Mistery Circle

2017-07

《 藪影庵の彩見さん ~哲学家たちとの夏~ 》 - 2012.07.01 Sun

《 藪影庵の彩見さん ~哲学家たちとの夏~ 》

 著者:すぅ








『・・・人の手を渡った古い本には、中身だけではなく本そのものにも物語がある。
古本屋で若い兵士に買われ、戦火を潜り抜けてきた一冊の旧約聖書。
御伽噺を信じる少女が母から譲り受け、その少女が母になって子に託した一冊の絵本。
老人が生前、大切に大切に保管していたのに、死後家族に売られてしまった著名人の自叙伝。
彼等の人生・・・いや「本生“ほんせい”」と言うべきだろうか。
いつも笑顔に包まれ見守られ、その本生を終えた幸せな本もいれば、 一文字も読まれる事も無く、埃をその身に浴びて忘れ去られていく哀れな本もいる。
人の手によって生まれ、売られ、買われて、そしてその生涯に幕を閉じる。
亜細亜には古来から、古い物に魂が宿るというアニミズム的な思想があると聞く。
哲学家である私が、非科学的な存在を定義するのもどうかとは思うが、何でもそれは“ヒャッキヤコー”というらしい。しかし、それはまた別の書物で紹介するとしよう。
要するに、魂が宿るのは本とて例外ではないということだ。
読んでくれる人の気持ちが籠もり、魂が定着する。
亜細亜の思想を借りて解釈すると、そういう事になる。
これは極論だが、魂が宿るとするならばそれは“生きている”という事にならないだろうか。
西欧にも、勝手に演奏するピアノやら、歩き回る甲冑があるという話もあるということだし。
そう、つまり彼らは“生きている”のだ。
そうして自分を使ってくれていた人の気持ちが籠もり、主人が亡くなった今もずっと生き続けている。
もしかしたら永遠に生き続け、次の主人が現れるのをひたすら待ち続けているのではないだろうか。
・・・話がかなり逸れたが、つまり本にもそういった思想・定義が当てはまると私は思う。
いつだって本は、私達の傍で呼吸をしているのだ。・・・』



「へぇ・・。」
一冊の本を読み終わり、私は満足・感嘆といった溜息をつき本を閉じた。

あ・・・申し遅れました。私の名前は藪影彩見。家は、古くから続くお蕎麦屋さんで、私はそこの看板娘(勝手にいつもそう言ってる)。
只今、花の高校一年生。
ごく普通のJKと言いたいところだけれど、私にはとある秘密がある。
そう、私(正確に言うと藪影の血を引くもの)には妖が見えるという特殊な能力。
そして、蕎麦屋藪影庵は、去年私の能力が開眼してから、妖のお客様向けに特別営業を始めた。
そして私は、妖をみる能力を磨くべく日々修業中。
・・・と、自己紹介はこんなもんかな。

さて、本題に入ります。(本がお題という訳だからというダジャレではないので念のため)
只今私は、高校生活初の夏休みを満喫中。
え?宿題?なにそれ?美味しいの?
などという現実逃避はさておき、ちゃんと勉強はしてますって。
だから、こうして本の話をしてる訳なんですよ。
そう、夏休みお決まりの宿題。読書感想文っていうやつ。
流石に休みも残り少なくなってきたから、実はちょっぴりあせり気味。


さて、この本は、近所にある「B古書堂」という古本屋で見つけたもの。
「B古書堂」には何度か行ったこともあるし、店主の栞子さんとも顔見知り。
栞子さんは綺麗で頭が良くて清楚。
それなのに実はめっちゃナイスバディ(単刀直入に言うと、スリムなのに巨乳)で、母と並んで私の憧れの女性なのだ。
その古本屋は、いつも通る道の近くにある。
普段は中をちらりと覗いて素通りするのだけど、その日はなぜか凄く惹かれる何かがあったのである。
そして、私は引き寄せられるように店に入るとなぜか迷わずこの本を手に取っていた。

