Mistery Circle

2017-05

《 藪影庵の彩見さん 》 - 2012.06.30 Sat

《 藪影庵の彩見さん 》

 著者:すぅ






「私たちの秘密を知っているのはあの人だけね。」
メールを送り終えたスマホに向かってキスをすると、うふふと笑って私を見る。
まったくこの女性(ヒト)は・・・。もう45歳だというのに、時々少女みたいに見える。
悔しいけど可愛い。そう、この女性は私の母、なんだかんだいって私の自慢なんだよね。

そうそう、申し遅れました。私の名前は、藪影彩見(やぶかげあやみ)15歳。花の中学三年生。そして母の言う「あの人」は何を隠そう、母の旦那さん。つまり私の父親ってこと。
こう言うと、なんだか他人行儀に聞こえるけど、私はなかなか父に会う機会がないのだ。別に離れて暮らしている訳ではないのだけれど、父の仕事が航海士というものなので家にいる期間が極端に短いのである。でも、帰って来たときのお土産は楽しみだし(たまに「何じゃこりゃ?」ってなハズレもあるけど)行ってきたところの話を聞くのも楽しい。そのせいか、この年頃にありがちな「お父さんなんて嫌い。」シンドロームは私には起きていない。(多分)。結果的に家族が平和で仲良しなんだから、父親不在ってのもいいものなのかと思っている私なのである。

さて、父の仕事はさておき、私の家は蕎麦屋なのである。しかも代々続く由緒(あるのか?)ある蕎麦屋らしい。とにかくいつの頃からやっているのかすらわからないくらい昔から、蕎麦屋だったらしい。
そして、蕎麦屋の母と航海士の父がどうやって出会って結婚したかということは、どう考えても分からない。何度か母に聞いてみたことがあるが、「それはねぇ・・・。うふふ、内緒。」といつもごまかされる。まぁいいけど。
母が毎日父とメール交換してるのを知ってるから、はっきり言ってごちそうさまなのである。いつまでもラブラブなのは、実は結構羨ましくもあるが、それは言わないでおこう。正直、母が奥さんなら多分世の男は誰でもそうなるはずだという確信がある。それだけいい女なのだ、母は。将来こんなふうになれるのかなぁ・・と密かに悩んでいるのは内緒。

さて、話をもとに戻そう。そういうわけで(どういうわけだ)、私は小さい頃から蕎麦屋の店先で遊んでいた。そして小学校に上がる頃には、店の手伝いをしていた。
店で蕎麦を打っていうのは、店に古くからいる辰さんという職人さん。そして辰さんも、いつから店にいるのかわからないぐらい昔からこの店にいる。古い写真に、私のおじいちゃんと一緒に写っているのを見たことがあるけれど、なんだか今とあまり変わらない感じがするのは気のせいだろうか。

ところで、「あの人しか知らない秘密」とは、いったいなんだろうか。
それを今から私がお話しよう。え?話したら秘密じゃなくなっちゃうだろうって?いいじゃないですか。とにかく聞いてくださいな。蕎麦屋「藪影庵」のお話を。
それは私が小学校1年生の頃である。店の手伝い(邪魔ともいう)をしていた私は、店で不思議なものを見た。ものというよりは、それは不思議なお客さんだった。
その人は、黒っぽい着物を粋に着こなし、切れ長の涼しい目をしていた。子供の目にも素敵な人だなぁ・・・という思いで見ていた記憶がある。
「いらっしゃいませ。」私はそう言って、お水を持っていった。
その人は優しく微笑んで、「お手伝いしてるのかい?えらいな。」と言って頭をなでてくれた。褒められたのが嬉しくて、私もにっこり笑った。
「もりそばときつねそばをお願いできるかな?」その人はゆっくりとそう言った。
「もりひとつ、きつねひとつ!」私は厨房に向かって元気にそう言った。

