Mistery Circle

2017-10

《 お母さんは、猫。 》 - 2012.07.25 Wed


 著者:黒猫ルドラ





オリオンは、まだ見えず、さそり座はすでに西に沈み、射手座もそのあとを追おうとしていた。
夕飯の支度も終え、食卓に料理を並べてると、ふと、外から猫の声がした。
「ママー!外からママの声がするよー。」
「ママやない!猫!!」
猫の鳴き真似をする蕀と本物の猫の声との区別がつかない和葉と蕀のボケとツッコミの声が、居間をにぎわせた。
「ママ、猫と声がそっくりやけねー。」
と、仁は、一足早くビールを傾けている。
「ママの声、猫やねー。」
と、聡も笑っている。

今日の夕飯は、ツナとキャベツの皿うどんである。
疲れて買い物をサボった蕀は、豚肉の代わりに、ありあわせのツナ缶を使って、皿うどんを作っていた。
空になったツナ缶を片手で見せびらかしながら、蕀は、ニャーンと鳴いてみせた。
蕀は、ツナ缶に「猫の餌かよ!」と言うツッコミを期待していたが、誰もこの迫真のボケに気づいてくれなかった。

小学校低学年の子供達に、まだ、ツッコミは早いし、大人の仁は、ツッコミキャラじゃない。
そもそも仁は、某草加学会の人である。
蕀は、仁との付き合いで草加の人と接するうちに、経験上、気づいたのであるが、草加学会の人は、みな一様にして、ボケキャラである。
沢山の人を見てきたのであるが、誰一人としてツッコミキャラが居ない。
入会が早ければ早いほど、信心が真面目になればなるほど、天然ボケになっていくのだ。
ごく稀にツッコミ出来そうな人が居たとしても、その人は入会が遅いか、腰掛け半分で信心している人である。
地区部長が、その人であるが、その人は成人してからの入会であって、入会前は知恵を使い、随分道を外れた金儲けをしていた人である。
信心を始めてから、悪い道から足を洗って、今は、全うに生きてるが、信心を始めて頭が良くなった訳ではなく、元から頭が良いのである。

ツナ缶を持ったまま、蕀は草加バンガード隊と言う、その宗教の人が集まって作られた鼓笛隊を思い出していた。
帽子を被って演奏する姿はピシッとして格好いいが、情熱大陸の演奏を始めて帽子を脱いだ途端、ピシッとして格好良かった帽子の中から、草加男子部の天然ボケそうな顔が出てくるのを思い出していた…。
(…ガッカーにツッコミは無理やな。)
蕀はボケを諦めて、ツナの空き缶をゴミ箱に捨てた。

「ママ、何しよるん?ご飯食べよう?」
聡に促されて、蕀は食卓についた。
「ママー!見てー!今日、こんなん拾ったよー!」
和葉が珍しい透明な鍵を見せてきた。
「それ、どうしたん?珍しいね。」
「学校の帰りに拾ったと。」
「どれどれ、見してみ?」
和葉から鍵を受け取った仁が、真剣な眼差しで鍵を見ていた。
「随分古い形の鍵やね。この辺りで、この手の鍵は、もう誰も住んでないノスタルジックアパートくらいかな?
しかし、何で透明なんだろ?」
「探検出来るやん!!」
「明日、一緒に行こうかー!!」
和葉と聡はノスタルジックアパートを探検する気満々である。
「うーん…まあ、空き家だし、良いか。」
「気をつけて行きーよ。」
蕀も仁も、まぁ大丈夫かと自由にさせる事にした。


「いってきまーす!!」
「いってらっしゃーい!!気をつけてねー!」
翌日、和葉と聡は、早速ノスタルジックアパートへ向かった。
ノスタルジックアパートは家からすぐ近くである。
「どの部屋の鍵かねぇ?」
「全部、開けてみよう!」
二人は二階建てアパートの一階から順に、すべての部屋の鍵穴に鍵を差し込み回していった。

どの部屋も開かない。
諦めかけながら、最後の205号室に鍵を差し込み回した時、カシャンと音をたてて鍵が開いた。
「開いた!!」
「行ってみよう!!」
入ってすぐに台所があり、奥には六畳二間が続いていた。
「ニャーン」
「ママやん!こっちや!」
和葉が声のする方のドアを開けると、そこには白い猫がいた。
「ママやないやん。」
聡は、少しはツッコミ出来るようだ。
「ニャーン」
和葉が猫に近づくと、猫は寝そべりお腹を見せた。
「可愛いねー。」
「うん。可愛いー。」
二人は探検の事などすっかり忘れて猫と戯れた。


