Mistery Circle

2017-07

《 あいくるしい/エヴリデイドリーム 》 - 2012.07.27 Fri

《 あいくるしい/エヴリデイドリーム 》

 著者:知








『――私を見て! 私はここにいる!』
 私はずっとそう心の中で叫んでいた。物心ついたときからずっと。
 私は大きな【力】を持っていた。
 幼い頃の私はその自覚がなくて周りの皆を徒に傷つけ誰も私に近づかなくなった。
 大人は私の【力】を褒めてくれた。嬉しかった幸せだった……私ではなく私の【力】しか見ていないことに気づくまでは。
 そう周りの人は皆、私ではなく私の【力】を見ていた。
 気が狂いそうだった……その言葉は正しくないのかもしれない。私が気が狂っていると自覚したときはもう手遅れだったのだから。
 そんな事に気がつかなかった小さい頃の私は【力】を私の中に封印することに決めた。
 封印すれば誰も傷つけることはないから。そんな幼い考えで。
【力】のおかげでどのような折檻されても私の体はすぐに治るから。
 これ以上心が傷つかないように心を空にして……動けなくなるほどに折檻されては治る、それを繰り返していた。
 それが私が完全に狂ってしまう引き金だったということ気づかずに。

「どうしたんだ? ぼうとして」
 前を歩いていた●●君が足をとめた私を心配してそう声をかけてきた。
「ううん、何もないよ……ただ」
「ただ?」
「幸せだなって」
 そう私は幸せだった。
 ●●君の背中を見ながら歩いているのが。
 皆の背中を見ながら歩いているのが。
 こんな私を受け入れてくれる仲間がいることが。
 それだけで幸せだった。

 私は人をあいしていた。
 それが"そう決められていた"からだとしても、私は人をあいしていた。
 そのあいに変化が現れたのはいつからだったのだろう。
 その変化を自覚していたのはいつだったのだろう。

 私は●●君を好きになった。
 私は仲間の皆を好きになった。
 人に平等に向けられていた私のあいは限られた数名の仲間に強く向けられるようになっていた。
 その事を自覚したのは、
 私の意識がないときが、
 その事を知るまでは眠っていると思っていた……内容は覚えていないけれど幸せに包まれていたそのときが、
 私が狂って暴れているときである、
 ということに気づいたときだった。

「ねぇ、●●君は幸せ?」
 思わずそんな事を聞いてしまった。
「ああ、幸せだ。今も……勿論、昔もな」
 いつの間にか●●君の周りに集まっていた他の仲間も●●君の言葉に肯いた。
「ねぇ、どうして私は皆を好きになったのかな? どうして私は人をあいしてしまうのかな? どうして私のあいはこんなに血塗られた形なのかな?」
 皆の優しい眼差しに思わず言葉が出てしまう。
「……どうして、皆を、恋愛し(殺さ)なきゃならなかったのかな?」
 どうして私は人の心を持っているのだろう……いつの間にか私の目からはもう枯れ果てたと思っていた涙が流れていた。
「ごめん、それに対する答えは俺たちは持ち合わせてないよ」
 優しい言葉をかけるのは今後のためにならないだろうから、と前置きして●●君は言った。
「でも、これだけは言える。俺は……俺たちは幸せだった。そして、今も幸せだよ」
「……そっか……」
「ああ。さぁ、行こう。いくら時が経とうとも、記憶が磨耗しようとも、俺たちはここで見守っているから」