「もりあがったよ!」辰さんの声がする。私はお客さんにもりそばを運んで行き、「きつねもあがったよ!」という声に急いで戻ると、「熱いから気をつけて持って行くのよ」母の声が聞こえた。「うん!」私は元気に返事をすると、慎重にきつねそばを運び、テーブルに置いた。ちゃんと置けた時に、私はほぉっと息をついた。「やったね!私」一人ガッツポーズを心の中で決めた。
「重いのに偉かったねぇ。うん、これこれ!ここのきつねそばは絶品だね。」
仕事をやり遂げた満足感とお客さんに褒められたこととが嬉しくてまたお客さんを見た。
と・・・その時。
「?!」お客さんの頭に茶色っぽい耳が見えた。
「えっ??」もう一度目を凝らしてみる。
やっぱり耳だ。
じっと見つめていることに気づいたのか、お客さんがこっちを振り向いた。
「ええっ!!??」
狐だった。
狐の顔がにっこり笑っている。
驚いたけれど、怖くはなかった。
子供心に、「だからきつねそばなのかなぁ・・・。」と思ったことを覚えている。

夕食の時に、母にその話をした。
「あのね・・。今日きつねそば食べに来たお客さん、きつねみたいだったの。茶色い耳がついてた。」そう言う私に母は言った。
「う~ん、ついに見えちゃったか・・・。血は争えないわねぇ・・。」
「見えちゃったって?」
「こんなに早く話さなくちゃいけなくなるとは思わなかったけど、よく聞いてね。
私たち「藪影庵」の血を引く者には、人じゃないものが見える力があるの。もちろん、普通の人には見えないし、いつも人じゃない形をしているわけではないし、怖がることはないのよ。人外のモノたちは、私たちのすぐそばで暮らしているの。貴女も私の血を引いているなら、そのうち見えてしまう日が来るんじゃないかと思って、貴女の名前を「彩見」に決めたの。」
「彩見ってどんな意味があるの?」
そう聞く私に母はこう言った。
「あやかしが見えるから「あやみ」ね。」
その話を聞いても、不思議と怖くはなかった。それより、人ではないものがお店にくるということにわくわくした。そっかぁ、私は「あやかし」が見えるんだ。
「そうそう、それから狐のおじさんは裏のお稲荷さんだからね。」
(お母さん、お稲荷さんと知り合い?)
それ以来、裏の稲荷神社の前を通るときは、「こんにちは。」と挨拶するようになっていた。

あやかしのことが知りたくて、私は暇さえあればいつも店の手伝いをした。
狐のおじさんも、よく店に来たけれど、いつも狐に見えるわけではなかった。
母が言うには、」見えるには、「能力が解放されなくてはいけない」ということと、「その妖(あやかし)が人のまといを解いているとき」でないといけないらしい。
こうして私は店を手伝いながら、あやかしを見る力をつけていった。

たまに、あやかしのお客が来ると(たまたま私に見えただけらしいが)私は母に報告した。徳利を持った狸の話をしたら、「角の古山さん家の信楽の狸よ。」とか、色っぽい黒猫のお姉さんの話をしたら、「川又さんの家の闇夜ちゃんね。もうずいぶん前から猫又になってるわ。」と、とにかく詳しい。
(お母さん、どんだけあやかしに知り合いいるんだよ。)
まだまだ、母の足元にも及ばないなぁ・・・。はぁ。

そして先週、私が中休みにお店のテーブルで学校の宿題をしていたときのことだ。
奥から辰さんが出てきて「お嬢ちゃん、勉強ですか。熱心ですね。一息入れておやつでもいかがです?」といった。
辰さんは蕎麦だけじゃなくて、お菓子作るのも上手いんだよね。
「うん、辰さん今日のおやつ何?」
「クリームあんみつですよ。」
「わぁい!辰さんも一緒に食べようよ。」
寒天の硬さも甘さも絶妙。お豆の塩味も絶妙。ぎゅうひも美味しい!
「やっぱり辰さんの作ったのは最高だね!」お世辞抜きに褒める私に、辰さんも嬉しそうだった。
・・とその時・・・「!!!」
辰さんの顔に髭が・・・
(辰さん、龍だったんだ・・・・)
まじまじと見つめる私に辰さんは言った。
「お嬢ちゃん、ついに見えるようになりましたか。」と。

(どうりで辰さん、年取らないわけだよ。)
長年の疑問が氷解したけど、新たな疑問が浮上した。
(辰さん、あやかしなのに何でウチで働いてんの?)
辰さんの腕が物凄くいいので、「藪影庵」は繁盛しているから、別に問題はないのだけどね。
つか、辰さんいなくなったら正直困る。辰さんいつまでもここにいてね。

そしてその夜のこと、母はあらたまった顔で私に言った。
「そろそろ特別営業を始めても大丈夫ね。」
「特別営業?」
「そう、あやかしのお客様専用営業ね。」
母はさらっと言ってのけた。
「貴女の能力が解放されたら、あやかしの皆さんに特別営業するって約束してたのよ。」
(皆さんって誰だよ?しかも約束っていつしたんだよ?)

