子のアイドル復帰は南条院にとって効果があるのかしばらく独り言をブツブツと呟くと
『わかった、それで手を打とうじゃないか平野頼友』
願ってもない言葉がその口から出てきたのだ。
「えっ、本当にいいの!?」
『二言はないよ、まぁ君も約束は守ってもらうけどね。それで大丈夫なんだろうね北条政子のアイドル復帰は』
「も、勿論だよ!それじゃ詳しいことはメールで送るから」
正直確約なんてできる気がしないがもうそう言いきるしかない。僕は南条院との会話を終わらせると終話のボタンをスライドさせソファに背中を預ける。
「とりあえず、一人確保・・・・・・か」
僕は大きく背伸びをすると安堵のため息を漏らす。
だが政子のためにもいつまでも休んでいるわけにもいかない、僕は再びスマートフォンを操作し電話帳を開く。
とはいえ元々少ない僕の電話帳にいる『イクサカーニバル』の関係の人なんて南条院の他にはあと一人しかいない。
「でも今度はもっと苦労しそうだな」
画面に表示されている『雪村芽衣』という名前を見てつい、凄く勧誘は大変なんだろうなぁと息を吐く。
芽衣ちゃんは夏休みにバイトでお世話になった海の家に住んでいる中学生。見た目の可愛らしさと人懐っこい言動で周りからの人気も一際なんだけどその実、芽衣ちゃんは男を食い物にする姫キャラというそれはそれは恐ろしい一面をもっているのだ。
「ううっ、大丈夫かなぁ」
姫キャラを演じている時の芽衣ちゃんはそれはもう妹キャラって感じで可愛いんだけどこれが本性を現すと怖いんだ。
でも芽衣ちゃんのところには武田信玄がいる、正直僕の知り合いの中じゃ彼女の強さはかなりのものだったからな。
「ええい、ままよ!」
僕は勢いのままに通話ボタンを押す。恐らく芽衣ちゃんのことだ素直には僕の言うことを聞いてはくれないだろうがまだ一応、南条院よりかはまだ作戦がある。
『はーい!お兄ちゃん、待ってたよ!!』
ワンコールも立たずに電話口にでた芽衣ちゃんにちょっと驚きを隠せない。以前にちょっと野暮用で電話した時にはやれ「こっちは暇じゃない」だの「なんだ童貞か」だの滅茶苦茶言われたんだけど、なにか今日はやたらと機嫌が良いし、しかも待ってたってなんだろう?
「や、やぁ芽衣ちゃん!あのぉ、待ってたってなんの話?」
まさか僕が電話をかけることを知ってたってことなんだろうか?それならそれで話は早いんだけど……。
『なにってぇ~もう芽衣のために超レア取ってきてくれたんだよね?あの源頼朝を倒せたらもらえるっていうレアも気になるけどあの北条政子を倒したらもらえる超レアなアイテム取ってきてくれたんだよね?』
「・・・・・・ん?」
なにやら芽衣ちゃんの言っていることがわからない。
『どうしたのぉ?耳元で芽衣の煮干しをちゅぱちゅぱする音を聴かせてあげるっていう御褒美は取ってこないとあげないんだからねお兄ちゃん』
「いやぁ・・・・・・あの、誰かと間違ってないかな?」
『んんっ?』
なんかその御褒美には興味がそそられるが僕が冷静に告げると電話口の芽衣ちゃんは怪訝そうな声をあげる。
そもそも政子を倒して貰える超レアなんてものが本当にあるのかわからないけど少なくとも僕は政子を助けるために動いているわけであって芽衣ちゃんとそんな約束するはずもない。
「・・・・・・ちっ、なんだ童貞か。紛らわしいな、今忙しいんだけど」
僕からの電話だとわかったのか、さっきまでの甘ったるい声とはうって代わり急に不良っぽい口の悪さをみせる芽衣ちゃん。
「忙しいのはわかるんだけどちょっと芽衣ちゃんにしかできないお願いがあってさ」
『お願いぃ?なんでクソ童貞のお願いを聞かないといけないんだよ』
「そこをなんとか!あの今イベントでボスキャラクターになっている北条政子は芽衣ちゃんも知っている北条政子で、倒されちゃったらこの世から消えちゃうんだ!」
『・・・・・・ふぅん、なるほどだからボスキャラクターが北条政子なわけか。でも私は超レア欲しいんだよねぇ』
やはり芽衣ちゃんも情とかでは動いてくれないか。なんていうか信用というか信頼というかそういうのがないんだなぁとは改めて思うけどまぁこの展開は予測済みだ。
「わかった。それじゃ僕の持っているレア装備全部あげるから手伝ってもらえないかな?」
『ぜ、全部!?』
芽衣ちゃんの声色が変わる。
それもそのはずだトップランカーだった頃の装備とまではいわないけど今でもそれなりにレア装備は持っているんだからな僕は。
『本当に本当!?芽衣に全部レア装備くれるの!?』
「ああ、本当だよ。レア装備全部あげるから助けてくれるかな」
『うんうん!!芽衣ずっと思ってたんだけど頼友お兄ちゃんって素敵だよね、大好きだよ!』
レア装備が貰えると聞いたら途端にこの手のひら返し、それで僕への罵詈雑言が消えると思っている辺りまだまだ子供だな。
レア装備を失うのは結構痛い話だがそれでも政子を失うよりかはずっとましだ。
「それじゃお願いだよ芽衣ちゃん!」
「はいはぁい!すぐ行くよ頼友お兄ちゃん」
別れの言葉を交わして終話ボタンをスライドさせる。これで二人か、本当はもうちょっと人数を集めれたらいいんだろうが今の僕にはそんな知り合いを作っている時間なんてない。
「でもあの二人なら何とかしてくれる、よな?」
「ほほいっとな、さぁ頼友君準備はできたかな」
独り言を呟いているとなにかの作業をしに奥の方へ行っていた東雲景造さんがフラフラとした足取りでこちらにやってくる。
「はい、まぁ・・・・・・二人だけですけど」
「二人ぃ!?え、君一応トップランカーだったこともあるんだよねぇ?」
「え、ええ・・・・・・まぁそうなんですけど。その別に僕はただゲームを楽しんでただけでリアルで出会いを求めているわけじゃないんですよ」
そう、僕はただ『イクサカーニバル』というゲームを遊んでいただけなんだ。それがまぁなんでこんなことになっているのか・・・・・・本当困ったものだよ。
「まぁ仕方ない、些か不安だがこちらも準備ができたからね。これを持って頼友君、『イクサカーニバル』の世界に行ってもらうよ」
少し困った風に顎を擦りながら東雲景造さんは僕の前に一つのUSBメモリーを差し出す。
「これは・・・・・・?」
「そこには僕が作ったプログラムが入っている。使い方とかそういうのは気にしないでいい、これは最終手段でできれば使いたくはない道具だしね」
「は、はぁ・・・・・・」
正直東雲景造さんの言っていることはよくわからない。
しかしそれを問いただす時間も今は惜しかった。
「わかりました。けど『イクサカーニバル』の世界に行く前にただ一つ、約束してほしいことがあります」
USBメモリーを受け取りながらまじまじと東雲景造さんの顔を見る。これから言うことは本当は言わない方がいい、けど政子を救いに行くのにこれだけは言っておかないといけないことだ。
「東雲景造さん、僕が政子を助け出したら・・・・・・政子の事は諦めてください」
「ほう・・・・・・」
僕の言葉に一瞬東雲景造さんの目が細くなる。そりゃそうだ、この人は政子を自分の物にするために今まで動いてきているのだから。
そしてだからこそ、ここで言質を取っておかないとまたなにかと政子を付け狙ってくるかもしれない。
「ふむふむ、なるほどね。千影が言っていたがなかなか強かなところあるじゃないか、わかったよ約束しよう」
「えっ、いいんですか!?」
あまりにも東雲景造さんがあっさりとこのことに承諾するものだから思わず聞き返してしまっていた。
「まぁ頼友君が北条政子のことを迷惑に思っていると聞いたからねぇ、だったら僕が引き取らなければと思っただけであって。こんなにも北条政子のことが好きで必死になっている君を見ていたらさすがに手を引かざるを得ないと思ったよ」
そう言って東雲景造さんは白い歯を見せ笑う。
なんていうかいつもならそんなことはないと否定するところだけど僕は素直に頷く。
