Mistery Circle

2017-10

《 ひまわりたべたよ 》 - 2012.07.18 Wed

《 ひまわりたべたよ 》

 著者:白乙








 当時小学生だったわたしは近所の公園へ来ていた。ピンクのサンダルが乾いた砂を踏む。おろしたてのワンピースはひまわりのプリントがされていて、ポケットの中には母親からもらった祭り用のお小遣いが入っていた。左手にはビニール袋をかかえており、私は周囲を見回しながら公園へと駆け込んだ。
 実はこの日、当時住んでいた地域で祭りがあり、一時間後に同級生と一緒にいく約束をしていた。がその前に、わたしはどうしてもたこ焼きを一人占めしたかったのだ。祭りにかぎらず、たこ焼きのような他人と分けられる食べ物をシェアしあうのが女の友情であり暗黙のルールでもある。そのルールを破れば異端者扱いされ、友達グループから外されてしまう。だからこそこうしてひと目をはばかり、大好きなたこ焼きを独占しようとしているのだ。我ながら意地汚い子ども時代だと思うが、それでも当時のわたしは交友関係の維持に必死だった。
 あたりに誰もいないことを確認し、ベンチに腰掛ける。わたしはおそるおそるプラスチックの箱を開けた。中からつんとした紅しょうがとソースの匂いがだたよい、思わずつばを飲む。中にはやや小ぶりのたこ焼きをが八個入っていた。
 わりはしでつまんだ一つをほうばる。熱々のそれは普通のたこ焼きだったが、それでも当時のわたしには贅沢なごちそうのように思えた。
「紅しょうがは、いらなーい・・・・・・あ!」
 嫌いな紅しょうがを箸で投げ捨てようとしたとき、うっかり容器をひっくり返してしまった。幸い残ったたこ焼きは地面に落ちることはなかったが、ワンピースの上に転がっている。ひまわりの模様に茶色いソースの線が広がった。
「やば! ・・・・・・うわあ」
 あわててたこ焼きを拾い上げたが、もう遅い。洗っても落ちそうにないソースのシミが布地にべったりと広がっていた。このままの格好では友人にばれてしまう。
「そーだ、脱いじゃえばいいんだ」
 それは妙案だった。私はいつもワンピースの下にはTシャツとショートパンツを身につけていた。初夏を前にした季節には少し肌寒い気もしたが、ソースがついたままよりかはましだろう。
 わたしは拾ったたこ焼きをすべて食べ終えると、紅しょうがを容器に戻し、そのままゴミ箱に捨てた。そして急いでワンピースをぬぐ。幸い裏地までは汚れなかったらしく、中のシャツは真っ白なままだ。これなら祭りにもいけるだろう。
 (よし、あとは服を隠す前に少し洗っておけば!)
 そう思ったとき、公園の入り口から人影が入ってくるのが見えた。
「!」
 わたしは、急いで公園のベンチの裏に隠れた。下手にだれかに見つかって、先にお祭りにいったことがバレたら事だ。簡易トイレの間にあるこの場所は少し、消毒液の臭いが強いことをのぞけば隠れるのにうってつけの場所だった。
(やだ、なにあれ)
 隠れてひと安心したのも束の間、現れた人影に悲鳴をあげそうになった。公園に現れたのはひどくやつれた少年だった。刈り上げた頭にこけた頬、落ち窪んだ瞳に生気はない。まるで泥あそびをしたかのような汚いTシャツの袖からは、つかめば折れてしまうような腕が2本ひょろりとのびている。ひどくお腹がすいてやせ細っているのがひと目でわかった。一瞬、マンガで見たミイラのお化けがやってきたのかと思ったほどだ。
 だがそうでないと気づいたのは、彼のTシャツの胸元・・・・・・そこによく見知った小学校の校章と大きく縫い付けられた名札が見えたからだ。
「うそ」
 にじんだ名札の文字を認めた私は、思わず呟いた。
 ミイラの正体は、Kくんだった。
 Kくんはわたしと同じ小学校に通う同級生だ。サッカーが得意な人気者の少年だったが、ある日とつぜん学校へ来なくなってしまった。先生に理由を聞いても話してくれず、クラスのみんなが首をかしげているのをよく覚えていた。どうやら借金を苦にした夜逃げらしい。それを知らされたのはずっと後のことだった。唯一彼と同じ集落に住んでいた同級生が、両親が『どうしてもっと早くいわなかったのか。だからこそ、あの家は親子揃って苦しい目にあうんだ』と話していたのを聞いた、という情報だけしかわからなかった。結局、私たちはそれ以上Kくんについて追求することもなく、日常へと戻っていくことになったわけだが。
「あ~、ああ~」
 それが今、どうしたことか。わたしの目の前には、変わり果てた姿のKくんが首を揺らすように歩きながら公園を徘徊している。遠くからラジカセの祭り囃子が聞こえ始め、Kくんの動きも相まってひどく不気味な情景になった。
 Kくんは焦点の定まらない眼差しをゴミ箱に向けた。そして突如、獣のような甲高い声を上げる。悲鳴にも似たそれは静まりかえった公園に恐ろしいほど大きく響き渡った。
「あ゛あ~!」
「!?」
「ごはん! ごはん゛ん゛!!」
 Kくんは頭ごとゴミ箱に腕をつっこみ、ビニールに包まれた袋をつかみだした。それはさきほどわたしが捨てたたこ焼きの容器だ。中には紅しょうがくらいしか残っていないのに、彼はビニールを勢いよく破って箱をとりだす。そして正気を疑うほど乱暴な手つきで紅しょうがを喰らいはじめた。
「んんん、んまい、ん゛まいいいい゛い゛・・・・・・ッ!!!」
 彼はどれほど飢えていたのだろう。ゴミ箱に捨てられたものを躊躇なく食べ、しかも受け皿にこびりついたソースまで舐め回し始めたではないか。プラスチックの受け皿を粉々にして、噛み切れないそれをずっとかじりついている。
 わたしはその一部始終に目が釘付けになっていたが、ふと、Kくんの足元に目が止まった。さきほど脱ぎ捨てたワンピースが地面の上で砂まみれになっている。おそらく隠れるときに落としてしまったのだろう。
 そのワンピースが、Kくんの目にも止まったらしい。
「ごはん゛ッ!!?」
(ああ・・・・・!)
 止めるまもなく、Kくんはそのワンピースにかぶりついた。おそらくさきほどこびりついたソースの匂いのせいだろう。お気に入りのひまわりが引きちぎられ、びりびりに破かれる。ちぎれた布地が乾いた地面の上に広がった。今の彼にとってワンピースはただの食べ物にしか見えないのだ。
 お気に入りだったワンピースが食い散らかされる惨状を見せつけられたわたしは、恐怖と混乱で泣きそうになっていた。逃げ出したいのに、足がすくんで逃げることもできない。
 (もういや、だれか助けて!)
 ただ隠れることしかできないわたしは、心の中で助けを呼ぶことしかできなかった。
 そのとき、Kくんの動きがとつぜん止まった。
「・・・・・・?」
 動かなくなったKくんは、ワンピースの切れ端を口にはさみながら呆けたように空を見上げている。 
 風に乗って流れる祭囃子の音が、嫌に大きく聞こえた。
 そうして奇妙な間が流れたあと、彼の口から、ぽつりと言葉がもれた。
「にく、たべたい」
 ゆっくりと彼がこちらを向く。
「おなかいっぱい、たべたい」
 にったりと笑う、顔
「――――――ッ!?」
 心臓がはねた。
 そうだ、わたしはさっきまでたこ焼きを食べていたのだ。
 もしその匂いをKくんが嗅ぎ取ったのだとしたら。
 次に狙われるのは―――。
「嫌っ、あ!」
 わたしはあわてて口を押さえた。だがもう遅い。Kくんはわたしの悲鳴を聞きつけ、迷うことなくこちらへとむかってくる。ゆっくりと、確実に。
 三メートル、二メートル、一メートル・・・・・・。
「いや、やめて」
 Kくんの影が、怯えたわたしの体に立ちはだかる。口からたれたよだれが服の上にぽとりと落ちた。
 飢えた瞳は、獲物を見つけた喜びに満ちている。

