Mistery Circle

2017-11

《 扬羽 - a ge ha - 》 - 2012.07.20 Fri






 八月の東京は、どこにいても同じ匂いがする。
 饐えた匂いだ。腐敗臭だ。その上、独特の熱さがある。逃げ場所などどこにも無い、腐った熱い空気が充満している、亜熱帯の街だ。
「これ、彫ってくれる? ここ――この辺に」
 そう言って俺は右手で自らの左肩をつかみ、肩甲骨の辺りを指で弾いた。
 都内の雑居ビルの一室。エアコンの音が絶えず鳴り響いてはいるが、部屋の中は全く涼しく感じられない。下水のような匂いが漂う狭い部屋の中で、俺は革張りのストレッチャーの上に腰掛ける。
「何、この絵? ブーメラン?」
 横に座る全身タトゥーの男は、タバコの煙を吐き出しながら、くしゃくしゃになったノートの切れ端を眺め、低い声でそう聞いた。
「ちげぇよ。蝶だよ、蝶。アゲハって言う蝶の羽の片側」
「あぁ、蝶かぁ。片っぽしかねぇからわかんなかったよ」
 長い髪をかき上げ、男は笑う。
「ねぇニーサン、この紙じゃあ転写出来ねぇんだけど」
「転写……って、何?」
「わかんなきゃいいよ。とりあえず適当に下書きすっから寝てよ」
 言って男は、無造作にタバコを床のバケツに投げ捨てた。
「……なぁ」
「あ? 何?」
 男は苦い表情で聞き返す。
「やっぱタトゥーって、痛え?」
「はぁ? あたりまえじゃん」と、笑う。
「なんだよ。やっぱビビっちゃってやめちゃう感じ?」
「――ちげぇよ」
 言って俺は、白のタンクトップを脱ぎ捨てた。
 うつぶせになりながら俺は、筆にくすぐられる不快さを必死に耐える。男は覆いかぶさるようにしながら、俺の描いた落書きを肩に模写している。
「なぁ」
「何だよ。やめるのか?」
「そうじゃねぇってば」俺は言う。
「昔さぁ、俺と同じように、“ここ”にアゲハのタトゥー入れた奴、いねぇ?」
「はぁ? 誰かそんな奴いんのか?」
「こっちが聞いてんだよ。なぁ、そんな奴、記憶にねぇか?」
「……いいや。本当にここで入れたのか?」
「わかんねぇよ。東京のどっからしいけど」
「バカか、おめぇ」
 東京がどんだけ広いのかわかってんのか? 無言だったが、多分男はそう言いたかったに違いない。
「……広いのか」俺は呟く。「いいなぁ」
「あぁ、何が?」
 なんでもねぇよ。俺はそんな事を思いながら、そっと目を瞑った。
 東京、真夏の街。亜熱帯のアジアの一画。どこにいたって馬鹿みたいに熱い、そんな午後の一幕だった。





《 扬羽 - a ge ha - 》

 著者:瞬☆ザ・\780日替わりイタリアンパスタランチセット(スーパー・ワンドリンクサービス付き)






 昭和六十一年――夏。

 女と言う生き物が、常に男に“求められたがっているもの”だと気付いたのは、俺がもう間もなく十六の誕生日を迎えようとしている頃だった。
 わがままな話じゃねぇかと、俺は思った。大抵はどの女も男の首根っこ押さえ付けようと振る舞うくせに、肝心な場面ともなれば必ず男に選択権を明け渡す。
 まさに今、目の前にいる女がそうだ。男に抱かれる事だけが目的で来ている筈なのに、肝心のホテルの前で拒む芝居をして見せる。要は、“無理矢理に連れて行かれたから仕方なく”と言うあらすじが欲しいのだろう。俺は込み上げる苛立ちを無理に飲み込み、強引に女の腰を抱く。
「大丈夫だって。心配ねぇよ」
 なんて、なんの理屈も無いバカみてぇな台詞を吐きながら、暗がりの自動ドアの前に立つ。
 女はその後も何度か嫌がる素振りを見せたりはしたが、エレベーターの中で無理矢理に舌をねじこむキスをする頃には、すっかりおとなしくなっていた。
 年の頃は、三十代の後半か、それ以上か。少なくとも俺とは一回り以上離れているだろうその女は、ベッドの上で無抵抗のまま俺に服を脱がされて行く。
 どこにでもいそうな地味な顔立ち。あまり化粧慣れしていないだろう薄いファンデーションに赤い口紅。近所に買い物に行くにはちょっとだけ不自然な感じの高価そうなワンピース。無理して着てきたのだろう、派手で貧乏臭いレースの下着の上下。何をどう見ても、男遊びをしたいと考えるようなタイプの女ではない。
 旦那か、彼氏か。男に愛想尽かした女の典型的な逃避のパターンだな。思いながら、不自然に指輪の痕の残る指に、自らの指を絡ませる。
 ――あのさぁ、そう言う女は、自分が女だって事を確かめに来るんだよ。そんなスナコの言葉が思い出される。
 女だって事を確かめる? どう言う意味だよ。聞けばスナコは、そのままの意味だってと、面倒臭そうに答えた。
 女ってのは時々、自分が女だって事を自覚しなきゃいけないんだよ。つまりはアレだ、息継ぎだよ息継ぎ。ずっと海中で泳いでいて、時々水面に呼吸しに来るクジラみたいなね。
 じゃあ何か? 女ってぇのは呼吸するみてぇにセックスしたがるってのか? 俺が聞けば、短絡だなお前はと、スナコは笑った。
「ねぇ」ふいに声を掛けられ、現実へと戻る。
「あなたの……名前、教えて」
 聞かれて俺は、「トウヤ」と、咄嗟にウソを吐く。
「洞爺湖の、トウヤ。――変だろ?」
 言うと女は、「変じゃないよ」と笑う。一瞬だが、その女がやけに可愛く見えた。
 下着を脱がせ、前戯もほどほどに挿入する。女は声をあげる。俺の動きに合わせて、切なく苦しげな吐息を洩らす。女は何度も何度も偽の俺の名前を呼び、孤独ではない自分を確かめる。
 要するに、アレだろう? 女ってぇのは男に求められて初めて、自分が女だって自覚するって事なんだろう?
 俺は女の唇の間に舌をねじ込むと、左手で腰を、右手で女の頭を強く押さえ、そして――果てた。
 その後、俺達は一緒のシーツにくるまりながら何度も何度もキスをした。その度に女は俺の名前を呼びながら、「どうだった?」と聞いて来る。
 なぁ、お前って女はそんなに沢山、色んな事を確認しなきゃ生きて行けねぇのかよ。思いながらも俺は、「最高」とだけ答えて抱きしめる。ちょっとだけ、嘘を吐いた事による後ろめたさを感じながら。
 シャワーの後、生活臭とレシートが一杯に詰まった財布から一万円札を数枚抜き出すと、女は何も言わずにそれをテーブルの上にそっと置いた。俺はそれに気付かないふりをしながら、「また逢えるか?」と、背後から抱き付いた。何も言わないままに指先で俺の腕をなぞる彼女の行為が、精一杯の返事なのだろうと理解する。
「なぁ、また逢おうぜ。今度はプライベートでもいいからよぉ」
 返事がないのをいい事に、尚もしつこく食い下がる。
 もちろん、本心でまた逢いたい訳ではない。この手の女と後腐れなく離れるには、この手段が手っ取り早いのを知っているからだ。
「電話番号だけでも教えてよ」
 言えば女は苦笑いを浮かべ、「こっちから連絡するから」と、逃げる。詮索されては困るだろう相手には、非常に効果的だった。
 女との最後のキスは、下りのエレベーターの中だった。外に出て、ホテルの裏の狭い路地で見る彼女の表情は、既に心ここにあらずで、まるでどこかの家庭の妻か母親の姿のようにさえ見えた。
「じゃあ……」
 と、軽く手を挙げると、名前すらも知らないその女は、二度とこちらを振り向く事なく路地を急ぐ。
 俺はそれを見送って、「ありゃあ、同情するほど弱くもねぇな」と小声で呟けば、彼女が消えて行ったのと逆方向に向かって歩き出した。
 ――まだ全然あちいじゃん。言いながら、熱風を吹き下ろす夏の午後の空を見上げる。両側に並ぶビルとビルの隙間に、入道雲を背負った夏の空があった。