もう自分の気持ちを偽ったりしない、そして政子に会ったらちゃんと伝えるつもりだ、僕の気持ちを。
「それじゃお願いします、景造さん」
「わかった、頼むよ頼友君!」
東雲景造がノートパソコンを操作すると『扉形成プログラム』を起動させる。
次の瞬間、僕の指先がゆっくりとプログラムコードのようなものに変わっていき次第に宙に消えていく。
「政子、待ってろよ」
僕の決意の言葉とほぼ同時だっただろうか、僕の意識は『イクサカーニバル』の世界へと・・・・・・落ちた。


「くっ・・・・・・」
意識が覚醒する。
辺りはすでに青々しい草原の広がる『イクサカーニバル』の世界で僕の目の前にはかなりの数の人だかりと金属のぶつかり合う音が響き渡っていた。
『くっそ、なんでボスキャラクターを守ってるんだよこいつ!』
『ギルドメンバーが集まるまでの時間稼ぎじゃね?』
プレイヤーのメッセージウィンドウが飛び交う。あの中心に伊達政宗と政子がいるのは間違いない。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」
気合いの雄叫びをあげ僕はその人だかりに向かって走り出す。
『あとちょっとで倒せるんじゃね』
『MVPはうちのギルドがいただくぞ』
そんなメッセージウィンドウを避け、目の前にいる押し退けていく。押し退けられた武将は驚いたように振り向くがどうやらプレイヤーに僕の姿は見えていないらしい。
「どけぇぇぇぇ!」
僕は持てる力一杯に武将達を押し退け人だかりの中心に転がり込む。
「はぁはぁ・・・・・・政子、助けに来たぞ!」
「ふぇ・・・・・・よ、頼友?」
僕の叫びに政子の視線がこちらを向く。政子は伊達政宗に庇われる感じでへたりこんでいる。服はボロボロで、自慢の真っ赤なツインテールもほどけてしまい、その姿を見た瞬間僕はグッと胸が締め付けられる思いだった。
「なんで・・・・・・ここに来たら頼友も巻き込まれるって、だから逃げてって」
か細い声で言う政子に僕はよろめきながらも歩み寄る。
「そんなことできるかよ、でも間に合ってよかった」
「頼友・・・・・・」
僕を見つめる政子の瞳にうっすらと涙が滲んでいた。
なんだかんだ口では強がってたけど今にも泣きそうな顔してるあたり政子の奴、相当まいってたんだな。
「あの、感動の再会のところ失礼しますが・・・・・・私の体力はギリギリです」
そんな少し政子に見とれていると刀で敵を凪ぎ払いながら背中越しに伊達政宗の声が聞こえる。確かに鎧は所々破損しそのダメージは相当なものになっている。
「伊達政宗、政子の事を守ってくれてありがとう!君がいてくれなかったら多分持たなかったと思う」
「・・・・・・私は東雲景造に言われたことをしているだけ。平野頼友、貴方がここに来たと言うことは仲間は集めれたということ?」
「ああ、もう来ると思う。あと少しの間耐えてくれ」
僕の言葉に伊達政宗はなにも言わず刀を振るいそれに答える。
ダメージがあるとは言ってもやはり僕がトップランカーだったころに使っていたキャラだ、並みのキャラクターじゃ相手にはならないだろう。
「ちょっと頼友、なんで伊達政宗が私を守ってくれるのかもわからないけど仲間って・・・・・・?」
政子の問いに僕はそう答えると政子の腕を取り自分の方へと引き寄せる。
「まぁこっちも色々あってね。説明してる時間はないけど、でも大丈夫だ政子・・・・・・もうすぐ来る」
「頼友・・・・・・うん、ありがと」
政子は安堵の息を吐くと僕に身を預けるようして倒れ込む。
かなりの疲労だったのだろう、でも大丈夫だ・・・・・・僕が政子の事を守ってやる。
そう思った矢先だった、僕達を取り囲むように周りの地面から爆発音と共に赤や青、緑色をした煙が吹き上がったのは。
『ん、なんだ!?この爆発は』
『ボスのスキルかなにかか!?』
プレイヤー達の武将の動きが止まり、混乱したメッセージウィンドウが飛び交う。
だが僕にはそれが誰なのかはすぐにわかった。
「平野頼友、この煙は私達の味方のものなのか?」
「間違いない、これはこの煙は・・・・・・」
辺りを見渡し警戒する伊達政宗に僕が答えようとすると先程よりも大きな爆発音がそれをかき消し、煙が舞い上がる。
「はいはぁ~い、今日は私に会いに来てくれてありがとう~!!!」
煙の中から甲高いそんな声がすると突如として辺りに音楽が流れ出す。
『この曲って、あれじゃないのか?』
『確かアイドルデビューした・・・・・・えっ、でも今なんで?』
プレイヤーの何人かがこの音楽に気づいたのかメッセージウィンドウをだす。
そうアイドルの曲とは思えないようなおどおどしい伴奏から始まるこの曲『脱税は許さない!私は又差の女』は僕も知っている“法人所得税”改め“地方交付税”のデビューソングだ。
まぁこれが又差とマルサをかけているというのに気がついたのはだいぶ後だったけどな。
「槍をブンブン振り回し、若い頃は歌舞いてなんぼ!目指せアイドルの加賀百万石 、槍の又差な前田利家ですっ!みんな盛り上がっていこ~!」
その掛け声と共に突風が吹き、煙を吹き飛ばす。すると僕たちの目の前に一人のアイドルが姿を現した。
緑色のストレートロングにピンクのフリルが沢山入ったドレス、装備品は頭にはトレードマークでもある算盤のアクセサリー・・・・・・それは紛れもない『イクサカーニバル』のアイドル、前田利家の姿だった。
『イクサカーニバル』人気投票で一位になった前田利家はゲームのキャラクターのまま現実世界で一躍人気になったアイドルだ。
現実世界では『ゲームのコスプレをしたアイドル』と言う形で、ゲーム内では『アイドルの前田利家が操作しているキャラクター』ということで通っている。
「前田利家、来てくれたんだね!」
「会話パターン、肯定。お待たせしました、政子お姉様、頼友さん、私オーダーこなします」
前田利家はこちらを振り向きぎこちない口調でそう告げる。アイドルの時と普通に話すときのギャップは相変わらずといったところだ。
「前田利家・・・・・・とても戦えるとは思えない」
「会話パターン、肯定。伊達政宗、貴女の言うように私に戦闘の力はありません。ですが他にできることがあります」
横に並ぶ伊達政宗の言葉に前田利家はそう返すと一歩前に踏み出す。
「それじゃみんなー!今から前田利家特別握手会をはっじめっるよぉ~!」
『うっそ、まじか!?』
『特別握手会だって!?』
ざわめくプレイヤー達を前に利家は満面の笑みを浮かべ続ける。
「私と一杯握手してくれた人には特別に特製アイテムあげちゃいます!ささ一列に並んで奮って参加してね!」
『特別アイテムだって!』
『これは並ぶしかないなぁ』
利家の誘導で僕達を囲んでいたプレイヤー達が武器をしまい、ぞろぞろと利家の前に整列し出す。
「なるほど、これが前田利家のやり方か」
思わず関心してしまった。アイドル前田利家の影響力ってのを僕はあなどっていたのかもしれない。
さっきまでレアアイテム狙いで殺気立っていた戦場が前田利家の登場で一気にアイドルの握手会に早変わりした。
全員が全員、アイドルファンってことではないんだろう・・・・・・まして普段二次元世界にどっぷりな『イクサカーニバル』のプレイヤーからすれば三次元のアイドルなんて無関心って人も多いはずなのに前田利家はその場にいる全員を引き付けるような魅力をみせている。
「・・・・・・これで、少しは落ち着ける」
伊達政宗が刀を地面に突き刺し片膝をつく。確かにこれで政子を狙う人がいなくなれば後は徳川家康を捕まえればと思ったその時───
「ざぁんねん、伊達政宗ちゃんまだまだ休めないんですねぇ」
「な・・・・・・徳川家康!」
まさに探しだそうとしていた徳川家康が僕達の目の前に自らその姿を見せたのだ。
徳川家康を捕まえなければいけない僕達とは違い、徳川家康はわざわざ政子を捕まえるのに自ら出張ってくることはないはず……それだというのになんでこの場に現れたんだ?
