Mistery Circle

2017-07

《 強がりな男も弱さを見せる時もある 》 - 2012.07.23 Mon


 著者:黒猫ルドラ






とある元旦の事だった。
お節を食べて寝正月を決め込んで満腹の満足感の中、布団でゴロゴロしていたら親父から電話があった。
「今から、そっち行っても良いか?」
親父には、いつも良くして貰ってる。それに話も楽しいから快く承諾し、すぐさま親父の好きな黒霧をコンビニで買って、親父が来るのを待っていた。

小一時間が経ち、親父がやって来た。手にはディスカウントスーパーで買った唐揚げと詰め合わせの寿司、そのはしっこには、やっぱり想像通り、黒霧が入っていた。
(まぁ、親父の事だから買ってくるとは思ったけどね。酒なら腐らないし、あって困るモンじゃない。)
そんなん思いながら快く迎え入れた。

それにしても、いくらタクシーで来たとは言え、親父の出で立ちは作業ズボンにポロシャツ…上着は半纏だ。
母とケンカして来たみたいだから、着の身着のままで来たんだろう。
そんな事もお構い無しに、和葉と聡は大喜びでじいちゃんの訪問を喜んでいる。

不機嫌そうな親父も孫のにこやかな歓迎に顔をほころばせ、居間にあるコタツに腰を下ろした。
「おう。このコタツ、使いよるかー。」
「うん。めっちゃ助かっとーよ。このコタツ使い始めてから、寒かった居間も、なんか暖かいよー。助かるわー。」
「おう。それはわかる。」
この居間にあるコタツは親父が友人の建材屋さんから貰った古いコタツだ。
コタツが貰えると聞いて、前からコタツを欲しがってた私に直ぐ様連絡をして、持ってきてくれた物だ。
親父のお陰で毎年寒かった我が家がポカポカで過ごせる様になって、大助かりだ。
その事を親父も喜んでいる。

そうこうしていたら、昼寝していた夫の仁もやって来て、酒の席が始まった。
コンビニで買って来たクリアアサヒを勧めると、親父はこれで良いと黒霧を見せてきた。
慌ててグラスと水を用意して、大人だけ酒が飲めるのがズルいと駄々をこねる子供達に普段は飲ませないジュースを用意した。
酒を目の前にして、親父とすっかり仲が良くなっている仁も嬉しそうだ。

いつもの様に他愛ない話をしながら酒を飲んでいる男達にはお構い無く、和葉と聡も嬉しそうに親父にじゃれつく。
親父も嬉しそうに子供達とじゃれあっている。
じゃれつきながらも、目の前にある寿司と唐揚げはみるみる無くなっていった。