そうかそうか、みんな(ところでやっぱりみんなって誰?)私の開眼を待っていたのか・・・。喜ぶべきなのか、どうしたものなのかというちょっと複雑な気分。
そんな私の思いはどこへやら、母は鼻歌を歌いながら何やら何処かへ連絡をしている。
「うん、そうそう。明日からね。よろしくお願い。」
まったく母は、声だけでも可愛い。
電話の向こうが見えなくても、ちょっとやにさがった顔が見えるようだ。
(よっぽどアンタ(母のことね)の方があやかしだわ)と思った途端、
「ん?何か言った?」
「ううん、何も言ってないよ!」とごまかしたが、心の叫びが聞こえるのか母よ。
(やっぱりお母さんあやかしだろ)と確信する今日この頃。

「それじゃ明日から特別営業始めるからね。」にっこり笑ってさらりと言う母。
(いきなり明日からですかぁ?)と思ったが、言いだしたら聞かないのは分かっていたので「うん。」と答えておいた。
「ねぇ。前から聞こうと思っていたんだけど、お父さんって、あやかし見えるの?」
「ううん。見えないわよ。お父さんには。」
何となくそんな気はしていたが、お父さん信じているのかな、このこと。
母はそれを察したらしくこう言った。
「お父さんはね、見えないけど「解って」くれてるの。だから結婚できたのよ。」
母が父と知り合って、結婚を考えたときに、「藪影庵」の能力の話をしたそうだ。父には、人外のモノは見えないけれど、母の話を信じてすべてを受け入れてくれたそうだ。
「だから私はあの人と結婚したの。」
「だって、私のこと好きになってくれる人はたくさんいたけど、この話してもいいなって思ったのはお父さんだけだったのよ。貴女もお父さんみたいに「解る」人を選びなさいね。」
薬指の指輪をくるくるといじりながら、母は嬉しそうにそう言った。
(お母さん、まだ15歳だよ私。)と心の中で突っ込んだが、口には出さないでおいた。だってあとあと面倒なんだもん。

そして次の日。その広告は夕刊の片隅にひっそりと載っていた。
「人外の方。本日より専用営業始めました。「裏藪影庵」丑三~」
(人外って、どこのギョーカイ用語だよ?ってツッコミがあるんじゃ?)という私の心配?をよそに、母は専用営業時間に備えて楽しそうだ。
ところで母よ、人外の皆さんにアプローチかけられてもキッチリ断るんだぞ。人外にも、もてそうな母なので、父の代わりに私がお目付け役にならねば!
そうは思っていても、昼間学校がある身としては、丑三つ時に手伝いに行けるかどうかは定かでないところが頼りない限りであるが、母ならきっと丈夫だろう(何がだ)。
ちゃんとメールで父に報告してるし。離れていてもラブラブなオーラが出まくってるもんなぁ・・。はいはいごちそうさま。
そんな母を見ながら、いつかは私にも「解ってくれる」男性が現れるのかなぁ?と淡い期待を抱いてみる。
だってこれでも夢見る(見えるのはあやかしだけど)乙女(自分で言うな。)なんだもん。
 
かくして、本日より「裏藪影庵」も開店となりました。
人外の皆様も、どうぞご贔屓に!
看板娘(自分で言うな!)彩見です。どうぞよろしく。



《 藪影庵の彩見さん 了 》



【 あとがき 】
こんにちは、すぅです。
今回は忙しさと戦いながら書きました。もう間に合わない~!って思ったら締切延長ありがとうございます。でも、なんとか本来の締切に間に合いました。(キリッ(`・ω・´)
不思議な世界観を書いてみた今回、テーマは「身近で遠い世界」
妖怪さんたちは、きっとみなさんのすぐ側で身を潜めているのに違いありません・・・。「蕎麦屋」だけに・・・。(失礼しました~!!(脱兎))


【 その他私信 】
疲れていたせいか、時々目眩やら何やらで、視界がぼ~っとした時に
変なものが見えたような気がして、こういう話を思いつきました。
この前読んだ本に感化されたせいと、夏だからってことで・・・。

そしてどうやら、実際少し「見える」体質のようだということに気がつきました。(うふふ)


すぅ
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