「はぁ、たかが北条政子を消すのにいつまでかかってるんですかぁ?本当使えない人間達ですねぇ」
だがそんなことも気にせず青い髪をかきあげ徳川家康はゆっくりとした足取りで前田利家の前に並ぶ列に近づく。
『おや、君も利家ちゃんと握手したいのですか?それならば後ろに並んで……』
「そんなわけないじゃないですかぁ、邪魔だから消えてほしいだけですぅ」
『へ?』
プレイヤーの一人が呆気にとられている中、徳川家康は大きく息を吐き指を鳴らす。すると空間が割れそこから一人の武将が姿を現す。
現れた武将は並み居る屈強な戦国武将の中でも少し小柄、頭には兜ではなく白い布を頭に巻き、顔にはなにか強面の男の人を模した仮面を被っていた。
頭に被ったその布からそれが誰なのかは『イクサカーニバル』のプレイヤーならすぐにわかること……
「やりなさいですぅ、輝虎!」
家康の指示にその輝虎と呼ばれた武将が腰に構えた刀を振るう。
それは静かだけど素人の僕が見ても美しいと思うほどに優雅な軌跡を描いていた、だが次の瞬間。
「えっ、なにが起こった!?」
そう言わざるを得ないような出来事が目の前で起こっていた。
輝虎の刀は僕から見るに空を切っていた。それは演舞のような一振りだったはずなのだけど、それによって前田利家の前に並んでいたプレイヤーの列が・・・・・・その、跡形もなく消え去っていたんだ。
「他愛もないですぅ、やはり人間なんかに頼るのは作戦としてミスでしたねぇ」
家康の笑い声が辺りに響き渡る。
無論消えたのはゲームのキャラクター、プレイヤーがわざわざ悲鳴とかあげるわけでもないのだけどそれで輝虎……別の名で言えば上杉謙信の強さは異常過ぎる。
「会話パターン、否定。徳川家康、私のファンを攻撃するのは許せない」
「・・・・・・まだ厄介なのが残っていた、徳川家康それに上杉謙信」
前田利家がマイクスタンドを模した槍を構え、伊達政宗が刀を手に取り立ち上がるが正直この二人じゃ・・・・・・
徳川家康は『イクサカーニバル』のゲーム中じゃそれほど強いと言われるキャラクターじゃない、相手が彼女だけっていうのならこの二人でもなんとかなっただろうが上杉輝虎の強さは僕からしても異常だ。
「前田利家に伊達政宗、貴方達じゃ私が作った毘沙門天の化身仕様の上杉輝虎に勝てるわけないですぅ」
「毘沙門天の化身仕様・・・・・・」
毘沙門天ってのはよくわからないけどあれだ神様の名前、だよな?それの化身仕様ってもはやゲームと言えど勝てる相手じゃないんじゃないか、これ!
「くそ、なんだよそんなチートなキャラクター作りやがって!」
「なんとでも言うがいいです平野頼友。それに言ったはずですぅ、私の作戦にぬかりはないとね。東雲千影ならいざしらず、ただの童貞に負けるわけないじゃないですかぁ」
僕の言葉に嘲笑うように徳川家康は言うと指を鳴らす。するとまるでピタリと止まっていた上杉謙信が人形か何かのようにカクカクとした動きでこちらを向く。
「他愛もない童貞が勝利の鍵とかちゃんちゃらおかしいですぅ」
家康の言葉に警戒するように前田利家と伊達政宗が並び立ち構えるが正直この上杉輝虎には勝てる気がしない。
さっきも言ったが徳川家康だけならまだ二人でなんとかなったかもしれないが輝虎はそうはいかない、僕みたいな素人でもわかる尋常でない力を感じるんだ。
あと一人でもこちらに味方がいれば話は違ったのだろうけど、そう都合良く味方が現れたりしてくれるなんて・・・・・・
「おや、ちょうどいいタイミングってやつなのかな?」
その時だった。まるでそれは僕の願いを聞きとげたようにして僕の背後から声がする。
慌てて振り返るとそこには180cmはあろうかという大柄でジーパン姿に胸元をさらしで巻いただけというラフな格好の武将、武田信玄が長く伸びた伸びた髪をかきあげながらこちらにやってきていた。
「遅くなったね頼友。雪村がなんだかんだでぐずってね、しかしまぁ……」
信玄は僕の横をすり抜け徳川家康の前に立つ。
「黒幕が徳川家康とはね。あたしの強さに漏らしてた頃から随分と成長したじゃないか」
「だ、だ、誰が漏らしたですかぁ!それは史実上の徳川家康であって私じゃないですぅ!」
信玄の挑発に家康は眉間に皺を寄せ反論する。
「まぁどっちだっていいさ……それにもう一人は上杉謙信か、川中島の戦いの延長戦ってところか」
「……。」
信玄は腰の野太刀を引き抜くと上杉輝虎に突きつける。輝虎は仮面を被っているので表情こそ読めないが首だけ動かしじっと信玄を見つめているようだった。
「ふふん、ただの上杉輝虎じゃないんですぅ!いくら武田信玄、貴女が来たところで毘沙門天の化身の前には無力なのよ!!」
「……かもね、けど足止めくらいはできるはずさ。頼友!」
「は、はい!」
張り上げた声に驚きながらも返事をすると信玄は野太刀を構えたままゆっくりと僕達のところまで後退る。
「頼友、政子ちゃんを連れてここから離れな。はっきり言って謙信公の強さは異常だ、頼友や政子ちゃんを守りながら戦える相手じゃない」
「で、でも!!」
確かに僕じゃなんにも役に立たないどころか戦いの邪魔になるだけ、それはわかるけどまた僕は逃げないといけないのか?