「……今のは……」
 彼女が封印されている結界に触れた途端、様々な情報が頭の中に流れた。
「先輩……今のは彼女の見ている夢……なのでしょうか?」
 後輩も同じ物を見たのだろう。
 あれが彼女の過去なんだろうか。あれが彼女の見ている夢なのだろうか。
 だとしたら……私たちが今からしようとしていることにためらいを覚えてしまう。
 かつて人類の半分以上を滅ぼした彼女。その心は化け物ではなく普通の少女だった。
「……先輩」
「ええ、分かっているわ」
 私たちが彼女の封印を解かなくても後に封印を解く者が現れる、それは火を見るよりも明らかなのだ。
 その者が邪な考えを持っていないならいいけれど、そうとは限らない。
『英雄』になろうとする者の中にはチンピラ紛いの者も少なくない。
 まともに見えても他人の力を使い『英雄』になろうとする者なんて腹に一物あるものだ。
「ええ、大丈夫よ。進めましょう」
 悲しげに私を見つめている後輩に気づきそう声をかけた。
 封印を解いたとしても狂った彼女をかの英雄達のように使役できるとは限らない。
 そのための準備はしてきた。術式も完全に再現した。
 迷ってはいけないのだ。
 狂った彼女を何の制御もできないまま解き放つことは人類の滅亡を意味する。
 人が好きでどうしようもなくて。それゆえに苦しんできた彼女。
『あいくるしい』
 封印を解くための合い言葉(勿論、この合言葉だけで封印が解けるような柔な封印ではない)
『愛くるしい』ゆえに『I 狂し』くなり『哀 苦し』くなる。
 何故このような言葉を、と思っていたけれど、この六文字の言葉は彼女を上手く表している。


「……解けた」
 彼女にかかっていた封印は全て解いた。
 後輩と目配せをし彼女と十分に距離をとり身構える。
 封印を解いたらすぐに使役するための術式の準備に入る予定だったのだけれどそれはやめることにした。
 その準備には少し時間がかかり後輩が彼女の足止めをしている間に私が準備する、その予定だった。
 でも、それではいけない。そう感じた。
 彼女が狂って暴れるなら二人で身を挺して止める。
 その覚悟をもって虚ろな目でこちらを見る彼女の視線を正面から受け止めた。
「……うふ♥」
 そんな私たちを見て彼女がそう笑った瞬間
「……っ」
 彼女から言葉を発するどころか息をするのも苦しくなるほどの凄まじい殺気が溢れ出した。
 完全に不意を食らってしまった。
 歴戦の勇士でもこの殺気の中では完全に力を発揮することは叶わない、そう思わせるほどの殺気だった。

