Mistery Circle

2017-09

《 Shape of heart 》 - 2012.07.16 Mon

《 Shape of heart 》

 著者:知







「これが本当に最後だから」
 互いの指と指を合わせながらそう叫んだ彼女は泣いていた。
 彼女とこうして指と指を合わせるのは三回目。だから、
「……っ」
 その数秒後に合わせた指に痛みが走り血が流れるのも分かっていた。
 互いの指から流れ出る血を見つめ悲しそうな表情をしていたのが印象的で、彼女にとってこの行動がどのような意味があるのか聞くことができなかった。
 その意味は一週間後に知ることになり、それは俺の今後を変える重大な出来事になった。


「ただいま」
 大学から下宿先の祖父の家に帰ると、見慣れない女性物の靴が二足、玄関に並んでいた。
 祖父のお客様だろうか。そんな事を思いながらリビングに入ると
「お邪魔しています」
 祖父の対面に座っていた女性が俺の姿を見ると軽く会釈をした。
「いらっしゃ……」
 その言葉に返そうとした瞬間、その女性の隣に彼女が座っているのを発見し、思わず言葉が止まってしまった。
 彼女は俺と目が合うと罰が悪そうに目をそらし、それを見た女性が小さくため息を吐いた。


「こちらの方がお前に話があるそうだ」
 どういう状況なのか理解できず立ち尽くしていると祖父がそう言い、こちらにきて座るように促した。
「……話?」
「はい。その前に自己紹介からしましょうか。私は美咲(みさき)です。この子の後見人のようなものをやっています……晶(あきら)さん、とお呼びしても?」
 おそらく彼女から俺の名前を聞いていたのだろう。美咲さんはそう尋ねてきた。
「はい。苗字だと祖父と紛らわしいし」
「では、晶さん。私はこの子があなたにした事を謝罪しなければなりません……と、言っても、何のことか理解できないでしょうから説明していきます」
 俺の疑問を先取りそう続けると
「美咲さ……ん、それは……」
 今まで一言も話さなかった彼女が口を挟んだ。けれど
「あなたがやったことを私達のことを隠して説明できる、と?」
 という、美咲さんの一言で黙殺された。
「……そうですね、晶さん。あなたは私達――私と朱音(あかね)が人間ではない、と言われて信じることができますか?」
 どう話を切り出すか悩んだのだろう、少し考える仕草を見せた後、美咲さんはそんな突拍子もないことを言った。
「……俄かには信じ難い、ですね」
「そんな反応をする人が殆どでしょうね。もっときつい言葉を言う人もいるでそうね」
 俺の返事を聞き、そう言いながら微笑んだ。
「でも……これでどうかしら?」
 そういうと、俺と祖父は座っていたソファーごと宙に浮いた。
「おお、これは中々……」
 驚きのあまり声が出なかった俺に対し、祖父からそんな一言が漏れた。
「この様に、私達は人間が言う『魔法』を使うことができます」
 というと、宙に浮いたソファーは床に着いた。
「人間が科学で発展したのに対し、私達は魔法で発展しました。基本的に人間が科学でしていることを私達は魔法でしている、と、思っていただければ大丈夫です」
「……なるほど、確かに機械を使えば、ソファーごと私達を宙に浮かすことは可能だね」
 祖父が美咲さんの言葉にそう返すと
「そうですね」
 美咲さんはそう微笑みながら肯いた。
 気のせいかもしれないけれど、俺に対し浮かべた微笑とどこかが違う感じがした。
「……ふむ、便利だけれど不便なものかもしれないな、魔法は」
 少し考え祖父がそう言うと
「そうですね」
 美咲さんがそう返した。
「……不便?」
 祖父が不便だと言った理由がわからないでいると
「晶、考えて見なさい。魔法がどういったものを使うものかはわからない。けれど、それは個人個人に依存するもの、ということは予想ができる」
「ああ、そうか……」
 祖父の一言で理解できた。魔法が個人がもっている何かを使うものであるならば個人差が生じるのは当たり前だ。
 ということは、だ……
「はい、私達の世界では、基本的に魔法を使用するときに使うもの、それの大きい者が上に立つことになります」
 魔法で発展したのであればそうなるのは当然かもしれない。
「そして、それの大きい小さいは一目でわかるようになっています」
「美咲さん!」
 美咲さんがそう言うと彼女が慌てるように叫んだ。
「一目でわかる、と言っても今の私達を見たらわかるように普段はそれを隠しています。それには様々な理由があるのですが、公式の場以外でそれを見せることは基本的に禁じられています」
 美咲さんは彼女の叫びを無視し、そう続け立ち上がると
「これが、魔法の源である『翼』です」
 背から三対六枚の翼――その一枚一枚が俺の背丈よりも大きい――が現れた。
 その姿は美しく、そして……
「……美咲さん、これ以上は晶さん達の体に障ります」
 畏怖を感じさせた。
「このように『翼』が大きい者はただそれを見せるだけで見るものに圧力をかけることができます。それ故、『翼』を見せることを禁じられています。そうでない者も『翼』が小さいことで虐げられる事を避けるため『翼』を見せることを禁じられています」
 『翼』を隠し、ソファーに座りなおすとそう言った。
「『翼』は私達の誇りです。『翼』があるから私達は私達である、と言っても過言ではありません。『翼』に頼り切っていると言い換えることも可能です。『翼』がなくなれば私達は人間と変わらない。いえ、誤解を恐れずに言えば、『翼』がない私達は人間より弱い存在になります」
 今の人間から科学がなくなればどうなるか、そう考えると美咲さんの言葉も理解できる。
「人間の科学技術が発達を始める前は私達は人間と交流を持っていました。ただ、私達が『翼』を持っていたため自然と上下関係が生じ、同じ知的生命体としてそのような関係は不健全だと当時の上の者が考え私達は人間の前から姿を消しました」
 でも、彼女達は俺達の前にいる。
「少し前から人間の前に姿を現すことが許可を得た者なら可能になり、最近になってその許可の基準が少し緩くなりました」
 俺の表情から察したのか、美咲さんはそう言った。
「最近……その最近とは具体的に何年ぐらいなのかな?」
 最近、という言葉に何かひっかかりを感じたのか祖父がそう尋ねた。
「そうですね、五十年ぐらいでしょうか」
 五十年が最近?
「なるほど、時間に対する考え方が随分違う。あなた達はかなり長寿なんだね」
「そうですね。『翼』の大きさで寿命が変わりますから平均寿命は何とも言えませんが、私でも百年以上生きています」
「長寿、しかも、若い姿が長く続く、といったところかな?」
 祖父の言葉に美咲さんは肯いた。
 彼女の方を見ると目が合い、それで俺が何が聞きたいのか察したのだろう
「私はまだ二十年ぐらい、です」
 彼女がそう言った。
「普通なら朱音の若さで人間の前に姿を現す許可は下りません。そして、人間に私達について話すことは禁止事項です。私の独断でお話しています」
 禁止事項を独断で話す。彼女がかなり上の立場であるということだろうし、又、それ程、重大な何かを彼女がした、ということなのだろう。
「そんなに硬くならないでください。悪いのは朱音、なのですから」
 思わず俺の顔が強張ったのを見て美咲さんはそう微笑みかけた。