「逃げたくない気持ちはわかるし、一緒に戦ってくれるという意思は十分伝わってるよ。でもあいつに勝つには政子ちゃんの体力が回復しないといけない」
まるで心の中を読んだかのように信玄は告げる。
「この仕事を任せることができるのは戦えない頼友、あんただけなのよ」
信玄の言葉に前田利家や伊達政宗が僕達を守るように周りを囲む。
「……確かに北条政子ならなんとかなるかもしれない。そのためにもここは逃げて」
「会話パターン、同意。戦いは苦手ですけど私でも頼友さんよりかは戦力になります、だから……」
利家と政宗の言葉に僕は小さく頷くと政子を抱きかかえると立ち上がる。本当は信長様や東雲さんの時のように逃げるってことはしたくはない、でも政子の力が必要だっていうのなら仕方ない。
けどゲームのキャラクターとはいえ犠牲になるってのは正直今回限りにしてほしいよ、信長様が死んで消えてしまった時のような想いは二度としたくない。
「それじゃ合図したらあたし達は一気に謙信公に攻撃する。頼友は全速力で走って!」
「わかったよ、でも皆無理はしないで!」
信玄の言葉に利家、政宗……そして僕は頷く。
「あらあらぁ?まだ勝てるとでも思っているのですかねぇ、輝虎現実を見せてあげなさい」
「……。」
家康の指示で輝虎は腰の刀を引き抜くと平に構える。すると大気は震え、輝虎の周りを薄ぼんやりとした騎馬兵が次々と姿を表していく。
その数は次々と増えていき何十、何百ともの騎馬兵が輝虎を中心に囲むようにして各々が槍を構えている。
「謙信公お得意の車懸りの陣か、もはや猶予はないわね……行くわよ皆!3……2……1……」
信玄のカウントダウンに全員がその場にいた全員が息を飲む。
「行きなさい輝虎、全員皆殺しよ!!」
「0ッ!」
家康と信玄の声が交差する。それと同時に僕は脇目も振らずに走りだした。
輝虎の騎馬兵が地面を駆ける音が怒号のように響き刀や槍のぶつかる音がする。車懸りの陣は敵を中心に放射状に並び回転しながら攻撃、脱出を繰り返し相手を殲滅する恐ろしい攻撃手段だ。それを前にして武田信玄達がどうやって立ち向かうのか、それは僕にはわからない。
だが振り返ることなんてできなかった。
僕の今やることはできるだけ遠くへ逃げることだけなんだから……。



「ハァハァ……ゲームの世界なんだからこんな体力まで忠実に再現しなくてもいいのにな」
どこまでも広がる草原をどれくらい走っただろうか、政子を抱いたままってのもあるが元々体力のない僕にしてはかなりの距離を走ったと思う。
もうさっきまで耳を劈くように聞こえていた上杉輝虎と武田信玄達の戦う音は聞こえない。
「……でも、どこまで行っても助かるわけじゃない」
息を切らし地面にへたり込む。どこまで遠くへ逃げても、ゲームの中から今の政子は出ることができない。
武田信玄達は恐らく上杉輝虎には勝てないと、思う……。あの上杉輝虎の強さは尋常じゃない、いくら武田信玄、伊達政宗、前田利家の三人でも正直傷ひとつつけれるかどうかといった感じだろう。
それがわかっていた、多分それは僕だけじゃない武田信玄達もだ……わかっていて全てを僕と政子に託した。
「んんっ……あれ、頼友?」
「政子!気がついたのか」
「んー、おはよう頼友、ふわわ良く寝たわぁ」
僕の腕の中でまるで何事もなかったかのように政子が目を覚まし大あくびをする。
「あのなぁ、お前が寝てる間に事態は色々と大変なことになっているんだからな」
「……わかってる。それで頼友は助けてくれたんだよね、ありがとう」
「べ、別にお前を助けたのは武田信玄に言われたからであってだな」
思わず照れ隠しでそう言う僕に政子はため息を付くと大きく背伸びをする。
「なにそれツンデレ?とにかく降ろして頼友」
「う、うん……」
政子に言われるまま僕は政子を地面に下ろすと政子はもう一度大きなあくびとともに背伸びをする。
「敵は徳川家康、それと上杉……輝虎?謙信?だっけどっちなのよ全くもう」
「輝虎も謙信も同じ人だよ、というかもしかして聞いてたのか政子?」
てっきり僕に体を預けた瞬間から政子の奴は疲れて寝てしまったのかと思ったがどうやらそうではないらしい。
「まぁね、本当疲れてて反応はできなかったけど」
そう言いながら政子は結ばれている髪の片一方を解くとゴムを口にくわえ長い髪を後ろでまとめ上げる。
「徳川家康はどーでもいいとして、その輝信ってのを倒せば勝ち目はあるわけね」
「輝信って名前ごっちゃにするなよ……というか勝てるのかあれに?」
正直政子は休んでいたとはいえ完全に体力が回復しきっているわけじゃない。いくら政子がテストプレイ用のキャラクターでステータスが限界まで設定されててスキルも使いたい放題といってもあの上杉輝虎は規格外の強さだ。
レベル100が限度としたらそんなのを無視してレベル1000あるようなそんなキャラクターを前に政子は勝てるんだろうか?
それに今の政子は『イクサカーニバル』のボスキャラクターとなってしまっている。それは一度でも死んでしまったら復活することはできず無に帰してしまうことを意味する。
「ま、多分正面から殴り合ったら勝てないわね。でも私には作戦があるのよ、作戦がね。頼友、ちょっと耳貸して」
髪を頭の後ろで束ねてポニーテールにした政子が僕に手招きをする。
「なんだよ、別に今ここには他に誰もいないんだから普通に話しても……」
「いいからいいから!ほら耳を貸す!」
「痛っ!いたたたっ!ちょっとなにするんだよ政子」
もたつく僕の耳を政子が強引に引っ張ると耳元で囁く。
「…………それでね……するの」
「はぁ!?」
政子に作戦を耳打ちされた僕は思わず驚きの声を上げ政子から離れる。いや、政子の作戦はわかりやすい、わかりやすいんだけど……
「本当にそんな簡単な作戦で上手くいくのかよ!」
政子の作戦ってのはもうシンプル・イズ・ベスト、それ以上でもそれ以下でもないあまりに簡単な作戦に思わず聞き返してしまう。
「大丈夫、大丈夫……もし失敗したら一緒に死んであげるから」
そう冗談でもない軽口を叩く政子の表情はいつになく真剣そのもので、それはこの安易な作戦をそれで行こうとする確固たる意思が感じられる。
作戦が失敗したら、政子は消滅し……僕は現実世界で植物人間のような状態になる。全くもって考えたくない話だけどそれが、その可能性がもうほんの少し近くまで来ている。
もっとしっかりとした入念なる考えのもとに作られた作戦ならって思うけど、もはや政子とは一蓮托生だ……この作戦にかけるしかない。
「わかった、政子が言うならその作戦でいこう。でもその前に伝えたいことがあるんだ」
「ん、伝えたいこと?」
僕の伝えたいこと、それがなんなのかわからないだろう政子は不思議そうに小首を傾げる。
今から僕が言うのは本当だったらこんな気持ち、ずっと胸の奥にしまっておければいいと思ってたことだ。
でも失敗したら最期になってしまうかもしれないこの戦い、伝えなければきっと僕は後悔する。
「政子……」
「な、なによ頼友!改まっちゃって……」
僕はそっと政子の白くて細い手に触れ、政子の瞳をじっと見つめる。政子はなにがなんだかよくわかならいって顔してるがやっぱりその可愛いと、思う。
心臓が自分でも考えられないくらいに脈動している。それは今日一日緊張の走るドキドキすることばかりだったけどそのどれよりも強く激しい。
全身に血がものすごい勢いで流れ、多分きっと僕の顔は真っ赤も真っ赤、とんでもなく赤くなっているだろう。
「政子、僕は……」
「う、うん……」
政子も僕の様子からなにかを感じとり、察したのだろうじっと僕の顔を見つめている。
本当は僕の方から言いたくなんてなかったんだ、この台詞は───
「僕は、平野頼友は政子、お前のことが好きだ」
「えっ……!?」
その言葉を言った瞬間、遠くで爆発音とともに草原の向こう側で大きな火柱があがった。それは上杉輝虎と武田信玄の戦いの余波、なんだろうか?
一生懸命戦ってくれている信玄さん達には悪いがそのときの僕はその爆発が……まるでハリウッド映画のラストの演出のようにしか映っていなかった。
大きな爆発を背後に最初こそ啀み合ってた男女だけど、なんだかんだでキスする、そんなシーンを僕と目の前の政子が演じると───
───思ってたんだけど
「ぷっ、ぷぷぷっ!」
なぜか目の前の政子の奴はなにがおかしいのか笑いを堪えるように口を抑えだしていた。
あれ、なんだ!?ここそういうところじゃないよね?爆発を後ろに政子が「うん、私も頼友の事大好きっ」って言ってなんか「そんなことしてないで逃げろよ」って言いたくなるような長い時間キスするシーンじゃないの!?
「な、なにがおかしいんだよ!!人が折角……その、告白してんのに!」
「あっ、ごめんごめん。なんていうか頼友からそんなこと言われると思ってなくて、ええっと……」
なんで笑われているのかわからない僕を前に政子は一歩後ろに下がると深々と頭を下げる。
「私に告白してくれてありがとうございます。とても嬉しいですけど、でもごめんなさい……私、他に好きな人がいるんです」
政子の口から出たのは本当丁寧で文句のつけようのない、『お断り』の回答だった。
あれ、なんで?どこでフラグミスった?どこで違うルートに入った?本当の僕のヒロインはあれか、東雲さんか?それとも信長様?いやそれとも伊達政宗?