本の題名は『本の生涯』というもの。
中世の哲学家が書いた物らしい。

そして、家に帰るとすぐに読み始め、先ほど読了したところ。
本を手に取る、という事自体が奇跡だというほど本嫌いの私なのに、たった数日でこんな分厚い本を読破してしまうことに少々驚いている。
でも、自分の隠れた才能を見つけた出した気がしてなんだか嬉しい。
閉じてしまった本をもう一度手に取り、ぱらぱらと流すように見る。
うん、実際に読んでみてから言うのもアレだけどやっぱり難しい本だよね。
著書は哲学家の癖に、やけに魂とか信じてるし。
すぐに話が逸れていくし。
裏表紙に載ってる自画像なんて、冴えない中年男性だし。
でも、面白い。
それだけは間違いない。

「うん、君は面白い!!」
思わず私は、本を掲げてそう口にした。
そして、座っていたベッドの傍らに本を置き、う~んと伸びをした。

するとその時、
「そうか、それは嬉しいな。」
?!・・・今誰か喋った?

お父さん?
いや、お父さんは今外国で絶賛航海中のはず。
お母さん?
いやいや、あんなに野太い声じゃないし。
私?
いやいやいや、とうとう暑さで頭やられたかな?
それとも、もしかして妖さん?

自問自答していると、先程の声がまた聞こえてきた。
「私だよ、少女よ。」

え?誰?
私は注意深く、声のした方を見回した。
窓際に駆け寄り窓を開け、窓の外を確認。
誰も居ない。
部屋のドアを開けて廊下を確認。
誰も居ない。
テレビも付いていない。
ラジオなんて無い。

誰?
「私の声がきこえるのだね?こちらだよ。」
声のする方を見ると、そこに在ったのは先程まで読んでいた本である。
まさかね。
私は恐る恐る手を伸ばし本に触れてみた。
暖かい!?
生き物を触ったような感触に、私は思わず手を引っ込めた。
「これ・・・もしかして妖さん?」そう思った途端 。
「おいおい、そんなに怖がらないでおくれ。傷付くじゃないか。」
ああ・・本が、喋ってる?
「あの・・もしかして、さっきから喋ってるのは貴方・・・ですか?」
本に敬語を使う、私は一体何なんだろう。
「そうだよ、ちょっとお話しないかい?お嬢さん。」
妖にはだいぶ慣れたはずの私だったが・・・本が喋るという前代未聞の出来事にはまだ思考回路が追いついていないようだった。

-----------------------------------------------------------------------

「まさか、こうやって人とお話出来る機会が来るなんてね。ねぇ、お嬢さん。」
ねぇ、って言われても・・・ねぇ?
今私は、喋る本と二人きり・・・もとい1人と1冊で部屋に居る。
来客になるのか分からないけれど、とりあえず飲み物とお菓子は出しておいた。
しかし、喋れることはできても飲み物も食べ物も口に出来ないらしい。
寧ろ、「このシュワシュワと音を立てている変な色の液体は?
それに、この油の臭いがする薄い固形物は一体何だ?」と騒がしくなっただけ。
一通り、コーラとポテトチップスの質問に答えた所で私は本題を切り出した。
「・・・貴方は何なのですか?」
本に対して敬語を使い、正座までしている私は傍から見たらさぞかし奇妙だった事だろう。
それにしても、本が喋るという異常事態に、もう適応し始めている私の器の広さ。
妖が見えるのはダテじゃないわ、などと自分を褒めてみた。
だってそうでもしないとなんだかパニックになりそうだから。

「私か?私は私であり、私ではない。」本はゆっくりとそう答えた。
(・・・うん、面倒臭い)
はっきり言って凄く面倒臭い人、いや、本だ。
(たかが、紙とインクの集合体の分際で、何を偉そうに自己紹介してんのよ。)
心の中で毒を吐いている私に気付いたのか、本が間を置いて話し出した。
「・・・いや、私は私なんだ。」
まだ言うか。
「私は、私。つまり、これを書いた者なのだよ。」
え?
あの裏表紙に載ってた自画像の、あまり冴えない感じの中年男性?
思わず込み上げる笑いを我慢する。