す…
猫が前足で落ちていたヘアピンを押した。
「和葉ちゃんにくれると?」
猫は頷いた。そして今度は古びたレシートを前足で押した。
「これは聡の?」
猫は頷いた。
そして、最後に猫はビーズのついた髪ゴムを押した。
「これはママなのやね。」
猫は頷いた。
「猫ちゃん!ありがとー!また遊ぼうねー!」
「猫ちゃん、バイバーイ!」
和葉と聡はノスタルジックアパートを後にした。


「ママー!猫ちゃんにプレゼント貰ったよー!」
「和葉、あんた、また動物にプレゼント貰ったん?前にもウサギにプレゼント貰ってたよね?」
なぜ、和葉は動物から物を貰えるのか、蕀は不思議に思っていた。
「これ、ママにってー。」
「ママのなん?」
なぜ、和葉は動物の言葉がわかるのか、蕀は不思議に思っていた。
「僕、これ貰ったんよー。」
「和葉ちゃん、ヘアピンー。」
レシートとヘアピン。
レシートには何か書いてある。そしてヘアピンには、歩く人の絵が書いてあった。
「聡、レシート、何か書いてない?ちょっと見せて。」
「うん。」
「何て書いとーと?」
「砂丘の自由な起伏が見えるまでには、もっと歩かなければならない。
…何のこっちゃ?」
「何なんやろうねぇ?」
「さぁ?メモじゃない?」
「僕、これ、大事にするー。」
「和葉ちゃんもー。」
「うん。そうし。」
そろそろ夕飯の支度をしなければいけない。
蕀はホコリを被った髪ゴムを洗い、長めの髪を結んだ。


その瞬間、くらっと立ち眩みがした。
蕀にとっては、いつもの事なので、気にも止めずにいたのだが、今回は珍しくしゃがみこんでしまった。
目の前には子供の踏み台が見える。
(あー… くらっとする… 飯作らないと…。)
蕀は気合いで立ち上がろうとするが、立ち上がれない。
立とうとしても、立とうとしても、上手く立てない。それどころか頑張って立ち上がっても、目の前には台所のシンクの縁しか見えない。
仕方ないから、料理は聡に頼んで休む事にした。
「あおう。おあん、ううって。」
あれ?
「わー!猫ちゃんやー!やったー!」
和葉は大喜びである。
「ママはー?」
聡は不安げである。
「ニャーン!」
「ママの声がしたー!!」
(和葉、なぜ、猫の声をママと思うんだ?)
立ち上がれないから、這って居間に行こうとした蕀を和葉が抱き抱えた。
「可愛いー。」
「な?」
和葉に抱えられて居間に行くと、置いてある姿見に黒猫を抱えた和葉の姿が映った。
「な?ういあおあん!」
そのしっぽには、和葉に貰ったビーズ付きの髪ゴムが止めてあった。
「うい?うい、えお?」
蕀は猫になっていた。

「ママ、トイレかなぁ?」
蕀は、慌てて聡の所に行った。
「あおう!あおう!まま、おおおー!!」
「猫ちゃん、喋りよるねー。」
和葉は、蕀が居ない事を気にも止めてない。
「ママー?どこー?」
「まま、おおー!!まま、おおー!!」
「猫ちゃんが、ママここー!、ママここー!って。」
「猫ちゃん、ママ知っとるん?」
「猫ちゃんが、ママ、ここって言っとるよ。あ!猫ちゃんにママの髪ゴム付いとる!この猫ちゃん、ママなんよ!」
「猫、ママなん?」
「ママ、猫やん。」
(なぜ、ママが猫だと断定する?和葉。)
「あうあ、あおう…」
「ママ、猫になったんよ。どうする?」
「僕がご飯つくる。」
聡は冷蔵庫の中から、キャベツとウインナーを出して、野菜炒めを作り始めた。
「和葉ちゃん、お汁作るねー。」
「良いよー。」
和葉はワカメの味噌汁を作り始めた。


