Mistery Circle

2017-08

《 Researcher 》 - 2012.07.18 Wed

《 Researcher 》

 著者:知








「何言っているんだ。あの母親の話だと、娘は男と接触していないのに妊娠したことになるんだぞ」
「そ、そうよね。流石にありえないわよね」
 若干顔を引きつらせながら妻はそう言った。
 そう、そんなことは絶対にありえないのだが……
「思わず信じてしまう土壌があるからな、信じてしまうそうになる気持ちはわからないでもない」
「私達が住んでいるこの場所も信じられないような場所、ですものね」
 妻はそう言うと窓から空を眺めた。
 空には雨雲が広がっておりしとしとと雨が降っているように見える。
「俺達の祖先が別の星――地球に住んでいたという事、半年前にこの場所に移り住んで初めて実感したからな」
「ええ、私もそうです」
 窓を開け外に腕を出す。外は雨が降っているのだ、勿論、腕は濡れる。
 でも、その腕を引っ込めると腕は全く濡れていないのだ。
 一年中、雨の降り続ける町。それがこの場所の一番の特徴だ。
 と言っても、本当に雨が一年中降っているわけではない。晴れる日も勿論ある。けれど晴れていても雨が降っているように見える、感じるだけなのだ。
「『偽雨』……思ったよりも早く慣れたよな」
「そうですね。違和感があったのは最初の一週間ぐらいだけだったかもしれません」
 この星に移り住んで数百年。最近になって初めてこの星に降り立った大陸から別の大陸へと進んでいくことになった。
 そうして最初に発見された今俺達がいるこの場所だ。
 初めてこの星に降り立った大陸が殆ど地球と変わらないような場所だっただけに一年中雨の降り続けるこの場所は改めて別の星だということを強く意識させ、『偽雨』の発見は様々な物議をかもした。
 俺達夫婦は半年前にこの場所に移住した。移住するには様々な審査に通る必要があり、俺達夫婦は無事通ることができたが娘は通ることができなかった。
 娘は別の大陸への移住の審査に通ることができ、娘ももう大人ということで親子別に暮らすことにした。
 半年後、娘が妊娠したという知らせが届いたのだが……色々ややこしい状況になっているようだ。
 けれど、
「娘の件は俺達ができることはないし遠いこの地で見守るしかないな」
「私達、数年はこの町から離れることできませんからね」
 移住の条件に移住してから三年以上十年未満の期間(人によって期間はまちまち、とのこと)は移住した地から離れないこと、というのがある。
 止むを得ない事態が発生した場合は責任者の許可を得れば離れることができるらしいが、止むを得ない事態に該当するとは思えないし、何より俺も妻もこの地が気に入っており離れるのが惜しいというのもある。
 親として冷たいとも思うが娘も一人前の大人だ。娘が頼ってきたわけでもないし親である俺達がしゃしゃりでるのは過干渉だとも思うのだ。
「そろそろ、時間ですね」
 そんな事を考えていると妻が時計を見、そう言った。
「もう、そんな時間か。じゃあ、準備して……」
 そこまで言葉を発した瞬間、開けっ放しになっていた窓の側に身長十五センチ程の背中に羽の生えた生物――妖精――がいることに気づいた。
「あらあら……ごめんね。今日は用事があるから演奏はできないの」
 妻も妖精がきていることに気づきそう声をかけると、妖精は少し落ち込んだ表情を見せ飛び去っていった。
 この土地に来たとき『偽雨』にも驚いたが何よりも妖精が沢山いることに驚いた。前に住んでいた場所には妖精は殆どおらず数回しか見た事がなかった。
 妖精は見える人と見えない人がおり、又、ある場所にいる妖精は見えるが違う場所にいる妖精は見えない、というような事もあるらしく色々謎が多い生物である。
 この土地にいる妖精の特徴として音楽が好きというのがあげられる。
 俺達夫婦は仕事が休みの日は自宅で演奏したり少し遠出をして演奏したりすることがあり、演奏しているとどこからとなく妖精達が現れ演奏に合わせて歌いだすのだ。妖精達の言葉は分からないが歌声は素晴らしく、又、楽しそうに歌うので演奏しているこちらも思わず笑顔が出てしまう。
 最近では俺達が休みの日になると先程の妖精のように演奏前にやってくる妖精も出てくるようになった。
「不思議な生き物だよな」
「でも、いい子達ですよ」
 俺の言葉に妻がそう返すと首を縦に振り家を出た。