私が笑いを堪えてるのが気に食わないのか、本が一つ咳払いをした。
「私は、書かれてから様々な場所へ旅をした。北欧、大陸へも行った、未開の地だった南米へも行った。」
「様々な人に読まれた。それこそ老若男女にだ。」
「人々は私をとても大切にしてくれた。1ページ1ページ味わうように読んでくれた。」
「しかし、時代は移り行く。産業革命後、そんな人々はいなくなってしまったのだ。」
「皆、『パ・ソコン』と呼ばれる板を指で叩き、『毛が痛い』と言いながら小さな箱に夢中になっている。」
「すっかり世界は変わってしまった。本と人が共存する世界は消えてしまったのか?」
色々説明するのも面倒臭い勘違いがあるけれど、彼の熱弁に私は聞き入ってしまった。

不思議と本、もとい彼が言う事も最もなのかな、と思ってしまった。
確かに現代人である私も、読書という物からかけ離れた生活をしている。
調べ物は彼の言う“パ・ソコン”で済むし、今や“毛痛い”で小説も読める。
1ページ1ページを捲る、なんて事を忘れているのかも知れない。
そう思うと、彼がなんだか可哀想で、不憫で仕方がなくなってきた。
そうだ。
私は何かを思い付いたポーズをした。
彼もそれが見えた(というか目があるのか?)らしく、「どうしたんだい?」と聞いて来る。
「・・・お腹空いたし、とりあえずお昼にしませんか?」
時計はちょうど正午を指している。
彼が居る方から転ぶような音がしたが、気にしないでおこう。

----------------------------------------------------------------------
さて、これからどうしよう。
とりあえず、腹ごしらえしてから考えよう。
腹が減っては戦ができぬって言うしね。(別に戦いに行く訳じゃないけど。)
私は、本を小脇に抱え2階にある自分の部屋から下に降りた。
家の裏口からは、お店に繋がるドアがある。
ドアを開けてお店の中に入り、店の一番奥にある小さいテーブルについた。
この席は、いつも作ってもらった賄いを食べたりする特別席なのだ。
他のお客さんからも離れているしね。
本をテーブルの上に置き、きつねそばを辰さんに頼む。
手前味噌ではないが、うちのお蕎麦は美味しいのだ。

きつねそばがくる間に、いろいろなことが頭を駆け巡る。
さて、この本をどうしようか。
やっぱり藪影の家のものなら、どんな妖なのか確かめないとね・・。うん。
そうこうしているうちに、辰さんがきつねそばを持ってきてくれた。
テーブルの上の本をしげしげと見つめる。
(もしかして・・・・辰さん、この本の正体が見えてるのかも・・・)と思ったら、
「お嬢さん、読書ですか。感心ですね。」
(あらら、褒められちゃったよ。)
「うん、たまにはね。」と答えたら、
「お嬢さんが本を読むなんて、お出かけには傘を持って行ってくださいね。」
(・・そっちかい)
と、ちょっと凹んだ私だったけど、美味しそうなきつねそばを見たらそんな気持ちはどこへやら・・。
「いただきま~す。」
きつねそばは、あっという間に私のお腹に収まった。

きつねそばを食べ終え、水を飲んで一息つくと現実が待っていた。
目の前には、例の本。いや、彼と言った方がいいかもしれない。

さて・・・とりあえずこれからどうしよう。
やっぱり本を買った、「B古書堂」へ行くべきかなぁ。
でも、こんな話栞子さんにしても信じてもらえないだろうし・・・。
あれこれ考えていると突然。
「ふむ。」
わ、喋った。
私は反射的に、彼を掌でバンと叩いてしまった。
本から痛そうな声が聞こえたが、聞かなかった事にしよう。

