Mistery Circle

2017-08

《 あにーといもーと 》 - 2012.07.29 Sun

《 あにーといもーと 》

 著者:しどー








 俺は電車に乗らない。
 一度だが、反対側のホーム、その最前列にいた人が跳んで轢かれたのを見たことがある。
 朝の憂鬱な通勤。跳んだ人が生きているところを見たがなんともなく疲れた顔をしていた。
 そのせいか、木曜のホームには似たような顔が並ぶ。あの中に実は幽霊がいたと言われても、すべてが幽霊だと言われてもきっと信用してしまう。
 嬉しそうな顔も不機嫌な顔もなくただ並ぶ幽霊たち。いつか満面の笑みを浮かべて俺を見てくるのではないか、そう思うと電車には乗れなくなった。
 だから、車に乗る。お陰で定時の並みにこっそり隠れて家に仕事をもって帰れる。課長のいい笑顔が来る前に帰れる。
「そんじゃ、失礼します。」
「おう。じゃトシ、また。」
 同期と挨拶を交わして、帰る。早く帰るのには理由がある。電車に乗れなくなった俺に親は近くのアパートと前から欲しいと言っていたランドクルザーを手配してくれた。と言っても、不動産屋に紹介したのと15万km走った母のお古をもらっただけだけど。
 当然、そこまでやってタダであるわけではない。父曰く「兄の責務だ。」とのこと。
 今年高校一年生になった、いもーとの面倒をみないとならない。学区が変わるために俺と共に住まわせた。
 高校か、と思い出す自分がなんか悲しい。現在、完璧にニートしてる自称投資家の同級生に振り回された3年間。思い出す度によく乗り切ったと誉めたくなる。きっとずっと酷い顔をしていたに違いない

 近所の比較的早めに割引をし始めるスーパーで惣菜をいくつか買い、アパートに戻る。
「ただいま。」
「おかえりー。」
 いもーとはいもーとでスマホで何かしてた。いつものことだけど。ぼーっと何かフリックして省エネモードなオーラ出していた。
「あにーよ。今日はなにー?」
「鳥唐揚げの餡掛け。」
「ご飯はできてる。米がなくなりそー。」
 明日には買わないとな、カット野菜を少しだけ追加の材料を入れ、即席のサラダを作り、即席中華スープに胡麻油とといた卵を入れてをササッとかき混ぜ完成させると、いもーとがご飯をよそい準備し終えていた。
「そーいえば父から誕生日に何ほしいか、聞かれたよ。」
「じゃ、米。」

 晩御飯を食べていると、いろいろと学校での話をしてきた。色恋の話はなく、ただただ遊んだ話。言いながら笑っていたからいい高校生活なんだろう。俺の高校時代も、おそらく他所から聞けば似たものだろう。ご飯を終えて片付けて風呂を入れてたら、妹に「今から入れたからいい時間に入れ」という。 
 一番風呂はいいが、風呂に入ってしまうとどうも持ち帰りの分のやる気か落ちてしまう。『スーツというのは戦闘服だ。戦うという気持ち、それを脱ぐとは白旗を出すのと同じ』そう言う母の声が聞こえそうだ。
 しばらくはテレビ、22時を過ぎたらラジオになり、22時からの番組が終わるあたりに、いもーとは「おやすみ。」と軽く言い俺は返事をして続けた。
 24時の時報を聞いて、こんなものかと途中から始めたゲームを区切りつけ、風呂に。
 頭に浮かぶのは、さっき言っていた誕生日。すぐに曇る鏡に写る自分の顔。同期の中では老け顔だ、更に歳がくればいつか頬や目元か下がる。家系を見るとハゲはしないけど、どこか狸っぽくなる。
 いやだなぁ、と思いながらいつもに比べたらの長湯を終えた。

 朝、早めに起きて詰められるだけ昨日買って手をつけていない惣菜とご飯を詰め込み、低血圧で起きれないいもーとを起こし出社。いつもの朝であり、いつもの日中が始まる。会社で誕生日を祝ってくれる人はいない。いたらきっと不細工な笑顔をするしかないけど。
 せめて、残業という素敵なプレゼントをもらわないようにその日を頑張るだけ。上司らの笑顔はとても怖い。

 その日なんとか、プレゼントは貰わないで済んだ。今日はむしろ仕事が緩く少しだけ時間をもて余すくらい。定時で上がり車に乗る時間で、いもーとから帰り時間を聞かれた。
 もうすぐ帰ると返すと不細工にデフォルメされた不細工な猫が不細工な顔をしているスタンプと共に『少し時間潰してて。ネタバレ:チチとハハがいる。』頭がいたくなってきた。安アパートに4人は狭い。
 ため息をつこうとしたら、ガソリンがあまりないことに気づいた。ちょうどいい。給油ついでに洗車をしている車のなかで、鏡の自分を見つめた。死んだ魚の目というべきか、若さを感じない顔になっていて笑えてきた。

 車内をキレイにし終えたあたりに、帰ってこいのメッセージが飛んできた。少しだけ車を飛ばすと近くの駐車場にやはり親の車があった。
 玄関の扉を開くと先は暗く、おかしいなと電気をつけようとしたらそのうち、外の闇の中から自分の名前が調べにのって聞こえてきた。
 何年ぶりだろうか、誕生日の歌。

 家族に祝われた。笑顔が怖い自分がどこか遠くにいってくれた気がした。





《 あにーといもーと 了 》





【 あとがき 】
 いつもホラーや痛さをイメージしてるときがあるせいで、投げ放しの終わり方になる。オレとしてはこれがクトゥルーな書き方なきがしている。
 なので、今回はほのぼの。それを強く意識しました。そして、サブな自分からのテーマとして顔を多く表現しようかな、と挑戦。
 不細工って使いすぎたかなぁ、って思う。『不細工にデフォルメされた不細工な猫が不細工な顔をしている』ここだけで三回使ってる!
 では、ここまで読んでくれてありがとうございました。


Sidh's story しどー
http://id24.fm-p.jp/16/cidh/


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