「暫くお待ちください」
 目的地に着き受付に用件を伝えると応接室へと通された。
「やはりというか、立派ね」
 妻がため息混じりにそう言った。部屋にある何もかもが一目見ただけで高級品と分かる代物ばかりだ。
「流石は責任者達の職場、と言ったところだな」
 立派なのは分かるが、少々居心地が悪い。庶民だからそう感じるのだろうか。
 そんな事を考えているとドアをノックする音が三回聞こえた。
「お待たせしました」
 応接室に入ってきた女性を見て最初に思ったこと、それは若い、という事だ。
 確かに実力や能力があれば性別年齢に関らず上になる事はできる。それにしても若い、若く見える。
 娘とそれ程変わらない年齢ではなかろうか。
「んー私の顔に何か付いてます?」
 俺達が彼女の顔をまじまじと見つめていたからか、彼女はそう言うと顔をぺたぺたと触りながらそう言った。
「失礼しました。いや、あまりに若く見えるので私も妻も驚いてしまって……」
「ああ、そっちですか」
 俺がそう答えると彼女は納得したように言うと
「私に初めて会ってそちらに驚く人は初めてですね。少しびっくりしました」
 との言葉とは裏腹に何の感情がこもっていない声と表情で彼女は言った。
「これは生まれつきで……親から「お前は生まれたての頃から無表情で泣いていた」と言われてますから」
 と言うと彼女は口角を人差し指で持ち上げた。
 そんな彼女の様子を見ていると肩の力が抜けていくのを感じた。
「上手く緊張も解けたようですね。早速色々お話を……といきたいのですが、その前に少し移動しましょうか」
「移動ですか?」
 ここですると思っていたので思わずそんな一言が出た。
「私以外の人はここ使っているんですけどね。どうも私は落ち着かなくて」
 彼女はそう少し困ったような表情で言った。彼女は無表情と言っていたが全く変わらないわけでなないようだ。
 俺と妻は彼女の後に続き歩き始めた。


「ようこそ、私の研究室へ」
 鍵を開け部屋に入ると彼女はそう言った。
「研究者だったのですか。一体何の……」
「んーその前に一つ確認していい?」
 俺の質問を遮り彼女はそう尋ねた。
「あなたの肩に妖精が止まっているの、気づいてる?」
「えっ?」
 彼女の指がさしている先を見ると先程の妖精がいつの間にか俺の方に止まっていた。
「何時の間に……」
「二人とも『見える人』のようだね」
 彼女が手招きをすると俺の肩に止まっていた妖精が彼女の方へと飛んで行き、彼女の頭の上で止まった。
「そして、妖精に気に入られている」
 妖精は気に入った人以外とあまり接触をしようとしない生き物だと聞いたことがある。
「まだ、ここにきて半年だよね。それなのにここまで懐くなんて……うーん、興味深いわ。私の研究も捗りそう」
 研究が捗る? ということは
「研究しているものって……」
「そう、私は妖精について研究しているの。一応、妖精研究のトップを任されているわ。本当はもう一人妖精研究の同僚がいるのだけれど今日は不在で。残念だわ。別の目線であなた方からの話を聞けたのに」
 そういうと彼女は妖精にハンドサインを送ると妖精は部屋から出て行った。
「今のは?」
「多分、気づいていると思うけれど、妖精達は私達の言葉を理解できているわ。でも、私達は妖精の言葉は理解できない。妖精の言葉対象の一つだけれど時間がかかるわ。だから、研究に協力してもらっている妖精との間で研究に必要な事をハンドサインを決めているの」
 そういうと彼女は話が長くなるだろうからとコーヒーを入れてきた。
「『偽雨』に関して、どこまで知っているかしら」
「妖精達が起こしているという噂は聞いたことが」
 彼女の質問にそう返すと
「そう。それは噂ではなく事実よ。妖精達にも確認をしているわ」
「何のために妖精達は『偽雨』を降らしているのかしら?」
 彼女の言葉に妻がそう尋ねると
「残念だけれど聞いても答えてくれないの。『偽雨』を止めることは絶対にできないとは言われたから何の意味もなく降らしているわけでないのは確実。本来は雨をずっと降らせていたいけれど、他の生物のためにそれはしていないらしいわ」
 彼女は肩を竦めながらそう言った。何も分かっていないも同然、ということ、か。
「あの、移住の許可は何を基準なのですか? 答えられないことだったらいいのですけれど」
 妻が唐突にそんな質問をした。
「ああ、それについて説明するのを忘れていたわね。簡単に言えば移住先に合うか合わないか、ね」
「合うか合わないか、ですか?」
「ええ、合わない人だと体調を崩してしまうから。酷い人だと意識がなくなることもあるから。もう一人の妖精研究の同僚が長時間ここにいると体調を崩してしまう人でね。今は体調を戻すために帰っているところ。ある程度合うか合わないかは事前に分かるのだけれど確実ではないからこの移住してから半年後の面談でそれを確認しているの。あなた達は一目見ただけで大丈夫だと分かったからこの事を説明するのを忘れていたわ」
 おそらくこの説明もかなり簡素化したものであろうことはわかった。
「そして、そんなあなた達だから少しお願いがあって……少し研究を手伝って欲しいの」
「研究の手伝いですか?」
 唐突で思いがけない言葉に驚いてしまった
「研究の手伝いといってもそんなに難しいことではないわ。例えば妖精達と触れ合っていて気づいたこと、とかを報告してくれるだけでいいの」
「ここにいる妖精達が音楽が好き、というようなことでもいいのですか?」
 彼女の言葉を受け妻がそう言うと
「ええ、十分よ」
 知らなかった情報ね、と言いながら彼女はメモをとり
「音楽……音、そうね、その方向から行くのもありね」
 メモを取ってる間に何か思い浮かんだというようにメモに凄い勢いでペンを走らせた。
「……あの」
「あーごめんなさい。思い浮かんだことは些細なことでもすぐにメモをしておかないと、後になって思い出せないことが多くて」
 やってしまったというように、彼女はペンで頭をかいた。
「おわびというわけではないけれど、これについてもあなた達に手伝ってもらうという理由もあるけれど、私の研究成果の一部を見せるわ」
 そういうと、彼女は種も仕掛けもありません、と手に何も持っていないことを見せ何かをつぶやくと
「えっ」
 彼女の人差し指から火が起こった。
「これが妖精達を研究して見つけたもの……仮に『魔法』と呼んでいるわ。妖精達は当たり前にこの力――技術と言った方がいいかしら――を使っているわ。『偽雨』も妖精達が空を飛んでいるのもこの技術のおかげ、らしいわ」
 彼女がそう言うといつの間にか又妖精が部屋の中に入ってきており、妖精も火を起こしてみせた。
 彼女のその言葉に嘘はなかった。
「駄目で元々だったからこの技術に関しては一人で研究をしていたの。でも成果が出た……ならば、私達の遠い先祖の二の舞を演じないためにも、科学技術以外の技術を発展させたいの、協力してくれないかしら?」
 私達の先祖は地球からこの星へと移住してきた。移住することになった理由は地球が人が住めない環境になった、してしまったからだと言い伝えられている。
 俺達にそう尋ねてきた彼女の目は無表情なのに強い意思を感じさせるものだった。