 *

 赤目川市の南西、ものの数分も歩けば日本海の砂浜を望めるそんな場所に、この辺りではひときわ大きな歓楽街である、“湯煙り銀座”はあった。
 銀座だなんてやけに気張った名前ではあるが、その前に付く“湯煙り”と言う二文字が全てを台無しにしている。所詮、田舎者のネーミングセンスなんてその程度なのだろう。
 ちらほらと店のシャッターが上がりつつある通りを、だらだらと歩く。狭い道の両側に走る側溝の蓋の隙間から、硫黄臭い湯気が立ち上っているのが見える。あれが、“湯煙り”と呼ばれる所以だ。裏の通りに並ぶ旅籠や民宿から流れて来る、温泉の湯の排水の湯気だ。冬ならばまだ許せる気はするが、真夏に見る湯気とあの匂いは格別に好きじゃない。俺がこのクソ田舎を嫌う理由の一つが、まさにその湯気の存在だった。
 くせぇ。マジ、くせぇ。硫黄の匂いだかなんだか知らねぇが、こいつはクソの匂いだ。屁の匂いだ。
 顔をしかめながら通りを抜け、突き当りを左に折れた路地の一画に、店はあった。
“Night Flight(ナイト・フライト)” 古びたビルの一階にある、スナコが店長を務めているカフェバーだ。
 俺は一旦店の前を通り過ぎ、横の路地を抜けて裏へとまわる。空き瓶の詰まったケースの山を迂回して、勝手口に向かう。
「ちぃす」
 開けっ放しのドアに向かってそう言いながら、外よりも更に蒸し暑い厨房へと踏み込む。中には――二人の姿があった。思わず顔をしかめる。
「シンジーサーン、オハヨッスナッシマッス」
 と、妙なアクセントで返すのは、ダナイ。一体どこの国の人間なのかは知らないが、浅黒い肌に彫りの深い顔立ちで、いつもべっとりとしたポマードで髪を無理に横分けにしている。ダナイは上半身裸のままジャガイモの皮を剥き、丸のまま寸胴の鍋に放り込んで行く。
 奥の方で調理台に腰掛け煙草を片手に雑誌を読んでいるのは、成瀬。俺より二、三歳程年上だろうか、小太りで目付きが悪く、肩まで伸ばした髪がやけに不潔っぽく感じられる。
 成瀬が何も言わないのをいい事に、「スナコは?」とダナイに聞けば、「マダウエナッス」と、包丁を持ったまま天井を指差す。
 まだ降りて来てねぇのかよ。思いながら再びドアの方へと向かおうとすれば、「仕事だったのかよ、“猫ちゃん”」と、声が聞こえた。振り返ると、こちらを睨む成瀬と視線が合った。
 面倒だな。思いながら、「見ての通り」と答えて出て行こうとすると、「返事になってねぇだろ、クソガキ」と、荒れた声を上げる。
「俺が仕事だろうが何だろうが、あんたにゃ関係ねぇんじゃねぇのか?」
 言うと成瀬は「なんだ、おい」と小声で呟き、火の点いたままの煙草を投げて寄越す。
「おいおい、あぶねぇじゃん。先輩」
 適当にそれをかわしながらわざと挑発すれば、「殺すぞ」と、成瀬はまな板の上の包丁を持ち上げる。刺すどころか振り上げる程の度胸もないクセに、いつもそうやって威嚇をしていなければダメな性質らしい。面倒臭くなった俺は、「カンベンしてくれよ」と、わざとらしく両手をあげて、厨房から飛び出した。
 裏口横の、錆の浮いた鉄製の階段を登り、二階を経由して三階へと上がる。一階と二階は色んな店が詰め込まれたテナントだが、そこより上は居住区専用のアパートメントとなっていた。
“三0八”と、ドアにナンバーが穿たれた部屋の前に立ち、キーホルダーも何も付いていない鍵を差し込む。
 思った通り、スナコはまだそこにいた。シャワーでも浴びた後なのか、白のレースのブラ一つだけと言う妙な恰好のままリビングのソファーへと座り込み、酷くノイジーなテレビを観ながら、濡れた長い黒髪にドライヤーをかけていた。
「なんてぇ恰好してんだよ」
 冷蔵庫のドアを開けながらそう聞けば、ドライヤーの音が邪魔して良く聞こえなかったのか、「今支度してんじゃない」と、的外れな言葉で返して来る。
「パンツぐらい履けっての」
 グラスの麦茶を傾けながら、俺はスナコの横へと座る。「いや別に、面白くて観てる訳じゃないし」と、またしても的外れな事を言う。どうやらスナコは俺のシャンプーを使ったらしい、ドライヤーの風に乗ってシトラスミントの香りが漂って来た。
 ソファーに深く腰掛ける。目の前にはスナコの背中があった。――そしてもう一つ、右の肩に彫られた片側だけの蝶の羽が、かきあげられる黒髪の間から見え隠れしていた。
 じくり。胸か腹か、どこかその辺。良くわからない身体の中のどこかが嫌な感じの痛みを伝える。
 いつもそうだ。俺がスナコの肩のタトゥーを見る度、必ずじくりとどこかが痛む。一体どうしてそうなるのか全くわからないのだが、見る度にそうなってしまうのだから仕方がない。俺は冷たいグラスを持ち上げて、そっとスナコの右肩にそれを当てる。俺から見える世界から、それだけを無くしてしまおうとするかのように。
「ぎゃあ!」
 仰け反り、ドライヤーを取り落す。俺はそれを見て大声で笑う。
「シンジ! なにすんのよ、驚くじゃない!」
「ぎゃあ、だって。なんだその悲鳴」
 言うと同時に、無言で頬を張られる。俺は咄嗟にその掌を掴み上げると、強引にスナコを引き寄せ、唇を奪う。
 さらりと、スナコの長い髪がほつれて落ちて来る。自然、寝転ぶ俺にスナコが覆いかぶさるような恰好となり、一瞬にして俺の視界はスナコの髪によって外界から遮られる。それは俺が一番好きな、スナコとのキスのスタイルだった。
 全身にスナコの重みを受けながら、ねっとりとした大人のキスを交わし、俺はゆっくりと目を閉じる。五感の全てでスナコを感じる。どんなに強い酒でも敵わない、至高の満足感がそこにある。
 そっと手を伸ばし、無防備な裸の尻に触れてみる。
「なによ、もしかして今日はして来なかったの?」
 聞かれて俺は、「いや」と、答える。
「普通にして来たけど」
「ならもういいじゃん」
「スナコ見てたら元気になった」
「なに言ってんの。そろそろ店の準備しないと成瀬クン達が怒り出すよ」
「もうとっくに下でキレてるよ」
 言うとスナコは、ふっと笑い、「面倒だね」と、舌を絡めて来る。
 結局、俺とスナコのせいで店の開店は二十分遅れた。