「にん、たわお。にん、たわお。」
「それで、和葉、ママが猫になっちゃったの?」
「うん。猫ちゃんに貰った髪ゴム付けたら、猫ちゃんになったと。」
「にん、たわお。」
「それで、和葉と聡は、これを貰ったんやね。」
「にん、たわお。」
「…それで、和葉。ママは何て言いよるん?」
「パパ、タバコって言ってる。」
「…。」

仁は、猫にタバコをくわえさせた。
火を付けると、気持ち良さそうに煙を吸い込んでいる。
やっぱり、この猫は蕀のようだ。
「…どうやったら、元に戻るんだろう。」
「明日、猫ちゃんに聞いてみよう!」
「猫に聞くったってな…。取り合えず明日、休みやし、猫の所に行ってみよう。」
「そうやね。」

「ママ、猫ちゃんなん?」
「猫になったみたいやね。」
「こーいー。」
「濃いい?」
「ママ、コーヒーって。」
「やっぱり、猫ちゃん、ママやね。」
小皿に注いだコーヒーを猫が飲んでいる。
仁は試しに猫の尻尾についた髪ゴムを外してみたが、一向に猫が蕀に戻る気配は無い。
「和葉、聡。猫に貰ったの、見してみ。」
仁は、ヘアピンとレシートを見つめ、何か手掛かりがないか考えていた。


翌日。
仁は和葉と聡を連れて、ノスタルジックアパートに向かった。蕀は和葉に抱かれている。
言われた通り、205号室に入るが、そこには白い猫は居なかった。
「猫ちゃん、居ないねぇ。」
「何か、手掛かり無いやっか?」
部屋を見渡すと、古びた入れ物が置いてあった。
「これ、パパのだよ。猫ちゃんが置いていったんよ。」
仁は、入れ物を手に取り、それが何なのか考えていた。
「これ、何の箱かねぇ?」
「あんごー。」
「ママ、これ、あんごうって言うん?」
仁は、閃いた。暗号か!もしかしたら、和葉と聡の
貰った物が暗号になっているのかもしれない。
「あんごー、やあい!!あんごー!!」
蕀は、何か違うと言いたげな感じで頻りに鳴いていた。


「砂丘の自由な起伏が見えるまでには、もっと歩かなければならない…。
砂丘ねぇ。砂浜ならあるけど、そこまでママが歩けば人間に戻るかなぁ?」
「ママ、歩いて!」
「とにかく、歩かせて行ってみよう。」
和葉は蕀を下ろすと、蕀は砂浜まで歩きだした。
海辺の町に住んでいるので、砂浜までは、すぐ近く。猫の足でもさほど苦になる距離じゃなかった。
一行は砂浜までたどり着いた。

しかし、蕀は人間には戻らなかった。
「ママ、戻らんねぇ。」
聡が不安げな顔になり、今にも泣きそうだ。
「他に、まだ、何かあるんやろか?」
仁は、レシートとヘアピンを見つめ、考えていた。
「パパ、あんごうに何が入ってるんやろう?」
箱が好きな和葉は、その入れ物に興味津々だ。
「開けてみて。何か入ってるかも?」
和葉が入れ物を開けてたが、特に変わった物は入っていない。

「ママ、人間に戻らんやん!!」
聡は、とうとう怒り出して、和葉にあたり始めた。
「くるるるるる…くるるるるる…」
蕀は、一生懸命、聡を宥めようとしたが、一向に収まる気配が無い。
「やーめーてー!!」
叩かれる和葉は、聡に一生懸命抵抗している。
「聡、やめちゃり!」
聡は、止めようとした仁の手を払った。
その拍子に仁の手に持っていたヘアピンが落ちて、砂浜に突き刺さった。
その時、蕀が一瞬、目眩を起こした。

「あー… 目眩する…。聡、やめちゃり。」
「だって、ママが猫やもん!!」
聡は蕀に抱きついて、泣き始めた。
「よしよし。ママ、猫でもそばに居るけね。大丈夫よ。」

「ママ、なんで裸なん?」
「え?」
蕀は人間の姿に戻っていた。もちろん、全裸である。
仁は慌てて、羽織っていたシャツトレを蕀に羽織らせた。
「なんで急に戻ったんやろ?」
仁は首を傾げた。
蕀は、落としたヘアピンを拾いながら、呟いた。
「そう言えば、これ、人の絵が描いとるよね。この人が砂丘を歩けば良いんじゃない?」
「あぁ、なるほど!さすが蕀。頭良い!!」
蕀は、別にこれといって頭が良い訳では無いが、仁は蕀の事を頭の良い人と思い込んでる。