お昼時で、お店も混んで来た。
しかも、この時間は通常営業の時間(ほぼ人間の皆さま専用時間ってことね。)
彼とここにいるのは得策ではない。
やはり、「B古書堂」に行ってみよう。
私は店の裏口から外へでると、ドアの鍵を閉めて歩き出した。
店から出るときに、辰さんが「おかみさんが、なんとか…。」って言っていた気がした。
よく聞こえなかったけど、まぁいいか。
--------------------------------------------------------------------

お腹の中で、きつねそばが駆け回っている感じがするが、私は速足で道を急いだ。
当然、彼を小脇に抱え込みながら。
さっきまで彼が「なんで私を叩いたのだ!?」と、とても五月蝿かった。
対して、小声で「ちょっと黙ってて下さい!」やら、
「ちゃんと謝ってるじゃないですか!」と呟く私。
心なしか、そんな私を道行く人々は避けて歩いていた。
やっぱり他の人から見たら変だよね。
それもこれも、全部この“彼”のせいだ。
栞子さんには申し訳ないけど、やっぱりこの本はお店に返そう。

私は、彼の問いかけに返事もせずむすっとした顔をして速足で歩き続けた。
すると「少女よ、聞いているのか!?」
今までの中で、一番大きな声で叫ぶ彼。

驚き、周りを見渡す。
よし、誰も居ないな。
「何ですか、もう!!」
私も、今日一番の大きな声で返す。
バツが悪そうな声で、彼が言う。
「・・・先程店で私を叩いた事は許そう。」
案外根に持つ本、いや男だな。
「だが何故だ?何故私を喋らせようとしない?」
駄目だ、彼は自分の立場をまるで分かっていない。

やっぱり、きちんと話をしなくてはいけないと思い、私は急いで近くの公園に向かった。
誰もいない事を確認してから木陰のベンチに腰掛ける。
まあ、真夏のこんな時間に公園にいる物好きなどいるわけもないのだが。

大きな溜息をつき、深呼吸を一つしてから、私は彼に話しかけた。
「・・・貴方は本、人間界では喋っちゃいけない存在なんです。」
「私には貴方を買った責任がある。そりゃ、最初話し掛けられた時は吃驚しました。」
「でも、こうして貴方を買った以上、貴方を誰かに見つかる訳にはいかない。」
「私みたいに貴女の存在を認め、匿ってくれる人なら良いです。でも、世の中そんな優しい心の広い人ばっかりじゃない。」
とどさくさに紛れて、自分を誉めてみた。
「もしかしたら、悪い人に売られて見世物にされちゃうかも知れないんですよ?」
「それでも構わないならどうぞご自由に。私はもう知りません!」
あ・・ちょっと言い過ぎたかな。
彼は、少し考え込むような間を空けた後、こう返してきた。
「成る程。一理ある。」
はぁ、素直に納得してくれた。
「だが、少し極論過ぎやしないか?少女よ。」
う・・・。
確かにそうだけど。
「確かに喋る本、なんてとても珍しいのだろう。しかし、人々には飽きというものがある。」
「恐らく“トリックだ”と言い出す人々も出てくるだろうし、真に受ける人はごく僅かな筈だ。」
「なんなら試しに、人々の前に出てみても良い。それが良い証拠となるだろう。」
「例えまた一人になったとしても、元通りになるだけだ。」

彼といろいろ話すうちに、「B古書堂」に本を返しに行こうと思っていた気持ちが揺らいできた。
彼は数十年、もしかしたら数百年一人だったのかも知れない。
きっと、孤独に孤独を重ねてきたに違いない。
彼が孤独に過ごした長い時間を考えた。
その上で彼は、こうなる事をある程度予測していたのかもしれない。
なんだか彼がかわいそうになって、本を握る手に力がこもった。

「・・・だが。」
「だが?」
トーンが変わった彼が少し気になったので、思わず突っ込んでしまった。
「・・・だが、幾年ぶりに人と話せた快感は忘れられん。君の言う通りにしよう。」
あれ・・・何だか素直じゃん。
・・・え?
でも、これって暗に『まだ一緒に居る』って事になるんじゃ・・・?
喜んだのも束の間、なんだか頭痛がしてきた。