 *

 田舎の夜は早い。早く始まり、そして早く終わる。
 所詮、農作業やら漁業が中心の生活を送っている奴等ばかりなのだ。大抵どの店も夕近くともなれば店を開け、そして夜更けには人の足も途絶える。
 従ってこの店、“Night Flight(ナイト・フライト)”は、この土地の中にあって少々異質なのだろう。まだ飲み足りない、家に帰りたくないと言う困った客達が、深夜零時を過ぎた頃から、どこからともなく集まって来る。
 もちろん、そんなだらしない客達ばかりでもない。基本、夜しか行動が出来ないのだろう、奇妙な客もかなり多い。そんな中、店のマスターであるスナコは、常に毅然とした態度で客をあしらう。一体どこで覚えた処世術なのだろう、スナコはどんなに面倒な客であろうとも、上手く接する事が出来た。
 俺達と同じように、カマーのベストスーツに身を包むスナコは、よそのホステス嬢やら無理に着飾った若い女の客達よりもずっと美しく見える。洒落っ気など微塵もなさそうな女なのに、どうしてあぁも人目を惹くのだろう。現に、スナコが目当てで来る客だって少なくはない。
 店員は、俺を含めて男が四人。一人は店の奥のボックスに陣取って、常連客とばかり会話をしている成瀬。もう一人は厨房担当のダナイ。そしてもう一人が――。
「猫ちゃん、そこのライム、一つ取ってくれる?」
 ふいに声を掛けられ、「はい?」と、裏返った声で返事をしてしまう。
「シンジ君、ずっとスナコの事見てたでしょ?」
 そう言って笑うのは、陣さん。年は五十代ぐらいか、短い髪をオールバックにして、いつも濃い目のサングラスをかけている。スナコ同様、客あしらいの上手いプロのバーテンダーだ。実際その貫録から、陣さんをマスターと勘違いする人も多い。
「あ、う、うん。見てた」
「素直でいいなぁ。君はホント、そう言う所がかわいいんだよなぁ」
 言いながら陣さんは、慣れた手付きでライムをスクイーズする。そして俺は慌ててロックアイスを用意する。
「えらいね。ギムレットだってわかった?」
「いや、モヒートだと思ったんだけど」
 陣さんは声をあげて笑う。彼はいつもこうだ。楽しそうに笑っているか、嬉しそうに笑っているか。常にそのどちらかしかない人だった。
 そこに突然の怒鳴り声。見ればボックスの向こうから成瀬が、「おい、シンジ! 氷だよ、氷!」と、あげた右手の指を鳴らしながら叫んでいた。
 ナニサマだよ、馬鹿野郎。俺はアイスペールを手に取りながらそう愚痴ると、いつの間に目の前に立っていたのだろう、スナコがそれを取り上げて、「私がやるよ」と、代わってくれた。
「スナコ、猫ちゃんには優しいよねぇ」
 陣さんはシェイカーをグラスに傾けながら言う。俺はちょっとばかりカチンと来て、「その、“猫ちゃん”っての、やめてもらえないっスかね」と、返した。
 どう見てもギムレットなんて似合わないだろう下品な恰好の女の前にグラスを差し出しながら、「どうして?」なんて顔をで、陣さんは俺を見る。
「なんかバカにされてる気分になるんだけど」
「してない、してない」
 笑いながら陣さんは、手で囲いを作りながら煙草に火を灯す。この人はどうにも全ての行動が恰好良くて逆に苦手だ。
「君はえらいって。実際この店で、“猫”やれる奴なんて、そんなにいなかったんだよ。でもシンジ君はちゃんとやれてる。しかも、多分だけど歴代の猫の中ではトップクラスだ」
「……マジで? あんなのに出来、不出来があるなんて思わないけど」
「いや、出来ない奴の方が多いって。現に、ボクも――」と言って陣さんは、ボックスの方を指差す。
「成瀬君もそうだ。全然向いてなかった」
「えっ?」
 俺は耳を疑う。
「成瀬君は猫ちゃんやりたくてこの店に来たんだけどさ、結局全然向いてなくて降ろされちまった。だからじゃないのかなぁ、彼がシンジ君に強く当たるの。だって君が来る前まではあんなじゃなかったもん」
「いや、あの人はどうでもいいよ。陣さんもやってたの? なんで? どうして向いてないって言うわけ? 俺なんかよりもずっと女あしらい上手そうなのに」
「それ、ひどいなぁ!」
 陣さんは煙を吐き出しながら笑う。
「いや、まぁ、ボクの場合はちょっと向いてないとか言うのとは違うけどね。結局自分で出来ないとわかってやめちゃった」
「どうして?」
「ゲイだから」
 そう言って笑うのと同時に、店のドアが開く音がした。陣さんは素早く煙草を揉み消しながら、いつもの静かな声で、「いらっしゃい」と会釈した。

 *

 ドアノブに鍵が差し込まれる音がする。自然に、目が時計へと移る。
 深夜、三時半。もう間もなく、新聞配達のバイクの音が聞こえて来る時刻だ。
 暗がりの中、スナコは照明一つ点けずに入って来る。足音がリビングを横切って行き、そして消える。音がしなくなったのは、恐らくシャワーを浴びに行ったからなのだろう。
 それから十分も過ぎた頃、スナコはまた足音を忍ばせて寝室へとやって来る。外から差し込む外灯の光がぼんやりと、スナコの裸体を照らし出している。
「お疲れ」
 言うとスナコは、「まだ起きてたんだ」と聞く。
「眠れなくてさ」
「それじゃあ早く上がらせた意味ないじゃん」
 ベッドへと登って来るスナコの身体を抱き締めながら、「いいじゃん、別に」と、俺は返す。
「……なんかあったの?」
 聞かれて俺は、「いや、別に」と誤魔化す。
「なんかあったね? どうしたの?」
「何もないって」
 言いながら唇を塞ぐが、スナコは尚も、「話しなさい」と食い下がる。
「何でも……」
「何でもないじゃなく、ちゃんと話して」
「んー」
 少し考えた挙句、「色々あり過ぎて、何聞いていいのか良くわからねぇんだよ」と、そう答えた。
「なによそれ。じゃあ片っ端から聞きなさいよ」
「じゃあ、スナコの本名」
「パス」
「スナコの年齢」
「秘密」
「スナコが今まで付き合って来た男の数」
「うるさい、もう寝ろ」
「なんだそれ、全然答える気ねぇじゃん」
「あんたこそ、聞く気全くないでしょう?」
「じゃあ……」俺は暗闇の中、スナコの目を見る。「篠宮宍道(シノミヤシンジ)って、誰?」
 一呼吸置いてから、スナコは言った。
「――あんたの名前」
「そうじゃねぇだろ」
「どっかの誰かじゃない?」スナコは俺に背を向け、横になる。「どこかにいた誰か。きっとあんたと同じぐらいの歳の、ね」
「そいつは今どうしてんだ?」
 聞けば今度は答えない。俺は小さく舌打ちをしてから、スナコと同じように背を向けて、横になった。
 丸まりながら、背を付ける。お互いの背骨と背骨が軽く重なりあうようにして、そして眠る。
 いつもと同じ眠り方。お互いに干渉せず、お互いにちょっとだけ存在を確かめ合い、そして安心しながら眠る。いつもと同じ、明け方近くのそんな夜。
「シンジ、ちゃんと学校行きなよ」
 ささやくような、スナコの声が聞こえた。
 結局俺は、返事をしないまま眠りに就いた。