「さて、帰ろっか。服も着らんないけんし。」
「良かったー。ママが人間に戻ってー。」
「パパ、あんごう貰って良い?」
「良いよー。」
「仁、和葉。それ、あんごうやない。飯盒。」
「あんごうやないと?何に使うやつ?」
「キャンプの時、ご飯炊くヤツよ。」
四人は談笑しながら家路についた。
途中、見回りのお巡りさんに職質されそうになったが、
このシャツはワンピースだ。海でサンダルを無くした。と、言い張り乗り切ったとか言わない。





《 お母さんは、猫。 了 》





【 あとがき 】
桃砂さん、書きやすいお題を、ありがとうございます。
お陰で話が膨らんで、思わぬ構想が出てきました。

それと、前回のお題、実用書からだったので、書きにくかったことを、お詫び申し上げます。
…タイピング疲れたので、ここいらへんでwww



黒猫ルドラ
mixiアカウント
 http://mixi.jp/show_friend.pl?id=11676366


● COMMENT ●

黒猫ルドラさま、

こんにちは。勝手な感想です!おもしろかったです!鮮やかにMCに登場したときからファンです。毎回ルドラさん(名前省略失礼します)の書かれる小説はシンプルで目が離せなくなる流れと活きの良い言葉の飛び交い方があり、なのに登場人物は少し寂しそうでとても惹きこまれます。今回、お話の中に具体的な宗教の名前がありましたが誰ひとり傷つけない描き方に感心することしきりでした。手法と言って良いのか…ご迷惑だったらごめんなさい。具体的な名称を取り入れての描き方はルドラさん独特の自由さだなと思います。これからもたくさん読ませて欲しい。あの、好きです。読ませていただき、どうもありがとうございました。

黒猫ルドラさん、こんばんわ。拙いながらも感想を書かせていただきました。
今回もおもしろいお話でした! 子どもたちのほのぼのとした日常会話が印象的な作品でしたね。猫ちゃんとの会話もそうですが、お母さんが猫になってしまったのにすんなりと受け入れてごはんを作り始めたり、お母さんもお母さんで猫の姿でタバコをほしがったり、なんとのんきな! と思わず笑ってしまいました。でももし自分がお母さんと同じ立場になったら「猫になった!……まあいっか」とゴロゴロすると思うので、ある意味リアルな反応なのかもと思ってしまったり(笑)
次回作も楽しみにしております。
読ませていただき、ありがとうございました!


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック:

http://misterycirclenovels.blog.fc2.com/tb.php/446-6288d301
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

《 涅槃の子 》 «  | BLOG TOP |  » 《 ちぎれた蜘蛛糸を抱いて 》

プロフィール

MC運営委員会

Author:MC運営委員会
このブログの八割は、カボチャで構成されております。

カテゴリ

Mistery Circle(メインカテゴリ) (40)
寸評 (30)
MCルール説明 (1)
お知らせ (36)
参加受付 (24)
出題 (35)
メールフォーム (3)
内藤クンのおもちゃの部屋 (9)
天野さんの秘密の部屋 (8)
Ms.伍長の黙示録の部屋 (0)
伊闇かなでの開かずの部屋 (4)
未分類 (28)
亞季 (2)
いつき (1)
伊闇かなで (3)
空蝉八尋 (4)
黒猫ルドラ (13)
ココット固いの助 (22)
桜井 (1)
桜朔夜 (1)
鎖衝 (11)
知 (21)
しどー (13)
瞬 (3)
白乙 (12)
すぅ (13)
すずはらなずな (30)
田川ミメイ (2)
辻マリ (14)
夏海 (3)
七穂 (1)
氷桜夕雅 (32)
ひとみん (4)
松永夏馬 (12)
望月 (8)
幸坂かゆり (21)
李九龍 (13)
りん (3)
ろく (1)
Clown (12)
MOJO (1)
pink sand (9)
rudo (8)
×丸 (4)
MC参加者に聞け (7)
Mistery Circle ヒストリー (2)

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

検索フォーム