------------------------------------------------------------------
彼を返すことを諦め、ようやく自宅戻った頃には、すっかり疲れてしまった。
彼も疲れているのか、少し前から黙り込んでいる。

お店は中休みの時間なのか閉まっていた。
中がやけに静かだ。
「誰もいないのかな?変だな。」
仕方がないので、裏口の鍵を取り出し、鍵穴へ差し込む。

ガチャ。

ドアノブを捻る。
開かない。
あれ?
鍵が掛かってる。
という事は、今鍵は開いていた?

誰もいないみたいなのに、不用心だな。
いや、私は鍵をかけて出かけたはず。
それに何だかいつもと様子が違う。
何だか嫌な予感がするのは気のせいだよね。

「?もしかして・・・泥棒?」
ただならぬ雰囲気を察したのか、彼が「どうした?」と尋ねる。
私は正直に、「・・・泥棒かも知れません。」と彼に伝えた。
沈黙と静寂。
咄嗟に裏口に立て掛けてあった箒を掴む。

「どうするのだ、少女よ。ケイサツとやらを呼ぶのか?」
へぇ、ケイサツは知ってるんだ。
・・・今はそんな事に感心している場合じゃない。
私は「行きます。」とだけ彼に伝え、裏口の戸を開けた。
目の前に広がっていたのは、いつも見慣れた裏口の光景。
つまり、泥棒はまだ入ったばかりという事か。

足音を殺して、恐る恐る部屋を見て回る。
お父さんの部屋、異常なし(めったに帰ってこないしね)。
リビング、異常なし。
台所、異常なし。(やっぱりお母さんいないや。)
お風呂にトイレ、異常なし。
残るは、二階にある私の部屋だけ。
階段を上ろうと手すりに手を掛けた瞬間。

「・・・・・・・!」

今、誰かの声が聞こえた気がした。

「・・・・・・・・・!」

また聞こえた。
気のせいなんかじゃない。
間違いない、泥棒は二階の私の部屋に居る。
お金目当て?
それとも下着目当ての変態?
はたまた悪い妖?
頭を巡る推測が、不安を掻き立てる。
どうしよう、やっぱり怖い。
全身が強張る。

彼を持つ手にも力が入っていたのか、彼が「私が付いている。」と励ましてくれた。
本に一体何が出来るんですか、と突っ込みそうになったが「有難うございます。」とだけ返しておいた。

よし、行こう。
意を決し、一段目に足を掛ける。
二段目。
三段目。
段数が増える度、声が大きくなっていく。

間違いない、男の声だ。

最後の一段。

私の部屋の扉は、もう目の前にある。
声は間違いなく、部屋の中から聞こえている。
自分の心臓の音が聞こえる。
それが更に緊張と恐怖を助長させていく。
扉のノブを握る。
彼には申し訳ないけど、箒をしっかり構える為に廊下に居てもらう事にした。

ガチャ。

ノブを回す。
中から聞こえていた声が止んだ。

・・・・気付かれた。
もう後戻り出来ない。
私は、扉をこれでもかという勢いで開け放った。

・・・・・・!?
居ない。
誰も居ない。
けれど何かが違う。
いや、荒らされているとか窓が開いているとかじゃなくて。

・・・・・・・・・・・・本が。

・・・・・・・・・・・・沢山。

古めかしい本が、所狭しと部屋に積み上げられている。

「何これ・・・。」

立ち竦む私に、彼が「どうしたのだ!?」と声を掛けてくれた。
「いえ・・・これを見て下さい。」
私は、廊下で待ってもらっていた彼を手に取り部屋を見せる。
どこに目があるか知らないけどさ。
少しの間の後、彼が呟いた。

「これは・・・。」

「何か分かるんですか?」
少しでも何か分かる事があるなら、と藁にも縋る思いで彼に聞いた。

「仲間達だ。」

へぇ、仲間達。
・・・え?
ナカマ?
ハカマとかオカマとかじゃなくて?
いや、袴もおかまも困るけど。
仲間?