「さて、そろそろ、本題に入りましょうか。私達が地上に下りる――人間の住む場所に行くことをそう言います――場合に様々な禁止事項があります。その中で最も禁忌とされる事は何だかわかりますか?」
 想像がつかなかったので首を横に振ると
「人間との間に子を作ろうとする行為です。私があなたに謝罪しなければならない、と言ったのは朱音がこれをしたからです」
 えっ、今、何と?
「……なるほど、あなた達には性行為の他に子を作ることができる何かがあるのだね」
 美咲さんの言葉に混乱した俺を余所に祖父がそう言うと、美咲さんは肯いた。
「……あっ、あれか」
 ふと、互いの血を交わしあう、あの行為が思い浮かんだ。
「はい、私達は互いの血を交わし魔法を使うことで子を作ることができます。この方法で人間とでも子を作ることができることは確認されています」
「でも、できなかった」
「この方法で子を作るには条件がありまして、理由はわかっていないのですが、互いに相手との子が欲しいと願っていないとできないのです」
 俺の相槌に美咲さんはそう返した。
「朱音が何故、この行為に及んだのか私は問い質すつもりはありません。この行為が最も禁忌とされる理由を理解しているはずですから」
「……その理由、聞いてもいいですか?」
 おずおずとそう尋ねると
「晶さんには聞く権利がありますから」
 美咲さんはあっさりとそう言った。
「様々な理由があるので晶さんに関係があることに限って話します。私達の世界では子が成人になるまで特別な事情がない限り親二人で面倒を見なければいけないという決まりがあります。なので、私達と人間との間に子が生まれた場合、私達が人間になるか、人間に翼人――私達種族のことをこう呼びます――になってもらう、という選択肢しかありません」「そんなことができるのですか?」
 突拍子もない言葉に思わずそんな言葉が口に出ていた。
「はい、特に前者の方は簡単に。『翼』を封印すれば私達は人と変わらないですから。後者の方も、適正によって違いますが数年で人間も『翼』を手に入れることができます。『翼』は小さい物になりますが」
 でも、それならあまり問題はないような、そんな疑問が頭を過ぎった。
「前者の方の問題として、私達が『翼』を捨てるということはアイデンティティを失うということです。私達の世界で一番重い刑罰が無期限・無制限の『翼』の封印ですから」
 美咲さんは俺の疑問に対しそう返し
「そして、後者の方の問題は……」
 と、少し言いよどんでいると
「人間……正確には元人間ということで虐げられる、といったところかな」
 祖父がそう言った。
「はい。元人間という事に嫌悪感を感じる者は少なからずいますし、『翼』が小さいことで虐げる者はより多く」
「……元人間ということで嫌悪感を感じる人にとって、人間と翼人の間の子って……」
「はい、ご想像の通りです。それが一番の原因ですね」
 俺の言葉に美咲さんはため息を吐きそう答えた。
 美咲さんの口調から過去に実際に起こったことなのだろうということが想像できた。だからこそ、禁忌とされているのだろう。
「晶さんが朱音のことをどう思っているかはわかりませんが、私個人としては、私の立場等を全く考慮しないのなら、これらのことをきちんと晶さんに説明し、晶さんも納得の上で行為に及んだというのなら非難する気はありませんでした」
「……えっ?」
 今まで俯いて話を聞いていた彼女が驚き顔を上げた。
「地上に下りようとする翼人は一人の人間に魅かれ地上に下ります」
 そういうと、美咲さんは祖父をちらと見、それに気づいた祖父は「失礼」と言い席を立った。
「朱音にとって晶さんがそうであったように、私もある人間に魅かれ地上に下りたことがあります」
「……初耳です」
 彼女は驚きのあまり身を硬くし、しかし、何とかそう言った。
「言ってませんでしたからね。本当はあなたが向こうに戻ってから話す予定だったのですが……これが証拠です」