 *

 みんみんみんみん――と、蝉の大合唱が聞こえる中、俺は両手を制服のスラックスの中に突っ込んだまま、空を見上げて呆けていた。
 西之木高校、正門前。俺は文字通り、そこからどうやってこの中へと入って行けばいいのまわからないまま苦悩中の、十五分。
 時間から行けば、既に授業は午前の部の四時間目。遅刻どころではなく、後もう数十分もこうして苦悩していれば、今日の授業は全て終了となるだろう時間帯。
 もういいかぁ。ちゃんと前までは来たんだしな。
 思いながら踵を返し、さっき来た道を後戻りする。そうして百メートルも歩いたかなと言う辺りで、背後から聞こえて来る足音に気付く。
 タッタッタッタ――と、軽快に駆ける音。その足音は迷う事なく俺の背後までやって来て、ふと途切れたなと思った瞬間、背中側から前につんのめるような衝撃がやって来る。
「だっ……」
「おはよう、エイジ!」
 声で、それが誰だかわかった。
 振り返れば、まだらに染まった金髪の頭に、ピアスを鼻に付けた同じ制服の男がいた。西島大悟。なんの因果か、俺の小学生時代を知る同級生がそこにいた。
「なんで来た途端、帰るんだよ」
 まるで、「これから蝉取りに行かねぇ?」なんて聞いて来ているかのような、ガキの頃から全く変わらない笑顔で大悟は言う。
「お前こそ、なんでここにいるんだっつぅの。戻ってお勉強しとけよ」
「やだ。もう早退しちゃったし」
 なんて言いながら俺の横を歩き始める。
「エイジこそ、五日も学校来ないで何やってたんだよ」
「エイジ……って? あぁ、俺の事か」
「うははっ! ごめんごめん、今は“シンジ君”だったな」
「何でもいいよ」
 名前が多すぎるんで、マジでド忘れしただけだ。
「お前がなぁ……」
 ボソリとつぶやけば、「あぁ、何だって?」と、大悟は俺の顔を覗き込む。
「なんでお前がここにいるんだかなぁ。誰も来ないだろう、遠い場所に越したってのに」
「そんなの俺が言いてぇよ。この地で心機一転とか思ったら、何故かお前がやって来た」大悟は笑う。
「しかも、名前まで変わっちゃってて」
「いいじゃん」
 宍道湖の、シンジです。よろしくお願いします。俺がそう言った途端に、こいつ一人だけが教室の隅で大笑いしていた。僅か二カ月程前の話だった。
「色々あったんだろ?」
 聞かれて俺は、返事をしなかった。一応肯定のつもりだったのだが、どうやらそれは通じた様子だった。
「俺も色々あったんだよ」と、大悟はつぶやく。
 差し出された煙草を掌で断りながら、「お前、独り暮らしなのか?」と聞けば、「エイジは同棲中らしいな」と、皮肉った顔で笑う。
「俺はどうでもいいよ。大悟はどうなんだって聞いてんだよ」
「あぁ、俺も一応……女と住んでる」
 カチンと、オイルライターの金属音。大悟はさまにならない仕草で、盛大に煙草の煙を吐き出した。
「大悟、たまには実家、帰るのか?」
「あぁ……うん。ホント、たまにな」
「そうか」
「あぁ」
 聞きたい事があるのだが、どうにも切り出せずにいると、それを察したのか、大悟の方から切り出した。
「エイジん家の事か?」
「……」
「通り道だからな。ちらっと見掛けたよ。相変わらず家の窓中にべたべたと張り紙がされてたぜ。古いのから新しいのまで」
「そうか」
「誰かがいるのかどうかってのはわかんねぇ。とりあえず庭には車もなんも無かった」
 いなけりゃそれでいいや。思いながら俺は、スッカスカに軽い鞄を背負うようにして持ち上げた。
「ところでお前、学校に何しに来たん?」
 聞かれて俺はその質問の意味がわからず、「何って?」と、聞き返す。
「今、夏休みだって知ってる?」
「えっ、マジかよ! すげぇ損した」
「ついでに、補習とかあるのは知ってる?」
「別に知らなくていい」
「その補習をサボってんのはお前だけだってのも知らなくていい?」
「えっ、マジかよ!?」
 陽はまだ頭上に高く、どこかで夏祭りのお囃子の練習でもしているのか、小さく鼓笛の音が聴こえた。