余計に混乱する私に、彼が冷静に声を掛ける。
「少女よ、見てごらん、机の上に手紙らしきものがあるぞ。」
私は古く薄く埃を纏った本達を押し退けるようにして、机の上の手紙を手に取る。

『彩見の夏休みもそろそろ終わりだと思ったら、急にお父さんに会いたくなりました。1週間ぐらい香港に滞在するとのことなので、お父さんの所へ行ってきます。お店のお手伝いは、辰さんの知り合いにお願いしたから、貴女は手伝える時だけでいいです。』
・・・それで?
『そうそう、「B古書堂」の栞子さんに会ったら、貴女が哲学の本を買ったと聞きました。そこで貴女が一人で寂しくない様に、“彼”のお友達をつれてきておきました。仲良くしてあげてね。なるべく早く帰るから、お留守番よろしくね。それじゃ行ってきま~す♪ 母より。』
さっきの出がけの辰さんの言葉がよみがえった。
まったく、お母さん何時の間にこんなこと・・・。
やっぱり、一番の妖はアナタだわ・・・・。

それより・・・うん?
“彼のお友達”?
凄く嫌な予感がした。
・・・が、予感した時には遅かった。
彼が嬉しそうな声を上げる。
「皆様、お久しぶりですな。」

「お嬢さん、此処は何処だね?」
「林檎はまだ木に実っているかい?」
「イデアを君は感じているか?」

一冊・・・いや、一人が喋り出すと二人、三人と口を開き出す。
部屋を改めて見渡す。
山積みの、喋る本。そのうるさいことうるさいこと。
ベッドの周りには古い本が何列も積み上がり、まるで小さなビル街のようだった。





《 藪影庵の彩見さん ~哲学家たちとの夏~ 》





【 あとがき 】
すぅです♪
前回の寸評で「続き書かないと反則」って言われたので、
彩見さん登場です。
ふと、本屋さんで「手に取った本が喋り出したら面白いなぁ。でもそうなったら、夜はうるさそうでいやかも。」と、しばらく考え込んだのがきっかけで出来た作品です。(笑)
皆さんのお家にも、本棚で眠っている本はありませんか?
耳を澄ますと、彼らのお話が聞けるかもしれません。


すぅ
mixiアカウント
 http://mixi.jp/show_friend.pl?id=18218346

《 REМOVER 》 «  | BLOG TOP |  » 《 温かい本棚 》

プロフィール

MC運営委員会

Author:MC運営委員会
このブログの八割は、カボチャで構成されております。

カテゴリ

Mistery Circle(メインカテゴリ) (38)
寸評 (28)
MCルール説明 (1)
お知らせ (35)
参加受付 (22)
出題 (33)
メールフォーム (3)
内藤クンのおもちゃの部屋 (8)
天野さんの秘密の部屋 (8)
Ms.伍長の黙示録の部屋 (0)
伊闇かなでの開かずの部屋 (4)
未分類 (26)
亞季 (2)
いつき (1)
伊闇かなで (2)
空蝉八尋 (4)
黒猫ルドラ (11)
ココット固いの助 (20)
桜井 (1)
桜朔夜 (1)
鎖衝 (11)
知 (21)
しどー (11)
瞬 (3)
白乙 (12)
すぅ (13)
すずはらなずな (28)
田川ミメイ (2)
辻マリ (14)
夏海 (3)
七穂 (1)
氷桜夕雅 (29)
ひとみん (4)
松永夏馬 (12)
望月 (8)
幸坂かゆり (20)
李九龍 (12)
りん (3)
ろく (1)
Clown (12)
MOJO (1)
pink sand (9)
rudo (8)
×丸 (4)
MC参加者に聞け (7)
Mistery Circle ヒストリー (1)

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

リンク

このブログをリンクに追加する

検索フォーム