「……先輩っ」
「ありがとう、助かったわ」
 何という速さ……片時も目を離さなかったはずなのに数メートル離れていたのを詰めて私の背後に回って攻撃を仕掛けてきた。
 後輩がいなかったら私は彼女の攻撃をまともに食らってしまっていた。
 彼女は私がいつの間にか後輩の隣にいることが不思議だったのか小首をかしげ
「……うふ、うふふふ♥」
 と、楽しそうに笑い、今度は私たちの方に向かいゆっくりと歩き始めた。
「何回まで通じそう?」
「……後一回通じればいい方ですね。おそらく先程も私を見ていなかったから通じただけ」
「そう」
 種も仕掛けもあるからそれを見破られたら通用しない。だとしたら後輩と離れて彼女と戦うのは得策ではない。
 後輩と背中合わせになりゆっくり歩きこちらに向かってくる彼女を待ち受ける。
 背後を取られてはどうしようもない。苦肉の策ではあるけれど……
「……消えた!?」
 ゆっくりとこちらに向かい歩いていた彼女の姿が突如と消えた。
 どこから仕掛けてくる……気配で彼女を探そうにも殺気が溢れているので探しようがない。
「……上!」
 後輩の叫びに反応し上からの彼女の攻撃をギリギリのところでかわす。
 威力は私が先程まで立っていた場所の地面に大きな穴が開いていることで窺い知れるだろう。
 掠っただけでも一発アウトだ。
 でも、これで上手く挟み撃ちの形になった。
「……先輩!」
「ええ」
 危険な空気を察したのか彼女が逃げようとするが……遅い!
「……っ!?」
 そう声にならない音を出したのは彼女だろうかそれとも私たちだろうか。
 いや、両方ともかもしれない。
 彼女は私たちの攻撃の速さに、そして、私たちは無防備な状態にも関らず全力の斬撃で傷一つつけることのできなかった彼女の頑丈さに。
「……しまった」
「……うふふ♥」
 崩した体勢を整える前に私と後輩は捕まってしまった。
 このまま全力で壁や地面に叩きつけられるだけで虫の息になってしまうのに片手で腕をつかまれているだけなのに身動きが取れない。
「……うふ♥」
 彼女がそう笑うと殺気が一段と強くなった。
 叩きつけられる、そう思い思わず目を閉じ身を硬くする。
「……うふ♥ ここまで……ですね♥」
 中々衝撃がこないので不思議に思っていると、彼女はそう言い私たちの腕を離した。
「ごめんなさい。怖い思いをさせて……でも、あなた達を見極めたかったから」
「……死ぬかと思ったわ」
 どうやら彼女は話が通じる状態で先程のまでは狂っているように見せかけただけのようだ。
「私たちは合格、ということでいいのかしら?」
 彼女は見極める、そう言っていた。でも、彼女の攻撃は当たればよくて致命傷、悪くて即死というものではあったが。
「そうですね。恐らく二人の薬指と私の薬指がうっすらと赤い糸で結ばれているかと」
 そう言うと彼女は左手をひらひらとさせた。
 その指には彼女の言うように赤い糸があり、それは私と後輩の薬指と繋がっていた。
「私の封印が完全に解けたら契約は完了。正式な契約者(マスター)となります。
 知っているとは思いますが、契約者は契約が解除されるまで老いることはありません。そして、再生能力も持つことになります。
 これは私と繋がっているために起こることですので私との契約が切れるとなくなってしまいます」
 この彼女の言う恩恵が彼女の封印を解こうとする者が数多くいる理由だ。
 擬似的な不老不死を得ることができるのだから当たり前ではあるのだけれど。
「そして、契約者にはある使命があります」
「……使命?」
 恩恵については知ってたが使命については知らなかった。
「はい。その使命は私を殺す、というものです」
「……不老不死のあなたを?」
 彼女の言葉に思わずそう言った。
「はい。正確には『殺す』ではなく、私をこの世から『解放』させる、ことになります」
 彼女は私の疑問にそう返すと、少し長くなりますが、と言い続けた。
「私は人の子ではありません。私は人を見守ることを使命としてこの世に生まれ人に育てられました。
 私は人を見守るために必要な力を備えこの世に生まれました。必要ならば人類を滅ぼすことができる力を備えて。
 しかし、人が育て方を間違えたため私は狂ってしまいました。その報いはご存知の通りです」
 人類の半分以上が狂った彼女に殺されている。それが報いなのだろうか。
 だとしたら、その報いはあまりにも酷い。
「あの時も、そして今もまだそうしなければいけない程、この世は行き詰っていません。ですが、狂った私はそんなこと関係なく人を滅ぼそうとしてしまいます。それを防ぐ存在が契約者になります。ただいるだけで防ぐことができます」
「……でも、人類の半分以上が殺されている」
「はい。私が狂うのは人を愛しているから……時が経つに従い愛が強くなり私の狂気も強くなり、最終的には契約者がいるだけでは防ぐことができなくなります。そうなる前に私を『解放』……簡単に言えば生まれ変わらせて欲しいのです。あるべき姿の私になるために」
 途方もない話である。
「もし、それができないのならもう一度私を封印して欲しいのです」
「……それも途方もない話ね。あの術式、解くことはできても組み立て方が全くわかっていないもの」
 彼女を封印した術式は複雑すぎて組み立てることができる者は今、現在この世にいないだろう。
「それに関しては術式を作った人から直接教えて貰えるので大丈夫です。私を『解放』させる方法の手がかりも教えてもらえるはずです」
「直接?」
「はい。私の中に彼ら……『英雄』5人の魂が生きていますから。私の契約者になれば彼らと会うことができます」
 そんなとんでもない事を彼女はしれっと言った。
「使命とは言いましたが、もし、嫌だというならば無視することも可能です。特に封印する場合は私を『解放』されるまで魂が私の中に囚われる事になりますから」
「もし、無視したら?」
「間違いなく人類は滅ぶかと」
 うん、そうですよね。
「私の契約者にならずに去ることもできますが……」
 そんなことができるようなら私たちは彼女の封印を解いていない。
 生半可な理由で彼女の封印を解いたわけではないのだ。
「分かったわ……でも、一つだけ聞きたいことがあるのだけれど」
「はい、なんでしょうか」
「あなたの封印は少なくとも誰も解こうとしなかったら数千年単位で解けないもの。そして、完全に解けていない状態だと再度封印することも可能」
 私の疑問に彼女は首を縦に振った。
「なら、教えて。封印されていた状態はあなたにとって幸せな時間だったはず。私たちはそれを壊そうとしている。なのに、どうして、あなたは封印が完全に解けるのを防ごうとしないの?」
 先程見た彼女は穏やかで幸せそうだった。その幸せな状態が数千年は続くのだ。封印を解こうとする私たちを排除しようとするのが自然ではないだろうか。
「……私を封印しているこの術式の名前知っていますか?」
 私の疑問に彼女はそう返してきた。
「知らないわ」
「『エヴリデイドリーム』というのですが、確かに封印されている間は狂っている私には『毎日が夢のよう(every day dream)』です。
 ですが、それは『すべてが白昼夢(every daydream)』に過ぎないのです」
 彼女はそう寂しそうに言った。
「それに気づいていますか。『エヴリデイドリーム』の中で名前を呼ぶこと、思い出すことができなくなっていることに」
 そう言えば……彼女の名前や『英雄』達の名前を知っていたはずなのに……いや、それよりも、私は後輩のことを後輩と……
「それ以上、考えない方がいいです。深みにはまると抜け出せなくなります」
 彼女が私の思考を遮るようにそう言った。
「確かに今は幸せです。ゆりかごに揺られ優しい夢を見ている……けれど、今の私はそうなるためには大事な……愛しい人の名前を呼ぶことも思い出すこともいけないのです」
 それが理由です、と彼女は柔らかい笑みを――見ている者の心が締め付けられるような笑みを浮かべて言った。
「……そう」
 私は彼女の言葉にそう返すことしかできなかった。