 *

「シンジ、仕事」
 店に着くなり、俺はスナコにそう言われた。「へいへい」と、袖を通し掛けのシャツを逆に脱ぎ始めると、「今日は、“鳩”だからね」と、スナコは抑揚の無い声で言う。
 ピリッと、何かが走った。ふと店内を見渡せば、モップを持ったまま驚いた目付きでスナコを睨む成瀬と、その反対でサングラスのフレームに手を掛けながら目を伏せる陣さんの姿が見えた。
 なんだ、この空気? 思いながら、「鳩って何よ」と聞けば、「普段となにも変わらないよ」と、スナコ。
「ただちょっと、ね。持ってって欲しい物があるだけ」
「持ってって欲しい物? 何それ?」
「もうすぐ来るから着替えて待ってて」
「着替えるって、何に?」
「さっきまで着ていた服でいいよ。ホラ、もうすぐ来るから早く着替えて」
 やけにつっけんどんな言い方だった。来るって、誰の事だよ。思いながら俺は厨房の隅へと戻り、今しがたまで来ていた高校の制服へと着替える。どこの国の民族音楽なのか、幅の広い包丁で鶏肉をぶつ切りにしているダナイの鼻歌がやけにうるさい。
 そうして店内へと帰ると、いつの間に来ていたのだろう、店のオーナーの保志さんの姿があった。
 身体が強張る。正直、苦手な人だった。
 年の頃は四十代半ばか。恐らくは陣さんよりもずっと若い。色黒で、長い髪をまだらな金色に染め、じゃらじゃらと音がしそうな程に指輪やブレスレット等のアクセサリーをぶら下げている。
 態度はでかく、言動も動作もやけに激しい。なんだかまるで、どこかのマフィアのボスのような振る舞い方をする男だ。
 だが、それ以上に気に入らないのは――
「何言ってんだよ、スナコ。お前いつからそんな反抗的な事言うようになった?」
 言いながら、スナコの腰を抱いて煙草のけむりを吹きかけている所だった。
 俺が保志さんを嫌う理由はまさにあんな部分だ。いつもスナコを自分の所有物のように扱う、あの態度が嫌だった。
 スナコは俺が来たのを見て、素早く保志さんから離れる。そして保志さんもまた俺を見付け、「おぉ、猫ちゃんか」と、やたらと馬鹿にした感じの笑みを浮かべる。
「笑えるねぇ、ガクセーさんの恰好か。こりゃあいいや。ガッコーの制服来た“鳩”ってぇのも、なかなか洒落てんじゃねぇの」
 スナコは掌で顔を覆い、うつむく。保志さんは手で俺を招きながら、「お前、高科にある“マーズ”って言うホテルは知ってるか?」と聞いた。
 知ってる――と、言うより先に、「コウスケ、やっぱまだ彼には早いって」と、スナコは咎めた。
「さっきからやかましいぞ、スナコ」保志さんは、スナコに指を突き付け、強い口調で言う。
「お前にとっての俺って言う人間は、何なんだ? 俺はお前の男でもねぇし、対等な立場でもねぇ。わかって言ってるんだよなぁ? あぁ!?」
「――わかってるわ」
 スナコは哀しい目で言う。ざくりと、俺の身体のどこかから嫌な感じの音が聞こえた。
「お前は俺の手駒の一つ。その自覚はあるよな? そしてこいつも」と、指先が俺の方へと向く。
「お前もこいつも、俺の手駒だ。俺の指図で動くだけの、そう言う手駒だ。そんな駒が、さし手に逆らってどうする? 自分の動きたい方向に指せとか偉そうに文句タレるつもりか?」
「そうじゃないけど……」
「こいつに情が湧いてるのはわかる。所詮、男と女だ、一緒に暮らして何度もセックスしてりゃあ、当たり前のように情は湧くわな。だがそれだって、俺の指示の一環だろうが。教育者ってのは生徒の親でも兄弟でもねぇぞ。勘違いすんな、この馬鹿が」
 立ち上がり、保志さんの手が勢い良くスナコの頬を張った。バチンと、やけに派手な音を立てて、スナコはよろめき床へと転ぶ。
「スナ……」
 言い掛けて、止まった。振り向いた陣さんの鋭い視線を、そのサングラスの奥に感じたからだ。
 立ち上がるスナコの頬に、血が滲んでいた。恐らくは保志さんの嵌める指輪のせいだろう、左の頬に一筋の赤いラインが浮かんでいる。
「保志さん」
 やけに静かな声で、カウンターの向こうから陣さんが話し掛ける。
「何?」
「いや、ボクもまだちょっと、彼に“鳩”は早いかなぁと……」
「じゃあお前が行くか? 陣」保志は下品な笑みを浮かべる。
「もう一回、身体中のあちこちに竹串刺されて、半狂乱になりながら命乞いして来れば自分の立場がわかるんじゃあねぇか? なぁ?」
 結局、それ以上は陣さんも何も言わなかった。そして少しの沈黙の後、「わかってんのか、お前ら!」と、保志さんが声を張り上げる。
「ちっとはてめぇらの過去、振り返ってみろ。どいつもこいつも、俺が金積んでやったからこそ生き長らえている奴ばっかだろう? なぁ?」
 無言。成瀬ですらボックス向こうの壁に寄り掛かりながら、神妙な顔付きでうなだれている。
「大丈夫! コイツならやれる!」保志さんは両手の指を俺に向け、大声を張り上げた。
「なんとなく俺にはわかるんだ。こいつには相当な強運があるってな。ホレ、なんとなく似てるじゃねぇか、瀧本のヤツによ。アイツも、自分がどんな事してんのか自覚も無さそうな顔しながら“鳩”やってただろ? 大体、こう言う野郎が上手く仕事をやってのけるんだ。いい意味、バカっつぅか、考えなしっつぅか――なぁ?」
 保志さんは笑う。それのどこがいい意味なんだか良くわからなかったが。
「それにホレ、こいつだろう? 前いた学校で同級生を八人も刺して問題なったって言うヤツ。スナコ――お前は黙ってコイツ連れて来たけどなぁ、俺だって馬鹿じゃねぇ。ちゃんとコイツの素性は調べてあるんだよ」
 サッと、血の気が引いた気がした。――どうして知ってる? 過去の自分の繋がるものの全ては、何も持って来なかった筈なのに。
 ふと一瞬だけ、西島大悟の事を思い出す。唯一、過去の自分を知っている人間は確かに身近に存在していた。だが、果たして本当に大悟が?
「いいじゃあねぇか、頼もしい限りだ。お前にだってそれなりに金掛けてんだ、しっかり頼んだぞ、ボウヤ」
 そう言って保志さんはスーツの内側から折り畳んだ紙片を取り出し、俺の胸へと押し当てる。
「ヤる事ぁ簡単だ。夕方の四時、高科のマーズ、フロントへ行け。そしてそこで、『マリアちゃんは来てる?』って聞けばいい。そうすりゃ鍵を渡される。それ持って部屋に行って荷物を受け取り、後は向こうの指示に従え」
「誰? マリちゃんって」
「マリじゃねぇ。マリアちゃんだ。名前からは連想出来ねぇ、でっぷりと太ったクソみてぇな伝書鳩だよ。但しおめぇとは鳩の格が違う。気に入られたきゃ絶対に逆らうな。なにしろ二十年も鳩やって生き延びて来たバケモンだ。従順にしとけば、鳩のコツなんかを教えてくれるかも知れねぇぜ」
 保志さんは、俺が受け取らないのに腹を立てたか、紙片を乱暴に折り畳むと俺のシャツの胸ポケットへと押し込んだ。
「なぁに、ただの“おつかい”だ。荷物を受け取って、どこかへと運ぶだけ。――但し」
「但し?」 ――なんだよ?
「まぁ……気にすんな。なんかあったらテメェの器量で切り抜けろ」
「他には何か、アドバイス無ぇの?」
「無ぇな。ぶっちゃけ俺にもそれがどんな荷物で、どんな手順で運ばれるかなんて聞かされてねぇ。どのみち詳しい事は全部マリアが話すだろう。とにかくその紙っ切れ持って行って来い。もしもその紙っ切れ、誰かに取られそうになったら、丸めて飲み込め」
「飲み込めば助かるのかよ」
「いや」保志さんは笑う。
「腹ぁ裂かれるまでには消化されてんだろってぇ話だ」
「痛そうだな、それ」
「胃薬でも飲んで治せよ。――あぁ、後、それからな」
「何?」
 言うが早いか、保志さんの拳が俺の腹にめり込んだ。一瞬で肺の中の酸素が蒸発したかのような、強烈なボディブローだった。
「お前、次に逢うまでに言葉の使い方勉強して来い。これから仕事じゃなかったら、今頃お前の顔面、ザクロになってたぞ」
 床に突っ伏し、逆流した胃液を鼻と口から吐き出しながら、俺は懸命に息をする。吐くと言う行為と呼吸を身体が同時に欲し、俺はパニックになる。
「いいか、コゾー。とにかく時間には遅れるな。ドタキャンなんてのはもっての他だ。仕事自体はえらく簡単で単純だが、内容はお前が思っている以上にシビアだからな。時間にルーズってだけで、身体のどっかのパーツが無くなる覚悟でいろよ」
 涙と鼻水が止まらないまま、保志さんが店から出て行ったのだろうドアの音を聞く。近寄り、背中をさするのはスナコだろうか。陣さんもまた、「立てるかい?」と、俺の顔に濡れたタオルをかぶせてくれる。
「しっかりしなよ、シンジ。四時って言ったらそろそろ支度して出なきゃいけない。苦しがってる場合じゃないよ」
 ちくしょう、優しさの欠片も無い言葉だな。思いながら俺は無理に身を起こし、シャツの袖で口を拭く。
「とにかく着替えておいで。今、車出して来るから。駅までしか送れないけど」
 見ればスナコもまた赤く染まったハンカチを頬に当て、急いで店を出て行く所だった。
 全く、なんてぇ仕事なんだよ、その“鳩”ってのは。陣さんの手を借りながら立ち上がり、よろける足取りで裏口へと廻る。そろそろ佳境に入った所なのだろうか、やけにうるさいダナイの鼻歌を振り切るようにして、外へと抜け出る。
 軽くシャワーを浴び、ジーンズパンツに黒のシャツを素肌の上に着込む。少しだけ迷ったが、念の為にと引き出しを開け、小ぶりのナイフ二振りを取り出す。リバース・エッジ・ナイフ。掌で握ればすっかり隠れてしまう程の小さなナイフだが、殺傷目的のみで開発された刃物である為、護身用としてこれ以上のものはない。
 俺はそのナイフをジーンズパンツのポケットの両側へと突っ込む。手を入れればいつでも引き抜けるように位置を調節し、支度を終える。
 果たして、そこまで危険を伴うような仕事なのだろうか。ただ、皆が大袈裟なだけではないのだろうか。思った辺りで玄関のドアが開く音が聞こえた。当然スナコだろうと思っていたが、振り向けば意外にもそれは陣さんだった。しかも珍しく真剣な表情で、陣さんは俺を見ていた。
「どうしたの?」
 聞けば陣さんは重い口調で、「これを持って行きなよ」と、厚紙に包まれた長細い物を俺に手渡す。
「何、これ」
「ボクの自作品」
 そう言って広げた中身は、それが一体どんなもので、何に使うのかが全く想像出来ないような代物だった。
「わけわかんねぇ」
「わかんなくてもいいから聞いて」
 陣はさんは俺の手を掴み、そのわけのわからない物をあてがった。
「これを扱うにはちょっとだけコツが要る。今からそれを説明するから良く聞いて」
 言いながら陣さんは、それをどんどん、俺の腕に装着して行った。