「お゛に゛く゛! み゛つ゛け゛た゛あ゛!」

「い、いやあああああああああああああああ!!」
 Kくんが高らかに叫んだ瞬間、わたしはこらえきれずその場から逃げ出した。





 その後のことはよく覚えていない。
 無我夢中で逃げ出したわたしは、どうにか家まで帰ることができた。そして留守番をしていた母親に泣きつきながら胃の中のものをすべて吐き出し、三日間寝込んだらしい。当然友達との約束もなしだ。三日後普通の生活を遅れるようにはなったが、この事件以来、大好きなたこ焼きは食べられなくなった。
 元気になったわたしは今回の事件のことを洗いざらい両親に話した。すると両親は首をかしげ、口々にこう答えた。
 『Kくんは、祭りの前に亡くなっているはずだ』、と。
 Kくんが学校に来なくなってから数ヶ月、つまり祭りの一週間前にKくんとその家族の遺体が見つかった。彼らが引っ越した、というより借金取りから逃げた四畳半ほどの大きさのプレハブ小屋に、Kくんは大きくのびをするように寝転がって亡くなっていたそうだ。飢えたその体はひどく骨が浮いていて、まるでミイラのようにカラカラに乾いていたという。左右には同じく飢えて痩せこけたお父さんとお母さんがしっかりKくんの手をつないで亡くなっていたそうだ。
 わたしはぞっと背筋が凍るのを感じた。
 ならばあの日、公園で出会ったKくんはなんだったのだろう。
 その答えは今だにわからない。

 Kくんの遺体の歯茎には、ひまわりの描かれた布の切れ端が挟まっていたという。





《 ひまわりたべたよ 了 》 





【 あとがき 】
初めましての方は初めまして、白乙と申します。
今回は小説というより、よくある怪談話風のものに挑戦してみました。淡々と語り口調で進むお話の中で、どれだけ恐怖を感じられるようにするかを目標に書きました。最近暑い日が続いたので、この話を読んで少しでも涼しくなっていただけたら幸いです。あ、たこ焼きが食べられなくなっても私は一切責任を負いませんので←
少しぎりぎりに書き上げたので普段より荒い文章となってしまいましたが、生暖かく見守っていただけると嬉しいです。
では、読んでいただきありがとうございました!


【 その他私信 】
今回投稿が遅れてしまい申し訳ありません><
だいぶお題を変えてしまいましたが、何とぞよろしくお願いします。


白乙
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