「あ、あれ……じゃだ、誰だよ、その政子の好きな奴って!!」
もうワケが分からなくてしどろもどろになりながらも僕は叫んでいた。政子もてっきり僕のことをその、好きだと思ってた。口ではなんだかんだ言いながらもお互いがお互いを好きで、気にしてて……ほら夏休みのバイトの時もそうだったし、アイドルを辞めたときだってそうだったじゃないか!
「ん~頼友はわかってると思ってたんだけどなぁ、急にそんなこというからちょっと驚いちゃったじゃない」
前髪を手で弄りながらなにか言い出しにくそうに言う政子にほんの少し、ほんの少しだけど苛立ちが募る。
「だ、だから誰なんだよ!政子の好きなやつって!!」
「それは当然、源頼朝様に決まってるじゃない、じゃないったらじゃない?」
「なっ・・・・・・えっ、源頼朝!?」
思わず聞き返した言葉に政子は頷く。それは確かに僕がずっと政子から聞いてた、そのために政子がこちらの世界に来てるってのも。
「あ、勿論あの偽物じゃなくて本物のどこかにいる源頼朝様よ」
「はは、そうだったな。いや、すまん・・・・・・さっきのことは忘れてくれ」
僕の口から渇いた笑いが出た。
なんだ、初めっから僕なんて眼中になかったってことだったのか。
一人で盛り上がって本当バカみたいだ。
「そろそろ、家康達が来る・・・・・・。作戦通りにいくぞ」
もう恥ずかしさに政子の顔なんて見ていられなかった。僕は政子に背を向けると先程爆発が起きた方を注視する。
「了解だよ。頼友、失敗しないでよ?」
「わかってるよ」
口ではそう答えたものの、まさかの告白失敗にちょっと僕の心は折れそうだよ。
でもそれと政子を救うことは別だ。想いが伝わらなかったからって、もういいやで逃げることなんてできない。
信長様、東雲さん、伊達政宗に前田利家、武田信玄達がいなかったら僕はここにすらいられなかったんだからな。
「来るよ、頼友!」
政子の声と共に辺りにざぁっと強い風が吹き草が舞い上がる。
まるで台風か、竜巻か・・・・・・そんな風を纏い、徳川家康と上杉輝虎がゆっくりとした足取りで僕達の前にやってくる。
「あらぁ、ついに観念しましたかぁ~お二人さん」
細い目をさらに細めて嘲笑うように家康は言う。一方の輝虎は相変わらず無言だがその身を包む鎧は至るところが砕け、手に持った刀も真ん中で半分に折れてしまっている。
「随分とボロボロじゃないか、毘沙門天の化身だか知らないけど案外対したことないんだな」
「まぁねぇ、輝虎の車懸りの陣を破るとは思わなかったわ。でも武田信玄達じゃ、そこまで・・・・・・きっちり止めを刺してもらったですぅ」
家康は勝利を確信したように高笑いするが笑いたいのはこっちの方だった。
武田信玄達じゃ傷ひとつ付けられないなんて踏んでたのにここまで上杉輝虎にダメージを与えてくれたんだからな。
「次は平野頼友、それに北条政子・・・・・・貴方達の番ですよぉ。武田信玄達はただのプレイヤーキャラクターだから復活はできますけどぉ、貴方達はそうはいかない」
「へっ、そう簡単にこっちもやられるわけには行かないんだよ!政子、行け!」
「うん、わかった!頼むわよ頼友!」
僕の声に政子は一気に走り出す。徳川家康達の方へではなく、全くの逆方向に。
「はぁ?この期に及んで逃げるつもりですかぁ?輝虎、北条政子を捕まえなさい!」
「そうはさせるかよ!!」
家康の指示に動き出そうとした輝虎の前に僕は滑り込むようにして立ちはだかる。
「上杉輝虎、お前の相手は僕だよ!」
「・・・・・・。」
僕の言葉に毘沙門天の仮面がじっとこちらを向く。もうそれは血の気が引くってレベルじゃないくらい全身に寒気が走り、僕の脳が「こいつと戦えば死ぬ」と身体中に電気信号を送ち身体の震えになって警告する。
「北条政子を逃がして平野頼友・・・・・・貴方が戦う?まるでお話にならないですよぉ?」
「あいにくと僕・・・・・・いや、俺は政子の征夷大将軍なんだ、甘く見ると痛い目見るぜ。なにせ今さっき失恋したばかりで気が立っているんだから・・・・・・なッ!」
震える足を黙らせるように地面を蹴るとそのままの勢いで跳躍、輝虎の顔面にとび蹴りを叩き込む。
だけど蹴った瞬間わかった、これ全然ダメージ入ってない。むしろ大きな壁を蹴ったような感覚に足が痺れてこれじゃこっちのほうがダメージ受けてるぞ。
「輝虎、さっさとそんな奴さっさと捕まえて殺しなさい」
「ったく、殺すとかそういう物騒な台詞吐くんじゃないっての!」
家康の指示に輝虎の手が僕を掴もうと伸びる。それを僕は全力で地面を転がり逃げまわる。捕まるのはそれだけは駄目だ、捕まるイコール殺される。
ゲームの世界で殺されたら僕は植物人間になっちまう……それだけは避けないと。
「あらぁ~?輝虎を倒すんじゃなかったのですかぁ?」
「うっせ!こっちにも事情があるんだよ!」
輝虎から距離をとり回るようにしながら吐き捨てる。
実のところ、僕だって上杉輝虎に勝てるなんて思ってないさ。そりゃ普通の人間があんな毘沙門天の化身だかなんだか知らないけど強キャラに勝てるわけない。
それでも僕が輝虎に立ち向かうのは一つの理由がある。
全くもって政子の奴、結構無茶苦茶なことを言ってくれるぜ。
けど武田信玄達が与えてくれたダメージのおかげなのか、はたまた僕があまりにも弱いからか輝虎の奴は本気でかかってきていない。
このチャンスは恐らく一回しかない、僕と政子の作戦……それに気がつかれたらそこで終わり、輝虎は本気を出して僕達を殺す───
「だけど僕に細かいことなんてわかるわけないだろぉ!」
タイミングだとか隙だとかそんなものを考えてたら多分僕じゃいつまで経っても多分動き出すことなんてできない、意を決し輝虎に向かい駆ける。
「……。」
僕の動きを追うようにしてゆっくりと輝虎が手を伸ばす。本当それで僕を捕らえようっていうんだから随分と舐められたものだ……だけど今は感謝するしかない。
「もらったぁ!!」
輝虎の腕をあっさりと掻い潜り僕は輝知の背中に回りこむと一気に輝虎を羽交い締めにする。
「羽交い締め……なにやっているんですかぁ輝虎!そんなのさっさと振り払って」
「残念だけどもう遅いぜ家康。って、とにかく今だ政子!!」
家康のに言葉を返し僕は輝虎を押さえつけたまま政子の名を叫ぶ。
「はいはぁ~い、呼ばれて飛び出て超絶美少女政子ちゃ~ん!」
政子の声がすると共に輝虎の目の前の空間が歪み、そこからゆっくりと政子の姿が現れ出す。
「な、北条政子!?あんた逃げたんじゃ……」
「残念、<インビジブル>のスキルで消えてただけでした~♪と、いうことで……」
慌てる家康に政子はウインクして返すと輝虎の額に腕を伸ばす。
「あっ、まさか!!」
「そのまさかだよ家康!」
「『傀儡政権』の始まりよ!!!」
家康が僕達の作戦に気づき駆け寄ってくるが時既に遅し、って奴だ!