楽しい時間はあっという間に過ぎ、仁も子供も眠りについた頃、私は居間に親父の寝るための布団を敷き、はしっこに寄せたコタツに座り、コーヒーを飲んでいた。
賑やかだった家の中の電気は消され、部屋全体を闇が飲み込んでいた。
布団に入った親父が枕元に居る私にポツリポツリと話を始めた。
「俺はの、正月くらい、家族そろって賑やかに過ごしたかったんよ。」
人が集まって、ワイワイ飲み食いして楽しむのが好きな親父の事だから、正月に私達一家が来れないのが寂しくて母とケンカしたんだろうとは思っていた。
母は自閉症の弟の事で頭がいっぱいで、弟が子供が苦手だからと平気で盆正月に子供の居る私達一家が家に来るのを拒む人だったからだ。
だが、親父は違った。
「盆正月くらい、蕀も和葉も聡も来て、何も無いけど家族みんなで楽しくやるのは普通の事やろ?
愛も直も来とったのに、お前達だけ来れないのが歯がゆくての…。」
そう言えば、妹の愛も珍しく夫婦揃って実家に来てたと聞いたし、叔父の直は近頃は盆正月の度に顔を出している。
そうか…。
それだけ集まれば、目の前で除け者にされている私を不憫に思うのも仕方ない…。
私はもう、実家の事情を受け入れて、黙り決め込んでるんだが、本当は盆正月くらい、実家に帰ってのんびりしたいと思ってはいるが…。
「そうやろ?たまには実家に帰ってのんびりして、それが普通よ。」
親父の言い分は、すごく真っ当である。
「でも、俺はそれが出来んで歯がゆい…。もう、いつ死んでも良い…。」
「親父、だからって死なんでも…。ウチに死ぬなって言ったの親父やろ?自分が死にたいなんて言って、どーする?」
「そうやけどの…。」
言葉に詰まった。だが、私は、ある事を思い出した。
「でも、死んだら、親父の母ちゃんが悲しむんじゃない?」
「そうかのう?」
親父の母親は、親父が小学校2年の時に死んでしまったと話で聞いている。
「親父の母ちゃん、親父食わす為に一生懸命食べ物調達して、食わせてたんやろ?こんな所で死んだら悲しむよ?」
「俺のお袋は…今で言うDVを受けてたみたいでの…俺はお袋を助けたかった。でも、子供の俺には何にも出来んかった。ろくでもない親父に太刀打ち出来る力も無かった。それが悔しくての…悔しくての…。」
「子供だったんだから、仕方ないて。あんま自分を責めなさんな。」
そう言ってコーヒーのおかわりを作りに行ったら、親父の母親が食べる物にも困ってるのに、自分は差し置いて子供だけにはと、何とか食べさせていたけど、自分の食べる物まで用意出来なくて、飢え死にしてしまった話を思い出した。
コーヒーを片手に親父に言った。
「でもな、親父。今、思ったんやけど、親父の命は親父の母ちゃんが自分を犠牲にしてまで繋いだ命やない?大事にせんないかんよ。」
「そうやの…。」
布団の中で、親父はやっと納得したような顔をした。
「蕀、こっち来い。」
親父はおもむろに私に添い寝をせがんできた。
きっと心細いのだろう。
家族に恵まれない生い立ちを送っているから、親父はけっこうさみしがり屋な所もある。
まぁ、私も親になった訳で子供が可愛くていとおしい気持ちはわかる。
親孝行と思って親父の寝ている布団に入った。
「蕀、お前は俺の事、好きか?」
普段はなかなか言えないけど、この時ばかりは好きだと言った。
「突然、家に来てスマンの…。」
「良いよ。親父が来ると楽しいし。それに、親父は身寄りもないし、アル中の親父の父ちゃんの面倒も見らんないけんのに、一生懸命働いて、家族を守った。
それに、親父はいつも良い仕事するから、ウチ、そこは尊敬しとるんよ。」
「そうか。仕事は一生懸命だったからな。手抜きしても面白くない。」
そう言いながら、親父は私を抱き寄せた。
長い前髪が親父の顔にかかった。
私の前髪を撫でながら、親父は言った。
「俺のお袋も、お前みたいに髪が長くての…。」
親父は髪を寄付する為にバッサリ切って短くなった私の髪に気付いてないのは、きっと、前髪が長いからだ。
「小さい時にしか見てないから、面影しか覚えてないけど、お袋の面影を思い出す…。」
「早く死んでしもたからね…苦労して生きてきたんやもん。これから幸せにならんとね。」
「そうやの…。蕀…。お父さんとお母さんを助けてくれ…。」
親父の声は泣き入りそうなくらい、か細かった…。
助けてやりたいけど、どうすれば…そう思いながら、
「よしよし、良い子だ。」
と、頭を撫でた。
「良い子かのう?出来損ないやけどの…。」
「そんなに謙遜するんじゃないよ。お母さんは良い子と思ってるよ。」
「出来の悪い息子やけどの…。」
私の添い寝ですっかり安心した親父は、ぐずった子供が満たされて落ち着いた様に安らいでいた。
落ち着いて眠りにつく親父を見届けて、親父の布団を後にした。
親父の幸せ。それは、親父の母が親父に残して行った最後の期待であった。

朝、子供達が目を覚ました。
朝食をねだる子供を宥めながら、親父の様子を見ると、安らかな顔で眠っていた。
起こすのも悪いかな?と、静かに子供に食べ物を渡し、親父が起きるのを待っていた。
すると、親父から電話があった。
「もう帰るけのー。家まではバス一本で帰れるか?」
「途中で乗り換えせんな帰れんね。」
慌てて子供達が見送った。
家に帰り、母と仲直り出来ると良いが…
そう思いながら見送った。
母はメールでは仲直り出来る様に頑張るよ。とは言っていたが…。
障害者の居る家は一筋縄ではいかない。

いつか、親父も家族の中で幸せに過ごせる日が来ると良いな。

子供時代、現役時代と苦労して来た親父。
どうすれば幸せになれるかと言う答えはまだ、見つからない。

実は、親父と話してた夜、私の肺が痛みだした。
「乳ガンかも?」
そう言って私のアバラを見てくれた親父は、きっと、私のおっぱいを触りたかっただけに違いない。





《 強がりな男も弱さを見せる時もある 了 》





【 あとがき 】
どうも、ルドラです。
今回はテーマが死と言う事で、丁度良かったんで、親父が主人公の小説を書いてみました(笑)
創作っ言う点では、手抜きになりますね(笑)
しかし、事実は小説より奇なり。
親父を主人公にした話は、書きごたえがありました。

ちょっと今回はしんみりかな?
しかし、最後にオチを着けたんで、勘弁してください(笑)
ではでは~(*´ω`*)


黒猫ルドラ
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