 *

 ホテルへと着いたのは、もう間もなく午後の四時になろうと言う所。とりあえずギリギリ間に合ったなと思いながら、フロントへと向かう。
 小さな窓に向かって、「マリアちゃんいる?」と聞けば、その窓からやさぐれた感じの男の目が覗いた。
「……お前か? 新人の鳩ってぇのは」
 聞かれて俺は、「そうだけど」と返せば、相手は笑ったのだろうか、「ふん」と一つだけ鼻を鳴らし、鍵を放るようにして渡して来た。
「次回からは気を付けろ。合言葉がちょっとだけ違ってたぞ」
「合言葉?」
 そんなんあったっけ? 悩んでいると、窓からにゅっと腕が飛び出し、「エレベーターは向こう。早く行けよ」と、男は言った。
 部屋のナンバーは、“二0五号室”だった。暗い廊下を行ったどん詰まりにある、一番端の部屋だった。鍵を開けると、申し訳程度な玄関部分にベージュのパンプスが揃えて置いてあり、必然的に中にいるのが女だとわかる。
 俺は壁をノックしながら、「失礼」と、中に入れば、これまた靴とお揃いのベージュのワンピースに身を包んだ巨大な女が、こちらに手を向け、ベッドに腰掛け怖い顔で俺を睨んでいるのが見えた。
 確かに、「マリアちゃん」と呼ぶには激しく抵抗がある、煮込んで崩れた肉料理のような容姿の女だった。
「間に合ったかな? あぁ、今ちょうど四時か。ギリギリセーフって所か」
 俺は両手を広げて笑って見せる。そうしてようやく、目に入る。その女が握った小型拳銃の銃口だ。しかもそれは俺の眉間ではなく、太腿の辺りを狙っている。――すぐに感じた。あぁ、コイツは撃ち慣れてるなと。
「そっちのソファーに座れ。両手は頭の上だ」
 俺は銃口から目を離さず、その指示通りに行動した。相当な安普請なのだろう、座るソファーはやけに固くて座りにくかった。
「お前は誰だ?」
 問われて俺は、「名前を聞いてる?」と、聞き返す。
「ふざけて会話する余裕は無いよ。次にはぐらかしたら本気で撃つ」
 はぐらかした訳じゃないんだがなぁ。思いながら俺は、「篠宮宍道」と名乗りながら、「確かそんな名前だったよなぁ?」と、心の中で付け加える。
「どこから来た?」
「赤目川」
 言うとマリアはひどく不細工な顔をさらに歪め、ちっと舌打ちした。
「馬鹿なのか、お前は。雇い主の名前を言え」
「あぁ……えぇと」そういやフルネームまでは知らねぇな。
「保志って奴だよ。Night Flightって名前のバーのオーナーだ」
「証拠は?」
「え……証拠?」
「なんか持って来てんだろ? 割符も見せずに入って来てんだ、お前本気で撃たれてもおかしくない状況なの理解してるな?」
「割符? 割符ってなんだよ? 俺はそんなの何も受け取ってねぇぞ」
「――なら死ね」
 肉塊の女は立ち上がる。あぁ、こりゃ本気だな。思った所で思い出す。
「あ、ちょっと待ってくれ」
「……何を?」
「渡されたものは、ある。但しそれがあんたの言う割符かどうかは知らねぇけど」
 俺はそっと、撃たれないように気を使いながらシャツのポケットから折り畳んだ紙片を取り出す。
「寄越せ」
「そっち行っていいのか?」
「投げて寄越せばいいだろう」
 言われた通りに、紙片を投げる。まるで手裏剣でも投げるかのような恰好で。そしてそれは上手く、マリアの横のベッドの上へと落ちた。
 マリアは俺から全く目を離さずそれに手を伸ばし、手を振りながら紙を広げる。
 そうしてその内容に目を通すと、ふんと鼻を鳴らし、銃口を下げた。
 あぁ、なんか撃たれずに済みそうだな。思った所で罵声が飛んで来た。
「この馬鹿タレ!」
「えっ、何?」
「何、じゃねぇよ」マリアは広げた紙をこっちに向ける。
「お前、ここに来るまでこの紙、一度も広げなかったね?」
「あぁ」俺は返す。
「だって、運ぶ荷物は見ちゃいけないんだろう?」
「本気で馬鹿なのか、お前は! 割符ってのはこいつの事だ。道理で合言葉も間違える筈だ」
 言いながらマリアは今度こそ、銃をしまった。どこにどうやってしまっているのだろうか、ワンピースの背中側、腰の辺りにそれを押し込んだ。
「俺、何も説明されてねぇんだけど」
「そんなの見りゃわかるよ。相変わらず保志の馬鹿ガキは仕事が下手だね。だから現場をロクに知らない交渉人は駄目だって言うんだよ」
 マリアは近くに置いてある椅子を引っ張ると、「こっち来い」とでも言うような仕草で、椅子の背を叩いた。
 俺は女の指示通り、その椅子まで歩いて行ってそこに座ると、マリアはやけに可笑しそうに腹を揺する。
「――何だよ?」
「あんた、相当の馬鹿か大物だねぇ。これだけ無防備にあたしに近付くヤツなんざぁ、久し振りだよ」
「今のは何か、危なかったのか?」
 聞けばマリアは今度こそ、声を上げて笑った。
「いいねぇ。噂に聞く、そのまんまな“猫ちゃん”だねぇ。気に行ったよ」
 そう言ってマリアはバッグの中から折り畳んだ紙片を取り出し、広げて見せた。
「ホラ、同じだろう?」
 並んだ紙片は、同じ手書きの文字で一字一句までもが全て同様だった。
 なるほど、だから“割符”か。本来の意味とは少々違うが、関係者であると言う証拠にはなる。その紙片に書かれる合言葉を眺めながら、俺は納得した。
「保志はあんたに、これを見るなとでも言ったのかい?」
「いや、言ってない。むしろ見ろとも言われてなかった」
「だから見なかったって? ……いいねぇ、あんた。実に鳩向きだ」