 彼女が信じられないという目で美咲さんを見ていたからか、そういうとどこからか一枚の写真を取り出した。
「……これは」
「その人と一緒に撮った写真よ」
 彼女は写真を手に取るとじっと見つめた。
「……素直に言うとね、私は確かに彼に魅かれたわ。でも、その感情がどういった類のものか未だ結論が出ていないの。少なくとも子をつくろうとは思わなかった。だから、あなたが行為に及んだと知ったとき何とも言えない気持ちになったわ」
 どこか遠い目をしながら美咲さんがそういうのを彼女が美咲さんを見つめながら聞いていると、写真を持つ手の力が緩んだのだろうテーブルの上に写真が落ち、俺の目に入った。
 えっ……
「……この写真、家にある……」
 そんな言葉が俺の口から漏れていた。
「晶くん、どういうこと?」
「この写真に写っている男の人、若い頃のじいちゃんだ……この写真も見たことある」
 俺がそう言うと、ガチャと音を立て祖父が何かを手に戻ってきた。
 そして、テーブルの上にある写真を一瞥すると
「丁度いいタイミング、だったかな」
「そうですね、貴明さん」
 そう言うと祖父と美咲さんは微笑みあった。
「いや、懐かしいな。今更だけれど、久しぶり。と言っても、君の感覚ではそうでもないのか」
「ふふ、そうですね。まさか、又、会うことになるとは思いませんでした。どうやら、魅かれ合った人間と翼人は何かに導かれるように会うことになるみたいですね。私のときの後見人もそうだったようですし」
「そうなのか……しかし、人ではないと思ってはいたが……いや、長く生きるものだ。私は年を取ったが君はあの頃のまま変わらない、綺麗なままだ」
「ふふ、綺麗だなんて。まさか、貴明さんからそのような言葉を聞けるとは思いませんでした」
「そんな言葉をいうことに照れがなくなった、だけさ」
 微笑みあいながら会話をしている二人の間にあるものは愛情などという言葉で表せるものではないように感じられた。
 多分、彼女もそう感じているのだろう、二人をじっと見つめていた。
「朱音、私達の寿命は確かに長いわ。でも、目の前のことに追われれば追われるほど、本当に大切なことをする時間は失われていくわ。本当に大切なことは何か、それを考えなさい。考えて出した結論なら私は例えどんな結論だろうと受け入れるし、そのために力を貸すわ」
 今は只管考えなさい。そう言い残すと美咲さんは席を立ち部屋を出、それに連れて祖父も部屋を出た。
 後は俺達次第、か。
 彼女に目を向けると真剣な眼差しで俺の方を見ていた。





《 Shape of heart 了 》





【 あとがき 】
ようやく、原稿が全く書けない状態からは抜け出せた(まだ、スランプ中ではある)
書ける状態にはなったので後は書くことでスランプ状態を抜け出したい。

Vol. 45で書いた話の続き……相当後の話になるけれど一応、続き。
ネタはVol. 45を書いた後すぐに思い浮かんでいたんだけれど、漸く書けるお題がきた
魔法と科学に関することはもう少し書く予定だったんだけれど、あまり長々と書いてもなぁ、ということで結構削っていて、そのせいで削った場面もあったり……まぁ、そこらへんは別の話で書く機会があれば(まぁ、簡単に言えば、魔法も技術の一種、という感じかな?)
描写不足のところがあるけれど、それはわざとそうしているところもあれば、上手く書けずそうなってしまったところもあったり……

今のところこの話の続きは全く思い浮かんでいないので、この話はここで終了
二人がどういう結論を出すのか、それは俺にもわからない(考えていないだけとも言う)


【 その他私信 】
何とか書き上げた……orz
勢いで書き上げられる状態に戻るにはまだまだ時間がかかりそう


忘れられた丘  矢口みつる(知)
http://wasureraretaoka.blog86.fc2.com/

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