 封印が解けるとこの塔が崩れ去るので塔から離れてください、と彼女が言ったので私たちは塔から出ようとしている。
 上手くいったのに塔から出る私たちの足取りは重い。
「ねぇ、どうして……どうして、恋愛しなきゃならないのだろうね」
 その途中で私の後ろを歩いている後輩に思わずそんな問いかけをしてしまった。
 そうでなければ、彼女があれほど苦しむことはなかっただろう。
 そうでなければ、私と後輩もここまで苦しむことも、彼女の封印を解く必要もなかっただろう。
「……馬鹿なことを言ったわね、ごめん、忘れて」
 後輩がどんな表情をしているか確認することが怖く、塔を出るまで後輩の方を振り返ることができなかった。





《 あいくるしい/エヴリデイドリーム 了 》





【 あとがき 】
 お久しぶりです。久しぶりに書く時間が取れたので参加してみました。
 久しぶりの参加だというのに、お題を見て練っていた話から急遽、11月に入ってから「あれ、このお題だとあの話書けるじゃないか」と方向転換。
 その結果が締切に間に合わずだよ!

 さて、この話ですが、ある歌を聴いて思い浮かんだ話です。その歌は……タイトルを見たら分かる人は分かりますね。そのままだしね。MC参加者の中でも最低一人は分かるかと。
 後、最初は前半部分を「あいくるしい」後半部分を「エヴリデイドリーム」と分けていたのですが、
 書いていくうちに分けないほうがいいかということになり、その名残で「あいくるしい/エヴリデイドリーム」というタイトルになっています。

 この話、前にMCで書いた話に関係するものだったり。
 違う風に人類が発展し、道を間違えたら、という形なので直接は関係ないのですがw

【 その他私信 】
 文中に特殊文字が入っているので、上手く表示できなければ後で直接(ry


忘れられた丘  矢口みつる(知)
http://wasureraretaoka.blog86.fc2.com/



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