 そう言ってマリアは煙草を取り出すと、高級そうな金属製のライターを俺に手渡す。
 要は、俺に点けろと言う意味なのだろう。俺は渋々とそれに従い、炎のまわりを手で囲う。
 マリアは天井に向けて煙を吐き出しながら、しばらく何かを考えている様子だった。そうしてしばらくして後、「うん」と、頷く。
「やっぱりあんたに運ばせるか。最初は新米の鳩だって言うから試験のつもりで呼んだんだけどね」
「試験? なにそれ?」
「いいからあんた、向こうで風呂にでも入って来な。のんびりゆっくり一時間ぐらい」
「……何で?」
「こっちは支度に忙しいんだよ」
 言われた通りに俺は洗面所の前で服を脱ぎ出す。大きな姿見から背後を覗けば、マリアは煙草を片手に備え付けの電話でどこかの誰かと話をしている。聞くともなしに耳を傾ければ、「まとめて全部持って来な」とか、「賭けだよ、賭け」などと、妙にキナ臭い単語を連発している。
 ふと、マリアが振り向く。同時に、「さっさと中入りな!」と、俺の顔を見て怒鳴り飛ばす。
「失礼」
 俺は上手にタオルで裸体を隠したまま、言われた通りに浴室へと滑り込んだ。
 照明も点けずに、窓からの明かりばかりの薄暗がりの中、空っぽのままのバスタブに横たわる。コックをひねると、ちょっとぬるいぐらいの湯が勢いよく流れ出す。俺はその湯のしぶきを浴びながら、ぼんやりと天井を見上げた。
 次第に溜まって行く湯に浸かりながら、水音に掻き消されながらも聞こえて来る外の音に神経を尖らす。どうやら後から数人、部屋に入って来たらしい。野太い男の声がマリアの声の中に混じっていた。
 一体何をさせるつもりだ? 意外とこれはヤバい状況なのか?
 なんて、窓から斜めに横切る陽の光を眺めながらそんな事を思っていると、突然に浴室のドアが開く。俺は急いで右手を浴槽の中へと隠し、思いっきり面倒な顔を作ってそちらへと顔を向ける。部屋の外に、いかにもな感じの、サングラスをかけたスーツの男が立っているのが見えた。
「おい、マリア。……こりゃなんだ?」
 なんて声に続いて、「見りゃわかるだろう。新人の“鳩”だ」と、マリア。
「見てもわかんねぇよ。こりゃあガキだ」
「ガキでも鳩だよ。いいからそこ閉めな」
 渋そうな顔で見る男に対し、俺はこめかみに左手の指を当ててふざけた挨拶をする。男は、「ちっ」と派手な舌打ちをして、乱暴にドアを閉めた。
 まぁ――いいか。俺は思いながら、狭いバスタブの中に手足を沈める。そしてそのまま頭も沈め、水面にかろうじて顔だけが出るような形で湯に浸かる。
 いつもの、“不思議な空間”がそこにあった。
 耳まで沈み、自分の呼吸と心音以外の何も聞こえて来ない静寂の中、昼の陽の射す暗い空間で独りきり。俺が大好きな、不思議で奇妙な孤独の世界だ。
 目を瞑る。そして俺は、完全な孤独へと入り込む。次第に心が落ち着きを取り戻し始め、やがて意識さえもどこか異空間のような場所へとトリップして行く。
 随分――長く生きたな。
 まだ生まれて十六年にも満たない俺だが、なんかもう充分に長生きして来たような気がする。
 そろそろもういいか。特にこの先の未来に希望はないし、今よりも良くなる見通しもない。ただ単に、偶然性の高い幸運が続いて生きてこれただけだ。いつかはその幸運も尽きるだろうし、その覚悟だってもう充分に出来ている。なんて思っていると、突然にその孤独の世界が大きく揺らいだ。
「てめぇ、何やってんだよ」
 目を開く。その向こうに、俺を見降ろしているスーツ姿の男がいた。
「何?」
「何じゃねぇよ。来いって言ってんだよ、このクソガキが」
 再び衝撃が走る。どうやら先程の揺れも、この男が浴槽を蹴飛ばしたせいだったらしい。俺はわざとのんびり、「わかったわかった」と、身を起こす。そして左手で濡れた髪をかき上げながら、男の方へと向けて飛沫をはねさせる。
「この……」
 男がしゃがんだその時だった。右手の薬指にはまったリングを、手首のスナップで思いきり引っ張る。同時に水中で、シュッと言う音がして、右手全体に激しい振動が伝わって来た。
 別に刺さってもいいかと言う気持ちだった。しかし残念ながらその“得物”は、男の顎の先辺りで止まったままだった。
 サングラス越しに男の目を覗き込む。それは既に見慣れた、困惑と恐怖の顔そのものだった。俺は男を挑発するかのように、努めて無表情のまま、首をかしげて見せた。もちろん得物は未だ男の顎の先にあり、それを柔らかな喉元に押し込む事には迷いもない。
「へぇ。やっぱり噂で聞いてただけあるねぇ」
 いつの間に来たのだろう、浴室の外でマリアが咥え煙草のままで面白そうに眺めていた。
「ねぇあんた、名前なんてぇんだっけ?」
 聞かれて俺は、「篠宮――」と言い掛け、「本当の名前だよ」と、それを遮られる。
「……覚えてねぇ」
「ウソつくんじゃないよ」
「言いたくねぇ」
「それならいいよ」
 言ってマリアは浴室のタイルの上に煙草を投げ捨てる。
「あんた、そんなに簡単に道具出して見せるもんじゃないよ。出したら最後、刺すか刺されるか。そのどっちでもなくても、怨恨は残るもんだよ」
「でも――」俺は男の足元を見る。
「先に得物を取り出そうとしたのはこいつの方が先だ。これは立派な正当防衛なんじゃないのか?」
 スッと、男の目が細くなるのを、俺は見逃さなかった。
 男は自分の靴に伸ばした手を引っ込める。そして俺もまた、右手首の先から飛び出した鉄製のピックを、鞘の部分に押し込んだ。