いつもの掛け声とともに政子は輝虎の額を指で弾き……長かった戦いは終わった。



───終わったと思ってた。



「な、なんだって……政子を元に戻せない!?」
「そうですぅ、一度プレイヤーキャラクターからボスキャラクターに変換されたらもうそれは誰にも戻せないんですぅ」
僕の問いに上杉輝虎によって縄でぐるぐる巻きにされた徳川家康は頬を膨らませ面倒くさそうに言う。
僕達は勝った。
政子の『傀儡政権』で上杉輝虎を操るという実に単純明快な作戦だったけどなんとか上手くいった。
毘沙門天の化身だとか言われた上杉輝虎も今や僕達側の味方で、あとは政子を元のプレイヤーキャラクターに戻せばそれで万事解決だってのに徳川家康は政子を元に戻すことは不可能だと言うのだ。
「元々GMになった家康、お前がやったことなんだから元に戻せるはずだろ」
「残念ながら無理なものは無理ですぅ~」
「くっ、家康っ!!」
僕は怒りに任せて家康の胸ぐらを掴むが家康はそんな僕の心情を蔑むようにして不敵に笑う。
「ああ、一応言っておきますけどぉ~。嫌がらせでも何でも無く本当に無理なんですぅ。それは例えGMに戻った東雲千影でも『イクサカーニバル』を創りだした東雲景造でもねぇ~そうなるようにしたんですぅ」
「くっ……!」
唇を噛みしめ、僕は家康を睨みつける。なんだ、なんでだ?僕達は勝ったはずだ、信長様や東雲さん……武田信玄達の手を借り沢山の犠牲を払って勝利を手にしたのに!
政子が……あいつが元に戻らなきゃ勝った意味なんてないじゃないか!
「みなさんこんにちわ、『イクサカーニバル』運営チームです」
どうしたらいいかわからなくなっているとまるで示し合わせたかのように天の声が辺りに響く。
その声は株式会社イクサの社長室で別れた東雲千影さんのもので間違いなかった。
「その声、東雲さん……無事だったの!?」
「東雲千影がGMに戻っている?……ちっ、明智光秀の奴しくじりましたねぇ~使えない!つっかえないですわぁ!」
家康がなんのことかよくわからないが口汚く吐き捨てる。でもこれは僕達にとってはもしかして、いやもしかしなくても救いの手ってやつだろ!
「平野頼友、私は無事です。ご心配をおかけしました、GMの権限もしっかり取り返すことができました」
「そっか!それは良かった……それじゃ早く政子を元に戻してくれ!」
僕は天に向かって声を投げかける。家康は無理だと言ったけど東雲さんなら、東雲さんなら政子を元に戻せるはず。
だが返って来た東雲さんの言葉は僕を絶望の淵に落とすには充分すぎる一言だった。
「……すいません平野頼友。北条政子を元に戻すのは無理です」
「なっ、そんな……!!」
唖然とするしかなかった。そしてその反応に家康は堰を切ったように笑い出す。
「くくくっ、だぁからぁ言ったじゃないですかぁ、無理だって」
「くぅ……家康ぅ!!!」
胸ぐらを掴む指に力が怒りがこもるがそれでも家康は僕達を嘲笑うのを止めない。
「平野頼友、なんだったら私を殴りますかぁ?それとも殺しますかぁ?でも私を倒したところで私はプレイヤーキャラクターなので復活しますよ、うふふ。それとも以前のように隔離室にでも放り込みますかぁ?でも、もう既に現実世界に無数の武将達は出ていっている。その中には人間にゲームの駒として使われて恨みをもっている者もいるでしょう、他の誰かが私の意思をついで人間達を始末してくれるわ、頼みの綱の北条政子も元に戻せないですし、最初っから私の勝ちは決まっていたってことですぅ!」
「くっ、くそおおおおおおお!」
家康の胸ぐらから手を突き放し僕は叫ぶ。本当にもうダメなのか?好きな女の子を助けることもできず、このまま現実世界を武将達に蹂躙されるだけなのか?
「ぷ~くすくす、ざまぁみろですぅ!」
「けれど、勝利を確信するにはまだ早いですよ徳川家康」
「は・・・・・・まだなにかあるっていうの!?」
東雲さんの声に徳川家康の笑いがピタリと止まる。
「負け惜しみもほどほどにしたほうがいいですよぉ、東雲千影」
「負け惜しみ・・・・・・というよりかは痛み分け、と言ったところでしょうか?こちらとしてもこの方法は取りたくなかったのですが・・・・・・平野頼友、父から預かっているもの持っていますね」
「ああ、うん。それはもっているけど」
僕は東雲さんの言う通り制服のポケットからUSBメモリーを取り出す。
東雲景造さんが僕にあくまで最終手段として渡してくれたこのUSBメモリー、さっきの東雲さんの痛み分けって言葉もあるし一体これにどんな力があるって言うんだ?
「よく聞いてください平野頼友、貴方の今持っているそこの中には『イクサカーニバル』を内部からロールバックするシステムが組み込まれています」
「ロールバックだって!?」
ロールバックってのはインターネットゲームでなにか不具合があったときにデータを過去のある一定の地点まで戻すとき処理のことだ。
「そうか、それで政子がボスキャラクターにされる前に戻るんだね」
「いえ、違います。戻すのはもっと前、『扉形成プログラム』が初めて使われたときより前です」
「初めてって、政子がこちらの世界に初めてきたときか」
「そうです。そしてそこまでデータを巻き戻したら二度と使われないように『扉形成プログラム』を凍結します」
淡々とした口調で東雲さんは事実だけを告げる。
「私達『イクサカーニバル』運営部は『扉形成プログラム』の存在を軽視しすぎていました。ゲームのキャラクターが自我を持ちましてや人間に対して危害をくわえるようなことになった責任及びその清算をしなければなりません」
「でも、それじゃ・・・・・・!」
データがそこまで戻って『扉形成プログラム』がなくなったら政子は元に戻るんだろうが『イクサカーニバル』の世界から出られなくなってしまう。
「ふぅん、まぁしょうがないわね頼友」
「政子・・・・・・」
今までずっと黙っていた政子が口を開く。
「それをしないと頼友の世界で好き放題やらかすんでしょ、徳川家康の仲間っていうか『イクサカーニバル』の武将達が」
「そうだけど、そうしたら……」
そうしたら政子ともう二度と会えなくなるってことだ。
「なに迷ってるのよ頼友。童貞の頼友がある意味世界を救えるってことなんだよ」
「ったく、童貞は余計だっての……」
そう言いながら政子の顔を見る。政子のやつは、こんな状況だってのにいつもと変わらない表情をしている。
かくいう僕はどんな顔をして政子を見つめているんだろう?
