Mistery Circle

2017-09

《 戦慄!!見つからない鉛筆 》 - 2012.07.20 Fri


 著者:黒猫ルドラ







デスクの上に転がった十本前後の筆記具。それらは全部、万年筆だった。
静まり返った図書館の自習室、私は一瞬、何が起きたのかわからず呆然とした。
「ママー!宿題はー?」
娘の和葉の声で我に返り、このピンチを如何に乗り切るか、脳内のベクトルを切り替えるのであった。


思い返せば昨日の夜。
そろそろ夏休みが終わる頃だと、和葉に声を書けたのがきっかけだった。
「和葉~。夏休みの宿題は終わったー?」
「終わったー。ランドセルに入ってるよー。」
「あー、本当~。えらいねー。」
カチャ… パラパラ… パタン…。
「和葉…。これは…、バカには見えない鉛筆で宿題したのかな?ママには見えないんだけど…。」
「うん、そう。」
「…。そうなんだー。でも、バカには見えないからねー。もしかしたら、先生が高学歴バカだったら、どうしよう?先生にも見えないかもね?普通の鉛筆で書き直そうか?」
「ガーン…」
「何か行った?」
「ううん、別に…。」
とにかく宿題を片付けないと始業式に間に合わない。
取り合えず、片っ端から片付ける事にした。


宿題は、夏休みの友と算数と国語のドリル、絵日記、朝顔の観察である。
幸い絵日記と朝顔の観察は一日分で、なんとかなりそうだ。
先ずは朝顔だ。種を採取して提出しなければならないから、枯れかけた朝顔から、種を採取。
観察レポートは脳内補整で良いだろう。
和葉に
「朝顔は朝に咲いて、昼には萎むんだ。昼ごはん食べてたら萎んだとでも書いておけ。」
と、指示を出す。
イラストは、辛うじて残った蔓と葉っぱを見ながら書けば良いだろう。
朝、起きるのが苦手だから、花は近所ですっかり野生化してる琉球朝顔を見せながら書かせよう。一日中咲いるからね。
次は絵日記だ。
何か思い出に残る事をしなければならない。かと言って、こんな土壇場にレジャーに行ってる場合では無い。
夏休みの初めに祭りには行ったけど、本人は冷やしパインを食べて光る玩具を買った事くらいしか覚えてなさそうだ。
肝心のステージは、地域の市民センターの祭りと記憶がごっちゃになってるし…
これじゃ日記にならないな。
それに、家で宿題させても子供部屋はエアコンが無いし、宿題手伝うこっちが参るわい…
と、思い出作りがてらに図書館の自習室に行って宿題をさせる事にした。
この街の図書館は、古城の近くにあり隣接した公園も広く、思い出作りをしながら宿題するのにはもってこいだった。
取り合えず、文房具、弁当、水筒とマグボトル、財布、宿題を鞄の中に放り込んで、家を出た。


図書館に着き、自習室を使う手続きを済まして自習室に入る。
暑い中、来たのだから喉はカラカラだ。
取り合えず、指定のデスクに宿題と筆箱を並べて、休憩室で一息入れる事にした。
自販機はあるけど、我が家の財布からは当たり前の様に自販機を使える様な余裕は無い。
だが、マグボトルに入れてある飲み慣れたインスタントコーヒーひとときの安らぎをくれる。
和葉の水筒には麦茶が入ってある。和葉も私が滅多にジュースは買わないのをよくわかってるから、特に何も言わずに麦茶を飲んでいた。


自習室に戻り宿題に取り掛かろうとした、その時。アクシデントが発生した。
「…無い!無い!!」
鉛筆が一本も無いのだ。代わりにあるのは、万年筆。
筆箱をひっくり返して鉛筆を探す。
探せど探せどありはしない。
出てくるのは、ひたすら万年筆、万年筆、万年筆。
デスクの上には十本前後の万年筆と消しゴムが転がってるだけで、何故か鉛筆は一本も無かった。
「…おかしい。万年筆なんて持ってないのに。」
「ママー?このペン、先が三角やねぇー。」
三角だ…。三角だよぅ…。ペン先が…。強いて言うなら、滴型じゃないか?
そんな事は、どうでも良い。これじゃ宿題が出来ないじゃないか…。万年筆で宿題する小学生なんて聞いたことも無い…。
凹んでいても拉致があかない。取り合えず近くのコンビニに行く事にした。