《 Researcher 了 》





【 あとがき 】
 予想以上に筆が進まなかった。おかげで省略したシーンが結構あるorz
 vol.43の設定を軽く使ってみた。本当に軽く使っただけなのでこの話の為に色々設定を考えていたらキリがなくなった。
 その結果がこれ(あとがき書いている日が6/1)である。
 頭の中の話が上手く文章化できないなぁ><


【 その他私信 】
無理矢理自分の土俵に持ち込んだ気がする
スランプからの脱出はまだまだ先のようだ


忘れられた丘  矢口みつる(知)
http://wasureraretaoka.blog86.fc2.com/


● COMMENT ●


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック:

http://misterycirclenovels.blog.fc2.com/tb.php/369-f60be839
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

《 君と話がしたいだけさ 》 «  | BLOG TOP |  » 《 天使の降りる場所 》

プロフィール

MC運営委員会

Author:MC運営委員会
このブログの八割は、カボチャで構成されております。

カテゴリ

Mistery Circle(メインカテゴリ) (39)
寸評 (29)
MCルール説明 (1)
お知らせ (35)
参加受付 (23)
出題 (34)
メールフォーム (3)
内藤クンのおもちゃの部屋 (9)
天野さんの秘密の部屋 (8)
Ms.伍長の黙示録の部屋 (0)
伊闇かなでの開かずの部屋 (4)
未分類 (27)
亞季 (2)
いつき (1)
伊闇かなで (2)
空蝉八尋 (4)
黒猫ルドラ (12)
ココット固いの助 (21)
桜井 (1)
桜朔夜 (1)
鎖衝 (11)
知 (21)
しどー (12)
瞬 (3)
白乙 (12)
すぅ (13)
すずはらなずな (29)
田川ミメイ (2)
辻マリ (14)
夏海 (3)
七穂 (1)
氷桜夕雅 (30)
ひとみん (4)
松永夏馬 (12)
望月 (8)
幸坂かゆり (21)
李九龍 (13)
りん (3)
ろく (1)
Clown (12)
MOJO (1)
pink sand (9)
rudo (8)
×丸 (4)
MC参加者に聞け (7)
Mistery Circle ヒストリー (1)

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

検索フォーム