「何であいつが道具を持ってるって気が付いた?」
 再び、二人きりになった部屋の中で、マリアは聞いた。俺はまだ、裸体にガウンのままの恰好だった。
 俺は一つ大きく、ふんと鼻を鳴らしてから、「あれでわからない方が変だろ」と答えた。
「オハジキ持ってるんなら、あそこでしゃがむ必要性は全くない。もしも手ぶらだったとしても変だ。寝そべっている俺相手に真上から牽制するってぇんならわかるが、どうしてわざわざ反撃されるような低い位置になったりする?」
「ふふ……それだけかい?」
「いや、まだある。どうしてあいつだけがこの部屋の中で靴を履いたまんまだったのかって事だ。――大概、不自然過ぎる。あいつは何やらせても三流程度なんだろう?」
 言うとマリアは盛大に腹の肉を揺らしながら笑った。そうしてひとしきり笑った後、「いいねぇ」と、バッグの中から折り畳んだ紙片を取り出す。
「また割符か?」
「いや、今度は違う」マリアはそれを広げて見せた。
「荷物を運ぶ場所さ。あんたはたた、渡された荷物をここに持って行くだけ。簡単さぁね。運べば終わりだよ」
「加来舘町か。近いな」
 俺は紙片を受け取った。
「簡単だろう?」
「あぁ、簡単過ぎる」
 言って、俺はその紙片を手首のバンドの間に挟み込んだ。
「運ぶ物は?」
「これだよ」
 マリアは、いつの間にそこに持って来ていたのだろう、小ぶりのスポーツバッグを蹴飛ばして見せた。
「薬か何かか?」
「気になるかい?」
「いいや、全然。反射で聞いただけだよ」
「イモさ、イモ。甘くて美味しい、金時イモの詰め合わせさ」
 マリアは笑う。
「へぇ、イモね。そりゃあ健全でいいや」
「ウソじゃないよ。見てごらん」
 マリアは肥え太った指先でバッグのファスナーを開き、中を見せた。確かにそこに詰まっているのは、生のままのサツマイモのようだった。
「……なんの冗談なんだよ、これ」
「冗談じゃないさ」マリアは言う。
「あんたが運ぶのは、このイモ。そしてこのホテルを出る際に、女を一人同行させる」
「なるほど」俺もまた、遠慮もなしにそのバッグを素足で蹴った。
「要は、囮か。俺は偽物を運んで、本物は女の方が持つって事だな」
「物分りがいいね」
「と、言う事は――だ。一番危険な目に合うのは俺って事だな?」
「そうとも言うね」
「そうとしか言わないだろう」
 俺はマリアの前でガウンを脱げば、ひとまとめに丸めた衣服を解いて身につけ始める。
「ボウヤ、下手したら一発で終わりだよ」
「なんとなくわかるよ」
 シャツに腕を通しながら、これ高かったんだよなぁ、もしも穴開いちゃったら痛いよなぁと、のん気な事を考える。
「アドバイスとか欲しくないのかい?」
「アドバイスとか教えたいんなら、早くしてくれ」
 ふぅと、煙草の煙を吐き出して、「ひどいガキだね」と、マリアは天井を仰ぐ。
「あんた、瀧本の野郎に良く似てるよ。だからなのかね、スナコみたいなアバズレが子供拾って育ててるんだもんね。何かあるとは思ってたけど、あんたに昔の男を重ねているだけかい」
 ――瀧本? そう言えばなんか、保志も同じ名前を出していたなと思い出す。
「誰、そいつ」
「だから、スナコの昔の男だよ」
「そいつ、どこ行ったの?」
「知らないねぇ」マリアは言う。
「まぁ、おおかたどっかでとっ掴まって、酷い拷問受けながら衰弱死とかしてんだろう。鳩の行く末なんか、みんなそんなもんだ」
「……」
「覚悟はしときな。多分もう、まともに死ぬ事ぁ出来ないからさ」
「あんたも……」と、俺はマリアを見る。
「あんたも鳩が長いって話だが、今までそんな目には合って来なかったのかい?」
「もちろんあったさ」マリアは笑う。
「何度殺されかけたかわかんないよ。それこそまだあたしが若くて綺麗だった頃なんて、組の連中に何カ月も監禁されて輪姦されたもんさ」
「そりゃあ激しいな。俺も、朝な夕なに可愛いおねーちゃん軍団達からまわされてぇもんだ」
「口減らずなガキだねぇ」
 言いながらマリアは素早い動きで銃を引き抜き、俺へと向けた。
「怒ったのか?」
「あぁ、腹が立つね」
 と、銃をくるりと回せばグリップの方を俺へと向けてそれを手渡す。
「……何?」
「持って行きな。そんなオモチャみたいな得物だけで身を守ろうたって無理だろうに」
「そうか」
 俺はそれを受け取る。小型だが、重い。安心の持てる重さだ。
「ありがてぇ」
「礼は言えるのかい」
 マリアは素直な笑顔で俺を見た。確かに、昔はそれなりに綺麗な女だったんだろうなと感じさせる、そんな笑顔だった。
 部屋のドアがノックされる。マリアは、「来たね」と、立ち上がる。
「誰が?」
 聞けばマリアは、「あんたの相棒だよ」と、素っ気ない返事をする。
「とりあえず、加来舘までは一緒に行きな。その後は適当に別れて、あんたは目的の場所に向かう。――いいね?」
「いいけど」
「いいけど、何だよ?」
「一つ教えてくれないか?」
「だから何だよ」
 俺はそっと右手で自らの左肩をつかみ、肩甲骨の辺りを指で弾く。
「ここ。この辺りに、タトゥー入ってなかったか? その、瀧本って奴」
 聞けばマリアはしばらく黙ったままで俺を見て、それから静かに、「無かったね」と、答えた。
「あったら、どうなんだい?」
「いや、別に」
 俺はサツマイモの詰まったバッグを持ち上げる。小さなバッグだが、意外に重い。
「あんた、まさか本当にスナコに情を持っちゃった訳じゃあるまいねぇ」
 俺は答えず、黙って部屋の入り口のドアへと向かう。
「やめとけよ、ボウヤ。あの女はあんたが思っているようなやつじゃあねぇよ」
「へぇ、じゃあどんなの?」
 俺は背中でそれを聞く。マリアは少しの間を置いた後、「いや」とだけ答えた。
「余計な事言っちゃったね。頑張っておいで、ボウヤ」
 俺はドアの前で靴を履き、もらった銃は腰の後ろのベルトに挟み、そして部屋のドアを開けた。
 目の前には、小柄で線の細い、黒髪の若い女がいた。
「你好、我叫劉雪月」
 話し掛けられ、咄嗟にどう反応して良いのか判断に困った。とにかくあまりにも突然過ぎて、それが日本語ではないと言う事にすら気付けなかったのだ。
「ゴメさない。アタシ、シュエユェ。わかる? チャンと聞き取れる?」
「あ、あぁ」
 俺は頷く。それが、俺と雪月との初めての出逢いだった。





《 扬羽 - a ge ha – 了 》





【 あとがき 】
すいません。全く書き切れませんでした。めっちゃブツ切りな終わり方、御容赦です。
最初から、主人公のシンジが田舎の町を出て東京へと移るって言う辺りまで書ければいいかなぁと思っていたのですが、その欠片もないまま終わってしまいました……。
本来ならば没原稿なんですが、途中まででもいいと言う話なので、恥ずかしながら投稿。
申し訳ありません。




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