くっそいつもならポテチ買えだのゲームの相手しろだの迷惑ばかりかけてくれるのに別れると、二度と会えなくなると思うと胸が苦しくなる、涙が溢れそうになる。
「政子、お前はいいのかよ。僕がロールバックを起こせばもう現実世界には来れなくなるんだぞ」
「ん……そうねぇ、実は新作のポテチ食べれてないのは辛いかな」
「はは、まぁそれはどうしようもないかな」
あっさりそう言った政子に僕は決心をした。
そうだよな……政子からすれば僕はなんでもない悲しいとかそういうの、ないよな。
ならば僕のすることは一つだけだ。手に持ったUSBメモリーを強く握りしめる。
するとまるでそれは手の中でが淡いガラス細工のように砕け散り、そこから手をすり抜けるようにして虹色に光る数字の文字列が零れ落ちていく。
「なっ、平野頼友ぉ!本当にロールバックするつもりなんじゃないでしょうねぇ!」
「悪いな徳川家康、まさにそのとおりだよ……」
動揺する家康に厭味を込めてとびっきりの笑顔を見せてやる。
僕の手からこぼれ落ちた数字の文字列はどんどん広がっていき辺り一面を染めていき、徐々に全てが崩れ落ちるように消えていく。
痛み分け、確かに東雲さんの言うとおりだ。
でもこれは僕にとっては負けるよりも辛い痛み分け。
「くぅ、ここまでですかぁ……」
「……。」
文字列は家康や輝虎にも広がり、輝虎は最期まで何も言わず、家康は悔しさに歯を食いしばり、恨み事を言いながら消えていく。徳川家康のやろうとしていたこと、それは僕達にとっては許しがたいことだったけど、わからなくもない……自我のないゲームのキャラクターだったから僕達はキャラクターが傷ついたり死んだりしたことになんの感情も抱くことはなかった。
でもそのキャラクター達が自我を持って、しかもわけのわかない人間に操られゲームの駒とされてしまえばそれを打開するために武器を取ったのもわからなくない。
徳川家康がやろうとしたのは復讐というよりも、自らの自由のための行動なのかもしれない。
とはいえ、もう今となっては消えてしまった徳川家康にかける言葉なんて僕にはなかった。
「頼友、これでお別れだね」
「政子……」
政子はいつもどおりの笑顔で僕を見つめる。まぁ政子らしいというかなんというか、悲しんで別れるよりかはこの方がなんていうか気が楽だ。
「んっと、最後に頼友に伝えたいことあるんだ」
「なんだよ政子、今更ロールバック止めろっていっても遅いぞ。僕にだってどうしようもないし」
すでに文字列は既に政子の周りを包み込むように覆っている。あと数秒もすれば政子もロールバックされ、そして二度と会うことはできなくなる。
「こんなこと言っても頼友は喜ばないと思うんだけどさ」
そう言いながら政子は手を僕の頬に伸ばし、優しく微笑みかける。
「頼友のこと、源頼朝様の次に好きだったよ」
「なっ、政子お前……馬鹿じゃないのかよ!」
思いっきり僕は叫んだ。なんで、なんでこんなこと今更言うんだよ……そんなこと言われたら必死に抑えようとしていた感情が溢れだしちまうじゃないか。
気がつけば僕の頬に大粒の涙が伝い、それを政子がそっと指で拭うと何も言わず笑顔で手を振る。
僕にはその政子の姿、顔が涙で滲んではっきりとわからない。ただ目の前から政子の姿が消えた瞬間、僕という存在も『イクサカーニバル』の世界から消え去った。
こうして長かった戦いと、僕の初恋は終わったんだ。



───それから半年後



「よぉし、頼友!このエロDVD詰め合わせのダンボールはどこに置いたらいい?」
「なんだよそれ、そんなもの僕の部屋にはなかっただろ!置く場所なんてないよ!!」
「えぇ~せっかく一人暮らし始めたんだから日に五回はいけるやろ。5.1チャンネルでの鑑賞とかたまんねぇぞ!」
「あのさぁ、猿じゃないんだからそれは無理だって……というか三奈本、それ近所迷惑」
ダンボールを抱えて昼間っから卑猥なことばかり言う悪友三奈本に僕は床を雑巾掛けしながら言葉を返す。
僕、平野頼友はこの春、無事に桜陵大学へ進学する。
大学受験はいやはや本当ギリギリもギリギリだった。実は聞くも涙、語るも涙なお話がいくつもあるのだけど受験前にお腹が痛くなりすぎてギリギリまでトイレにいたとか三奈本の奴が受験会場でまで僕の鞄にエロDVDを入れてきて、それをなんとなくで取り出したところを美人な試験官に見つかり悲鳴をあげられたこととか……まぁとにかくあまり語るほどのことでもない話なので省略する。
「んじゃまぁ頼友がやらないっていうのなら俺が来たとき用に一応セッティングしとくか」
「あのなに、入り浸る気満々なんだよ三奈本は。というか勝手にセッティング始めるなって」
「えぇぇぇっ!?大学生になったら皆で頼友の家で飲み会とかしようぜぇ?そのためにも合鍵を作ってだな、是非俺に預けてもらいたい!」
「やだよ、そんなの」
僕はため息を吐きながら雑巾を青いポリバケツに広がる濁った海に沈める。
ああ、そうだ……これ言っておかないとな。
大学生活を始めるにあたって僕は大学の近くで一人暮らしをすることになった。
実家から桜陵大学までは歩いて数十分のところにあるのでわざわざ引っ越しする必要もないんだけど、普段寡黙な親父の「大学生になったら一人立ちしろ」という鶴の一声で一人暮らしを始めることになったんだ。
そして今日、入居可能となったので悪友の三奈本に手伝ってもらって引越し作業となっているんだけど・・・・・・本当人選間違ったな、僕。
これなら西陣君か南条院に手伝ってもらったほうが幾分かマシだったと思うよ。
「ま、手伝ってくれる友人がいるだけましか」
「なんかいったか頼友?」
「いや、なんでもないよ」
「ふぅん、まぁいいか」
思わずボヤいた僕の言葉に一瞬反応した三奈本だったが大して気にせず、すぐに作業へと戻っていく。
北条政子と別れてからしばらくは大変だった。
突如として行われた半年以上前のデータにロールバック。それによる当然ユーザーから反発は凄く、一時期はインターネットのニュースサイトでも毎日にようにとりあげられるほど。
だがまぁそれも数日に渡るメンテナンスと株式会社イクサによるプレイヤーへのこれでもかっていうくらいの補填によって一ヶ月ほどでいつもの平穏なインターネットゲームへと落ち着いた。
ロールバックの影響で僕は一時期トップランカーの位置に舞い戻ったがレア装備を全部芽衣ちゃんに渡して引退をした。
そりゃ受験生だからってのもあるがどうにも『イクサカーニバル』をやるとどうしても政子のことを思い出してしまうからだ。
しかし芽衣ちゃんには約束通りレア装備をあげることができたんだがもう一人、南条院との約束は破るどころか前田利家までいなくなってしまったわけで相当非難を受けたが間に東雲さんが入ってくれ説得してくれたお陰でそこはまぁなんとかなった。
東雲さんが何を言ったかは知らないけど、とりあえず今は前田利家は芸能活動を怪我のため休業、代わりに『イクサカーニバル』の世界でアイドル活動をしているらしい。
らしいってのは僕が受験勉強中一切テレビだとかインターネットだとかを断って勉強していたからだ。うんまぁ、そこまでしてようやく本当ギリギリ受かったってのがちょっと悲しいがまぁ受かったんだしいいだろう。
あと『イクサカーニバル』を辞めてから東雲親子との関係も希薄になった。いやまぁ元々『イクサカーニバル』関係でしか話すこともなかったし、僕の『人間なのにゲームの中に入れる』って能力も『扉形成プログラム』がなくなってしまった以上あまり役に立つこともないししょうがない。
少し寂しい気もするが・・・・・・ま、大学に行ったら新しい出会いもあるさ。
僕は軽く息を吐き濡れた雑巾を手に取り絞る。
力一杯、力一杯、染み込んだ水を全て絞りきるように
もう終わってしまったものはどうしようもない、悔やんでも仕方ないんだ。
そんなときだった、部屋のインターフォンが鳴ったのは。
「ん、誰だろう」
「あれじゃねぇか、訪問販売の美人のお姉ちゃんじゃないのか!!!ノルマを達成するために身体を売る的な!」
「三奈本、インターフォンが鳴っただけでそこまで妄想できるのは頭おかしいぞ。んまぁとりあえず出てくるよ」
三奈本の妄言をたしなめ雑巾をバケツの縁に置くと僕は立ち上がり玄関へと向かう。
「はいはい、ただいま行きますよっと」
僕は小走りにワンルームの短い廊下を玄関まで行くとその扉を開ける。
「えっ……?」
扉を開けた先にいた女性の姿を見て僕は思わず息を呑んでしまっていた。
なんていうか一言で言うなら超絶美少女、腰まで伸びた長く美しい黒髪にパッチリとした瞳になぜか胸元の開いたタートルネック……というかなんつーでかさの胸だよ
「って、もしかして東雲さん!?」
普段かけてる眼鏡を掛けてないから気が付かなかったけどその無駄に大きい胸で東雲千影さんと気がつく。なんていうかそこで気がつくのはどうかと思うけどな。
「そうです平野頼友。ご卒業おめでとうございます、お久しぶりですね」
「いやそうだな、お久しぶり」
つい目線が胸元に行ってしまうのを必死に逸し僕は頷く。でもそこでなにか妙なことに気がついた、あれ?なんで東雲さん僕の引越し先を知っているんだ?