ジー… ピンポーン♪ピンポーン♪パンポーン♪
「いらっしゃいませー。」
店員の挨拶も気にも止めず、一目散に文房具コーナーへ向かった。
あるのは、ボールペンと修正液、そして万年筆。何故かシャーペンも鉛筆も置いてなく、代わりにあるのは、万年筆、万年筆、万年筆。
何故、こんなに万年筆があるんだ?
仕方無い。少し歩けば文房具屋がある。そこに行くとしよう。
コンビニを出て、早足で文房具屋に向かう事にした。
ジー… ピンポーン♪ピンポーン♪パンポーン♪
「ありがとうございましたー。」
いや、何も買ってないから。


重いガラス張りのドアを押してドアを開き、本屋をすり抜ける。文房具屋は本屋の奥にある。
ここなら鉛筆の一つや二つくらい、あって当然だろう。
が!しかし、無いのである。その代わり、万年筆が沢山ある。しかも子供向けの今流行りのキャラが書かれてる万年筆まである。
じゃあ、デッサン用の鉛筆は?と、見てみると、やはり万年筆が置いてある。デッサン用の万年筆…見たことも聞いたことも無い…。
じゃあ、製図用は?…製図用の万年筆。なんだよ、それ。
「なんで万年筆ばっかなんだ?」
「ママー!三角のペンがいっぱーい♪」
喜んでる場合では無い。
途方に暮れていると、キレイに包装された箱に目が止まった。
一本800円。
やっと見つけた鉛筆であった。
「…え?高い。」
しかし、背に腹は変えられない。
泣く泣くその鉛筆を買った。
「ママー!箱ちょうだーい♪」
「ああ…箱ね…。散らかるから、家に帰ってから…。」


気が付いたら、もう昼過ぎだった。
お腹も空いてきたし、図書館に隣接した公園で弁当を食べる事にした。
公園のベンチに二人で座って、弁当を広げる。
斜め向かいのベンチにはOLさんらしき制服の女性たちが弁当を食べている。
芝生にはキャッチボールをする親子、木陰には昼寝をする中年男性、外周はトレーニングウェアに身を包んだランニングする人やウォーキングする人達が沢山居る。みな思いおもいにこの公園で過ごしている。
今日は天気にも恵まれ、青い空の下で食べる弁当は、有り合わせのおかずを詰めただけにも関わらず、立派なご馳走に思えた。
「ママー!このキャベツ、三角のペンみたいやねー♪」
やめてくれ…。


弁当も食べ終わり、図書館の休憩室に戻った。
図書館は涼しい。静かで宿題も捗る。
…と、言いたい所だが、静か過ぎて和葉に宿題を教える声が場違いに響いてしまう。
回りには受験を控えているであろう学生が、本を何冊も積み上げて必死に勉強している。
出来るだけ小さな声で宿題を教えながら、何とか半分が終わった頃、閉館の時間になった。


真っ直ぐ家に帰ると、珍しく仕事を早く切り上げた夫が、スーツのまま、第3のビールで一杯やっている。
脱ぎ散らかしたスーツの上着が夫の傍らに落ちている…。皺になるから掛けろといつも言ってるのに、一向に掛ける気配は無い。
渋々、上着をハンガーに掛けている私を気にも止めず、和葉は今日あった出来事を夫に話し始めた。
「パパー!今日ね、図書館行って宿題しよったら、先が三角のペンがいっぱいあったんよー♪」
「ほんとー。」
「でね、一個だけ鉛筆があったから、それ買って宿題したんよー♪箱、貰ったー♪」
「ほんとー。大変やったねー。」
「そうなんよ。筆箱開けたら鉛筆が無くてね。代わりに何故か万年筆がいっぱい入っててさー。で、買いに行ったけど何処にも売ってなくてねー、偉い目にあったよ。それで、やっと見つけたのが800円のヤツ。高くない?その和葉が持ってる箱のヤツ。」
「ん?和葉の持ってる箱?これ、万年筆って書いてるよ?ママ、万年筆買ったと?」
「は?万年筆?それ、鉛筆入って… 万年筆…。」
「もしかして、和葉、万年筆で宿題してない?」
慌てて宿題を確認すると、確かに万年筆の筆跡で宿題がされてある。何が起きたのかわからず、慌てて筆箱をひっくり返した。
あるのは十本前後の鉛筆と消しゴムである。
私は和葉と目を見合わせた。
何とも言えない空気と酒臭さが辺りに漂う。
夫からの突き刺さる様な視線を背中に感じながら、二人はリビングを飛び出した。





《 戦慄!!見つからない鉛筆 了 》





【 あとがき 】
初めまして、ルドラです。
今回、初参戦と言う事で皆さんが私の作品を読んで、どう思われるか、ちょっと緊張しています。
でも、それよりも楽しんで書けたので、ちょっとワクワクもしています。
今回は締切が9月だったので、夏休みの最後らへんを題材にして書きました。
お手柔らかにお願いしますm(__)m


黒猫ルドラ
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