ここの場所を知っているのは両親とあと妹の早苗、それと今日呼んだ三奈本だけのはずなんだけど。
「というかよく僕の引っ越し先知ってたね。あれ、もしかして個人情報筒抜けとか?」
『イクサカーニバル』のGMである東雲さんのことだ、なぁんか職権乱用的に個人情報を集めてたっておかしくないと思ったのだが、次にでた東雲さんの言葉はそんなことよりも遥かに驚かされる事実だった。
「知ってたね……という台詞はどちらかと言えば私の台詞ですね。まさか私の家の隣に引っ越してくるとはストーカーかなにかかと思いましたよ」
「えっ、隣の家って東雲さんが住んでるの!?」
これは一体、なんの因果だよ。まさか引っ越してきた先のマンションの隣の部屋がよりにもよって東雲さんの住んでいるところだったなんて。
いやいやいや、ここはきっちり行っておくけど偶然だ、僕はストーカーなんかじゃあない。
「まぁその様子から察するに本当に偶然のようですね。まぁいいです、どの道今日は引っ越し祝いということで来ましたので」
「引っ越し祝いというか焼き鳥パーティなのだ!」
東雲さんの背後からそんな声がすると共にひょっこりと赤い着物を身にまとった少女が顔を出す。
「えっ……!?」
その少女には見覚えがある。と、いうか……あれ、なんでここに?
「織田信長様じゃないですか!」
「お~妾のことを覚えているとはエライエライなのだ頼友、褒美にネギまのネギだけあげるのだ」
いつ振りかという信長様の反応に頭の処理が追いつかなくなる。だってそうだろ、あの日でロールバックしてデータの巻き戻り現実世界からは『イクサカーニバル』の戦国武将はいなくなったはず……。
「どういうことなの東雲さん!?」
「……私の作ったロールバックのプログラムに父が手を加えていた、だけの話です。私としては不服ですが、『扉形成プログラム』は凍結されましたが何人かのキャラクターはこちらの世界で普通に生活しています。父が言うには罪滅ぼしのようなもの、らしいですよ」
「それじゃ、政子も!?」
思わず東雲さんの両肩を掴み叫ぶ。東雲さんは僕の手を怪訝そうな表情を浮かべ払うと大きく息を吐いて答えた。
「ええ……といいますか、すぐそこにいますよ」
「なっ!?」
東雲さんが廊下を指差したのを見て、僕は慌てて裸足のまま廊下に飛び出す。
「……っ!!」
思わず息が止まった。
そこには確かにいた。何食わぬ顔でマンションの廊下からぼけっと空をみあげている北条政子の姿が。
「政子っ!!」
「はいはい、そんな大声出さなくても聞こえてるわよ頼友」
そう言って笑みを浮かべる政子の姿は引越し祝いにしては出来過ぎで……なんていうか自然と涙がでていた。



「はぁ……しかし帰ってくるなりこれですか」
僕は実家から持ってきたベッドに腰掛け嘆息する。引っ越しして一日目だってのになんだこの目の前に広がる惨状は。
確か僕はお昼ごろ、物凄くものすごぉく一生懸命になってこの部屋を掃除してたよな、そのはずだ。
でもなんだ今、この部屋はお菓子の袋だとか空のペットボトルとか焼き鳥の串だとかが至る所に転がってるんだ?
しかも焼き鳥の串とかタレが床についてるじゃねーか!誰が掃除すると思ってるんだよ!!
政子や信長様が戻ってきて嬉しくなってつい掃除もほっぽり出して焼き鳥パーティ開いたよ、まぁそれはいいんだけど信長様も東雲さんも三奈本の奴も誰一人として片付けもせずに帰りやがって・・・・・・。
「でもそれ、別に私のせいじゃないよね。久しぶりに楽しかったからいいけど」
「まぁそうだけどさぁ……」
隣に座る政子の言葉に深い溜息を吐く。再開した時は柄にもなく大泣きしてしまったけど、なんていうか数時間、いや数分もあれば僕達の関係は元通りになっていた。
時計はすでに零時を回り、部屋には僕と政子しかいない。
「ったく、政子も政子だよ!帰ってきてたんならさっさと戻ってこいっての。そうすりゃこんな大騒ぎにもならなかたんだからさ」
「ん~まぁそうなんだけど、それもまぁ私のせいじゃないというか頼友のせいっていうか」
本当は掃除が終わったらカーテンを買いに行こうと思ってたんだけど結局焼き鳥パーティ始めたものだから今の部屋にカーテンはなく、窓から入る月明かりが僕と政子を青白く照らす。それは初めて政子と会った時と同じような、そんな雰囲気。
「ただでさえ徳川家康の武将達に捕まっていた株式会社イクサの社員さん達の記憶を改竄するのに忙しかったのになんか頼友が勝手に約束したせいで前田利家とアイドル活動までしなくちゃいけなくて、やっとこさようやくオフが貰えたんだからね」
「あ、いやそれはなんていうかゴメン」
僕の言葉にあの時と変わらないパンクゴシックに真っ赤なツインテール、雪のように真っ白でスラっとした肌に水晶のように透き通りぱっちりした政子の瞳。それがじっとこちらを見つめている。
それは、まるでおとぎ話に出てきそうな女神のような美しさだった。
「ん~?そう言えば頼友、聞きたいことあるんだけど」
「聞きたいこと?」
いつも以上に近い距離。ベッドに並び座る距離。ちょっと勇気を出せば政子の白い手に触れることのできる距離。
僕はぶっきらぼうにそう答えることしかできない。
「ねぇ、頼友……今でも私の事好き?」
「ばっ・・・・・・なんのことだよ!」
政子の口から飛び出した言葉に胸の奥がビクリと脈動した。
やめろよ、そんな一世一代の大告白を失敗した僕の心を抉ろうとするのは!
そして今でも燻っている政子への想い、一生懸命忘れようとしていた僕の記憶をほじくり返すのは止めてくれ!
「・・・・・・どうせ僕は二番目なんだろ?」
顔を逸しポツリと呟いた言葉に政子は今まで見たことなかったとびっきりの笑顔を見せるとスッと顔を近づける。
「こっち向いて頼友」
「わっ、バカ止めろ!」
立ち上がって逃げようとする僕の頬を政子の手が掴み、僕の視界には政子しか映らなくなる。
小悪魔っぽく笑う、政子はやっぱり可愛い。
このツンデレ武将がやってきたときは一瞬だけラブコメが始まると思ってた。なんだかんだでごたごたあって、最後には結ばれる・・・・・・そんな妄想してないと言ったら嘘になる。
でも僕がなっていたのは恋人なんかじゃなくて征夷大将軍という名の小間使い。
どうせあれだろ、今もこうやってキスする振りして油断したところを『傀儡政権のはじまりよ~』なんて言って面倒なことを僕にさせるんだろ、毎回毎回騙されるかって・・・・・・
「んっと、じゃ今日だけ今だけ一番にしてあげよっかな」
「えっ・・・・・・!?」
その言葉に全ての考えがシャットダウンする。
政子の腕が僕の背中に回り引き寄せられる。
ふわりと政子の真っ赤な髪が揺れマーガレットの甘いの香りが鼻を擽る・・・・・・。
「これからもよろしくね、私の征夷大将軍様」
耳元でささやかれた言葉、月夜に照らされた部屋の中、二つの影はゆっくりと重なりあった。





《 ツンデレ武将がやってきてラブコメになるとおもいきや俺が征夷大将軍になっていた 最終話 了 》





【 あとがき 】
最終回です。


【 その他私信 】
実カの無さに心が祈れたので筆を祈ります。


べ、べつに好きで書いてるわけじゃないんだからね!  氷桜夕雅
http://maid3a.blog.shinobi.jp/

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